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女性の育毛と発毛の違い|専門医が教える髪の成長のメカニズム

女性の育毛と発毛の違い|専門医が教える髪の成長のメカニズム

薄毛や抜け毛の増加は、多くの女性にとって切実な問題です。髪のボリュームが減ると見た目の印象だけでなく、自信を失う原因にもなりかねません。

「育毛」と「発毛」という言葉をよく耳にしますが、これらの違いを正確に理解している方は少ないのではないでしょうか。

この記事では、女性の育毛と発毛の根本的な違い、髪が成長する仕組み、そして女性特有の薄毛の原因について専門医の視点から詳しく解説します。

目次

育毛と発毛の基本的な違い

薄毛対策を考える上で、「育毛」と「発毛」は混同されやすい言葉ですが、その目的と方法には明確な違いがあります。

育毛の定義と目的

育毛とは、現在生えている髪の毛を健康に育て、抜け毛を防ぐのを主な目的とします。

頭皮環境を整え髪に栄養を行き渡らせて、髪のハリやコシを改善し、細く弱った髪を太く強く育てるのを目指します。

既に生えている髪の維持と成長促進が育毛の役割です。

発毛の定義と目的

発毛とは、毛髪が失われた部分や薄くなった部分に、新たに髪の毛を生やすのが目的です。

毛母細胞の活動が低下、あるいは停止している毛穴に働きかけ、再び髪の毛を作り出す力を促します。

髪の毛の本数を増やしたい場合に発毛の取り組みを検討します。

言葉の違いによる誤解

「育毛剤を使えば髪が生える」といった誤解が生じやすいですが、育毛剤の多くは既存の髪を健康に保つためのものです。

一方で、発毛効果をうたう製品や治療は、医学的な根拠に基づき、毛母細胞に直接作用して新しい髪の成長を促すことを目指します。

この違いを認識しないと、期待する効果が得られない可能性があります。

育毛と発毛の比較

項目育毛発毛
主な目的現存する髪の健康維持、抜け毛予防新しい髪の毛を生やす
対象細くなった髪、弱った髪髪が失われた、薄くなった部位
方法頭皮環境改善、栄養補給毛母細胞の活性化

髪の毛が成長する仕組み

髪の毛は一定のサイクルで成長し、自然に抜け落ち、そしてまた新しく生え変わります。

この髪の成長サイクルを理解することは、育毛や発毛を考える上で非常に重要です。

毛周期(ヘアサイクル)とは

毛周期とは、一本一本の髪の毛が経験する成長のサイクルです。

このサイクルは、大きく分けて「成長期」「退行期」「休止期」の3つの期間から成り立っています。

健康な髪の毛は、このサイクルを規則正しく繰り返しています。

成長期・退行期・休止期

成長期は、毛母細胞が活発に分裂し、髪の毛が太く長く成長する期間です。通常2年から6年程度続きます。

退行期は毛母細胞の分裂が減少し、髪の成長が止まる期間で、約2週間程度です。

その後、休止期に入り、髪は毛根から完全に離れて抜け落ちる準備をします。休止期は約3ヶ月から4ヶ月続き、この期間が終わると新しい髪が再び成長期に入ります。

毛周期の各段階

期間期間の目安髪の状態
成長期2~6年毛母細胞が活発に分裂し、髪が成長する
退行期約2週間髪の成長が止まり、毛球が縮小する
休止期3~4ヶ月髪が抜け落ち、新しい髪の準備が始まる

