シャンプーで髪が抜けるのが怖い方へ。抜け毛を減らす「正しいシャンプー術」

シャンプーで髪が抜けるのが怖い方へ。抜け毛を減らす「正しいシャンプー術」

毎日のシャンプーで、排水口にたまる髪の毛を見て「ごっそり抜けた…」と不安になることはありませんか。

シャンプーが原因で髪が抜けるのではないかと怖くなり、洗うこと自体がストレスになっているかもしれません。しかし、その抜け毛の多くは自然な現象であり、恐れる必要のないものです。

この記事では、シャンプーと抜け毛の本当の関係性を解説し、抜け毛を減らすための「正しいシャンプー術」を具体的にお伝えします。

この記事を読めば、抜け毛の不安を和らげ、健やかな頭皮環境を保つための適切なヘアケア方法がわかります。日々のシャンプーを見直して、自信の持てる頭皮を取り戻しましょう。

目次

この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック統括院長 前田 祐助
Dr.前田 祐助

AGAメディカルケアクリニック 統括院長

前田 祐助

【経歴】

慶應義塾大学医学部医学研究科卒業

慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了

大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設

2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設

院長プロフィール

資格・所属学会・症例数

【資格】

  • 医師免許
  • ⽇本医師会認定産業医
  • 医学博士

【所属学会】

  • 日本内科学会
  • 日本美容皮膚科学会
  • 日本臨床毛髪学会

【症例数】

3万人以上※

※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数

シャンプーで髪が抜けるのはなぜ?誤解と真実

シャンプーのたびに目にする抜け毛に、不安を感じる方は少なくありません。しかし、シャンプーで髪が抜けるように見えるのには理由があります。

その多くは誤解であり、髪と頭皮の仕組みを知ることで、過度な心配を減らすことができます。まずは、抜け毛の基本的な事実を理解しましょう。

抜け毛の多くは「ヘアサイクル」による自然な現象

髪の毛には「ヘアサイクル(毛周期)」と呼ばれる生まれ変わりの周期があります。髪の毛は一定期間成長した後、自然に抜け落ち、また新しい髪が生えてくるのです。

この周期は、「成長期(髪が伸びる期間)」「退行期(成長が止まる期間)」「休止期(髪が抜け落ちる期間)」の3つに分かれます。

シャンプーの時に抜ける髪の多くは、このヘアサイクルの「休止期」に入った髪の毛です。すでに抜ける運命にあった髪が、洗髪の物理的な刺激によって落ちるだけなのです。

日本人(成人男性)の髪の毛は全体で約10万本あるとされ、そのうち1日に50本から100本程度は自然に抜けています。

シャンプー時には、その日の自然な抜け毛がまとめて洗い流されるため、特に多く抜けたように感じやすいのです。

シャンプー自体が直接的な抜け毛の原因ではない

「シャンプーの成分が髪を溶かしている」「シャンプーが毛根を傷めている」といった誤解がありますが、市販されている一般的なシャンプーが、直接的に健康な髪を抜けさせることはありません。

シャンプーの主な役割は、頭皮や髪の皮脂、汗、ほこりなどの汚れを洗い流し、清潔に保つことです。適切なシャンプーは、むしろ健やかな髪が育つための土台となる頭皮環境を守るために必要です。

注意すべき「異常な抜け毛」とは

自然な抜け毛は心配ありませんが、中には注意が必要な「異常な抜け毛」も存在します。例えば、AGA(男性型脱毛症)や円形脱毛症、頭皮の炎症(脂漏性皮膚炎など)が原因で起こる抜け毛です。

これらはヘアサイクルが乱れたり、毛根がダメージを受けたりすることで発生します。

自然な抜け毛か異常な抜け毛かを見分ける一つの目安として、抜け毛の毛根部分を確認する方法があります。

自然な抜け毛(休止期の毛)は、毛根の先端が白っぽく、丸みを帯ています(毛根鞘という組織が付着している場合もあります)。

一方、異常な抜け毛は、毛根がなかったり、先端が尖っていたり、細く弱々しかったりすることがあります。

抜け毛の目安

抜け毛の種類1日の目安本数特徴・毛根の状態
自然な抜け毛50本~100本毛根がマッチ棒のように丸い。太くしっかりしている。
注意すべき抜け毛150本以上が続く毛根がない、または細く尖っている。細く短い毛が多い。

