髪を結ぶ習慣が引き起こす薄毛のリスクと対策

ポニーテールやお団子など、日常的に髪を結ぶ習慣がある方の中には、「髪を結ぶとはげるのでは？」「髪を強く引っ張ると薄毛になる？」といった不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。

実際に、特定の髪型を長期間続けると髪や頭皮に負担をかけ、薄毛の一因となる可能性があります。

この記事では、髪を結ぶ習慣と薄毛の関係、特に「牽引性脱毛症（けんいんせいだつもうしょう）」と呼ばれる症状に焦点を当て、その原因、見分け方、ご自身でできる対策について詳しく解説します。

なぜ「髪を結ぶとはげる」と言われるのか？

日常的に髪を結んでいると、なぜ薄毛のリスクが高まるのでしょうか。はじめに、その主な理由である牽引性脱毛症やリスクを高める具体的なヘアスタイル、習慣について解説します。

牽引性脱毛症とは？

牽引性脱毛症は、髪が継続的に引っ張られることによって毛根や頭皮に負担がかかり、毛が抜けたり生えにくくなったりする脱毛症の一種です。

毎日同じ位置で髪を強く結ぶ、エクステンションをつけるといった習慣が主な原因となります。特に、髪の生え際や分け目など、テンションがかかりやすい部分に症状が現れやすいのが特徴です。

「髪を結ぶとはげる」という懸念は、この牽引性脱毛症のリスクを指しているケースが多いです。

髪を強く引っ張るヘアスタイル

特定のヘアスタイルは、髪と頭皮への牽引力を高め、牽引性脱毛症のリスクを高める可能性があります。

牽引力を高めやすいヘアスタイル

これらの髪型を毎日続けるのは避け、髪と頭皮を休ませる日を設ける工夫が大切です。

長時間同じ髪型を続けるリスク

毎日同じ位置で、同じ強さで髪を結び続けると、特定の毛根や頭皮領域に負担が集中します。これが長期間にわたると毛根が弱り血行が悪くなるため、髪の成長に必要な栄養が届きにくくなります。

結果として、髪が細くなったり抜けやすくなったり、新しい髪が生えにくくなるという悪循環に陥る可能性があります。

髪を結ぶ位置やスタイルを日によって変えるだけでも、負担を分散させる効果が期待できます。

日常生活に潜むその他の要因

ヘアスタイル以外にも、日常生活の中には髪や頭皮に負担をかける要因が潜んでいます。

例えば、髪が濡れたまま強く結ぶ行為はキューティクルが傷つきやすい状態の髪にダメージを与え、切れ毛や抜け毛の原因となります。

また、サイズの合わないヘルメットや帽子の長時間着用も、頭皮を圧迫し血行を妨げる可能性があります。就寝時に髪を結んだまま寝るのも、寝返りなどで意図せず髪が引っ張られ負担がかかるため避けた方が良いでしょう。

牽引性脱毛症のメカニズム

髪を強く引っ張り続けることが、具体的に髪や頭皮にどのような影響を与え、薄毛につながるのでしょうか。ここでは、牽引性脱毛症が起こる仕組みを詳しく見ていきます。

毛根への物理的な負担

髪を強く引っ張ると、毛根（毛包）に直接的な物理的ストレスがかかります。毛根は髪の成長を支える重要な組織であり、継続的な牽引力によって炎症を起こしたり損傷したりするときがあります。

このダメージが蓄積すると毛根は正常な髪を生成する能力を失い、徐々に小さくなってしまいます（ミニチュア化）。

最終的には、髪が細く弱々しくなったり生えてこなくなったりする可能性があります。

血行不良との関連

頭皮の血行は、髪の成長に必要な酸素や栄養素を毛根に届ける上で非常に重要です。髪が強く引っ張られる状態が続くと、頭皮の血管が圧迫されて血流が悪くなりやすいです。

血行不良に陥ると毛根への栄養供給が滞り、髪の健やかな成長が妨げられます。これが長期化すると毛周期の乱れや毛根の機能低下を招き、薄毛の進行につながる可能性があります。

毛周期への影響

髪の毛には「成長期」「退行期」「休止期」というサイクル（毛周期）があります。健康な状態ではほとんどの髪が成長期にあり、数年間伸び続けます。

しかし、毛根への継続的な負担や血行不良は、この毛周期を乱す原因となります。成長期が短縮されて本来ならまだ成長するはずの髪が早期に退行期や休止期へ移行し、抜け落ちてしまうのです。

