内分泌疾患による脱毛症状|バセドウ病と髪の関係 | AGA・抜け毛・薄毛治療のAGAメディカルケアクリニック【公式】

内分泌疾患による脱毛症状|バセドウ病と髪の関係

更新日
内分泌疾患による脱毛症状|バセドウ病と髪の関係
前田 祐助
監修医師

前田 祐助

AGAメディカルケアクリニック 統括院長

【経歴】

  1. 慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
  2. 慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
  3. 大手AGAクリニック(院長)を経て、薄毛・AGA治療の2018年AGAメディカルケアクリニック新宿院を開設
  4. 2020年に2院目となるAGAメディカルケアクリニック横浜院を開設
  5. 2023年に3院目となるAGAメディカルケアクリニック東京八重洲院を開設

【資格】

  1. 医師免許
  2. ⽇本医師会認定産業医
  3. 医学博士

【所属学会】

  1. 日本内科学会
  2. 日本美容皮膚科学会
  3. 日本臨床毛髪学会

【症例数】

  1. 3万人以上※
  2. ※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数

統括院長プロフィール詳細

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「最近、抜け毛が増えた気がする」「髪の毛が全体的に薄くなったかもしれない」といった症状は、もしかしたらバセドウ病が関係しているかもしれません。

バセドウ病は甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気であり、全身に様々な影響を及ぼしますが、髪の毛にも変化が現れることがあります。

この記事では、バセドウ病と脱毛の関係に焦点を当て、なぜバセドウ病で髪の毛が抜けるのか、どのような脱毛症状が現れるのか、そしてどのような対処法があるのかを詳しく解説します。

バセドウ病とはどのような病気か?

はじめに、バセドウ病がどのような病気なのか、基本的な情報から解説します。脱毛症状を理解する上で、原因となる病気について知っておくことが重要です。

甲状腺機能亢進症の代表的な疾患

バセドウ病は、甲状腺ホルモンが過剰に作られる甲状腺機能亢進症を引き起こす代表的な病気です。

甲状腺は首の前側、のどぼとけの下あたりにある蝶のような形をした臓器で、体の新陳代謝を活発にする甲状腺ホルモンを分泌しています。

このホルモンの分泌量が多すぎると全身の臓器が常に活発に働きすぎる状態となり、様々な症状が現れます。

主な症状と原因

バセドウ病では、甲状腺ホルモンの過剰分泌により全身の代謝が異常に高まるため、多様な症状が見られます。

バセドウ病の主な症状

分類主な症状
全身症状体重減少、疲労感、微熱、手の震え
精神・神経落ち着きがない、イライラする、集中力低下、不眠
循環器動悸、息切れ、頻脈、不整脈
消化器食欲亢進、軟便・下痢、腹痛
皮膚・毛髪発汗増加、皮膚のかゆみ、脱毛、爪の変化
眼症状眼球突出、まぶたの腫れ、複視(物が二重に見える)
その他筋力低下、月経不順(女性)、甲状腺腫(首の腫れ)

これらの症状はすべての人に現れるわけではなく、症状の種類や程度には個人差があります。

バセドウ病の主な原因は、自己免疫の異常です。通常、免疫は外部から侵入した細菌やウイルスなどを攻撃して体を守る働きをしますが、自己免疫疾患では自分の体の組織を誤って攻撃してしまいます。

バセドウ病の場合は甲状腺を刺激する特殊な抗体(TSH受容体抗体:TRAb)が作られ、この抗体が甲状腺を過剰に刺激し続けることで、甲状腺ホルモンが必要以上に分泌されてしまうのです。

自己免疫疾患としての側面

バセドウ病が自己免疫疾患であるということは、体質的にかかりやすい人がいる事実を意味します。

家族にバセドウ病や他の自己免疫疾患(例:橋本病、関節リウマチ、1型糖尿病など)の人がいる場合は、発症のリスクがやや高いと考えられています。

ただし、遺伝だけで発症するわけではなく、ウイルス感染や強いストレス、妊娠・出産などが発症の引き金になるケースも指摘されています。

バセドウ病と髪の毛の関係性|なぜ脱毛が起こるのか

バセドウ病の様々な症状の中に脱毛がありますが、なぜ髪の毛が抜けてしまうのでしょうか。ここでは、バセドウ病と髪の毛の関係、特に脱毛が起こる理由について詳しく見ていきましょう。

