「前頭葉からハゲてきた気がする」「考えすぎると髪に悪いのだろうか」といったように、脳の「前頭葉」と薄毛を結びつけて考えてしまう方は少なくありません。
前頭部の薄毛が進行すると、その場所から脳の状態を心配してしまうのも無理はないでしょう。
この記事では、多くの方が疑問に思う「前頭葉と薄毛」の関係について、医学的な観点からその真相を解説します。
直接的な因果関係の有無から前頭葉の働きが髪に与える間接的な影響までを深く掘り下げ、正しい知識と対策をお伝えします。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
「前頭葉の薄毛」の正体とは
多くの方が口にする「前頭葉の薄毛」という言葉ですが、医学的には脳の一部である前頭葉そのものが原因で髪が抜けるわけではありません。
これは薄毛が起こる「場所」から生まれた表現であり、その本当の原因は別に存在します。
一般的に指す前頭部の薄毛
「前頭葉の薄毛」とは、一般的に額の生え際やその周辺、いわゆる「前頭部」の髪が薄くなる状態を指します。
脳の前頭葉が位置するあたりと薄毛が目立ち始める部位が重なるため、このように呼ばれるようになったと考えられます。
脳の前頭葉と頭皮は別問題
脳の前頭葉は思考、判断、感情のコントロールといった高次の精神機能を司る重要な器官です。一方で、髪の毛は頭皮にある「毛包」という組織で作られます。
この二つは全く別の器官であり、前頭葉の活動が直接的に毛包に作用して髪を抜けさせるといった現象は起こりません。
なぜ「前頭葉」と結びつけられるのか
前頭部の薄毛は、AGA(男性型脱毛症)の典型的な症状の一つです。
AGAがこの部位から始まることが多いこと、そして「深く考える」「ストレスを感じる」といった行為が前頭葉の働きと関連づけられやすいことから、「考えすぎで前頭葉が疲弊し、その部分の髪が抜ける」というイメージが定着した可能性があります。
「前頭葉の薄毛」に関する誤解と医学的事実
項目 | よくある誤解 | 医学的な事実 |
---|---|---|
原因 | 前頭葉の使いすぎ、脳疲労 | AGA(男性ホルモンと遺伝) |
部位 | 脳の位置と髪が連動している | 毛包の特性による(たまたま場所が同じ) |
対策 | 頭を休ませる、考えないようにする | 医学的根拠に基づいた治療 |
前頭部の薄毛を引き起こす本当の原因
前頭部の薄毛、特に男性に見られる症状のほとんどはAGA(男性型脱毛症)が原因です。その発症には遺伝と男性ホルモンが深く関わっています。
AGA(男性型脱毛症)の基本的な仕組み
AGAは男性ホルモン「テストステロン」が還元酵素「5αリダクターゼ」と結合することで、より強力な「ジヒドロテストステロン(DHT)」に変換されることから始まります。
このDHTが毛根にある受容体と結合すると髪の成長を妨げる信号が出され、ヘアサイクルが乱れて薄毛が進行します。
なぜ生え際から薄くなるのか
前頭部の生え際や頭頂部にはAGAの原因となる5αリダクターゼや男性ホルモン受容体が多く分布しています。このためDHTの影響を受けやすく、他の部位に比べて薄毛が進行しやすいのです。
つまり、脳の位置とは関係なく、頭皮の毛根の性質によって薄毛になる場所が決まります。
遺伝と男性ホルモンの関係
5αリダクターゼの活性度や男性ホルモン受容体の感受性の高さは、遺伝によって受け継がれることが分かっています。
ご家族に薄毛の方がいる場合にAGAを発症しやすいのは、この遺伝的素因が大きく影響しているためです。
AGAの主な要因
要因 | 具体的な内容 | 補足 |
---|---|---|
男性ホルモン | DHT(ジヒドロテストステロン)が主な原因物質 | テストステロンそのものが悪影響なのではない |
遺伝 | 酵素の活性や受容体の感受性が遺伝する | 母方、父方双方から遺伝の可能性 |
前頭葉の働きが髪に与える間接的な影響
前頭葉が薄毛の直接的な原因ではない一方で、その働きが不調になることで、間接的に髪の健康に影響を及ぼす可能性は否定できません。
特にストレスや生活習慣との関わりは重要です。
ストレス管理とホルモンバランス
