薄毛(女性)の原因と医療機関での検査法

女性の薄毛や抜け毛の悩みは、非常にデリケートな問題です。その原因は一つではなく、ホルモンバランスの変化、加齢、生活習慣、特定の疾患など、多岐にわたります。

ご自身の状態を正しく理解し、適切な対処法を見つけるためには、まず原因を特定することが重要です。

この記事では、女性に起こりうる18種類の脱毛症について、それぞれの原因と、クリニックなどの医療機関で行う具体的な検査法を詳しく解説します。

ご自身の髪の悩みがどのタイプに当てはまる可能性があるのか、その手がかりを見つける一助となれば幸いです。

FAGA(女性男性型脱毛症)老人(加齢)性脱毛症分娩後脱毛症(産後脱毛症)
びまん性脱毛症慢性休止期脱毛症円形脱毛症
牽引(けんいん)性脱毛症粃糠(ひこう)性脱毛症脂漏(しろう)性脱毛症
成長期脱毛症(抗がん剤の副作用)薬剤性脱毛症(抗がん剤以外)慢性甲状腺炎に伴う脱毛症
鉄欠乏性貧血に伴う脱毛症膠原病に伴う脱毛症瘢痕(はんこん)性脱毛症
真菌性脱毛症・しらくも(頭部白癬)圧迫性脱毛症脂腺母斑による脱毛症
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この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック統括院長 前田 祐助
Dr.前田 祐助

AGAメディカルケアクリニック 統括院長

前田 祐助

【経歴】

慶應義塾大学医学部医学研究科卒業

慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了

大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設

2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設

院長プロフィール

資格・所属学会・症例数

【資格】

  • 医師免許
  • ⽇本医師会認定産業医
  • 医学博士

【所属学会】

  • 日本内科学会
  • 日本美容皮膚科学会
  • 日本臨床毛髪学会

【症例数】

3万人以上※

※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数

FAGA(女性男性型脱毛症) – ホルモンバランスの変化が引き起こす薄毛

女性の薄毛で最も多く見られるタイプの一つが、FAGA(Female Androgenetic Alopecia)です。

男性のAGA(男性型脱毛症)と名前が似ていますが、女性の場合は男性のように生え際が後退したり、頭頂部が完全につるつるになったりすることは稀で、頭頂部を中心とした広い範囲の髪が細くなり、地肌が透けて見えるようになるのが特徴です。

進行は緩やかで、ご自身では気づきにくいこともあります。

原因

ホルモンバランスの変動

主な原因は、女性ホルモンである「エストロゲン」の減少と、男性ホルモンである「アンドロゲン」の相対的な影響力の増加です。

特に閉経期を迎えるとエストロゲンの分泌が大きく減少するため、FAGAの症状が顕著になることがあります。

アンドロゲンが毛乳頭細胞にある受容体と結びつくと、毛髪の成長サイクル(毛周期)が乱れ、髪が太く長く成長する前に抜け落ちてしまいます。

その結果、徐々に細く短い毛が増え、全体のボリュームが失われていきます。遺伝的な要因も関与すると考えられています。

検査

視診と問診

医師がまず行うのは、頭皮と毛髪の状態を直接目で見て確認する視診です。

特に、頭頂部と側頭部・後頭部の毛髪の密度や太さを比較し、FAGAに特徴的な頭頂部のびまん性(広範囲にわたる)の菲薄化(ひはくか)があるかを確認します。

併せて、初経や月経周期、妊娠・出産の経験、家族歴(特に母親や祖母の髪の状態)、生活習慣などについて詳しく問診し、診断の手がかりとします。

ダーモスコピー検査

ダーモスコピーという特殊な拡大鏡を用いて、頭皮や毛穴、毛髪の状態を詳しく観察します。

この検査によって、毛髪の太さのばらつき、一本の毛穴から生えている毛髪の本数の減少、毛穴周りの炎症の有無などを確認でき、より客観的な診断が可能になります。

FAGAの診断で確認するポイント

確認項目主な内容診断上の意義
毛髪の分布頭頂部の毛髪が薄くなっていないかFAGAに特徴的なパターンの確認
毛髪の太さ細く短い毛(軟毛)の割合毛周期の短縮化(軟毛化)の評価
家族歴血縁者に同様の薄毛の人がいるか遺伝的素因の有無を確認

