抜け毛の悩みを相談する婦人科検査の内容と女性向け治療の選択肢

抜け毛の悩みを相談する婦人科検査の内容と女性向け治療の選択肢

女性にとって髪は大切なものです。その髪が薄くなる、または抜け毛が増える悩みは、非常にデリケートで深刻な問題です。

もしかしたら、その原因は頭皮ではなく、体の中、特に女性ホルモンのバランスの乱れにあるかもしれません。

この記事では、抜け毛の悩みで婦人科を受診する際の検査内容や、婦人科でのホルモン検査で何がわかるのか、そしてどのような治療の選択肢があるのかを詳しく解説します。

目次

この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック統括院長 前田 祐助
Dr.前田 祐助

AGAメディカルケアクリニック 統括院長

前田 祐助

【経歴】

慶應義塾大学医学部医学研究科卒業

慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了

大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設

2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設

院長プロフィール

資格・所属学会・症例数

【資格】

  • 医師免許
  • ⽇本医師会認定産業医
  • 医学博士

【所属学会】

  • 日本内科学会
  • 日本美容皮膚科学会
  • 日本臨床毛髪学会

【症例数】

3万人以上※

※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数

抜け毛と女性ホルモンの深い関係

女性の髪の健康は、主にエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)という2つの女性ホルモンのバランスによって維持されています。

これらのホルモンが髪の成長周期に深く関わっているため、バランスが崩れると抜け毛や薄毛を引き起こす場合があります。

女性ホルモンが髪に与える影響

女性ホルモンの一つであるエストロゲンは、髪の成長期を維持し、髪を太く健康に保つ働きがあります。髪のハリやコシ、ツヤにもエストロゲンが関与しています。

一方、プロゲステロンも髪の成長をサポートする役割を持ちます。

しかし、出産後や更年期などでこれらのホルモンが急激に減少すると髪の成長期が短くなり、休止期に入る髪が増加します。その結果、抜け毛が目立つようになるのです。

また、女性の体内にも男性ホルモン(アンドロゲン)が存在しており、女性ホルモンが減少すると相対的に男性ホルモンの影響が強まり、薄毛につながるケースもあります。

ホルモンバランスが乱れる主な原因

女性のホルモンバランスは非常にデリケートで、様々な要因によって変動します。

最も大きな要因は加齢です。特に40代後半から50代にかけての更年期は卵巣機能が低下し、エストロゲンの分泌が急激に減少します。

また、出産後はホルモンバランスが妊娠前の状態に戻ろうとするため、一時的に抜け毛が増える「分娩後脱毛症」を経験する人が多くいます。

その他にも、過度なストレスや睡眠不足、極端なダイエットによる栄養不足、不規則な生活習慣なども自律神経やホルモン分泌中枢に影響を与え、バランスを乱す原因となります。

なぜ婦人科への相談が重要なのか

抜け毛の原因が頭皮環境やヘアケアの問題ではなく、体内のホルモンバランスにある場合、皮膚科やヘアサロンでのケアだけでは根本的な改善は望めません。

婦人科は女性ホルモンの専門家です。月経不順や月経痛、PMS(月経前症候群)や更年期障害など、ホルモンに関連する症状を総合的に診察します。

もし抜け毛と同時にこれらの婦人科系の不調を感じているなら、婦人科での相談が問題解決の近道になる可能性があります。

ホルモンの状態を詳しく調べると、抜け毛の背後にある原因を特定でき、適切な対処法を見つける手助けをします。

年代別に見るホルモン変動と抜け毛

女性のライフステージによって、ホルモンバランスの変動とそれに伴う抜け毛のリスクは異なります。

20代〜30代では主にストレスや過度なダイエット、生活習慣の乱れがホルモンバランスを崩し、抜け毛につながる場合があります。

また、ピルの服用中止後や、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などの疾患が隠れているケースもあります。

30代後半〜40代はプレ更年期と呼ばれる時期に入り、徐々に卵巣機能が低下し始めます。

40代後半〜50代以降の更年期には、エストロゲンの急激な減少により、髪全体のボリュームが失われる「びまん性脱毛症」が顕著になるときがあります。

年代ごとに異なるホルモンの状態を理解することが大切です。

婦人科での抜け毛相談で受ける検査とは?