これにより全体の髪のボリュームが減少し、薄毛が目立つようになります。

頭皮環境の悪化

髪を強く結び続けると、頭皮の環境にも悪影響を及ぼす可能性があります。

引っ張られることによる物理的な刺激は、頭皮の炎症やかゆみを引き起こすケースがあります。また、髪が密集して結ばれている部分は汗や皮脂が溜まりやすく、蒸れて雑菌が繁殖しやすい状態です。

こうした頭皮環境の悪化がフケの増加や毛穴の詰まりを招き、健康な髪の成長をさらに妨げる要因となりえます。

頭皮環境悪化のサイン

これらのサインが見られる場合は、頭皮環境が悪化している可能性があります。早めのケアが必要です。

こんなサインに注意！牽引性脱毛症の初期症状

牽引性脱毛症は、初期段階で気づいて対策を始めることが重要です。どのような変化に注意すればよいのか、初期症状を確認しましょう。

生え際の後退

特にポニーテールやお団子など前髪や側頭部の髪を強く後ろに引っ張る髪型を続けている方は、生え際が徐々に後退してくる可能性があります。

以前よりもおでこが広くなったように感じたり、生え際のラインが薄くなってきたと感じたら、牽引性脱毛症の初期症状かもしれません。

毎日鏡でチェックする習慣をつけると、変化に気づきやすくなります。

分け目が目立つ

いつも同じ位置で髪を分けて結んでいる場合、その分け目部分の頭皮が透けて見えるようになりやすいです。分け目部分の毛根に継続的な負担がかかり、髪の密度が低下するために起こります。

分け目の幅が以前より広がってきた、地肌が目立つようになったと感じるときは注意が必要です。定期的に分け目を変える工夫が負担を分散させる上で有効です。

髪の毛が細くなる

牽引によるダメージが蓄積すると毛根が弱り、新しく生えてくる髪が以前よりも細く弱々しくなる場合があります。

全体のボリュームが減ったように感じたり、髪にハリやコシがなくなったと感じる場合は、髪質の変化にも注意を払いましょう。

特に、髪を結んでいる部分周辺の毛が細くなっていないか確認してみてください。

頭皮の痛みやかゆみ

髪を強く結んだ後やほどいた時に、頭皮にジンジンとした痛みや引っ張られるような違和感、かゆみを感じる方もいるでしょう。これは、頭皮が牽引による負担を感じているサインです。

一時的なものだと軽視せず、このような感覚が頻繁に起こる方はヘアスタイルや結び方を見直す必要があります。炎症が起きている可能性も考えられます。

牽引性脱毛症の初期症状チェック

• 生え際が後退してきたように感じる
• 分け目の地肌が以前より目立つ
• 髪を結ぶ部分周辺の髪が細くなった
• 髪を結んだ後、頭皮に痛みや違和感、かゆみがある
• 抜け毛が増えた、特に短い毛や細い毛が目立つ
• 結んでいた部分の頭皮に赤みや湿疹が見られる

これらの項目に複数当てはまる場合は、牽引性脱毛症の可能性があります。早めの対策を検討しましょう。

髪を結ぶ習慣による薄毛を防ぐための対策

牽引性脱毛症のリスクを理解した上で、具体的にどのような対策を取ればよいのでしょうか。ここでは、日々のヘアスタイリングやケアで実践できる予防策をご紹介します。

ヘアスタイルの工夫

最も直接的な対策は、髪や頭皮への負担が少ないヘアスタイルを選ぶことです。毎日同じ髪型ではなく、変化をつける工夫が重要です。

髪を結ぶ強さや時間の調整

髪を結ぶ際の「強さ」と「時間」も重要な要素です。ぎゅっと強く結びすぎると、それだけ毛根への負担は大きくなります。指が1本入る程度のゆとりを持たせて結ぶのが目安です。

また、一日中髪を結びっぱなしにするのではなく、可能であれば数時間ごとに一度ほどいて休憩させたり帰宅したらすぐにほどくなど、結んでいる時間をできるだけ短くする工夫も大切です。

頭皮マッサージのすすめ

頭皮マッサージは血行を促進し、硬くなった頭皮を柔らかくする効果が期待できます。血流が改善されれば毛根に必要な栄養が行き渡りやすくなり、健やかな髪の成長をサポートできます。