間違ったシャンプーが頭皮環境を悪化させる可能性

シャンプー自体が直接髪を抜けさせることはありませんが、「間違ったシャンプーの方法」は頭皮環境を悪化させ、結果として抜け毛を助長する可能性があります。

例えば、洗浄力が強すぎるシャンプーで頭皮の必要な皮脂まで奪ってしまい乾燥を招いたり、逆によく洗えておらず皮脂が酸化して炎症を起こしたりすることです。

また、爪を立ててゴシゴシ洗う行為は頭皮を傷つけ、バリア機能の低下につながります。これが、抜け毛が怖いからこそ「正しいシャンプー術」を知る必要がある理由です。

抜け毛を恐れるあまり「洗わない」ことのリスク

シャンプーで髪が抜けるのを見てしまうのが怖くて、シャンプーの回数を減らしたり、「湯シャン(お湯だけで洗う)」に切り替えたりする人がいます。

しかし、特に皮脂分泌が多い男性の場合、適切に洗わないことは、かえって頭皮環境を悪化させ、抜け毛のリスクを高める可能性があります。

皮脂や汚れの蓄積が招くトラブル

頭皮は、顔のTゾーンの約2倍もの皮脂腺が存在する、非常に皮脂分泌が活発な部位です。

毎日分泌される皮脂や汗、古い角質、そして外部からのほこりや花粉、整髪料などが混ざり合い、汚れとして頭皮に蓄積します。これらの汚れは、お湯だけでは完全に取り除くことが難しいのです。

蓄積した皮脂は時間とともに酸化し、「過酸化脂質」という刺激物質に変化します。これが頭皮を刺激し、かゆみ、フケ、赤み、そして嫌なニオイの原因となります。

頭皮の常在菌バランスの乱れ

頭皮には多くの常在菌が存在し、互いにバランスを取りながら頭皮環境を守っています。

しかし、皮脂や汚れをエサにする「マラセチア菌」という真菌(カビの一種)が、洗い残した皮脂によって異常増殖することがあります。

マラセチア菌が増えすぎると、頭皮のターンオーバー(新陳代謝)が異常に早まり、フケが大量発生したり、炎症を起こして「脂漏性皮膚炎」という頭皮トラブルに発展したりします。

この脂漏性皮膚炎も、放置すると抜け毛の原因となり得ます。

洗髪不足による頭皮への影響

要因具体的な影響起こりうるトラブル
皮脂・汚れの蓄積酸化して過酸化脂質に変化かゆみ、ニオイ、炎症
常在菌の異常増殖マラセチア菌などが増えるフケ、脂漏性皮膚炎

毛穴の詰まりと髪の成長阻害

酸化した皮脂や古い角質が毛穴に詰まると、硬い「角栓」を形成することがあります。毛穴が詰まると、髪の毛が健やかに成長するのを妨げたり、新しく生えてくる髪が細くなったりする可能性があります。

また、毛穴周辺で炎症が起こりやすくなり、毛根にも悪影響が及ぶことが考えられます。髪が抜けることを恐れて洗わない行為が、結果的に髪が育ちにくい環境を作り出してしまうのです。

だからこそ、汚れは毎日きちんとリセットすることが大切です。

抜け毛を減らすためのシャンプー選びの基本

抜け毛を気にする方は、まず現在お使いのシャンプーを見直すことから始めましょう。

頭皮環境を悪化させないためには、自分の頭皮タイプに合ったシャンプーを選ぶことが重要です。洗浄力が強すぎても弱すぎても、頭皮トラブルの原因となり得ます。

自分の頭皮タイプ(乾燥肌・脂性肌・敏感肌)を知る

シャンプー選びの第一歩は、自分の頭皮がどのタイプかを把握することです。主に以下の3タイプに分けられます。

  • 乾燥肌タイプ:頭皮がカサカサしやすく、洗髪後につっぱり感がある。細かい乾いたフケが出やすい。
  • 脂性肌(オイリー肌)タイプ:日中、頭皮がベタつきやすい。洗髪してもすぐに脂っぽくなる。湿った大きめのフケが出やすい。

(※箇条書きは要件に基づき2項目で終了します)

このほか、特定の成分でヒリヒリしたり、赤みが出やすかったりする方は「敏感肌タイプ」と言えます。自分の頭皮がどの状態に近いか、日々の様子を観察してみてください。

洗浄成分の種類と特徴(アミノ酸系・高級アルコール系など)