老人(加齢)性脱毛症 – 加齢に伴う自然な変化

年齢を重ねるとともに、髪のハリやコシ、ボリュームが失われ、全体的に薄くなったと感じることがあります。

これは老人性脱毛症、あるいは加齢性脱毛症と呼ばれ、誰にでも起こりうる生理的な現象です。FAGAのように特定のホルモンが主な原因というよりは、加齢に伴う複合的な要因によって引き起こされます。

原因

主な原因は、毛髪を作り出す「毛母細胞」の機能低下です。加齢により細胞分裂のスピードが遅くなり、新しい髪が作られにくくなります。

また、毛周期における成長期の期間が短くなり、休止期にとどまる毛包の割合が増えることも一因です。

さらに、頭皮の血行不良や、長年の紫外線ダメージの蓄積、女性ホルモンの減少なども複合的に影響し、髪の健康な成長を妨げます。

検査

特定の疾患が原因ではないため、診断は主に問診と視診によって行います。年齢や脱毛の進行度合い、他に病気がないかなどを確認し、加齢による生理的な変化であると判断します。

ただし、他の脱毛症、特にFAGAやびまん性脱毛症との鑑別が重要になるため、必要に応じて血液検査やダーモスコピーを行い、他の原因が隠れていないかを慎重に調べます。

年代別に見る髪の変化と関連要因

年代髪の変化の特徴主な関連要因
40代白髪、うねり、ツヤの減少女性ホルモンの減少し始め、血行不良
50代以降全体のボリュームダウン、地肌の透け閉経によるホルモン変化、毛母細胞の機能低下
共通一本一本が細くなる毛周期の乱れ、栄養不足

分娩後脱毛症(産後脱毛症) – 出産後のホルモン変動による一時的な脱毛

出産を経験した多くの女性が直面するのが、産後の抜け毛です。産後2〜3ヶ月頃から始まり、半年から1年ほどで自然に回復することが多い一時的な脱毛症です。

とはいえ、ごっそりと髪が抜けるため、不安に感じる方も少なくありません。

原因

妊娠中は、女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンの分泌量が非常に高いレベルで維持されます。

エストロゲンには髪の成長期を維持する働きがあるため、妊娠中は本来なら抜けるはずの髪が抜けにくくなります。

しかし、出産を終えるとホルモンバランスは急激に妊娠前の状態に戻ります。その結果、成長期を維持されていた大量の毛髪が一斉に休止期に入り、まとまって抜け落ちてしまうのです。

これは病的なものではなく、正常な体の変化の一部です。

検査

問診で出産時期と脱毛が始まった時期の関連性を確認できれば、通常は分娩後脱毛症と診断します。ほとんどの場合、特別な検査は必要ありません。

ただし、脱毛が1年以上続く場合や、他に体調不良がある場合には、鉄欠乏性貧血や甲状腺機能の異常など、他の原因が隠れている可能性も考えられるため、血液検査を行うことがあります。

産後の毛髪サイクルの変化

時期ホルモン状態毛髪の状態
妊娠中女性ホルモンが非常に多い成長期が維持され、抜け毛が減る
出産後女性ホルモンが急激に減少多くの毛髪が一斉に休止期に入り、脱毛が増加
産後1年頃ホルモンバランスが安定毛周期が正常化し、抜け毛が落ち着く

