女性にとって髪の悩みは見た目の印象を大きく左右するだけでなく、気持ちまで沈ませてしまう深刻な問題です。
髪質や毛量の変化を感じたときに、多くの方が、まず毎日のシャンプーを見直そうと考えるのではないでしょうか。
この記事では、なぜシャンプー選びが重要なのか、どのような基準で選ぶべきか、そしてその効果を最大限に引き出すための正しいヘアケア方法について、専門的な知見から詳しく解説します。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
なぜシャンプー選びが女性の薄毛対策に重要なのか?
薄毛対策というと、育毛剤や専門的な治療を思い浮かべるかもしれませんが、その土台となるのは毎日のシャンプーです。
頭皮は髪が育つ畑のようなもので、畑の土壌が悪ければ良い作物が育たないのと同じように、頭皮環境が悪化していては健康な髪が育ちません。
シャンプーは、その頭皮環境を健やかに保つための基本的なケアであり、薄毛対策の根幹をなす重要な役割を担っています。
頭皮環境を整えることが育毛の第一歩
健康な髪は、健康な頭皮から生まれます。頭皮には皮脂腺や汗腺が多く存在し、汚れや古い角質が溜まりやすい場所です。
これらを適切に洗浄し、清潔に保つのがシャンプーの主な目的です。
頭皮が清潔でなければ毛穴が詰まり、髪の成長を妨げる原因となります。また、頭皮の血行が良い状態も、髪の成長に必要な栄養素を毛根に届けるために重要です。
適切なシャンプー選びと正しい洗い方は、頭皮を清潔に保って血行を促進し、髪が育ちやすい環境の基礎を作ります。
間違ったシャンプーが頭皮トラブルを招く
一方で、ご自身の頭皮タイプに合わないシャンプーを使い続けると、かえって頭皮環境を悪化させる可能性があります。
例えば、洗浄力が強すぎるシャンプーは頭皮を守るために必要な皮脂まで奪ってしまい、乾燥やかゆみを引き起こしやすいです。
頭皮が乾燥するとフケの原因になるだけでなく、バリア機能が低下して外部からの刺激に弱くなります。
逆に、洗浄力が弱すぎると余分な皮脂や汚れが残り、毛穴の詰まりや炎症、べたつきの原因となります。
主な頭皮トラブルの例
- 乾燥によるフケ、かゆみ
- 過剰な皮脂によるべたつき、臭い
- 毛穴の詰まりによる炎症(毛嚢炎)
- 常在菌のバランスの乱れ
シャンプーは「洗浄」だけでなく「保湿」も大切
シャンプーの役割は汚れを落とすことだけではありません。特に女性の薄毛対策においては、頭皮の「保湿」という観点が非常に大切です。
年齢と共に、肌だけでなく頭皮も乾燥しやすくなります。潤いが不足した頭皮は硬くなり、血行も悪化しがちです。
保湿成分が配合されたシャンプーを選ぶと、洗い上がりのつっぱり感を防ぎ、しなやかで潤いのある頭皮を保てます。
洗浄と保湿のバランスが取れたシャンプーを選ぶことが、健やかな頭皮環境への鍵となります。
女性の薄毛を引き起こす原因
女性の薄毛は男性とは異なり、複数の要因が複雑に絡み合って進行するケースが多いのが特徴です。
シャンプー選びやヘアケアを見直す前に、まずはご自身の薄毛がどのような原因で引き起こされているのかを確認してみましょう。
ホルモンバランスの乱れ
女性の髪の健康は、女性ホルモンである「エストロゲン」と深く関わっています。エストロゲンは髪の成長を促進し、ハリやコシを保つ働きがあります。
しかし、妊娠・出産や更年期、過度なストレスや不規則な生活などによってホルモンバランスが乱れ、エストロゲンが減少すると、髪の成長期が短くなり抜け毛が増えたり、髪が細くなったりします。
特に、閉経前後にエストロゲンが急激に減少する更年期は、薄毛の悩みが深刻化しやすい時期です。
生活習慣とストレス
髪は「血余(けつよ)」とも呼ばれ、東洋医学では血液の状態が髪に現れると考えられています。
栄養バランスの偏った食事、特に髪の主成分であるタンパク質や、その合成を助けるビタミン、ミネラルの不足は健康な髪の成長を妨げます。
また、睡眠不足は髪の成長を促す成長ホルモンの分泌を減少させます。
精神的なストレスは血管を収縮させて頭皮の血行を悪化させるだけでなく、ホルモンバランスを乱す大きな要因となり、薄毛を加速させる場合があります。
