「最近、髪のボリュームが減ってきた」「分け目が目立つようになった」など、薄毛に関する悩みは、多くの女性が抱えるデリケートな問題です。
薄毛は男性の悩みという印象が強いかもしれませんが、女性の薄毛は決して珍しいことではありません。
そして、その原因は一つではなく、生活習慣やホルモンバランスの変化、特定の疾患など、非常に多岐にわたります。
ご自身の髪の状態を正しく理解し、適切な一歩を踏み出すためには、まずどのような種類の脱毛症があるのかを知ることが大切です。
この記事では、女性に見られる様々な薄毛の種類とその概要を詳しく解説します。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
女性の薄毛は多様です
女性の薄毛と一言でいっても、その原因や症状の現れ方は様々です。髪全体が薄くなるもの、部分的に抜けるもの、頭皮のトラブルを伴うものなど、その背景は多岐にわたります。
ここでは、女性に見られる代表的な脱毛症を一つひとつ取り上げ、それぞれの特徴や考えられる原因について掘り下げていきます。
ご自身の状態と照らし合わせながら読み進めることで、悩みの原因を特定する手がかりが見つかるかもしれません。正しい知識は、不安を和らげ、適切なケアや治療を選択するための第一歩となります。
FAGA(女性男性型脱毛症) | 老人(加齢)性脱毛症 | 分娩後脱毛症(産後脱毛症) |
びまん性脱毛症 | 慢性休止期脱毛症 | 円形脱毛症 |
牽引(けんいん)性脱毛症 | 粃糠(ひこう)性脱毛症 | 脂漏(しろう)性脱毛症 |
成長期脱毛症(抗がん剤の副作用) | 薬剤性脱毛症(抗がん剤以外) | 慢性甲状腺炎に伴う脱毛症 |
鉄欠乏性貧血に伴う脱毛症 | 膠原病に伴う脱毛症 | 瘢痕(はんこん)性脱毛症 |
真菌性脱毛症・しらくも(頭部白癬) | 圧迫性脱毛症 | 脂腺母斑による脱毛症 |
FAGA(女性男性型脱毛症)
FAGAは「Female Androgenetic Alopecia」の略で、女性男性型脱毛症とも呼ばれます。成人女性に見られる脱毛症の中で代表的なものの一つであり、特に頭頂部や前頭部の髪が薄くなるという特徴があります。
男性のAGA(男性型脱毛症)とは症状の現れ方が異なりますが、男性ホルモンが関与している点で共通しています。
FAGAの主な原因
FAGAの主な原因は、女性ホルモンである「エストロゲン」の減少と、男性ホルモンである「アンドロゲン」の相対的な影響力の増加にあります。
特に更年期を迎えるとエストロゲンの分泌が急激に減少し、FAGAを発症しやすくなります。
男性ホルモンが毛乳頭細胞にある受容体と結合することで、ヘアサイクル(毛周期)が乱れ、髪の毛が十分に成長する前に抜け落ちてしまうのです。
その結果、細く短い毛が増え、地肌が透けて見えるようになります。
FAGAの進行パターン
FAGAは、男性のAGAのように生え際が後退するのではなく、頭頂部の分け目を中心に薄くなる「クリスマスツリーパターン」と呼ばれる特徴的な広がり方を示すことが多いです。
分け目部分の地肌が透けて見えるようになり、それが徐々に広範囲に及んでいきます。進行は比較的緩やかですが、放置すると薄毛が目立つようになるため、早期の対応が重要です。
FAGAの進行度と主な症状
進行度の目安 | 主な症状 | セルフチェックのポイント |
---|---|---|
初期 | 分け目が少し目立つ | 髪にハリやコシがなくなったと感じる |
中期 | 頭頂部の地肌が明らかに透けて見える | 髪全体のボリュームダウンが気になる |
後期 | 頭頂部全体の毛髪が著しく減少する | ウィッグなどが必要と感じるレベル |
老人(加齢)性脱毛症
加齢性脱毛症、または老人性脱毛症は、年齢を重ねることによって誰にでも起こりうる自然な生理現象です。特定の疾患が原因ではなく、老化によって髪を生み出す機能全体が低下することで生じます。
髪の毛一本一本が細くなり、全体のボリュームが減少するのが特徴です。
加齢による髪の変化
