「スカルプ」という言葉を育毛剤の広告などでよく耳にするけれど、具体的にどこのことを指すのかご存知ですか?「スカルプ」とは、英語で「頭皮(とうひ)」を意味します。
髪の毛そのものではなく、その髪を生み育てる土台となる部分です。健康な髪は、健康な頭皮から育ちます。
この記事では、「スカルプ」すなわち頭皮の重要性から、なぜスカルプケアが必要なのか、そして自宅でできる基本的なスカルプケアの方法まで、髪の土台である頭皮を健やかに保つための知識をわかりやすく解説します。
髪の悩みを持つ方、将来のために頭皮環境を整えたい方は、ぜひご一読ください。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
「スカルプ」とは?今さら聞けない基本の知識
スカルプが指し示す具体的な部分
スカルプ(scalp)とは、英語で「頭皮」を指す言葉です。具体的には、髪の毛が生えている頭部の皮膚全体を意味します。
育毛剤やシャンプーの文脈で使われる場合、髪の毛そのものではなく、その髪を支え、栄養を送り、生え変わらせる土台となる皮膚組織のことを指します。
顔の皮膚(フェイススキン)と頭皮(スカルプ)は一枚の皮膚でつながっていますが、頭皮は髪に覆われ、皮脂腺や汗腺が非常に多いため、特有の環境を持っています。
この頭皮環境を良好に保つことが、健やかな髪を育む上でとても重要です。この土台がしっかりしていないと、いくら髪の毛自体をケアしても、根本的な解決にはつながりにくいのです。
「スカルプ」と「髪」の違い
「髪」は、頭皮の毛穴(毛包)から生えている毛幹(もうかん)部分、つまり目に見えている「毛」そのものを指します。一方、「スカルプ」は前述の通り「頭皮」であり、髪が生えるための土台です。
髪の毛自体はすでに死んだ細胞の集まりであり、自己修復能力はありません。ダメージを受けたら、トリートメントなどで補修することはできても、再生することはないのです。
しかし、スカルプ(頭皮)は生きた組織であり、皮膚の一部として新陳代謝を繰り返し、毛包内部では毛母細胞が分裂して新しい髪を作り出しています。
したがって、美しい髪、強い髪を目指すには、髪そのものへのトリートメントだけでなく、その大元であるスカルプ(頭皮)のケアが大切になります。
頭皮の構造と髪の毛の関係
頭皮は表皮、真皮、皮下組織の3層構造になっており、これは顔の皮膚と同じです。しかし、頭皮の真皮層には、髪の毛を作り出す「毛包(もうほう)」という器官が多数存在します。
毛包の最深部にある「毛乳頭(もうにゅうとう)」が毛細血管から栄養を受け取り、その周りにある「毛母細胞(もうぼさいぼう)」が分裂・増殖することで髪の毛が作られ、上へと伸びていきます。
つまり、頭皮は髪の毛を生産する「工場」のような役割を担っています。
頭皮の血行が悪かったり、栄養が不足したり、炎症が起きたりすると、この工場が正常に機能しなくなり、細く弱い髪しか作れなくなったり、髪の成長が途中で止まってしまったりすることがあります。
これが薄毛や抜け毛の一因となるのです。
なぜ今「スカルプケア」が注目されるのか
近年、男性用の育毛剤やシャンプー市場で「スカルプケア」という言葉が頻繁に使われるようになりました。
これは、薄毛や抜け毛、フケ、かゆみといった髪や頭皮の悩みを抱える人が増え、その原因が髪そのものよりも土台である頭皮環境にあるという認識が広まったためです。
ストレス社会、食生活の乱れ、睡眠不足、不適切なヘアケア、紫外線ダメージなど、現代人を取り巻く環境は頭皮にとって過酷なものが多く、頭皮トラブルを抱えやすくなっています。
髪の悩みの根本にアプローチするには、まず頭皮(スカルプ)を健康な状態に戻すことが大切である、という考え方が浸透してきたのです。髪の悩みは、多くの場合「頭皮の悩み」でもあるのです。
スカルプ(頭皮)の健康状態をチェックしよう
