薄毛対策として育毛剤を探す中で、「アデノシン」という成分や「アデノゲン」といった商品名を目にしたことがある方は多いでしょう。
ミノキシジルとは違うアプローチで育毛効果が期待されるアデノシンですが、その具体的な働きや、ご自身の薄毛の悩みに本当に合っているのかを正確に理解するのは難しいものです。
この記事ではアデノシンが持つ育毛効果の科学的根拠から効果的な使い方、副作用のリスク、そしてAGA治療における立ち位置まで専門家の視点で網羅的に解説します。
広告のイメージに惑わされず成分の本質を理解し、ご自身にとって良い選択をするためにお役立てください。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
そもそもアデノシンとは?体内で働く重要な成分
アデノシンは育毛剤の成分として知られる前に、まず私たちの体内のあらゆる細胞に存在し、生命活動を支える極めて重要な役割を担っている生体成分です。
この体内での働きを理解することが、育毛効果を理解する上での基礎となります。
生体内のエネルギー伝達物質
アデノシンは細胞が活動するためのエネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)の構成成分です。
筋肉を動かしたり細胞が分裂したりと、体内でエネルギーが必要とされる場面で中心的な役割を果たします。つまり、アデノシンは細胞を元気に活動させるための根源的な物質の一つと言えます。
血管拡張と血流促進の働き

アデノシンには血管を拡張させて血流を促進する作用もあります。血流が良くなることで体の隅々の細胞まで酸素や栄養素が効率的に届けられます。
この血流改善作用が頭皮環境を整え、毛髪の成長をサポートする上で重要な意味を持ちます。
アデノシンの体内での主な役割
役割 | 具体的な働き | 体への影響 |
---|---|---|
エネルギー代謝 | ATPの構成成分としてエネルギーを供給 | 細胞活動の活性化 |
血流調整 | 血管平滑筋を弛緩させ、血管を拡張 | 血行促進、栄養供給の向上 |
情報伝達 | 神経伝達物質として細胞間の信号を伝える | 様々な生理機能の調整 |
育毛剤に応用される理由
この「細胞を元気にする働き」と「血流を良くする働き」が頭皮環境の改善と毛髪の成長に良い影響を与えることが研究で明らかになり、育毛剤の有効成分として応用されるようになりました。
もともと体内に存在する成分であるため安全性が高く、副作用のリスクが低い点も大きな特徴です。
アデノシンの育毛における具体的な効果
では、アデノシンが頭皮に作用した際、具体的にどのような育毛効果を発揮するのでしょうか。
その働きは大きく3つに分けられます。これらは健康な髪を育てるための重要な要素です。
発毛促進因子「FGF-7」の産生を促す
アデノシンの最も特徴的な効果は毛根にある毛乳頭細胞に直接働きかけ、発毛促進因子である「FGF-7(線維芽細胞増殖因子-7)」の産生を促すことです。
FGF-7は髪の毛の元となる毛母細胞に対して「髪を作れ」という指令を出す重要な役割を担っています。
この指令が活発になることで毛母細胞の分裂が促され、発毛が促進されます。
ヘアサイクルの成長期を延長する