甲状腺ホルモンと毛周期の乱れ

髪の毛は、一定のサイクル(毛周期)を繰り返しながら生え変わっています。

毛周期は、髪が成長する「成長期」、成長が止まる「退行期」、そして髪が抜け落ちる「休止期」の3つの段階から成り立っています。

毛周期の段階

段階期間の目安髪の状態
成長期2~6年活発に成長する
退行期約2週間成長が停止する
休止期約3~4ヶ月自然に抜け落ちる準備

甲状腺ホルモンは、この毛周期の調節に深く関わっています。バセドウ病によって甲状腺ホルモンが過剰になると、毛周期のバランスが崩れます。

具体的には、成長期が短縮され、本来まだ成長するはずの髪の毛が早く退行期や休止期に移行してしまうと考えられています。

その結果、休止期に入って抜け落ちる髪の毛の割合が増えて「バセドウ病による脱毛」として認識されるのです。これは「休止期脱毛」と呼ばれるタイプの脱毛に近い状態と言えます。

バセドウ病による脱毛の特徴

バセドウ病による脱毛は、頭部全体で均一に髪の毛が薄くなる「びまん性脱毛」の形として現れるケースが多い特徴があります。

男性型脱毛症(AGA)のように生え際や頭頂部だけが薄くなるのとは異なり、全体的にボリュームが失われたように感じられます。

髪の毛を分け目を変えてみたり、束ねてみたりした際に、以前よりも地肌が透けて見えて気づく場合もあります。

抜け毛の量も急激に増えるときがあり、シャンプー時やブラッシング時の抜け毛の多さに驚く人も少なくありません。

脱毛以外の髪質の変化

バセドウ病の影響は、脱毛だけでなく髪質そのものにも現れる場合があります。

  • 髪が細くなる
  • 髪が柔らかくなる
  • 髪がパサつく、ツヤがなくなる
  • 髪がもろく、切れやすくなる

これらの変化は、甲状腺ホルモンの過剰な働きが毛髪のタンパク質合成やキューティクルの状態に影響を与えるためと考えられます。

髪質の変化と脱毛が同時に起こると、より薄毛が目立つように感じやすいです。

ストレスや栄養不足の影響

バセドウ病の発症や症状の悪化には、精神的なストレスが関与する場合があります。

強いストレスは、それ自体が自律神経やホルモンバランスを乱し、血行不良などを引き起こして髪の成長に悪影響を与える可能性があります。

また、バセドウ病では代謝が亢進するため、エネルギーや栄養素の消費が増加します。特にタンパク質、亜鉛、鉄分、ビタミン類など、髪の毛の成長に必要な栄養素が不足しがちになるのも、脱毛や髪質の悪化を助長する一因となり得ます。

バセドウ病による脱毛の見分け方

抜け毛が増えると不安になりますが、それがバセドウ病によるものなのか、それとも他の原因によるものなのかを見分けることが重要です。

びまん性脱毛との違い

前述の通り、バセドウ病による脱毛は頭部全体の髪が薄くなる「びまん性脱毛」のパターンを示すケースが多いです。しかし、びまん性脱毛を引き起こす原因はバセドウ病だけではありません。

例えば、加齢による女性の薄毛(FAGA/FPHL)や、鉄欠乏性貧血、急激なダイエットによる栄養不足や、特定の薬剤の副作用、産後のホルモンバランスの変化などでも同様に全体的な脱毛が見られる場合があります。

そのため、「びまん性脱毛=バセドウ病」と即断することはできません。

他の脱毛症との鑑別点

バセドウ病による脱毛と他の脱毛症を区別するためには、脱毛のパターンや進行具合、随伴症状などを総合的に見ましょう。

他の脱毛症の例

脱毛症の種類特徴的な脱毛パターン考えられる原因
男性型脱毛症(AGA)生え際の後退、頭頂部の薄毛男性ホルモン、遺伝
女性型脱毛症(FAGA)頭頂部中心のびまん性脱毛、分け目が目立つ加齢、ホルモンバランス変化、遺伝
円形脱毛症円形・楕円形の脱毛斑が突然出現自己免疫、ストレス
薬剤性脱毛症原因薬剤使用開始後に起こるびまん性脱毛または休止期脱毛抗がん剤、抗うつ薬、降圧薬など
牽引性脱毛症ポニーテールなど髪を強く引っ張る部位の脱毛物理的な牽引

