タバコをやめたら髪の毛はどう変わる?抜け毛への影響

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「タバコは髪に悪い」と漠然と知っていても、具体的にどのような影響があるのか、そして禁煙すれば髪は元に戻るのか、気になっている方は多いでしょう。

喫煙はあなたが思っている以上に深刻なダメージを髪と頭皮に与えています。

この記事ではタバコが抜け毛を引き起こす科学的な根拠から禁煙によって期待できる髪の変化、そしてAGA治療との関係まで専門家の視点で徹底解説します。

禁煙という決断があなたの髪の未来をどう変えるのか、その答えがここにあります。

目次

この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック統括院長 前田 祐助
Dr.前田 祐助

AGAメディカルケアクリニック 統括院長

前田 祐助

【経歴】

慶應義塾大学医学部医学研究科卒業

慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了

大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設

2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設

院長プロフィール

資格・所属学会・症例数

【資格】

  • 医師免許
  • ⽇本医師会認定産業医
  • 医学博士

【所属学会】

  • 日本内科学会
  • 日本美容皮膚科学会
  • 日本臨床毛髪学会

【症例数】

3万人以上※

※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数

タバコが髪に与える「三重苦」

タバコの煙には数千種類もの化学物質が含まれ、そのうち数百種類は有害物質です。中でも特に、髪の健康に深刻なダメージを与える代表的な3つの物質があります。

ニコチンによる血管収縮と血行不良

タバコに含まれるニコチンには血管を強力に収縮させる作用があります。特に頭皮に無数に存在する毛細血管は非常に細いため、ニコチンの影響を強く受けます。

喫煙によって血行が悪化すると髪の成長に必要な栄養や酸素が毛根の毛母細胞に十分に行き渡らなくなり、健康な髪が育たなくなってしまいます。

一酸化炭素による酸欠状態

タバコの煙に含まれる一酸化炭素は血液中で酸素を運ぶ役割を持つヘモグロビンと非常に結びつきやすい性質を持っています。

喫煙すると本来酸素と結びつくべきヘモグロビンが一酸化炭素と結びついてしまい、体全体が慢性的な酸欠状態に陥ります。

このことは毛母細胞の活動を著しく低下させる原因となります。

タバコの三大有害物質と髪への影響

有害物質体への作用髪への影響
ニコチン血管収縮頭皮の血行不良、栄養不足
一酸化炭素酸素運搬能力の低下頭皮・毛母細胞の酸欠
タールビタミンの大量消費髪の成長に必要な栄養素の欠乏

ビタミン破壊による栄養不足

喫煙は体内の活性酸素を大量に発生させます。体はこれを無害化するために抗酸化作用のあるビタミンCをはじめ、ビタミンEやビタミンB群などを大量に消費します。

これらのビタミンは頭皮の健康を保ち、髪の成長をサポートする重要な栄養素です。喫煙によってこれらの栄養素が絶えず奪われることで、髪は栄養不足の状態に陥ります。

喫煙とAGA(男性型脱毛症)の深刻な関係

喫煙習慣はそれ自体が薄毛の要因となるだけでなく、AGA(男性型脱毛症)の発症リスクを高め、その進行を加速させることが多くの研究で示唆されています。

喫煙はAGAのリスクを高めるのか

複数の研究により、喫煙者は非喫煙者に比べてAGAを発症するリスクが高いことが報告されています。

また、喫煙はAGAの原因物質であるDHT(ジヒドロテストステロン)の血中濃度を高める可能性があるという研究結果もあります。

喫煙による血行不良や栄養不足が、AGAの遺伝的素因を持つ人の発症スイッチを押してしまう可能性は十分に考えられます。

遺伝的素因を持つ人への影響

ご家族に薄毛の方がいるなど、もともとAGAの素因を持っている人が喫煙を続けることは、薄毛の進行に拍車をかける行為です。

遺伝という土台の上に喫煙という悪影響が加わることで、AGAはより早期に、そしてより速いスピードで進行するリスクが高まります。

喫煙がAGAを悪化させる要因

要因詳細
血行不良毛根への栄養供給が滞り、ヘアサイクルが乱れる
栄養不足髪の主成分であるタンパク質の合成が阻害される
DHTへの影響AGAの原因物質の濃度を高める可能性がある