あなたの頭皮は何色?セルフチェックの方法
自分の頭皮の色を意識して見たことはありますか?頭皮の色は、その健康状態を示すバロメーターになります。
合わせ鏡を使ったり、スマートフォンのカメラで撮影したり、家族やパートナーに見てもらったりして、自分の頭皮の色をチェックしてみましょう。
特に、分け目や、自分では見えにくい頭頂部(つむじ周り)は、皮脂が溜まりやすかったり、血行不良が起きやすかったりする場所なので、注意して確認してみてください。
健康な頭皮の色
健康な頭皮は、青白く透明感があります。これは、頭皮の水分と油分のバランスが良く、血行が良好である証拠です。毛穴の周りもくぼんでいてすっきりしており、汚れや皮脂が詰まっていません。
一本一本の髪の毛がしっかりと根付き、そこから健やかに伸びている状態です。この状態を維持することが、スカルプケアの目標となります。
注意が必要な頭皮の色
もし頭皮が以下のような色をしていたら、何らかのトラブルを抱えているサインかもしれません。早めに対処することで、深刻なトラブルを防ぐことができます。
- 赤色
- 黄色・茶色
- ピンク色
赤色の頭皮は、炎症が起きている可能性があります。かゆみやヒリヒリ感を伴うこともあります。
シャンプーのすすぎ残し、洗浄力の強すぎるシャンプーによる刺激、皮脂の過剰分泌による炎症、紫外線ダメージ、アレルギー反応などが原因として考えられます。
黄色・茶色の頭皮は、皮脂が過剰に分泌され、その皮脂が毛穴や頭皮表面で酸化している状態かもしれません。毛穴詰まりを起こしやすく、雑菌が繁殖しやすい環境になっています。
放置すると抜け毛やニオイの原因になることも。脂っこい食事が多い、睡眠不足、洗い方が不十分といったことが影響している場合があります。
ピンク色の頭皮は、赤色ほどではありませんが、やや敏感になっているか、炎症の初期段階である可能性があります。また、血行不良のサインであることもあります。乾燥が進んでいる場合にも見られる色です。
フケやかゆみ スカルプトラブルのサイン
フケやかゆみは、頭皮環境が悪化していることを示す非常に分かりやすいサインです。
これらは、頭皮のターンオーバー(新陳代謝)の乱れや、乾燥、皮脂の過剰分泌、頭皮に常在する菌(マラセチア菌など)の異常増殖によって引き起こされます。
フケには種類があり、それぞれ原因が異なります。
頭皮トラブルの種類と主な原因
頭皮トラブルには様々な種類があり、それぞれ原因が異なります。自分の状態を把握することが、適切なケアへの第一歩です。代表的なトラブルとその原因を見てみましょう。
| トラブルの種類 | 主な特徴 | 考えられる原因 |
|---|---|---|
| 乾燥性のフケ | パラパラとした細かい乾いたフケ。肩などに落ちやすい。 | 洗浄力の強すぎるシャンプー、熱いお湯でのシャンプー、洗いすぎ、空気の乾燥、血行不良によるうるおい不足。 |
| 脂性(しせい)のフケ | 湿り気のあるベタベタしたフケ。毛穴の周りや髪の根元にこびりつく。 | 皮脂の過剰分泌、シャンプーのすすぎ残し、脂っこい食事、ホルモンバランスの乱れ、マラセチア菌の増殖。 |
| 頭皮のかゆみ | ムズムズする、あるいは我慢できないかゆみ。掻くとフケが出ることも。 | 乾燥、炎症、アレルギー(シャンプー剤など)、汗や皮脂による刺激、シャンプーの洗い残し。 |
| 頭皮のニキビ | 毛穴の周りが赤く腫れる、押すと痛む。白い芯ができることも。 | 毛穴詰まり、アクネ菌の増殖、皮脂の過剰分泌、生活習慣の乱れ、整髪料の洗い残し。 |
抜け毛や髪質の変化も頭皮からのSOS
以前より抜け毛が増えた、髪が細くなってきた、ハリやコシがなくなった、といった髪質の変化も、スカルプ(頭皮)環境の悪化が原因である場合が多いです。