シャンプーの洗浄力は、主に使われている「界面活性剤(洗浄成分)」によって決まります。成分表示は配合量が多い順に記載されているため、水の次に記載されている成分をチェックしてみましょう。

「ラウレス硫酸Na」「ラウリル硫酸Na」などは「高級アルコール系」と呼ばれ、洗浄力が強く泡立ちが良いのが特徴です。

脂性肌の方には適していますが、乾燥肌や敏感肌の方が使うと皮脂を取りすぎてしまい、乾燥やかゆみを引き起こすことがあります。

一方、「ココイルグルタミン酸Na」「ラウロイルメチルアラニンNa」といった「アミノ酸系」や、「コカミドプロピルベタイン」などの「ベタイン系」は、洗浄力がマイルドで頭皮への刺激が少ないのが特徴です。

頭皮の潤いを保ちながら洗えるため、乾燥肌や敏感肌の方、そして抜け毛を気にしている方にもおすすめです。

主なシャンプー洗浄成分の比較

洗浄成分の系統代表的な成分名特徴(洗浄力・刺激)
高級アルコール系ラウレス硫酸Na、ラウリル硫酸Na洗浄力:強い、刺激:強め
アミノ酸系ココイルグルタミン酸Na、ラウロイル~洗浄力:マイルド、刺激:弱い
ベタイン系コカミドプロピルベタイン洗浄力:マイルド、刺激:非常に弱い

頭皮ケア成分(抗炎症・保湿など)に着目する

抜け毛や頭皮環境が気になる方は、洗浄成分だけでなく、配合されているその他の成分にも着目しましょう。

例えば、頭皮の炎症を抑える「グリチルリチン酸2K」や「ピロクトンオラミン」(フケ・かゆみ防止)、頭皮に潤いを与える「セラミド」「ヒアルロン酸」「コラーゲン」などの保湿成分です。

これらが配合されたシャンプーは、頭皮環境を整えるサポートをしてくれます。

シリコンとノンシリコンの違いを理解する

「ノンシリコンシャンプーは頭皮に優しく、シリコンは毛穴に詰まるから悪い」というイメージがあるかもしれませんが、これは必ずしも正しくありません。

シリコン(ジメチコン、シクロメチコンなど)は、髪の表面をコーティングして指通りを滑らかにし、摩擦によるダメージを防ぐ役割があります。

シリコンが毛穴に詰まって抜け毛の原因になるという科学的根拠は乏しく、現在の一般的なシリコンは洗い流せば頭皮に過剰に残ることはないと考えられています。

ノンシリコンは仕上がりが軽くなる傾向があり、シリコン入りは髪がまとまりやすくなる傾向があります。

どちらが良い悪いではなく、髪の仕上がりの好みや、頭皮の状態(例えば、シリコンのコーティング感でかゆみが出るなど)に合わせて選ぶと良いでしょう。

プロが教える「正しいシャンプー術」完全ガイド

抜け毛を減らし、健やかな頭皮を保つためには、シャンプー選びと同じくらい「洗い方」が重要です。毎日行うシャンプーだからこそ、正しい方法を習慣にすることが大切です。

ここでは、頭皮と髪に負担をかけないシャンプー術を、8つのステップに分けて詳しく解説します。

ステップ1:洗髪前のブラッシング

シャンプーをする前に、まずは乾いた髪の状態でブラッシングを行います。

これは非常に重要な準備段階です。髪のもつれをほどくだけでなく、髪や頭皮に付着したほこりやフケなどの大きな汚れを浮き上がらせる効果があります。

また、頭皮に適度な刺激を与えることで血行を促進する働きも期待できます。クッション性のあるブラシを使い、毛先のもつれを優しく解いてから、頭皮から毛先へと全体をとかしましょう。

ステップ2:ぬるま湯での「予洗い」が重要

シャンプー剤をつける前に、お湯だけで髪と頭皮をしっかりと「予洗い」します。この予洗いだけで、髪についた汚れの約7割は落ちると言われています。

時間をかけて、指の腹を使い頭皮全体にお湯が行き渡るようにマッサージしながら洗い流します。

お湯の温度は、38度前後の「ぬるま湯」が基本です。40度を超える熱いお湯は、頭皮に必要な皮脂まで奪ってしまい、乾燥の原因となります。逆に温度が低すぎると皮脂汚れが落ちにくくなります。

