ふと枕元や排水溝にたまった抜け毛を見て、その「根元」の状態に不安を感じていませんか。
「根元に白い塊がついている」「なんだか毛根が細く弱々しい」…こうした変化は、頭皮環境の悪化や、もしかするとAGA(男性型脱毛症)の始まりを示しているかもしれません。
この記事では、抜け毛の根元の状態から分かる頭皮の健康状態、特に「白い塊」の正体や「細い毛根」が意味すること、そしてAGAとの関連性について詳しく解説します。
ご自身の抜け毛の状態を正しく理解し、適切なケアを始めるきっかけにしてください。早期の対策が、未来の髪を守る鍵となります。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
まずは確認!抜け毛の根元セルフチェック方法
抜け毛の状態を不安に思うなら、まずは落ちた髪の毛を手に取り、その根元(毛根)をじっくりと観察することから始めましょう。
専門的な機器がなくても、肉眼やスマートフォンのカメラ機能(拡大)を使えば、多くの情報が得られます。正しくチェックすることで、現在の頭皮環境や髪の健康状態を把握する手がかりになります。
準備するものとチェックの手順
セルフチェックはとても簡単です。まず、自然に抜け落ちた髪の毛を数本用意します。ブラッシング時やシャンプー時に抜けた毛髪が分かりやすいでしょう。
次に、白い紙やティッシュペーパーの上にその髪の毛を置きます。背景が白いと、毛根の色や形状、付着物が見やすくなります。
もし見えにくい場合は、虫眼鏡やスマートフォンのズーム機能を使って拡大して観察します。
このとき、毛先側ではなく、根元側、つまり少し膨らんでいるか、何かが付着している方を重点的に見てください。
抜け毛の「毛根」に注目する
チェックするポイントは「毛根の形状」と「毛根への付着物」です。毛根は髪の毛の根本にある部分で、正常な状態であれば少し膨らみを持っています。
この毛根がどのような形をしているか(丸いか、細く尖っているか)、色はどうか(白いか、黒いか)、そして何か付着物があるか(透明か、白い塊か)を詳細に観察します。
この小さな部分に、頭皮やヘアサイクルの状態が反映されています。
正常な抜け毛の根元の特徴
健康な頭皮から、ヘアサイクルの「退行期」や「休止期」を経て自然に抜け落ちた髪の毛の毛根は、特定の特徴を持っています。まず、毛根の先端は丸く膨らんでいるか、こん棒のような形をしています。
これは毛根が頭皮の奥にある毛乳頭から離れる際に形成されるものです。色は白っぽいか、やや透明な場合が多いです。
また、毛根の周囲に、半透明でゼリー状の「毛根鞘(もうこんしょう)」という組織がわずかに付着していることがありますが、これは正常な証拠です。
髪の毛自体もしっかりとした太さを持っているはずです。
正常な毛根の状態
| チェック項目 | 状態 | 意味すること |
|---|---|---|
| 毛根の形状 | 丸く膨らんでいる(こん棒状) | 正常なヘアサイクル(休止期)で抜けた証拠 |
| 毛根の色 | 白っぽい・やや透明 | メラニン色素の活動が停止した状態 |
| 付着物 | 半透明のゼリー状(毛根鞘) | 髪と頭皮を繋いでいた正常な組織 |
異常な抜け毛の根元のサイン
一方で、注意が必要な「異常な抜け毛」のサインもあります。例えば、毛根の膨らみがほとんどなく、細く尖っている場合。これは、髪の毛が十分に成長する前に抜けてしまった可能性を示します。
また、毛根部分にベタついた大きな白い塊(皮脂)が付着している場合は、頭皮の皮脂分泌が過剰であるか、洗浄が不十分であるサインです。
さらに、毛根自体が見当たらず、黒い点だけになっている場合や、毛根が歪んだ形をしている場合も、頭皮環境やヘアサイクルに何らかの問題が起きている可能性を疑う必要があります。
これらのサインを見つけたら、次の章で解説する原因をさらに深く探っていきましょう。
抜け毛の根元にある「白い塊」の正体とは?
