ふと鏡を見たとき、以前より地肌が見える範囲が広がったように感じたり、光が当たると地肌が透けるのが気になったりしていませんか。
特に「つむじ」や「分け目」は自分では見えにくい場所だけに、人から指摘されて焦ることもあるかもしれません。もしかしてハゲの始まりではないかと不安になるその気持ち、よく分かります。
しかし、地肌が見えるからといって、必ずしも薄毛が進行しているとは限りません。
この記事では、地肌が見える原因を場所別に深掘りし、それが薄毛のサインなのか、それとも一時的なものなのかを見極めるポイントを解説します。
さらに、今日から自分でできる対策や育毛剤の選び方まで、あなたの不安を解消し、前向きな一歩を踏み出すための情報を提供します。ご自身の状態を正しく理解し、適切なケアを始めることが大切です。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
地肌が見える状態とは?ハゲの始まりを疑うサイン
地肌が見える状態が、必ずしも薄毛の進行を意味するわけではありません。
しかし、以前と比較して明らかに地肌の見える面積が広がったり、髪の毛を通して地肌が透けやすくなったりした場合は、毛量の減少や髪質の変化が起きている可能性があります。
これらは薄毛の初期サインである場合も多いため、注意深く状態を観察することが重要です。ご自身の頭皮の状態を客観的に把握することから始めましょう。
毛髪密度の低下と地肌の目立ち
地肌が目立つ直接的な原因の一つは、毛髪密度の低下です。毛髪密度とは、頭皮の一定面積あたりに生えている髪の毛の本数を指します。
健康な頭皮であれば、一つの毛穴から2〜3本の髪の毛が生えていることも珍しくありません。
しかし、ヘアサイクルが乱れたり、毛根が弱ったりすると、一つの毛穴から生える本数が減ったり、そもそも髪が生えてこない毛穴が増えたりします。
その結果、頭皮全体としての髪の密度が下がり、髪と髪の隙間から地肌が見えやすくなります。
特に日本人の髪は欧米人と比べて太い傾向にありますが、その分、密度が低下すると地肌とのコントラストで目立ちやすい側面もあります。
髪の毛が細くなる「軟毛化」の影響
髪の毛の本数が減っていなくても、地肌が透けて見えることがあります。それは「軟毛化」と呼ばれる現象が影響しています。
軟毛化とは、髪の毛が十分に成長しきる前に抜けてしまい、太く硬い「硬毛」の割合が減り、細く柔らかい「軟毛(うぶ毛のような髪)」の割合が増えることです。
AGA(男性型脱毛症)の典型的な症状の一つでもあります。髪の毛1本1本が細くなると、同じ本数でも全体のボリュームは減少し、頭皮を覆い隠す力が弱まります。
結果として、髪の隙間から地肌が透けて見えやすくなるのです。以前と比べて髪にハリやコシがなくなったと感じる場合、この軟毛化が進んでいる可能性があります。
正常な地肌の見え方との比較
もともと髪の毛が細い方や、毛量が少なめの方は、健康な状態でも地肌が見えやすいことがあります。また、つむじや分け目は、構造上、地肌が見えやすいのが普通です。
大切なのは、「以前の自分の状態と比べてどう変化したか」という点です。
例えば、つむじの渦の中心部が以前より広がった、分け目の線が太くなった、髪をかき上げなくても地肌が透けるようになった、といった変化に気づいたら注意が必要です。
地肌の状態チェック
健康な地肌と注意が必要な地肌の状態には違いがあります。ご自身の頭皮を鏡でチェックしてみましょう。
| チェック項目 | 健康な状態の目安 | 注意が必要な状態の目安 |
|---|---|---|
| 地肌の色 | 青白い色、または透明感のある白色 | 赤い、茶色っぽい、黄色がかっている |
| 地肌の感触 | 適度な弾力と潤いがある | 乾燥してカサカサ、または皮脂でベタつく |
| フケ・かゆみ | ほとんどない | フケやかゆみが頻繁にある |
チェックしたい初期の兆候
地肌の目立ち以外にも、薄毛の始まりを示す可能性のあるサインがいくつかあります。これらのサインが複数当てはまる場合は、早めのケアを検討する方が良いでしょう。
- 抜け毛の量(シャンプー時や起床時)が明らかに増えた