健康な髪を育む毛母細胞の働き

毛母細胞は、毛根の最も深い部分にある毛球に存在し、髪の毛を作り出す工場のような役割を担います。

毛母細胞が活発に細胞分裂を繰り返して、髪の毛が成長します。毛母細胞の働きが弱まると、髪が細くなったり、成長期が短くなったりして薄毛の原因となります。

髪の成分と栄養

髪の毛の主成分はケラチンというタンパク質です。健康な髪を育むためにはタンパク質をはじめ、ビタミンやミネラルといった栄養素がバランス良く必要です。

なかでも亜鉛や鉄分、ビタミンB群などは髪の成長に深く関わっています。

これらの栄養素が不足すると、髪の成長に影響が出る場合があります。

女性の薄毛の原因と男性との違い

女性の薄毛は、男性の薄毛とは異なる特徴や原因があります。女性特有の原因を理解すると、適切な対策につながります。

女性に多い薄毛のタイプ

女性の薄毛で最も多いのは「びまん性脱毛症」です。

頭部全体の髪の毛が均等に薄くなるタイプで、特定の部位だけが後退する男性型脱毛症とは異なります。

分け目が目立ってきたり、髪全体のボリュームダウンを感じたりするのが初期のサインです。

ホルモンバランスの乱れ

女性ホルモンの一つであるエストロゲンは、髪の成長を促進して成長期を維持する働きがあります。

しかし、加齢や出産後、ストレスや不規則な生活などによりホルモンバランスが乱れるとエストロゲンの分泌量が減少し、相対的に男性ホルモンの影響が強まりやすいです。

男性ホルモンの影響で髪の成長期が短縮して、薄毛を引き起こす一因となります。

女性ホルモンと髪の関係

ホルモン髪への主な働き減少時の影響
エストロゲン髪の成長促進、成長期の維持成長期短縮、抜け毛増加
プロゲステロン髪のハリ・コシ維持髪質の低下

生活習慣やストレスの影響

睡眠不足や偏った食生活、過度なダイエットや喫煙などの生活習慣の乱れは頭皮の血行不良や栄養不足を招き、髪の健康に悪影響を与えます。

また、精神的なストレスは自律神経やホルモンバランスを乱し、抜け毛を増加させる原因となります。

女性の社会進出に伴い、ストレスにさらされる機会が増えている事実も、薄毛の悩みを抱える女性が増えている背景の一つと考えられます。

  • 睡眠不足
  • 栄養バランスの偏った食事
  • 過度なダイエット
  • 精神的ストレス

男性型脱毛症(AGA)との比較

男性型脱毛症(AGA)は、主に男性ホルモンであるテストステロンがDHT(ジヒドロテストステロン)に変換されることで引き起こされます。

DHTが毛乳頭細胞の受容体に結合すると髪の成長期が短縮され、薄毛が進行します。

女性も男性ホルモンを持っていますがその量は少なく、またアロマターゼという酵素によってエストロゲンに変換されるため、男性ほどAGAの影響は受けにくいとされています。

ただし、ホルモンバランスの乱れなどにより、女性でも男性型脱毛症に似た症状(FAGA:女性男性型脱毛症)が現れるケースがあります。

育毛とは?具体的な方法と期待できる効果

育毛は今ある髪を大切に育て、健やかな状態を保つためのケアです。日々の積み重ねが、将来の髪の状態を左右します。

頭皮環境を整える重要性

健康な髪は、健康な頭皮から生まれます。畑に例えるなら、頭皮は土壌です。

土壌が硬かったり栄養不足だったりすると、良い作物が育たないのと同じように、頭皮環境が悪化すると髪の成長が妨げられます。

適切なシャンプー方法や頭皮マッサージ、保湿などで頭皮環境を整える習慣が、女性の育毛の基本です。

育毛剤の種類と選び方

市販されている女性向けの育毛剤には、様々な種類があります。

血行促進成分や保湿成分、抗炎症成分や毛母細胞活性化成分などが配合されています。ご自身の頭皮の状態や悩みに合わせて選ぶことが大切です。

例えば、乾燥が気になる場合は保湿成分が豊富なもの、頭皮の炎症が気になる場合は抗炎症成分配合のものを選ぶと良いでしょう。

主な育毛剤の配合成分と期待される働き

成分カテゴリー主な成分例期待される働き
血行促進成分センブリエキス、ビタミンE誘導体頭皮の血流改善、栄養供給促進
保湿成分ヒアルロン酸、セラミド頭皮の乾燥防止、バリア機能向上
抗炎症成分グリチルリチン酸ジカリウム頭皮の炎症抑制、フケ・かゆみ防止

どれを選べば良いか迷ったときは、専門医に相談するのがおすすめです。

自宅でできる育毛ケア(食事、睡眠、マッサージ)

育毛は、育毛剤だけに頼るものではありません。バランスの取れた食事や質の高い睡眠、そして頭皮マッサージなど、日々の生活習慣の見直しも重要です。

髪の主成分であるタンパク質や、髪の成長を助けるビタミン、ミネラルを積極的に摂取しましょう。

また、十分な睡眠は成長ホルモンの分泌を促し、髪の成長をサポートします。頭皮マッサージは血行を促進し、頭皮を柔らかく保つ効果が期待できます。

育毛の限界と注意点

育毛ケアは、あくまでも現在生えている髪の健康維持や抜け毛予防が主な目的です。毛母細胞の活動が完全に停止してしまった毛穴から、新たに髪を生やす効果は期待できません。