女性の薄毛につながる主な原因
原因の分類 | 具体的な要因 | 髪への影響 |
---|---|---|
内的要因 | ホルモンバランスの乱れ、加齢 | 髪の成長サイクルの乱れ、髪質の低下 |
生活習慣 | 食生活の乱れ、睡眠不足、ストレス | 栄養不足、血行不良 |
外的要因 | 不適切なヘアケア、紫外線 | 頭皮へのダメージ、キューティクルの損傷 |
不適切なヘアケア
良かれと思って行っているヘアケアが、実は頭皮や髪に負担をかけているケースも少なくありません。
洗浄力の強すぎるシャンプーの使用、爪を立ててゴシゴシ洗う、熱いお湯でのすすぎ、頻繁なカラーリングやパーマ、髪を強く引っ張るヘアスタイルなどは頭皮にダメージを与え、抜け毛や切れ毛の原因となります。
また、シャンプー後の自然乾燥は頭皮に雑菌が繁殖しやすい環境を作り出し、かゆみや臭いの原因になるため注意が必要です。
加齢による変化
年齢を重ねると体の様々な機能が変化するのと同様に、頭皮や髪にも変化が現れます。髪を作り出す毛母細胞の働きが低下し、髪の成長サイクル(ヘアサイクル)が乱れがちになります。
成長期が短くなり、休止期にとどまる毛髪の割合が増えるために髪全体のボリュームが減少します。
また、髪の色素を作るメラノサイトの機能が低下すれば白髪が増え、髪の内部構造も変化して、うねりやパサつきが出やすくなります。
薄毛対策で避けたいシャンプーの成分
市場には数多くのシャンプーがあふれていますが、薄毛に悩む女性が避けるべき成分が存在します。
成分表示を正しく理解し、頭皮への負担が少ない製品を選ぶことが大切です。特に、洗浄成分である「界面活性剤」の種類には注意を払いましょう。
強い洗浄力の界面活性剤
シャンプーの主成分である界面活性剤は、水と油を混ぜ合わせ、頭皮の皮脂や汚れを落とす役割を担います。
しかし、安価な市販のシャンプーに多く使われている「高級アルコール系」の洗浄成分は洗浄力が非常に強く、脱脂力も高いため、頭皮に必要な皮脂まで取り除いてしまう場合あります。
これにより頭皮が乾燥し、バリア機能が低下して、かゆみや炎症、さらには乾燥を防ごうと逆に皮脂が過剰に分泌されるといった悪循環に陥るケースがあります。
注意したい高級アルコール系洗浄成分の例
成分名 | 特徴 |
---|---|
ラウレス硫酸Na | 泡立ちが良く安価だが、洗浄力が強く刺激も懸念される。 |
ラウリル硫酸Na | ラウレス硫酸Naよりもさらに洗浄力・刺激が強いとされる。 |
オレフィン(C14-16)スルホン酸Na | 洗浄力が高く、脱脂力も強い。乾燥肌には不向きな場合がある。 |
シリコンの役割と注意点
「ノンシリコンシャンプー」という言葉をよく耳にするようになりました。
シリコン(ジメチコン、シクロメチコンなど)は髪の表面をコーティングし、指通りを滑らかにしたり、艶を出したりする目的で配合されます。
髪のきしみを防ぐ効果があるため、一概に悪い成分というわけではありません。しかし、すすぎが不十分だと頭皮に残留し、毛穴を塞いでしまう可能性が指摘されています。
特に頭皮に直接つけてマッサージするような使い方をする場合、ノンシリコンタイプを選ぶ方が安心感があるかもしれません。ご自身の髪の状態や好みに合わせて選ぶと良いです。
香料や着色料などの添加物
シャンプーの心地よい香りや美しい色を演出するための合成香料、合成着色料や防腐剤(パラベンなど)といった添加物は、人によってはアレルギー反応や頭皮への刺激となるときがあります。
特に頭皮が敏感になっている場合や、かゆみ・赤みが出やすい方はこれらの成分が含まれていない、あるいは配合量が少ない、できるだけシンプルな処方のシャンプーを選ぶのがおすすめです。
無添加やオーガニックと表示されている製品も選択肢の一つですが、すべての人に合うとは限らないため、成分表示を確認する習慣をつけましょう。
女性の薄毛対策におすすめのシャンプー成分
では、具体的にどのような成分が配合されたシャンプーを選べば良いのでしょうか。キーワードは「マイルドな洗浄力」と「頭皮ケア成分」です。
頭皮への負担を最小限に抑えつつ、健やかな髪が育つ環境をサポートする成分に注目しましょう。
