「最近、髪にハリやコシがなくなってきた、抜け毛が増えた気がする」といった女性の髪の悩みの裏には、もしかすると「鉄分不足」が隠れているかもしれません。
鉄分と聞くと貧血をイメージしがちですが、実は髪の健康を維持するためにも非常に重要な栄養素です。
特に女性は月経や妊娠、過度なダイエットなどで鉄分が不足しやすく、自覚がないまま「隠れ貧血」になっているケースも少なくありません。
この記事では、鉄分が髪にどのように関わっているのか、なぜ不足すると薄毛につながるのか、その意外な関連性について詳しく解説します。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
鉄分と髪の毛の基本的な関係
鉄分は、髪の毛の健やかな成長と維持に深く関わっています。髪の毛は毛根にある「毛母細胞」が細胞分裂を繰り返すことで成長しますが、このとき大量の栄養と酸素を必要とします。
鉄分は、血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンの主成分であり、全身に酸素を運搬する重要な役割を担っています。
体内の鉄分が不足すると毛母細胞へ届けられる酸素や栄養が減少し、髪の成長が妨げられたり、髪質が悪化したりする可能性があります。
髪の成長と鉄分の役割
髪の毛の主成分は「ケラチン」というたんぱく質です。毛母細胞がケラチンを合成し、髪の毛を作り出す活動には、十分な酸素と栄養素が供給され続ける必要があります。
鉄分は、この酸素運搬の最前線で働きます。血液に乗って運ばれた酸素が毛母細胞にしっかり届くと細胞分裂が活発に行われ、太く健康な髪が育ちます。
鉄分が足りないと、いわば髪の毛の「製造工場」である毛母細胞がエネルギー不足の状態に陥り、正常な活動ができなくなってしまいます。
鉄分が不足すると髪はどうなるか
体内の鉄分が不足すると、体は生命維持に重要な臓器(脳や心臓など)への酸素供給を優先します。
そのため、髪の毛や皮膚、爪など、生命維持の優先度が低い末端部分への酸素や栄養の供給は後回しにされがちです。
結果として、毛母細胞の活動が低下し、次のような髪のトラブルが現れやすくなります。
- 抜け毛の増加
- 髪が細くなる(軟毛化)
また、髪の毛自体がパサついたりツヤが失われたり、切れ毛や枝毛が増えたりするなど、髪質の低下を招くケースもあります。
これらはすべて、髪を育てるための「土壌」である頭皮や毛根が栄養不足になっているサインと言えます。
なぜ女性は鉄分不足になりやすいのか
女性は男性に比べて鉄分が不足しやすい身体的な特徴を持っています。
最大の理由は、月経による定期的な出血です。毎月の月経で、少なくない量の鉄分が血液とともに体外へ排出されます。
また、妊娠中や出産時、授乳期にも、胎児や母乳を通して多くの鉄分が赤ちゃんへ移行するため、母体の鉄分は非常に不足しやすい状態になります。
さらに、美容意識の高さから行う過度な食事制限(ダイエット)も、鉄分の摂取不足を招く大きな原因の一つです。
女性のライフステージ別鉄必要量(月経ありの場合)
| 年代 | 推奨量(mg/日) | 主な理由 |
|---|---|---|
| 18~49歳 | 10.5 mg | 月経による損失を補うため |
| 妊娠初期 | +2.5 mg(計13.0 mg) | 胎児の発育、血液量の増加 |
| 妊娠中期・後期 | +15.0 mg(計25.5 mg) | 胎児の急激な成長、出産準備 |
| 授乳期 | +2.5 mg(計13.0 mg) | 母乳による鉄分の移行 |
(参考:日本人の食事摂取基準(2020年版))
このように、特に成人女性は意識的に鉄分を摂取しなければ、容易に不足状態に陥ってしまうことがわかります。
隠れ貧血(潜在性鉄欠乏症)と薄毛
一般的な健康診断の血液検査で「貧血」と診断されなくても、薄毛や抜け毛に悩む女性の中には「隠れ貧血」の状態にある人が少なくありません。