抜け毛の根元をチェックした際、最も多くの方が気にするのが「白い塊」の存在でしょう。「抜け毛の根元に白いものがついている」と不安になるかもしれませんが、その正体は一つではありません。
心配なものと、そうでないものを見分けることが大切です。ここでは、その白い塊が何である可能性が高いのかを解説します。
白い塊の多くは「皮脂」や「角質」
抜け毛の根元に付着している白い塊の最も一般的な正体は、毛穴に詰まっていた「皮脂」や、古くなった「角質」が混ざり合ったものです。これは「角栓(かくせん)」とも呼ばれます。
特に、その塊がベタベタしていたり、脂っぽい臭いがしたりする場合は、皮脂由来である可能性が高いです。
頭皮の皮脂分泌が過剰になると、シャンプーで落としきれなかった皮脂が毛穴に蓄積し、抜け毛と同時に毛穴からごっそりと取れることがあります。
これは頭皮環境が乱れているサインであり、放置すると炎症やさらなる抜け毛の原因にもなり得ます。
皮脂詰まりが引き起こす頭皮トラブル
皮脂が毛穴に詰まる状態が続くと、頭皮の常在菌であるマラセチア菌などが皮脂をエサにして異常増殖し、炎症を引き起こすことがあります。
これが「脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)」と呼ばれる状態です。脂漏性皮膚炎になると、フケやかゆみが増えるだけでなく、炎症によって毛根がダメージを受け、健康な髪の成長が妨げられてしまいます。
結果として、抜け毛が増加する可能性があります。抜け毛の根元に皮脂の塊が付着しているということは、すでに頭皮が悲鳴を上げている状態かもしれません。
白くても心配ない「毛根鞘(もうこんしょう)」
一方で、抜け毛の根元についている白いものが、すべて悪いものとは限りません。心配のいらない白い塊として「毛根鞘(もうこんしょう)」があります。
毛根鞘は、髪の毛(毛幹)と毛穴(毛包)をつなぎとめている内側の組織の一部です。正常なヘアサイクル(休止期)で髪の毛が抜ける際、この毛根鞘の一部が毛根に付着して一緒に抜けることがあります。
毛根鞘は、皮脂の塊と違ってベタつきがなく、半透明でプルプルとしたゼリー状に見えるのが特徴です。これが付着している抜け毛は、むしろ健康な状態で寿命を全うした髪の毛である証拠とも言えます。
皮脂詰まりと毛根鞘の見分け方
| 特徴 | 皮脂の塊(角栓) | 毛根鞘(もうこんしょう) |
|---|---|---|
| 見た目 | 白く濁っている、不透明 | 半透明、ゼリー状 |
| 感触 | ベタベタ、ネトネトしている | プルプルしている、ベタつきは少ない |
| 状態 | 頭皮環境の悪化を示唆 | 正常な抜け毛の一部 |
皮脂以外の白い付着物の可能性
多くは皮脂か毛根鞘ですが、まれに他の原因も考えられます。例えば、乾燥した大きなフケが毛根に絡みついている場合です。これは頭皮の乾燥が進んでいるサインです。
また、シャンプーやトリートメント、スタイリング剤のすすぎ残しが固まって付着しているケースもあります。これらも頭皮環境を悪化させる要因となるため、皮脂詰まりと同様に注意が必要です。
いずれにせよ、毛根鞘以外の白い付着物が多い場合は、現在のヘアケア方法や生活習慣を見直す必要があるでしょう。
抜け毛の根元が細い・黒い点になっている場合
白い塊だけでなく、「毛根の形状」も非常に重要なチェックポイントです。
「抜け毛の根元が細い」「毛根がほとんどない」といった状態は、髪の毛が健康に育っていない可能性を示しており、白い塊以上に深刻なサインである場合があります。
ここでは、細い毛根や黒い点が何を意味するのかを解説します。
毛根が細く尖っている(萎縮している)
正常な抜け毛は毛根が丸く膨らんでいますが、毛根全体が細く尖っていたり、まるで鉛筆の先のように細くなっている場合があります。これは、毛根が「萎縮(いしゅく)」している状態です。
髪の毛は、毛乳頭から栄養を受け取って成長しますが、何らかの原因で栄養が十分に行き渡らなくなると、毛根が小さく萎縮し、髪の毛自体も細くなります。