アミノ酸系・ベタイン系の優しい洗浄成分
薄毛や抜け毛に悩む女性の頭皮には、優しく洗い上げるマイルドな洗浄成分が適しています。その代表格が「アミノ酸系」と「ベタイン系」の洗浄成分です。
これらは、人間の皮膚や髪のタンパク質を構成するアミノ酸から作られており、生体親和性が高く、頭皮への刺激が少ないのが特徴です。適度な洗浄力で汚れを落としつつ、頭皮の潤いを保ちます。
泡立ちは控えめな製品が多いですが、洗浄力が不足しているわけではありません。
頭皮に優しい洗浄成分の種類
洗浄成分の系統 | 代表的な成分名 | 特徴 |
---|---|---|
アミノ酸系 | ココイルグルタミン酸Na、ラウロイルメチルアラニンNa | マイルドな洗浄力で保湿性が高い。コンディショニング効果も。 |
ベタイン系 | コカミドプロピルベタイン、ラウラミドプロピルベタイン | ベビーシャンプーにも使われるほど低刺激。他の洗浄成分と併用されることが多い。 |
頭皮の血行を促進する成分
髪の毛は、毛根にある毛母細胞が毛細血管から栄養を受け取って成長します。そのため、頭皮の血行促進は、育毛において非常に重要です。
シャンプーに配合されている成分の中には、頭皮の血流を良くする働きを持つものがあります。
毎日のシャンプーで頭皮マッサージをしながらこれらの成分を浸透させると、毛根への栄養供給をサポートできます。
血行促進が期待できる主な植物エキス
成分名 | 期待される働き |
---|---|
センブリエキス | 毛根の細胞分裂を活性化させ、血行を促進する。 |
ショウガ根エキス(ジンジャーエキス) | 体を温める効果で知られ、頭皮の血行を良くする。 |
オタネニンジン根エキス(朝鮮人参エキス) | 血行促進作用や新陳代謝を活発にする働きが期待される。 |
保湿と抗炎症作用のある成分
乾燥や炎症は健やかな頭皮環境の大敵です。シャンプーを選ぶ際には、頭皮に潤いを与え、炎症を抑える成分が含まれているかどうかもチェックしましょう。
保湿成分は乾燥によるフケやかゆみを防ぎ、頭皮を柔らかく保ちます。抗炎症成分は頭皮の赤みやかゆみを鎮め、トラブルが起きにくい状態へと導きます。
代表的な保湿・抗炎症成分
分類 | 成分名 |
---|---|
保湿成分 | ヒアルロン酸、コラーゲン、セラミド、グリセリン、各種植物オイル |
抗炎症成分 | グリチルリチン酸2K、アラントイン、カミツレ花エキス |
頭皮タイプ別シャンプーの選び方
自分の肌質に合ったスキンケア製品を選ぶように、シャンプーもご自身の頭皮タイプに合わせて選ぶことが、トラブルを回避し効果を実感するための鍵となります。
自分の頭皮がどのタイプなのかを正しく見極め、適した一本を見つけましょう。
乾燥肌・敏感肌タイプの選び方
シャンプー後に頭皮がつっぱる感じがしたり、細かいフケやかゆみが出やすかったりする方は、乾燥肌や敏感肌の可能性があります。
このタイプの方は、何よりも「保湿」と「低刺激」が大切です。洗浄力の強い高級アルコール系のシャンプーは避け、アミノ酸系やベタイン系のマイルドな洗浄成分を主成分とするシャンプーを選びましょう。
ヒアルロン酸やセラミドなどの高保湿成分や、グリチルリチン酸2Kなどの抗炎症成分が配合されているものがおすすめです。
香料や着色料などの添加物が少ない、シンプルな処方の製品を選ぶとより安心です。
脂性肌(オイリー肌)タイプの選び方
日中、髪がべたつきやすい、頭皮の臭いが気になる、といった方は脂性肌(オイリー肌)の傾向があります。皮脂の分泌が活発なため、余分な皮脂や汚れをきちんと洗い流す洗浄力が必要です。
ただし、洗浄力が強すぎると、かえって皮脂の過剰分泌を招く場合もあるため注意が必要です。
アミノ酸系の中でも、比較的さっぱりとした洗い上がりの「ラウロイルメチルアラニンNa」などが配合されたものや、適度な洗浄力を持つ石けん系のシャンプーも選択肢になります。
皮脂の分泌をコントロールする働きのある成分(ビタミンC誘導体など)や、抗菌作用のある成分(ティーツリーオイルなど)が配合されているものも良いでしょう。
混合肌タイプの見極めと選び方