年齢とともに、髪の毛を作り出す毛母細胞の働きが衰えていきます。また、ヘアサイクルが乱れ、髪の毛が太く長く成長する「成長期」が短縮し、毛根が休んでいる「休止期」の割合が増加します。
この変化によって、新しく生えてくる髪が細く弱々しくなったり、抜け毛が増えたりします。さらに、頭皮の血行不良や乾燥も、健康な髪の育成を妨げる一因となります。
加齢性脱毛症の主な特徴
項目 | 特徴 | 説明 |
---|---|---|
症状 | びまん性(全体的)に薄くなる | 特定の部分だけでなく、頭部全体の髪が細く、少なくなる。 |
進行 | 緩やかに進行する | 数年単位でゆっくりとボリュームが失われていく。 |
併発症状 | 白髪の増加 | メラノサイトの機能低下により、髪の色素も失われやすい。 |
分娩後脱毛症(産後脱毛症)
出産を経験した多くの女性が直面するのが、分娩後脱毛症です。産後数ヶ月で急に抜け毛が増えるため驚く方も多いですが、これは一時的な生理現象であり、多くの場合、時間とともに自然に回復します。
産後に抜け毛が増える理由
妊娠中は、女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンの分泌量が非常に高いレベルで維持されます。これらのホルモンには、髪の成長期を維持する働きがあります。
しかし、出産を終えるとホルモンバランスは急激に妊娠前の状態に戻ります。その影響で、妊娠中に抜けずに成長を続けていた多くの髪が一斉に休止期に入り、産後2か月から6か月頃にまとめて抜け落ちるのです。
分娩後脱毛症との付き合い方
通常、産後半年から1年程度でヘアサイクルは正常に戻り、抜け毛も落ち着きます。この時期は、育児によるストレスや睡眠不足、栄養の偏りなども重なりやすいため、心身のケアが大切です。
バランスの取れた食事や十分な休息を心がけ、過度に心配しすぎないことが、健やかな回復への近道です。
分娩後脱毛症の一般的な経過
時期 | 状態 | ワンポイントアドバイス |
---|---|---|
産後2-6か月 | 抜け毛がピークになる | 排水溝の抜け毛に驚かず、一時的なものと理解する |
産後6か月-1年 | 抜け毛が減少し、新しい毛が生え始める | 栄養バランスの良い食事を心がける |
産後1年以降 | 多くの場合、元の毛量に回復する | 回復が見られない場合は他の原因も考える |
びまん性脱毛症
びまん性脱毛症は、特定の部位だけでなく頭部全体の髪の毛が均等に薄くなる状態を指し、女性の薄毛の悩みの中で最も多いタイプの一つです。
FAGAのように原因がある程度特定されているものとは異なり、様々な要因が複合的に絡み合って発症すると考えられています。
びまん性脱毛症の多様な原因
この脱毛症の原因は一つに限定できません。
過度なストレス、栄養不足(特に鉄分や亜鉛、タンパク質)、睡眠不足といった生活習慣の乱れ、間違ったヘアケア、加齢、経口避妊薬(ピル)の服用や中止などが引き金となることがあります。
これらの要因がヘアサイクルを乱し、毛母細胞の働きを低下させることで、髪が全体的に細く、弱くなってしまいます。
主な原因となりうる要因
- 精神的・身体的ストレス
- 極端なダイエットによる栄養失調
- 睡眠不足
- 不適切なヘアケア製品の使用
びまん性脱毛症と他の脱毛症との比較
脱毛症の種類 | 薄くなる範囲 | 主な原因 |
---|---|---|
びまん性脱毛症 | 頭部全体 | ストレス、栄養不足、加齢など複合的 |
FAGA | 頭頂部・分け目 | ホルモンバランスの変化 |
円形脱毛症 | 部分的(円形・類円形) | 自己免疫疾患 |
慢性休止期脱毛症
慢性休止期脱毛症は、明確な原因がないにもかかわらず、長期間(6か月以上)にわたって抜け毛が続く状態を指します。
びまん性脱毛症と症状が似ていますが、より長期にわたって脱毛が続く点が特徴です。診断が難しく、他の脱毛症との鑑別が重要になります。
休止期脱毛とは
私たちの髪にはヘアサイクルがあり、通常、髪全体の約10%が休止期にあたります。
休止期脱毛症は、何らかのきっかけで多くの髪が一斉に休止期に入ってしまうことで、抜け毛が異常に増加する状態です。