- 髪の毛にハリやコシがなくなり、スタイリングが難しくなった
- 頭皮のかゆみやフケ、ベタつきが気になるようになった
【場所別】地肌が見える主な原因① つむじ(頭頂部)
つむじ(頭頂部)は、髪の毛が渦を巻いている部分であり、もともと地肌が見えやすい場所です。
しかし、鏡で合わせた時や写真に写った自分のつむじを見て、以前よりも地肌が目立つ、渦が広がっていると感じる場合、それはAGA(男性型脱毛症)や頭皮の血行不良が原因である可能性が考えられます。
特に頭頂部は自分では確認しにくいため、変化に気づきにくい場所でもあります。
AGA(男性型脱毛症)の影響
AGA(男性型脱毛症)は、男性ホルモンの一種であるジヒドロテストステロン(DHT)の影響でヘアサイクルが短縮し、髪の毛が十分に成長する前に抜け落ちてしまう症状です。
AGAは主に前頭部(生え際)と頭頂部(つむじ)から進行するのが特徴です。
つむじ周辺の髪の毛が細く短くなり(軟毛化)、地肌が透けて見えるようになった場合、AGAが発症・進行している可能性が高いと考えます。
AGAは進行性であるため、放置すると薄毛の範囲は徐々に広がっていきます。つむじの地肌が目立つのは、AGAの典型的な初期症状の一つです。
頭頂部の血行不良
頭頂部は、心臓から送られてくる血液が届きにくい場所の一つです。毛根部にある毛母細胞は、血液から栄養素や酸素を受け取って髪の毛を作り出します。
そのため、頭頂部の血行が悪くなると、毛母細胞に十分な栄養が届かず、髪の毛の成長が妨げられます。このため、髪が細くなったり、抜けやすくなったりして、結果的に地肌が目立つようになります。
長時間のデスクワークやスマートフォンの使用による首や肩のこり、運動不足、喫煙習慣などは、頭皮の血行不良を招く要因となります。
皮脂の過剰分泌と毛穴の詰まり
頭皮は、顔のTゾーンよりも皮脂腺が多い場所です。皮脂は頭皮を乾燥や外部の刺激から守るバリア機能を持っていますが、過剰に分泌されると問題を引き起こします。
食生活の乱れやストレス、不適切なヘアケアなどによって皮脂が過剰になると、古い角質やホコリと混ざり合い、毛穴を詰まらせることがあります。
毛穴が詰まると、髪の毛の健やかな成長が妨げられるだけでなく、頭皮の常在菌が異常繁殖し、炎症(脂漏性皮膚炎など)を引き起こすこともあります。
炎症が続くと頭皮環境が悪化し、抜け毛や軟毛化につながり、つむじの地肌が目立ちやすくなります。
つむじが目立つ髪型の影響
病的な原因だけでなく、髪型によってもつむじの地肌は目立ちやすくなります。
例えば、つむじ周辺の髪の毛が短いヘアスタイルや、髪の毛の立ち上がりが弱い(ハリ・コシがない)場合、重力で髪が寝てしまい、つむじ部分がパックリと割れて地肌が見えやすくなります。
また、つむじがもともと複数ある方や、渦の流れが強い方も、一方向からの光で地肌が目立ちやすい傾向があります。
これらは薄毛の進行とは直接関係ありませんが、見た目の印象に影響を与える要因です。AGAや血行不良などと組み合わさると、さらに目立ちやすくなるため注意が必要です。
【場所別】地肌が見える主な原因② 分け目
分け目の地肌が以前より目立つ、あるいは分け目の線が太くなったように感じる場合、その原因は一つではありません。
長期間同じ髪型を続けることによる頭皮への物理的な負担や、紫外線によるダメージ、さらにはAGA(男性型脱毛症)が分け目部分に影響を与えている可能性も考えられます。
分け目は他人の視線が集まりやすい場所でもあるため、気になる方は早めに原因を探ることが大切です。
髪の分け目が固定化するリスク
毎日同じ場所で髪を分けていると、その部分の頭皮が常に外部にさらされることになります。また、髪の重みで分け目の部分の毛根には常に一定方向への力が加わります。
この状態が長期間続くと、分け目部分の頭皮が緊張しやすくなったり、血行が悪くなったりする可能性があります。血行不良は髪の成長に必要な栄養が届きにくくなる原因となります。
さらに、分け目が固定化すると、その部分の髪が立ち上がりにくくなり、ペタッと寝てしまうことで、実際以上に地肌が目立って見えることもあります。
