コーヒーや緑茶、エナジードリンクなど、私たちの日常に深く根付いているカフェイン。「カフェインを摂るとはげる」という噂を耳にして、不安に感じている方もいるのではないでしょうか。
実はカフェインと髪の関係は単純なものではなく、摂取量やタイミングによって髪に良い影響も悪い影響も与える可能性があります。
この記事ではカフェインが髪の毛や頭皮に与える影響、薄毛との関係性について、医学的な観点から詳しく解説します。正しい知識を身につけ、上手にカフェインと付き合っていきましょう。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
カフェインと薄毛のうわさの真相
「カフェインは抜け毛を増やす」という説もあれば、「カフェイン配合のシャンプーが育毛に良い」という情報もあります。
なぜこのように正反対のうわさが存在するのでしょうか。まずはカフェインと薄毛に関する様々な情報の背景を探ります。
なぜ「カフェイン=はげる」といわれるのか
カフェインが薄毛につながるといわれる主な理由は、過剰摂取による悪影響が懸念されるためです。
カフェインには覚醒作用や利尿作用があり、過剰に摂取すると睡眠の質の低下や体内の栄養素の排出を促すことがあります。
これらの状態が、間接的に髪の健康を損なうと考えられているのです。
逆に「髪に良い」といわれる根拠は何か
一方で、カフェインには血管拡張作用やAGA(男性型脱毛症)の原因物質に働きかける可能性を示唆する研究も存在します。
特にカフェインを配合した育毛剤やシャンプーは頭皮に直接作用させることで血行を促進し、毛根を活性化させる効果を期待するものです。このことから「カフェインは髪に良い」という説も広まっています。
重要なのは摂取量と摂取方法
結論から言うと、カフェインが薄毛に与える影響は、その摂取量や摂取方法に大きく左右されます。適量であれば髪に良い影響をもたらす可能性があり、過剰であれば悪影響を及ぼす可能性があるのです。
単純に「良い」「悪い」と決めつけるのではなく、その両面性を理解することが重要です。
カフェインが髪に与えるポジティブな影響
適量のカフェインは、いくつかの点で髪の健康に良い影響を与える可能性が研究で示されています。具体的にどのような効果が期待できるのかを見ていきましょう。
頭皮の血行促進作用
カフェインには血管を拡張させ、血流を促進する作用があります。頭皮の血行が良くなることで髪の成長に必要な酸素や栄養素が毛根の毛母細胞へ届きやすくなります。
この働きは健康な髪を育てる上で非常に大切な要素です。
カフェインによる頭皮への良い循環
作用 | 頭皮で起こること | 髪への影響 |
---|---|---|
血管拡張 | 毛細血管の血流が増加する | 栄養素が毛根に届きやすくなる |
毛母細胞の活性化 | 細胞分裂が活発になる | 健康で丈夫な髪が育ちやすくなる |
AGAの原因物質への働きかけ
一部の研究ではカフェインがAGAの原因となるDHT(ジヒドロテストステロン)の生成を抑制する酵素(5αリダクターゼ)の働きを阻害する可能性が示唆されています。
また、DHTによる毛乳頭細胞へのダメージを軽減し、ヘアサイクルにおける成長期を延長する効果も報告されています。
ただしこれは主に細胞レベルの研究であり、飲用による直接的な効果についてはさらなる研究が必要です。
利尿作用によるデトックス効果
カフェインの利尿作用は体内の老廃物を排出する手助けをします。体全体の巡りが良くなることは頭皮環境にとっても間接的に良い影響を与えると考えられます。
ただし、水分補給を怠ると脱水状態になり逆効果となるため注意が必要です。
要注意!カフェインの過剰摂取が招く薄毛リスク
良い面がある一方でカフェインの過剰摂取は髪の健康を脅かす様々なリスクを伴います。
どのような悪影響があるのかを具体的に理解し、自身の摂取習慣を見直すことが大切です。
睡眠の質の低下と成長ホルモンの減少
カフェインの最もよく知られた作用はアデノシンという睡眠物質の働きをブロックする覚醒作用です。夜遅くにカフェインを摂取すると寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりします。
髪の成長に不可欠な成長ホルモンは深い睡眠中に最も多く分泌されるため、睡眠の質の低下は髪の成長を直接的に妨げる大きな原因となります。
睡眠不足が髪に与える主な悪影響
- 成長ホルモンの分泌抑制
- 自律神経の乱れによる血行不良
- 頭皮のターンオーバーの乱れ
栄養素(鉄・亜鉛)の吸収阻害
カフェインに含まれるタンニンという成分は髪の主成分であるケラチンの生成に必要なミネラル、特に鉄分や亜鉛の吸収を妨げる性質があります。