AGAは特徴的なパターンを示しますし、円形脱毛症は境界明瞭な脱毛斑ができるため、比較的見分けやすいでしょう。

薬剤性脱毛症は、原因となる薬の使用歴を確認する必要があります。牽引性脱毛症は、特定の髪型との関連が考えられます。

脱毛以外に注目すべき症状

バセドウ病による脱毛を疑う場合、最も重要なのは脱毛以外のバセドウ病特有の症状がないかの確認です。

先に挙げたような、体重減少や動悸、手の震えや発汗増加、眼球突出などの症状が脱毛と同時に現れているときは、バセドウ病の可能性が高まります。

これらの症状に心当たりがある方は、自己判断せずに医療機関への受診が必要です。特に、複数の症状が当てはまる場合は、早めに医師に相談しましょう。

バセドウ病による脱毛への対処法

バセドウ病が原因で脱毛が起きている場合、その対処法は一般的な薄毛治療とは異なります。根本的な原因であるバセドウ病そのものの治療が最も重要になります。

まずはバセドウ病自体の治療が重要

バセドウ病による脱毛は、甲状腺ホルモンの過剰分泌が主な原因です。そのため、髪の毛の問題だけに対処しようとしても、根本的な解決にはなりません。

最優先すべきは、内科や内分泌内科を受診してバセドウ病の診断を受け、適切な治療の開始です。

バセドウ病の治療によって甲状腺ホルモンの分泌量が正常範囲にコントロールされれば、それに伴って脱毛症状の改善も期待できます。

甲状腺ホルモンの安定化を目指す

バセドウ病の治療目標は、過剰になっている甲状腺ホルモンの分泌を抑え、血液中のホルモン濃度を正常範囲に安定させることです。

治療によりホルモンバランスが整うと、乱れていた毛周期も徐々に正常化に向かいます。

ただし、ホルモン値が安定してから髪の状態が改善するまでには、毛周期の関係で数ヶ月から半年程度の時間がかかるのが一般的です。焦らず、根気強く治療を続けましょう。

薬物療法(抗甲状腺薬、β遮断薬)

バセドウ病の治療の基本は薬物療法です。甲状腺ホルモンの合成を抑える「抗甲状腺薬」が主に用いられます。

  • チアマゾール(メルカゾール)
  • プロピルチオウラシル(チウラジール、プロパジール)

これらの薬を服用すると甲状腺ホルモンの産生が抑制されます。どちらの薬を選択するかは、患者さんの状態や年齢、妊娠の希望などを考慮して医師が判断します。

また、動悸や手の震えなどの症状が強いときには、それらの症状を和らげるために「β遮断薬」が併用される場合もあります。

β遮断薬は甲状腺ホルモンの分泌自体を抑える薬ではありませんが、交感神経の過剰な働きを抑えてつらい症状を軽減する効果があります。

バセドウ病の主な薬物療法

薬剤の種類主な薬剤名主な作用
抗甲状腺薬チアマゾール、プロピルチオウラシル甲状腺ホルモンの合成を抑制
β遮断薬プロプラノロール、アテノロールなど(適応外使用の場合あり)動悸、手の震えなどの症状を緩和

薬物療法は長期間にわたることが多く、定期的な通院と血液検査でホルモン値や副作用の有無を確認しながら、薬の量を調整していく必要があります。

アイソトープ治療(放射性ヨウ素内用療法)と手術療法

薬物療法で効果が不十分なときや、副作用で使用できないとき、あるいは早期の治癒を希望する方などには、アイソトープ治療(放射性ヨウ素内用療法)や手術療法が検討されます。

アイソトープ治療は、放射性ヨウ素を含んだカプセルを服用し、甲状腺に取り込まれた放射線によって甲状腺の細胞を破壊し、ホルモン産生能力を低下させる治療法です。

手術療法は、甲状腺の一部または全部を外科的に切除して、ホルモンの過剰分泌を物理的に取り除く方法です。

これらの治療法は、それぞれにメリット・デメリットがあり、適用となる条件も異なります。どの治療法を選択するかは、患者さんの状態や希望を踏まえ、医師と十分に相談して決定します。

治療によって甲状腺機能が正常化すれば、脱毛も改善に向かう可能性があります。

バセドウ病の脱毛とAGA(男性型脱毛症)の違い

バセドウ病による脱毛と、薄毛の代表的な原因であるAGA(男性型脱毛症)は、どちらも髪が薄くなるという点では共通していますが、その原因や症状の現れ方、対処法は異なります。