定期的に分け目の位置を変えることは、頭皮への負担を分散させる上で有効な対策の一つです。
紫外線による頭皮ダメージ
分け目は、頭皮が直接紫外線にさらされやすい場所です。頭皮は顔の皮膚とつながっており、紫外線を浴びると日焼けをします。頭皮が日焼けをすると、皮膚は乾燥し、炎症を起こすことがあります。
紫外線は頭皮の細胞(毛母細胞を含む)にダメージを与え、活性酸素を発生させます。こうして、頭皮が硬くなったり、ヘアサイクルが乱れたりして、抜け毛や軟毛化を引き起こす原因となります。
特に屋外での活動が多い方や、帽子をかぶる習慣がない方は、分け目部分の頭皮が慢性的なダメージを受けている可能性があり、その結果として地肌が目立ちやすくなることがあります。
AGAによる生え際・分け目の後退
AGA(男性型脱毛症)は、つむじ(頭頂部)だけでなく、前頭部(生え際)からも進行することが多いです。
生え際が後退してM字型になるパターンのほかに、生え際から頭頂部にかけて全体的に薄くなるパターン(O字型とM字型が同時進行するパターン)もあります。
分け目は通常、前頭部から頭頂部にかけて作られます。そのため、AGAが前頭部や頭頂部で進行すると、そのライン上にある分け目周辺の髪の毛も軟毛化し、密度が低下します。
結果として、分け目の地肌が透けて見えたり、分け目の幅が広がったように感じたりすることがあります。これは分け目自体が後退しているのではなく、周辺の薄毛の進行によって目立っている状態です。
AGAの主な進行パターン
AGAの進行パターンには個人差がありますが、特定の部位から薄毛が始まる傾向があります。
| 進行パターン(型) | 主な特徴 | 地肌の目立ち方 |
|---|---|---|
| M字型 | 左右の生え際(そりこみ部分)から後退していく。 | 生え際が後退し、分け目の開始位置が後ろになる。 |
| O字型 | 頭頂部(つむじ)から円形に薄くなっていく。 | つむじの地肌が目立つ。 |
| U字型(M+O型) | 生え際と頭頂部の両方から進行し、最終的につながる。 | 分け目、つむじの両方の地肌が目立つ。 |
牽引性脱毛症の可能性
牽引性脱毛症(けんいんせいだつもうしょう)とは、髪の毛が長期間にわたって強く引っ張られることで、毛根に負担がかかり、その部分の髪の毛が抜けたり、細くなったりする症状です。
分け目をきっちりと分け、ポニーテールやオールバックのように髪を強く結ぶヘアスタイルを日常的に続けていると、分け目や生え際の部分に持続的な牽引力がかかります。
この状態が続くと、毛根が弱り、髪が抜けて地肌が見えやすくなることがあります。AGAとは原因が異なりますが、分け目の地肌が目立つ一因となり得ます。
該当するヘアスタイルを続けている方は、髪型を変えたり、髪を結ぶ強さを緩めたりするなど、頭皮への負担を減らす工夫が必要です。
地肌が見える原因はAGAだけではない?考えられるその他の要因
地肌が目立つようになると、すぐにAGA(男性型脱毛症)を心配する方が多いかもしれません。
しかし、地肌が見える原因はAGAだけではありません。
不規則な生活習慣、栄養バランスの偏り、精神的なストレス、あるいは頭皮自体のトラブルなど、さまざまな要因が複雑に絡み合って頭皮環境を悪化させ、結果として地肌を目立たせている可能性があります。
これらの要因はAGAの進行を早める可能性もあるため、見過ごすことはできません。
生活習慣の乱れ(睡眠・食生活)
髪の毛は、私たちが寝ている間に分泌される成長ホルモンによって成長が促進されます。睡眠不足が続くと、成長ホルモンの分泌が減少し、髪の毛の健やかな成長が妨げられます。
また、髪の毛は「ケラチン」というタンパク質を主成分としています。
食生活が乱れ、脂っこいものや糖分の多い食事に偏ると、皮脂の分泌が過剰になったり、髪の材料となるタンパク質やビタミン、ミネラルが不足したりします。
特に外食やコンビニ食が多い方は、栄養バランスが偏りがちです。不健康な生活習慣は頭皮環境の悪化に直結し、髪の痩せ細りや抜け毛を招き、地肌が目立つ原因となります。
ストレスによる頭皮環境の悪化
現代社会において、ストレスを完全になくすことは難しいものです。しかし、過度な精神的ストレスは自律神経のバランスを崩し、血管を収縮させる原因となります。
