健康な髪を育むために「ケラチン」や「ビオチン」が重要だと耳にしたことはありませんか。
育毛シャンプーやサプリメントの成分としてよく目にするこれら2つの成分ですが、その役割の根本的な違いを正確に理解している方は少ないかもしれません。
実は、ケラチンとビオチンは「髪の材料」と「材料を作る職人」ほどに役割が異なります。この違いを知らずに行うヘアケアは、効果が半減してしまう可能性さえあります。
この記事では薄毛治療の専門的な視点からケラチンとビオチンの本質的な違い、そして両者が育毛にどう関わるのかを分かりやすく解説します。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
髪の主成分「ケラチン」の正体
まず、育毛を語る上で欠かせない「ケラチン」について理解を深めましょう。
ケラチンは私たちの髪の根幹をなす非常に重要な成分です。その正体を知ることが、効果的なヘアケアの第一歩となります。
ケラチンとは何か
ケラチンとは複数のアミノ酸が結合してできたタンパク質の一種です。
髪の毛の約90%を占める主成分であり、髪の強さやしなやかさ、ツヤなどを決定づける骨格のような存在です。
髪以外にも、皮膚の角質層や爪などもケラチンから作られています。
髪におけるケラチンの役割
髪内部ではケラチンタンパク質が繊維状に集まり、髪の強度を保っています。
また、髪の最も外側にあるキューティクルもケラチンで構成されており、外部の刺激から髪の内部を守り、水分や栄養が流れ出るのを防ぐバリアの役割を担っています。
ケラチンの主な役割
| 役割 | 概要 |
|---|---|
| 髪の構造維持 | 髪の強度としなやかさを保つ |
| 外部刺激からの保護 | キューティクルを形成し内部を守る |
| 水分保持 | 髪の潤いを保ち、パサつきを防ぐ |

ケラチンが不足するとどうなるか
体内で生成されるケラチンが不足すると、髪の毛は深刻なダメージを受けます。新しく生えてくる髪が細く弱々しくなったり、髪のハリやコシが失われたりします。
また、キューティクルがもろくなることで枝毛や切れ毛が増え、髪全体のボリュームダウンにつながることもあります。
ケラチン生成を支える「ビオチン」の働き
次に、ケラチンと密接な関係にある「ビオチン」について解説します。
ビオチンはケラチンという”髪の家”を建てるために欠かせない、優れた”職人”のような存在です。
ビオチンとは何か
ビオチンはビタミンB群に属する水溶性のビタミンです。かつてはビタミンHとも呼ばれていました。
体内でエネルギーを作り出す代謝や、皮膚や粘膜の健康維持に深く関わる重要な栄養素であり、特にタンパク質の合成をサポートする働きで知られています。
体内でのビオチンの役割
ビオチンの主な役割は、食事から摂取した栄養素を体内で利用できる形に変換する「代謝」を助ける補酵素として働くことです。
糖質、脂質、そしてタンパク質の代謝に関与し、生命活動の根幹を支えています。このタンパク質の代謝を助ける働きが、育毛において重要となります。
ビオチンと髪の健康の関係
髪の主成分であるケラチンはタンパク質です。ビオチンは食事から摂ったアミノ酸を材料にして、ケラチンを合成する過程をサポートします。
つまり、ビオチンが不足すると、たとえケラチンの材料となるタンパク質を十分に摂取していても、それを効率よく髪の毛に作り変えることができなくなるのです。
ビオチンの主な働き
| 分類 | 主な働き | 髪への関与 |
|---|---|---|
| ビタミンB群 | 糖質・脂質・タンパク質の代謝を助ける | ケラチン(タンパク質)の合成をサポート |
決定的な違い「材料」と「補酵素」という関係性
ケラチンとビオチンの違いを明確に理解するために、両者の関係性を整理しましょう。
「髪の材料そのもの」であるケラチンと、「材料から髪を作るのを助ける」ビオチン。この根本的な違いを把握することが、誤ったヘアケアを避けるための鍵です。
ケラチンは髪そのもの
ケラチンは髪を構成するタンパク質であり、いわば「完成した部品」や「建材」です。
髪の強さや美しさは、このケラチンの質と量に直接的に左右されます。ケラチンがなければ、髪は形を成すことすらできません。
ビオチンはケラチンを作るサポート役
一方、ビオチンは髪の成分ではありません。体内でケラチンを合成する化学反応を円滑に進めるための「補酵素」、つまり「道具」や「触媒」のような役割を担います。
どれだけ良質な材料(アミノ酸)があっても、それらを組み立てる道具(ビオチン)がなければ、立派な家(髪)は建たないのです。