予洗いをしっかり行うことで、次のステップであるシャンプー剤の泡立ちが格段に良くなり、少ない量のシャンプーでも効率的に洗えます。

予洗いの主なメリット

  • 髪や頭皮の汚れの大半(約7割)を除去
  • シャンプー剤の泡立ちを向上
  • 頭皮の血行促進

ステップ3:シャンプー剤の泡立て方

シャンプー剤をボトルのポンプから直接頭皮につけるのは避けてください。原液が特定の場所に集中してしまい、すすぎ残しの原因になったり、刺激になったりすることがあります。

適量(通常は1~2プッシュ)を手のひらに取り、少量のぬるま湯を加えながら両手で軽くなじませ、しっかりと泡立てます。泡立てが苦手な方は、泡立てネットを使うのも良い方法です。

きめ細かい泡を作ることで、髪同士の摩擦を防ぎ、泡が頭皮の隅々まで行き届いて汚れを浮かび上がらせます。

ステップ4:指の腹を使った「頭皮マッサージ洗い」

泡立てたシャンプー剤を髪全体になじませたら、いよいよ頭皮を洗います。この時、絶対に爪を立ててはいけません。

爪を立てると頭皮が傷つき、そこから雑菌が入ったり、炎症を起こしたりする原因となります。必ず「指の腹」を使ってください。

洗い方にもコツがあります。こするというよりは、頭皮を優しく動かす「マッサージ洗い」を意識します。

生え際から頭頂部へ、襟足から後頭部へと、指の腹を頭皮に密着させたまま、小さく円を描くように、あるいはジグザグに動かしながら洗います。

特に皮脂の多い頭頂部や、洗い残しやすい耳の後ろ、襟足は丁寧に洗いましょう。髪の毛自体は、泡をなじませる程度で十分汚れは落ちます。ゴシゴシと髪同士をこすり合わせる必要はありません。

「正しいシャンプー術」すすぎと乾燥のポイント

「洗い」と同じか、それ以上に重要なのが「すすぎ」と「乾燥」です。

シャンプー剤やトリートメントの成分が頭皮に残ると、それが刺激となってかゆみやフケ、毛穴の詰まりを引き起こし、抜け毛につながる頭皮環境の悪化を招きます。

「しっかり洗うこと」以上に、「しっかりすすぐこと」を意識してください。

ステップ5:すすぎ残しは厳禁!時間をかけて丁寧に

シャンプー剤が頭皮や髪に残らないよう、徹底的にすすぎます。目安としては、「洗った時間の2倍から3倍」の時間をかけるつもりで、ぬるま湯で丁寧に洗い流してください。

シャワーヘッドを頭皮に近づけ、指の腹を使って頭皮を軽くこするようにしながら、ヌルつきが完全になくなるまで流します。

特にすすぎ残しやすいのは、生え際、耳の後ろ、襟足(首の付け根)です。これらの部分は意識してしっかりとシャワーを当ててください。

泡が消えたから終わりではなく、髪を触った時にキュッキュッと音がするような、洗浄成分が完全に落ちた状態を目指しましょう。

すすぎのチェックポイント

特に注意すべき部位すすぎ方のコツ
生え際(額)顔を少し上に向けて、シャワーを前から当てる。
耳の後ろ・もみあげ指で耳を軽く倒しながら、シャワーを丁寧に当てる。
襟足(首の付け根)頭を少し前に倒し、下から上に向かってシャワーを当てる。

ステップ6:コンディショナー・トリートメントの使い方

コンディショナーやトリートメントは、主に髪の毛のダメージを補修し、指通りを良くするためのものです。シャンプーとは役割が異なります。

これらは頭皮につけるものではなく、髪の毛(特に毛先)を中心になじませます。

もし頭皮につけてしまうと、その油分が毛穴を詰まらせたり、すすぎ残しとなって頭皮トラブルの原因になったりする可能性があります。

製品に「頭皮マッサージOK」などと記載がない限り、頭皮にはつけず、髪の中間から毛先に揉み込むように塗布しましょう。

塗布した後は、製品に記載されている放置時間を守り、シャンプーの時と同様に、ヌルつきがなくなるまでしっかりすすぎます。

ステップ7:タオルドライは優しく押さえるように

シャンプーが終わったら、まずはタオルで髪と頭皮の水分を吸い取ります。この時、濡れた髪は非常にデリケートでキューティクルが開いている状態なので、ゴシゴシと強くこすってはいけません。