婦人科で抜け毛の相談をすると、まず丁寧な問診を行い、その後ホルモン状態や他の健康状態を調べるための検査を実施します。

抜け毛の原因を多角的に探るため、血液検査や内診、超音波検査などを組み合わせて行います。

最初に行う問診の内容

医師はまず悩みを詳しく聞きます。いつから抜け毛が気になり始めたか、どの程度の量が抜けるか、抜け毛以外に気になる症状はないか(月経不順、不正出血、イライラ、ほてり、体重増加など)を尋ねます。

また、過去の妊娠・出産歴、既往歴、現在服用中の薬、生活習慣(食事、睡眠、ストレスの状況)なども重要な情報です。

これらの情報を総合的に判断し、どのような検査が必要かを決定します。隠さずに正直に伝えることが、正確な診断への第一歩です。

血液検査で調べるホルモンの種類

抜け毛の原因としてホルモンバランスの乱れが疑われる場合、血液検査で各種ホルモンの値を測定します。

特に重要なのが、卵巣機能を反映する女性ホルモン(エストラジオールE2、プロゲステロンP4)や、卵巣を刺激する脳下垂体ホルモン(LH、FSH)です。

これらの値は月経周期によって変動するため、適切な時期(通常は月経の3〜5日目)に採血を行います。

また、男性ホルモン(テストステロン)の値が高いと抜け毛の原因になるため、これも測定する場合があります。

婦人科の血液検査で確認する主なホルモン

ホルモンの種類主な役割基準値の変動要因
エストラジオール(E2)卵胞の成熟、髪の成長期維持月経周期、年齢(更年期)
黄体形成ホルモン(LH)排卵の誘発月経周期、PCOS、更年期
卵胞刺激ホルモン(FSH)卵胞の育成月経周期、卵巣機能低下、更年期

ホルモン以外の血液検査項目

抜け毛の原因は女性ホルモンだけとは限りません。他の内科的な問題が隠れている可能性も探ります。

例えば、甲状腺機能の異常(亢進症または低下症)は、抜け毛の顕著な原因となります。そのため、甲状腺ホルモン(FT3、FT4)や甲状腺刺激ホルモン(TSH)の値を調べます。

また、髪の毛の主成分はタンパク質(ケラチン)であり、鉄分が不足すると髪に十分な栄養が届かず、抜け毛や髪質の低下につながります。

貧血の有無を調べるための血液一般検査(赤血球、ヘモグロビン)や、体内の鉄貯蔵量を示すフェリチンの値も重要なチェック項目です。

超音波検査(エコー検査)の目的

問診や血液検査の結果、子宮や卵巣に何らかの疾患が疑われる際には、経腟超音波検査(エコー検査)を行います。

この検査では、プローブと呼ばれる細い器具を腟内に挿入し、子宮や卵巣の大きさ、形状、内部の状態を画像で確認します。

子宮筋腫や子宮内膜症の有無、卵巣の腫れや、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に見られる特徴的な卵巣の所見(多数の小さな卵胞)などを調べられます。

これらの疾患がホルモンバランスの乱れを引き起こし、結果として抜け毛につながっている可能性があるため、重要な検査の一つです。

婦人科ホルモン検査でわかる薄毛の原因

婦人科でのホルモン検査は、抜け毛の背景にある女性特有の疾患やホルモン異常を特定するのに役立ちます。

単に「ホルモンが減っている」だけでなく、なぜバランスが崩れているのか、その原因を探るのが治療への第一歩です。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の可能性

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は月経不順や無月経、排卵障害を特徴とする疾患で、若い女性の抜け毛の原因の一つとして考えられます。

PCOSの患者さんでは、卵巣内で男性ホルモンが過剰に作られる傾向があります。この男性ホルモンの影響で、頭頂部や前頭部の髪が薄くなる(男性型脱毛症に似た症状)ケースがあります。

また、ニキビができやすい、毛深くなる、肥満などの症状を伴う方もいます。

血液検査でLH(黄体形成ホルモン)の値がFSH(卵胞刺激ホルモン)に比べて異常に高かったり、男性ホルモンの値が高かったりする場合、PCOSを疑います。

甲状腺機能の問題

甲状腺は喉仏の下にある蝶のような形をした臓器で、体の新陳代謝を活発にする甲状腺ホルモンを分泌しています。

このホルモンの分泌が多すぎる「甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)」や、少なすぎる「甲状腺機能低下症(橋本病など)」は、どちらも抜け毛の原因となります。