前頭葉はストレスを感じたときの感情のコントロールを担っています。過度なストレスが続くと前頭葉の機能が低下し、自律神経やホルモンバランスが乱れやすくなります。
このことにより、頭皮の血行が悪化したり、髪の成長が妨げられたりして抜け毛が増える一因となることがあります。
意思決定と生活習慣
計画を立てて実行する、衝動を抑えるといった意思決定も前頭葉の重要な働きです。
この機能が低下すると髪に悪いと分かっていても喫煙や深酒、栄養の偏った食事といった不健康な生活習慣を続けてしまいがちです。
こうした習慣の積み重ねが、頭皮環境を悪化させます。
睡眠の質と前頭葉の休息
日中に活発に働いた前頭葉は質の高い睡眠中に休息し、機能を回復します。しかし、悩み事や過度な情報収集で前頭葉が興奮し続けると寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりします。
睡眠不足は髪の成長に欠かせない成長ホルモンの分泌を妨げるため、薄毛のリスクを高めます。
前頭葉の働きと髪への間接的な影響
前頭葉の機能 | 機能低下による影響 | 髪への間接的な悪影響 |
---|---|---|
感情の抑制 | ストレスを溜め込みやすい | 血行不良、ホルモンバランスの乱れ |
意思決定 | 不健康な習慣を断ち切れない | 栄養不足、頭皮環境の悪化 |
思考・集中 | 脳が休まらず睡眠の質が低下 | 成長ホルモンの分泌抑制 |
その習慣、前頭葉と髪に負担をかけていませんか?
「前頭葉がハゲる」のではなく、「前頭葉に負担をかける生活が、結果として髪にも悪影響を及ぼす」という視点を持つことが重要です。
あなたの日常に潜む、脳と髪を同時に疲れさせてしまう習慣を見直してみましょう。
デジタルデバイスの長時間利用と脳疲労
スマートフォンやPCから絶え間なく流れ込む情報は、脳、特に前頭葉を常に活動状態にし、疲弊させます。特に就寝前のスマホ利用は、脳を覚醒させて睡眠の質を大きく低下させます。
この「脳疲労」の状態は自律神経の乱れを通じて、頭皮の血行にも悪影響を与えかねません。
思考の反芻と精神的ストレス
過去の失敗や将来への不安を繰り返し堂々巡りのように考え続けてしまう「思考の反芻」は、前頭葉の機能を低下させ、精神的ストレスを増大させることが知られています。
この種の持続的なストレスは血管を収縮させ、毛根への栄養供給を滞らせる大きな要因です。
乱れた食生活がもたらす集中力の低下
血糖値を急激に変動させる食事(甘いものや炭水化物の過剰摂取)は脳のパフォーマンスを不安定にし、集中力の低下を招きます。
そして、こうした食事は往々にして髪の主成分であるタンパク質や、その成長を助けるビタミン・ミネラルが不足しがちです。
脳の栄養不足と髪の栄養不足は、表裏一体の関係にあるのです。
脳と髪に負担をかける生活習慣
習慣 | 前頭葉への負担 | 髪への悪影響 |
---|---|---|
寝る前のスマホ | 脳の覚醒、疲労蓄積 | 睡眠の質の低下、成長ホルモン減少 |
考えすぎる癖 | ストレス増大、機能低下 | 血行不良、ホルモンバランスの乱れ |
栄養の偏った食事 | 集中力低下、パフォーマンス不安定 | 髪の栄養不足 |
専門クリニックで行う前頭部の薄毛治療
前頭部の薄毛、すなわちAGAは、セルフケアだけで改善することは困難です。進行を食い止め、改善を目指すためには医学的根拠に基づいた専門的な治療が必要です。
内服薬による進行抑制
AGA治療の基本は、原因物質であるDHTの産生を抑えることです。
フィナステリドやデュタステリドといった内服薬は5αリダクターゼの働きを阻害し、抜け毛を減らしてAGAの進行を抑制します。
外用薬による発毛促進
内服薬による「守り」の治療と並行して、ミノキシジル外用薬による「攻め」の治療も有効です。
ミノキシジルは頭皮の血行を促進し、毛母細胞を活性化させることで発毛を促す効果があります。特に前頭部は効果を実感しにくい場合もあるため、内服薬との併用が推奨されます。
治療における医師の役割
専門医は薄毛の原因が本当にAGAなのかを正確に診断し、患者さん一人ひとりの進行度や健康状態に合わせた適切な治療法を提案します。
また、治療薬の副作用のリスクを管理し、定期的な診察を通じて治療効果を客観的に評価するなど、安全かつ効果的に治療を進める上で不可欠な存在です。