ケラチンとビオチンの関係性
| 項目 | ケラチン | ビオチン |
|---|---|---|
| 役割 | 髪の主成分(材料) | ケラチン合成の補酵素(道具) |
| 分類 | タンパク質 | ビタミン |
両者の連携が育毛の鍵
健康な髪を育むためには、ケラチンの材料となるタンパク質(アミノ酸)と、その合成を助けるビオチンの両方がバランス良く満たされている必要があります。
どちらか一方が不足しても、効率的な育毛は望めません。この連携を意識した栄養摂取が重要です。
「ケラチン配合」製品の誤解と真実
ドラッグストアには「ケラチン配合」を謳うシャンプーやトリートメントが数多く並んでいます。
「これを使い続ければ、髪の材料が補給されてフサフサになる」と考えているとしたら、それは少し誤解かもしれません。
外から与えるケアの本質と、本当に育毛につながるケアの違いについて考えてみましょう。
食べるケラチンと塗るケラチンの違い
まず、口から摂取したタンパク質(ケラチンを含む)は、一度アミノ酸に分解されてから吸収され、体内で再びタンパク質に再合成されます。
一方、髪に塗布するケラチン(加水分解ケラチンなど)は分子が大きいため、髪の内部に浸透して一体化するわけではありません。
主に髪の表面やダメージ部分をコーティングして手触りを良くしたり、一時的にハリを与えたりする役割を果たします。
シャンプーやトリートメントの効果の限界
ケラチン配合のヘアケア製品は、すでに生えている髪のダメージを補修し、見た目を美しく保つ「ヘアケア(髪の手入れ)」としては非常に有効です。
しかし、毛根に作用して新しい髪を生やしたり、髪を太く育てたりする「育毛」への直接的な効果は限定的です。
あくまでも、今ある髪を保護・補修するものと理解することが大切です。
ケアの目的とアプローチの違い
| ケアの目的 | 主なアプローチ | ケラチン配合製品の役割 |
|---|---|---|
| ヘアケア(美髪) | 髪表面の補修・保護 | 非常に有効 |
| スカルプケア(育毛) | 毛根への栄養供給・血行促進 | 間接的・限定的 |

あなたのケアは「髪の修復」か「育毛」か
あなたが今行っているケアの目的は明確でしょうか。もし、枝毛やパサつきを抑え、指通りを良くしたいのであれば、ケラチン配合のトリートメントは良い選択です。
しかし、抜け毛を減らし、新しく生える髪を強く育てたいという「育毛」が目的ならば、外からケラチンを塗るだけでは不十分です。
体の内側からケラチンを生成するための栄養を毛根に届けるアプローチが必要不可欠なのです。
ビオチンを効率的に摂取する方法
育毛のサポート役であるビオチンは、どのような食品から摂取できるのでしょうか。日々の食事で意識的に取り入れることで、内側からのケアを実践しましょう。
ビオチンを多く含む食品
ビオチンはレバー、卵、ナッツ類、魚介類など様々な食品に含まれています。
特に加熱に強い性質があるため、調理による損失が少ないのも特徴です。
ビオチンが豊富な食品の例
| 食品カテゴリー | 具体的な食品名 |
|---|---|
| 肉類 | 豚レバー、鶏レバー |
| 魚介類 | サケ、イワシ、アサリ |
| 卵・豆類 | 卵黄、大豆、落花生 |
| ナッツ類 | アーモンド、クルミ |
サプリメントで補う場合の注意点
通常の食生活を送っていればビオチンが極端に不足することは稀ですが、食生活の乱れが気になる場合はサプリメントの活用も一つの手です。
ただし、サプリメントはあくまで補助的なものです。まずはバランスの良い食事を基本とし、製品の用法・用量を守って正しく利用してください。
ビオチンの吸収を妨げる要因
生の卵白に含まれる「アビジン」というタンパク質はビオチンと強く結合し、その吸収を阻害する性質があります。
一度に大量の生卵白を長期間にわたって摂取するようなことがなければ問題ありませんが、知識として覚えておくと良いでしょう。
アビジンは加熱すればその働きを失います。