甲状腺ホルモンは髪の毛の成長周期(毛周期)にも影響を与えるため、バランスが崩れると髪が十分に成長する前に休止期に入ってしまい、抜け毛が増加します。

婦人科の血液検査では、甲状腺ホルモン(FT3, FT4)と甲状腺刺激ホルモン(TSH)の値を調べ、これらの異常がないかを確認します。

甲状腺ホルモン異常の主な症状

症状機能亢進症(多い)機能低下症(少ない)
抜け毛髪が細くなり抜ける髪が乾燥し抜けやすい
体調動悸、多汗、体重減少倦怠感、冷え、体重増加
精神状態イライラ、落ち着かない無気力、眠気、抑うつ

高プロラクチン血症の影響

プロラクチンは脳下垂体から分泌されるホルモンで、本来は出産後に母乳の分泌を促す働きをします。

しかし、妊娠・授乳中以外にも関わらずこのホルモンの値が高くなる状態を「高プロラクチン血症」と呼びます。

プロラクチンの値が高いと卵巣の働きが抑制され、排卵障害や月経不順を引き起こす場合があります。これが女性ホルモンのバランスを崩し、結果として抜け毛につながるときがあります。

原因としては、脳下垂体の小さな腫瘍(良性)や、特定の薬剤(胃薬や向精神薬など)の副作用、強いストレスなどが考えられます。血液検査でプロラクチンの値が高いときは、原因をさらに詳しく調べます。

更年期によるホルモン減少

40代後半から50代にかけて迎える更年期は、女性の抜け毛の悩みが最も増える時期の一つです。閉経に伴い卵巣機能が停止し、髪の健康維持に重要だったエストロゲンの分泌が劇的に減少します。

エストロゲンが減少すると髪の成長期が短縮され、1本1本の髪が細く弱々しくなります(軟毛化)。さらに、相対的に男性ホルモンの影響が強くなる状態も薄毛を進行させる要因となります。

血液検査では、エストラジオール(E2)の値が著しく低下し、逆にFSH(卵胞刺激ホルモン)の値が高くなると、更年期(または閉経)の状態にあると判断できます。

婦人科検査の結果に基づく治療方法

検査結果でホルモンバランスの乱れや特定の婦人科系疾患が見つかった場合、それに応じた治療が抜け毛改善の第一歩となります。

婦人科では、ホルモンを補充したり、バランスを整えたりしながら、体の中から髪の健康を取り戻すことを目指します。

ホルモン補充療法(HRT)

更年期によるエストロゲンの急激な減少が抜け毛の主な原因であると診断された場合、ホルモン補充療法(HRT: Hormone Replacement Therapy)が一つの選択肢となります。

HRTは、不足したエストロゲンを少量の薬剤(貼り薬、飲み薬、塗り薬など)で補う治療法です。

この治療によって、抜け毛や薄毛の進行を緩やかにする効果が期待できるほか、更年期障害の他の症状(ほてり、のぼせ、イライラ、不眠など)も同時に改善する方が多いです。

ただし、血栓症のリスクや乳がんとの関連なども考慮する必要があるため、定期的な検査を受けながら、医師と相談の上で慎重に進めます。

低用量ピルによるホルモン調整

月経不順やPMSがひどく、ホルモンバランスの乱れが抜け毛に影響していると考えられる20代〜40代の女性には、低用量ピル(OC/LEP)を用いる場合があります。

ピルにはエストロゲンとプロゲステロンが含まれており、服用中は体内のホルモンバランスが安定した状態に保たれます。その結果、排卵が抑制され、月経周期が整います。

また、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)などで男性ホルモンが過剰な場合には、その働きを抑える種類のピルを選ぶと抜け毛やニキビの改善が期待できます。

ピルにも血栓症などのリスクがあるため、問診や検査で適応を判断します。

原因疾患(PCOSや甲状腺疾患)の治療

検査の結果、抜け毛の原因がPCOSや甲状腺機能の異常など、特定の疾患にあると判明した場合、まずはその原因疾患の治療を優先します。

例えば、PCOSの場合は排卵誘発剤の使用や、インスリン抵抗性(血糖値を下げるホルモンの効きが悪くなる状態)を改善する薬物療法、生活習慣の改善(減量など)を行います。

甲状腺機能亢進症であれば甲状腺ホルモンの合成を抑える薬を、機能低下症であれば不足している甲状腺ホルモンを補う薬を服用します。

これらの根本的な疾患が改善するとホルモンバランスが整い、抜け毛の症状も次第に落ち着いていくことが期待できます。

漢方薬を用いた体質改善

ホルモン補充療法やピルなどの西洋医学的な治療に抵抗がある場合や、体質的に合わない場合、冷えや倦怠感、ストレスなど全体的な不調がホルモンバランスに影響していると考えられる場合には、漢方薬による取り組みも有効です。