血管が収縮すると、頭皮への血流が悪くなり、毛根に十分な栄養や酸素が行き渡らなくなります。これが髪の成長を妨げ、抜け毛の増加につながります。
また、ストレスは皮脂の分泌を促す男性ホルモンのバランスにも影響を与えることがあります。
ストレスを感じると頭皮がかゆくなる、ベタつくといった経験がある方もいるかもしれませんが、それはストレスが頭皮環境に直接的な影響を与えている証拠の一つです。
円形脱毛症のように、強いストレスが引き金となって急激に髪が抜けるケースもあります。
栄養不足(特にタンパク質・亜鉛・ビタミン)
髪の毛の約90%以上はタンパク質(ケラチン)でできています。
そのため、極端なダイエットや偏った食事によってタンパク質の摂取量が不足すると、体は生命維持に重要な内臓などを優先するため、髪の毛の生成は後回しにされます。
結果として、新しい髪が作られにくくなったり、細く弱い髪しか生えてこなくなったりします。
また、タンパク質を髪の毛(ケラチン)に合成する際には「亜鉛」が、頭皮の新陳代謝をサポートするためには「ビタミンB群」が、血行を促進するためには「ビタミンE」が必要です。
これらの栄養素が不足すると、いくらタンパク質を摂っても効率よく髪が作られません。
髪の成長に必要な主な栄養素
バランスの取れた食事が基本ですが、特に以下の栄養素は髪の健康と深く関わっています。
| 栄養素 | 主な働き | 多く含まれる食材の例 |
|---|---|---|
| タンパク質 | 髪の毛の主成分(ケラチン)の材料となる。 | 肉、魚、卵、大豆製品、乳製品 |
| 亜鉛 | タンパク質の合成を助け、ヘアサイクルを正常に保つ。 | 牡蠣、レバー、牛肉(赤身)、チーズ |
| ビタミンB群 | 頭皮の新陳代謝を促し、皮脂の分泌を調整する。 | 豚肉、レバー、うなぎ、マグロ、納豆 |
頭皮の皮膚疾患(脂漏性皮膚炎など)
地肌が目立つ原因が、薄毛ではなく頭皮の皮膚疾患である場合もあります。代表的なものが「脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)」です。
これは、皮脂の分泌が多い頭皮や顔に常在するマラセチアというカビ(真菌)の一種が異常繁殖し、その刺激によって頭皮が炎症を起こす病気です。
強いかゆみや、ベタついたフケ、頭皮の赤みなどが特徴です。炎症が毛穴周辺で起こると、毛根にダメージを与え、抜け毛が増加して地肌が目立つことがあります。
AGAによる薄毛と脂漏性皮膚炎が併発することもあり、この場合は頭皮環境が非常に悪化しているため、専門家による診断と対応が必要です。
地肌が見え始めた時に自分でできる対策(セルフケア)
地肌が透けて見えるのが気になり始めたら、それは頭皮が何らかのサインを送っている証拠です。
薄毛の進行を不安に思うだけでなく、まずは日常生活の中でご自身でできる対策(セルフケア)から始めてみることが重要です。頭皮環境を整え、髪の毛が健やかに育つ土台作りを意識しましょう。
食生活の見直し、睡眠の質の向上、そして適切な頭皮ケアが基本となります。
頭皮ケアと正しいシャンプー方法
地肌が目立つようになると、頭皮を清潔に保とうとするあまり、1日に何度もシャンプーをしたり、爪を立ててゴシゴシと強く洗ったりしがちです。
しかし、過度な洗浄は頭皮を守るために必要な皮脂まで奪い去り、乾燥やかゆみ、さらには皮脂の過剰分泌を招く原因となります。シャンプーは1日1回、夜に行うのが基本です。
頭皮のタイプ(乾燥肌、脂性肌、敏感肌など)に合った、洗浄力がマイルドなアミノ酸系シャンプーなどを選ぶことも大切です。
洗う際は、まずお湯で髪と頭皮を十分に予洗いし、シャンプーをしっかりと泡立ててから、指の腹を使って頭皮をマッサージするように優しく洗いましょう。
すすぎ残しは毛穴の詰まりや炎症の原因になるため、時間をかけて丁寧にお湯で洗い流すことが重要です。
正しいシャンプーの洗い方
毎日のシャンプーを見直すことで、頭皮環境は改善が期待できます。
| 手順 | ポイント | 目的 |
|---|---|---|