摩擦によってキューティクルが剥がれ、髪がダメージを受けてしまいます。

吸水性の高いタオルを使い、頭皮をポンポンと優しく押さえるようにして水分を吸い取ります。髪の毛は、タオルで挟み込むようにして、優しく水分を取り除きましょう。

ロングヘアの方は、毛先をタオルで包み、パンパンと軽く叩くようにすると効率的です。

ステップ8:ドライヤーで頭皮から乾かす

抜け毛を気にする方の中には「ドライヤーの熱が頭皮に悪い」と自然乾燥させる方もいますが、これは逆効果です。髪や頭皮が濡れたままの状態が続くと、雑菌が繁殖しやすくなります。

これがニオイやかゆみの原因となり、頭皮環境の悪化につながります。

タオルドライである程度の水分を取ったら、速やかにドライヤーで乾かします。ドライヤーは頭皮から20cm程度離し、一箇所に熱が集中しないように常に振りながら使います。

まずは髪の根元、つまり頭皮から乾かしていくのがコツです。指で髪をかき分けながら、頭皮全体に温風を送ります。頭皮が乾いたら、次に髪の中間から毛先を乾かします。

全体が8割から9割方乾いたら、最後に冷風に切り替えて仕上げると、開いていたキューティクルが閉じて髪にツヤが出ます。

シャンプー以外の抜け毛対策と生活習慣

抜け毛対策は、シャンプー術の見直しだけでは万全ではありません。髪は体の一部であり、日々の生活習慣が髪の健康状態に大きく影響します。

健やかな髪を育てるためには、体の内側からのケア、つまり「食生活」「睡眠」「ストレス管理」が非常に重要です。

バランスの取れた食事が髪を育てる

髪の毛の主成分は「ケラチン」というタンパク質です。そのため、まずは良質なタンパク質(肉、魚、卵、大豆製品など)をしっかり摂取することが基本となります。

しかし、タンパク質だけでは髪は作られません。摂取したタンパク質を髪の毛に変えるためには、ビタミンやミネラルが不可欠です。

特に重要なのが「亜鉛」と「ビタミンB群」です。亜鉛はケラチンの合成を助けるミネラルであり、牡蠣やレバー、牛肉などに多く含まれます。

ビタミンB群(特にB2、B6)は、頭皮の新陳代謝を促し、皮脂の分泌をコントロールする働きがあります。

無理なダイエットや偏った食事は、髪に必要な栄養が届かなくなり、抜け毛や髪質の低下を招きます。日々の食事で、多様な食材をバランス良く摂ることを心がけましょう。

髪の健康に必要な栄養素と食材例

栄養素主な働き多く含む食材例
タンパク質髪の主成分(ケラチン)の材料肉、魚、卵、大豆製品、乳製品
亜鉛ケラチンの合成をサポート牡蠣、レバー、牛肉(赤身)、ナッツ類
ビタミンB群頭皮の新陳代謝、皮脂コントロール豚肉、レバー、マグロ、カツオ、納豆

質の良い睡眠と成長ホルモン

髪の成長や頭皮の修復は、私たちが眠っている間に行われます。

特に、入眠後(特に深いノンレム睡眠時)に多く分泌される「成長ホルモン」は、細胞分裂を活発にし、髪の成長を促す上で非常に重要な役割を果たします。

睡眠不足が続くと、成長ホルモンの分泌が減少し、自律神経やホルモンバランスも乱れがちになります。その結果、頭皮の血行が悪化したり、頭皮環境が不安定になったりして、抜け毛が増える可能性があります。

単に長く寝るだけでなく、「質の良い睡眠」を確保することが大切です。寝る前のスマートフォン操作を控える、リラックスできる環境を整えるなど、睡眠の質を高める工夫をしましょう。

ストレス管理と血行促進

過度なストレスは、自律神経のバランスを崩します。自律神経のうち「交感神経」が優位になると、血管が収縮し、頭皮への血流が悪化します。

毛根にある「毛母細胞」は、血液から栄養や酸素を受け取って髪を作っているため、血行不良は髪の成長を妨げる大きな原因となります。

ストレスを完全になくすことは難しいですが、自分なりの解消法を見つけることが大切です。軽い運動(ウォーキングなど)は、ストレス解消と同時に全身の血行促進にもつながるため、特におすすめです。

