薄毛や抜け毛が気になり始めたとき、多くの人が最初に手に取るのが「発毛剤」や「育毛剤」といった外用薬ではないでしょうか。
しかし、ドラッグストアやインターネット上には無数の商品が並び、自分にとって本当に必要なものがどれなのか判断に迷う方も少なくありません。
特にAGAの治療において、発毛剤選びは将来の毛量を左右する極めて重要な分岐点となります。誤った知識で製品を選び続けると、費用と時間を費やすだけで望む結果が得られない可能性もあります。
本記事では、発毛剤とは何かという根本的な定義から、有効成分ミノキシジルの働き、副作用への対処法、そして近年注目を集める新成分までを網羅的に解説します。
決定的な違いは「生える」かどうか|発毛剤 vs 育毛剤
発毛剤と育毛剤は、パッケージや販売形態が似ているため混同されがちですが、その使用目的と期待できる効果には医学的に明確な境界線が存在します。
発毛剤は「新たに髪を生やす」を目的とした医薬品であり、育毛剤は「今ある髪を健康に保つ」を主眼とした医薬部外品です。この違いへの理解が、薄毛対策の第一歩となります。
医薬品としての発毛剤の定義と役割
発毛剤とは、厚生労働省から「壮年性脱毛症における発毛、育毛及び脱毛(抜け毛)の進行予防」の効果が認められた医薬品を指します。
最大の特徴は、すでに髪が抜け落ちてしまった毛穴に対して働きかけ、再び髪を成長させる力を持っている点です。
日本国内で発毛効果が認められている外用成分は、現在のところ「ミノキシジル」が代表的です。
医薬品であるため、購入時には薬剤師による確認が必要な「第一類医薬品」に分類されるのが一般的です。これは、効果を実感しやすい反面、副作用のリスクも考慮する必要があるためです。
発毛剤は、毛包(髪を作り出す工場)が委縮してしまった状態から、再び太く強い髪を作り出すためのスイッチを入れる役割を担っています。
AGAによって短縮されたヘアサイクルを正常化し、成長期を延長させて髪の総量を増やすのが本来の役割です。
育毛剤が得意とする守りのアプローチ
一方、育毛剤は主に「医薬部外品」に分類されます。これは、人体に対する作用が緩やかであることを意味しており、治療というよりも予防や衛生維持を目的としています。
頭皮の血行を促進したり頭皮環境を清潔に保ったりして、今生えている髪が抜けにくくなるようにサポートするのが育毛剤の役割です。
具体的には、頭皮の炎症を抑える成分や、保湿成分、血行促進成分などが配合されています。
これらは、髪が育つための土壌である頭皮を整える効果はありますが、すでに死滅に近い状態にある毛根から新しい髪を生やす力はありません。
そのため、薄毛が明らかに進行しており、地肌が透けて見えるような状態の場合、育毛剤だけで劇的な改善を望むのは難しいのが現実です。
育毛剤はあくまで「守り」のアイテムであり、将来の薄毛を予防したい人や、抜け毛が少し気になり始めた段階の人に適しています。
目的別に見る正しい使い分けの基準
ご自身の頭皮の状態に合わせて、発毛剤と育毛剤の適切な使い分けが重要です。
鏡を見たときに、明らかに髪の密度が減っている、生え際が後退している、あるいは頭頂部の地肌が見えている場合は、迷わず発毛剤を選択する必要があります。
AGAは進行性の症状であるため、守りのケアだけでは進行を食い止めるのが困難だからです。
一方で、まだ見た目には大きな変化がないものの将来のためにケアをしておきたい、フケやかゆみを防ぎたい、髪にハリやコシを出したいという場合は育毛剤が適しています。
また、発毛剤の副作用が心配で、まずはリスクの低い方法から始めたいという方が育毛剤からスタートするケースもあります。
重要なのは、自分が「髪を生やしたい」のか、それとも「現状を維持したい」のかという目的を明確にすることです。
発毛剤と育毛剤の比較
| 比較項目 | 発毛剤(医薬品) | 育毛剤(医薬部外品) |
|---|---|---|
| 主な目的 | 新しい髪を生やす、脱毛の進行を止める | 今ある髪を育てる、頭皮環境を整える |
| 分類 | 第一類医薬品 | 医薬部外品・化粧品 |
| 代表的な成分 | ミノキシジル、フィナステリド(内服) | センブリエキス、グリチルリチン酸2K |
| 購入方法 | 薬剤師の確認が必要 | ドラッグストア・通販で自由に購入可 |
| 期待できる変化 | 毛髪密度の増加、太い髪の再生 | 抜け毛の減少、フケ・かゆみの抑制 |
