栄養状態・ミネラル検査 – あなたの薄毛は栄養不足?

栄養状態・ミネラル検査 - あなたの薄毛は栄養不足?

薄毛や抜け毛の悩みは、多くの場合、遺伝や男性ホルモンの影響、生活習慣の乱れなどが原因として挙げられます。

しかし、見落とされがちなのが「体内の栄養状態」です。髪の毛は、私たちが日々摂取する栄養素から作られるため、栄養バランスの乱れは毛髪の健康に直接的な影響を及ぼします。

特に、髪の主成分であるタンパク質の合成を助けるビタミンやミネラルが不足すると、髪は細く、弱々しくなり、やがては抜け落ちてしまいます。

この記事では、血液検査によって明らかになる栄養状態の重要性、特に「鉄」「ビタミン」「ミネラル」の各項目が毛髪にどう関わっているのかを詳しく解説します。

客観的な数値でご自身の体の状態を把握し、効果的な薄毛対策を見つけるための一助としてください。

目次

鉄代謝

鉄は、全身に酸素を運搬する赤血球のヘモグロビンを構成する重要なミネラルです。毛髪を作り出す毛母細胞が活発に分裂・増殖するためには、十分な酸素と栄養が必要です。

体内の鉄が不足すると、酸素の供給が滞り、毛母細胞の活動が低下してしまいます。その結果、髪の成長が妨げられ、薄毛や抜け毛を引き起こす原因となります。

鉄と毛母細胞の関係 ― 酸素供給と髪の成長フロー(薄毛・栄養不足の基礎)

特に女性は月経により鉄を失いやすく、潜在的な鉄不足に陥っているケースが少なくありません。

鉄の状態を正確に把握するには、単に血液中の鉄の量だけでなく、体内にどれだけ鉄が蓄えられているかなど、複数の項目を総合的に評価することが大切です。

ここでは、鉄代謝を評価するための主要な検査項目について解説します。

血清鉄 – 体内の鉄の量

血清鉄(Fe)は、血液中の血清に含まれる鉄の量を測定する検査です。具体的には、血液中で鉄を運搬する役割を持つ「トランスフェリン」というタンパク質と結合している鉄の量を指します。

この数値は、体内で利用可能な鉄の量を直接的に示す指標の一つです。しかし、血清鉄の値は食事の内容や時間帯によって変動しやすいという特徴があります。

例えば、鉄分を多く含む食事を摂った直後には数値が上昇し、朝よりも午後の方が低くなる傾向があります。

血清鉄の日内変動と食後影響 ― 採血時間のポイント

そのため、血清鉄の値だけで鉄不足を判断するのは難しく、他の検査項目と合わせて総合的に評価することが重要です。

この値が基準値を下回っている場合、鉄欠乏性貧血の可能性を考えますが、他の指標と合わせて判断する必要があります。

フェリチン – 貯蔵鉄の指標(最も重要)

フェリチン(貯蔵鉄)と髪の太さ

フェリチンは、体内に鉄を貯蔵する役割を持つタンパク質です。肝臓や脾臓、骨髄などに存在し、鉄を必要な時にすぐに利用できる形で保持しています。

血清フェリチンの値を測定することで、この「貯蔵鉄」が体内にどれくらいあるかを把握できます。これは、鉄代謝を評価する上で最も重要な指標とされています。

なぜなら、体内の鉄が不足し始めると、まず貯蔵鉄であるフェリチンから鉄が使われていくからです。

血清鉄やヘモグロビンの値がまだ正常範囲内であっても、フェリチンの値が低い「潜在性鉄欠乏(隠れ貧血)」の状態にある人は少なくありません。

この段階では貧血の自覚症状はなくても、毛髪への栄養供給はすでに影響を受けている可能性があります。髪の健康を考える上では、フェリチン値を適切な水準に保つことが極めて大切です。

髪の健康とフェリチン値

健康診断などで測定するヘモグロビン値が正常でも、フェリチン値が低い場合、髪の成長に必要な鉄が不足している可能性があります。

毛髪は生命維持に直接関わる組織ではないため、体内の鉄が不足すると、心臓や脳などの重要な臓器への供給が優先され、髪への供給は後回しにされます。

フェリチン値が低い状態が続くと、毛母細胞はエネルギー不足に陥り、健康な髪を作ることができなくなります。

薄毛や抜け毛に悩む方は、一度フェリチン値を測定し、ご自身の貯蔵鉄の状態を確認することをお勧めします。

TIBC(総鉄結合能) – 鉄の輸送能力

TIBC(Total Iron-Binding Capacity:総鉄結合能)は、血液中で鉄を運ぶタンパク質であるトランスフェリンが、あとどれくらい鉄と結合できるかを示す指標です。