そして、本来の寿命を待たずに、成長途中の未熟なまま抜け落ちてしまうのです。これはヘアサイクルが短縮していることを示しており、薄毛の進行が疑われる状態です。
毛根が見当たらない・黒い点のみ
さらに深刻な状態として、毛根の膨らみが全く見当たらず、抜け毛の根元が単なる黒い点や、ちぎれたように見える場合があります。
これは、毛根が極度に萎縮しているか、あるいは毛根が形成される前の非常に未熟な段階で抜けてしまった可能性を示します。
また、黒い点に見えるのは、毛根部分に残ったメラニン色素である場合があります。
このような抜け毛は、毛根に深刻なダメージが加わっているか、AGA(男性型脱毛症)が進行している際に見られる特徴的なサインの一つです。
髪の毛が「抜けた」というより「途中で切れた・力尽きた」という状態に近いかもしれません。
これらはヘアサイクルの乱れを示唆
毛根が細く尖っていたり、黒い点になっていたりする状態は、正常な「ヘアサイクル(毛周期)」が乱れていることを強く示唆しています。
髪の毛には「成長期(髪が太く長く育つ期間)」「退行期(成長が止まる期間)」「休止期(髪が抜け落ちる期間)」があります。
健康な状態では、ほとんどの髪が数年続く成長期にありますが、ヘアサイクルが乱れると、この成長期が極端に短くなります。
その結果、髪の毛は十分に太く長く育つことができず、細く短い「うぶ毛」のような状態で抜け落ちてしまいます。細い毛根は、まさにこの「成長期の短縮」の表れなのです。
栄養不足と毛根の細さの関係
毛根が細くなる原因の一つに、単純な栄養不足も挙げられます。髪の毛は、私たちが食べたものから作られる血液を通じて栄養を受け取っています。
過度なダイエットや偏った食生活、不規則な食事は、髪の成長に必要な栄養素(特にタンパク質、亜鉛、ビタミンなど)の不足を招きます。
栄養が足りなければ、髪の毛を作り出す毛母細胞の活動が鈍くなり、結果として細く弱い髪しか作れなくなります。
この場合、毛根も当然のように細く、弱々しくなります。頭皮の血行不良も、栄養を毛根に届ける妨げとなるため、同様に毛根を細くする原因となります。
白い塊や細い毛根とAGA(男性型脱毛症)の関係性
抜け毛の根元に「白い塊」があったり、「毛根が細い」かったりすると、多くの方が「もしかしてAGA(男性型脱毛症)ではないか?」と心配になります。
AGAは進行性の脱毛症であり、早期の認識が重要です。ここでは、これらの抜け毛の状態とAGAとの関連性について詳しく見ていきます。
AGAとは何か?
AGA(Androgenetic Alopecia)は、一般的に「男性型脱毛症」と呼ばれるもので、成人男性に最も多く見られる脱毛症のタイプです。
思春期以降に発症し、生え際が後退したり、頭頂部が薄くなったりするのが特徴です。
AGAの主な原因は、男性ホルモンの一種である「テストステロン」が、頭皮に存在する「5αリダクターゼ」という酵素によって「ジヒドロテストステロン(DHT)」に変換されることです。
このDHTが毛根の受容体と結合すると、髪の成長期を短縮させる信号が出され、髪の毛が太く長く育つ前に抜け落ちてしまいます。この傾向は遺伝的な要因も大きいと考えられています。
AGAの抜け毛に見られる特徴的なサイン
AGAが進行すると、ヘアサイクルの「成長期」が数ヶ月から1年程度にまで短縮されます(正常では2年~6年)。そのため、AGAによる抜け毛には、前述した「異常な抜け毛」のサインが顕著に現れます。
具体的には、毛根が萎縮して細く尖っている、あるいは毛根自体がほとんど確認できない状態です。
また、髪の毛自体も、太く硬い「硬毛」ではなく、細く柔らかい「軟毛(うぶ毛)」の状態で抜ける割合が非常に高くなります。
AGAを疑う場合は、抜け毛の根元の状態と同時に、髪の毛全体の太さや長さを確認することが重要です。
AGAが疑われる抜け毛の特徴
- 毛根が細く尖っている、またはほぼ無い
- 髪の毛自体が細く、短い(うぶ毛のよう)
- 抜け毛の中に、細い毛と太い毛が混在している
「白い塊=即AGA」ではない
ここで重要なのは、「抜け毛の根元に白い塊(皮脂)があるからといって、それが直ちにAGAを意味するわけではない」という点です。