急性の場合は原因(高熱、手術、精神的ショックなど)が特定しやすいですが、慢性化すると原因の特定が困難になります。
慢性休止期脱毛症の特徴
項目 | 特徴 | 補足 |
---|---|---|
期間 | 6か月以上続く脱毛 | 症状が良くなったり悪くなったりを繰り返すこともある |
症状 | 頭部全体のびまん性脱毛 | 毛髪密度は著しく低下しないことが多い |
診断 | 他の脱毛症を除外して診断 | 血液検査などで他の原因がないか確認する |
円形脱毛症
円形脱毛症は、突然、コインのような円形または楕円形の脱毛斑が発生する疾患です。一般的には10円玉サイズと表現されますが、大きさや数は様々で、頭部全体や眉毛、まつ毛など体毛に及ぶこともあります。
一般的にストレスが原因と考えられがちですが、現在は自己免疫疾患の一つとされています。
円形脱毛症の背景
自己免疫疾患とは、本来、体を守るはずの免疫システムに異常が生じ、自身の正常な細胞や組織を攻撃してしまう状態を指します。
円形脱毛症の場合、Tリンパ球という免疫細胞が成長期の毛根を異物と誤認して攻撃し、毛根にダメージを与えることで脱毛が引き起こされます。
アトピー性皮膚炎や甲状腺疾患など、他の自己免疫疾患を合併することもあります。
円形脱毛症の主な種類
種類 | 症状 | 特徴 |
---|---|---|
単発型 | 脱毛斑が1か所のみ | 最も多いタイプで、自然に治癒することも多い |
多発型 | 脱毛斑が2か所以上ある | 脱毛斑が融合して大きくなることがある |
全頭型 | 頭部全体の髪が抜ける | 治療が長期にわたる場合がある |
牽引(けんいん)性脱毛症
牽引性脱毛症は、物理的な力が原因で起こる脱毛症です。
毎日同じ髪型で髪の毛を強く引っ張り続けることで、毛根に持続的な負担がかかり、血行不良や毛根の弱りを引き起こして髪が抜けてしまいます。
原因となるヘアスタイル
ポニーテールやきつく結んだお団子ヘア、編み込み(コーンロウやブレイズ)、いつも同じ位置での分け目、重いエクステンションなどが主な原因となります。
これらの髪型は、生え際や分け目など、特定の部位の毛根に集中的に張力をかけてしまいます。
長期間にわたってこの状態が続くと、毛根がダメージを受け、その部分の髪が細くなったり、抜け落ちたりします。
牽引性脱毛症の予防と対策
- 髪型を定期的に変える
- 髪をきつく結びすぎない
- 就寝時は髪をほどく
- 頭皮マッサージで血行を促す
リスクの高いヘアスタイルと対策
ヘアスタイル | 負担がかかる部位 | 対策 |
---|---|---|
ポニーテール | 生え際、こめかみ | 結ぶ位置を変える、シュシュなど緩いものを使う |
固定した分け目 | 分け目部分 | 定期的に分け目を変える |
ヘアエクステ | エクステを付けている根本 | 長期間付けっぱなしにしない、休息期間を設ける |
粃糠(ひこう)性脱毛症
粃糠性脱毛症は、乾燥した細かいフケ(粃糠状フケ)が大量に発生し、それが毛穴を塞ぐことで頭皮環境が悪化し、炎症や抜け毛を引き起こす脱毛症です。
頭皮の乾燥が主な原因とされています。
頭皮環境の悪化が招く脱毛
洗浄力の強すぎるシャンプーの使用、頻繁な洗髪、アレルギーなどが原因で頭皮の皮脂が過剰に奪われると、頭皮は乾燥し、角質が剥がれやすくなってフケが発生します。
このフケが毛穴に詰まると、皮脂の排出が妨げられ、毛根周辺で炎症(毛嚢炎)が起こります。この炎症が毛母細胞の働きを阻害し、健康な髪の成長を妨げ、結果として脱毛につながります。
粃糠性脱毛症のケアポイント
ポイント | 具体的な方法 | 注意点 |
---|---|---|
保湿ケア | 頭皮用のローションやオイルで保湿する | 油分の多い製品は毛穴詰まりを悪化させる可能性も |
シャンプーの見直し | アミノ酸系など低刺激性のシャンプーを選ぶ | 爪を立てず、指の腹で優しく洗う |
生活習慣の改善 | バランスの良い食事、十分な睡眠 | ビタミンB群は皮膚の健康維持に役立つ |
脂漏(しろう)性脱毛症