発毛剤と育毛剤について詳しく見る
発毛剤と育毛剤の違いとは?使い分けと目的に応じた製品選択
最大の発毛成分「ミノキシジル」|効果と種類の違い
日本国内で承認されている発毛剤の主成分といえば「ミノキシジル」です。世界90カ国以上で使用され、数多くの臨床データによってその発毛効果が裏付けられています。
ミノキシジルがなぜ髪を生やせるのか、その働きと製品による濃度の違いについて詳しく見ていきます。
血管拡張と毛母細胞への直接作用
ミノキシジルはもともと、高血圧の治療薬(血管拡張剤)として開発された成分です。服用した患者さんに多毛の副作用が見られたため、発毛剤へと転用されたという経緯があります。
頭皮に塗布されたミノキシジルは毛包周辺の毛細血管を拡張し、血流を改善します。血液は髪の材料となる栄養素や酸素を運ぶ重要なルートであるため、血流が増えると毛根に十分な栄養が届くようになります。
しかし、ミノキシジルの効果は血流改善だけにとどまりません。より重要な働きとして、毛根にある「毛母細胞」や「毛乳頭細胞」に直接働きかけ、細胞分裂を活性化させる作用があります。
具体的には、髪の成長を促す因子(VEGFやFGF-7など)の産生を高め、休止期に入って活動を停止していた毛包を、再び活動的な成長期へと移行させます。
この「血管拡張」と「細胞活性化」のダブルのアクションが、確実な発毛効果を生み出す源泉となっています。
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ミノキシジル完全ガイド
濃度1%と5%の使い分けと推奨基準
市販されているミノキシジル製剤には、主に濃度1%のものと5%のものがあります。一般的に、男性用の発毛剤としては濃度5%がスタンダードとなっています。
これは、臨床試験において1%製剤よりも5%製剤の方が、明らかに優れた発毛効果を示したというデータがあるためです。
日本皮膚科学会のガイドラインでも、男性型脱毛症に対しては5%ミノキシジルの外用が強く推奨されています。
濃度が高ければ高いほど効果が期待できますが、同時に頭皮への刺激やかゆみといった副作用のリスクもわずかながら上昇します。
そのため、初めて使用する方や肌が弱い方は1%から始める場合もありますが、本格的にAGA治療を行うのであれば、最初から5%製剤を選択するほうが合理的です。
なお、国内の市販薬(OTC医薬品)におけるミノキシジルの最大濃度は5%と定められています。
海外にはさらに高濃度の製品も存在しますが、国内での安全性と有効性のバランスが確立されているのは5%までであると認識しておきましょう。
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発毛剤の種類と選び方|AGAに効果的な成分解説
女性用製品との決定的な違い
ミノキシジルは女性の薄毛(FAGA)にも有効ですが、男性用と女性用では推奨される濃度が異なります。
女性の場合、男性よりも皮膚が薄くデリケートである点や、ホルモンバランスの影響を受けやすい事実から、高濃度のミノキシジルを使用すると顔の産毛が濃くなるなどの副作用が出やすい傾向にあります。
そのため、国内で承認されている女性用ミノキシジル外用薬の濃度は1%が上限となっています。
男性用の5%製剤を女性が使用するのは推奨されていません。夫婦やパートナーであっても、発毛剤の共用は避ける必要があります。
女性用の製品には、ミノキシジル以外にも女性ホルモンの減少に対応した保湿成分などが追加配合されているものも多く、それぞれの性別の特性に合わせた処方が組まれています。
市販・通販・安さで選ぶ|失敗しない購入ガイド
かつてはミノキシジル配合の発毛剤といえば特定の一商品しか選択肢がありませんでしたが、特許期間の満了に伴い、現在では多くのメーカーからジェネリック的な製品が発売されています。
成分が同じであれば効果も同等であるため、価格や使いやすさで賢く選ぶことが、長く治療を続けるための秘訣です。
ジェネリック発毛剤の登場と価格破壊
先発品と後発品(ジェネリック)の最大の違いは、開発コストの有無による価格差です。
後発品は、すでに確立された有効成分ミノキシジル5%を使用しているため、研究開発費が抑えられ、その分安価に提供されています。
製品によっては、先発品の半額近い価格で購入できるものもあり、毎月のランニングコストを大幅に下げられます。
