「自分は何歳からはげるのだろう」「AGAはいつから始まるのか」という漠然とした不安を抱えていませんか。
鏡を見るたびに生え際や頭頂部が気になったり、父親の髪を見て将来を案じたりするのは多くの方が経験することです。
AGA(男性型脱毛症)の発症年齢は人それぞれで、10代後半で始まる人もいれば、40代以降に気になりだす人もいます。
この記事ではAGAが始まる平均年齢や年代別のデータ、若くして発症する人の特徴、そして年齢に関わらず早期対策が重要な理由を専門家の視点で詳しく解説します。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
AGA発症の平均年齢と年代別データ
AGAはどの年代で発症する可能性が最も高いのでしょうか。まずは客観的なデータから、AGAと年齢の関係を見ていきましょう。
AGAは思春期以降に発症しうる
AGAは男性ホルモンの影響で起こるため、第二次性徴が始まり男性ホルモンの分泌が活発になる思春期以降であれば、何歳からでも発症する可能性があります。
一般的には20代から30代にかけて発症することが多いとされていますが、10代で症状が現れることも決して珍しくありません。
日本人男性の年代別発症率
ある報告によると、日本人男性のAGA発症率は20代で約10%、30代で約20%、40代で約30%、50代以降では40%以上と、年齢とともに上昇していく傾向があります。
つまり、日本人男性の約3人に1人が、生涯のいずれかの時点 でAGAを発症すると言えます。
年代別のAGA発症率(目安)
年代 | 発症率 | 該当する人数(例) |
---|---|---|
20代 | 約10% | 10人に1人 |
30代 | 約20% | 5人に1人 |
40代 | 約30% | 約3人に1人 |
40代以降も進行し続ける
40代、50代になると発症率の上昇は緩やかになりますが、すでに発症している人の症状は進行し続けます。また、加齢による髪全体の変化も相まって、薄毛がより目立ちやすくなる時期でもあります。
「もう年だから」と諦めるのではなく、どの年代であっても対策を始めることに遅すぎるということはありません。
なぜAGAの発症年齢に個人差があるのか
同じ年代でもフサフサな人もいれば、薄毛が進行している人もいます。この発症年齢の個人差は、主に二つの遺伝的要因によって決まります。
要因1 5αリダクターゼの活性度
AGAは男性ホルモン「テストステロン」が「5αリダクターゼ」という酵素によって、悪玉男性ホルモン「DHT(ジヒドロテストステロン)」に変換されることで起こります。
この5αリダクターゼの活性度が高い体質は遺伝し、活性が高い人ほどDHTが作られやすく、若いうちからAGAを発症しやすい傾向にあります。
要因2 アンドロゲンレセプターの感受性
作られたDHTは毛根にある「アンドロゲンレセプター(男性ホルモン受容体)」に結合することで髪の成長を止める指令を出します。
このレセプターの感受性の高さも遺伝によって決まります。感受性が高い人ほど少ないDHTでも強く反応してしまうため、薄毛が進行しやすくなります。
AGA発症に関わる遺伝的要因
遺伝的要因 | 影響 |
---|---|
5αリダクターゼの活性度 | 高いほどDHTが作られやすい |
アンドロゲンレセプターの感受性 | 高いほどDHTに反応しやすい |
遺伝と環境要因の組み合わせ
AGAの発症はこれらの遺伝的要因がベースにありますが、それに加えてストレス、食生活、睡眠不足といった環境要因が引き金となったり、進行を早めたりすることがあります。
遺伝的な素因が同じ兄弟でも、生活習慣の違いによって発症年齢や進行度が異なるケースも見られます。
10代・20代でAGAが始まる「若年性脱毛症」
10代や20代といった若い世代で発症するAGAは「若年性脱毛症」とも呼ばれます。早くから悩みを抱えることになりますが、その特徴を知っておくことが重要です。
強い遺伝的背景を持つことが多い
若くしてAGAを発症する場合、両親や祖父母からの遺伝的な影響を強く受けているケースが多いです。
特に前述した5αリダクターゼの活性やアンドロゲンレセプターの感受性が、ともに高い体質を受け継いでいる可能性が考えられます。
進行が早い傾向にある
若年性脱毛症は30代以降に発症するケースと比べて、進行が早い傾向にあると言われています。気づいたときには、すでにある程度症状が進行していることも少なくありません。
そのため他の年代以上に早期の対策が重要になります。
生活習慣の乱れが引き金になることも
大学生活や新社会人としての生活は食生活の乱れ、睡眠不足、新たな環境でのストレスなど生活習慣が大きく変化する時期です。
これらの要因が遺伝的な素因を持つ人のAGA発症の引き金を引いてしまうことがあります。
- 無理なダイエットによる栄養不足
- 深夜までのアルバイトや勉強による睡眠不足
- 就職活動や新しい職場での人間関係のストレス
30代・40代で薄毛が気になり始めるケース
30代、40代は仕事や家庭で中心的な役割を担う年代であり、AGAの発症や進行を実感する方が最も多い時期です。
社会的ストレスの増大
管理職への昇進によるプレッシャー、部下や上司との人間関係、家庭と仕事の両立など、この年代は様々なストレスに晒されます。
過度なストレスは自律神経やホルモンバランスを乱し、頭皮の血行を悪化させるなど、AGAの進行を助長する一因となります。
加齢による総合的な変化
年齢を重ねると髪の成長速度が遅くなったり、一本一本が細くなったりと、AGAとは別の加齢による変化も現れます。
この加齢による変化とAGAの進行が重なることで薄毛が一気に目立つようになったと感じることがあります。
年代別の主な悩みと背景
年代 | 主な悩み・きっかけ | 考えられる背景 |
---|---|---|
