「最近、髪のボリュームが減ってきた」「抜け毛が増えて、地肌が目立つようになった」など、女性の薄毛に関する悩みは非常にデリケートです。
その原因は多岐にわたりますが、特に女性の体と密接に関わる「ホルモンバランスの乱れ」が大きく影響している場合があります。
この記事では、薄毛の原因を探るために重要な女性ホルモンの検査について詳しく解説します。
エストラジオール(E2)やプロゲステロン、LH、FSH、プロラクチンといったホルモンが、どのように髪の健康に関わっているのかを理解し、ご自身の状態を把握するための一歩としてお役立てください。
なぜ女性ホルモンの検査が薄毛対策に必要なのか
女性の薄毛対策を考える上で、ホルモンバランスの状態を正確に知ることはとても重要です。
見た目の変化だけでなく、体内で起きていることを数値で把握することで、より的確な対策を立てられます。

女性の薄毛とホルモンバランスの深い関係
女性の髪は、ホルモンの影響を大きく受けます。特に女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)は、髪の成長と維持に重要な役割を担います。
エストロゲンは髪の成長期を長く保ち、髪にハリやコシを与えます。
しかし、加齢やストレス、生活習慣の乱れなどによってホルモンバランスが崩れると、髪の成長サイクルが乱れ、抜け毛や薄毛につながることがあります。
ホルモン検査でわかること

血液検査によってホルモンの分泌量を測定すると、現在のホルモンバランスの状態がわかります。例えば、エストラジオール(E2)の数値が低い場合、髪の成長が妨げられている可能性があります。
また、LH(黄体形成ホルモン)やFSH(卵胞刺激ホルモン)の数値を調べることで、更年期や卵巣機能の状態を評価し、それが薄毛の原因になっていないかを探ります。
ホルモンバランスの乱れを引き起こす要因
- 加齢(特に更年期)
- 過度なストレス
- 不規則な生活習慣
- 無理なダイエット
検査を受けるべきタイミングとは
薄毛や抜け毛の増加が気になり始めたときが、検査を検討する一つのタイミングです。
特に、月経不順や更年期症状(ほてり、のぼせなど)といった他の不調も同時に感じている場合は、ホルモンバランスの乱れが原因である可能性が高まります。
月経周期によってホルモンの値は変動するため、どの時期に検査を受けるべきか、事前に医師に相談することが大切です。
検査を検討したい症状の例

症状 | 内容 | 考えられるホルモンの関連 |
---|---|---|
抜け毛の増加 | シャンプー時やブラッシング時の抜け毛が急に増えた。 | エストロゲンの減少、男性ホルモンの影響 |
髪の質の変化 | 髪が細くなり、ハリやコシがなくなった。 | エストロゲンの減少 |
月経不順 | 月経周期が乱れたり、経血量が変化したりする。 | 女性ホルモン全般のバランスの乱れ |
薄毛に関連する主要な女性ホルモン

薄毛の原因を探るホルモン検査では、複数のホルモンを総合的に調べます。ここでは、特に髪の健康に深く関わる主要なホルモンについて解説します。
髪の健康を支えるエストラジオール(E2)
エストラジオール(E2)は、エストロゲンの中で最も活性が強いホルモンです。髪の成長期を維持し、豊かで健康な髪を育む働きがあります。
このエストラジオール(E2)が減少すると、髪の成長サイクルにおける成長期が短くなり、休止期に入る髪が増えるため、結果として薄毛が進行しやすくなります。
月経周期と脱毛に関わるプロゲステロン
プロゲステロンは、主に排卵後から月経前にかけて分泌が増えるホルモンです。妊娠を維持する働きが知られていますが、髪に対しては、皮脂の分泌を促す作用があります。
プロゲステロンのバランスが崩れると、頭皮環境が悪化し、脱毛につながることがあります。特に月経周期と連動して抜け毛が増える場合は、プロゲステロンの変動が関連している可能性があります。
その他の重要なホルモンの役割
女性の薄毛には、甲状腺ホルモンや男性ホルモン(テストステロン)も影響します。甲状腺ホルモンの異常は、髪の成長を妨げ、脱毛を引き起こすことがあります。
また、女性の体内でも男性ホルモンは作られており、このバランスが崩れて男性ホルモンが優位になると、女性男性型脱毛症(FAGA)の原因となります。
髪に関連するホルモンとその主な働き
ホルモン名 | 主な働き | 髪への影響(不足・過剰時) |
---|---|---|
エストラジオール(E2) | 髪の成長期を維持する | 不足すると抜け毛や髪の質の低下につながる |
プロゲステロン | 皮脂分泌の調整、妊娠維持 | バランスが崩れると頭皮環境が悪化する |
テストステロン | 筋肉や骨格の形成 | 過剰になると薄毛の原因(FAGA)になる |
エストラジオール(E2)と女性の薄毛の関連性