「安いから効果が薄いのではないか」と不安に感じる方もいますが、有効成分の濃度が同じ「ミノキシジル5%」であれば、医学的な発毛効果に差はありません。
違いがあるとすれば、液だれを防ぐための添加物や、清涼感を与える成分、容器の使い勝手、そしてブランドイメージです。
長期的な継続が必要なAGA治療において、経済的な負担を減らす工夫は、治療の脱落を防ぐという意味でも非常に重要な要素です。
薬剤師による問診の必要性とオンライン購入
ミノキシジル配合の発毛剤は第一類医薬品であるため、購入時には必ず薬剤師による情報提供と、使用者の健康状態の確認が必要です。
これはドラッグストアの対面販売だけでなく、インターネット通販(ECサイト)でも同様です。
通販の場合は、購入ボタンを押した後に表示される問診フォームに回答し、その内容を薬剤師が確認して承認メールが届いて、初めて注文が確定する仕組みになっています。
近所の薬局で発毛剤を買うのが恥ずかしいと感じる方にとって、通販は非常に便利な手段です。また、通販限定の安価なプライベートブランド商品も増えています。
ただし、心臓に持病がある方や、過去に薬でアレルギーを起こした経験がある方は、形式的なチェックで済ませず、必ず医師や薬剤師に相談の上で使用を開始するのが安全確保のために重要です。
商品選びで確認すべき重要チェックポイント
数ある商品の中から自分に合った一本を選ぶために、確認すべきポイントを整理します。
まずは何よりも「ミノキシジル5%配合」と明記されているかを確認します。
次に注目すべきは「容器の形状」です。毎日朝晩の2回、頭皮に塗布する必要があるため、ノズルが塗りやすい形状か、液量の計量が簡単かどうかが、継続のしやすさに直結します。
また、アルコール(エタノール)の配合量や添加物もチェックポイントです。ミノキシジルを溶かすために多くの製品にエタノールが含まれていますが、これが頭皮への刺激となる場合があります。
敏感肌用の低刺激処方を謳っている製品や、保湿成分を配合して乾燥を防ぐ製品など、付加価値の部分で自分に合うものを選定します。
最後に、無理なく続けられる価格帯であるかを冷静に判断してください。
選び方のチェック項目
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 成分濃度 | 男性なら「ミノキシジル5%」配合のものを選ぶ。 |
| 1mlあたりの単価 | 長期継続を前提に、月額コストを算出する。 |
| ノズルの形状 | 頭皮に直接届くピンポイントノズルや、広範囲に塗れる広口タイプなど好みで選ぶ。 |
| 添加成分 | 頭皮のかゆみを防ぐ抗炎症成分や、清涼成分の有無を確認する。 |
| 購入の手軽さ | 定期購入割引があるか、オンラインで完結するかを確認する。 |
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市販の発毛剤の正しい選び方と使用上の注意点
使用前に知るべき副作用とリスク
医薬品である以上、発毛剤には必ず副作用のリスクが伴います。
副作用についての正しい理解は、万が一症状が出た際に冷静に対処するためにも、また、過度な不安を持たずに治療を開始するためにも必要です。
主な副作用には皮膚トラブルや初期脱毛がありますので、それぞれの発生頻度と対処法を事前に把握しておきましょう。
皮膚トラブルが最も多い副作用
ミノキシジル外用薬の副作用として最も頻繁に報告されるのが、頭皮のかゆみや発疹、発赤やかぶれ(接触皮膚炎)です。
これらは、主成分のミノキシジルそのものが合わない場合もあれば、溶剤として含まれるプロピレングリコールやエタノールなどの添加物に反応している場合もあります。
厚生労働省のデータや市販薬の添付文書によると、数パーセントから10パーセント未満の確率で発生するとされています。
軽度のかゆみであれば使用を一時中断して様子を見ることで改善する場合もありますが、強い赤みや湿疹が出た場合は直ちに使用を中止し、皮膚科医に相談する必要があります。
無理に使用を続けると頭皮環境が悪化し、かえって抜け毛が増える原因にもなりかねません。敏感肌の方は、使用前に二の腕の内側などでパッチテストを行うのがおすすめです。
循環器系への影響と注意点
頻度は極めて稀ですが、動悸やめまい、血圧低下やむくみといった循環器系の副作用が現れる可能性があります。