つまり、血液中の「鉄を運ぶための空席」がどれだけあるかを表します。体内の鉄が不足すると、身体はより多くの鉄を取り込もうとしてトランスフェリンの産生を増やします。

その結果、鉄と結合できる空席が増えるため、TIBCの値は高くなります。逆に、体内に鉄が過剰な状態では、トランスフェリンの産生が抑制され、TIBCの値は低くなります。

このTIBCは、鉄欠乏の程度を評価するのに役立ち、フェリチンや血清鉄と合わせて見ることで、より正確な診断が可能になります。

トランスフェリン飽和度 – 鉄の利用効率

トランスフェリン飽和度(TSAT)は、鉄を運ぶトランスフェリンのうち、実際にどれくらいの割合が鉄と結合しているかを示す指標です。計算式は「(血清鉄 ÷ TIBC)× 100 (%)」で求められます。

トランスフェリン飽和度(TSAT)の考え方 ― (血清鉄÷TIBC)×100%

この数値は、体内で鉄がどれだけ効率的に利用されているかを評価するのに役立ちます。鉄が不足している状態では、血清鉄が低くTIBCが高くなるため、トランスフェリン飽和度は低値を示します。

一般的に、この飽和度が20%を下回ると鉄が不足気味であると判断し、15%以下では明確な鉄欠乏状態を考えます。

髪の毛のような末端の組織まで十分に鉄を届けるためには、この飽和度も重要な指標となります。

鉄代謝関連の検査項目と役割

検査項目主な役割鉄欠乏時の変動
血清鉄 (Fe)血液中で運搬されている鉄の量低下
フェリチン体内に貯蔵されている鉄の量低下(最も早期に反応)
TIBC (総鉄結合能)鉄と結合できるタンパク質の総量上昇
TSAT (トランスフェリン飽和度)鉄の利用効率低下

ビタミン類の検査

ビタミンは、体の機能を正常に保つために働く有機化合物です。直接的なエネルギー源にはなりませんが、タンパク質や脂質、糖質の代謝を助ける補酵素として機能し、健康維持に欠かせません。

毛髪の健康においても、ビタミン類は極めて重要な役割を担っています。例えば、新しい髪を作り出す細胞分裂を助けたり、頭皮の血行を促進したり、髪の主成分であるケラチンの生成をサポートしたりします。

ビタミンが不足すると、これらの働きが滞り、髪の成長サイクルが乱れ、抜け毛や髪質の低下につながることがあります。

ここでは、特に毛髪の健康と関連の深いビタミンについて、その役割と検査の重要性を解説します。

ビタミンD(25-OH-D) – 毛包の健康に重要

ビタミンDは、カルシウムの吸収を助け、骨の健康を維持することでよく知られていますが、近年、毛髪の成長にも深く関わっていることが分かってきました。

ビタミンDは、毛髪を作り出す器官である「毛包」の働きを活性化させる役割を持ちます。特に、成長が止まった休止期の毛包を、新たな髪を生み出す成長期へと移行させるのを助ける働きがあります。

ビタミンD(25-OH-D)と毛周期 ― 欠乏・不足・充足のレンジ

体内のビタミンDが不足すると、このサイクルがうまく機能せず、休止期にとどまる毛包が増えてしまい、結果として薄毛につながる可能性があります。

ビタミンDは日光を浴びることで皮膚でも生成されますが、日焼け対策や屋内での活動が多い現代人では不足しがちです。

血液検査では、体内のビタミンDレベルを反映する「25-OH-D」の値を測定します。

ビタミンB12 – DNA合成と細胞分裂に必要

ビタミンB12は、赤血球の生成を助けるとともに、DNAの合成に重要な役割を果たす水溶性のビタミンです。毛髪は、毛母細胞が活発に細胞分裂を繰り返すことで成長します。