育毛における食事と栄養バランスの重要性
健康な髪はビオチンさえあれば育つわけではありません。
ケラチンの材料となるアミノ酸をはじめ、様々な栄養素がチームとして働くことで初めて力強い髪が生まれます。
ケラチンの材料となるアミノ酸
ケラチンを構成するアミノ酸の中でも、特に「メチオニン」「シスチン」といった含硫アミノ酸が重要です。
これらは肉、魚、大豆製品などの良質なタンパク質から摂取できます。
育毛に関連する主な栄養素
- タンパク質(アミノ酸):髪の主材料
- ビオチン:ケラチン合成のサポート
- 亜鉛:ケラチン合成のサポート
- ビタミンC:頭皮のコラーゲン生成を助ける
- 鉄分:毛根への酸素供給を助ける
亜鉛やビタミンなど他の栄養素の役割
亜鉛もまた、アミノ酸からケラチンを合成する際に重要な役割を果たすミネラルです。
ビタミンCは頭皮の血行を良くし、ビタミンEは抗酸化作用で頭皮の老化を防ぐなど、それぞれの栄養素が連携して育毛を支えています。
栄養が髪に届くまでの流れ
食事から摂取した栄養素は腸で吸収された後、血液に乗って全身に運ばれます。そして、頭皮の毛細血管を通じて毛根にある毛母細胞に届けられ、そこで初めて髪の毛の材料となります。
栄養バランスの取れた食事と良好な血行の両方がそろってこそ、健康な髪が育つのです。
クリニックで行う薄毛治療と栄養指導
セルフケアで栄養バランスを意識しても抜け毛や薄毛の改善が見られない場合、それはAGA(男性型脱毛症)など医療的なアプローチが必要な状態かもしれません。
なぜセルフケアだけでは限界があるのか
AGAは男性ホルモンの影響でヘアサイクルが乱れ、髪が十分に成長する前に抜け落ちてしまう進行性の脱毛症です。
この根本原因は食事や栄養改善だけで解決することはできません。進行を抑制するためには、専門的な治療薬が必要です。
専門医による原因の特定
クリニックでは、まず問診や視診、血液検査などを通じて、薄毛の根本原因を正確に診断します。
AGAなのか、あるいは他の要因が隠れているのかを突き止めることが、適切な治療への第一歩です。
治療と並行する栄養アプローチ
クリニックでのAGA治療は主に内服薬や外用薬で行います。
これと並行して、一人ひとりの食生活をヒアリングし、不足しがちな栄養素を補うための具体的な食事指導や、医療用サプリメントの処方を行うことがあります。
このことにより、治療薬の効果を最大限に引き出す土台作りができます。
治療と栄養指導の連携
| アプローチ | 目的 | 具体例 |
|---|---|---|
| 医療的治療 | 薄毛の進行抑制・発毛促進 | 内服薬、外用薬の処方 |
| 栄養指導 | 健康な髪を育てる土台作り | 食事改善、サプリメント処方 |
ケラチンとビオチンに関するよくある質問
最後に、ケラチンとビオチンに関して患者さんからよく寄せられる質問にお答えします。
- ビオチンを摂りすぎると副作用はありますか?
-
重篤な副作用の報告はほとんどありません。
ビオチンは水溶性ビタミンのため、過剰に摂取しても尿として体外に排出されやすい性質があります。
そのため、通常の食事やサプリメントの利用で、健康に害を及ぼすような過剰摂取になる可能性は極めて低いと考えられています。
- ケラチン配合シャンプーは毎日使っても良いですか?
-
問題ありませんが、頭皮への影響も考慮してください。製品の使用方法に従っていれば、毎日使用しても基本的に問題ありません。
ただし、髪の補修を目的とするあまり、洗浄力が強すぎたり、頭皮に合わない成分が含まれていたりする場合もあります。
髪だけでなく、頭皮の状態も観察しながら使用することが大切です。
- 食事改善だけで髪は生えてきますか?
-
薄毛の原因によります。栄養不足が原因の薄毛であれば、食事改善によって回復する可能性はあります。
しかし、薄毛の最も多い原因であるAGAは食事改善だけで進行を止めたり、発毛させたりすることは困難です。
効果が見られない場合は、専門医の診断を受けることを強く推奨します。
- サプリメントはどのくらいで効果が出ますか?
-
最低でも3ヶ月から6ヶ月は継続することが目安です。
髪は1ヶ月に約1cmしか伸びません。サプリメントで栄養状態が改善され、それが新しく生える髪に影響を与えるまでには時間がかかります。
ヘアケアは長期的な視点で取り組むことが重要です。

参考文献
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