食事中や食後すぐにコーヒーや緑茶などを飲む習慣があると、せっかく摂取した栄養素が効率よく利用されず、髪の栄養不足につながる可能性があります。
カフェインと栄養素吸収の関係
栄養素 | 髪における役割 | カフェインによる影響 |
---|---|---|
鉄分 | ヘモグロビンの構成成分として酸素を運ぶ | タンニンが結合し、吸収を妨げる |
亜鉛 | 髪の主成分ケラチンの合成に必要 | 吸収が阻害され、髪の成長が滞る |
自律神経の乱れによる頭皮環境の悪化
カフェインは交感神経を刺激し、心拍数を上げて血管を収縮させる作用もあります。
適量であれば集中力を高めるなどの効果がありますが、過剰摂取が続くと自律神経のバランスが崩れ、常に緊張状態になります。
このことにより、末端の血管である頭皮の毛細血管が収縮し、血行不良を引き起こすことがあります。
胃酸の過剰分泌と胃腸への負担
カフェインは胃酸の分泌を促進する作用があります。空腹時に濃いコーヒーなどを飲むと、胃の粘膜を荒らし、胃腸の不調を引き起こすことがあります。
消化吸収機能が低下すると食事から摂取した栄養素を体内に取り込む効率も悪くなり、結果として髪への栄養供給も滞ってしまいます。
あなたは大丈夫?カフェイン摂取の適量を知る
カフェインとの上手な付き合い方の基本は「適量」を知ることです。どれくらいの量なら安全で、どのような飲み物や食品にどれだけ含まれているのかを把握しておきましょう。
健康な成人の1日の摂取目安量
国内外の多くの機関が、健康な成人における1日あたりのカフェイン摂取量の目安を示しています。
一般的には最大400mgまでが健康への悪影響がない範囲とされています。これは、マグカップのコーヒーであれば3〜4杯程度に相当します。
カフェインの1日あたりの摂取目安
対象 | 推奨される最大摂取量 | コーヒー換算(約) |
---|---|---|
健康な成人 | 400mg | 3〜4杯 |
妊娠・授乳中の方 | 200mg〜300mg | 2杯程度 |
カフェインを多く含む主な飲み物と食品
カフェインはコーヒーだけでなく、様々な飲み物や食品に含まれています。知らず知らずのうちに過剰摂取にならないよう、主なものの含有量を把握しておくと良いでしょう。
主な飲料・食品のカフェイン含有量(目安)
品目 | 含有量(100mlあたり) | 一般的な1杯/1本あたりの量 |
---|---|---|
ドリップコーヒー | 約60mg | 90mg (150ml) |
紅茶 | 約30mg | 45mg (150ml) |
緑茶(せん茶) | 約20mg | 30mg (150ml) |
エナジードリンク | 32mg〜64mg | 80mg〜160mg (250ml) |
自分の感受性を理解する
カフェインに対する感受性には個人差があります。同じ量を摂取しても全く影響を感じない人もいれば、動悸や不眠などの症状が出る人もいます。
他人の基準を鵜呑みにせず、自身の体調の変化に注意を払い、自分にとっての「適量」を見つけることが大切です。
飲み方一つで変わる!薄毛リスクを抑えるカフェイン摂取術
カフェインの恩恵を受けつつ、薄毛につながるリスクを避けるためには、ただ量を守るだけでなく、「いつ」「どのように」飲むかが重要です。
ここでは髪の健康を考えた賢いカフェインの摂り方を紹介します。
飲むべき時間帯と避けるべき時間帯
カフェインの覚醒効果を有効に使うなら、朝や昼間の活動時間帯に摂るのが基本です。
一方、睡眠への影響を考えると、就寝の6〜8時間前からは摂取を控えるのが賢明です。夕方以降はノンカフェインのハーブティーや麦茶などに切り替える習慣をつけましょう。
飲むタイミングの推奨
時間帯 | 推奨度 | 理由 |
---|---|---|
起床後〜午前中 | ◎ | 覚醒を促し、1日の活動を始めるのに役立つ |
昼食後〜15時頃 | ○ | 午後の眠気覚ましに有効。睡眠への影響も少ない |
夕方以降 | × | 睡眠の質を低下させ、成長ホルモンの分泌を妨げる |
食事とずらす「飲み合わせ」の工夫
鉄分や亜鉛など髪に重要なミネラルの吸収を妨げないために、食事中や食後すぐの濃いコーヒーや緑茶は避けるのが望ましいです。
食事から30分〜1時間ほど時間を空けてから飲むようにすると、栄養の吸収への影響を最小限に抑えられます。
ストレス対策としてのカフェインの罠
仕事のプレッシャーなど、ストレスを感じた時にコーヒーで一息つく方は多いでしょう。
しかし、カフェインによる交感神経の刺激は長期的に見ると心身を緊張させ、ストレス反応を強めてしまうことがあります。
リラックスが目的であれば、カモミールティーなどの鎮静作用のあるハーブティーの方が適しています。
水分補給を忘れない