毛母細胞への栄養供給が滞ったり、毛穴が皮脂で詰まったりすることで、髪が十分に成長できなくなるのです。髪の毛は一定のサイクル(ヘアサイクル)で生え変わるため、抜け毛自体は自然な現象です。
1日に抜ける髪の毛は50本から100本程度が正常範囲とされますが、シャンプー時や朝起きた時の枕元の抜け毛が明らかに増えた場合は注意が必要です。
特に、細くて短い抜け毛が増えた場合は、髪が十分に成長する前に抜けてしまっている可能性があり、頭皮環境の悪化やAGA(男性型脱毛症)のサインかもしれません。
「スカルプケア」とは具体的に何をするのか
スカルプケアの定義と目的
「スカルプケア」とは、文字通り「スカルプ(頭皮)」の「ケア(お手入れ)」をすることです。
その目的は、髪が生える土台である頭皮を清潔で健康な状態(前述の青白い状態)に保ち、健やかな髪の毛が育つ環境を整えることにあります。
単に髪を美しく見せるヘアケアとは異なり、頭皮の血行促進、毛穴の汚れ除去、保湿、栄養補給、ターンオーバーの正常化など、頭皮環境そのものに働きかける行為全般を指します。
育毛剤の使用もスカルプケアの重要な一環ですが、それだけがスカルプケアではありません。日々のシャンプーや生活習慣の見直しも含まれます。
ヘアケアとスカルプケアの違い
ヘアケアとスカルプケアは、対象とする部分と目的が異なります。ヘアケアは主に「毛幹(もうかん)」、つまりすでに生えている髪の毛を対象とします。
トリートメントやコンディショナーで髪のダメージを補修したり、指通りを良くしたり、ツヤを出したりすることが目的です。髪の「見た目」や「手触り」を良くするケアと言えます。
一方、スカルプケアは「頭皮」と「毛穴(毛包)」を対象とし、これから生えてくる髪のために土壌を整えることが目的です。「未来の髪」のためのケアと考えると分かりやすいでしょう。
ケア対象と目的の比較
この二つのケアは、どちらか一方だけを行えば良いというものではなく、両方を適切に行うことが、美しい髪を保つためには重要です。
| ケアの種類 | 主な対象 | 目的 |
|---|---|---|
| ヘアケア | 髪の毛(毛幹) | ダメージ補修、手触り・ツヤの向上、保護 |
| スカルプケア | 頭皮(スカルプ)、毛穴 | 頭皮環境の正常化、健やかな髪の育成、フケ・かゆみ・抜け毛予防 |
スカルプケアが髪にもたらす好影響
健康な畑から美味しい野菜が育つように、健康なスカルプ(頭皮)からは健康な髪が育ちやすくなります。
スカルプケアを適切に行うことで、頭皮の血行が良くなり、髪の毛を作り出す毛母細胞に必要な栄養素(たんぱく質、ビタミン、ミネラルなど)が行き渡りやすくなります。
また、毛穴の詰まりが解消されることで、髪がスムーズに成長できるようになり、一本一本が太く、しっかりとした髪に育ちやすくなります。
これにより、髪にハリやコシが出たり、抜け毛が減ったり、健康的なツヤが生まれたりといった好影響が期待できます。頭皮が健康になると、フケやかゆみ、ニオイといった不快な悩みも改善されます。
男性特有の頭皮環境とスカルプケアの必要性
男性の頭皮は、女性に比べて皮脂の分泌量が多い傾向にあります。これは、男性ホルモン(テストステロン)が皮脂腺の働きを活発にするためです。
皮脂が多いと、毛穴が詰まりやすく、酸化した皮脂が刺激となって炎症を起こしたり、雑菌(マラセチア菌など)が繁殖しやすくなったりします。
これにより、脂性のフケやかゆみ、ニキビ、さらには脂漏性(しろうせい)脱毛症などのトラブルを引き起こしやすくなります。
また、男性型脱毛症(AGA)も男性ホルモン(DHT)が関与しており、頭皮環境の悪化がAGAの進行を早める一因となることもあります。
そのため、男性こそ日々のスカルプケアで頭皮を清潔に保ち、過剰な皮脂を適切にコントロールすることが特に重要です。
自宅でできるスカルプケアの基本 正しいシャンプー方法
シャンプー選びのポイント スカルプケア用とは?