AGA治療効果を半減させるタバコ

AGA治療は内服薬や外用薬によって血行を促進し、毛根に栄養を届けることで効果を発揮します。

しかし、喫煙を続けているとニコチンの血管収縮作用によって、せっかくの治療薬の効果が相殺されてしまいます。

高価な治療費を払いながら自らその効果を妨げているようなものであり、非常にもったいない状態といえます。

禁煙で髪は変わるのか?期待できる効果と時間軸

禁煙を決意したとき、髪にはどのような良い変化が訪れるのでしょうか。体の変化はあなたが思うより早く始まります。

禁煙直後から始まる体の変化

禁煙を始めると、わずか数時間で血中の一酸化炭素濃度が正常化し始め、24時間後には心臓発作のリスクが低下します。

そして数日後には味覚や嗅覚が改善し、体の末端まで血流が改善し始めます。頭皮もこの変化の恩恵を受ける場所の一つです。

禁煙後の時間経過と体の変化

経過時間体(血流)の変化
24時間一酸化炭素レベルが正常化し、心臓発作のリスクが低下
数日~数週間循環機能が改善し、体の隅々まで血流が届き始める
1ヶ月~咳や息切れが改善し、スタミナが向上する

血流改善による頭皮環境の正常化

禁煙によってニコチンの呪縛から解放されると、収縮していた頭皮の毛細血管が正常な状態に戻り、血行が改善します。

これにより毛母細胞に十分な酸素と栄養が供給されるようになり、髪が育つための土台が整います。また、ビタミンの無駄遣いもなくなるため、頭皮の健康状態も改善していきます。

髪質の変化を実感できるまでの期間

髪の毛は1ヶ月に約1cmしか伸びないため、禁煙による髪質の変化を実感するにはある程度の時間が必要です。

一般的には禁煙開始から3ヶ月〜6ヶ月ほどで、「抜け毛が減った」「髪にハリやコシが出てきた」といった変化を感じ始める方が多いです。

焦らず、じっくりと体の変化を待ちましょう。

禁煙だけではAGAの進行は止まらない

重要なことですが、禁煙はあくまで「頭皮環境を正常に戻す」ためのものであり、既に発症しているAGAの進行を根本から止めることはできません。

AGAは遺伝とホルモンが原因の進行性の脱毛症です。禁煙は治療の土台作りとして非常に重要ですが、それだけで薄毛が治るわけではないことを理解する必要があります。

「ストレス解消の一服」が招く、さらなるストレス

「仕事のプレッシャーやイライラを解消するために、タバコが手放せない」。そう考えている方は少なくありません。

しかしその一服は、本当にあなたのストレスを解消しているのでしょうか。

喫煙がストレス解消になるという幻想

喫煙者がタバコを吸って「ホッとする」と感じるのは、ニコチン切れによる離脱症状(イライラ、集中力低下など)がニコチンの摂取によって一時的に緩和されるためです。

これはストレスが解消されたのではなく、タバコによって作られたストレスがタバコによって一時的に解消されているに過ぎません。これを「心理的依存」と呼びます。

ニコチン依存の悪循環

段階状態
喫煙ニコチン摂取による一時的な満足感
ニコチン切れイライラ、集中力低下(離脱症状)
渇望「タバコを吸いたい」という強い欲求

ニコチン切れが引き起こすイライラと血行不良

ニコチンが切れるたびにイライラするという状態は、それ自体が精神的なストレスです。

そして、このストレスが交感神経を刺激し、さらなる血管収縮と血行不良を招きます。

つまり、喫煙者はニコチンの直接的な血管収縮作用と、ニコチン切れによるストレス性の血管収縮という二重の血行不良リスクにさらされているのです。

髪の悩みと喫煙の悪循環

抜け毛が増えて悩む→ストレスを感じる→ストレス解消のためにタバコを吸う→タバコで髪の状態がさらに悪化する→さらに悩みが深まる。こうした負のスパイラルに陥っていませんか。

この悪循環を断ち切るためには、タバコがストレス解消にはなっていないという事実を認識することが第一歩です。

禁煙を成功させるための具体的なアプローチ

意志の力だけで禁煙するのは非常に困難です。しかし医療の力を借りることで、成功率は格段に上がります。

禁煙外来という選択肢

禁煙外来では医師があなたの喫煙状況や健康状態を評価し、禁煙計画を一緒に立ててくれます。

保険適用で治療を受けられる場合もあり、カウンセリングやアドバイスを通じて禁煙に伴う不安や離脱症状を乗り越えるサポートをしてくれます。

禁煙補助薬の活用

禁煙外来ではニコチン依存を和らげるための補助薬を処方します。

ニコチンを含んだパッチやガムで離脱症状を抑える「ニコチン代替療法」や、ニコチンを含まない飲み薬でタバコをおいしいと感じなくさせる方法などがあります。

  • ニコチンパッチ(貼り薬)
  • ニコチンガム(噛み薬)
  • バレニクリン(飲み薬)