ビタミンB12が不足すると、この細胞分裂が正常に行われなくなり、健康な髪の毛が作られにくくなります。

また、赤血球の生成が滞ることで、頭皮への酸素供給も不足し、毛髪の成長環境が悪化する原因にもなります。

ビタミンB12は主に動物性食品に含まれているため、菜食主義者や胃腸の機能が低下している高齢者などで不足することがあります。

血液検査でビタミンB12の濃度を測定することで、これらのリスクを評価できます。

ビタミンB12/葉酸とDNA合成 ― 毛母細胞の分裂サポート

葉酸 – 細胞の成長と分裂に関与

葉酸はビタミンB群の一種で、ビタミンB12とともに赤血球の生成を助け、細胞の分裂や成長に深く関わっています。

特に、新しい細胞が作られる際に必要なDNAやRNAなどの核酸を合成する上で重要な働きをします。

毛母細胞は体の中でも特に細胞分裂が活発な場所の一つであり、葉酸が不足するとその活動が鈍化してしまいます。これにより、髪の成長が遅れたり、髪が細くなったりする可能性があります。

葉酸は緑黄色野菜やレバーなどに多く含まれますが、水に溶けやすく熱に弱い性質があるため、調理によって失われやすい栄養素です。

妊娠を計画している女性に重要視されることが多いですが、毛髪の健康を維持するためにも男女問わず大切なビタミンです。

ビオチン – 毛髪のケラチン生成に必要

ビオチンとケラチン生成 ― 髪の強度・ハリを支える補酵素

ビオチンもビタミンB群の仲間で、皮膚や粘膜、そして髪の健康維持を助ける働きから「美容のビタミン」とも呼ばれます。

ビオチンの最も重要な役割の一つが、アミノ酸の代謝を助け、髪の主成分であるタンパク質「ケラチン」の生成をサポートすることです。

ケラチンが十分に生成されないと、髪はもろく、切れやすくなってしまいます。ビオチンが不足することは稀ですが、偏った食生活や特定の薬剤の長期服用などが原因で欠乏することがあります。

その場合、皮膚炎や脱毛といった症状が現れることがあります。毛髪の強度やハリ・コシを保つ上で、ビオチンの働きは重要です。

ミネラル検査

ミネラルは、体を構成する主要な4元素(酸素、炭素、水素、窒素)以外の元素の総称です。

ビタミンと同様に、体の機能を維持・調整する上で欠かせない栄養素であり、特に毛髪の成長と維持には複数のミネラルが関与しています。

ミネラルは体内で作り出すことができないため、食事からバランス良く摂取することが大切です。

特定のミネラルが不足すると、髪の成長サイクルに支障をきたしたり、髪の構造そのものが弱くなったりすることがあります。

ここでは、毛髪と特に関係の深い亜鉛、銅、セレン、マグネシウムについて、その役割と検査の意義を解説します。

亜鉛 – 毛髪の成長と修復に必須

亜鉛とケラチン合成 ― 不足時の毛量・密度の違い

亜鉛は、髪の主成分であるケラチンの合成に必要不可欠なミネラルです。

タンパク質の合成や細胞分裂を司る多くの酵素の構成成分となっており、毛母細胞が分裂して新しい髪を作り出す過程で中心的な役割を果たします。

亜鉛が不足すると、毛母細胞の活動が著しく低下し、健康な髪を作ることができなくなります。その結果、脱毛症(特に円形脱毛症)や、髪の成長が遅れるといった症状を引き起こすことがあります。

また、亜鉛には乱れたヘアサイクルを正常に戻す働きもあるとされています。加工食品の摂取が多い、過度なダイエットをしているなどの場合に不足しやすいため、注意が必要です。

血液検査で血清亜鉛の値を測定することで、体内の亜鉛の状態を評価できます。

銅 – メラニン生成と毛髪構造

銅は、多くの酵素の働きを助ける補酵素として機能するミネラルです。毛髪においては、二つの重要な役割を持っています。一つは、髪の色を決めるメラニン色素の生成です。

銅は、メラニンを作り出すチロシナーゼという酵素の活性に必要であり、不足すると白髪の原因となることがあります。もう一つの役割は、髪の強度と弾力性を保つことです。

銅とメラニン・毛髪構造 ― 色素生成と結合強化のダブル役割

銅は、ケラチンタンパク質同士の結合(シスチン結合)を強化する働きがあり、これにより髪は強くしなやかになります。銅が不足すると、髪が細くなったり、切れやすくなったりする可能性があります。