適切な対応をとるために、両者の違いへの理解が重要です。

原因の違い(ホルモン vs. 自己免疫・ホルモン異常)

最も大きな違いは原因です。

AGAは男性ホルモンの一種であるテストステロンが特定の酵素(5αリダクターゼ)によってジヒドロテストステロン(DHT)に変換され、DHTが毛乳頭細胞にある受容体と結合して毛周期の成長期を短縮させ、毛髪が十分に成長する前に抜け落ちてしまうのが主な原因です。遺伝的な要因も強く関与しています。

一方、バセドウ病による脱毛は、自己免疫の異常によって甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、その影響で毛周期が乱れるのが原因です。AGAに関与する男性ホルモンとは異なるホルモンが関わっています。

脱毛パターンの違い

脱毛が進行するパターンにも違いが見られます。

AGAは、主に額の生え際が後退したり、頭頂部が薄くなったりするなど、特定の部位から薄毛が進行するパターンが典型的です。

対照的に、バセドウ病による脱毛は、頭部全体の髪が均等に薄くなる「びまん性脱毛」の形をとる方が多いです。特定の部位だけが極端に薄くなるというよりは、全体的なボリュームダウンとして感じられます。

バセドウ病脱毛とAGAの主な違い

項目バセドウ病による脱毛AGA(男性型脱毛症)
主な原因甲状腺ホルモンの過剰、自己免疫男性ホルモン(DHT)、遺伝
脱毛パターンびまん性(頭部全体が均一に薄くなる)生え際の後退、頭頂部の薄毛
他の症状バセドウ病の全身症状を伴うことがある基本的に脱毛以外の全身症状はない
性別女性に多い(男性にも起こる)主に男性(女性にも類似の症状あり: FAGA)

治療方法の違い

原因が異なるため、治療の方法も全く異なります。

AGAの治療では、5αリダクターゼ阻害薬(フィナステリド、デュタステリド)の内服や、ミノキシジルの外用などが中心となります。

これらはDHTの生成を抑制したり、毛母細胞を活性化させたりして脱毛の進行を抑え、発毛を促すのを目的としています。

一方、バセドウ病による脱毛の治療は、まず原因であるバセドウ病自体の治療(抗甲状腺薬など)を行い、甲状腺ホルモン値を正常化させるのが最優先です。ホルモンバランスが整えば、脱毛も改善することが期待されます。

AGA治療薬は、バセドウ病による脱毛に対しては直接的な効果は期待できません。

併発の可能性

注意点として、バセドウ病を持つ人がAGAを併発する可能性もゼロではありません。特に男性の場合、バセドウ病によるびまん性の脱毛に加えて、AGAによる生え際や頭頂部の薄毛が同時に進行するケースもあり得ます。

脱毛のパターンが典型的でない場合や、バセドウ病の治療を行っても脱毛が改善しない場合は、他の脱毛症の併発も考慮に入れる必要があります。その際は、皮膚科医や薄毛治療専門医に相談しましょう。

髪の毛の悩み|何科を受診すべきか

バセドウ病が疑われる脱毛症状や、原因不明の抜け毛に悩んでいる場合はどの診療科を受診すればよいのでしょうか。

症状や状況に応じて適切な科を選ぶことが、早期の診断と治療につながります。

まずは内科・内分泌内科へ

脱毛以外に、バセドウ病を疑わせる症状(体重減少や動悸、手の震えや多汗、眼球突出など)が複数見られる際は、まず内科、特に甲状腺疾患を専門とする内分泌内科の受診を強く推奨します。

これらの科では血液検査で甲状腺ホルモン値や自己抗体(TRAb)などを測定し、バセドウ病かどうかの診断を行います。

バセドウ病と診断されれば、そのまま治療を開始できます。全身症状を伴う脱毛の場合、根本原因の特定と治療が最優先されるため、内科・内分泌内科が最初の窓口として適しています。