30代 | 結婚式や同窓会で写真を撮った時 | AGAの進行を客観的に認識 |
40代 | 子供に「頭が光ってる」と言われた時 | 加齢とAGAの進行が顕著に |
気づいた時が治療の始め時
何歳であっても薄毛が気になり始めた「今」が、治療を開始する最適なタイミングです。
AGAは進行性であるため、一日でも早く対策を始めることが将来の髪を守ることに繋がります。
【独自コンテンツ】「父ははげていないから大丈夫」その油断が危険な理由
薄毛の話題になると、「うちは父親がフサフサだから自分は大丈夫」と考える方がいます。
その考え、実は大きな落とし穴かもしれません。AGAの遺伝はあなたが思っているより複雑です。
AGAの遺伝子は父親からだけとは限らない
AGAのなりやすさに関わる遺伝子は父親からだけでなく、母親からも受け継がれます。特に男性ホルモンを受け取るアンドロゲンレセプターの遺伝子はX染色体上に存在します。
男性は母親からX染色体を受け継ぐため、母方の家系の影響を強く受けるのです。
注目すべきは「母方の祖父」
つまり、あなたのAGAのリスクを知る上で父親の頭髪と同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのが「母方の祖父(お母さんのお父さん)」の頭髪の状態です。
母方の祖父が薄毛である場合、あなたもその体質を受け継いでいる可能性が高まります。
AGAの遺伝経路の考え方
遺伝経路 | 影響する主な要因 | 誰を見れば参考になるか |
---|---|---|
父方からの遺伝 | 5αリダクターゼの活性など | 父親、父方の祖父 |
母方からの遺伝 | アンドロゲンレセプターの感受性 | 母方の祖父 |
遺伝するのは「結果」ではなく「体質」
重要なのは遺伝するのは「はげる」という運命ではなく、「AGAになりやすい体質」であるという点です。
たとえリスクの高い遺伝子を受け継いでいたとしても、早期から適切な対策を行うことでAGAの発症を遅らせたり、進行を食い止めたりすることは十分に可能です。
「家系的に大丈夫」と油断せず、自分の髪の状態としっかり向き合いましょう。
年齢に関わらず早期発見・早期治療が重要な理由
何歳で発症するかにかかわらず、AGAは「いかに早く治療を開始するか」がその後の結果を大きく左右します。その医学的な理由を解説します。
毛母細胞の寿命には限りがある
髪の毛を作り出す工場である「毛母細胞」は、無限に細胞分裂を繰り返せるわけではありません。
AGAによってヘアサイクルが極端に短くなると毛母細胞は通常より早く寿命を迎え、やがて髪を作り出す力を完全に失ってしまいます。
この状態になると、どんな薬を使っても髪を蘇らせることはできません。
治療開始年齢と改善度の関係
治療はこの毛母細胞がまだ活力を失っていないうちに行うことが大前提です。毛根がまだ生きている初期段階で治療を始めれば、高い改善効果が期待できます。
しかし進行して毛母細胞の多くが活動を停止してからでは改善の幅も限られてしまいます。
若いほど治療効果を実感しやすい
一般的に若い方ほど細胞の活動が活発で、新陳代謝も盛んです。そのため同じ治療を行っても、高齢の方より若い方のほうが治療薬への反応が良く、効果を実感しやすい傾向にあります。
悩んでいる時間がもったいない、と私たちは考えます。
年齢に応じたAGA治療計画の考え方
AGA治療はすべての年代で同じことをするわけではありません。年齢やライフステージ、本人の希望に応じて最適な治療計画を立てていきます。
20代の治療計画
20代は進行を食い止めると同時に、積極的に発毛を目指す治療が中心となります。
将来を見据え、早期にしっかりと治療を行い、良い状態を長く維持することを目指します。
30代・40代の治療計画
この年代では現状の改善と、その状態をいかに維持していくかがテーマになります。
仕事や家庭の状況も考慮しながら、無理なく継続できる治療プランを医師と一緒に考えていきます。
50代以降の治療計画
50代以降では無理に若い頃の状態を目指すのではなく、「年齢相応の若々しさを保つ」「これ以上進行させない」といった、QOL(生活の質)の向上を目標にすることが多いです。
現状維持を基本とし、ご本人の満足度を大切にします。
年代別治療計画のポイント
年代 | 主な治療方針 | 重視する点 |
---|---|---|
20代 | 積極的な発毛・予防 | 将来を見据えた早期介入 |
30代・40代 | 現状改善・維持 | ライフスタイルとの両立 |
50代以降 | 進行抑制・QOL向上 | 年齢に応じた自然な状態 |
よくある質問
AGAの発症年齢に関して、患者さんからよくいただくご質問にお答えします。
- 60代からでも治療を始めて効果はありますか?
-
はい、効果は期待できます。
もちろん20代、30代から始めるのと比べると改善の幅は限定的になるかもしれませんが、抜け毛を減らして現状を維持する、あるいは髪にハリやコシを取り戻すといった効果は十分に可能です。
「もう遅い」と諦める前に、一度専門医にご相談ください。
- AGAは何歳で進行が止まりますか?
-
AGAは治療をしない限り自然に進行が止まることはありません。
年齢を重ねると進行のスピードは緩やかになる傾向がありますが、男性ホルモンが分泌されている限り、ゆっくりと進行し続けます。
- 若い頃から薬を飲み続けて体に影響はありませんか?
-
AGA治療薬は長期的な安全性が確認されている医薬品です。医師は治療開始前と治療中に定期的な血液検査などを行い、患者さんの健康状態をしっかり管理しながら処方します。
何か気になることがあればすぐに医師に相談できる体制が整っているため、安心して治療を継続していただけます。
以上
参考文献
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