慢性休止期脱毛症とは

最近、抜け毛が増えたと感じていませんか？シャンプーのたびに排水溝にたまる髪の毛、ブラッシングで櫛に絡まる髪の毛を見て、不安に思う女性は少なくありません。

その症状、もしかしたら「慢性休止期脱毛症」かもしれません。これは特に女性に多く見られるびまん性の脱毛症で、AGA（男性型脱毛症）とは異なる原因で起こります。

この記事では、慢性休止期脱毛症の基礎知識から、ご自身でできるチェック方法、病院での診断や治療、そして日常生活での対策まで、専門的な観点から詳しく解説します。

慢性休止期脱毛症について知っておきたいこと – 概要と基礎知識

慢性休止期脱毛症（Chronic Telogen Effluvium, CTE）は、多くの女性が経験する可能性のある脱毛症の一つです。しかし、その名前を聞いたことがない方も多いでしょう。

まずは、この脱毛症がどのようなものなのか、基本的な知識から理解を深めていきましょう。髪の悩みを正しく理解することが、改善への大切な一歩となります。

休止期脱毛症とは何か

私たちの髪の毛には、「成長期」「退行期」「休止期」というサイクルがあります。ほとんどの髪（約85-90%）は成長期にあり、数年かけて長く太く成長します。

その後、退行期を経て休止期に入ると、毛根での活動が止まり、やがて自然に抜け落ちます。

休止期脱毛症は、何らかの原因で多くの髪の毛が通常より早く休止期に入ってしまい、結果として抜け毛（脱毛）が一度に増える状態を指します。

ヘアサイクルの期間の目安

段階	期間の目安	全体の毛髪に占める割合
成長期	2年～6年	約85～90%
退行期	約2週間	約1%
休止期	約3～4ヶ月	約10～15%

「慢性」と「急性」の違い

休止期脱毛症には「急性」と「慢性」の二つのタイプがあります。

この二つを分ける最も大きな違いは、症状が続く期間です。急性休止期脱毛症は、出産や高熱、大きな手術など、原因がはっきりした出来事の数ヶ月後に始まり、通常は6ヶ月以内に自然に回復します。

一方、慢性休止期脱毛症は、抜け毛の増加が6ヶ月以上続く状態を指し、原因が特定しにくいことも少なくありません。この長い期間にわたる抜け毛が、多くの女性の悩みの種となります。

急性型と慢性型の主な相違点

項目	急性休止期脱毛症	慢性休止期脱毛症
症状の持続期間	6ヶ月未満	6ヶ月以上
原因の特定	比較的容易	困難な場合がある
主な対象者	全年齢・性別	特に30～50代の女性に多い

あなたの抜け毛は正常範囲？慢性休止期脱毛症の特徴的な症状

「抜け毛が増えた」と感じても、それが正常な範囲内なのか、それとも治療を考えるべき症状なのかを自分で判断するのは難しいものです。

ここでは、慢性休止期脱毛症に特有の症状について詳しく見ていきます。ご自身の状態と照らし合わせながら確認してみてください。

びまん性脱毛症としての特徴

慢性休止期脱毛症の最も大きな特徴は、「びまん性脱毛症」であるという点です。これは、頭部の一部だけが薄くなるのではなく、頭部全体の髪が均等に、全体的にボリュームダウンする脱毛のパターンを指します。

男性によく見られるAGAのように生え際が後退したり、頭頂部が薄くなったりするのとは異なり、分け目が広くなった、髪全体の密度が減った、地肌が透けて見えるようになった、といった感覚で自覚することが多いです。

抜け毛の質と量の変化

この脱毛症では、抜ける髪の毛にも特徴があります。AGAなどでは髪が細く短くなってから抜けることが多いですが、慢性休止期脱毛症では、十分に成長した太くて長い髪の毛が抜ける傾向にあります。

そのため、抜け毛の1本1本は健康に見えるのに、全体の量が減っていくという状態になります。

シャンプーやブラッシングの際に、以前よりも明らかに多くの髪が抜けることに気づいて病院の受診を考える方が多いです。

1日の正常な抜け毛本数

状態	1日の抜け毛本数の目安
正常範囲	50本～100本
注意が必要な範囲	150本以上が毎日続く

今すぐできる簡単セルフチェック – 3つのポイントで確認

病院へ行く前に、ご自身の状態をある程度把握したいと思うのは自然なことです。ここでは、慢性休止期脱毛症の可能性を考える上で役立つ、簡単なセルフチェックのポイントを3つ紹介します。