AGAの主な治療選択肢
治療法 | 主な薬剤 | 期待される効果 |
---|---|---|
内服薬治療 | フィナステリド、デュタステリド | 抜け毛の抑制、進行遅延 |
外用薬治療 | ミノキシジル | 血行促進、発毛促進 |
前頭葉と薄毛に関するよくある質問
最後に、前頭葉と薄毛の関係について患者さんからよく寄せられる質問にお答えします。
- 前頭葉を鍛えれば髪は生えますか?
-
脳トレーニングなどで前頭葉の機能を高めることが、直接的な発毛につながるという医学的根拠はありません。
しかし、前頭葉の機能を健全に保つための習慣(質の良い睡眠、ストレス管理、バランスの取れた食事など)は、結果的に髪の健康にも良い影響を与えます。
髪のためにも、脳を健やかに保つ生活を心がけましょう。
- なぜ前頭部と頭頂部から薄くなるのですか?
-
繰り返しになりますが、これは脳の位置とは関係なく、AGAの原因となる男性ホルモンの影響を受けやすい受容体が、前頭部と頭頂部の毛根に多く存在するためです。
逆に後頭部や側頭部の毛根は、この受容体が少ないため、薄くなりにくいという性質があります。
薄毛になりやすい部位となりにくい部位
- 影響を受けやすい:前頭部、頭頂部
- 影響を受けにくい:後頭部、側頭部
- ストレスを感じると、すぐに髪は抜けますか?
-
強い精神的ショックなどで一時的に抜け毛が増える「休止期脱毛症」という状態はありますが、AGAの進行は長期的なホルモンの影響によるものです。
日々のストレスがAGAの進行を早める可能性はありますが、「ストレスを感じたから、すぐに前頭部がハゲる」というわけではありません。
- 治療を始めれば、すぐに効果は出ますか?
-
AGA治療の効果を実感するまでには、ヘアサイクルが正常化するための時間が必要です。
一般的に抜け毛の減少を感じ始めるのに約3ヶ月、見た目の変化を感じるまでには最低でも6ヶ月程度の継続的な治療が必要です。
焦らず、医師の指示に従って治療を続けることが大切です。
以上
参考文献
YAMADA, Tomohide, et al. Male pattern baldness and its association with coronary heart disease: a meta-analysis. BMJ open, 2013, 3.4: e002537.
KAMISHIMA, Tomoko, et al. Divergent progression pathways in male androgenetic alopecia and female pattern hair loss: Trichoscopic perspectives. Journal of Cosmetic Dermatology, 2024, 23.5: 1828-1839.
O’GOSHI, Ken-ichiro; IGUCHI, Makiko; TAGAMI, Hachiro. Functional analysis of the stratum corneum of scalp skin: studies in patients with alopecia areata and androgenetic alopecia. Archives of dermatological research, 2000, 292.12: 605-611.
WANG, Ruilong, et al. Micronutrients and Androgenetic Alopecia: A Systematic Review. Molecular Nutrition & Food Research, 2024, 68.22: 2400652.
PORRINO-BUSTAMANTE, Maria Librada; FERNANDEZ-PUGNAIRE, Maria Antonia; ARIAS-SANTIAGO, Salvador. Frontal fibrosing alopecia: a review. Journal of Clinical Medicine, 2021, 10.9: 1805.