スカルプケアの基本は、毎日のシャンプーです。しかし、ただ洗えば良いというものではありません。
洗浄力が強すぎるシャンプー(高級アルコール系など)は、頭皮に必要な皮脂まで奪い去り、乾燥やかゆみの原因になることがあります。
逆に、洗浄力が弱すぎると、多い皮脂を落としきれず毛穴詰まりの原因になります。スカルプケアを意識するなら、自分の頭皮タイプ(乾燥肌、脂性肌、敏感肌など)に合ったシャンプーを選ぶことが大切です。
スカルプケア向けシャンプーの種類
一般的に「スカルプシャンプー」と呼ばれるものは、頭皮環境を整えることを目的に設計されています。自分の頭皮状態に合わせて選びましょう。
| シャンプーの種類 | 特徴 | 向いている頭皮タイプ |
|---|---|---|
| アミノ酸系シャンプー | 洗浄力がマイルドで、頭皮への刺激が少ない。保湿性が高い。 | 乾燥肌、敏感肌、フケ・かゆみが気になる人。 |
| 薬用シャンプー(医薬部外品) | フケ・かゆみ防止、殺菌、抗炎症などの有効成分を配合。 | フケ、かゆみ、ニオイ、炎症などのトラブルが起きている人。 |
| ノンシリコンシャンプー | シリコン(ジメチコンなど)無配合。さっぱりとした洗い上がり。 | 髪のボリュームが欲しい人、軽い仕上がりが好みの人。 |
脂性肌の人は、適度な洗浄力がありつつも、皮脂分泌を抑制する成分が入ったものを選ぶと良いでしょう。
自分の頭皮が乾燥しているのか、脂っぽいのか、フケやかゆみがあるのかを把握し、それに合った成分のシャンプーを選びましょう。
意外と知らない?シャンプー前の「予洗い」の重要性
シャンプー剤をつける前に、ぬるま湯(38度前後が目安)で頭皮と髪をしっかりと洗い流すことを「予洗い(よあらい)」と言います。熱すぎるお湯は頭皮を乾燥させるため避けましょう。
実は、この予洗いだけで、髪についたホコリや汚れ、軽い皮脂汚れの多く(7割程度とも言われます)を落とすことができます。
予洗いをしっかり行うことで、シャンプーの泡立ちが格段に良くなり、少ない量のシャンプーで効率よく洗えます。これにより、シャンプー剤の使いすぎを防ぎ、頭皮への刺激を減らす効果も期待できます。
1〜2分程度かけて、指の腹で頭皮をマッサージするように丁寧にお湯を頭皮全体に行き渡らせましょう。
実践!正しいスカルプシャンプーの手順
頭皮を傷つけず、汚れをしっかり落とすための正しいシャンプー手順を確認しましょう。この手順を毎日実践することが、スカルプケアの土台となります。
- 泡立て: シャンプー剤を適量手に取り、手のひらで軽く泡立てます。水分を加えると泡立ちやすくなります。原液を直接頭皮につけると、その部分だけ刺激が強くなったり、すすぎ残しの原因になったりするため避けましょう。
- 頭皮を洗う: 泡立てたシャンプーを髪全体になじませたら、指の腹を使って頭皮をマッサージするように洗います。爪を立てると頭皮が傷つき、そこから雑菌が入って炎症の原因になるため絶対にやめましょう。特に、皮脂の多い生え際(Tゾーンの延長)、頭頂部(つむじ周り)、耳の後ろ、襟足は丁寧に洗います。
- 髪は泡で包む: 髪の毛自体は、ゴシゴシこする必要はありません。頭皮を洗った泡を髪全体に行き渡らせ、泡で包み込むように優しく洗うだけで十分です。髪をこすり合わせるとキューティクルが傷む原因になります。
- すすぎ: これが最も重要です。シャンプー剤やコンディショナーの成分が頭皮に残ると、かゆみやフケ、毛穴詰まり、ニオイの原因になります。洗う時にかけた時間の2倍以上の時間をかけるつもりで、ぬるま湯で徹底的にすすぎます。生え際、耳の後ろ、首筋などは特に残りやすいので、シャワーヘッドを地肌に近づけるようにして、洗い残しがないよう注意深くすすぎましょう。
シャンプー後の乾燥(ドライ)もスカルプケア
髪を洗った後、濡れたままタオルを巻いて放置したり、自然乾燥させていませんか?髪が濡れたままの頭皮は、湿度が高くなり雑菌が繁殖しやすい環境になります。これがかゆみやニオイの原因になることも。
また、濡れた髪はキューティクルが開いており、非常にデリケートで傷つきやすい状態です。枕などでこすれると、簡単にダメージを受けてしまいます。