ただし、これはあくまで目安であり、正確な診断は専門医に任せる必要があります。

ポイント1 抜け毛が続く期間の確認

最も重要なチェックポイントは、抜け毛の増加がどのくらいの期間続いているかです。もし、抜け毛が気になり始めてから半年以上が経過している場合、慢性休止期脱毛症の可能性が考えられます。

手帳やカレンダーに、抜け毛が気になり始めた時期をメモしておくと、病院で医師に説明する際に役立ちます。

ポイント2 抜け毛の量の変化を客観視

毎日抜ける髪の毛の量を正確に数えるのは大変ですが、おおよその変化を把握することは可能です。

例えば、お風呂の排水溝にたまる髪の毛の塊の大きさを写真に撮って比較したり、枕に付着する髪の毛の本数を数日間にわたって記録したりする方法があります。

こうした客観的な記録は、ご自身の不安を和らげたり、専門家への相談材料となったりします。

ポイント3 頭皮と髪全体の状態観察

鏡を使って、頭全体の髪のボリューム感や分け目の状態を確認しましょう。以前の写真と比較すると、変化が分かりやすいかもしれません。

• 分け目が以前より広くなっていないか
• 髪をかき上げたときに地肌が目立つようになっていないか
• 髪全体のハリやコシが失われていないか

これらの変化は、びまん性脱毛症のサインである可能性があります。

なぜ髪が抜け続けるのか – 慢性休止期脱毛症の主な原因

長期間にわたって髪が抜け続ける背景には、さまざまな原因が潜んでいる可能性があります。慢性休止期脱毛症は、単一の原因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発症することが多いのが特徴です。

ここでは、考えられる主な原因について解説します。

身体的・精神的ストレスの影響

過度なストレスは、自律神経やホルモンバランスを乱し、ヘアサイクルに悪影響を与える主要な原因の一つです。

仕事や家庭内の悩み、人間関係といった精神的なストレスだけでなく、睡眠不足や過労といった身体的なストレスも、髪の健康を損なう引き金となります。

ストレス社会といわれる現代において、多くの女性がこの問題を抱えています。

栄養状態の偏り 特に鉄欠乏

髪の毛は、私たちが食事から摂取する栄養素を基に作られます。特に、髪の主成分であるケラチン（タンパク質）の合成には、亜鉛やビタミン類、そして鉄分が重要です。

過度なダイエットや偏った食生活は、これらの栄養素の不足を招きます。中でも、女性は月経の影響で鉄欠乏に陥りやすく、これが慢性的な抜け毛の原因となるケースが少なくありません。

鉄欠乏性貧血の症状がなくても、体内の貯蔵鉄（フェリチン）が不足している「かくれ貧血」の状態でも抜け毛は起こりえます。

髪の健康に必要な主な栄養素

栄養素	主な役割	多く含まれる食品
タンパク質	髪の主成分（ケラチン）を作る	肉、魚、卵、大豆製品
亜鉛	ケラチンの合成を助ける	牡蠣、レバー、牛肉
鉄分	毛母細胞へ酸素を運ぶ	レバー、赤身肉、ほうれん草

甲状腺機能の異常

のどぼとけの下にある甲状腺は、体の新陳代謝をコントロールするホルモンを分泌しています。

この甲状腺の機能に異常が生じると（機能亢進症や機能低下症など）、ヘアサイクルが乱れ、脱毛の症状が現れることがあります。

特に甲状腺疾患は女性に多いため、原因不明の抜け毛が続く場合は、一度検査を検討する価値があります。

その他の全身性疾患や薬剤の影響

慢性的な腎臓病や肝臓病、膠原病などの全身性の疾患が、抜け毛の原因になることもあります。

また、服用している薬剤（降圧剤、抗うつ薬、一部の抗がん剤など）の副作用として脱毛が起こることも知られています。

何か持病がある方や、常用している薬がある場合は、その影響も考慮に入れる必要があります。

診断のための検査方法 – 専門医が行う検査の流れ

自己判断で悩まず、専門の病院で正確な診断を受けることが、改善への最も確実な道です。

ここでは、薄毛治療を専門とするクリニックで一般的に行われる検査について、その流れを説明します。適切な診断が、効果的な治療の第一歩です。

問診による詳細な情報収集

診断の第一歩は、医師による詳しい問診です。

いつから抜け毛が始まったか、その期間、量、生活習慣、食生活、ストレスの有無、既往歴、服用中の薬、ご家族の髪の状態など、多岐にわたる質問を通じて、脱毛の原因を探ります。