カフェインの利尿作用によって失われる水分を補うため、コーヒーなどを飲んだ際は同量程度の水を飲むことを意識しましょう。
体内の水分が不足すると血液が濃くなり血行不良の原因にもなります。こまめな水分補給は頭皮の健康維持にもつながります。
カフェインよりも影響大?見直すべき生活習慣
カフェインと薄毛の関係を気にするあまり、もっと根本的な問題を見過ごしていることがあります。
髪の健康は日々の生活習慣全体の積み重ねによって成り立っています。カフェインの摂取法とあわせて、以下の点も確認しましょう。
バランスの取れた食事
髪は私たちが食べたものから作られます。タンパク質、ビタミン、ミネラルなど、バランスの取れた食事は健康な髪を育てる土台です。
特に髪の主成分であるタンパク質(肉、魚、大豆製品)や、その合成を助ける亜鉛(牡蠣、レバー)は積極的に摂取したい栄養素です。
質の高い睡眠の確保
前述の通り、髪の成長を促す成長ホルモンは睡眠中に分泌されます。
毎日7時間程度の睡眠時間を確保することを目指し、寝る前のスマートフォン操作を控えるなど睡眠の質を高める工夫をしましょう。
適度な運動による血行促進
ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動は全身の血行を促進し、頭皮への血流も改善します。また、ストレス解消にも効果的であり、自律神経のバランスを整える上でも役立ちます。
週に2〜3回、30分程度の運動を習慣にすることをお勧めします。
それでも抜け毛が気になるなら専門家へ
カフェインの摂取量を調整し、生活習慣を改善しても、なお薄毛や抜け毛の進行が止まらない場合は、AGA(男性型脱毛症)など他の原因が考えられます。
自己判断で悩まず、専門のクリニックに相談することが重要です。
AGAは進行性の脱毛症
男性の薄毛の最も一般的な原因であるAGAは何もしなければ症状はゆっくりと進行していきます。カフェインの摂取をやめたからといって、AGAの進行が止まるわけではありません。
早期に医学的なアプローチを始めることが、髪を守る上で最も効果的です。
セルフケアと医学的治療の違い
生活習慣の見直しや市販の育毛剤は頭皮環境を整える「守り」のケアです。一方クリニックで行う治療はAGAの原因に直接働きかけ、発毛を促す「攻め」の治療です。
両者は役割が異なり、症状が進行している場合は医学的治療が必要となります。
クリニックでの主なAGA治療
- 内服薬(フィナステリド、デュタステリドなど)
- 外用薬(ミノキシジル)
- 注入治療
正確な診断が解決への第一歩
薄毛の原因はAGAだけとは限りません。他の皮膚疾患や内科的な病気が隠れている可能性もあります。
専門クリニックでは医師による正確な診断のもと、一人ひとりの症状や原因に合わせた適切な治療計画を立てます。
思い込みで対策を誤る前に、一度専門家の診察を受けることを強く推奨します。
よくある質問
最後に、カフェインと薄毛に関して患者さんからよく寄せられる質問にお答えします。
- コーヒー以外のカフェインも薄毛に関係しますか?
-
はい、関係します。
薄毛に影響を与える可能性があるのは「カフェイン」という成分そのものです。
そのため、コーヒーだけでなく、紅茶、緑茶、ウーロン茶、マテ茶、エナジードリンク、栄養ドリンク、さらにはチョコレートや一部の医薬品(鎮痛剤など)に含まれるカフェインも摂取量によっては同様の影響を及ぼす可能性があります。
- カフェイン断ちをすれば髪は生えますか?
-
もしあなたの抜け毛の原因がカフェインの過剰摂取による睡眠不足や栄養不良であった場合、カフェインを断つ、あるいは適量に減らすことで頭皮環境が改善し、抜け毛が減る可能性はあります。
しかし薄毛の主な原因がAGAである場合、カフェイン断ちだけで発毛することはありません。
AGAの進行を止めるには医学的な治療が必要です。
- カフェイン入りシャンプーの効果は?
-
カフェインを配合したシャンプーや育毛剤は、頭皮に直接塗布することで局所的な血行促進や毛根への働きかけを期待するものです。
いくつかの研究でその有効性が示唆されていますが、効果には個人差があります。
飲む場合と違い、全身への副作用のリスクは低いですが、これだけでAGAが完治するわけではなく、あくまで補助的なケアと位置づけるのが適切です。
摂取方法による効果とリスクの違い
方法 期待される効果 注意点 飲用 血行促進、覚醒作用など全身への影響 過剰摂取による睡眠障害や栄養吸収阻害のリスク 外用(塗布) 頭皮への局所的な血行促進、毛根活性化 効果には個人差がある。補助的なケアとしての位置づけ
以上
参考文献
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