シャンプー後は、まず清潔なタオルで頭皮の水分を優しく拭き取ります。ゴシゴシこすらず、タオルで頭皮を包み込むように押さえて吸水させます(タオルドライ)。
その後、できるだけ速やかにドライヤーを使って頭皮から乾かします。温風を頭皮や髪の一箇所に当てすぎると、熱ダメージや乾燥の原因になります。
ドライヤーを常に振りながら、頭皮から20cm程度離し、髪の根元に風を送るようにして全体的に乾かしましょう。
8割程度乾いたら、冷風に切り替えるとキューティクルが引き締まり、髪にツヤが出るとともに、頭皮の余計な乾燥を防げます。
シャンプー以外のスカルプケア習慣
頭皮マッサージで血行を促進
頭皮が硬くなっていると感じる場合、血行不良が起きている可能性があります。頭頂部は筋肉が少なく、もともと血行が悪くなりやすい部分です。
デスクワークでの長時間の同じ姿勢、目の疲れ、ストレスなども頭皮の緊張や血行不良を招きます。頭皮の血行が悪くなると、毛母細胞に十分な栄養が届かず、健康な髪が育ちにくくなります。
シャンプー中や、育毛剤をつけるタイミング、あるいはリラックスタイムなどに、頭皮マッサージを取り入れることをおすすめします。
指の腹を頭皮に密着させ、頭蓋骨から頭皮を動かすようなイメージで、円を描いたり、掴んで持ち上げたりします。爪を立てず、心地よいと感じる強さで行いましょう。毎日続けることが大切です。
簡単な頭皮マッサージのポイント
特別な道具がなくても、自分の手で簡単に行えます。リラックスして行いましょう。
- 側頭部(耳の上)
- 頭頂部(つむじ周り)
- 後頭部(首の付け根)
側頭部は、両手の指の腹でこめかみの辺りから耳の上を掴み、円を描くようにゆっくりと頭皮を動かします。眼精疲労にも効果が期待できます。
頭頂部は、両手で頭全体を包み込むようにし、指の腹で頭頂部に向かって引き上げるように圧をかけます。ゆっくりと圧をかけて離す、を繰り返します。
後頭部は、両手の親指を首の付け根のくぼみ(風池というツボのあたり)に当て、残りの指で後頭部全体を掴むようにしてマッサージします。首や肩のコリにもつながる部分です。
スカルプケア用育毛剤・トニックの活用
シャンプーで頭皮を清潔にし、マッサージで血行を良くした後は、育毛剤やヘアトニック(スカルプトニック)で頭皮に栄養を与え、保湿するのも有効なスカルプケアです。
育毛剤(医薬部外品)には、血行促進成分(センブリエキスなど)、毛母細胞の活性化成分(ビタミンE誘導体など)、抗炎症成分(グリチルリチン酸ジカリウムなど)、皮脂分泌抑制成分などが配合されており、抜け毛予防や発毛促進の効果が期待できます。
ヘアトニックは、主に頭皮を保湿し、フケやかゆみを抑え、清涼感を与えることを目的としたものです。保湿成分や抗炎症成分が含まれているものが多いです。
どちらも、タオルドライ後の清潔な頭皮に使用します。髪をかき分け、ノズルを直接頭皮につけ、気になる部分を中心に塗布します。
塗布したら、すぐにマッサージするのではなく、一度指の腹で頭皮全体に優しくなじませてから、軽くマッサージすると成分の浸透を助け、血行促進効果も高まります。
食生活の見直しも重要なスカルプケア
髪の毛は、私たちが食べたものから作られています。外側からのケアだけでなく、内側からのケア、すなわち食生活の見直しも非常に重要なスカルプケアです。
偏った食事、特に脂っこいものや糖分の多いものの摂りすぎは、皮脂の過剰分泌を招き、頭皮環境を悪化させます。健康な髪を育てるためには、バランスの取れた食事が大切です。
髪の成長に必要な栄養素
特に以下の栄養素は、健康な髪と頭皮のために意識して摂取したいものです。
| 栄養素 | 主な働き | 多く含む食品 |
|---|---|---|
| たんぱく質 | 髪の毛の主成分(ケラチン)の材料となる。 | 肉、魚、卵、大豆製品、乳製品 |
| 亜鉛 | たんぱく質が髪になる(ケラチンを合成する)のを助ける。 | 牡蠣、レバー、牛肉(赤身)、チーズ、ナッツ類 |
| ビタミンB群 | 頭皮の新陳代謝(ターンオーバー)を促す。皮脂分泌を調整する。 | 豚肉、レバー、マグロ、カツオ、納豆、卵、バナナ |