シャンプー時やリラックスタイムなどに、指の腹を使って優しく頭皮全体をもみほぐしましょう。強い力でゴシゴシこするのは逆効果なので注意が必要です。

頭皮マッサージの種類と目的

自分に合った方法で、心地よいと感じる強さで行うことが継続のコツです。

髪と頭皮に優しいヘアアクセサリーの選択

ヘアゴムやヘアピンなどのアクセサリー選びも、髪への負担を左右します。

金属製のクリップやゴムが直接髪に食い込むような細いヘアゴムは、髪を傷つけたり切れ毛の原因になったりする場合があります。

頭皮に優しいヘアアクセサリーの例

• 布製シュシュ
• スプリングヘアゴム
• 幅広の布製ヘアバンド
• 表面が滑らかなシリコンゴム

素材や形状に注意して、髪と頭皮に優しいアイテムを選びましょう。

日常生活でできる頭皮ケア

ヘアスタイルの工夫と合わせて日々の生活習慣を見直し、頭皮環境を健やかに保つ心がけも薄毛予防には重要です。バランスの取れた食事や正しいヘアケアなど、今日から始められるケアを実践していきましょう。

正しいシャンプー方法

毎日のシャンプーは頭皮の汚れを落とし清潔に保つ基本ですが、方法を間違えると逆効果になるケースもあります。

ゴシゴシこすり洗いしたり、熱すぎるお湯を使ったりするのは避けましょう。お湯の温度は36～38℃くらいが目安です。

バランスの取れた食事

髪の毛は主にタンパク質（ケラチン）でできており、その成長には様々な栄養素が必要です。

特定の食品だけを食べるのではなく、バランスの取れた食事を心がけると、健康な髪を育む土台をつくれます。

髪の成長に必要な栄養素と食品例

これらの栄養素を意識的に摂取し、偏りのない食生活を送りましょう。

十分な睡眠とストレス管理

睡眠不足や過度なストレスは自律神経のバランスを乱し、血行不良やホルモンバランスの乱れを引き起こす可能性があります。

これらは頭皮環境や髪の成長に悪影響を与え、薄毛を助長する要因となりえます。質の高い睡眠を十分にとり、自分なりのストレス解消法を見つけて実践すると良いでしょう。

ストレス軽減に役立つ活動例

• 軽い運動（ウォーキング、ヨガなど）
• 趣味に没頭する時間を作る
• 友人や家族と話す
• ゆっくり入浴する
• 瞑想や深呼吸

心身の健康を保つことが、健やかな髪を維持するためにも重要です。

頭皮用ローションや育毛剤の活用

頭皮の乾燥やかゆみが気になる場合、保湿成分が含まれた頭皮用ローションを使用するのも良いでしょう。

また、抜け毛や薄毛が気になり始めた段階であれば、血行促進や毛母細胞の活性化をサポートする成分が含まれた育毛剤（医薬部外品）を試してみるのも一つの方法です。

ただし、育毛剤はあくまで頭皮環境を整えて抜け毛を予防する目的のものが多く、発毛効果が認められているわけではありません。

効果には個人差があるため過度な期待はせず、補助的なケアとして取り入れるのが良いでしょう。

牽引性脱毛症とAGA（男性型脱毛症）の違い

薄毛の原因は様々であり、髪を結ぶ習慣による牽引性脱毛症の他にも、よく知られているものにAGA（男性型脱毛症）があります。

この二つは原因も対処法も異なるため、正しく見分けることが重要です。

原因の違い

牽引性脱毛症の主な原因は、髪への物理的な牽引力、つまり「引っ張る力」です。特定のヘアスタイルを長期間続けて毛根に負担がかかり発症します。

一方、AGA（男性型脱毛症）は、男性ホルモン（DHT：ジヒドロテストステロン）の影響や遺伝が主な原因と考えられています。

DHTが毛乳頭細胞の受容体と結合して髪の成長期が短縮され、毛髪が十分に成長する前に抜け落ちてしまうために薄毛が進行します。

症状が現れる部位の違い

牽引性脱毛症は、髪が引っ張られる力が最も強くかかる部位に症状が現れやすいのが特徴です。ポニーテールなら生え際やこめかみ、分け目を固定している場合はその分け目部分、といった具合です。

これに対し、AGAは頭頂部（つむじ周り）や前頭部（生え際）から薄毛が進行するパターンが多いです。側頭部や後頭部の髪は影響を受けにくい傾向があります。

進行パターンと対処法の違い

牽引性脱毛症は原因である「髪への牽引」を取り除けば、症状の進行を食い止めたり改善が期待できる場合があります。ヘアスタイルを変える、髪を結ぶのをやめるといった対策が有効です。

一方、AGAは進行性の脱毛症であり、特別な対策をしなければ薄毛は徐々に進行していくのが一般的です。治療には、DHTの生成を抑える内服薬や毛根を刺激して発毛を促す外用薬などが用いられます。