脂漏性脱毛症は、皮脂の過剰な分泌によって引き起こされる脱毛症です。
過剰な皮脂が頭皮の常在菌であるマラセチア菌を異常増殖させ、その代謝物が頭皮に刺激を与えて炎症(脂漏性皮膚炎)を引き起こします。この炎症が原因で抜け毛が増加します。
皮脂の過剰分泌とマラセチア菌
皮脂の分泌が多くなる原因には、ホルモンバランスの乱れ、脂質や糖質の多い食事、ビタミンB群の不足、ストレス、不適切なヘアケアなどがあります。
ベタついた、湿り気のあるフケやかゆみ、赤みなどが特徴的な症状です。頭皮環境が悪化することでヘアサイクルが乱れ、髪が十分に育つ前に抜けてしまいます。
脂漏性脱毛症の症状と特徴
- 湿った大きなフケ
- 強いかゆみや赤み
- 頭皮のベタつきや嫌な臭い
脂漏性脱毛症のセルフケア
項目 | 対策 | 説明 |
---|---|---|
食生活 | 脂っこいもの、甘いものを控える | 皮脂の分泌をコントロールするため |
洗髪 | 抗真菌成分配合のシャンプーを使用する | マラセチア菌の増殖を抑えるため |
生活習慣 | ストレスを溜めず、規則正しい生活を送る | ホルモンバランスを整えるため |
成長期脱毛症(抗がん剤の副作用)
成長期脱毛症は、薬剤の影響で、ヘアサイクルの成長期にある毛髪が一斉に抜けてしまう状態です。最も代表的な原因は、がん治療で用いられる抗がん剤の副作用です。
抗がん剤が髪に与える影響
抗がん剤は、分裂が活発ながん細胞を攻撃する薬剤ですが、その作用はがん細胞だけでなく、分裂が活発な正常な細胞にも影響を及ぼします。
髪の毛を作り出す毛母細胞は、体の中でも特に細胞分裂が盛んなため、抗がん剤の影響を受けやすく、その機能が停止してしまいます。
この作用によって、治療開始後1週間から3週間ほどで、急激な脱毛が起こります。頭髪だけでなく、眉毛、まつ毛、体毛など全身の毛が抜けることがあります。
抗がん剤治療と脱毛の経過
時期 | 状態 | ケアのポイント |
---|---|---|
治療開始後1-3週 | 脱毛が始まる | 頭皮への刺激を避ける、ウィッグの準備 |
治療中 | 脱毛が進行し、ほとんどの髪が抜ける | 頭皮の保湿と保護(帽子やケアキャップ) |
治療終了後3-6か月 | 発毛が始まる | 生え始めの髪はデリケートなため優しく扱う |
薬剤性脱毛症(抗がん剤以外)
抗がん剤以外にも、様々な治療薬の副作用として脱毛が起こることがあります。これを薬剤性脱毛症と呼びます。原因となる薬剤は多岐にわたり、脱毛の程度や現れ方も異なります。
多くの場合、原因薬剤の服用を中止すれば回復しますが、自己判断での中断は危険なため、必ず医師に相談することが必要です。
脱毛を引き起こす可能性のある薬剤
脱毛の副作用がある薬剤は数多く存在します。例えば、一部の降圧剤、抗うつ薬、抗てんかん薬、高脂血症治療薬、抗凝固薬などが挙げられます。
これらの薬剤が、ヘアサイクルの成長期を短縮させたり、休止期へ移行させたりすることで脱毛を引き起こします。すべての服用者に脱毛が起こるわけではなく、個人差が大きいのが特徴です。
脱毛の副作用が報告されている主な薬剤群
薬剤の種類 | 主な用途 | 脱毛のタイプ |
---|---|---|
抗凝固薬(ワルファリンなど) | 血栓予防 | 休止期脱毛 |
高脂血症治療薬(一部) | コレステロール低下 | 休止期脱毛 |
降圧剤(β遮断薬など) | 高血圧治療 | 休止期脱毛 |
慢性甲状腺炎に伴う脱毛症
甲状腺は、のどぼとけの下にある蝶のような形をした臓器で、体の新陳代謝を活発にする甲状腺ホルモンを分泌しています。
この甲状腺の機能に異常が生じると、髪の毛にも影響が及び、脱毛症を引き起こすことがあります。代表的な疾患が、橋本病(慢性甲状腺炎)です。
甲状腺ホルモンと髪の関係
橋本病などにより甲状腺ホルモンの分泌が低下すると(甲状腺機能低下症)、全身の代謝が悪くなります。毛母細胞の活動も例外ではなく、細胞分裂が不活発になり、ヘアサイクルが乱れてしまいます。