前述の通り、白い塊の多くは皮脂詰まりであり、これはAGAとは直接関係のない「脂漏性皮膚炎」や、単純な頭皮環境の悪化(洗浄不足や皮脂の過剰分泌)が原因であることも多いのです。
もちろん、頭皮環境が悪い状態が続けば、AGAの進行を助長する可能性はありますが、皮脂詰まりそのものがAGAの直接的な原因ではありません。
したがって、白い塊がある場合はまず頭皮環境の改善(ヘアケアの見直し)を優先すべきです。
AGAは毛根の「細さ」と「短さ」に注意
AGAを判断する上で、「白い塊」の有無よりもはるかに重要な指標は、「毛根の細さ(萎縮)」と「髪の毛自体の細さ・短さ(軟毛化)」です。
もし、抜け毛の根元に白い塊が付着して「かつ」、その毛根が細く尖っているのであれば、それは「頭皮環境の悪化(皮脂過剰)」と「AGA(ヘアサイクルの短縮)」が同時に起こっている可能性を示唆します。
AGAの最大の特徴は、髪が育ち切る前に抜けてしまうことです。
根元に白い塊があるかどうかに関わらず、細く短い抜け毛が目立つようになった場合は、AGAの可能性を視野に入れ、専門のクリニックなどに相談することを検討する方が賢明かもしれません。
抜け毛の根元の状態が悪化する主な原因
抜け毛の根元に皮脂が詰まったり、毛根が細く萎縮したりする背景には、AGA以外にも様々な日常生活に潜む原因があります。
これらは頭皮環境を直接的に悪化させ、健康な髪の成長を妨げます。思い当たる節がないか、ご自身の生活を見直してみましょう。
頭皮環境の悪化(皮脂の過剰分泌)
毛根に白い塊(皮脂)が付着する直接的な原因は、皮脂の過剰分泌です。皮脂の分泌量は、体質だけでなく、食生活やホルモンバランスによっても大きく変動します。
脂っこい食事や糖質の多い食事を好む人は、皮脂の分泌が促進されやすい傾向にあります。
また、シャンプーの洗浄力が強すぎると、頭皮を守るために必要な皮脂まで奪ってしまい、かえって頭皮が乾燥を防ごうと皮脂を過剰に分泌する「インナードライ」状態を招くこともあります。
逆に、洗浄不足や不十分なすすぎも、皮脂や汚れを毛穴に残す原因となります。
生活習慣の乱れと栄養不足
髪の毛は「血余(けつよ)」とも呼ばれ、血液から栄養を受け取って成長します。生活習慣の乱れは、この栄養供給に深刻な影響を与えます。
特に、睡眠不足は髪の成長を促す「成長ホルモン」の分泌を妨げます。成長ホルモンは、毛母細胞の分裂を活発にし、髪を太く育てるために重要な役割を果たします。
また、偏った食事による栄養不足、特に髪の主成分であるタンパク質や、その合成を助ける亜鉛、血行を促進するビタミンEなどが不足すると、毛根は細く弱々しくなります。
喫煙も血管を収縮させ、頭皮への血流を悪化させる大きな要因です。
頭皮環境に影響を与える生活習慣
| 要因 | 髪への影響 | 対策の方向性 |
|---|---|---|
| 食生活の偏り | 栄養不足による毛髪の細り、皮脂分泌の増加 | バランスの良い食事(タンパク質・ビタミン・亜鉛) |
| 睡眠不足 | 成長ホルモンの分泌低下、細胞修復の遅れ | 質の良い睡眠を6~7時間以上確保 |
| 喫煙 | 血管収縮による血行不良、栄養供給の阻害 | 禁煙、または本数を減らす努力 |
ストレスによる血行不良
精神的なストレスも、抜け毛の根元に悪影響を与える見逃せない原因です。強いストレスを感じると、自律神経のうち「交感神経」が優位になります。
交感神経は血管を収縮させる働きがあるため、全身の血流が悪化します。特に頭皮は末端の毛細血管が多いため、血行不良の影響を受けやすく、毛根に十分な酸素や栄養が届きにくくなります。
その結果、毛母細胞の活動が低下し、毛根が萎縮したり、成長期の髪が抜けてしまったり(休止期脱毛)することがあります。
ストレスはまた、ホルモンバランスを乱し、皮脂の過剰分泌を招くこともあります。
誤ったヘアケア
良かれと思って行っている日々のヘアケアが、逆に頭皮を傷つけ、抜け毛の根元の状態を悪化させているケースも少なくありません。