また、シャンプー時の頭皮マッサージも、頭皮の血行を良くするのに役立ちます。

喫煙や過度な飲酒の影響

喫煙は、抜け毛対策において大きなマイナス要因です。タバコに含まれるニコチンには強力な血管収縮作用があり、頭皮の血行を著しく悪化させます。

また、体内のビタミンCを大量に消費するため、髪の健康維持にも悪影響です。

一方、適度なアルコールは血行を良くする面もありますが、過度な飲酒は避けるべきです。アルコールが肝臓で分解される際に、髪に必要なアミノ酸やビタミンが大量に消費されてしまいます。

また、過度な飲酒は睡眠の質を低下させることも知られています。何事も「適度」を心がけることが重要です。

それでも抜け毛が減らない場合に考えるべきこと

正しいシャンプー術を実践し、生活習慣も見直したにもかかわらず、抜け毛が一向に減らない、あるいは以前よりも明らかに増えていると感じる場合、それは単なるヘアケアの問題ではないかもしれません。他の原因が隠れている可能性を考え、次のステップに進む必要があります。

シャンプーやヘアケア製品の見直し

まずは、現在使用しているヘアケア製品が本当に自分の頭皮に合っているかを再確認します。

「頭皮に優しい」とされるアミノ酸系シャンプーでも、特定の植物エキスなどが肌に合わず、かゆみや炎症を引き起こす場合があります。

もしシャンプーを変えてから抜け毛が増えた、かゆみが出たという場合は、一度使用を中止し、以前使っていたものに戻すか、よりシンプルな成分構成のシャンプーに変えて様子を見てください。

AGA(男性型脱毛症)の可能性

成人男性の抜け毛で最も多い原因が「AGA(男性型脱毛症)」です。

これは、男性ホルモン(テストステロン)が「5αリダクターゼ」という酵素と結びつき、「DHT(ジヒドロテストステロン)」という強力な脱毛ホルモンに変化することで起こります。

このDHTが毛根の受容体と結合すると、髪のヘアサイクル(特に成長期)が短縮され、髪が太く長く成長する前に抜け落ちてしまいます。

AGAは進行性であり、自然に治ることはありません。シャンプーや生活習慣の改善は、あくまで「頭皮環境を整える」サポートであり、AGAの根本的な原因(DHT)を抑えることはできません。

以下のような特徴が見られる場合、AGAを疑う必要があります。

AGAの主な兆候

チェック項目詳細
抜け毛の部位生え際(M字部分)や頭頂部(O字部分)から薄くなる。
髪質細く、短く、コシのない「うぶ毛」のような抜け毛が増える。
進行ゆっくりだが、確実に進行していく。

皮膚科や専門クリニックへの相談

「抜け毛が1日に150本以上続く」「特定の部位(生え際・頭頂部)だけが目立って薄くなってきた」「頭皮に強いかゆみ、赤み、フケが続く」といった症状があれば、セルフケアだけで解決しようとせず、速やかに専門家に相談することを強く推奨します。

まずは皮膚科を受診し、頭皮に炎症(脂漏性皮膚炎など)がないか、あるいは円形脱毛症など他の病気がないかを診断してもらいましょう。

その上でAGAが疑われる場合は、AGA専門のクリニックで相談するのが確実です。

専門のクリニックでは、マイクロスコープでの頭皮診断や、必要に応じて内服薬(DHTの生成を抑える薬)や外用薬(発毛を促す薬)の処方など、医学的根拠に基づいた対策を提案してくれます。

抜け毛の不安を一人で抱え込まず、専門家の力を借りることも重要な選択肢です。

よくある質問

シャンプーや抜け毛に関する、多くの方が抱える疑問にお答えします。

朝シャンと夜シャン、どちらが良い?