漢方では、その人の体質(証)に合わせて、気(エネルギー)・血(血液)・水(体液)のバランスを整える処方を選びます。

例えば、血行を促進して髪に栄養を届ける「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」や、ストレスやイライラを鎮める「加味逍遙散(かみしょうようさん)」、更年期の不調に用いられる「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」などが、抜け毛の悩みに使われます。

体質改善には時間がかかりますが、根本的な解決を目指す方法の一つです。

婦人科以外の選択肢皮膚科での抜け毛治療

婦人科検査で明確なホルモン異常が見つからない場合や、ホルモン治療を行っても改善が見られない場合、あるいは頭皮自体にかゆみやフケ、炎症などの問題がある場合は、皮膚科での専門的な治療が有効です。

皮膚科は毛髪と頭皮の専門家であり、異なる角度から抜け毛の原因を探ります。

女性のびまん性脱毛症とは

女性の薄毛で最も多いのが「びまん性脱毛症」です。これは、特定の場所だけが薄くなる男性型脱毛症(AGA)とは異なり、頭部全体の髪の毛が均等に薄くなり、ボリュームが失われる状態を指します。

髪の分け目が目立つようになったり、地肌が透けて見えやすくなったりして気づく方が多いです。

原因は一つではなく、加齢やホルモンバランスの変化、ストレスや栄養不足、誤ったヘアケアなど、様々な要因が複合的に絡み合って発症すると考えられています。

婦人科的な問題がなくても、このびまん性脱毛症が進行している場合があります。

皮膚科で行う検査(視診・ダーモスコピー)

皮膚科では、まず医師が頭皮の状態を直接目で見て(視診)、炎症や赤み、フケや湿疹などがないかを確認します。また、抜け毛の状態(抜けた毛の毛根の形など)もチェックします。

さらに、「ダーモスコピー」という特殊な拡大鏡(顕微鏡)を使って、頭皮の毛穴の状態や、毛髪の太さ、密度などを詳しく観察します。

この検査によって、髪が細くなっていないか(軟毛化)、毛穴が詰まっていないか、成長している髪の割合はどうかなどを評価し、脱毛症のタイプを診断します。

必要に応じて婦人科と同様に血液検査を行い、鉄欠乏や甲状腺機能などをチェックするときもあります。

内服薬による治療(ミノキシジル・スピロノラクトン)

皮膚科での女性の薄毛治療では、医学的に効果が認められている内服薬(飲み薬)を用いる場合があります。

代表的なのが「ミノキシジル」です。ミノキシジルはもともと高血圧の薬として開発されましたが、血管を拡張し血流を改善して毛根にある毛母細胞を活性化させ、発毛を促す効果があります。

また、「スピロノラクトン」という薬も用いられます。これは利尿薬ですが、男性ホルモンの働きを抑制する作用があるため、女性の男性型脱毛症(FAGA)やPCOSに伴う脱毛に有効な場合があります。

女性の薄毛治療薬の比較

薬剤名主な作用期待できる効果
ミノキシジル(内服)血流促進、毛母細胞活性化発毛促進、髪の成長期延長
スピロノラクトン(内服)抗アンドロゲン(男性ホルモン抑制)男性ホルモンによる脱毛抑制
ミノキシジル(外用)頭皮の血流促進局所的な発毛促進

外用薬(ミノキシジル塗り薬)の効果

内服薬に抵抗がある場合や、比較的症状が軽い場合には、まず外用薬(塗り薬)から治療を始めるケースが多いです。

女性の薄毛治療で推奨されている外用薬は「ミノキシジル」です。日本では、女性用としてミノキシジル濃度1%の製品が市販されていますが、専門クリニックではより高濃度のものを処方できます。

頭皮の気になる部分に直接塗布して毛根の血管を拡張させ、毛母細胞に栄養を届けやすくし、発毛を促します。

効果を実感するまでには最低でも4〜6ヶ月程度の継続使用が必要ですが、内服薬に比べて全身への副作用のリスクが低いという利点があります。

治療と並行したいセルフケア

医療機関での治療効果を高め、髪の健康を将来にわたって維持するためには、日々の生活習慣を見直すセルフケアが非常に重要です。髪は体の一部であり、全身の健康状態が髪に反映されるからです。

