「秋になるとお風呂の排水溝や枕元の抜け毛が急に増えて驚く」「このままハゲてしまうのではないか」。
毎年秋になると、このような不安を感じる男性は少なくありません。一時的な季節性の抜け毛は誰にでも起こりうることですが、その全てを「季節のせい」と片付けてしまうのは危険です。中にはAGA(男性型脱毛症)のサインが隠れていることも。
この記事では秋に抜け毛が増える本当の理由と危険な抜け毛の見分け方、そして今日からできる予防と対策について専門家の視点で詳しく解説します。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
なぜ秋に抜け毛が増えるのか?主な原因を探る
一年の中でも特に秋(9月~11月頃)は抜け毛が増えやすい季節です。その背景には夏の間に受けた様々なダメージが深く関わっています。
夏の紫外線ダメージの蓄積
夏に浴びた強い紫外線は髪の毛だけでなく、頭皮にも深刻なダメージを与えています。紫外線によって頭皮に活性酸素が発生し、毛根にある毛母細胞の働きが弱まってしまいます。
この夏のダメージが数ヶ月の時間を経て秋の抜け毛増加として表面化するのです。
夏バテによる栄養不足
夏の暑さによる食欲不振や冷たいものばかりの偏った食事は髪の成長に必要な栄養素の不足を招きます。
髪の主成分であるタンパク質をはじめ、ビタミンやミネラルが不足すると健康な髪を維持できなくなり、抜けやすい状態になってしまいます。
自律神経の乱れと血行不良
冷房の効いた室内と猛暑の屋外との激しい温度差は体温調節を司る自律神経のバランスを乱します。自律神経が乱れると血管が収縮し、頭皮の血行が悪化します。
この血行不良により、髪の成長に必要な栄養が毛根に十分に届かなくなり、抜け毛につながります。
動物的な本能の名残?換毛期の可能性
動物には季節に応じて毛が生え変わる「換毛期」があります。人間には明確な換毛期はありませんが、その名残として季節の変わり目にヘアサイクルが変動し、抜け毛が増えるという説もあります。
動物の換毛期と人間の季節性脱毛
項目 | 動物の換毛期 | 人間の季節性脱毛 |
---|---|---|
目的 | 体温調節 | 夏のダメージ回復、ホルモンバランス説など |
期間 | 明確(春・秋など) | ゆるやか(特に秋に多い) |
毛量の変化 | 劇的に変化する | 一時的に抜け毛が増える程度 |
これは危険信号?季節性の抜け毛とAGAの見分け方
「この抜け毛はただの季節的なものだろうか?」そう楽観視する前に進行性の病気であるAGA(男性型脱毛症)のサインではないか、注意深く見極めることが重要です。
抜け毛の「期間」に注目する
最も分かりやすい違いは抜け毛が続く「期間」です。季節性の抜け毛は一時的なもので、通常1〜2ヶ月もすれば自然に落ち着きます。
しかし、3ヶ月以上経っても抜け毛の量が多いまま、あるいは悪化するようであればAGAの進行を強く疑うべきです。
抜け毛の「質」を確認する
抜けた髪の毛をよく観察してみてください。季節性の抜け毛はヘアサイクルの寿命を全うした、比較的太くしっかりとした髪の毛です。
一方、AGAの場合は成長途中の細く短い、力のない髪の毛が多く含まれているのが特徴です。
抜け毛の質による比較
チェック項目 | 季節性の抜け毛 | AGAによる抜け毛 |
---|---|---|
太さ・コシ | しっかりしている | 細く、弱々しい |
毛根の形 | 白い塊(毛根鞘)が付いている | 膨らみがない、または萎縮している |
抜け毛の「部位」をチェックする
季節性の抜け毛は頭部全体からまんべんなく抜ける傾向があります。それに対しAGAは生え際(特にM字部分)や頭頂部といった特定の部位から薄毛が進行します。
「全体的に髪が減った」というより、「おでこが広くなった」「つむじが目立つ」と感じる場合はAGAの典型的なサインです。
【独自コンテンツ】「どうせ秋だけ」その油断が未来の髪を脅かす
「またこの季節か。毎年秋は抜けるんだよな」。そう言ってあなたは胸をなでおろしていませんか。
その「いつものこと」という安心感こそが、実はAGAという静かなる脅威を見逃す最大の落とし穴かもしれません。
毎年繰り返す「安心」と「少しずつの後退」
確かに秋の抜け毛は冬になれば落ち着くでしょう。そして、あなたは「やっぱり季節のせいだった」と安心する。
しかしその時去年の秋よりも、一昨年の秋よりも、ほんの少しだけ髪全体のボリュームが減っていることにあなたは気づいていますか。
AGAの進行は非常にゆっくりです。毎年「季節のせい」で安心している間にあなたのヘアラインは1ミリずつ、頭頂部の地肌は少しずつ確実にその面積を広げているのです。
抜け毛の「上乗せ」現象を見抜く
秋に抜け毛が増えるのはAGAが進行している人にとっても同じです。問題なのは慢性的なAGAによる抜け毛に季節性の抜け毛が「上乗せ」されることで、抜け毛の量が爆発的に増えたように感じることです。
そして季節が過ぎて上乗せ分がなくなると抜け毛が減ったと錯覚してしまう。しかし、土台にあるAGAの進行は、一年中、一日も休むことなく続いているのです。
隠れたAGAのサイン
あなたの認識 | 隠された事実 |
---|---|
「秋だけ抜け毛が多い」 | 「AGAの抜け毛に、季節要因がプラスされている」 |
「冬になったら落ち着いた」 | 「季節要因はなくなったが、AGAは進行中」 |