このとき、ご自身で記録したメモなどがあると、より正確な情報を伝えられます。

視診とダーモスコピー検査

次に、医師が直接頭皮と髪の状態を観察します。脱毛の範囲やパターンから、びまん性脱毛症なのか、AGAのようなパターン性の脱毛なのかを判断します。

さらに、ダーモスコピーという特殊な拡大鏡を使って、毛穴の状態、頭皮の色、髪の毛の太さなどを詳細に観察し、より精密な診断を行います。

ダーモスコピーで確認する主な項目

観察項目	確認する内容
毛髪の太さ	細い毛（軟毛）の割合はどうか（AGAとの鑑別に重要）
頭皮の色	炎症や赤み、乾燥はないか
毛穴の状態	汚れや皮脂の詰まり、閉塞はないか

血液検査による全身状態の評価

問診や視診で、栄養不足や内科的疾患が疑われる場合には、血液検査を行います。

この検査により、鉄欠乏の有無（血中フェリチン値）、甲状腺ホルモンの値、亜鉛などのミネラルの不足、その他全身の健康状態を評価し、抜け毛の根本的な原因を特定します。

• 貧血・鉄欠乏のチェック（ヘモグロビン、フェリチン）
• 甲状腺機能のチェック（TSH, FT3, FT4）
• 亜鉛などの必須ミネラルのチェック

改善への第一歩 – 効果的な治療法と期待できる結果

正確な診断に基づき、一人ひとりの原因に合わせた治療計画を立てます。慢性休止期脱毛症の治療は、一つの特効薬に頼るのではなく、多角的なアプローチが重要です。

ここでは、当クリニックのような専門病院で行う主な治療法と、期待できる結果について解説します。

原因疾患の治療と生活習慣の改善指導

治療の基本は、脱毛の引き金となっている根本的な原因を取り除くことです。例えば、血液検査で鉄欠乏や甲状腺機能の異常が見つかった場合は、まずその疾患に対する内科的な治療を優先します。

また、食事内容や睡眠、ストレス管理など、髪の健康に直結する生活習慣の見直しについて、専門的な観点から具体的なアドバイスを行います。これが、効果的な対策の土台となります。

ミノキシジル外用薬による発毛促進

ミノキシジルは、厚生労働省が発毛効果を認めている数少ない成分の一つです。頭皮の血行を促進し、毛母細胞を活性化させることで、休止期から成長期への移行を促し、発毛をサポートします。

女性の場合は、男性用よりも濃度の低い製剤を使用するのが一般的です。ミノキシジルは、AGAだけでなく、慢性休止期脱毛症の治療においても有効な選択肢の一つです。

ミノキシジル治療のポイント

項目	詳細
使用方法	1日2回、薄毛が気になる部分の頭皮に直接塗布する
効果実感までの期間	個人差があるが、一般的に4～6ヶ月以上の継続使用が必要
注意点	初期脱毛（使い始めに一時的に抜け毛が増えること）が起こる場合がある