女性の美しさと健康を象徴するホルモン、エストラジオール(E2)。このホルモンが、いかに女性の薄毛と深く関連しているのかを掘り下げて見ていきましょう。
エストラジオール(E2)の働きと髪への影響
エストラジオール(E2)は、卵巣で主に作られ、コラーゲンの生成を促し、肌の潤いやハリを保つ働きがあります。
髪に対しても同様に、頭皮の血行を促進し、髪の成長期を延長させることで、一本一本の髪を太く、長く育てます。これにより、全体として豊かで健康的な髪が保たれるのです。
このため、エストラジオール(E2)は「美髪ホルモン」とも呼ばれます。
エストラジオール(E2)が減少する原因

エストラジオール(E2)の分泌量は、一生のうちで大きく変動します。思春期に増え始め、20代後半から30代前半でピークを迎えます。
その後、40代頃から減少し始め、閉経を迎える50歳前後で急激に減少します。この更年期における急激な減少が、薄毛の大きな原因となります。
また、年齢だけでなく、過度なダイエットによる栄養不足や、強いストレス、睡眠不足なども卵巣機能に影響を与え、エストラジオール(E2)の分泌を低下させる要因となります。
検査でエストラジオール(E2)の数値を把握する
血液検査でエストラジオール(E2)の血中濃度を測定することで、現在の分泌量が基準値内にあるかを確認できます。
数値は月経周期によって変動するため、通常は月経開始から3〜5日目の「卵胞期」に測定します。この時期の数値を見ることで、卵巣が正常に機能しているかを評価する一つの指標となります。
年代別エストラジオール(E2)の基準値目安(卵胞期)
年代 | 基準値の目安 (pg/mL) | 特徴 |
---|---|---|
20〜30代 | 25 – 195 | 分泌量が最も活発な時期。 |
40代 | 25 – 150 | 徐々に分泌量が減少し始める。 |
閉経後 | 20以下 | 卵巣からの分泌がほとんどなくなる。 |
プロゲステロンと月経周期が脱毛に与える影響

プロゲステロンは、エストロゲンとともに月経周期をコントロールする重要なホルモンです。このホルモンの変動が、時に脱毛の原因となることがあります。
プロゲステロンの役割と月経周期
プロゲステロンは、排卵後に卵巣から分泌される黄体ホルモンの一種です。主な役割は、子宮内膜を厚くして受精卵が着床しやすい状態に整え、妊娠を維持することです。
このホルモンは排卵後から次の月経が始まるまでの「黄体期」に分泌のピークを迎えます。妊娠が成立しない場合は、その分泌量が急激に減少し、月経が始まります。
プロゲステロンの乱れによる脱毛の関連
プロゲステロンは皮脂の分泌を促進する作用があります。そのため、黄体期にプロゲステロンの分泌量が増えると、頭皮の皮脂も増えやすくなります。
皮脂が過剰になると、毛穴が詰まったり、炎症を起こしたりして頭皮環境が悪化し、抜け毛につながることがあります。
また、ストレスなどでホルモンバランスが乱れ、プロゲステロンが正常に分泌されない場合も、髪の成長に影響を与える可能性があります。
月経周期におけるホルモン分泌の変動