皮膚科での診断と治療

脱毛症状が主で、バセドウ病を示唆する他の全身症状がはっきりしないときは、皮膚科を受診するのも選択肢の一つです。

皮膚科医は脱毛のパターンや頭皮の状態を詳しく診察し、バセドウ病による脱毛なのか、あるいはAGA、円形脱毛症、その他の皮膚疾患に伴う脱毛なのかを鑑別します。

必要であれば、甲状腺機能のスクリーニング検査(血液検査)を行うときもありますし、内科や内分泌内科への紹介もしてくれます。

バセドウ病以外の脱毛症であった場合は、皮膚科で適切な治療を受けられます。

薄毛治療専門クリニックの役割

AGA(男性型脱毛症)やFAGA(女性型脱毛症)の可能性が高いと考えられる場合や、内科や皮膚科でバセドウ病などの明らかな原因が見つからなかったにも関わらず薄毛が進行する場合、あるいはバセドウ病の治療中だが脱毛の改善が思わしくない場合には、薄毛治療専門クリニックへの相談も有効です。

薄毛治療専門クリニックでは、より詳細な頭髪・頭皮の診察やAGA・FAGAに特化した治療(内服薬、外用薬、注入療法など)を提供しています。

ただし、バセドウ病による症状が出ているときは、まずその治療を優先するのが原則です。専門クリニックを受診する際も、バセドウ病の治療を受けていることや、服用中の薬について必ず医師に伝えるようにしましょう。

受診する診療科の目安

症状・状況推奨される主な診療科補足
脱毛+バセドウ病疑いの全身症状(動悸、体重減少など)内科・内分泌内科まずは全身疾患の診断・治療を優先
脱毛症状が主体、全身症状は不明瞭皮膚科脱毛の原因鑑別、必要に応じて内科紹介
AGA/FAGAの疑い、または他の治療で改善しない脱毛薄毛治療専門クリニックAGA/FAGAの専門治療、ただし基礎疾患(バセドウ病など)の治療状況を伝える

どの科を受診すべきか迷った際には、まずはかかりつけ医に相談するか、症状に応じて内科または皮膚科を受診して医師の判断を仰ぐのがよいでしょう。

バセドウ病治療中のヘアケアと生活習慣

バセドウ病の治療を受けて甲状腺ホルモン値が安定に向かっている間も、髪と頭皮を健やかに保つためのケアや生活習慣を心がけることは、脱毛の改善をサポートする上で大切です。

頭皮への負担を減らすケア

治療中でも髪や頭皮はデリケートな状態にある可能性があります。できるだけ負担をかけない優しいヘアケアを実践しましょう。

シャンプーは、洗浄力が強すぎないアミノ酸系などのマイルドなものを選び、指の腹で優しくマッサージするように洗って、すすぎ残しがないように丁寧に流します。

ドライヤーは頭皮からある程度距離を離し、熱風を長時間当てすぎないように注意します。

また、パーマやヘアカラーは頭皮や髪への刺激となる可能性があるため、症状が落ち着くまでは控える、頻度を減らす、あるいは低刺激性のものを選ぶなどの配慮が必要です。

ブラッシングも、強く引っ張ったり、目の細かすぎるブラシを使ったりしないように気をつけましょう。

バランスの取れた食事

髪の毛は主にタンパク質(ケラチン)でできており、その成長には様々な栄養素が必要です。バセドウ病では代謝が亢進しているため、栄養素の消費も激しくなりがちです。

特定の食品だけを摂取するのではなく、バランスの取れた食事を心がけるのが基本です。

髪の健康に関わる主な栄養素

栄養素役割多く含む食品
タンパク質髪の主成分ケラチンの材料肉、魚、卵、大豆製品、乳製品
亜鉛ケラチン合成の補助、細胞分裂の促進牡蠣、レバー、牛肉、ナッツ類、チーズ
鉄分毛母細胞への酸素供給レバー、赤身肉、魚介類、ほうれん草、小松菜、大豆製品
ビタミンB群代謝促進、頭皮環境の維持豚肉、レバー、うなぎ、マグロ、カツオ、玄米、納豆
ビタミンCコラーゲン生成補助、抗酸化作用果物(柑橘類、キウイ)、野菜(パプリカ、ブロッコリー)
ビタミンE血行促進、抗酸化作用ナッツ類、植物油、アボカド、うなぎ

これらの栄養素を意識しつつ、主食・主菜・副菜をそろえた規則正しい食事を摂ると、髪の健康維持につながります。

ただし、ヨウ素の過剰摂取は甲状腺機能に影響を与える可能性があるため、昆布などのヨウ素を極端に多く含む食品の摂りすぎには注意が必要です。食事制限が必要な場合は、医師や管理栄養士の指示に従ってください。