Tゾーンはべたつくのに頬は乾燥するなど、顔の肌質に混合肌があるように、頭皮にも混合タイプが存在します。頭頂部や生え際はべたつくのに、後頭部や側頭部は乾燥するといった状態です。
このタイプはシャンプー選びが最も難しいですが、基本的には乾燥している部分に合わせて、保湿力のあるアミノ酸系シャンプーを選ぶのがおすすめです。
その上で、べたつきが気になる部分を丁寧に二度洗いしたり、週に1〜2回、頭皮クレンジング用のアイテムを取り入れたりして、部分的にケアを調整する方法が効果的です。
頭皮タイプ別ケアのポイント
頭皮タイプ | 悩み | シャンプー選びの指針 |
---|---|---|
乾燥肌・敏感肌 | フケ、かゆみ、つっぱり感 | アミノ酸系洗浄成分+高保湿成分 |
脂性肌 | べたつき、臭い、毛穴の詰まり | 適度な洗浄力+皮脂コントロール成分 |
混合肌 | 部分的なべたつきと乾燥 | アミノ酸系を基本に、洗い方で調整 |
ライフステージの変化と薄毛の関係|年代・状況別のシャンプー選び
女性の体は一生を通じてホルモンバランスが大きく変動します。それに伴い、髪や頭皮の状態も変化していくため、画一的なケアではなく、その時々の自分の状態に合わせたシャンプー選びが必要になります。
「最近、シャンプーが合わなくなった」と感じるのは、体からのサインかもしれません。ご自身のライフステージと向き合い、ケアを見直すと、より効果的な薄毛対策が可能になります。
20代・30代の過度なダイエットやストレスによる薄毛
この年代の薄毛は、加齢よりも生活スタイルの影響を強く受ける傾向があります。
無理な食事制限によるダイエットは髪の主成分であるタンパク質や亜鉛、鉄分などのミネラル不足を招き、髪が細くなったり抜け毛が増えたりする直接的な原因です。
また、仕事や人間関係のストレス、睡眠不足なども自律神経やホルモンバランスを乱し、頭皮の血行不良を引き起こします。
この時期はまず生活習慣の見直しが第一ですが、シャンプーは頭皮への刺激が少ないアミノ酸系のものを選び、リラックスできる香りのものを選ぶなど、バスタイムを癒やしの時間に変える工夫も大切です。
産後の抜け毛とホルモンバランス
出産を経験した多くの女性が直面するのが「産後脱毛症」です。
妊娠中は女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量が増えて髪の成長期が維持されるため、一時的に髪は抜けにくくなります。
しかし、出産後はホルモンバランスが急激に妊娠前の状態に戻るため、成長期を終えた髪が一斉に休止期に入り、ごっそりと抜けてしまうのです。
これは一時的な生理現象ですが、精神的な負担は大きいものです。
この時期の頭皮は非常にデリケートになっているため、洗浄力が優しく、無添加など低刺激性のシャンプーを選ぶことが重要です。頭皮マッサージを優しく行い、血行を促進してあげましょう。
40代・50代以降の更年期と加齢による変化
40代後半から始まる更年期は、女性ホルモンが大きく減少する時期です。
髪のハリやコシ、ツヤが失われ、うねりやパサつきといった髪質の変化と共に、びまん性脱毛(頭部全体の髪が薄くなる)が進行しやすくなります。
加齢による頭皮の乾燥や血行不良も重なり、複合的な悩みを抱える方が増えます。
この年代のシャンプー選びではマイルドな洗浄力はもちろんのこと、エイジングケアを意識した成分に注目しましょう。
保湿効果の高い成分に加え、ハリ・コシを与える成分(加水分解ケラチンなど)や、抗酸化作用のある成分(ビタミンE、ポリフェノールなど)が配合されたものがおすすめです。
ライフステージ別ケアの方向性
ライフステージ | 髪の悩み | シャンプー選びのキーワード |
---|---|---|
20代・30代 | ストレスや生活習慣の乱れによる抜け毛 | 低刺激、保湿、リラックス効果 |
産後 | ホルモンバランス変化による一時的な脱毛 | 極めて低刺激、無添加、頭皮ケア |
40代・50代以降 | 加齢と更年期による複合的な悩み(うねり、減少) | 保湿、エイジングケア、ハリ・コシ成分 |
カラーやパーマを繰り返す髪への配慮