牽引性脱毛症とAGAの主な違い

クリニックでの診断の重要性

セルフチェックだけでは、牽引性脱毛症なのか、AGAなのか、あるいは他の原因による薄毛なのかを正確に判断するのは難しい場合があります。また、両方の要因が複合的に関わっているケースも考えられます。

薄毛の原因を正しく特定して適切な対策や治療を行うためには、薄毛治療を専門とするクリニックで医師の診察を受けるようにします。

専門医が問診や視診、マイクロスコープを用いた頭皮・毛髪の観察などを通じて、的確な診断を行います。

専門医に相談するタイミングと治療法

セルフケアを続けていても薄毛の改善が見られないときや症状が進行していると感じるときは、専門医への相談を検討しましょう。ここでは、クリニックを受診する目安や、行われる検査、治療法について解説します。

セルフケアで改善しない場合

ヘアスタイルを変えたり頭皮ケアを試したりしても、抜け毛が減らない、生え際の後退が止まらない、分け目がますます目立つといった状況が続く場合は、牽引性脱毛症が進行しているか、あるいは他の原因が隠れている可能性があります。

セルフケアには限界があるため、専門的な診断とアドバイスを受けるのが望ましいです。

相談を検討すべき症状

• ヘアスタイルを変えても抜け毛が減らない
• 生え際や分け目の薄毛が進行している
• 髪全体のボリュームが著しく減少した
• 頭皮の痛み、かゆみ、赤みなどが続く

薄毛の進行が気になる場合

「以前より明らかに髪が薄くなった」「このまま進行するのではないか」といった強い不安を感じる場合も、一度専門医に相談することをおすすめします。

早期に原因を特定して適切な対策や治療を開始すると、症状の悪化を防ぎ、改善につながる可能性が高まります。

一人で悩まず、専門家の意見を聞くと安心感につながりやすいです。

クリニックで行われる検査

薄毛の原因を特定するため、クリニックでは以下のような検査が行われることがあります。

これらの検査結果を総合的に判断し、医師が診断を下します。

牽引性脱毛症の主な治療法

牽引性脱毛症の治療の基本は、原因となっている髪への牽引力を取り除くことです。

それに加えて、症状の程度や進行具合に応じて、以下のような治療法が検討されます。

どの治療法が適しているかは、個々の症状や原因によって異なります。医師とよく相談し、納得のいく治療法を選択すると良いでしょう。

よくある質問

最後に、髪を結ぶことと薄毛に関して、患者様からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q. どのくらいの期間髪を結ぶと薄毛になりますか？

牽引性脱毛症を発症するまでの期間には個人差が大きく、一概に「何ヶ月」「何年」とは言えません。髪質、結ぶ強さ、頻度、時間、遺伝的な要因、頭皮の状態などが複合的に影響します。

数ヶ月で症状が現れる方もいれば、長年同じ髪型でも問題ない方もいます。大切なのは、期間に関わらず、頭皮や髪に負担をかけ続けないことです。

生え際や分け目の変化、頭皮の痛みなどのサインに気づいたら、早めに対策をとるようにしましょう。

Q. 子供でも牽引性脱毛症になりますか？

お子様でも牽引性脱毛症になる可能性はあります。特に、バレエや新体操などで日常的に髪をきつく結ぶ必要があるお子様や、毎日同じ位置で強く髪を結んでいるお子様は注意が必要です。

お子様の頭皮は大人よりもデリケートなため、保護者の方が気をつけて、できるだけ髪や頭皮に負担の少ない結び方を工夫したり、髪を結ばない時間を作るなど配慮してあげることが大切です。

Q. 一度薄くなった髪は元に戻りますか？

牽引性脱毛症の場合、早期に原因である牽引力を取り除いて適切なケアを行えば、毛根のダメージが軽度であれば回復する可能性は十分にあります。

しかし、長期間にわたって強い牽引力が加わり続け、毛根が深く損傷してしまったり萎縮してしまったりすると元の状態に戻すのが難しくなる場合もあります。

回復の程度は症状の進行度や期間、個人の回復力によって異なります。早めの対策と、必要であれば専門医による治療が鍵となります。

Q. 帽子をかぶるのも良くないですか？

帽子をかぶること自体が直接的な薄毛の原因になるわけではありません。しかし、サイズの合わないきつい帽子を長時間かぶると頭皮が圧迫されて血行が悪くなったり、蒸れて頭皮環境が悪化したりする可能性があります。

これが間接的に髪の成長に影響を与える可能性は考えられます。帽子を選ぶ際は通気性の良い素材を選び、締め付け感のない、適度なゆとりのあるサイズのものを選ぶと良いです。

また、長時間かぶり続けるのではなく、適度に脱いで頭皮を休ませるようにしましょう。

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