周囲のサポートと環境づくり

禁煙を始めることを家族や友人に宣言し、協力を求めることも大切です。

また、灰皿やライターを処分する、飲み会では喫煙者の近くの席を避けるなど、タバコを吸いたくなる環境から物理的に距離を置く工夫も有効です。

加熱式タバコや電子タバコなら安全か

「紙巻きタバコよりは害が少ないだろう」と、加熱式タバコや電子タバコに切り替える方も増えています。しかし髪への影響という観点では、決して安全とはいえません。

加熱式タバコに含まれる有害物質

加熱式タバコはタールなどの有害物質が削減されているとされていますが、ゼロではありません。そして何より血管を収縮させるニコチンは、紙巻きタバコと同等レベルで含まれています。

したがって、頭皮の血行を悪化させるという点では、髪への悪影響は変わらないのです。

紙巻きタバコと加熱式タバコの比較

有害物質紙巻きタバコ加熱式タバコ
ニコチンありあり
タールあり削減されているがゼロではない
一酸化炭素ありあり

ニコチンを含む電子タバコのリスク

日本国内で販売されている電子タバコのリキッドには法律上ニコチンを含めることはできません。

しかし海外から個人輸入したリキッドにはニコチンが含まれているものがあり、これを使用すれば加熱式タバコと同様のリスクがあります。

禁煙とAGA治療の相乗効果

本気で薄毛を改善したいなら、「禁煙」と「AGA治療」を同時に始めることが最も効果的で確実な方法です。

禁煙が治療効果を最大化する理由

禁煙によって頭皮の血行が改善されるとAGA治療薬の有効成分が毛根まで届きやすくなります。

せっかくの治療薬の効果を100%引き出すためには禁煙によってその土台を整えることが重要です。

禁煙とAGA治療の役割

アプローチ役割
禁煙(守り)血行を改善し、髪が育つ土台を整える
AGA治療(攻め)AGAの進行を止め、発毛を促す

守り(禁煙)と攻め(AGA治療)の両輪

禁煙は髪へのダメージをこれ以上増やさないための「守り」の対策です。一方、AGA治療は薄毛の根本原因に働きかけ、発毛を促す「攻め」の対策です。

この守りと攻めの両輪がそろうことであなたの髪は本来の力を取り戻し、確かな改善へと向かうことができます。

よくある質問

最後に、タバコと薄毛に関して患者さんからよくいただく質問とその回答をまとめました。

禁煙したら、すぐに髪は生えてきますか?

いいえ、すぐには生えません。禁煙によって頭皮環境が改善し、その効果が髪質の変化として現れるまでには、最低でも3ヶ月から半年はかかります。

また、AGAが進行している場合は禁煙だけでは発毛は期待できず、専門的な治療が必要です。

禁煙のストレスで抜け毛が増えることはありますか?

禁煙開始後の離脱症状による一時的なストレスで抜け毛が少し増えると感じる方もいるかもしれません。

しかし、これは短期的なものです。長期的に見れば喫煙を続けることによるストレスと髪へのダメージの方がはるかに大きいため、乗り越える価値は十分にあります。

禁煙外来などでサポートを受けることをお勧めします。

本数を減らす「節煙」ではダメですか?

残念ながら、あまり意味がありません。本数を減らしても1本吸うだけで血管は収縮し、有害物質は体内に入ります。

また、本数を我慢することで、かえって1本を深く吸い込んでしまい、血中のニコチン濃度が下がりにくいというデータもあります。

「吸うか吸わないか」の選択が重要です。

 家族が吸うタバコの副流煙も髪に悪いですか?

はい、悪影響があります。副流煙には主流煙よりも高濃度の有害物質が含まれていることが知られています。

受動喫煙によって、ご自身の喫煙と同様に血行不良や健康被害のリスクが高まります。

ご家族の健康のためにも禁煙について話し合うことが大切です。

以上

参考文献

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YAMADA, Tomohide, et al. Male pattern baldness and its association with coronary heart disease: a meta-analysis. BMJ open, 2013, 3.4: e002537.

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