隠れ貧血は、血液中のヘモグロビン値は正常範囲内でも体内に蓄えられている「貯蔵鉄」が枯渇している状態を指し、これが髪の健康に悪影響を与えている可能性があります。
貧血と「隠れ貧血」の違い
一般的に「貧血」(鉄欠乏性貧血)とは、血液中のヘモグロビン(Hb)濃度が基準値を下回った状態を指します。
ヘモグロビンは酸素を運ぶ役割があるため、貧血になると動悸や息切れ、めまいや倦怠感などの症状が現れます。
一方、「隠れ貧血」(潜在性鉄欠乏症)は、ヘモグロビン値はまだ正常範囲内にあるものの、体内の鉄の貯金である「フェリチン」(貯蔵鉄)の値が低下している状態です。
症状としては貧血に似た倦怠感や疲れやすさのほか、イライラや集中力の低下、そして薄毛や髪質の悪化などが現れる場合があります。
フェリチン値とは何か
フェリチンとは、鉄を貯蔵する役割を持つたんぱく質です。体内の鉄分は、すぐに使われる分(ヘモグロビンなど)以外は、このフェリチンの形で肝臓や脾臓、骨髄などに「貯金」されています。
血液検査で測定するフェリチン値は、この体内の「貯蔵鉄」がどれくらいあるかを示す重要な指標です。
鉄分の摂取が不足すると、体はまずこの貯蔵鉄であるフェリチンを取り崩してヘモグロビンの生成に使おうとします。
そのため、貧血(ヘモグロビン値の低下)が起こる前の段階で、まずフェリチン値が低下し始めます。これが「隠れ貧血」の状態です。
フェリチン値が髪に与える影響
髪の毛は、生命維持の優先順位が低い末端組織です。そのため、体内の鉄が不足し始め、フェリチン(貯蔵鉄)が減少し始めると、真っ先に影響を受ける場所の一つが髪の毛だと考えられています。
ヘモグロビン値を維持するために貯蔵鉄が使われるようになると、髪の成長のために回されるはずの鉄分が不足します。毛母細胞が健康な髪を作るためには、十分な鉄分が必要です。
フェリチン値が低い状態が続くと毛母細胞の活動が鈍くなり、髪が細くなったり、ヘアサイクル(毛周期)が乱れて抜け毛が増えたりする原因となります。
貧血と隠れ貧血の指標比較
| 項目 | 貧血(鉄欠乏性貧血) | 隠れ貧血(潜在性鉄欠乏症) |
|---|---|---|
| ヘモグロビン(Hb)値 | 低い(基準値以下) | 正常範囲内(または基準値下限) |
| フェリチン(貯蔵鉄)値 | 低い | 低い(基準値以下) |
| 主な症状 | 動悸、息切れ、めまい、倦怠感 | 倦怠感、疲れ、イライラ、薄毛、髪質悪化 |
薄毛や髪の悩みが続く場合、ヘモグロビン値だけでなくフェリチン値も測定し、貯蔵鉄の状態の確認が大切です。
隠れ貧血のセルフチェック
隠れ貧血は、はっきりとした貧血症状が出る前に、さまざまな体調不良のサインとして現れるときがあります。
以下のような症状が複数当てはまる場合、貯蔵鉄が不足している可能性を疑ってみましょう。
- 理由もなく疲れやすい、だるい
- 朝、すっきりと起きられない
他にも、立ちくらみがする、階段を上ると息切れがする、集中力が続かない、イライラしやすい、頭痛がする、といった症状があります。
また、爪がスプーンのように反り返る(スプーンネイル)、肌がカサつく、髪のパサつきや抜け毛が気になる、なども鉄不足のサインです。
これらの症状は他の原因でも起こり得ますが、特に女性で複数の症状が続く場合は注意が必要です。
鉄分不足を引き起こす主な原因
女性が鉄分不足に陥る背景には、身体的な特性や生活スタイルが大きく関わっています。
鉄分は体内で作り出せず、食事から摂取するしかないため、日々の食生活や生活習慣が鉄分のバランスを左右します。特に意識していないと、簡単に「不足」の状態に傾いてしまいます。
食生活の偏りと鉄分摂取不足
鉄分不足の最も直接的な原因は、食事からの摂取量が足りないことです。
現代の食生活では、加工食品やインスタント食品を利用する機会が増え、鉄分などのミネラルが豊富な赤身の肉や魚、海藻類や緑黄色野菜などの摂取が減る傾向にあります。
また、朝食を抜いたり、簡単なパンやシリアルだけで済ませたりする習慣も、1日トータルの鉄分摂取量を減少させます。