これは前述の通り、ミノキシジルがもともと血圧を下げる薬として開発された成分であることに由来します。
外用薬の場合、成分が血液中に吸収される量は内服薬に比べて非常に少ないため、全身性の副作用が起こる確率は低いとされています。
しかし、高血圧や低血圧で治療中の方、心臓に障害のある方は心臓への負担が増えるリスクがあるため、自己判断での使用は避けるべきです。
使用中に胸の痛みや急激な体重増加、手足のむくみを感じたときは内科的な問題が生じている可能性があるため、速やかに医師の診察を受けてください。
初期脱毛は効果の裏返し
副作用とは少し異なりますが、発毛剤の使用開始から2週間〜1ヶ月後くらいに、一時的に抜け毛が増える「初期脱毛」という現象が起こるケースがあります。
これは、ミノキシジルの効果によってヘアサイクルが動き出し、休止期にあった古い髪が、新しく生えてきた強い髪に押し出されるために起こります。
多くの人はこの抜け毛に驚いて使用をやめてしまいますが、これは薬が効いている証拠であり、好転反応の一種です。初期脱毛は通常1〜2ヶ月程度で収まります。
ここで使用を中止してしまうとヘアサイクルが改善されず、元の状態に戻ってしまいます。初期脱毛は「新しい髪が準備されているサイン」と捉え、焦らずに使用を継続しましょう。
主な副作用と対処法
| 症状の分類 | 具体的な症状 | 推奨される対応 |
|---|---|---|
| 皮膚症状(高頻度) | 頭皮のかゆみ、赤み、発疹、フケ、熱感 | 使用を中止し、水で洗い流す。改善しない場合は皮膚科へ。 |
| 循環器症状(低頻度) | 動悸、息切れ、胸の痛み | 直ちに使用を中止し、循環器内科等を受診する。 |
| その他 | 頭痛、めまい、手足のむくみ、急な体重増加 | 医師または薬剤師に相談する。 |
| 初期脱毛 | 使用開始初期の一時的な抜け毛の増加 | 効果の現れであるため、心配せずに使用を継続する。 |
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発毛剤の副作用と対処法 – 安全な使用のために
効果が出るまでの期間と「継続」の壁
発毛剤はお金を出して買えばすぐに髪が生える魔法の薬ではありません。生物学的なヘアサイクルに基づいた治療であるため、目に見える効果が現れるまでには一定の時間が必要です。
このタイムラグを理解していないと、「効果がない」と早合点して治療を放棄してしまうことになります。
ヘアサイクルが正常化するまでのタイムラグ
髪の毛は、成長期(数年)、退行期(数週間)、休止期(数ヶ月)というサイクルを繰り返しています。AGAの方はこの成長期が極端に短くなり、髪が太く育つ前に抜けてしまっています。
発毛剤を使用して毛根に刺激を与えても、すぐに太い髪が地表に出てくるわけではありません。
まず休止期の毛包が活動を再開し、新しい髪を作り始め、それが頭皮の表面まで伸びてくるのに時間がかかります。さらに、最初は産毛のような細い毛から始まり、徐々に太く硬い毛へと変わっていきます。
一般的に、ミノキシジル5%製剤の効果が実感できるまでには、早くて4ヶ月、平均して6ヶ月程度の継続使用が必要とされています。最初の1〜2ヶ月で変化が見られないのは、生理学的に当たり前のことなのです。
使用を中止するとどうなるか
残念ながら、発毛剤によるAGA治療は対症療法であり、完治させるものではありません。
使用を継続している間は薬の効果によって血管が拡張し、成長因子が産生され、ヘアサイクルが維持されます。
しかし、使用を中止すると薬によるサポートがなくなり、体質や遺伝による本来のAGAの進行力が再び優勢になります。
その結果、数ヶ月かけて改善したヘアサイクルは再び短縮を始め、生えてきた髪も徐々に細くなり、やがて抜け落ちて元の状態に戻ってしまいます。これを「リバウンド」と呼びます。
発毛状態を維持するためには、使用を習慣化できるか否かが重要です。ある程度満足のいく毛量になったとしても、急に止めるのではなく、医師と相談しながら減薬するなど慎重な判断が求められます。
モチベーションを維持するためのコツ
半年間、効果が確信できないまま毎日薬を塗り続けるのは精神的にも辛いものです。モチベーションを維持するためには、定期的に頭皮の写真を撮影して記録を残すのがおすすめです。
自分では毎日見ているため変化に気づきにくいですが、数ヶ月前の写真と比較すると、産毛の増加や地肌の透け感の減少といった小さな変化を客観的に確認できます。