ただし、通常の食生活で銅が不足することは稀で、むしろ亜鉛とのバランスが重要です。

セレン – 抗酸化作用と甲状腺機能

セレンは、強力な抗酸化作用を持つミネラルです。

体内で発生する活性酸素は、細胞を傷つけ老化を促進する原因となりますが、セレンは活性酸素から細胞を守るグルタチオンペルオキシダーゼという酵素の主成分です。

頭皮の細胞が活性酸素によってダメージを受けると、毛髪の成長環境が悪化し、抜け毛の原因となります。セレンは、この酸化ストレスから頭皮と毛包を保護する役割を果たします。

また、セレンは甲状腺ホルモンの活性化にも関与しています。甲状腺ホルモンは全身の代謝を調節しており、その機能が低下すると脱毛を引き起こすことがあるため、セレンの役割は間接的にも重要です。

セレンと抗酸化・甲状腺機能/マグネシウムと血流 ― 頭皮環境を守る

マグネシウム – タンパク質合成

マグネシウムは、体内で300種類以上の酵素の働きを助ける非常に重要なミネラルです。エネルギーの生成、筋肉の収縮、神経伝達など、生命活動の様々な場面で活躍します。

毛髪との関連では、タンパク質の合成をサポートする役割が挙げられます。髪の毛はケラチンというタンパク質でできており、マグネシウムはこの合成過程を円滑に進めるために必要です。

また、マグネシウムには血管を拡張させて血行を促進する働きもあり、頭皮への血流を改善し、毛根に栄養を届けやすくする効果も期待できます。

ストレスによって消費されやすいミネラルでもあるため、現代人は不足しないよう意識して摂取することが大切です。

髪の健康に関わる主要ミネラル

ミネラル髪への主な役割関連する毛髪トラブル
亜鉛ケラチン合成、細胞分裂の促進脱毛症、成長遅延、髪の菲薄化
メラニン生成、髪の結合強化白髪、髪質の低下、切れ毛
セレン抗酸化作用による頭皮保護脱毛、毛髪の脆弱化
マグネシウムタンパク質合成の補助、血行促進成長不良、頭皮環境の悪化

栄養状態・ミネラル検査に関するよくある質問

これらの検査はどこで受けられますか?

栄養状態に関する詳細な血液検査は、皮膚科や内科、または薄毛治療を専門とする当院のようなAGA専門クリニックなどで受けることができます。

一般的な健康診断の項目には含まれていないことが多いフェリチンや亜鉛、ビタミンDなども、医師に相談することで検査が可能です。

まずはかかりつけの医師や、お近くの専門医療機関に問い合わせてみることをお勧めします。

検査結果の数値が悪かった場合、どうすればよいですか?

検査結果で何らかの栄養素の不足や過剰が判明した場合は、自己判断でサプリメントなどを摂取するのではなく、必ず医師の指導を仰いでください。

医師は検査結果とあなたの健康状態、生活習慣などを総合的に判断し、食事内容の改善指導や、必要に応じたサプリメントの処方、治療などを提案します。

原因によっては、栄養吸収を妨げる他の疾患が隠れている可能性もあるため、専門家による適切な診断が重要です。

サプリメントだけで栄養状態は改善しますか?

サプリメントは、あくまで食事で不足する栄養素を補うための補助的な手段です。基本となるのは、様々な食材をバランス良く取り入れた毎日の食事です。

特定の栄養素だけをサプリメントで大量に摂取すると、かえって他の栄養素の吸収を妨げるなど、栄養バランスを崩してしまう危険性もあります。

まずは食生活を見直すことが第一歩です。その上で、医師のアドバイスに従い、適切な量と種類のサプリメントを活用することが、改善への近道です。

検査を受ける前に注意することはありますか?

検査項目によっては、食事の影響を避けるために、検査前の一定時間(例えば10〜12時間)の絶食が必要な場合があります。特に血清鉄や血糖値などは食事によって大きく変動します。

正確な結果を得るためにも、検査を受ける予定の医療機関の指示に必ず従ってください。事前に電話などで、検査前の食事や水分摂取に関する注意点を確認しておくとスムーズです。

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