COVID-19と抜け毛の関連性|症状と対策

抜け毛 COVID

近年、COVID-19に感染した後、数か月経ってから抜け毛が増えたという相談が急増しています。突然の脱毛に「このまま薄毛になってしまうのではないか」と大きな不安を感じる方も少なくありません。

この記事ではCOVID-19と抜け毛の医学的な関係性、その後遺症として起こる脱毛の症状と特徴、そしてご自身でできる対策から専門クリニックでの治療法までを詳しく解説します。

抜け毛の原因を正しく理解し、適切な対処法を知ることが不安を和らげ、健やかな髪を取り戻すための第一歩です。

目次

この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック統括院長 前田 祐助
Dr.前田 祐助

AGAメディカルケアクリニック 統括院長

前田 祐助

【経歴】

慶應義塾大学医学部医学研究科卒業

慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了

大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設

2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設

院長プロフィール

資格・所属学会・症例数

【資格】

  • 医師免許
  • ⽇本医師会認定産業医
  • 医学博士

【所属学会】

  • 日本内科学会
  • 日本美容皮膚科学会
  • 日本臨床毛髪学会

【症例数】

3万人以上※

※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数

COVID-19後に抜け毛が増えると感じる人が多い理由

COVID-19の罹患後に抜け毛を訴える人が増えている背景には、ウイルス感染が身体や心に与える多角的な影響があります。

直接的なウイルス作用だけでなく、それに伴う様々なストレスが髪の毛の健康に影を落とすことがあります。

感染症による身体的ストレス

ウイルス感染症、特に高熱を伴うものは身体にとって大きなストレスとなります。

身体はウイルスと戦うために全力を尽くし、生命維持に直接関係の薄い髪の毛の成長といった活動は後回しになります。

この防御反応が一時的に髪の毛の成長を止め、抜け毛を引き起こす原因の一つとなります。

生活環境の変化がもたらす精神的ストレス

感染への不安、療養による孤立感、仕事や学業への影響など、COVID-19は私たちの生活に多大な精神的ストレスをもたらしました。

ストレスは自律神経やホルモンバランスを乱し、血行不良を招くことがあります。

頭皮への血流が悪化すると、髪の毛の成長に必要な栄養が届きにくくなり、抜け毛につながる可能性があります。

ストレスの種類と髪への影響

ストレスの種類主な原因髪への影響
身体的ストレス高熱、炎症、栄養不足毛母細胞の活動低下、毛周期の乱れ
精神的ストレス不安、恐怖、生活の変化血行不良、ホルモンバランスの乱れ