時期 | 期間 | 主なホルモンの動き |
---|---|---|
卵胞期 | 月経開始〜排卵前 | エストロゲンの分泌が増加する。 |
排卵期 | 排卵日前後 | LH、FSH、エストロゲンがピークになる。 |
黄体期 | 排卵後〜月経前 | プロゲステロンの分泌が増加する。 |
月経不順と薄毛の悩み
月経不順は、女性ホルモンのバランスが乱れているサインです。エストロゲンとプロゲステロンの分泌リズムが崩れているため、髪の成長サイクルにも悪影響が及びます。
月経不順と薄毛の両方に悩んでいる場合は、婦人科や専門のクリニックでホルモンバランスを調べ、根本的な原因に対処することが改善への近道です。
更年期や卵巣機能の評価に役立つLH・FSH
LHとFSHは、脳の下垂体から分泌され、卵巣に指令を送る重要なホルモンです。これらの数値を調べることで、卵巣機能の状態や更年期への移行を評価できます。
LH(黄体形成ホルモン)とFSH(卵胞刺激ホルモン)とは

FSH(卵胞刺激ホルモン)は、卵巣に働きかけて卵胞を成熟させるホルモンです。卵胞が成熟すると、そこからエストロゲンが分泌されます。
一方、LH(黄体形成ホルモン)は、成熟した卵胞からの排卵を促し、排卵後の卵胞を黄体へと変化させる働きがあります。黄体からはプロゲステロンが分泌されます。
つまり、LHとFSHは、エストロゲンとプロゲステロンの分泌をコントロールする司令塔の役割を担っています。
更年期におけるホルモン変動と薄毛
更年期になり卵巣の機能が低下すると、エストロゲンの分泌量が減少します。すると、脳の下垂体は「もっとエストロゲンを分泌するように」と、FSHやLHを大量に分泌して卵巣を刺激しようとします。
このため、更年期の女性の血液検査では、エストラジオール(E2)の値が低いにもかかわらず、FSHとLHの値が非常に高くなるという特徴が見られます。
このエストロゲンの急激な減少が、更年期における薄毛の主な原因となります。
卵巣機能の評価としてのLH・FSH検査
LHとFSHの数値を測定することは、卵巣が脳からの指令にきちんと応答しているか、つまり卵巣機能が正常に働いているかを評価するために重要です。
若くてもFSHの値が高い場合は、早期卵巣機能不全の可能性も考えられます。薄毛だけでなく、不妊や月経不順の原因を探る上でも、これらのホルモン検査は大切な情報を提供します。
閉経前後のLH・FSHの基準値目安
ホルモン | 閉経前の基準値 (mIU/mL) | 閉経後の基準値 (mIU/mL) |
---|---|---|
LH | 卵胞期: 1.8 – 11.8 | 18.6 – 75.0以上 |
FSH | 卵胞期: 3.0 – 10.0 | 25.0 – 130.0以上 |
プロラクチンと高プロラクチン血症による脱毛
プロラクチンは、通常は妊娠・授乳期に活躍するホルモンですが、このホルモンの異常が脱毛を引き起こすことがあります。
プロラクチンとはどんなホルモンか