びまん性脱毛症 – 頭部全体が均一に薄くなる脱毛症

特定の部位ではなく、頭部全体の毛髪が均等に薄くなる状態を「びまん性脱毛症」と呼びます。

FAGAと症状が似ていますが、FAGAが頭頂部に強く症状が現れるのに対し、びまん性脱毛症はより広範囲に、全体的にボリュームが失われるのが特徴です。

若い世代の女性にも見られることがあります。

原因

原因は一つに特定できないことが多く、複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられています。

  • 過度なストレス
  • 栄養不足(特にタンパク質、亜鉛、鉄分など)
  • 睡眠不足や不規則な生活習慣
  • 加齢
  • 誤ったヘアケア

これらの要因が毛周期を乱し、毛髪の成長を妨げることで、細く弱い髪が増え、全体的に薄毛が進行します。

検査

原因が多岐にわたるため、問診が非常に重要です。最近の生活の変化、食事内容、ストレスの有無、睡眠時間、使用しているヘアケア製品などについて詳しく聞き取ります。

その上で、視診やダーモスコピーで頭皮の状態を確認します。また、栄養状態の偏りや内科的疾患の可能性を調べるために、血液検査(貧血、甲状腺機能、亜鉛など)を行うこともあります。

びまん性脱毛症とFAGAの比較

項目びまん性脱毛症FAGA
主な症状の部位頭部全体頭頂部が中心
主な原因生活習慣、ストレス、栄養不足など複合的ホルモンバランスの変化、遺伝
発症年齢全年齢層更年期前後に多い

慢性休止期脱毛症 – 抜け毛が6ヶ月以上続く状態

急激なストレスや高熱などの後に一時的に抜け毛が増える「急性休止期脱毛症」に対し、明らかなきっかけがないまま、6ヶ月以上にわたって抜け毛が多い状態が続くものを「慢性休止期脱毛症」と呼びます。

1日の抜け毛が100本を超えるような状態が長く続くため、不安を感じる方が多い脱毛症です。

原因

はっきりとした原因はまだ完全には解明されていません。しかし、潜在的な鉄欠乏、甲状腺疾患、精神的ストレス、特定の薬剤などが引き金になる可能性が指摘されています。

毛周期の中で、本来なら数ヶ月で終わるはずの休止期が長引いてしまい、結果として脱毛する毛髪の割合が増加すると考えられています。

検査

まずは詳細な問診で、脱毛の期間や量、既往歴、服用薬、生活習慣などを確認します。次に、他の脱毛症との鑑別や背景にある原因を探るため、血液検査が重要になります。

特に、血清フェリチン(体内の貯蔵鉄)、甲状腺ホルモン、亜鉛などを測定します。

また、患者さん自身に抜けた毛髪を数十本持ってきてもらい、毛根の状態を顕微鏡で観察する「抜け毛検査(トリコグラム)」を行うこともあります。

円形脱毛症 – 自己免疫反応が関わる突然の脱毛

ある日突然、コインのような円形や楕円形の脱毛斑ができるのが特徴です。

一つだけできる単発型から、複数できる多発型、頭全体の髪が抜ける全頭型、さらには眉毛やまつ毛など全身の毛が抜ける汎発型まで、症状は様々です。

かゆみや痛みなどの自覚症状はほとんどありません。

原因

円形脱毛症は自己免疫疾患の一種と考えられています。本来は体を守るはずの免疫細胞(Tリンパ球)が、何らかの理由で成長期の毛根を異物と誤認して攻撃してしまい、毛が抜けてしまいます。