鉄分は一度に大量に吸収できる栄養素ではないため、毎日の食事でコンスタントに補給し続ける習慣が重要です。外食やコンビニ食が多い人も、メニュー選びを工夫しないと鉄分が不足しがちです。
月経による鉄分の損失
成人女性にとって、月経は鉄分不足の最大の要因です。月経血には多くの鉄分が含まれており、毎月定期的に体外へ排出されます。
1回の月経周期で失われる鉄分の量は個人差がありますが、平均して数十mgにものぼると言われます。
特に、月経量が多い(過多月経)人や、月経期間が長い人は、食事から摂取する鉄分だけでは失われる量を補いきれず、慢性的な鉄分不足に陥りやすい状態です。
婦人科系の疾患(子宮筋腫や子宮内膜症など)が隠れている場合もあるため、月経量が多いと感じる場合は一度専門医への相談も考えましょう。
妊娠・出産・授乳期の影響
妊娠中は、胎児の成長と血液量の増加に対応するため、通常時の約1.5倍から2倍近くの鉄分が必要とされます。
胎児は母親の血液から鉄分を受け取り、自身の体内に貯蔵します。特に出産が近づく妊娠後期には、必要な鉄分量が急増します。
また、出産時には分娩による出血で多くの鉄分が失われます。産後の授乳期も、母乳を通して赤ちゃんに鉄分を供給し続けるため、母親の体は鉄分が不足しやすい状態が続きます。
この時期に適切な鉄分補給ができないと、産後の抜け毛(分娩後脱毛症)が悪化したり、回復が遅れたりする一因にもなり得ます。
過度なダイエットのリスク
体重を減らすために極端な食事制限を行うダイエットは、鉄分不足の大きなリスクとなります。特に、肉や魚などの動物性たんぱく質を避け、野菜や果物ばかりを食べるような偏ったダイエットは危険です。
肉や魚に含まれる「ヘム鉄」は、野菜や海藻類に含まれる「非ヘム鉄」に比べて吸収率が格段に高いため、これらを制限すると効率的な鉄分補給ができなくなります。
また、食事量全体を減らすと鉄分だけでなく、たんぱく質やビタミンなど、髪の健康に必要な他の栄養素も同時に不足し、薄毛や髪のトラブルを加速させてしまう恐れがあります。
鉄分不足を招きやすい生活習慣
| 習慣 | 鉄分不足への影響 | 対策のポイント |
|---|---|---|
| 偏食・欠食 | 鉄分の絶対的な摂取量が不足する | 1日3食バランス良く食べる |
| 過度なダイエット | 吸収率の高いヘム鉄が不足しがち | 赤身の肉や魚も適量取り入れる |
| 激しい運動 | 汗とともに鉄分が失われる(発汗損失) | 運動量に見合った鉄分補給を意識する |
| 過度な飲酒 | アルコールの分解や胃腸の荒れで吸収が低下 | 休肝日を設け、適量を守る |
鉄分を効率よく摂取する食事法
髪の健康を取り戻すためには、鉄分不足の解消が第一歩です。
鉄分には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」の2種類があり、それぞれの特性を理解して食事に取り入れると、効率よく鉄分を補給できます。やみくもに食べるのではなく、吸収率を意識した食品選びが重要です。
ヘム鉄と非ヘム鉄の違い
食品に含まれる鉄分は、その由来によって「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」に分けられます。
ヘム鉄は、主に動物性食品(肉、魚介類)に含まれています。ヘモグロビンやミオグロビンといったたんぱく質と結合した形の鉄分です。
ヘム鉄の最大の特徴は、体内への吸収率が非常に高いことです。摂取した量の約15%~25%が吸収されると言われ、他の食品の影響を受けにくい利点があります。
非ヘム鉄は、主に植物性食品(野菜、豆類、海藻類)や卵、乳製品に含まれています。ヘム鉄以外の形の鉄分です。非ヘム鉄の吸収率はヘム鉄に比べて低く、約2%~5%程度とされています。
また、一緒にとる食品(ビタミンCや動物性たんぱく質など)によって吸収率が上がったり、逆に(タンニンやお茶など)によって妨げられたりしやすい性質を持っています。
ヘム鉄を多く含む食品