例えば、かゆみやベタつきが気になるからと、一日に何度もシャンプーをしたり、爪を立ててゴシゴシと強く洗ったりする行為です。これらは頭皮を傷つけ、必要な皮脂まで取りすぎて乾燥や炎症を招きます。
また、熱すぎるお湯でのすすぎも頭皮の乾燥を促進します。シャンプーやトリートメントのすすぎ残しは、毛穴を詰まらせる原因のトップクラスです。
ドライヤーの熱風を長時間同じ場所に当て続けることも、頭皮や髪の毛のタンパク質を変性させ、ダメージを与える可能性があります。
今日から始めたい!抜け毛の根元を守る頭皮ケア
抜け毛の根元の状態が良くないと感じたら、それは頭皮環境が乱れているサインです。専門的な治療を考える前に、まずは日々の生活習慣やヘアケアを見直すことで改善できる点がたくさんあります。
ここでは、今日からすぐに実践できる、頭皮環境を整えるための基本的なケア方法を紹介します。
正しいシャンプー方法の見直し
頭皮ケアの基本は、毎日のシャンプーです。目的は「髪を洗う」ことよりも「頭皮の余分な皮脂や汚れを適切に落とす」ことです。まず、シャンプー前にお湯だけで頭皮と髪をしっかりと予洗いします。
これだけで汚れの7割程度は落ちると言われています。シャンプー剤は手のひらでよく泡立ててから、髪ではなく頭皮につけ、指の腹を使ってマッサージするように優しく洗います。
爪を立ててゴシゴシ洗うのは厳禁です。洗い終わったら、すすぎ残しがないように、洗った時間の倍以上の時間をかけて丁寧に洗い流します。
特に生え際や耳の後ろは残りやすいので注意しましょう。
頭皮ケアのためのシャンプー手順
- ぬるま湯(38度程度)でしっかり予洗いする
- シャンプーは手のひらで泡立ててから頭皮につける
- 指の腹を使い、頭皮をマッサージするように洗う
- すすぎは「もういいかな」と思ってから、さらに1分続ける
頭皮の保湿とマッサージ
洗顔後に化粧水をつけるのと同じように、シャンプー後の頭皮も保湿が必要です。
特に乾燥が気になる場合や、洗浄力がやや強めのシャンプーを使った後は、頭皮専用のローションや保湿剤を使用してうるおいを補給しましょう。
頭皮が潤うことで、過剰な皮脂分泌を抑える効果も期待できます。また、頭皮マッサージも血行促進に有効です。
シャンプー中や、保湿剤をつけた後などに、指の腹で頭皮全体を優しく動かすようにマッサージします。強く押しすぎず、気持ち良いと感じる程度の圧で行うのがポイントです。
これにより、毛根への栄養供給をサポートします。
食生活の改善で内側からケア
健康な髪は、健康な体から作られます。特に食生活は髪の状態に直結します。
髪の主成分である「タンパク質」(肉、魚、卵、大豆製品)をしっかり摂ることを基本に、そのタンパク質の合成を助ける「亜鉛」(牡蠣、レバー、ナッツ類)、頭皮の血行を良くする「ビタミンE」(アーモンド、アボカド)、新陳代謝を促す「ビタミンB群」(豚肉、マグロ、バナナ)などをバランス良く摂取することが大切です。
逆に、脂質の多いジャンクフードや糖分の多いお菓子、刺激物などは、皮脂の過剰分泌につながるため、控えるように心がけましょう。
髪の成長をサポートする栄養素
| 栄養素 | 主な役割 | 多く含む食品例 |
|---|---|---|
| タンパク質 | 髪の毛の主成分(ケラチン) | 肉、魚、卵、大豆製品 |
| 亜鉛 | タンパク質の合成を助ける | 牡蠣、レバー、牛肉(赤身) |
| ビタミンB群 | 頭皮の新陳代謝、皮脂分泌の調整 | 豚肉、うなぎ、マグロ、納豆 |
質の良い睡眠の確保
髪の毛は、私たちが寝ている間に最も成長します。特に、入眠後に深く訪れるノンレム睡眠中に「成長ホルモン」が大量に分泌されます。
この成長ホルモンが、毛母細胞の分裂を促し、髪のダメージを修復し、太く健康な髪を育てます。
睡眠時間が不足したり、睡眠の質が低かったりすると、成長ホルモンの分泌が減少し、髪の成長が妨げられ、抜け毛や細毛の原因となります。
毎日最低でも6時間から7時間程度の質の良い睡眠を確保するよう努めましょう。就寝前のスマートフォン操作は睡眠の質を下げるため、控えることを推奨します。
育毛剤は抜け毛対策の選択肢になる?