| 1. ブラッシング | シャンプー前に髪のもつれを解き、ホコリを浮かす。 | 泡立ちを良くし、摩擦を減らす。 |
| 2. 予洗い | 38℃前後のぬるま湯で、髪と頭皮を1〜2分洗い流す。 | 汚れの7割程度を落とし、シャンプーの刺激を緩和。 |
| 3. 泡立て・洗浄 | シャンプーを手のひらで泡立て、指の腹で頭皮を優しく洗う。 | 爪を立てず、頭皮へのダメージを防ぐ。 |
| 4. すすぎ | シャンプーの2倍以上の時間をかけ、ヌルつきがなくなるまですすぐ。 | すすぎ残しによる毛穴詰まりや炎症を防ぐ。 |
髪の成長を助ける食生活の改善
髪は食べたものから作られます。健やかな髪を育てるためには、バランスの取れた食事が欠かせません。
前述の通り、髪の主成分である「タンパク質」、タンパク質の合成を助ける「亜鉛」、頭皮環境を整える「ビタミンB群」や「ビタミンE」などを意識的に摂取することが望ましいです。
特に亜鉛は体内で作ることができず、不足しやすいため、牡蠣やレバー、赤身肉などを食事に取り入れましょう。
インスタント食品やファストフード、脂っこい揚げ物や甘いお菓子などは、皮脂の過剰分泌を促したり、血行を悪くしたりする可能性があるため、なるべく控えるように心がけることが大切です。
すべてを完璧にするのは難しくても、まずは三食をできるだけ決まった時間にとり、多様な食材を食べることから始めましょう。
良質な睡眠の確保とストレス管理
髪の成長を促す「成長ホルモン」は、深い睡眠中(特に就寝から最初の3時間)に最も多く分泌されます。
睡眠時間が短い、または眠りが浅いと、成長ホルモンの分泌が不足し、髪の成長や頭皮の修復が十分に行われません。
毎日最低でも6〜7時間の睡眠時間を確保し、就寝前はスマートフォンやパソコンの画面を見るのを避け、リラックスできる環境を整えるなど、睡眠の「質」を高める工夫も必要です。
また、ストレスは自律神経を乱し、頭皮の血行不良を招きます。ご自身なりのストレス解消法を見つけることも重要なセルフケアです。
軽い運動(ウォーキングなど)は血行促進とストレス解消の両方に効果が期待できます。趣味の時間を持つ、ゆっくりと入浴するなど、心身ともにリラックスできる時間を意識的に作りましょう。
育毛剤の活用と選び方
地肌が目立ち始めた初期段階であれば、育毛剤の活用も有効なセルフケアの一つです。
育毛剤は、医薬品である「発毛剤」とは異なり、現在生えている髪の毛を健康に育て、抜け毛を防ぐこと、そして頭皮環境を整えることを主な目的としています(医薬部外品)。
血行を促進する成分、毛母細胞の働きを助ける成分、頭皮の炎症を抑える成分などが配合されています。
シャンプー後に頭皮を清潔にした状態で使用し、指の腹で軽くマッサージするように頭皮になじませると、血行促進効果も高まります。
ただし、育毛剤は使用してすぐに効果が出るものではありません。
ヘアサイクル(髪の毛が生え変わる周期)を考慮すると、最低でも3ヶ月から6ヶ月程度は継続して使用し、頭皮の状態の変化を見守ることが大切です。
育毛剤はどう選ぶ?地肌が気になる方へのアドバイス
地肌が気になり始めた方が育毛剤を選ぼうとしても、市場には多種多様な製品があふれており、どれが自分に合っているのか迷ってしまうことが多いです。
育毛剤(医薬部外品)は、主に頭皮環境を整え、抜け毛を予防し、今ある髪を健やかに育てることを目的としています。
ご自身の頭皮の状態や、地肌が目立つ原因(血行不良、皮脂の過剰、乾燥など)を考慮し、それに合った成分が配合されている製品を選ぶことが、効果的なケアへの第一歩となります。
ご自身の頭皮タイプ(乾燥・脂性)を知る
育毛剤を選ぶ前に、ご自身の頭皮タイプを把握することが重要です。例えば、乾燥しがちな頭皮(乾燥肌)の方は、頭皮がカサつき、細かいフケが出やすい傾向があります。
この場合、洗浄力が強すぎるシャンプーを避け、育毛剤もアルコール(エタノール)の配合が控えめで、ヒアルロン酸やセラミドなどの保湿成分がしっかり配合されたタイプが適しています。
一方、皮脂の分泌が多い頭皮(脂性肌)の方は、頭皮がベタつきやすく、毛穴が詰まりやすい傾向があります。