栄養バランスの取れた食事

髪の毛は主に「ケラチン」というタンパク質でできています。そのため、良質なタンパク質(肉、魚、卵、大豆製品)を毎日の食事でしっかり摂る心がけが基本です。

また、タンパク質が髪の毛に合成されるのを助ける「亜鉛」(牡蠣、レバー、ナッツ類)や、頭皮の血行を良くし、毛母細胞の働きを活性化させる「ビタミンE」(アーモンド、アボカド、かぼちゃ)も重要です。

女性ホルモンと似た働きをする「イソフラボン」(大豆製品)も積極的に摂りたい栄養素です。

特に鉄分は不足すると貧血になり、頭皮まで十分な酸素や栄養が運ばれなくなるため、抜け毛の大きな原因となります。レバーや赤身肉、ほうれん草、ひじきなどを意識して食べましょう。

髪の健康に必要な栄養素

栄養素主な働き多く含まれる食品
タンパク質髪の主成分(ケラチン)の材料肉、魚、卵、大豆製品
亜鉛タンパク質の合成を助ける牡蠣、レバー、牛肉、ナッツ類
鉄分頭皮への酸素・栄養運搬レバー、赤身肉、ほうれん草

質の高い睡眠の確保

髪の毛の成長を促す「成長ホルモン」は、私たちが眠っている間、特に夜10時から深夜2時のゴールデンタイムに最も多く分泌されます。

睡眠時間が不足したり眠りが浅かったりすると、成長ホルモンの分泌が妨げられ、髪の成長やダメージの修復が十分に行われません。

また、睡眠不足は自律神経のバランスを乱し、頭皮の血行不良やホルモンバランスの乱れにもつながります。

毎日最低でも6〜7時間の質の高い睡眠を確保するよう心がけましょう。寝る直前のスマートフォン操作やカフェイン摂取を避け、リラックスできる環境を整える工夫が大切です。

ストレス管理とリラックス法

過度なストレスは自律神経のうち交感神経を優位にし、血管を収縮させます。その結果、頭皮の血流が悪化し、毛根に栄養が届きにくくなり、抜け毛の原因となります。

また、ストレスはホルモンバランスを直接乱す要因にもなります。現代社会でストレスをゼロにするのは難しいですが、自分なりの方法で上手に発散させることが重要です。

適度な運動、趣味の時間を持つ、ゆっくりと入浴する、友人と話すなど、心からリラックスできる時間を作りましょう。

自宅でできるリラックス法

  • ぬるめのお湯(38〜40度)での半身浴
  • アロマテラピー(ラベンダー、カモミールなど)
  • 深呼吸や瞑想
  • ストレッチやヨガ

正しいヘアケアと頭皮マッサージ

頭皮環境を清潔に保つ習慣は大切ですが、洗いすぎや強すぎる洗浄力のシャンプーは頭皮を守るべき皮脂まで奪い、乾燥やかゆみ、かえって皮脂の過剰分泌を招くケースがあります。

自分の頭皮タイプに合ったアミノ酸系などのマイルドな洗浄力のシャンプーを選び、指の腹で優しくマッサージするように洗いましょう。すすぎ残しは毛穴詰まりの原因になるため、十分に行います。

また、シャンプー後やリラックスタイムに頭皮マッサージを取り入れるのも良い方法です。指の腹で頭皮全体を優しく動かすようにマッサージし、血行を促進しましょう。

ただし、爪を立てたり、強くこすりすぎたりしないよう注意が必要です。

抜け毛相談の病院選び

抜け毛の悩みをいざ相談しようと思っても、「婦人科と皮膚科、どちらに行けばいいの?」と迷う方も多いでしょう。

ご自身の状況や不安に寄り添い、適切な検査と治療を提案してくれる病院を選ぶことが大切です。

婦人科と皮膚科どちらを先に受診すべき?