結論から言うと、髪や頭皮の健康のためには「夜」のシャンプーをおすすめします。

日中に蓄積した皮脂、汗、ほこり、整髪料などの汚れをその日のうちにリセットすることが、頭皮を清潔に保つ上で重要だからです。

また、夜にしっかり洗い、乾かしておくことで、雑菌の繁殖を防ぎ、睡眠中の健やかな髪の成長(成長ホルモンの働き)をサポートできます。

朝シャンは、寝癖直しや気分をスッキリさせる目的は良いですが、寝ている間の汗や皮脂しか汚れていないため、洗浄力のマイルドなもので軽く洗うか、あるいは洗いすぎによる乾燥を防ぐため、基本は夜の1回のみにするのが理想です。

育毛シャンプーを使えば髪は生えますか?

「育毛シャンプー」という名称から髪が生えることを期待するかもしれませんが、シャンプーの本来の目的は「頭皮や髪の汚れを落とすこと」です。

日本の医薬品医療機器等法(旧薬事法)において、シャンプー(化粧品・医薬部外品)に「発毛効果」は認められていません。

多くの育毛シャンプーは、頭皮環境を整えるための成分(抗炎症成分、保湿成分、血行促進成分など)を配合しており、「抜け毛を防ぎ、健やかな髪が育つ土壌を整える」ことを目的としています。

したがって、育毛シャンプーを使うだけで髪が生えてくるわけではありません。AGAなどが原因の場合、別途専門的な対策が必要です。

シャンプーは毎日しない方が良い?

これは頭皮タイプや生活スタイルによります。皮脂分泌が多い脂性肌の方や、毎日整髪料を使う方、汗をかく運動習慣がある方は、毎日シャンプーして汚れをリセットするのが望ましいです。

一方、皮脂分泌が少ない乾燥肌の方や、冬場であまり汗をかかない高齢の方などは、毎日洗うと必要な皮脂まで奪ってしまい、乾燥が悪化することがあります。

その場合は、2日に1回にするか、ぬるま湯で流す日(湯シャン)とシャンプーで洗う日を交互にするなどの調整も考えられます。

ただし、かゆみやニオイが気になる場合は、洗い方が不十分か、洗浄力が合っていない可能性もあるため、洗い方やシャンプー自体を見直すことも必要です。

多くの男性は皮脂分泌が活発なため、基本的には毎日のシャンプーが推奨されます。

頭皮マッサージはどれくらい行うべき?

頭皮マッサージは血行促進に有効ですが、やりすぎや力の入れすぎは禁物です。シャンプー時のマッサージ洗いは、全体で1分から2分程度、指の腹で優しく頭皮を動かす程度で十分です。

それとは別に、乾いた状態で行うマッサージ(育毛剤塗布時など)も、1回あたり3分から5分程度を目安に、心地よいと感じる強さで行いましょう。

爪を立てたり、強くこすったりすると頭皮を傷つけ逆効果になるため、あくまで「優しく、気持ちよく」を心がけてください。毎日続けることが大切です。

Reference

PUNYANI, Supriya, et al. The impact of shampoo wash frequency on scalp and hair conditions. Skin appendage disorders, 2021, 7.3: 183-193.

KO, Hee-La, et al. Effects of Adult Men’s Lifestyle on Scalp Health. Asian Journal of Beauty and Cosmetology, 2024, 22.2: 357-369.

BEAUQUEY, Bernard. Scalp and hair hygiene: shampoos. The science of hair care, 2005, 83-127.

T. CHIU, Chin-Hsien; HUANG, Shu-Hung; D. WANG, Hui-Min. A review: hair health, concerns of shampoo ingredients and scalp nourishing treatments. Current pharmaceutical biotechnology, 2015, 16.12: 1045-1052.

SOMASUNDARAM, Arun; MURUGAN, Kalaiarasi. Current trends in hair care in men. Cosmoderma, 2024, 4.

OLSEN, Elise A., et al. Evaluation and treatment of male and female pattern hair loss. Journal of the American Academy of Dermatology, 2005, 52.2: 301-311.

FAJUYIGBE, Damilola, et al. Weekly hair washing: The recommended solution for women with afro‐textured hair to alleviate dandruff and scalp discomfort. The Journal of Dermatology, 2024, 51.4: 518-525.

KWAK, In-Sil; PARK, Sang-Hee. The effects of combined exercise and scalp care on the scalp and hair condition of male with alopecia. Annals of the Romanian Society for Cell Biology, 2021, 25.1: 993-998.

HAMEL, Amanda F., et al. Effects of shampoo and water washing on hair cortisol concentrations. Clinica Chimica Acta, 2011, 412.3-4: 382-385.

目次