その結果、髪の成長が妨げられ、びまん性の脱毛や、髪質の変化(パサつき、もろくなるなど)が見られます。脱毛のほか、無気力、倦怠感、むくみ、冷えなどの全身症状を伴うことも多いです。
甲状腺機能低下による症状
症状の分類 | 具体的な症状 | 髪への影響 |
---|---|---|
全身症状 | 倦怠感、体重増加、むくみ | 間接的に栄養供給を妨げる |
皮膚症状 | 皮膚の乾燥、発汗の減少 | 頭皮環境の悪化 |
毛髪症状 | びまん性脱毛、眉の外側1/3が薄くなる | 直接的な脱毛原因となる |
鉄欠乏性貧血に伴う脱毛症
鉄欠乏性貧血は、血液中のヘモグロビンが不足し、全身に十分な酸素を運べなくなる状態です。女性は月経や妊娠・出産で鉄分を失いやすいため、特に注意が必要です。
この鉄分の不足が、抜け毛や薄毛の大きな原因となることがあります。
鉄分と髪の健康
髪の毛は、毛母細胞が細胞分裂を繰り返すことで成長します。この細胞分裂には多くのエネルギーと栄養素、そして酸素が必要です。
鉄分は、赤血球のヘモグロビンの主成分として、全身に酸素を運ぶ重要な役割を担っています。鉄分が不足すると、頭皮の毛母細胞に届く酸素の量が減少し、細胞の活動が低下します。
その結果、健康な髪が作られなくなり、細く弱い髪が増え、抜け毛につながるのです。
鉄分を多く含む食品
- レバー
- 赤身の肉
- あさり
- ほうれん草
- 小松菜
貧血と脱毛の関係
鉄分の役割 | 不足した場合の影響 | 対策 |
---|---|---|
酸素の運搬 | 毛母細胞への酸素供給が低下 | 鉄分豊富な食事 |
エネルギー産生 | 細胞分裂のエネルギー不足 | ビタミンCと一緒に摂取(吸収率UP) |
コラーゲン生成 | 頭皮の健康維持に影響 | バランスの取れた食生活 |
膠原病に伴う脱毛症
膠原病は、全身の結合組織や血管に炎症や障害が起こる自己免疫疾患の総称です。皮膚、関節、内臓など様々な場所に症状が現れ、その一つとして脱毛が見られることがあります。
代表的な疾患に、全身性エリテマトーデス(SLE)や皮膚筋炎などがあります。
自己免疫と脱毛
膠原病による脱毛は、疾患そのものが毛包に影響を与える場合と、治療薬の副作用として起こる場合があります。
例えば、全身性エリテマトーデスでは、免疫異常によって毛包が攻撃されたり、頭皮の血流が悪化したりすることで脱毛が起こります。円形脱毛症を合併することもあります。
脱毛は、疾患の活動性が高い時期に顕著になる傾向があります。
脱毛が見られる主な膠原病
疾患名 | 脱毛の特徴 | その他の主な症状 |
---|---|---|
全身性エリテマトーデス(SLE) | びまん性脱毛、円形脱毛、前頭部の特徴的な脱毛 | 蝶形紅斑(顔の発疹)、関節痛、発熱 |
皮膚筋炎 | 頭皮の赤み(ヘリオトロープ疹)に伴う脱毛 | まぶたの腫れ、筋力低下 |
全身性強皮症 | 皮膚の硬化に伴う脱毛 | レイノー現象(指先が白くなる)、皮膚硬化 |
瘢痕(はんこん)性脱毛症
瘢痕性脱毛症は、何らかの原因で毛包(毛根を包む組織)が破壊され、その部分が瘢痕組織(はんこんそしき)に置き換わってしまうことで、永久的に髪が生えてこなくなる脱毛症です。
毛包自体が消失してしまうため、一度発症するとその部分からの発毛は期待できません。
毛包が破壊される原因
原因は様々で、やけどや外傷、手術の傷跡などが代表的です。また、毛孔性扁平苔癬(もうこうせいへんぺいたいせん)や円板状エリテマトーデスといった特定の皮膚疾患が原因で、毛包が炎症によって破壊されることもあります。
初期段階ではかゆみや赤み、フケなどを伴うことがあり、早期に炎症を抑える治療を行うことが、脱毛範囲の拡大を防ぐ上で重要です。
瘢痕性脱毛症の主な原因
分類 | 具体的な原因 | 特徴 |
---|---|---|
物理的な要因 | やけど、怪我、放射線治療 | 原因となった事象が明確 |
皮膚疾患 | 毛孔性扁平苔癬、円板状エリテマトーデス | 炎症を伴い、徐々に進行することがある |
細菌・真菌感染 | 重度の毛嚢炎、白癬 | 感染による組織破壊が原因 |
真菌性脱毛症・しらくも(頭部白癬)sirakumo1