「毎年同じことの繰り返し」 | 「毎年少しずつ薄毛のベースラインが上がっている」 |
不安な気持ちこそが、行動すべきサイン
もしこの記事を読んで、心のどこかがザワついたのなら。もし「自分のことかもしれない」と少しでも感じたのなら。その不安な気持ちこそ、あなたの体が発している最も重要なサインです。
そのサインを「気のせい」で片付けないでください。その不安はあなたの未来を変えるための最初の、そして最も大切な一歩なのです。
自宅でできる秋の抜け毛予防と対策
季節の変わり目を健やかな頭皮で乗り切るために、今日から始められるセルフケアを紹介します。
夏のダメージを回復させる食事
髪の材料となるタンパク質、髪の合成を助ける亜鉛、血行を促進するビタミンEなどをバランス良く摂取しましょう。
夏バテ気味だった方も秋は食欲が戻る季節。意識して栄養価の高い食事を心がけてください。
秋の頭皮ケアにおすすめの食材
栄養素 | 代表的な食材 |
---|---|
タンパク質 | サンマ、鮭、卵、大豆製品 |
亜鉛 | 牡蠣、レバー、牛肉 |
ビタミン類 | かぼちゃ、きのこ類、ほうれん草 |
質の高い睡眠で頭皮環境を整える
夏の寝苦しさから解放される秋は睡眠の質を高める絶好の機会です。
髪の成長を促す成長ホルモンは深い睡眠中に分泌されます。リラックスできる環境を整え、十分な睡眠時間を確保しましょう。
正しいシャンプーと頭皮ケア
夏の間に紫外線や汗でダメージを受けた頭皮はとてもデリケートです。洗浄力の強すぎるシャンプーは避け、アミノ酸系などの保湿成分を含むマイルドな製品で優しく洗いましょう。
爪を立てず、指の腹でマッサージするように洗うのがポイントです。
頭皮マッサージは秋の抜け毛に効果的か
血行促進に有効な頭皮マッサージも正しい方法で行うことが重要です。
血行促進によるメリット
マッサージによって頭皮の血行が良くなると毛根に栄養が届きやすくなり、夏のダメージからの回復を助けます。
また、硬くなった頭皮をほぐすことでリラックス効果も期待できます。
やりすぎ禁物!正しいマッサージ方法
強い力でゴシゴシこするのは頭皮を傷つけ、かえって抜け毛を増やす原因になります。
「気持ち良い」と感じる程度の力で指の腹を使い、頭皮全体を優しく動かすようにマッサージしましょう。
正しいマッサージのポイント
- 爪を立てず、指の腹を使う
- 頭皮の表面をこすらない
- 1回5分程度を目安にする
マッサージの限界と注意点
頭皮マッサージは、あくまで頭皮環境を整えるための「補助的なケア」です。
マッサージだけでAGAの進行を止めたり、発毛させたりすることはできません。その限界を正しく理解することが大切です。
抜け毛が止まらない…クリニックに相談すべきタイミング
セルフケアを続けても抜け毛が改善しない場合は、専門家による診断が必要です。
2ヶ月以上続く抜け毛は危険信号
秋が過ぎ、冬になっても抜け毛の量が多いまま、あるいは細く短い毛が目立つようであれば、それは季節性の抜け毛ではなくAGAが進行している可能性が非常に高いです。
クリニック受診を検討すべきサイン
サイン | 隠れている可能性 |
---|---|
抜け毛が3ヶ月以上続く | AGAが慢性的に進行している |
細く短い毛が多い | ヘアサイクルが短縮している |
生え際や頭頂部が特に薄い | AGAの典型的なパターン |
専門医による正確な診断の重要性
自己判断で放置することが最も大きなリスクです。
専門クリニックでは医師があなたの頭皮の状態を正確に診断し、抜け毛の本当の原因を突き止めます。原因が分かれば適切な治療法を選択できます。
AGA治療という根本的な解決策
AGAと診断された場合、医学的根拠のある治療薬(フィナステリド、ミノキシジルなど)を用いた治療を開始することで進行を食い止め、改善を目指すことが可能です。
「季節のせい」という不安な日々から抜け出し、根本的な解決を目指しましょう。
秋の抜け毛に関するよくある質問
最後に季節性の抜け毛について、患者様からよくいただく質問にお答えします。
- 秋の抜け毛は、どのくらいの期間で落ち着きますか?
-
個人差はありますが、純粋な季節性の抜け毛であれば通常1ヶ月から、長くても2ヶ月程度で自然に元の状態に戻ります。
これ以上続く場合は季節以外の要因、特にAGAの関与を疑うべきです。
- 食べ物で秋の抜け毛を完全に防ぐことはできますか?
-
残念ながら食事だけで完全に防ぐことはできません。食事はあくまで抜け毛を悪化させないための土台作りです。
夏のダメージを回復させ、抜け毛の増加を最小限に抑えることは可能ですが、背景にAGAがある場合、その進行を止めることはできません。
- 夏にしっかり紫外線対策をすれば秋の抜け毛は減りますか?
-
はい、大いに期待できます。
夏の間、帽子や日傘、髪用の日焼け止めスプレーなどで頭皮を紫外線から守ること秋の抜け毛を予防するための最も効果的な対策の一つです。
来年の秋のために今からでも紫外線対策を意識することをお勧めします。
- 春にも抜け毛が増える気がするのですが、秋と同じ原因ですか?
-
春の抜け毛は秋とは少し原因が異なります。
春は新生活などによる「ストレス」や、「花粉」によるアレルギー性の頭皮トラブル、そして「寒暖差」による自律神経の乱れなどが主な引き金になると考えられています。
以上
参考文献
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