「最近、抜け毛が増えた気がする」「髪のボリュームが減ってきたかもしれない」と感じていませんか。
女性の薄毛や脱毛症には、生活習慣の乱れやホルモンバランスの変化、特定の疾患など、さまざまな要因が関係しています。ひとくちに薄毛といっても、その症状や現れ方は一様ではありません。
この記事では、女性に見られる代表的な18種類の脱毛症について、それぞれの症状の特徴やご自身でできるセルフチェックの方法を詳しく解説します。
ご自身の状態を正しく把握し、今後の対策を考えるための第一歩としてお役立てください。
FAGA(女性男性型脱毛症) | 老人(加齢)性脱毛症 | 分娩後脱毛症(産後脱毛症) |
びまん性脱毛症 | 慢性休止期脱毛症 | 円形脱毛症 |
牽引(けんいん)性脱毛症 | 粃糠(ひこう)性脱毛症 | 脂漏(しろう)性脱毛症 |
成長期脱毛症(抗がん剤の副作用) | 薬剤性脱毛症(抗がん剤以外) | 慢性甲状腺炎に伴う脱毛症 |
鉄欠乏性貧血に伴う脱毛症 | 膠原病に伴う脱毛症 | 瘢痕(はんこん)性脱毛症 |
真菌性脱毛症・しらくも(頭部白癬) | 圧迫性脱毛症 | 脂腺母斑による脱毛症 |
FAGA(女性男性型脱毛症)
FAGAは、女性の薄毛で最も多く見られる症状の一つです。
男性のAGA(男性型脱毛症)とは異なり、生え際が後退するのではなく、頭頂部を中心に髪が全体的に薄くなる「びまん性」の脱毛が特徴です。
特に、頭のてっぺんにある分け目が目立つようになります。進行は緩やかですが、放置すると薄毛が広がることがあります。早期発見と適切な対応が重要です。
主な症状
FAGAの症状は、ゆっくりと時間をかけて現れます。初期段階では気づきにくいことも多いため、日頃から髪の状態を意識することが大切です。
分け目が目立つ
最も分かりやすい兆候は、分け目部分の地肌が透けて見えるようになることです。以前よりも分け目がくっきりと、あるいは太く見えるようになったと感じたら注意が必要です。
鏡で頭頂部を確認する習慣をつけましょう。
髪のハリ・コシの低下
髪の毛一本一本が細く、弱々しくなるのもFAGAの特徴です。髪全体のボリュームが減り、スタイリングがしにくくなったり、ペタッとした印象になったりします。
髪を触ったときの感触が以前と違うと感じるかもしれません。
セルフチェックのポイント
ご自身の髪の状態を客観的に把握するために、以下の点を定期的にチェックしてみましょう。
抜け毛の本数と質の変化
シャンプーやブラッシングの際の抜け毛を観察します。1日の抜け毛の正常範囲は50本から100本程度ですが、これを大幅に超える状態が続く場合は注意が必要です。
また、抜けた毛が細く短い「軟毛」の割合が増えていないかも確認しましょう。
FAGAの症状進行パターン
進行段階 | 主な症状 | セルフチェックの目安 |
---|---|---|
初期 | 分け目が少し目立つ、髪のハリが減る | 以前の写真と比べると分け目がやや広い気がする |
中期 | 頭頂部の地肌がはっきり見える | スタイリングで地肌を隠しにくくなる |
後期 | 頭頂部全体のボリュームが著しく減少する | 誰が見ても薄毛と分かる状態 |

老人(加齢)性脱毛症
加齢性脱毛症は、年齢を重ねることで自然に起こる生理現象の一つです。
髪の成長サイクル(毛周期)が乱れ、髪を生み出す毛母細胞の働きが衰えることで、髪が細くなったり、抜けやすくなったりします。
特定の部位だけではなく、頭部全体の髪が均一に薄くなるのが特徴です。
症状の特徴
急激に進行するわけではなく、数年から数十年かけてゆっくりと変化が現れます。白髪の増加と同時に進行することが多いです。
髪全体のボリュームダウン
頭部全体で髪の密度が低下し、ボリュームが失われます。FAGAのように特定の部位が際立って薄くなるのではなく、全体的に寂しい印象になります。
髪質の変化
髪が細くなるだけでなく、乾燥してパサついたり、うねりが出やすくなったりします。ツヤが失われ、まとまりにくい髪質に変わっていくこともあります。
セルフチェックの方法
加齢による変化か、他の原因によるものかを見極めるために、以下の点を確認します。
過去との比較
5年前、10年前の写真と現在の髪の状態を比較してみましょう。全体的にボリュームが減っているか、髪の生え際の位置に変化はないかなどを客観的に評価します。
加齢による髪の変化チェックリスト
チェック項目 | 変化の傾向 | 考えられる状態 |
---|---|---|
髪の太さ | 全体的に細くなった | 加齢による毛周期の変化の可能性 |
髪の密度 | 頭部全体でまばらになった | 毛母細胞の機能低下の可能性 |
白髪の割合 | 明らかに増えた | メラノサイトの機能低下(自然な加齢現象) |