どちらを受診すべきか迷った時は、抜け毛以外の症状に注目してみてください。

もし、月経不順やひどい月経痛、PMSや更年期のような症状を伴う場合は、まず婦人科の受診をおすすめします。ホルモンバランスの乱れが根本的な原因である可能性が高いからです。

一方で、頭皮にかゆみやフケ、湿疹や痛みがある場合、円形脱毛症のように局所的に抜けている場合、あるいは婦人科系の症状は全くないという場合は、皮膚科(または女性の薄毛専門外来)が適しています。

頭皮や毛髪そのものの問題として対処します。

受診先の選び方目安

症状の傾向推奨される受診先主なアプローチ
月経不順、更年期症状あり婦人科ホルモン検査、内服薬(ピル、HRT)
頭皮のかゆみ、フケ、炎症あり皮膚科視診、ダーモスコピー、外用薬
抜け毛以外の症状が特にない皮膚科または女性薄毛外来毛髪診断、発毛薬(内服・外用)

女性の薄毛専門外来という選択肢

近年は、女性の薄毛治療を専門に行うクリニックも増えています。

これらのクリニックの多くは皮膚科や形成外科がベースですが、婦人科と連携していたり、ホルモン検査や栄養指導なども含めた総合的な取り組みを行っていたりする点が特徴です。

皮膚科的な治療(ミノキシジル処方など)と、婦人科的な視点(ホルモン検査)の両方をカバーしている場合が多く、抜け毛の原因がはっきりしない場合や、より専門的な治療を望む場合には心強い選択肢となります。

ただし、治療内容によっては費用が高額になる場合もあるため、事前に内容や費用体系をよく確認しましょう。

医師との信頼関係の築き方

抜け毛の悩みは非常にデリケートであり、他人には話しにくいものです。だからこそ、医師が親身になって話を聞いてくれるか、検査や治療について分かりやすく説明してくれるかどうかが非常に重要です。

不安や疑問に思うことをためらわずに質問でき、ご自身も納得した上で治療方針を決定できるような、信頼関係を築ける医師を見つけると、治療を継続する上での大きな支えとなります。

いくつかの医療機関で相談(セカンドオピニオン)をしてみるのも一つの方法です。

検査や治療にかかる期間の目安

抜け毛の治療は、残念ながらすぐに結果が出るものではありません。髪には「毛周期」という成長のサイクルがあり、治療によって新しく生えてきた髪が目に見える長さになるまでには時間がかかります。

一般的に、婦人科でのホルモン検査は月経周期に合わせて行うため、結果が出るまでに数週間かかります。

治療を開始した場合、その効果を実感できるまでには、最低でも3ヶ月から6ヶ月程度の継続が必要です。

焦らずにじっくりと取り組む姿勢が大切です。医師と相談しながら、治療の進捗を確認していきましょう。

FAQ

さいごに、抜け毛や薄毛と婦人科での検査、ホルモン検査に関する質問をまとめます。

抜け毛が始まったらすぐに婦人科に行くべき?

抜け毛には季節的な変動や一時的なストレスによるものもあります。まずは1〜2ヶ月、生活習慣(食事、睡眠、ストレス)を見直してみてください。

それでも改善しない場合や、抜け毛の量が異常に多いと感じる場合、または月経不順や体調不良など他の症状も伴う場合は、早めに専門機関に相談することをおすすめします。

特に婦人科系の不調があるなら、婦人科が第一選択肢となります。

婦人科のホルモン検査は痛みを伴いますか?

婦人科のホルモン検査の基本は血液検査(採血)です。これは一般的な健康診断などで行う採血と同じで、針を刺す際にチクッとした痛みを感じる程度です。

超音波検査(エコー検査)は、経腟エコーの場合、細い器具を挿入する際に多少の違和感を覚えるかもしれませんが、痛みはほとんどありません。

不安なときは事前に医師や看護師に伝えておくと、リラックスできるよう配慮してくれます。

ピルの服用をやめると抜け毛は増えますか?

ピルの服用中はホルモンバランスが安定していますが、服用を中止すると体が再び自力でホルモンを分泌しようとするため、一時的にホルモンバランスが変動します。

この変動により、出産後に抜け毛が増えるのと似た現象(休止期脱毛)が起こり、一時的に抜け毛が増える場合があります。

通常は数ヶ月で元の状態に戻りますが、もし長期間続くようであれば、ピル以外の原因も考えられるため医師に相談してください。

市販の育毛剤と婦人科の治療はどう違いますか?

市販の女性用育毛剤の多くは、頭皮の血行を促進したり保湿したり、栄養を与えたりして頭皮環境を整え、「今ある髪を健康に保つ」や「抜け毛を予防する」を目的としています。

一方、婦人科での治療は、血液検査などで抜け毛の根本的な原因(ホルモンバランスの乱れや疾患など)を特定し、ホルモン補充療法やピル、原因疾患の治療など、体の「内側」からその原因に直接働きかける点が大きな違いです。

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