また、使用感を重視した製品選びも大切です。べたつきが強いものや匂いが気になるものは、使用自体がストレスになり継続の妨げになります。
さらに、信頼できるクリニックや医師を見つけ、定期的な診察を受けると、孤独な治療を乗り越えるための大きな支えとなるでしょう。
効果を最大化する正しい使い方と注意点
どんなに優れた成分が含まれていても、使い方が間違っていれば効果は半減してしまいます。逆に言えば、正しい使用法を守ると、成分のポテンシャルを最大限に引き出せます。
発毛剤の効果を確実に得るためには、頭皮環境を整えるプレケアや正しい塗布手順など、実践的なテクニックを習得しましょう。
頭皮環境を整える「プレケア」の重要性
発毛剤を塗布するタイミングとして最も適しているのは、洗髪後の清潔な状態です。頭皮に皮脂や整髪料の汚れが残っていると、それがバリアとなり、有効成分の浸透を妨げてしまいます。
また、濡れたままの頭皮に使用すると、成分が水分で薄まってしまったり、液だれの原因になったりします。
シャンプーで汚れをしっかり落とした後、タオルドライとドライヤーで髪と頭皮を十分に乾かしてから塗布してください。
ただし、頭皮を乾燥させすぎないよう、ドライヤーの熱風を当てすぎないことも大切です。清潔で適度に乾いた頭皮こそが、ミノキシジルを受け入れる最良の土台となります。
1日2回を守る理由と塗布のコツ
多くのミノキシジル製剤は「1日2回、1回1ml」の使用が定められています。これは、成分の血中濃度や頭皮内での濃度を一定に保ち、24時間体制で毛包を刺激し続けるために計算された回数です。
1回に大量に使っても効果が高まるわけではなく、副作用のリスクが増すだけです。「夜だけ2倍塗る」といった使い方も推奨されません。朝と晩、時間を空けて使用しましょう。
塗布する際は気になる部分だけでなく、その周辺を含めて広範囲に行き渡らせるようにします。
ノズルを頭皮にトントンと軽く当て、薬液をなじませた後、指の腹を使って優しくマッサージするように揉み込むと、血行促進効果も相まってより効果的です。
ただし、爪を立てたり強くこすりすぎたりして頭皮を傷つけないよう注意してください。
絶対にやってはいけないNG行動
発毛剤の効果を妨げるだけでなく、頭皮トラブルの原因となる行動があります。特に注意したいのが、指定用量以上の過剰使用です。
早く治したい一心で頻繁に塗布しても、皮膚のバリア機能が破壊され、かぶれの原因になるだけです。
また、整髪料を使用する場合は、発毛剤を塗って乾かした「後」に使用するのが鉄則です。先に整髪料がついていると薬剤が浸透しません。
さらに、古い製品の使用も避けるべきです。開封後の発毛剤は酸化が進むため、使用期限を守り、開封後はなるべく早く使い切るようにします。
保存方法も重要で、直射日光の当たる場所や高温になる場所に放置すると成分が変質する恐れがあります。正しい保管と使用法を守ることが、安全で効果的な治療への近道です。
ヒト幹細胞培養液の発毛効果とは
近年、再生医療の分野から派生し、美容業界や薄毛ケアの分野で急速に注目を集めているのが「ヒト幹細胞培養液」です。
ミノキシジルとは全く異なる働きかけで髪の悩みに応えようとするこの新成分について、その実力と現状の位置づけを解説します。
再生医療から生まれた新しい取り組み
ヒト幹細胞培養液とは、ヒトの幹細胞(脂肪由来や臍帯由来など)を培養する際に分泌される上澄み液です。
この液体には、細胞そのものは含まれていませんが、細胞が分裂・増殖する際に放出した数百種類もの「成長因子(グロースファクター)」や「サイトカイン」が豊富に含まれています。
従来の発毛剤が、血管拡張や特定の受容体への作用といった単一または限定的なメカニズムで働いていたのに対し、ヒト幹細胞培養液は老化した細胞そのものを活性化させ、組織の修復や再生を促すという根本的なケアを目指しています。
頭皮においては、毛母細胞の増殖促進や、頭皮のコラーゲン・ヒアルロン酸の産生を助け、髪が育ちやすい若々しい頭皮環境を取り戻す効果が期待されています。
ミノキシジルとの決定的な違いと併用の可能性
重要な点は、現在日本国内においてヒト幹細胞培養液を配合した製品の多くは「化粧品」としての扱いであり、ミノキシジルのような「医薬品(発毛剤)」ではないということです。
そのため、効能・効果として「発毛」を明確に謳うことはできません。あくまで頭皮環境を整え、髪にハリやコシを与えるエイジングケアの一環として位置づけられています。