年代を問わず、おしゃれのためにカラーリングやパーマを楽しんでいる方は多いでしょう。
しかし、これらの施術はアルカリ性の薬剤を使用するため、髪だけでなく頭皮にも少なからずダメージを与えます。施術後の頭皮は乾燥し、敏感な状態になりがちです。
ダメージケア用のシャンプーを選ぶのはもちろんですが、洗浄成分がマイルドで傷んだ髪を補修する成分(ヘマチン、ペリセアなど)や、頭皮の炎症を抑える成分が配合されたものを選ぶと、髪と頭皮の両方をケアできます。
効果を最大化する正しいシャンプーの方法
どんなに良いシャンプーを選んでも、洗い方が間違っていては効果が半減してしまいます。
頭皮と髪に負担をかけず、シャンプーの有効成分をしっかりと届けるための正しい手順をマスターしましょう。毎日の習慣を見直すだけで、髪の状態が大きく変わる可能性があります。
シャンプー前のブラッシングと予洗い
シャンプーをする前に、まずは乾いた髪の状態でブラッシングを行います。
毛先の絡まりを優しくほどき、根元から毛先に向かって髪の流れを整えることで、髪の表面についたホコリや汚れを浮き上がらせます。シャンプー時の泡立ちが良くなり、髪への摩擦を減らせます。
その後、38度程度のぬるま湯で、頭皮と髪を1分〜2分ほどかけて十分に濡らします。これを「予洗い」といい、実はこれだけで髪の汚れの7割程度は落ちると言われています。
予洗いをしっかり行うと、シャンプーの使用量を抑え、頭皮への負担を軽減できます。
指の腹を使ったマッサージ洗い
シャンプーを適量手に取り、軽く泡立ててから髪全体になじませます。この時、爪を立ててゴシゴシ洗うのは絶対にやめましょう。頭皮を傷つけ、炎症の原因になります。
指の腹を使い、頭皮を優しく揉みほぐすようにマッサージしながら洗うのがポイントです。
生え際から頭頂部へ、襟足から頭頂部へと、下から上に向かってジグザグに指を動かし、頭皮全体の血行を促進するイメージで行いましょう。
特に、硬くなりやすい頭頂部や側頭部は念入りに行うと効果的です。
正しいシャンプーの基本手順
- 乾いた髪をブラッシングする
- ぬるま湯で十分に予洗いする
- シャンプーを泡立て、指の腹でマッサージ洗いする
- 時間をかけて丁寧にすすぐ
すすぎ残しを防ぐポイント
シャンプーの成分が頭皮に残ってしまうと、かゆみやフケ、毛穴の詰まりといったトラブルの原因になります。すすぎは「洗う時間の倍以上かける」くらいの意識で、丁寧に行うのが重要です。
シャワーヘッドを頭皮に近づけ、髪の根元にしっかりお湯が届くようにします。特に、フェイスライン、耳の後ろ、襟足はすすぎ残しが多い部分なので、意識して念入りに洗い流しましょう。
髪をかき分けながら、ぬめり感が完全になくなるまで、しっかりとすすいでください。
ドライヤーでの正しい乾かし方
濡れた髪はキューティクルが開いており、非常にデリケートな状態です。
タオルで髪を挟み、優しくポンポンと叩くようにして水分を吸い取ります(タオルドライ)。ゴシゴシと擦るのは摩擦で髪を傷めるので避けましょう。
その後、すぐにドライヤーで乾かします。自然乾燥は頭皮で雑菌が繁殖する原因となり、臭いやかゆみにつながります。
ドライヤーは髪から15〜20cmほど離し、同じ場所に熱が集中しないように小刻みに振りながら使います。
まずは髪の根元や頭皮を中心に乾かし、全体が8割方乾いたら冷風に切り替えて仕上げると、キューティクルが引き締まりツヤが出やすくなります。
シャンプー以外の日常生活でできる薄毛対策
シャンプーによる頭皮ケアは薄毛対策の基本ですが、それだけで十分とは言えません。健康な髪は、体の中から作られます。
日常生活の習慣を見直し、体全体を健やかな状態に保つ工夫が根本的な薄毛対策につながります。
栄養バランスの取れた食事
髪は、私たちが食べたものから作られます。特定の食品だけを食べるのではなく、バランスの取れた食事を心がけることが大切です。
特に、髪の主成分であるタンパク質、その合成を助ける亜鉛、頭皮の血行を良くするビタミンE、頭皮環境を整えるビタミンB群などを意識して摂取しましょう。
健やかな髪を育む栄養素と食品例
栄養素 | 働き | 多く含まれる食品 |