ストレス管理と十分な睡眠

ストレスは自律神経やホルモンバランスを乱し、血行不良などを介して髪の成長に悪影響を与える可能性があります。また、バセドウ病自体のコントロールにも影響する場合があります。

自分なりのリラックス法を見つけ、ストレスを溜め込まないように心がけましょう。趣味の時間を持つ、軽い運動をする、ゆっくり入浴するなど、心身を休める時間を作る工夫が大切です。

また、髪の成長に関わる成長ホルモンは、主に睡眠中に分泌されます。質の高い睡眠も、健やかな髪を育むためには重要です。寝る前のカフェイン摂取やスマートフォンの使用を控えるなど、睡眠環境を整えるようにしましょう。

サプリメント利用の注意点

食事だけで必要な栄養素を十分に補うのが難しい場合、サプリメントの利用を考える人もいるかもしれません。しかし、自己判断での過剰摂取はかえって健康を害する可能性もあります。

特にバセドウ病の治療中は、服用中の薬との相互作用や、甲状腺機能への影響も考慮する必要があります。

サプリメントを利用したいときは必ず事前に医師や薬剤師に相談し、適切な種類や量についてアドバイスを受けるようにしてください。

よくある質問

さいごに、バセドウ病と脱毛に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

バセドウ病の治療をすれば髪は元に戻りますか?

多くの場合、バセドウ病の治療によって甲状腺ホルモン値が正常範囲に安定すれば、脱毛症状は改善に向かいます。

甲状腺ホルモンの過剰な影響で乱れていた毛周期が正常化して抜け毛が減り、新しい髪が生えてくることが期待できます。

ただし、髪が生え変わるサイクルには時間がかかるため、ホルモン値が安定してから効果を実感できるまでには数ヶ月から半年、場合によってはそれ以上かかるケースもありますので根気強い治療の継続が重要です。

完全に元通りになるかどうかは個人差がありますが、多くは治療により改善が見られます。

バセドウ病の薬の副作用で脱毛することはありますか?

バセドウ病の治療薬である抗甲状腺薬(チアマゾール、プロピルチオウラシル)の副作用として、頻度は稀ですが脱毛が報告されています。

もし、バセドウ病の治療を開始してから、あるいは薬の種類や量が変わってから脱毛が悪化したように感じる場合は、薬の副作用の可能性も考えられます。自己判断で薬の服用を中止せず、必ず担当の医師に相談してください。

脱毛の原因がバセドウ病自体の影響なのか、薬の副作用なのか、あるいは他の原因なのかを医師が慎重に判断し、必要に応じて薬の変更や調整を検討します。

脱毛がひどい場合、かつらやウィッグを使ってもいいですか?

脱毛が目立ち、精神的なストレスになっているときは、かつらや医療用ウィッグを使用するのは全く問題ありません。むしろ、外見上の悩みが軽減されるためストレスが和らぎ、前向きに治療に取り組めるようになる方もいます。

最近では、自然で通気性の良い、様々なタイプのウィッグがあります。蒸れにくい素材を選んだり、帰宅後は外して頭皮を清潔に保ったりするなど、頭皮環境に配慮しながら上手に活用すると良いでしょう。

AGA治療薬はバセドウ病による脱毛にも効果がありますか?

原則としてAGA治療薬(フィナステリド、デュタステリド、ミノキシジルなど)は、バセドウ病による脱毛に対して直接的な治療効果は期待できません。なぜなら、両者の脱毛の原因が異なるからです。

AGAは男性ホルモン(DHT)が主な原因であるのに対し、バセドウ病による脱毛は甲状腺ホルモンの過剰が原因です。

したがって、バセドウ病による脱毛に対しては、まずバセドウ病自体の治療を行って甲状腺ホルモンを正常化させるのが根本的な解決策となります。

ただし、前述のようにバセドウ病とAGAを併発している可能性もあるため、バセドウ病の治療を行っても脱毛が改善しない、あるいはAGA特有の脱毛パターンが見られる場合には、医師に相談の上でAGA治療を検討することはあり得ます。

自己判断でのAGA治療薬の使用は避け、必ず医師の診断と指示に従いましょう。

参考文献

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SCHIFTER, Mark; MCLEAN, Mark; SUKUMAR, Suma. Disorders of the endocrine system and of metabolism. Burket’s Oral Medicine, 2021, 817-902.

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前田 祐助

この記事の監修者
AGAメディカルケアクリニック 統括院長

経歴

  1. 慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
  2. 慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
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前田 祐助

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