栄養療法とサプリメントの活用

食事だけで必要な栄養素を十分に補うのが難しい場合、医療用のサプリメントを用いた栄養療法を併用します。特に、鉄欠乏が確認された場合には鉄剤を処方します。

その他、髪の成長に必要なビタミンやミネラル、アミノ酸などをバランス良く配合したサプリメントは、発毛環境を内側から整える有効な対策となります。

日常生活で実践できる予防と対策 – 髪を守る習慣づくり

専門的な治療と並行して、日々のセルフケアを見直すことも、健やかな髪を取り戻し、維持するためには非常に重要です。

ここでは、今日からすぐに始められる予防と対策について、具体的な方法を紹介します。

バランスの取れた食事を心がける

髪はあなたの食べたもので作られます。特定の食品だけを食べるのではなく、主食・主菜・副菜をそろえ、バランスの良い食事を意識しましょう。

特に、髪の主成分であるタンパク質、その合成を助ける亜鉛、そして頭皮に酸素を運ぶ鉄分は、積極的に摂取したい栄養素です。

• タンパク質（肉、魚、卵、大豆製品）
• 亜鉛（牡蠣、レバー、ナッツ類）
• 鉄分（赤身肉、ほうれん草、ひじき）

質の良い睡眠とストレス対策

髪の成長を促す成長ホルモンは、主に睡眠中に分泌されます。毎日6～8時間程度の質の良い睡眠を確保するよう努めましょう。

また、心身のストレスは髪の大敵です。適度な運動や趣味の時間を持つなど、自分に合ったストレス解消法を見つけることが、抜け毛の予防・対策につながります。

正しいヘアケアの実践

毎日のシャンプーも、やり方次第で頭皮への負担が変わります。洗浄力の強すぎるシャンプーを避け、アミノ酸系などのマイルドなものを選びましょう。

洗髪時は爪を立てず、指の腹で優しくマッサージするように洗い、すすぎ残しがないように丁寧に洗い流します。ドライヤーの熱も頭皮に近づけすぎないよう注意が必要です。

正しいシャンプーの手順

手順	ポイント
1. ブラッシング	洗髪前に髪のもつれをほどき、汚れを浮かせる
2. 予洗い	シャンプー前にお湯だけで十分に髪と頭皮を濡らす
3. 洗浄	シャンプーをよく泡立て、指の腹で頭皮をマッサージするように洗う

回復までの道のり – 治療経過と向き合い方

慢性休止期脱毛症の治療は、数週間で劇的に変化するものではなく、根気強い取り組みが必要です。回復までの期間には個人差があり、その道のりで不安になることもあるかもしれません。

ここでは、治療の経過と心の持ち方についてお伝えします。

効果が現れるまでの期間の目安

乱れたヘアサイクルが正常に戻り、新しい髪が成長して抜け毛の減少やボリュームアップを実感できるようになるまでには、一般的に6ヶ月から1年程度の期間を要します。

ミノキシジルなどの治療薬を使い始めても、すぐに効果が出るわけではありません。焦らず、じっくりと治療を続けることが大切です。

初期脱毛への理解

特にミノキシジル外用薬による治療を開始した初期段階（1ヶ月前後）で、一時的に抜け毛が増える「初期脱毛」という症状が起こることがあります。

これは、乱れたヘアサイクルの髪が、新しい健康な髪に生え変わるために押し出される正常な反応です。ここで使用を中止せず、治療を継続することが重要です。

専門家との定期的な相談

治療の経過や、途中で生じた不安や疑問は、一人で抱え込まずに、定期的に専門の病院で医師に相談しましょう。

客観的な評価を受け、適切なアドバイスをもらうことで、安心して治療を続けることができます。私たちは、あなたの髪の悩みに寄り添い、ゴールまで伴走します。

よくある質問

慢性休止期脱毛症は遺伝しますか？

AGA（男性型脱毛症）とは異なり、慢性休止期脱毛症に明確な遺伝的要因は認められていません。

原因は、ストレスや栄養不足、甲状腺疾患など、後天的な要因が主であると考えられています。

治療をやめると、また元に戻ってしまいますか？

脱毛の根本的な原因（例：鉄欠乏やストレス）が解決されていれば、治療を終了しても良い状態を維持できる可能性が高いです。

ただし、生活習慣の乱れなどが再発すれば、再び抜け毛が増えることもあります。健康な髪を維持するためには、継続的なセルフケアが重要です。

市販の育毛剤では効果がありませんか？

市販の育毛剤の多くは、頭皮環境を整えることを目的とした医薬部外品です。

一方で、クリニックで処方するミノキシジル外用薬は、発毛効果が認められた医薬品であり、作用が異なります。

自己判断で効果が見られない場合は、一度専門の病院でご相談ください。

医薬品と医薬部外品の違い

分類	目的	成分
医薬品（ミノキシジルなど）	病気の治療（発毛）	効果が認められた有効成分
医薬部外品（多くの育毛剤）	防止・衛生（育毛、フケ・かゆみ防止）	効果・効能が認められた有効成分（穏やかな作用）

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