セルフケアと並行して、多くの方が検討するのが「育毛剤」の使用です。抜け毛の根元の状態が気になる今、育毛剤は有効な対策の一つとなり得るのでしょうか。
育毛剤の役割や、どのような場合に適しているのかを正しく理解しましょう。
育毛剤の役割と目的
育毛剤の主な役割は、「今ある髪の毛を健康に育てる」こと、そして「抜け毛を予防する」ことです。
医薬品医療機器等法(旧薬事法)において、育毛剤(医薬部外品)は「脱毛の防止、育毛、発毛促進」といった効果が認められています。
具体的には、頭皮の血行を促進したり、毛母細胞に栄養を与えたり、頭皮の炎症を抑えたり、皮脂の過剰分泌をコントロールしたりすることで、頭皮環境を整えます。
これにより、髪の毛が抜けにくい、太く長く育ちやすい環境をサポートするのが育毛剤の目的です。
AGA治療薬のように、ヘアサイクルを直接的に(例えばDHTの生成を抑制して)改善するものではありません。
育毛剤が向いている人の特徴
育毛剤の使用が特に推奨されるのは、どのような人でしょうか。
まず、「抜け毛の根元に皮脂の塊(白い塊)が付着している人」や「フケやかゆみがある人」など、頭皮環境の悪化が抜け毛の原因と考えられる場合です。
育毛剤に含まれる抗炎症成分や皮脂コントロール成分が、これらの問題の改善を助けます。
また、「最近、髪のハリやコシがなくなってきたと感じる人」や「生活習慣の乱れやストレスで抜け毛が増えたと感じる人」にも適しています。血行促進成分や栄養補給成分が、弱った毛根をサポートします。
AGAが進行して毛根がすでに活動を終えてしまった箇所に髪を生やす(発毛)効果は期待できませんが、予防や現状維持、頭皮環境改善の第一歩として有効です。
育毛剤・発毛剤・AGA治療薬の違い
| 分類 | 主な目的 | 該当する例 |
|---|---|---|
| 育毛剤(医薬部外品) | 抜け毛予防、育毛(今ある髪を育てる) | 頭皮環境の悪化、髪のハリ・コシ低下 |
| 発毛剤(第1類医薬品) | 発毛(新しい髪を生やす)、脱毛の進行予防 | 壮年性脱毛症(AGA)の初期~中期 |
| AGA治療薬(医療用医薬品) | AGAの進行抑制、発毛 | 医師にAGAと診断された場合 |
頭皮環境を整え、髪を育むサポート
抜け毛の根元の状態をチェックし、もし皮脂詰まりや乾燥、血行不良のサインが見られたなら、育毛剤は頭皮環境を整えるための強力なサポーターとなります。
例えば、正しいシャンプーで毛穴の汚れをリセットした後に育毛剤を使用することで、有効成分が頭皮の角質層まで浸透しやすくなります。
育毛剤による保湿や血行促進は、セルフケアだけでは届きにくい部分を補い、髪が健やかに育つための「土壌」を整える手助けをします。
抜け毛のサインに気づいた「今」だからこそ、頭皮環境の改善を目指す育毛剤の使用を検討する価値は十分にあると言えるでしょう。
育毛剤選びで注目したいポイント
育毛剤と一口に言っても、様々な製品があります。選ぶ際には、ご自身の頭皮の状態に合った成分が含まれているかを確認しましょう。
例えば、抜け毛の根元に皮脂(白い塊)が多い人は、皮脂の分泌を抑える成分(ビタミンC誘導体など)や抗炎症成分(グリチルリチン酸2Kなど)が入ったものが適しています。
頭皮が乾燥しがちな人は、保湿成分(セラミド、ヒアルロン酸など)が豊富なものを選びます。
また、毛根が細いと感じる人は、血行促進成分(センブリエキス、ビタミンE誘導体など)や毛母細胞の活性化をサポートする成分に注目すると良いでしょう。
毎日使い続けるものなので、香りやテクスチャー(使用感)が自分に合うかどうかも大切なポイントです。
よくある質問
最後に、抜け毛の根元や白い塊、AGAに関して多くの方が抱く疑問について、Q&A形式でお答えします。
- 抜け毛の根元の白い塊は取った方がよいですか?