また、効果を実感するまでには時間がかかるのが一般的です。

数ヶ月から半年程度は継続してケアを行う姿勢が大切です。すぐに効果が出ないからといって諦めず、根気強く取り組みましょう。

発毛とは?医療機関での治療と効果

発毛は、医学的な方法によって失われた髪を再び生やすことを目指す治療です。専門医の診断のもと、適切な治療法を選択しましょう。

発毛治療の対象となる状態

発毛治療は、薄毛が進行して髪の毛の本数自体が減少している方に検討されます。

毛周期が乱れ、成長期が極端に短くなったり、休止期の毛包が多くなったりしている状態が対象です。

医師が頭皮や毛髪の状態を診察し、発毛治療が適しているかどうかを判断します。

代表的な発毛治療法(内服薬・外用薬)

女性の薄毛治療において医学的に効果が認められている代表的な治療法には、ミノキシジル外用薬やスピロノラクトン内服薬などがあります。

ミノキシジルは、毛母細胞を活性化させて血流を改善して発毛を促進します。スピロノラクトンは、男性ホルモンの影響を抑えて抜け毛を防ぎ、発毛をサポートする効果が期待されます。

女性の主な発毛治療薬

治療薬主な作用使用方法
ミノキシジル外用薬毛母細胞活性化、血行促進頭皮に直接塗布
スピロノラクトン内服薬抗アンドロゲン作用経口服用

これらの治療薬は、医師の処方が必要です。

その他の治療選択肢(注入療法など)

内服薬や外用薬の他にも、発毛を促す治療法があります。

例えば、成長因子や栄養成分を頭皮に直接注入する「メソセラピー」や「HARG療法」などがあります。毛母細胞の活性化や頭皮環境の改善を促し、発毛効果を高めることが期待されます。

個々の状態や希望に応じて、医師と相談しながら適した治療法を選択します。

発毛治療の効果と期間の目安

発毛治療の効果が現れるまでには、個人差がありますが、一般的に3ヶ月から6ヶ月程度の期間が必要です。

髪の毛には毛周期があるため、治療を開始してすぐに目に見える効果が現れるわけではありません。

また、得られた治療効果を維持するためには、継続的な治療が大切です。医師の指示に従い、根気強く治療を続けることが、女性が髪の毛を増やすための鍵となります。

育毛と発毛、どちらを選ぶべき?自分に合ったケアの見つけ方

「育毛」と「発毛」、どちらの方法が自分に適しているのかを判断するには、いくつかのポイントがあります。

ご自身の状態や目的を明確にすることが大切です。

薄毛の進行度合いによる判断

薄毛の進行度合いは、ケア方法を選ぶ上で重要な指標です。

抜け毛が増えてきた、髪が細くなってきたなど初期の段階であれば、育毛ケアで頭皮環境を整え、髪の健康を維持する取り組みから始めるのが良いでしょう。

一方、明らかに地肌が透けて見える、髪の量が減ったと感じるなど薄毛が進行しているときは、発毛治療を検討する必要があります。

期待する効果と目的の明確化

「これ以上薄毛を進行させたくない」「今ある髪を元気にしたい」という目的であれば、育毛が適しています。

一方、「失われた髪を取り戻したい」「髪の毛の本数を増やしたい」という明確な希望がある場合は、発毛治療が選択肢となります。

ご自身がどのような状態を目指すのかを具体的にイメージしてみましょう。

目的別の選択目安

目的主な方法期待される効果
抜け毛予防、現状維持育毛髪のハリ・コシ改善、頭皮環境改善
髪のボリュームアップ育毛/発毛(進行度により判断)髪の太さ改善、本数増加の可能性
失われた髪の再生発毛新しい髪の毛の成長