ワクチン接種と抜け毛の関連性についての現状

COVID-19ワクチン接種後に抜け毛が増えたという報告も一部で見られます。

これはワクチン接種による免疫反応が身体にとって一時的なストレスとなり、感染時と同様の仕組みで抜け毛を引き起こす可能性が考えられます。

しかし、その頻度は極めて稀であり、多くは一時的なものであると報告されています。抜け毛を懸念してワクチン接種をためらう必要はないでしょう。

COVID-19感染と抜け毛の医学的関係性

COVID-19に感染すると体内で様々な反応が起こります。

その中でも特に「炎症反応」「高熱」「栄養状態の悪化」が髪の毛の健全なサイクルを乱し、抜け毛を引き起こす主要な要因と考えられています。

炎症反応と毛周期への影響

COVID-19に感染すると、サイトカインという炎症を引き起こす物質が体内で過剰に放出されることがあります。

この強い炎症反応が髪の毛を作り出す毛包にダメージを与え、正常な成長サイクル(毛周期)を乱すことがあります。

成長期にあるはずの髪の毛が、強制的に休止期へと移行させられてしまうのです。

高熱が毛母細胞に与えるダメージ

40度近い高熱が続くと、髪の毛の根元にある毛母細胞がダメージを受けます。

毛母細胞は細胞分裂を繰り返して髪の毛を成長させる重要な役割を担っていますが、高熱によってその活動が一時的に停止してしまうのです。

このことにより髪の毛の成長が妨げられ、結果として脱毛につながります。

栄養状態の悪化と髪への影響

感染による食欲不振や消化器症状は栄養状態の悪化を招きます。

髪の毛は主にケラチンというタンパク質でできており、その生成には亜鉛やビタミン、ミネラルなど多様な栄養素が必要です。

これらの栄養素が不足すると健康な髪の毛を作ることができなくなり、細く弱い毛が増えたり、抜け毛が目立つようになったりします。

抜け毛を引き起こす「休止期脱毛症」とは何か

COVID-19後に見られる抜け毛の多くは、「休止期脱毛症」と呼ばれる状態です。これは特定の原因によって髪の毛の成長サイクルが乱れることで生じる脱毛症です。

髪の毛の成長サイクル(毛周期)

髪の毛には一本一本に寿命があり、「成長期」「退行期」「休止期」というサイクルを繰り返しています。

健康な状態では、ほとんどの髪(約85〜90%)が成長期にあります。

毛周期の各段階

段階期間の目安特徴
成長期2〜6年毛母細胞が活発に分裂し、髪が伸び続ける
退行期約2週間毛母細胞の分裂が止まり、成長が停止する
休止期約3〜4か月髪の成長が完全に止まり、やがて自然に抜ける

休止期脱毛症が起こる仕組み

休止期脱毛症は身体的または精神的な強いストレスが引き金となり、成長期にある多くの髪の毛が一斉に休止期に入ってしまう状態です。

休止期に入った髪の毛は約3か月後に抜け落ちるため、原因となる出来事から時間を置いて脱毛が始まるのが特徴です。

  • 高熱を伴う疾患
  • 大きな手術や外傷
  • 過度なダイエット
  • 強い精神的ストレス

急性休止期脱毛症と慢性休止期脱毛症

休止期脱毛症には原因がはっきりしており6か月以内に回復する「急性」と、原因が特定しにくく6か月以上続く「慢性」があります。

COVID-19後の抜け毛は多くが急性に分類され、原因となった感染症から回復すれば、髪の毛も再び生え始めることがほとんどです。

しかし、症状が長引く場合は慢性化している可能性も考えられます。

COVID-19後遺症による抜け毛の主な症状

COVID-19の後遺症として現れる抜け毛には、いくつかの特徴的な症状があります。

これらを知ることで、ご自身の状態が一時的なものなのか、あるいは別の原因が考えられるのかを判断する助けになります。

感染から数か月後に始まる脱毛

最も特徴的なのは脱毛が始まるタイミングです。COVID-19の感染中や回復直後ではなく、2〜3か月が経過してから突然抜け毛が増え始めます。

これは前述の通り、髪の毛が休止期に入ってから実際に抜け落ちるまでにタイムラグがあるためです。

頭部全体から均等に抜ける特徴

AGA(男性型脱毛症)が生え際や頭頂部など特定の部位から進行するのとは対照的に、休止期脱毛症では頭部全体から髪の毛がまんべんなく抜ける「びまん性脱毛」という状態になります。

シャンプーやブラッシングの際に、ごっそりと毛が抜けることで気づくことが多いです。

脱毛の期間と回復の見込み

脱毛が続く期間は通常3〜6か月程度です。身体の状態が回復し、毛周期が正常に戻れば、抜け毛は自然と治まり、新しい髪の毛が生え始めます。

多くの場合は完全に回復しますが、回復には個人差があり、半年から1年ほどかかることもあります。

クリニック受診を検討するべきサイン

項目内容
期間抜け毛が6か月以上続いている
範囲特定の部位だけ薄くなってきた
毛質新しく生えてくる毛が細く弱い

COVID-19後の抜け毛とAGA(男性型脱毛症)の見分け方

COVID-19後の抜け毛を経験した方の中には、「これをきっかけにAGAが進行してしまうのではないか」と心配される方もいます。

休止期脱毛症とAGAは異なる脱毛症であり、見分けるためのポイントがいくつかあります。

抜け毛の始まるタイミングの違い

前述の通り、COVID-19後の休止期脱毛症は感染から2〜3か月後に急激に始まります。

一方、AGAは男性ホルモンの影響でゆっくりと時間をかけて進行するのが一般的で、ある日突然始まるものではありません。

脱毛する範囲とパターンの比較

休止期脱毛症は頭部全体の髪が均等に抜けますが、AGAは生え際が後退したり(M字型)、頭頂部が薄くなったり(O字型)と、特定のパターンで進行します。

抜け毛の範囲を確認することが、一つの判断材料になります。

COVID-19後遺症の抜け毛とAGAの比較

項目COVID-19後の抜け毛(休止期脱毛症)AGA(男性型脱毛症)
進行速度急激に始まるゆっくりと進行する
脱毛範囲頭部全体(びまん性)生え際・頭頂部など特定の部位
回復自然回復することが多い進行性で治療が必要