髪には成長期・退行期・休止期からなるヘアサイクルがあります。薄毛はこの成長期が短くなり、髪が太く長く育つ前に抜けてしまうことで進行します。
アデノシンはFGF-7の産生促進を通じて、この短くなった成長期を正常な長さに戻すのを助ける働きがあります。
その結果、髪がしっかりと成長する時間を確保でき、抜け毛の減少や髪のハリ・コシの改善が期待できます。
アデノシンの主な育毛作用
作用 | ターゲット | 結果として期待される効果 |
---|---|---|
FGF-7産生促進 | 毛乳頭細胞 | 毛母細胞の増殖を促し、発毛を促進する |
成長期延長 | ヘアサイクル | 髪を太く長く育て、抜け毛を予防する |
血行促進 | 頭皮の毛細血管 | 毛根への栄養供給を改善する |
頭皮の血行を改善する
アデノシン本来の血管拡張作用により、頭皮の毛細血管の血流を改善します。髪の成長に必要な酸素や栄養素は血液によって毛根へ運ばれます。
血行が促進されることで毛母細胞が活発に分裂するためのエネルギーや栄養が十分に行き渡り、健康な髪が育つための土台が整います。
アデノシン配合育毛剤(アデノゲンなど)の特徴
アデノシンを有効成分として配合した育毛剤は、市販品として広く流通しています。その代表的な製品が「アデノゲン」です。
これらの製品が持つ特徴や、他の育毛成分との違いを理解しておきましょう。
医薬部外品としての位置づけ
アデノシンを有効成分とする育毛剤は「医薬部外品」に分類されます。これは病気の「治療」を目的とする「医薬品」と、効果効能が緩やかな「化粧品」の中間に位置します。
「発毛促進」「育毛」「脱毛の予防」といった効果を表示することが認められていますが、AGAを治療するといった直接的な表現はできません。
副作用が少なく使いやすい
アデノシンはもともと体内に存在する生体成分であるため、アレルギー反応などが起こる可能性は極めて低く、副作用のリスクが少ないのが大きなメリットです。
刺激感もほとんどなく、肌質を問わず多くの方が安心して使用できます。この安全性の高さが長く継続使用する上で重要なポイントとなります。
ミノキシジルとの作用の違い
同じく育毛効果が認められている成分に「ミノキシジル」があります。ミノキシジルも血管拡張による血行促進作用を持ちますが、アデノシンとの大きな違いは作用する相手です。
アデノシンが毛乳頭細胞に働きかけてFGF-7を増やすのに対し、ミノキシジルは毛母細胞に直接働きかけてその活動を活性化させると考えられています。
アプローチの仕方が異なるため、それぞれの特徴も異なります。
アデノシンとミノキシジルの比較
項目 | アデノシン | ミノキシジル |
---|---|---|
分類 | 医薬部外品 | 第一類医薬品 |
主な作用 | FGF-7産生促進、血行促進 | 毛母細胞の活性化、血行促進 |
副作用リスク | 極めて低い | かゆみ、かぶれ、初期脱毛など |
「効果がない」と感じるあなたへ – 期待と現実のギャップ
「アデノゲンを数ヶ月使ってみたけど、全く変化がない…」。そう感じてがっかりしたり、焦ったりしていませんか。
その製品が悪いわけでも、あなたの努力が足りないわけでもないかもしれません。その「効果がない」という感覚の裏には、多くの薄毛に悩む方が直面する期待と現実のギャップが存在します。
なぜ効果を実感しにくいのか
髪の毛が目に見えて変化するには時間がかかります。ヘアサイクルは数ヶ月から数年単位の長い周期で動いているため、育毛剤を使い始めてすぐにフサフサになることはありません。
また、アデノシンの効果は「今ある髪を抜けにくくし、少しずつ太くする」という穏やかなものであるため、劇的な変化を実感しにくいのは当然のことなのです。
「育毛」と「発毛」の言葉の壁
私たちは「育毛」という言葉に、無意識のうちに「髪が新しく生える=発毛」というイメージを重ねてしまいがちです。
しかし、医薬部外品であるアデノシン製品の役割は、あくまで「今ある髪を育てる」環境を整えることです。
AGAのように髪を生み出す力が弱まっている状態に対して「発毛」というレベルの変化を期待すると、そのギャップに苦しむことになります。
効果を実感しにくい理由の整理
要因 | 内容 | 持つべき心構え |
---|---|---|
時間的な要因 | ヘアサイクルの周期は長く、変化は緩やか | 最低でも6ヶ月は継続して様子を見る |
効果の性質 | 劇的な発毛ではなく、抜け毛予防やハリ・コシ改善が主 | 過剰な期待をせず、頭皮環境の変化を観察する |
原因との不一致 | 進行したAGAには育毛剤だけでは力不足 | 根本原因(AGA)への対策を検討する |
その焦り、専門家は理解しています
毎日鏡を見てはため息をつき、シャンプーの時の抜け毛に一喜一憂する。その焦りや不安な気持ちは決して一人で抱えるものではありません。当院では、そうした患者様の心理的な負担も深く理解しています。
「効果がない」と感じた時こそ自己判断でケアを続けるのではなく、一度立ち止まって専門家の視点を取り入れることが解決への近道になるかもしれません。
あなたの悩みの本質を見極め、次の一手を一緒に考える準備が私たちにはあります。
アデノシン外用薬の効果的な使い方

アデノシンの効果を最大限に引き出すためには毎日正しく使い続けることが何よりも重要です。
自己流で使っている方は、一度基本に立ち返ってみましょう。
清潔な頭皮に使うのが大前提
育毛剤は洗髪後の清潔な頭皮に使用するのが基本です。皮脂や汚れが毛穴に詰まっている状態では有効成分が十分に浸透しません。
シャンプーで頭皮をきれいにし、タオルドライ後はドライヤーで髪をある程度乾かした状態で使用するのが良いでしょう。
正しい塗布の量と範囲
製品に記載されている1回の使用量を守りましょう。多すぎても効果が高まるわけではなく、ベタつきの原因になります。
薄毛が気になる部分だけでなく、その周辺も含めて頭皮全体にいきわたるように塗布するのがポイントです。
塗布後は指の腹で優しく頭皮をマッサージすると血行がさらに促進され、成分の浸透を助けます。
- 洗髪後、清潔で乾いた頭皮に使う
- 気になる部分を中心に、頭皮全体に塗布する
- 指の腹で優しくマッサージする
毎日継続することが重要
アデノシンの効果は継続して使用することで少しずつ現れます。ヘアサイクルのことを考えても、効果を判断するには最低でも6ヶ月は毎日欠かさず使用を続けることが必要です。
面倒に感じる日もあるかもしれませんが、毎日の歯磨きと同じようにヘアケアを生活習慣の一部として組み込むことが成功の鍵です。
アデノシンとAGA治療薬の併用という選択肢