しかし、その潜在能力は高く評価されており、クリニックでの注入治療などに応用されています。また、作用機序が異なるため、ミノキシジルとの併用も可能です。
ミノキシジルで強力に発毛スイッチを押しつつ、ヒト幹細胞培養液で頭皮の土壌改良を行うという「攻めと守り」のハイブリッドなケアは、今後の薄毛対策のトレンドになる可能性があります。
エクソソームへの注目と今後の展望
ヒト幹細胞培養液の中で、特に注目されている微細な物質が「エクソソーム」です。
エクソソームは細胞間の情報を伝達するメッセンジャーのような役割を果たしており、損傷した細胞に「修復せよ」という指令を届ける働きがあることが分かってきました。
質の高いヒト幹細胞培養液にはこのエクソソームが豊富に含まれており、これが毛根の細胞に届くため、より効率的に発毛シグナルが伝達されると考えられています。
現在はまだ研究段階の部分も多い成分ですが、従来の医薬品では効果が出にくかった方や、副作用でミノキシジルが使えない方にとって、新たな選択肢となる可能性を秘めています。
主要成分の特性比較
| 項目 | ミノキシジル | ヒト幹細胞培養液 |
|---|---|---|
| 分類 | 第一類医薬品 | 化粧品(一部クリニックでは医療用製剤) |
| 主な作用 | 血管拡張、毛母細胞の直接活性化 | 成長因子の補給、組織修復、頭皮環境改善 |
| エビデンス | 医学的に確立された高いエビデンスあり | 研究段階だが、再生医療分野で期待大 |
| 副作用リスク | かゆみ、動悸等のリスクあり | 比較的低い(アレルギー等のリスクはゼロではない) |
ヒト幹細胞培養液について詳しく見る
ヒト幹細胞発毛剤の効果と使用方法について
よくある質問
- 発毛剤は年齢制限がありますか?
-
一般的に市販のミノキシジル配合発毛剤は「20歳以上」の使用が義務付けられています。これは、未成年者を対象とした臨床試験が行われておらず、安全性が確立されていないためです。
未成年の薄毛はAGA以外の原因(成長期のホルモンバランスやストレス、別の疾患など)も考えられるため、安易に発毛剤を使用せず、まずは皮膚科専門医に相談しましょう。
- 白髪染めやヘアカラーをした直後でも使えますか?
-
ヘアカラーや白髪染めをした当日は、頭皮が薬剤によって敏感になっている可能性があるため、発毛剤の使用を控えるか、あるいは時間を十分に空けてから使用することが推奨されます。
また、発毛剤の成分によっては、カラーリングの色落ちを早めたり、変色させたりする可能性もゼロではありません。
完全に髪が乾いた状態で使用し、美容室で施術を受ける際は事前に発毛剤を使用していることを伝えておくと安心です。
- 発毛剤を使えば、完全にかつてのフサフサな状態に戻りますか?
-
改善の程度には個人差があり、完全に元の毛量に戻ることを保証するものではありません。
特に、毛根が完全に死滅してしまい、頭皮が硬化してしまった部分からは、発毛剤を使用しても新しい髪が生えてこないケースが多いです。
発毛剤は「残っている毛根」を活性化させるものです。
早期に治療を開始するほど、元の状態に近づける可能性は高くなりますが、過度な期待を持たず、現状より改善し維持することを目標にするのが現実的です。
- 眉毛やヒゲに塗っても効果はありますか?
-
頭髪用の発毛剤を眉毛やヒゲに使用することは推奨されていません。頭皮と顔の皮膚では吸収率や敏感さが異なるため、顔に使用すると強い副作用(肌荒れやかぶれ)が出る危険性があります。
また、目に入った場合の危険性も考慮する必要があります。眉毛やヒゲを生やしたい場合は、それぞれ専用に開発された医薬品(ミクロゲン・パスタなど)を使用するようにしてください。
- 一度生えた髪は、薬をやめても残りますか?
-
基本的には残りません。AGAは進行性の症状であり、発毛剤はその進行を薬の力で抑え込んでいる状態です。
使用を完全に中止すると、抑制されていた脱毛因子が再び働き始め、数ヶ月かけて治療前の状態に戻っていきます。
経済的な事情などで使用を中止したい場合は、徐々に使用頻度を減らすか、維持療法としてフィナステリド等の内服薬に切り替えるなど、医師と相談しながら軟着陸の方法を探りましょう。
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