なぜこのような異常が起こるのかは完全には分かっていませんが、精神的ストレスや肉体的疲労、感染症などが引き金になることがあります。

また、アトピー性皮膚炎や甲状腺疾患、尋常性白斑などの自己免疫疾患を合併しやすいことも知られています。

検査

基本的には特徴的な脱毛斑を視診することで診断がつきます。

ダーモスコピーで観察すると、脱毛斑の辺縁に「感嘆符毛(!マークのような形の毛)」が見られることがあり、診断の助けになります。

他の自己免疫疾患の合併が疑われる場合には、血液検査で自己抗体や甲状腺ホルモンなどを調べることがあります。

広範囲に及ぶ重症例では、他の脱毛症との鑑別のため、皮膚の一部を採取して調べる皮膚生検を行うこともあります。

円形脱毛症の主な種類

種類特徴範囲
単発型脱毛斑が1つだけ生じる頭部の一部
多発型脱毛斑が2つ以上生じる頭部の複数箇所
全頭型頭部の毛髪がすべて抜ける頭部全体

牽引(けんいん)性脱毛症 – ヘアスタイルが原因で起こる脱毛

毎日同じ髪型で、特定の部位の毛根に継続的に強い力がかかることで起こる脱毛症です。特に、ポニーテールやきつい三つ編み、お団子ヘアなどを長期間続けている方に多く見られます。

分け目や生え際の部分が徐々に薄くなっていくのが特徴です。

原因

原因は非常にシンプルで、髪を強く引っ張り続けることによる物理的なダメージです。毛根が常に引っ張られることで血行が悪くなり、毛母細胞が弱ってしまいます。

初期の段階では毛が細くなる程度ですが、長期間にわたって牽引が続くと、毛包そのものが損傷し、最終的には毛が生えてこなくなる可能性もあります。

検査

問診で普段のヘアスタイルや習慣について詳しく聞き取ることが最も重要です。

視診で、引っ張られている部位(生え際、分け目など)の毛髪が薄くなっていないか、細くなっていないかを確認します。ダーモスコピーで毛穴の状態を観察することもあります。

原因がはっきりしているため、通常は血液検査などの詳しい検査は必要ありません。

粃糠(ひこう)性脱毛症 – 乾いたフケが原因の頭皮トラブル

頭皮の異常な乾燥によって、大量の乾いたフケ(粃糠)が発生し、これが毛穴を塞いで炎症を起こすことで抜け毛につながる脱毛症です。

頭皮全体に細かいフケが見られ、かゆみを伴うこともあります。

原因

洗浄力の強すぎるシャンプーの使用、頻繁なシャンプー、空気の乾燥、アトピー素因などが原因で頭皮の皮脂が過剰に奪われ、バリア機能が低下することが主な原因です。

頭皮が乾燥するとターンオーバー(新陳代謝)が乱れ、未熟な角質がフケとしてはがれ落ち、毛穴の正常な機能を妨げます。

検査

視診で頭皮の乾燥状態やフケの性状(乾いているか、湿っているか)を確認します。ダーモスコピーを用いると、乾燥した頭皮や毛穴を塞いでいるフケの状態をより詳しく観察できます。

脂漏性脱毛症との鑑別が重要で、フケの性状を見極めることが診断の鍵となります。

脂漏(しろう)性脱毛症 – 皮脂の過剰分泌による頭皮の炎症

粃糠性脱毛症とは対照的に、皮脂の過剰な分泌によって引き起こされる脱毛症です。

過剰な皮脂が酸化したり、皮脂を好む常在菌(マラセチア菌)が異常増殖したりすることで頭皮に炎症(脂漏性皮膚炎)が起こり、その結果として脱毛が進行します。

ベタベタとした湿ったフケや、頭皮の赤み、強いかゆみが特徴です。

原因

体質的な皮脂の多さに加え、ホルモンバランスの乱れ(男性ホルモンの影響)、ビタミンB群の不足、ストレス、不規則な食生活(脂肪や糖質の多い食事)などが皮脂の分泌を促進します。