---|---|---|
タンパク質 | 髪の主成分(ケラチン)の材料 | 肉、魚、卵、大豆製品 |
亜鉛 | タンパク質の合成を助ける | 牡蠣、レバー、牛肉、ナッツ類 |
ビタミンB群 | 頭皮の新陳代謝を促す | 豚肉、レバー、うなぎ、玄米 |
質の良い睡眠の確保
髪の成長を促す「成長ホルモン」は、主に睡眠中に分泌されます。入眠後の深い眠り(ノンレム睡眠)の時間帯に最も多く分泌されるため、睡眠時間だけでなく、睡眠の「質」を高める取り組みが重要です。
就寝前にスマートフォンやパソコンの画面を見るのを避け、リラックスできる環境を整えるなど、質の良い睡眠を確保するための工夫をしましょう。
毎日決まった時間に就寝・起床する習慣も、体内リズムを整える上で効果的です。
適度な運動とストレス解消
運動不足は全身の血行不良につながり、当然ながら頭皮の血行も悪化させます。ウォーキングやヨガなどの軽度な有酸素運動を日常生活に取り入れると血行が促進され、毛根に栄養が届きやすくなります。
また、運動はストレス解消にも効果的です。ストレスは自律神経のバランスを乱し、血管を収縮させて血行を悪くする薄毛の大きな要因です。
自分に合ったストレス解消法を見つけ、心身ともにリラックスする時間を持つと健やかな髪を育むことにつながります。
よくある質問
さいごに、女性の薄毛対策やシャンプー選びに関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
- 育毛シャンプーだけで髪は生えますか?
-
結論から言うと、シャンプーだけで髪を生やすのは困難です。日本の法律上、シャンプーは「化粧品」または「医薬部外品」に分類され、「発毛」の効果を謳うことはできません。
育毛シャンプーの役割は、あくまでも「頭皮環境を整え、抜け毛を防ぎ、健康な髪が育つ土台を作る」です。
薄毛の原因が頭皮環境の悪化にある場合は、シャンプーを変えると抜け毛が減ったり、髪にハリ・コシが出たりといった改善は期待できますが、AGA(男性型脱毛症)やFAGA(女性男性型脱毛症)など、より専門的な治療が必要な脱毛症に対しては、シャンプーのみでの発毛効果は限定的です。
シャンプーはあくまでヘアケアの基本と捉え、深刻な悩みの場合は専門医に相談することが重要です。
- シャンプーは朝と夜、どちらが良いですか?
-
夜のシャンプーをおすすめします。日中に頭皮や髪に付着した皮脂、汗やホコリ、スタイリング剤などの汚れをその日のうちにリセットする習慣が、頭皮を清潔に保つ上で大切です。
また、髪の成長を促す成長ホルモンは夜間の睡眠中に分泌されるため、その時間帯に頭皮が清潔であるほうが健やかな髪の育成にとって良い環境と言えます。
朝シャンは寝癖を直したり、すっきりしたりする目的であれば問題ありませんが、夜のシャンプーを基本とし、朝は軽くお湯で流す程度にするのが良いでしょう。
- 高いシャンプーほど効果がありますか?
-
価格と効果は必ずしも比例しません。高価なシャンプーには、希少な美容成分や高品質な洗浄成分が使われているものが多いのは事実です。
しかし、最も重要なのは「自分の頭皮タイプや髪の悩みに合っているか」どうかです。いくら高価でも自分の頭皮に合わない成分が含まれていれば、かえってトラブルを招くときもあります。
価格に惑わされず、成分表示をしっかり確認し、自分の状態に合ったシャンプーを選ぶようにしましょう。
- どのくらいで効果を実感できますか?
-
シャンプーによる頭皮環境の改善は、比較的早く実感できる場合があります。例えば、かゆみやフケ、べたつきといった悩みは、シャンプーを変えて数週間程度で変化を感じる方もいます。
しかし、抜け毛の減少や髪質の変化(ハリ・コシが出るなど)を実感するには、ある程度の時間が必要です。
髪には「ヘアサイクル」という生まれ変わりの周期があり、目に見える効果が現れるまでには最低でも3ヶ月から6ヶ月はかかると考えてください。
すぐに効果が出ないからと諦めず、正しいケアを継続していきましょう。
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