生活スタイルや予算との兼ね合い

育毛ケアは日々のセルフケアが中心となるため、比較的低コストで始められますが継続が大切です。

一方、発毛治療は医療機関で行うため費用がかかりますが、より積極的な効果が期待できます。

ご自身の生活スタイルや経済的な状況も考慮し、無理なく続けられる方法を選ぶことが、長期的な視点で見ると重要です。

専門医への相談の重要性

自己判断でケアを続けるよりも、まずは専門医に相談することをおすすめします。

医師は頭皮や毛髪の状態を正確に診断し、薄毛の原因を特定した上で適したアドバイスや治療法を提案します。

女性の薄毛治療を専門とするクリニックではきめ細やかなカウンセリングを行い、一人ひとりの悩みに寄り添ったサポートを提供してもらえます。

専門クリニックでの薄毛治療の流れ

多くの女性薄毛治療専門クリニックでは、患者さん一人ひとりの状態に合わせた丁寧な診療を心がけています。

安心して治療を始めるために、一般的な流れを確認しておきましょう。

初診カウンセリングの内容

まず、専門のカウンセラーや医師が髪の悩みや生活習慣、既往歴などを詳しく伺います。

どのようなことにお困りなのか、どのような状態を目指したいのかなど、遠慮なく話しましょう。

この段階で、治療に関する疑問や不安点を解消するのも大切です。

検査と診断

カウンセリングの内容を踏まえ、頭皮や毛髪の状態を詳細に検査します。

マイクロスコープを用いた頭皮チェックや、必要に応じて血液検査などを行い、薄毛の原因を特定します。

正確な診断が効果的な治療計画の第一歩となります。この検査結果は、患者さんにも分かりやすく説明します。

治療計画の立案と説明

診断結果に基づき、医師が個々の患者さんに合った治療計画を立案します。

治療方法や期待できる効果、治療期間や費用などについて、詳しく説明します。患者さんが十分に納得した上で治療を進めていきます。

治療計画立案のポイント

項目説明内容
治療法内服薬、外用薬、注入療法など具体的な方法
期間と頻度治療効果が現れるまでの目安、通院頻度
費用各治療にかかる費用、総額の目安

治療開始後のフォローアップ

治療を開始した後も定期的な診察を通じて、治療効果の確認や頭皮・毛髪の状態変化をチェックします。必要に応じて治療計画の見直しも行います。

治療中に生じた疑問や不安についても、電話やメール、LINEなどでいつでも相談できる体制を整えているクリニックを選ぶと安心です。

よくある質問

女性の育毛や発毛治療に関して、患者さんからよく寄せられるご質問とその回答をまとめました。

育毛剤と発毛剤は併用できますか?

育毛剤と発毛剤(特に医療用医薬品)の併用については、自己判断せず、必ず医師に相談してください。

成分によっては相互作用を起こす可能性や、頭皮への負担が大きくなる場合があります。

医師がそれぞれの製品の特性を理解した上で、併用が可能かどうか、また適切な使用方法を指示します。

治療に痛みはありますか?

頭皮への注入療法(メソセラピーなど)は、チクッとした軽い痛みを感じる場合がありますが、多くは麻酔クリームなどを使用して痛みを軽減できます。

痛みに不安があるときは、事前に医師やスタッフに伝えておきましょう。痛みに配慮した治療を行ってもらえます。

治療効果はいつから実感できますか?

治療効果を実感できるまでの期間には個人差がありますが、一般的には3ヶ月から6ヶ月程度で変化を感じ始める方が多いです。

髪の毛には毛周期があるため、治療を開始してすぐに劇的な変化が現れるわけではありません。

早く効果を実感したい気持ちもあるかと思いますが、焦らず医師の指示に従って治療を継続していきましょう。

治療をやめると元に戻りますか?

薄毛の原因や進行度合い、行っていた治療内容によって異なります。

例えば、AGA(男性型脱毛症)やFAGA(女性男性型脱毛症)のように進行性の脱毛症の場合、治療を完全に中止すると再び薄毛が進行する可能性があります。

そのためある程度の改善が見られた後も、維持療法として治療を継続したり、徐々に治療の頻度を減らしたりといった取り組みを医師と相談しながら進めるのが一般的です。

治療をやめたいと思ったときも自己判断で中断せず、医師の指示に従いましょう。

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この記事を書いた人

Dr.前田祐助のアバター Dr.前田祐助 AGAメディカルケアクリニック 統括院長

経歴
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年AGAメディカルケアクリニック新宿院を開設

資格
医師免許
⽇本医師会認定産業医
医学博士

所属学会
日本内科学会
日本美容皮膚科学会
日本臨床毛髪学会

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