| ビタミンA・C・E | 血行促進、抗酸化作用(頭皮の老化防止)、コラーゲンの生成を助ける。 | 緑黄色野菜、果物、ナッツ類、植物油 |
睡眠とストレス管理 頭皮環境との関係
睡眠不足や過度なストレスは、自律神経やホルモンバランスを乱す大きな要因です。自律神経が乱れると、血管が収縮して頭皮の血行不良を引き起こしたり、逆に皮脂が過剰に分泌されたりします。
髪の毛は、私たちが寝ている間、特に成長ホルモンが多く分泌される時間帯(入眠後の深い睡眠時)に成長が促進されます。質の良い睡眠を十分にとることは、健やかな髪を育てるために必要です。
毎日決まった時間に寝る、寝る前のスマートフォン操作を控えるなど、睡眠の質を高める工夫をしましょう。
また、ストレスを感じると血管が収縮し、頭皮への血流が低下しがちです。ストレスは皮脂の過剰分泌にもつながります。
スポーツや趣味など、自分なりのリラックス方法を見つけ、ストレスを溜め込まないように心がけることも、広い意味でのスカルプケアと言えます。
スカルプケアのよくある誤解と注意点
「皮脂は悪」?取りすぎの落とし穴
男性の頭皮は皮脂が多い傾向にあるため、「皮脂はしっかり取り除かなければ」と考える人は多いでしょう。確かに、過剰な皮脂や酸化した皮脂は毛穴詰まりや炎症、ニオイの原因になります。
しかし、皮脂は頭皮を外部の刺激や乾燥から守る「天然の保湿クリーム」の役割(皮脂膜)も担っています。
洗浄力の強すぎるシャンプーで1日に何度も髪を洗ったり、ゴシゴシと強くこすりすぎたりして皮脂を取りすぎると、頭皮は「皮脂が足りない」と判断し、かえって皮脂を過剰に分泌しようとすることがあります(インナードライ)。
また、バリア機能が低下して乾燥し、外部からのわずかな刺激にも敏感に反応し、フケやかゆみを引き起こすことも。皮脂は「落としすぎず、適度に残す」ことが大切です。
洗浄力がマイルドなアミノ酸系シャンプーなどを選び、洗いすぎないよう注意しましょう。
スカルプシャンプーは毎日使うべきか
スカルプシャンプーの多くは、頭皮環境を整えるためにマイルドな洗浄力で設計されているため、基本的には毎日使用しても問題ありません。
特に、皮脂分泌が多い人や、汗をかきやすい夏場、整髪料を毎日使う人は、その日の汚れをその日のうちにリセットするために毎日シャンプーすることが推奨されます。
ただし、頭皮が非常に乾燥している人や、あまり汗をかかない冬場などは、1日おきにするなど、自分の頭皮の状態に合わせて頻度を調整するのも一つの方法です。
毎日洗わないとかゆみが出る、ベタつくという人は毎日洗い、そうでなければ様子を見る、といったように、大切なのは自分の頭皮の状態を観察し、それに合わせることです。
自然乾燥は頭皮に優しい?
前述の通り、自然乾燥はスカルプケアの観点からは推奨されません。濡れた頭皮は雑菌が繁殖しやすく、ニオイやフケ、かゆみの原因になります。
また、髪が濡れている時間が長いと、気化熱で頭皮が冷え、血行不良につながる可能性も指摘されています。
シャンプー後は、タオルドライでしっかり水分を取った後、速やかにドライヤーで頭皮を中心に乾かす習慣をつけましょう。
「ドライヤーは熱で髪を傷める」と心配する人もいますが、一箇所に当てすぎず、正しく使えば、自然乾燥よりもずっと頭皮と髪の健康にとって良い結果をもたらします。
スカルプケアとAGA(男性型脱毛症)の関係
スカルプケアは、頭皮環境を整え、健康な髪が育つ土台を作るためのものです。毛穴の汚れを取り除き、血行を促進することで、抜け毛の予防や髪のハリ・コシ改善には役立ちます。これは事実です。
しかし、AGA(男性型脱毛症)は、男性ホルモンの一種であるDHT(ジヒドロテストステロン)が、毛乳頭細胞にある受容体と結びつき、ヘアサイクルを乱す(成長期を短くする)ことが主な原因で進行する脱毛症です。
したがって、スカルプケアだけでAGAの根本原因であるDHTの働きを抑え、進行を完全に止めることは難しいとされています。
AGAが疑われる場合(生え際の後退や頭頂部の薄毛がパターンを持って進行する場合など)は、日々のスカルプケアと並行して、AGA治療を専門とするクリニックに相談し、適切な治療(内服薬や外用薬など)を受けることを検討しましょう。