効率よく鉄分を補給するには、吸収率の高いヘム鉄を意識して摂る工夫が近道です。特に赤身の肉や魚に豊富に含まれています。
レバーは鉄分の宝庫ですが、ビタミンAの過剰摂取にも注意が必要なため毎日は避け、週に1~2回程度を目安にするのがよいでしょう。日常的には、牛肉やカツオ、マグロなどを取り入れるのが現実的です。
ヘム鉄を多く含む食品例(可食部100gあたり)
| 食品名 | 鉄分含有量(mg) | 特徴 |
|---|---|---|
| 豚レバー(生) | 13.0 mg | 非常に多いが、調理法に工夫が必要 |
| 鶏レバー(生) | 9.0 mg | 豚レバーより食べやすい |
| 牛赤身肉(もも・生) | 2.5 mg | 日常的に摂取しやすい |
| カツオ(春獲り・生) | 1.9 mg | 刺身やたたきで手軽に摂れる |
| マグロ(赤身・生) | 1.8 mg | 刺身や寿司で人気 |
| あさり(水煮缶) | 29.7 mg | 缶詰を利用すると非常に効率的 |
(参考:日本食品標準成分表2020年版(八訂))
非ヘム鉄を多く含む食品
非ヘム鉄はヘム鉄に比べて吸収率は低いものの、多くの食品に含まれており、毎日の食事で摂取しやすい鉄分です。
非ヘム鉄を多く含む食品をしっかり摂ることも、鉄分補給の総量を増やす上で大切です。特に豆類や緑黄色野菜、海藻類は、鉄分以外のミネラルや食物繊維も豊富です。
非ヘム鉄は、次に紹介する「吸収を高める栄養素」と一緒に摂る工夫をしましょう。
非ヘム鉄を多く含む食品例(可食部100gあたり)
| 食品名 | 鉄分含有量(mg) | 特徴 |
|---|---|---|
| 高野豆腐(乾) | 6.8 mg | 煮物などで活用しやすい |
| 厚揚げ(生) | 2.0 mg | たんぱく質も豊富 |
| 小松菜(ゆで) | 2.1 mg | おひたしや炒め物に |
| ほうれん草(ゆで) | 0.9 mg | アク(シュウ酸)に注意 |
| ひじき(乾) | 6.2 mg | 水で戻すと量は減るが優秀な食材 |
| 卵(全卵・生) | 1.5 mg | 手軽な鉄分補給源 |
(参考:日本食品標準成分表2020年版(八訂))
鉄分の吸収を高める栄養素と食べ合わせ
鉄分のなかでも非ヘム鉄は、単体で摂取するよりも「食べ合わせ」を工夫すると、体内への吸収率を格段に高められます。
鉄分を多く含む食品を摂るときは、吸収を助ける栄養素を一緒に食卓に並べるように意識しましょう。逆に、吸収を妨げる成分にも注意が必要です。
ビタミンCの役割
ビタミンCは、非ヘム鉄の吸収を強力にサポートする栄養素です。非ヘム鉄は、そのままでは体内に吸収されにくい形(三価鉄)をしています。
ビタミンCは、この非ヘム鉄を吸収されやすい形(二価鉄)に還元する働きを持っています。
小松菜やほうれん草など非ヘム鉄を多く含む野菜を食べるときは、ビタミンCが豊富なピーマン、ブロッコリーなどの野菜や、キウイ、イチゴ、柑橘類などの果物を一緒に摂るのがおすすめです。
食後のデザートに果物を食べるだけでも、その食事で摂った非ヘム鉄の吸収率アップが期待できます。
動物性たんぱく質の重要性
肉や魚に含まれる動物性たんぱく質も、非ヘム鉄の吸収を助ける働きがあります。動物性たんぱく質は、非ヘム鉄と結合して水に溶けやすい状態(キレート化)にし、腸での吸収を促進します。
例えば、ほうれん草のおひたしにかつお節をかける、ひじきの煮物に鶏肉や油揚げ(大豆たんぱく質)を入れる、といった食べ合わせは非常に合理的です。
ヘム鉄と非ヘム鉄を両方含む「肉野菜炒め」なども、効率的に鉄分を摂取できるメニューと言えます。
鉄分の吸収を妨げる食品
一方で、鉄分の吸収を妨げてしまう成分も存在します。代表的なものが「タンニン」です。
タンニンは、コーヒーや紅茶、緑茶などに多く含まれており、非ヘム鉄と結合して水に溶けにくい物質を作り鉄の吸収を阻害します。