この場合は、過剰な皮脂を抑えたり、抗炎症作用があったりする成分(ビタミンC誘導体、グリチルリチン酸2Kなど)が配合された、さっぱりとした使用感の育毛剤が使いやすいでしょう。
頭皮タイプに合わない製品を使い続けると、かえって頭皮環境を悪化させる可能性もあるため注意が必要です。
育毛剤に期待できる成分の比較
育毛剤には、厚生労働省が「育毛、薄毛、かゆみ、脱毛の予防、毛生促進、発毛促進、ふけ、病後・産後の脱毛、養毛」といった効果・効能を認めた有効成分が配合されています。
地肌が気になる原因に合わせて、どのような成分が配合されているかに着目しましょう。
育毛剤の主な有効成分と働き
ご自身の悩みに合わせて、これらの成分が含まれているかを確認してみましょう。
| 期待できる働き | 主な有効成分の例 | こんな方におすすめ |
|---|---|---|
| 血行促進 | センブリエキス、酢酸トコフェロール(ビタミンE誘導体)、ニコチン酸アミド | 頭皮が硬い、血行不良が気になる方 |
| 抗炎症・殺菌 | グリチルリチン酸ジカリウム、ピロクトンオラミン | 頭皮の赤み、かゆみ、フケが気になる方 |
| 皮脂分泌の調整 | ビタミンC誘導体、イソフラボン | 頭皮のベタつき、脂性肌の方 |
| 保湿 | ヒアルロン酸、セラミド、コラーゲン(※有効成分ではなく保湿成分として配合) | 頭皮の乾燥、カサつきが気になる方 |
継続使用を考えた価格と使用感
育毛剤は、ヘアサイクルを考慮すると、効果を実感するまでに最低でも3ヶ月から6ヶ月の継続使用が必要です。そのため、無理なく続けられる価格帯であることは非常に重要な選択基準となります。
高価な製品だからといって、必ずしもご自身に合うとは限りません。また、毎日のケアに取り入れるものだからこそ、「使用感」も大切です。
液だれしやすい、ニオイが強すぎる、つけた後にベタつくといった使用感のストレスは、継続を妨げる要因になります。
多くの製品では、塗布しやすいノズルの形状(スプレータイプ、ノズルタイプなど)が工夫されています。
テクスチャー(さっぱり、しっとり)や香り、刺激(メントールの清涼感など)の有無も確認し、ご自身が心地よく使い続けられるものを選びましょう。
医薬部外品と医薬品の違い
ドラッグストアなどで「育毛剤」として販売されている製品の多くは「医薬部外品」に分類されます。これらは主に「予防」や「育毛(今ある髪を育てる)」を目的としています。
一方、「発毛剤」として販売されている製品は「医薬品」に分類されます。医薬品である発毛剤には、「ミノキシジル」など、臨床試験で「発毛(新しい髪を生やす)」効果が認められた成分が配合されています。
すでに薄毛がかなり進行しており、地肌が広範囲で見えている状態、あるいは積極的な発毛を望む場合は、医薬品の発毛剤(第一類医薬品)の使用や、専門のクリニックへの相談を検討する必要があります。
ご自身の現在の状態が「予防・育毛」段階なのか、「発毛治療」が必要な段階なのかを見極めることが大切です。
地肌の目立ちが改善しない場合の選択肢
食生活の改善、適切なシャンプー、育毛剤の使用といったセルフケアを一定期間(例えば6ヶ月以上)続けても、地肌の目立ちが改善しない、あるいは以前よりも悪化していると感じる場合、AGA(男性型脱毛症)が進行している可能性や、他の皮膚疾患が隠れている可能性が考えられます。
セルフケアは頭皮環境を整える上で非常に重要ですが、進行性のAGAに対しては、セルフケアだけでは進行を食い止めるのが難しい場合があります。
そのような時は、一人で抱え込まず、専門家へ相談することも現実的な選択肢として考えるべきです。早期の対応が、将来の髪を守る鍵となります。
セルフケアの継続と見直しの目安
セルフケアは「継続」することが何よりも重要です。しかし、ただ続けるだけでなく、定期的にその「効果」を見直す必要もあります。
例えば、「6ヶ月間」を一つの目安として設定し、その期間、育毛剤の使用や生活習慣の改善を真面目に取り組んでみます。
6ヶ月後、ケアを始める前と比べて頭皮の状態(赤み、フケ、ベタつき)や抜け毛の量、髪のハリ・コシに少しでも良い変化が見られるかを確認します。