スカルプケアはあくまで「土壌を整える」ケアであり、AGAという「病気」への対処とは分けて考える必要があります。
スカルプケアで健やかな頭皮と髪を目指そう
継続は力なり スカルプケアの習慣化
スカルプケアは、薬のようにすぐに劇的な変化をもたらすものではありません。
髪の毛は1ヶ月に約1cmしか伸びず、ヘアサイクル(毛周期)は数年にわたるため、頭皮環境が改善し、それが新しく生えてくる髪の質に反映されるまでには時間がかかります。
最低でも3ヶ月から6ヶ月は、根気よく続けることが重要です。大切なのは、正しいシャンプー方法や頭皮マッサージ、育毛剤の使用、そしてバランスの取れた食生活や十分な睡眠といった生活習慣の見直しを「継続する」ことです。
今日から始めたケアが、数ヶ月後、1年後の髪と頭皮を作ります。毎日の歯磨きのように、スカルプケアを生活の一部として習慣化することを目指しましょう。
頭皮トラブルが改善しない場合の対処法
セルフケアを続けていても、フケやかゆみが止まらない、頭皮の赤みが引かない、ただれや湿疹ができた、抜け毛が減らないといった場合、単なる頭皮環境の悪化ではなく、脂漏性皮膚炎や接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、あるいはAGAなど、医療的な対処が必要な状態かもしれません。
自己判断でケアを続けることで、かえって症状を悪化させてしまう可能性もあります。
症状が続く、あるいは悪化するようであれば、我慢せずに早めに皮膚科やAGA専門クリニックを受診し、専門医の診断を仰ぎましょう。
適切な診断と治療を受けることが、健康な頭皮を取り戻す一番の近道です。
スカルプケアと育毛剤の相乗効果
正しいスカルプケアで頭皮環境を整えることは、育毛剤の効果を最大限に引き出すためにも非常に重要です。
いくら高価な育毛剤を使用しても、毛穴が皮脂や古い角質で詰まっていては、有効成分が毛根の奥まで浸透しにくくなります。また、頭皮が炎症を起こしていては、育毛どころではありません。
まず、スカルプシャンプーで頭皮を清潔にし、マッサージで血行を良くして「土壌」を整える。その上で、育毛剤で「栄養」を与える。この両輪でケアを行うことで、より効果的なアプローチが期待できます。
スカルプケアと育毛剤の役割
それぞれの役割を理解し、組み合わせて使用することで、健やかな髪の育成を目指しましょう。
| 項目 | スカルプシャンプー・マッサージ | 育毛剤(医薬部外品) |
|---|---|---|
| 主な役割 | 頭皮の洗浄、毛穴詰まりの除去、血行促進(土壌整備) | 有効成分の浸透、発毛促進、抜け毛予防、毛母細胞の活性化(栄養補給) |
| 期待できること | フケ・かゆみの軽減、ニオイの抑制、頭皮環境の正常化 | 髪のハリ・コシUP、抜け毛の減少、健やかな髪の育成サポート |
| 組み合わせ | 清潔な頭皮に育毛剤を使用することで浸透力UP。頭皮環境が整うことで育毛剤の効果が出やすい環境になる。 | |
まとめ 髪の土台「スカルプ」を大切にしよう
「スカルプ」とは「頭皮」のことであり、健康な髪を育てるための土台です。私たちが日々立っている地面がしっかりしていなければ家が傾くように、頭皮が不健康では健やかな髪は育ちません。
髪の毛そのものに注目しがちですが、その髪を生み出しているのは、間違いなく頭皮(スカルプ)なのです。
「スカルプケア」とは、その土台である頭皮を清潔に保ち、血行を良くし、必要な潤いと栄養を与えるためのお手入れです。
正しいシャンプー方法の実践、頭皮マッサージ、そしてバランスの取れた食事や十分な睡眠といった生活習慣。これら日々の積み重ねが、あなたの頭皮を健やかに保ち、未来の髪を守ることにつながります。
薄毛や抜け毛が気になり始めた方はもちろん、まだ気になっていない方も、予防の観点から、まずは今夜のシャンプーから「頭皮(スカルプ)」を意識したケアを始めてみてはいかがでしょうか。
よくある質問
- スカルプケアは何歳から始めるべきですか?