専門医による正確な診断の重要性

ご自身での判断が難しい場合や抜け毛が長引く場合は、専門のクリニックを受診することを推奨します。

医師が頭皮の状態を視診したり、マイクロスコープで毛根の状態を確認したりすることで、正確な診断が可能です。

COVID-19がきっかけで、もともと潜在的にあったAGAが顕在化するケースも考えられるため、早期の診断が重要です。

抜け毛がもたらす心理的影響と向き合い方

多くの医療情報サイトでは、抜け毛の原因や身体的な対策に焦点が当てられがちです。

しかし私たちは日々の診療で、抜け毛が患者様の心にどれほど大きな影響を与えるかを目の当たりにしてきました。

ここではその心理的な側面に焦点を当て、不安とどう向き合うかについてお話しします。

見た目の変化による自信の喪失

髪は、その人の印象を大きく左右する部分です。抜け毛によって髪のボリュームが減ったり、地肌が透けて見えたりすることは、ご自身の容姿に対する自信を大きく揺るがします。

他人の視線が気になり、人と会うのが億劫になったり、社会的な活動への意欲が低下したりすることもあります。

この悩みは男性でも女性でも等しく深刻なものです。

「いつまで続くのか」という先行きの見えない不安

シャンプーのたびに排水溝にたまる髪の毛、枕についた抜け毛を見るたびに、「このまま全部抜けてしまうのではないか」「もう元には戻らないのではないか」という恐怖に近い感情を抱く方は少なくありません。

特にCOVID-19後の抜け毛は原因がある程度わかっていても、終わりが見えないために強いストレスを感じ続けます。

このストレスが、さらなる抜け毛を招くという悪循環に陥ることもあります。

  • 鏡を見るのが怖い
  • 他人の視線が髪に集中している気がする
  • 将来への悲観的な考え

悩みを一人で抱え込まないことの大切さ

抜け毛の悩みは非常にデリケートなため、家族や友人にも打ち明けられず、一人で抱え込んでしまう方が多くいらっしゃいます。しかし、孤独感は不安を増大させます。

信頼できる人に話を聞いてもらうだけでも、気持ちが楽になることがあります。

そして、私たちのような専門家を頼ることも考えてください。私たちは髪の毛を治療するだけでなく、患者さんの心の負担を軽くすることも大切な役割だと考えています。

医学的な見地から「あなたの抜け毛は回復する可能性が高い」とお伝えするだけでも、多くの方が安堵されます。

自宅でできる抜け毛への基本的な対策

専門的な治療を開始する前に、あるいは治療と並行して、ご自身の生活習慣を見直すことも回復を早めるために重要です。

髪の毛の健康は日々の積み重ねによって支えられています。

栄養バランスの取れた食事を心がける

髪の毛の主成分であるタンパク質をはじめ、ビタミンやミネラルをバランス良く摂取することが大切です。

特にタンパク質の合成を助ける亜鉛や、頭皮の血行を促進するビタミンEなどを意識して食事に取り入れましょう。

抜け毛対策に良い栄養素と食品

栄養素主な働き多く含む食品
タンパク質髪の毛の主成分となる肉、魚、卵、大豆製品
亜鉛タンパク質の合成を助ける牡蠣、レバー、牛肉
ビタミン類頭皮環境を整え、血行を促進する緑黄色野菜、ナッツ類、果物

質の高い睡眠とストレス管理

髪の毛の成長を促す成長ホルモンは睡眠中に最も多く分泌されます。特に入眠後の深い眠りの時間帯が重要です。毎日決まった時間に就寝・起床を心がけ、睡眠の質を高めましょう。