もし、全く変化がない、あるいは明らかに地肌の見える範囲が広がっているようであれば、現在行っているセルフケアがご自身の症状に合っていないか、あるいはAGAの進行スピードがケアの効果を上回っている可能性があります。
その場合は、セルフケアの方法を見直すか、次の選択肢を検討するタイミングかもしれません。
ケアの判断目安
ご自身の状態を客観的に判断するための一つの目安です。
| 状態 | セルフケア(育毛剤など) | 専門家への相談 |
|---|---|---|
| 地肌が少し気になり始めた(初期) | ◎(まずはここから) | △(早めに相談するのも可) |
| セルフケアで現状維持、または少し改善 | ○(継続する) | △(より積極的な対策を望む場合) |
| セルフケアを続けても悪化している | △(見直しが必要) | ◎(強く推奨) |
専門のクリニック(皮膚科・AGA専門)への相談
地肌の目立ちが改善しない場合、皮膚科やAGA専門のクリニックに相談することを推奨します。皮膚科では、脂漏性皮膚炎などの皮膚疾患が原因でないかを診断してもらえます。
皮膚疾患が原因であれば、まずはその治療を優先します。
AGAが疑われる場合、AGA専門のクリニックでは、頭皮の状態をマイクロスコープで詳細に確認したり、問診や血液検査(希望により)を通じて、薄毛の原因をより深く探ったりすることができます。
専門の医師に「ご自身の現在の状態」を客観的に診断してもらうことで、不安が解消されたり、ご自身に合った具体的な対策(治療を含む)を知ることができます。
多くのクリニックでは、カウンセリングを無料で実施している場合もあるため、まずは話を聞いてみるだけでも有益です。
クリニックで受けられるサポートの種類
AGA専門のクリニックなどでは、医師の診断に基づき、セルフケアでは行えない専門的なサポート(治療)を受けることが可能です。
AGAの治療は、主に「抜け毛を抑える(守り)」アプローチと、「発毛を促す(攻め)」アプローチがあります。
代表的なものには、AGAの原因であるDHTの生成を抑える内服薬(フィナステリド、デュタステリドなど)や、毛母細胞に直接働きかけて発毛を促す外用薬(高濃度のミノキシジルなど)があります。
これらの医薬品は医師の処方が必要です。内服薬や外用薬による治療は、保険適用外の自由診療となります。
他にもクリニックによっては、頭皮に直接有効成分を注入する治療や、LED(光)を照射する治療などを組み合わせる場合もあります。
どのようなサポートが必要かは、個々の症状や進行度によって異なります。
早期の対応が将来の髪を守る
地肌が見える状態、特にそれがAGAによるものである場合、その進行をセルフケアだけで完全に止めることは難しいのが現実です。
AGAは進行性であるため、時間が経過するほど毛根の機能(髪を生み出す力)は弱まっていきます。
毛根が完全に活動を停止してしまう(ヘアサイクルが終了する)と、残念ながら、そこから再び髪を生やすことは非常に困難になります。
しかし、毛根がまだ生きている(活動している)段階であれば、適切な対応(治療を含む)によって、ヘアサイクルを正常化させ、髪の毛を太く長く育てたり、抜け毛を減らしたりすることは十分に可能です。
地肌の目立ちが気になり始めた「今」が、最も効果的な対応ができるタイミングかもしれません。早めに行動を起こすことが、5年後、10年後のご自身の髪を守ることにつながります。
Q&A
地肌が見える(透ける)状態や、薄毛に関するさまざまな疑問にお答えします。多くの方が抱える不安や質問をまとめました。
- 地肌が透けて見えるようになったら、もう髪は生えてきませんか?
-
地肌が透けて見える状態が、必ずしも毛根が機能しなくなったことを意味するわけではありません。
AGA(男性型脱毛症)や頭皮環境の悪化により、髪の毛が細く短くなる「軟毛化」が進んでいる状態である可能性が高いです。
毛根が活動している限り、適切なケアや治療によってヘアサイクルが改善すれば、髪が再び太く長く成長し、地肌の目立ちが改善する可能性は十分にあります。
諦めずに早期の対応を検討することが大切です。
- 育毛剤はいつから使い始めるのが良いですか?