プロラクチンは、脳の下垂体から分泌されるホルモンで、主な役割は乳腺の発達を促し、母乳の分泌を促進することです。そのため、妊娠中から授乳期にかけて分泌量が高まります。
しかし、授乳期でもないのにプロラクチンの血中濃度が高い状態が続くことがあり、これを「高プロラクチン血症」と呼びます。
高プロラクチン血症が考えられる状態
- 授乳期ではないのに乳汁が出る
- 月経不順や無月経
- 不妊
高プロラクチン血症が脱毛を引き起こす理由
プロラクチンの値が高い状態が続くと、卵巣の働きが抑制されてしまいます。具体的には、卵巣からのエストロゲンの分泌を低下させ、排卵を止めてしまう作用があります。
その結果、エストロゲンの減少による薄毛や、ホルモンバランスの乱れによる脱毛が引き起こされることがあります。
また、男性ホルモンであるテストステロンの働きを強めることもあり、これも脱毛の一因となります。
プロラクチンの数値を調べる検査
プロラクチンの数値も血液検査で簡単に調べることができます。このホルモンはストレスや睡眠不足、食事などによっても変動しやすいため、通常は午前中の安静時に採血を行います。
高プロラクチン血症の原因は、ストレスなどの生理的なもののほか、薬剤の副作用や、下垂体の腫瘍など病的なものまでさまざまです。
高プロラクチン血症の主な原因
分類 | 具体的な原因の例 |
---|---|
生理的な原因 | 妊娠、授乳、過度なストレス、激しい運動 |
薬剤性の原因 | 胃薬、抗うつ薬、経口避妊薬(ピル)など一部の薬剤 |
病的な原因 | 下垂体腺腫、甲状腺機能低下症など |
女性ホルモン検査の具体的な流れと費用
実際にホルモン検査を受けたいと考えたとき、どこで、どのように受けられ、費用はどのくらいかかるのか、具体的な情報について解説します。
検査を受けられる医療機関
女性ホルモンの検査は、主に婦人科や産婦人科、内分泌内科で受けられます。最近では、薄毛治療を専門に行うクリニックでも、原因を特定するためにホルモン検査を実施しているところが増えています。
まずはかかりつけの婦人科に相談するか、女性の薄毛専門クリニックを探してみるのが良いでしょう。
採血から結果説明までの流れ
検査は通常、腕から少量の血液を採取するだけで終わります。採血自体は数分で完了します。結果が出るまでには、医療機関によって異なりますが、一般的に1週間から2週間程度かかります。
後日、再び医療機関を訪れ、医師から検査結果についての詳しい説明を受けます。結果に応じて、今後の治療方針や生活習慣の改善についてアドバイスをもらいます。
検査費用の目安と保険適用について
月経不順や更年期障害など、何らかの症状があり、医師が治療のために検査が必要だと判断した場合は、健康保険が適用されます。この場合の自己負担額は、検査項目にもよりますが数千円程度です。
一方で、特に症状はないものの、美容目的やご自身の状態を知るために検査を受けたいという場合は、自費診療となります。
ホルモン検査の費用目安
診療区分 | 費用の目安 | 対象となるケース |
---|---|---|
保険診療 | 3,000円~8,000円程度(3割負担) | 月経不順、更年期障害、不妊症などの治療目的 |
自費診療 | 10,000円~30,000円程度 | 美容目的、健康診断の一環など |
女性ホルモンの検査に関するよくある質問
ここでは、女性ホルモンの検査に関して、多くの方が疑問に思う点についてお答えします。
- 検査前に食事制限は必要ですか?
-
一般的に、女性ホルモンの検査(エストラジオール、プロゲステロン、LH、FSH、プロラクチンなど)では、事前の食事制限は必要ありません。
ただし、同時に血糖値や中性脂肪など他の血液検査も行う場合は、絶食の指示があるかもしれません。検査を受ける医療機関の指示に必ず従ってください。
- 検査結果はどのくらいでわかりますか?
-
検査結果が判明するまでの期間は、検査を依頼する機関によって異なりますが、通常は1週間から2週間程度です。結果は、後日改めて診察を受けて、医師から直接説明を聞く形が一般的です。
その際に、数値が示す意味や今後の対策について詳しく相談できます。
- 検査結果が悪かった場合どうすればいいですか?
-
検査結果でホルモンバランスの乱れが見つかった場合、その原因や程度に応じて治療や対策を行います。
例えば、更年期によるエストロゲンの低下が原因であればホルモン補充療法(HRT)を検討したり、高プロラクチン血症であれば原因に応じた薬物治療を行ったりします。
また、まずは食生活の見直しや適度な運動、ストレス管理といった生活習慣の改善から始めることも多くあります。医師とよく相談し、ご自身に合った方法を見つけることが大切です。
- ピルを服用中でも検査はできますか?
-
低用量ピルやホルモン補充療法(HRT)など、ホルモン剤を服用している場合、検査値は薬の影響を大きく受けます。
そのため、正確なご自身のホルモン分泌状態を評価することは難しくなります。もし検査を希望する場合は、必ず事前に医師にホルモン剤を服用していることを伝えてください。
薬を一時的に中止して検査を行うか、あるいは薬を服用していることを前提として結果を解釈するか、医師が判断します。
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