その結果、マラセチア菌が増殖しやすい環境が作られ、炎症を引き起こします。

検査

視診で頭皮の赤みや湿ったフケ、皮脂の状態を確認します。ダーモスコピーで炎症の程度や毛穴の状態を詳しく観察します。

マラセチア菌の関与を調べるために、フケや頭皮の一部を採取して顕微鏡で菌を確認する真菌検査(KOH直接鏡検法)を行うこともあります。

フケの種類による脱毛症の比較

項目粃糠性脱毛症脂漏性脱毛症
フケの状態乾燥した、白く細かい湿った、黄色っぽくベタつく
頭皮の状態乾燥、カサカサベタつき、赤み、炎症
主な原因頭皮の乾燥、不適切な洗浄皮脂の過剰分泌、真菌の増殖

成長期脱毛症(抗がん剤の副作用) – 薬剤が毛母細胞に直接作用する脱毛

がん治療で用いられる抗がん剤の副作用として起こる、代表的な脱毛症です。

薬剤の投与開始から数週間で急速に脱毛が始まり、頭髪だけでなく、眉毛やまつ毛など全身の毛が抜けることもあります。

原因

抗がん剤は、分裂・増殖が活発ながん細胞を攻撃する薬剤です。しかし、正常な細胞の中でも細胞分裂が活発な毛母細胞も、がん細胞と似た性質を持つため、抗がん剤の影響を強く受けてしまいます。

この影響で、髪の成長が途中でストップし、毛が抜けてしまうのです。毛周期の「成長期」にある毛髪が一斉にダメージを受けるため、成長期脱毛症と呼ばれます。

検査

問診で、がん治療の経緯や使用している抗がん剤の種類、投与スケジュールを確認すれば診断は明らかであるため、通常、脱毛自体に対する特別な検査は行いません。

原因薬剤の投与が終了すれば、数ヶ月後から再び髪は生え始めます。

薬剤性脱毛症(抗がん剤以外) – 特定の医薬品が原因となる脱毛

抗がん剤以外にも、様々な医薬品が副作用として脱毛を引き起こす可能性があります。原因となる薬剤は多岐にわたり、脱毛の現れ方も、服用後すぐに起こる場合と、数ヶ月経ってから起こる場合があります。

多くは、毛周期の休止期に入る毛髪が増える「休止期脱毛」の形をとります。

原因

脱毛を引き起こす可能性のある薬剤には以下のようなものがあります。

  • 高血圧治療薬(β遮断薬、ACE阻害薬など)
  • 脂質異常症治療薬(フィブラート系など)
  • 抗うつ薬
  • 経口避妊薬(ピル)
  • 抗甲状腺薬

これらの薬剤がどのような仕組みで脱毛を引き起こすかは、薬剤の種類によって異なりますが、毛周期に影響を与えたり、毛包に直接作用したりすることが考えられています。

検査

問診が最も重要です。現在服用しているすべての薬剤(処方薬、市販薬、サプリメントを含む)について、お薬手帳などを用いて確認します。

そして、脱毛が始まった時期と、特定の薬剤を飲み始めた時期に関連がないかを慎重に検討します。

原因が疑われる薬剤を中止または変更することで脱毛が改善するかどうかを確認し、診断を確定します(被疑薬中止試験)。

慢性甲状腺炎に伴う脱毛症 – 甲状腺ホルモンの異常が髪に影響

甲状腺は、のどぼとけの下にある蝶のような形をした臓器で、体の新陳代謝をコントロールする甲状腺ホルモンを分泌しています。

橋本病などの慢性甲状腺炎によってこのホルモンの分泌が低下する「甲状腺機能低下症」になると、その症状の一つとして脱毛が起こることがあります。

原因

甲状腺ホルモンは、全身の細胞の活動を活発にする働きを持っています。機能低下症になると、体全体の代謝がスローダウンし、毛母細胞の活動も不活発になります。

その結果、毛髪の成長が妨げられ、毛周期が乱れて休止期脱毛が起こります。髪全体が薄くなるびまん性の脱毛に加え、髪がパサパサして乾燥するのも特徴です。

検査

血液検査で甲状腺ホルモン(FT3, FT4)と、甲状腺を刺激するホルモン(TSH)の値を測定します。甲状腺機能低下症では、FT3, FT4が低値、TSHが高値を示します。