-
育毛剤(医薬部外品)は、主に頭皮環境を整え、抜け毛を予防し、今ある髪を健やかに育てることを目的としています。
そのため、地肌の目立ちが「気になり始めた」初期段階や、将来の薄毛を「予防したい」と考えた時点で使用を開始するのが効果的です。
薄毛がかなり進行してから使用するよりも、頭皮環境が悪化する前、あるいは悪化し始めたタイミングで使い始める方が、育毛剤に期待できる働きを実感しやすいと考えられます。
- 髪型を変えるだけで地肌の目立ちを隠せますか?
-
髪型を工夫することで、一時的に地肌の目立ちをカバーすることは可能です。
例えば、分け目をいつもと変える、トップにボリュームを持たせるようにドライヤーで乾かす、あるいは短髪にして全体のバランスを整えるなどの方法があります。
ただし、これらは根本的な解決ではなく、あくまで「隠す」対策です。
地肌が目立つ原因(AGAの進行や頭皮環境の悪化など)が改善されなければ、徐々に髪型だけではカバーしきれなくなる可能性もあります。
髪型でのカバーと並行して、原因に対するケアを行うことが重要です。
- 頭皮マッサージは地肌の目立ち改善に効果がありますか?
-
頭皮マッサージには、頭皮の血行を促進し、頭皮を柔らかく保つ効果が期待できます。
血行が良くなれば、髪の毛の成長に必要な栄養素が毛根に届きやすくなるため、健やかな髪を育てる土台作りに役立ちます。
シャンプー中や育毛剤を塗布した際に、指の腹を使って頭皮全体を優しく動かすようにマッサージするのは良い習慣です。
ただし、マッサージだけでAGAの進行を止めたり、発毛させたりする直接的な効果は限定的です。あくまでセルフケアの一環として取り入れると良いでしょう。
- 地肌が日焼けするとハゲやすくなりますか?
-
地肌が日焼け(紫外線によるダメージ)をすると、頭皮が乾燥し、炎症を起こしやすくなります。
紫外線によって発生する活性酸素は、毛根にある毛母細胞にもダメージを与え、ヘアサイクルを乱す原因となります。
この状態が慢性的に続くと、抜け毛が増えたり、健康な髪が育ちにくくなったりするため、結果として「ハゲやすい」状態、つまり薄毛が進行しやすい頭皮環境になると言えます。
特に分け目やつむじは紫外線を浴びやすいため、屋外での活動時には帽子や日傘、頭皮用の日焼け止めスプレーなどで対策することが大切です。
Reference
OLSEN, Elise A., et al. Evaluation and treatment of male and female pattern hair loss. Journal of the American Academy of Dermatology, 2005, 52.2: 301-311.
REDMOND, Leah C., et al. Male pattern hair loss: Can developmental origins explain the pattern?. Experimental Dermatology, 2023, 32.7: 1174-1181.
VISHU, Michelle. Trichoscopic Analysis of Female Pattern Hair Loss and Correlation of Findings with Disease Severity: A Cross-Sectional Study. 2019. PhD Thesis. Rajiv Gandhi University of Health Sciences (India).
BANKA, Nusrat; BUNAGAN, MJ Kristine; SHAPIRO, Jerry. Pattern hair loss in men: diagnosis and medical treatment. Dermatologic clinics, 2013, 31.1: 129-140.
MANABE, Motomu, et al. Guidelines for the diagnosis and treatment of male‐pattern and female‐pattern hair loss, 2017 version. The Journal of Dermatology, 2018, 45.9: 1031-1043.
WIRYA, Christopher Toshihiro; WU, Wenyu; WU, Kejia. Classification of male-pattern hair loss. International journal of trichology, 2017, 9.3: 95-100.
GUPTA, Mrinal; MYSORE, Venkataram. Classifications of patterned hair loss: a review. Journal of cutaneous and aesthetic surgery, 2016, 9.1: 3-12.
ALESSANDRINI, A., et al. Common causes of hair loss–clinical manifestations, trichoscopy and therapy. Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology, 2021, 35.3: 629-640.
TRÜEB, Ralph M.; LEE, Won-Soo. Male alopecia. Guide to successful management. Cham, Switzerland: Springer International Publishing, 2014.
DINH, Quan Q.; SINCLAIR, Rodney. Female pattern hair loss: current treatment concepts. Clinical interventions in aging, 2007, 2.2: 189-199.