アデノシン単体での効果に限界を感じる場合、特にAGAが進行している方にとっては医学的根拠のある治療薬との併用が非常に有効な選択肢となります。
異なるアプローチによる相乗効果
AGA治療薬とアデノシンは薄毛に対して異なる角度からアプローチします。このため、併用することで、それぞれの弱点を補い合い、より高い効果が期待できるのです。
各治療法のアプローチの違い
治療法 | 主なアプローチ | 役割 |
---|---|---|
AGA治療薬(内服) | 抜け毛の原因(DHT)を抑制する | 守り(抜け毛を止める) |
ミノキシジル(外用) | 毛母細胞を直接活性化させる | 攻め(発毛を促す) |
アデノシン(外用) | 発毛因子を増やし、頭皮環境を整える | 土台作り(育毛環境を整える) |
ミノキシジル外用薬との併用
アデノシンとミノキシジルはどちらも外用薬(塗り薬)ですが、作用する場所が異なります。
併用することでFGF-7の産生促進と毛母細胞の直接的な活性化という、二つの異なる発毛促進の指令を同時に送ることができ、より力強い育毛効果が期待されます。
使用する際は製品同士が混ざらないよう、時間を空けて塗布するなどの工夫が必要です。
内服薬治療との組み合わせ
フィナステリドやデュタステリドといったAGA治療の内服薬は抜け毛の根本原因であるDHTの産生を抑えます。
この「守り」の治療で抜け毛の進行を止めつつ、アデノシンで「土台作り」を行うことで治療効果をさらに高めることができます。
薄毛がある程度進行している方には、この組み合わせが標準的な治療法の一つとなります。
アデノシン外用薬の副作用と注意点
アデノシンは安全性の高い成分ですが、医薬部外品である以上、副作用のリスクがゼロというわけではありません。使用前に注意点を確認しておきましょう。
副作用は極めてまれ
アデノシン外用薬の副作用報告は極めて少なく、ほとんどの方が問題なく使用できます。まれに、塗布した部分に軽いかゆみや赤み、刺激感が出ることがありますが、多くは一時的なものです。
しかし、症状が続く場合や悪化する場合は使用を中止してください。
使用初期の一時的な抜け毛
これは副作用ではありませんが、育毛剤を使い始めると、乱れたヘアサイクルが正常化する過程で休止期にあった古い髪が新しい髪に押し出されて、一時的に抜け毛が増えたように感じることがあります。
これは「初期脱毛」と呼ばれる現象で、効果が出始めている証拠とも言えます。通常は1~2ヶ月で収まりますが、不安な場合は専門医に相談しましょう。
アレルギーや肌に合わない場合
アデノシン自体へのアレルギーはまれですが、製品に含まれるアルコールや他の添加物に対してアレルギー反応を起こす可能性があります。
使用していて強いかゆみや発疹、腫れなどが出た場合は、アレルギー性の接触皮膚炎の可能性があります。直ちに使用を中止し、皮膚科を受診してください。

Q&A
アデノシンに関して、患者様からよく寄せられる質問にお答えします。
- 女性でも使えますか?
-
はい、使用できます。
アデノシンはホルモンに作用する成分ではないため、女性の薄毛(びまん性脱毛症など)にも使用することが可能です。
実際に、女性向けの育毛剤にもアデノシンが配合されている製品があります。
- いつから効果が出始めますか?
-
効果の感じ方には個人差がありますが、ヘアサイクルを考慮すると最低でも6ヶ月間の継続使用が一つの目安となります。
抜け毛の減少や、髪にハリ・コシが出てきたといった変化から感じ始める方が多いです。目に見える発毛効果を期待するものではないことを理解しておくことが重要です。
- やめるとどうなりますか?
-
アデノシンの使用をやめると、その効果(FGF-7産生促進や血行促進)も失われます。そのため、頭皮環境は徐々に使用前の状態に戻っていく可能性があります。
もしAGAが進行している場合、アデノシンの使用を中止すると再び薄毛が進行し始めることが考えられます。
アデノシン使用中止後の変化
項目 使用中 使用中止後 FGF-7産生 促進される 元のレベルに戻る 頭皮血行 改善される 徐々に元の状態に戻る AGAの進行 (直接的な抑制効果はない) 本来のスピードで進行する - クリニックでの治療との違いは何ですか?
-
最大の違いは薄毛の根本原因にアプローチできるかどうかです。アデノシンを含む市販の育毛剤は、あくまで「育毛環境を整える」補助的なケアです。
一方、クリニックでは医師の診断のもとでAGAの進行を直接抑制する医薬品(フィナステリドなど)を処方できます。
セルフケアで限界を感じた時、あるいはより確実な効果を求める場合は、専門クリニックへの相談が最も確実な選択肢となります。
以上
参考文献
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