鉄分補給を意識している間は、食事中や食後すぐのタイミングでこれらのお茶類を飲むのは避けた方が賢明です。飲む場合は、食事から1時間以上時間を空けるなどの工夫をしましょう。
また、玄米や豆類に多く含まれる「フィチン酸」や、ほうれん草のアクの成分である「シュウ酸」も、鉄分の吸収を妨げる作用があります。
ただし、これらは他の栄養素も豊富に含むため、神経質に避ける必要はありません。ほうれん草は下ゆでしてアク抜きをするなど、調理法で工夫するとよいでしょう。
食事以外の鉄分補給方法
薄毛や体調不良の原因が深刻な鉄分不足にある場合、食事の改善だけでは追いつかないケースも多々あります。
特にフェリチン値(貯蔵鉄)が極端に低い場合は、食事と並行してサプリメントを利用したり、医療機関で相談したりするのも早期改善のためには有効な手段です。
鉄サプリメントの選び方
市販されている鉄サプリメントには、さまざまな種類があります。選ぶ際のポイントは、含まれている鉄分の「種類」と「含有量」です。
鉄分には、食品と同じく「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」があります。一般的に、ヘム鉄のサプリメントは吸収率が高く、胃腸への負担(むかつきや便秘など)が少ない傾向にあるとされますが、価格は高めです。
非ヘム鉄のサプリメントは安価ですが、人によっては胃腸症状が出やすい場合があります。
また、鉄分の吸収を助けるビタミンCや、赤血球の生成に必要なビタミンB12、葉酸などが一緒に配合されている製品も効率的です。自分の体質や鉄分の不足度合いに合わせて選びましょう。
サプリメント摂取時の注意点
サプリメントは手軽ですが、摂取には注意が必要です。まず、製品に記載されている1日の摂取目安量を必ず守りましょう。
鉄分は、不足しても問題ですが、過剰に摂取しすぎても体(特に肝臓)に負担をかける可能性があります。
また、サプリメントを飲むタイミングも重要です。非ヘム鉄のサプリメントの場合、コーヒーや緑茶などタンニンを含む飲み物と一緒に飲むと吸収が妨げられます。水や白湯で飲むのが基本です。
空腹時に飲むと胃が荒れやすい人は、食後に飲むなどの工夫をしましょう。他の薬やサプリメントを飲んでいる場合は、飲み合わせについて医師や薬剤師に相談してください。
医療機関での相談の目安
セルフケアで鉄分補給を心がけても抜け毛が減らない、または体調不良(強い倦怠感、めまい、動悸など)が続く場合は、自己判断でサプリメントを増やすのではなく医療機関を受診しましょう。
「隠れ貧血」かどうかを正確に知るには、血液検査でヘモグロビン値だけでなく「フェリチン値」を測定してもらう必要があります。
フェリチン値は一般的な健康診断の必須項目ではないため、医師に「髪の悩みがあり、貯蔵鉄(フェリチン)も調べてほしい」と具体的に伝えると良いです。
内科、皮膚科、または女性の薄毛専門クリニックなどで相談できます。検査の結果、鉄分の不足が著しい場合は、医療用の鉄剤が処方されるケースもあります。
鉄分補給と薄毛改善の長期的な視点
鉄分補給を始めたからといって、すぐに髪の毛がフサフサに戻るわけではありません。
髪の毛には「ヘアサイクル(毛周期)」があり、鉄分不足によって乱れたサイクルを正常に戻し、新しい健康な髪が育つのを実感するには、数ヶ月単位の時間がかかります。
焦らず、じっくりと体質改善に取り組む姿勢が重要です。
鉄分補給を始めてから変化を感じるまで
鉄分補給を開始すると、まず体調の変化(疲れにくくなった、朝起きるのが楽になったなど)が先に現れる方が多いです。枯渇していた貯蔵鉄(フェリチン)が徐々に満たされていくからです。
髪の毛への変化は、その後になります。毛母細胞が再び活発に働くようになり、新しく生えてくる髪が太く、強くなるまでに時間がかかります。
ヘアサイクルの中で「休止期」に入っていた毛穴から新しい髪(成長期)が生え始めるのにも時間が必要です。
一般的に、抜け毛の減少や髪質の変化を感じ始めるまでには、最低でも3ヶ月から6ヶ月程度はかかると考えておきましょう。
ヘアサイクルと鉄分の関係