また、橋本病が原因かを調べるために、自己抗体(抗TPO抗体、抗Tg抗体)の有無も確認します。

鉄欠乏性貧血に伴う脱毛症 – 鉄分不足による毛髪への栄養不足

鉄は、血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンの主成分で、全身に酸素を運ぶ重要な役割を担っています。

鉄分が不足すると貧血になり、めまいや立ちくらみなどの症状が現れますが、同時に髪の健康にも大きな影響を与えます。

特に月経のある女性は鉄分を失いやすく、潜在的な鉄欠乏状態にある人も少なくありません。

原因

毛母細胞が活発に細胞分裂し、髪を成長させるためには、大量のエネルギーと酸素が必要です。鉄分が不足すると、頭皮の毛細血管まで十分に酸素が供給されなくなり、毛母細胞の働きが低下します。

その結果、健康な髪が作られなくなり、細く弱い毛が増えたり、抜け毛が増えたりします。

検査

血液検査で、貧血の指標であるヘモグロビン(Hb)の値や、体内にどれだけ鉄が蓄えられているかを示す血清フェリチン(貯蔵鉄)の値を測定します。

症状が出ていなくてもフェリチン値が低い「かくれ貧血」の状態でも、脱毛に影響することがあるため、フェリチン値の確認は特に重要です。

脱毛に関連する主な血液検査項目

検査項目関連する脱毛症検査で分かること
血清フェリチン鉄欠乏性貧血、慢性休止期脱毛症体内の貯蔵鉄の量
甲状腺ホルモン (TSH, FT4)慢性甲状腺炎に伴う脱毛症甲状腺機能の状態
自己抗体円形脱毛症、膠原病自己免疫反応の有無

膠原病に伴う脱毛症 – 全身性の自己免疫疾患の一症状

膠原病は、免疫系が誤って自分自身の正常な細胞や組織を攻撃してしまう自己免疫疾患の総称です。皮膚、関節、内臓など全身に様々な症状が現れ、その一つとして脱毛が見られることがあります。

代表的なものに、全身性エリテマトーデス(SLE)や皮膚筋炎などがあります。

原因

膠原病の種類によって脱毛の仕組みは異なります。例えば、全身性エリテマトーデスでは、免疫の異常によって毛包周囲に炎症が起こり、脱毛を引き起こします。

また、円板状エリテマトーデスという皮膚症状では、毛包が破壊されてしまう瘢痕性の脱毛になることもあります。

検査

脱毛だけでなく、発熱、関節痛、皮疹など全身の症状を総合的に診察します。診断を確定するためには、血液検査で様々な種類の自己抗体(抗核抗体など)を調べるのが一般的です。

脱毛部分の皮膚の状態を詳しく調べるために、皮膚生検(皮膚の一部を採取して顕微鏡で調べる検査)を行うこともあります。

瘢痕(はんこん)性脱毛症 – 毛包が破壊され再生しない脱毛症

何らかの原因で毛包(毛を作り出す組織)そのものが破壊され、その部分が瘢痕(きずあと)組織に置き換わってしまうことで、永久に毛が生えてこなくなる脱毛症です。

脱毛部分の皮膚はツルツルとして光沢を帯び、毛穴が見えなくなるのが特徴です。

原因

原因は、毛包が直接的に損傷を受ける場合(続発性)と、毛包を標的とした特殊な炎症性疾患による場合(原発性)に分けられます。

  • 続発性:やけど、深い外傷、放射線治療など
  • 原発性:毛孔性扁平苔癬、円板状エリテマトーデス、禿髪性毛包炎など

検査

視診とダーモスコピーで、毛穴の消失や瘢痕組織の存在を確認します。診断を確定し、原因となる疾患を特定するためには、皮膚生検が最も重要な検査となります。

採取した皮膚組織を病理学的に調べることで、毛包の破壊の程度や炎症細胞の種類を確認します。早期に診断し、炎症を抑える治療を開始することが、脱毛範囲の拡大を防ぐ上で重要です。