しらくもは、正式には頭部白癬(とうぶはくせん)といい、白癬菌という真菌(カビの一種)が頭皮に感染して起こる脱毛症です。特に子どもに多く見られますが、大人でも発症します。
感染力が強く、人から人へ、あるいはペットから人へとうつることがあります。
白癬菌の感染による脱毛
白癬菌が毛髪や毛穴に感染すると、その部分の髪の毛がもろくなり、地肌のすぐ上で切れやすくなります。そのため、脱毛したように見え、円形の脱毛斑を形成することが多いです。
頭皮には細かいフケやカサつき、軽い赤みが見られることもあります。診断には、患部の毛髪や角質を採取して顕微鏡で菌を確認する検査が必要です。治療には、抗真菌薬の内服や外用薬を用います。
頭部白癬のチェックポイント
項目 | 特徴 | 注意点 |
---|---|---|
見た目 | 円形の脱毛斑、灰色がかったフケ | 円形脱毛症と間違えやすい |
髪の状態 | 毛が途中で切れている(黒い点々に見える) | 抜けるのではなく、切れるのが特徴 |
感染経路 | タオルや帽子の共用、ペットとの接触 | 家族内での感染に注意が必要 |
圧迫性脱毛症
圧迫性脱毛症は、頭皮が長時間にわたって圧迫され続けることで血行が悪くなり、毛根に十分な栄養や酸素が届かなくなることで生じる脱毛症です。
物理的な圧力が原因であるため、特定の状況下で起こりやすいのが特徴です。
長時間の圧迫が招く血行不良
例えば、長時間の全身麻酔を伴う手術で、同じ体勢で寝続けていた場合に後頭部に脱毛が起こることがあります。
また、寝たきりの状態で長期間過ごしている高齢者や、仕事で常にヘルメットや帽子をきつくかぶっている人にも見られることがあります。
原因となる圧迫がなくなれば、血流が回復し、多くの場合、髪は再び生えてきます。
圧迫性脱毛症が起こりやすい状況
状況 | 圧迫される部位 | 対象者 |
---|---|---|
長時間の手術 | 後頭部 | 手術を受ける患者 |
寝たきり | 後頭部、側頭部 | 長期療養中の患者、高齢者 |
ヘルメットの常用 | ヘルメットが当たる部分 | 建設作業員、オートバイ運転手など |
脂腺母斑(しせんぼはん)による脱毛症
脂腺母斑は、生まれつき、あるいは幼少期に現れる皮膚のアザ(母斑)の一種です。
皮脂腺が異常に増殖してできた良性の腫瘍で、その部分の皮膚は正常な構造ではないため、毛包が存在せず、髪の毛が生えてきません。
生まれつきの脱毛斑
脂腺母斑は、頭部や顔によく見られます。出生時は平らで少し黄色みを帯びた局面ですが、思春期になるとホルモンの影響で盛り上がり、表面がゴツゴツしてくることがあります。
母斑のある部分には髪が生えないため、脱毛斑として認識されます。
ごく稀に、成人期以降に母斑から別の腫瘍が発生する可能性があるため、定期的な経過観察や、場合によっては切除手術を検討することもあります。
脂腺母斑の年代別変化
年代 | 見た目の特徴 | 注意点 |
---|---|---|
乳幼児期 | 境界明瞭な黄色味を帯びた平らな局面 | 毛髪が生えていないことで気づかれる |
思春期以降 | 表面が凹凸になり、イボ状に隆起する | ホルモンの影響で変化する |
成人期 | 大きさに変化は少ないが、腫瘍発生のリスク | 変化がないか定期的に観察する |
よくある質問
この記事で様々な薄毛の種類についてご理解いただけたかと思います。しかし、「自分の場合はどれに当てはまるのだろう?」と、より具体的な不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。
抜け毛の量、髪質の変化、頭皮のかゆみや赤みなど、ご自身の状態を客観的に見つめ直すことが、解決への第一歩です。
次の記事では、ご自宅で簡単にできる具体的なセルフチェックの方法や、注意すべき初期症状について詳しく解説しています。
薄毛(女性)の症状とセルフチェック
早期発見と適切な対策のために、ぜひご自身の状態を確認してみてください。
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