髪の毛は、「成長期(髪が伸びる時期)」、「退行期(成長が止まる時期)」、「休止期(髪が抜け落ちる準備をする時期)」というサイクルを繰り返しています。
健康な状態では、ほとんどの髪が成長期(数年間)にあります。
しかし、鉄分が不足して毛母細胞の働きが鈍ると、このヘアサイクルが乱れます。成長期が短くなり、本来ならまだ成長するはずの髪が早くに退行期・休止期へと移行してしまいます。
その結果、十分に育たない細い髪が増えたり、休止期の髪の割合が増えて抜け毛が目立つようになったりします。これが「薄毛」の状態です。
鉄分補給によって栄養状態が改善するとヘアサイクルが正常化し、成長期が長くなることで、再び太く健康な髪が育つようになります。
鉄分以外の髪に必要な栄養素
髪の健康を支えているのは鉄分だけではありません。鉄分不足の解消と同時に、髪の毛の材料となる他の栄養素もしっかり摂取する食事が、薄毛改善の鍵となります。
特に重要なのが、髪の主成分である「たんぱく質」と、たんぱく質の合成を助ける「亜鉛」、そして頭皮環境を整える「ビタミンB群」などです。
髪の健康に必要なその他の栄養素
| 栄養素 | 主な働き | 多く含む食品 |
|---|---|---|
| たんぱく質 | 髪の主成分(ケラチン)の材料 | 肉、魚、卵、大豆製品、乳製品 |
| 亜鉛 | ケラチンの合成を助ける | 牡蠣、レバー、赤身肉、ナッツ類 |
| ビタミンB群 | 頭皮の新陳代謝を促し、皮脂を調節 | 豚肉、レバー、マグロ、納豆、卵 |
| ビタミンE | 血行を促進し、頭皮に栄養を届ける | アーモンド、アボカド、かぼちゃ |
鉄分補給だけに偏らず、これらの栄養素もバランス良く摂ると相乗効果が期待できます。バランスの取れた食生活こそが、健康な髪を育てる土台となります。
Q&A
さいごに、鉄分と髪についてよくいただく質問をまとめます。
- 鉄分を摂りすぎても大丈夫?
-
通常の食事から摂取する鉄分が過剰になる心配はほとんどありません。体には鉄分の吸収を調節する機能が備わっているため、必要以上に吸収することはないからです。
ただし、サプリメントや鉄剤によって鉄分を大量に摂取し続けると、過剰症(胃腸障害、便秘など)を引き起こす可能性があります。
肝臓に負担がかかる場合もあるため、サプリメントは目安量を守り、不安な場合は医師に相談しましょう。
- 鉄剤を飲むと髪はすぐに生えますか?
-
鉄剤を飲んですぐに髪が生えたり、増えたりすることはありません。鉄剤の服用は、あくまで体内の鉄分不足(貧血や隠れ貧血)を改善するための治療です。
鉄分の状態が正常に戻り、その結果として毛母細胞に十分な栄養が届くようになり、乱れたヘアサイクルが整うと、徐々に髪の状態(抜け毛の減少、髪質の改善)が良くなっていきます。
髪の変化を実感するには、最低でも数ヶ月単位の時間が必要です。
- 貧血でなくても鉄分は髪に影響しますか?
-
影響する可能性は十分にあります。
健康診断などでヘモグロビン値が正常で「貧血ではない」と診断されても、体内の貯蔵鉄である「フェリチン」の値が低い「隠れ貧血(潜在性鉄欠乏症)」の状態かもしれません。
髪の毛は生命維持の優先度が低いため、貯蔵鉄が減り始めた段階で、真っ先に髪への栄養供給が滞る可能性があります。
そのため、貧血の症状がなくても、髪の悩みがある場合はフェリチン値を調べてみることが推奨されます。
- 食事改善はどのくらい続ければよいですか?
-
鉄分不足を補い健康な髪を維持するためには、一時的な改善ではなく、継続的な食生活の見直しが重要です。
特に月経がある女性は、毎月鉄分が失われるため、鉄分を意識した食事を習慣化する必要があります。
一度、貯蔵鉄(フェリチン)の値が改善しても、以前と同じ食生活に戻れば、再び鉄分不足に陥ってしまいます。
バランスの取れた食事を「続ける努力」が、髪と体の健康を守る鍵となります。
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