真菌性脱毛症・しらくも(頭部白癬) – カビ(真菌)の感染による脱毛

頭部白癬(とうぶはくせん)、通称「しらくも」は、白癬菌というカビ(真菌)が頭皮の角層や毛髪に感染して起こる疾患です。

円形の脱毛斑ができたり、フケが増えたり、毛が途中で折れたりといった症状が見られます。

かつては子供に多い病気でしたが、近年では柔道やレスリングなどの格闘技選手の間で集団発生したり、ペットから感染したりするケースも見られます。

原因

白癬菌という真菌の感染が原因です。感染している人や動物(犬、猫など)との直接的な接触や、タオルや帽子、ブラシなどを介して間接的に感染します。

検査

診断を確定するためには、真菌の存在を証明することが必要です。脱毛部の毛髪やフケを一部採取し、水酸化カリウム(KOH)溶液で溶かして顕微鏡で観察する「KOH直接鏡検法」を行います。

この検査で菌体や胞子が確認できれば診断がつきます。菌の種類を特定するために培養検査を行うこともあります。

圧迫性脱毛症 – 長時間の圧迫による血行不良が原因

頭皮の特定の部分が長時間にわたって圧迫されることで、その部分の血流が悪くなり、毛が抜けてしまう状態です。新生児の後頭部に見られる「乳児期後頭部脱毛」もこの一種と考えられています。

原因

全身麻酔を伴う長時間の外科手術や、病気で長期間寝たきりの状態にあった場合など、同じ体勢で頭部が固定される状況で起こりえます。

持続的な圧迫によって毛包への血流が途絶え、毛母細胞が虚血状態に陥ることで脱毛します。

検査

問診で、長時間の不動状態にあった経緯(手術歴や病歴など)を確認します。視診で、圧迫されていた部位と一致して脱毛が起きていることを確認できれば診断がつきます。

通常、圧迫が解除されれば血流は回復し、数ヶ月後には再び毛が生えてくるため、特別な検査は不要なことが多いです。

脂腺母斑による脱毛症 – 生まれつきのアザに伴う脱毛

脂腺母斑(しせんぼはん)は、生まれつき頭部や顔に見られる、少し盛り上がった黄色みを帯びたアザの一種です。

この母斑のある部分には、正常な毛包組織が形成されないため、毛が生えてきません。

原因

胎児期に皮膚が作られる過程で、皮脂腺の元になる細胞が未熟なまま過剰に増殖してできた良性の腫瘍(過誤腫)です。

母斑の部分には毛包が欠損しているか、未発達な状態でしか存在しないため、脱毛斑として認識されます。

検査

特徴的な見た目から、多くは視診で診断がつきます。乳幼児期は平坦ですが、思春期になるとホルモンの影響で盛り上がりが強くなり、イボ状に変化することがあります。

ごく稀に、成人期以降に母斑から別の皮膚腫瘍が発生する可能性があるため、ダーモスコピーで定期的に観察したり、変化が見られた場合には皮膚生検を行ったりすることがあります。

女性の薄毛治療と予防について

ここまで、女性の薄毛を引き起こす様々な原因とその検査法について解説しました。ご自身の状態を理解することは、悩みを解決するための第一歩です。

しかし、原因が分かっただけでは不安は解消されません。次のステップとして、それぞれの原因に応じた具体的な治療法や、日常生活で取り組める予防策を知ることが大切です。

クリニックではどのような治療の選択肢があるのか、また、食生活やヘアケアで何を心がければ良いのか。

当クリニックのウェブサイトでは、そうした「治療と予防」に焦点を当てた詳しい情報を以下にて提供しています。

薄毛(女性)の治療と予防

記事をご覧いただき、健やかな髪を取り戻すための具体的な行動につなげてください。

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