また、適度な運動や趣味の時間を持つなど、自分なりの方法でストレスをうまく発散することも大切です。

頭皮環境を整えるヘアケア方法

頭皮を清潔に保つことは基本ですが、洗いすぎはかえって頭皮を乾燥させ、環境を悪化させる可能性があります。

ご自身の肌質に合ったシャンプーを選び、優しくマッサージするように洗いましょう。

正しいシャンプーの方法

手順ポイント
1. ブラッシング髪のもつれをほどき、汚れを浮かせる
2. 予洗いぬるま湯で頭皮と髪を十分に濡らす
3. シャンプー指の腹で頭皮を優しくマッサージするように洗う

AGA・薄毛治療クリニックでの専門的なアプローチ

セルフケアで改善が見られない場合や、抜け毛がAGAに移行している可能性がある場合は、専門のクリニックでの治療を検討しましょう。

医師の診断のもと、医学的根拠に基づいた治療を行います。

カウンセリングと頭皮診断

まずは専門のカウンセラーや医師が、抜け毛の始まった時期や生活習慣などについて詳しくお話を伺います。

その後マイクロスコープなどを用いて頭皮や毛根の状態を詳細に確認し、脱毛の原因を特定します。

この診断に基づいて、一人ひとりに合った治療計画を提案します。

内服薬・外用薬による治療

AGAが合併していると診断された場合、その進行を抑制する内服薬や、発毛を促進する外用薬を用いた治療が中心となります。これらの治療薬は医師の処方が必要です。

休止期脱毛症の場合でも、頭皮の血行を改善する薬や、髪の成長に必要な栄養素を補うサプリメントなどを処方することがあります。

クリニックでの治療法の種類と特徴

治療法主な目的特徴
内服薬AGAの進行を抑制する医師の処方が必要。継続的な服用が大切
外用薬発毛を促進し、毛を太く育てる頭皮に直接塗布。内服薬との併用も多い
注入治療頭皮に直接有効成分を届けるより積極的な発毛効果を期待する場合に行う

専門家による生活習慣の指導

薬物治療だけでなく、食事や睡眠、ストレス管理といった生活習慣の改善指導も併せて行います。

治療効果を最大限に高め、髪が育ちやすい身体の土台作りをサポートします。専門家の視点から、日々の生活で改善できる点を具体的にアドバイスします。

  • 食事内容の分析と改善案
  • 睡眠の質を向上させるための助言
  • 効果的なストレス解消法の提案

COVID-19と抜け毛に関するよくある質問

最後に、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

抜け毛は自然に治りますか?

COVID-19後の休止期脱毛症であれば、原因となった身体的ストレスから回復するにつれて多くは3〜6か月で自然に抜け毛が治まり、その後、髪の毛は再び生え始めます。

ただし、6か月以上経っても改善しない場合や、薄毛が進行しているように感じる場合は、他の原因が隠れている可能性があるので、専門医に相談してください。

どのような栄養素を摂取すれば良いですか?

特定の栄養素だけを大量に摂取するのではなく、バランスの良い食事が基本です。

特に髪の主成分である「タンパク質」、それを助ける「亜鉛」、頭皮の健康を保つ「ビタミンB群」は重要です。

肉、魚、卵、大豆製品、レバー、緑黄色野菜などを日々の食事にバランス良く取り入れましょう。

クリニックを受診するタイミングはいつですか?

抜け毛が6か月以上続く場合、頭皮にかゆみや炎症がある場合、生え際や頭頂部など特定の場所から薄くなってきたと感じる場合は受診をおすすめします。

不安が強い場合も、一度専門医に相談することで安心できることがありますので、気軽にご相談ください。

治療にはどのくらいの期間と費用がかかりますか?

治療内容や期間は脱毛症の種類や進行度によって大きく異なります。

休止期脱毛症で生活習慣の改善や栄養補助が中心であれば、費用は比較的抑えられます。AGA治療に移行する場合は内服薬や外用薬を継続する必要があり、一般的に自由診療となります。

初回のカウンセリングで具体的な治療計画と費用の目安について詳しく説明しますので、ご納得いただいた上で治療を開始できます。

以上

参考文献

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