-
スカルプケアに「早すぎる」ということはありません。頭皮環境は、年齢に関わらず、ストレスや生活習慣、ホルモンバランス、遺伝的要因によって乱れることがあります。
薄毛や抜け毛が気になり始めてから慌ててケアを始めるよりも、気にならないうちから、予防的な観点で頭皮を健康に保つ習慣をつけておくことが理想です。
例えば、皮脂分泌が活発になる思春期以降、20代からでも、正しいシャンプー方法を実践し、頭皮環境を意識することは、将来の髪のためにとても有益です。
- スカルプシャンプーを使うと髪がきしむ気がします
-
スカルプシャンプーの中には、頭皮のさっぱり感を重視したり、髪の毛のコーティング剤(シリコンなど)を配合していなかったりするため、洗い上がりの髪がきしむように感じられる製品もあります。
これは、髪の毛の汚れや余分な皮脂がしっかり落ちている証拠でもあります。
きしみが気になる場合は、シャンプー後にコンディショナーやトリートメントを使用しましょう。
その際、コンディショナー類は頭皮の毛穴詰まりの原因にならないよう、頭皮に直接つかないよう注意し、髪の毛の中間から毛先を中心になじませ、すすぎをしっかり行うことが大切です。
- 頭皮マッサージは1日にどれくらい行えば良いですか?
-
頭皮マッサージは、長時間行うよりも、毎日短時間でも継続することが重要です。
例えば、シャンプーの際に1〜2分程度、あるいは育毛剤を塗布した後に1分程度、頭皮全体を優しく動かすだけでも十分です。
1日に合計3〜5分程度を目安に、心地よいと感じる強さ(「痛気持ちいい」程度)で行いましょう。
強くやりすぎたり、爪を立てたりすると、かえって頭皮を傷つけたり、炎症を引き起こしたりする原因になるため注意してください。
- 食事以外で、日常生活で気をつけるべきスカルプケアはありますか?
-
睡眠とストレス管理に加えて、適度な運動も重要です。運動不足は全身の血行不良につながり、当然ながら頭皮への血流も低下させます。
ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を習慣にすることで、血行が促進され、頭皮に栄養が届きやすくなります。また、喫煙は血管を収縮させ、血行を悪化させる大きな要因の一つです。
髪の毛は毛細血管から栄養を受け取っているため、喫煙は髪の成長に悪影響を与えます。頭皮の健康、ひいては髪の健康を考えるならば、禁煙を検討することも大切です。
加えて、紫外線は頭皮の乾燥や炎症、老化の原因となります。屋外で長時間過ごす際は、帽子や日傘で頭皮を守ることも、日中のスカルプケアとして有効です。
Reference
SOGA, Shigeyoshi, et al. MR imaging of hair and scalp for the evaluation of androgenetic alopecia. Magnetic Resonance in Medical Sciences, 2021, 20.2: 160-165.
WOLFF, Hans; FISCHER, Tobias W.; BLUME-PEYTAVI, Ulrike. The diagnosis and treatment of hair and scalp diseases. Deutsches Ärzteblatt International, 2016, 113.21: 377.
KIBAR, Melike; AKTAN, Şebnem; BILGIN, Muzaffer. Scalp dermatoscopic findings in androgenetic alopecia and their relations with disease severity. Annals of dermatology, 2014, 26.4: 478.
LIU, Yingzi, et al. Androgenetic alopecia. Nature Reviews Disease Primers, 2025, 11.1: 73.
SINCLAIR, Rodney, et al. Hair loss in women: medical and cosmetic approaches to increase scalp hair fullness. British Journal of Dermatology, 2011, 165.s3: 12-18.
CHANPRAPAPH, Kumutnart; SUTHARAPHAN, Thanapon; SUCHONWANIT, Poonkiat. Scalp biophysical characteristics in males with androgenetic alopecia: a comparative study with healthy controls. Clinical Interventions in Aging, 2021, 781-787.
CASH. The psychosocial consequences of androgenetic alopecia: a review of the research literature. British Journal of Dermatology, 1999, 141.3: 398-405.
TRÜEB, Ralph M. Is androgenetic alopecia a photoaggravated dermatosis?. Dermatology, 2003, 207.4: 343-348.
O’GOSHI, Ken-ichiro; IGUCHI, Makiko; TAGAMI, Hachiro. Functional analysis of the stratum corneum of scalp skin: studies in patients with alopecia areata and androgenetic alopecia. Archives of dermatological research, 2000, 292.12: 605-611.
VAN NESTE, D., et al. Validation of scalp coverage scoring methods for scalp hair loss in male pattern hair loss (androgenetic alopecia). Skin Research and Technology, 2006, 12.2: 89-93.