-
無理に取る必要はありませんし、取ろうとして頭皮を傷つけるのは逆効果です。
白い塊が皮脂(角栓)である場合、それは日々のシャンプーで適切に頭皮を洗浄できていないか、皮脂分泌が過剰になっているサインです。
無理に除去するよりも、正しいシャンプー方法を実践し、頭皮環境を整えることで、自然と毛穴の詰まりは改善していきます。
もし白い塊が毛根鞘であれば、それは正常な抜け毛の一部なので、全く気にする必要はありません。
- 抜け毛の根元が赤いのですが?
-
抜け毛の根元(毛根)が赤みを帯びていたり、血がにじんでいたりする場合は、頭皮が炎症を起こしている可能性が高いです。
シャンプーの際に爪を立てて強く洗いすぎたり、アレルギーや脂漏性皮膚炎などで頭皮が炎症を起こしていたりすると、毛根部がダメージを受けて赤くなることがあります。
この状態を放置すると抜け毛が悪化する可能性があるため、まずは頭皮への刺激を避け、優しく洗髪することを心がけてください。
炎症やかゆみが続く場合は、皮膚科専門医に相談することをお勧めします。
- 抜け毛は一日何本までが正常範囲ですか?
-
髪の毛にはヘアサイクルがあるため、健康な人でも毎日必ず髪の毛は抜けています。一般的に、一日の抜け毛の正常範囲は50本から100本程度とされています。
ただし、これはあくまで目安であり、季節の変わり目(特に秋)には一時的に抜け毛が増えることもあります。本数だけを気にするよりも、「抜け毛の質」に注目することが重要です。
もし抜け毛の中に、前述したような「細く短い毛」や「毛根が萎縮した毛」の割合が明らかに増えてきた場合は、本数が100本以下であっても注意が必要です。
- AGAは自力で改善できますか?
-
AGAは進行性の脱毛症であり、その根本原因(男性ホルモンや遺伝的要因)をセルフケアだけで取り除くことは困難です。
生活習慣の改善や頭皮ケア、育毛剤の使用は、あくまで頭皮環境を整え、AGAの進行を「遅らせる」または「抜けにくい環境を作る」ためのサポート的な役割が中心となります。
AGAの進行を医学的に抑制したり、発毛を促したりするためには、発毛剤(ミノキシジル含有の市販薬)の使用や、専門クリニックでの内服薬・外用薬による治療が必要となるのが一般的です。
- 育毛剤はいつから使い始めるべきですか?
-
育毛剤は、髪の毛が薄くなってから使うものというイメージがあるかもしれませんが、本来は「抜け毛の予防」と「頭皮環境の維持・改善」のために使うものです。
したがって、抜け毛の根元の状態が気になり始めた時点や、髪のハリ・コシが低下してきたと感じた時点など、「少し早いかな?」と思うくらいのタイミングで使い始めるのが最も効果的です。
頭皮環境が良い状態を保つことが、将来の薄毛予防につながります。抜け毛のサインを見逃さず、早めのケアを始めることをお勧めします。
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