分娩後脱毛症(産後脱毛症)
出産を経験した多くの女性が直面する一時的な脱毛症です。妊娠中は女性ホルモンの分泌量が増加し、髪の成長期が通常より長く維持されます。
しかし、出産後にホルモンバランスが急激に妊娠前の状態に戻ることで、成長期を終えた髪が一斉に休止期に入り、まとめて抜け落ちます。これは生理的な現象であり、病気ではありません。
症状の現れ方
通常、産後2〜3ヶ月頃から抜け毛が目立ち始め、半年から1年程度で自然に回復することがほとんどです。
しかし、育児のストレスや睡眠不足、栄養の偏りなどが回復を遅らせる要因になることもあります。
前頭部や生え際の抜け毛
特に前髪やこめかみ周辺の抜け毛が多くなる傾向があります。
シャンプーやブラッシングの際に、ごっそりと髪が抜けるため不安を感じる方が多いですが、一時的なものであることを理解しておくことが大切です。
セルフチェックと心の準備
分娩後脱毛症は多くの人が経験するものです。過度に心配せず、体の自然な変化として受け止めることが重要です。
産後の抜け毛セルフケア
観点 | チェックポイント | 対策のヒント |
---|---|---|
時期 | 産後2〜6ヶ月頃に抜け毛がピークか | 時期的なものと理解し、焦らない |
抜け方 | 頭部全体から均等に抜けているか | バランスの取れた食事を心がける |
回復の兆し | 短い新しい毛(産毛)が生えてきているか | 十分な睡眠を確保するよう努める |
もし1年以上経っても抜け毛が改善しない、あるいは円形に脱毛するなど他の症状が見られる場合は、別の原因が考えられるため専門医に相談しましょう。

びまん性脱毛症
びまん性脱毛症は、特定の部位ではなく頭部全体の髪が均等に薄くなる状態を指す言葉です。
FAGAや老人性脱毛症も広義にはびまん性脱毛症に含まれますが、ここでは特に原因が明確でない、あるいは複数の要因が絡み合って生じる広範な薄毛を指します。
ストレス、栄養不足、誤ったヘアケアなどが引き金となることがあります。
症状と特徴
明確な境界線がなく、全体的に髪の密度が低下するため、初期段階では本人も気づきにくいことがあります。「なんとなく髪が減った」という感覚から始まります。
全体的なボリュームの減少
髪の分け目だけでなく、側頭部や後頭部も含めて全体的に地肌が透けて見えるようになります。髪を束ねたときに、以前よりも毛束が細くなったと感じることで自覚するケースもあります。
セルフチェックのポイント
生活習慣を見直すことが、びまん性脱毛症のセルフチェックにつながります。
生活習慣チェックリスト
- 最近、強いストレスを感じる出来事があったか
- 睡眠時間は十分に取れているか(6時間以上が目安)
- 食事は1日3食、バランスよく摂れているか
- 過度なダイエットをしていないか
- 頭皮に合わないヘアケア製品を使っていないか
びまん性脱毛症の危険因子
カテゴリ | 具体的な要因 | 髪への影響 |
---|---|---|
精神的要因 | 過度なストレス、悩み | 血行不良、ホルモンバランスの乱れ |
栄養的要因 | 極端なダイエット、偏食 | 髪の成長に必要な栄養素の不足 |
物理的要因 | 間違ったヘアケア、紫外線 | 頭皮環境の悪化、毛髪へのダメージ |

慢性休止期脱毛症
急性の休止期脱毛症(産後脱毛症など)とは異なり、原因がはっきりしないまま、長期間にわたって抜け毛が多い状態が続く脱毛症です。
毛周期における休止期の髪の割合が慢性的に増加し、全体の毛髪量が減少します。FAGAと症状が似ていますが、髪の軟毛化(細くなること)はそれほど顕著ではありません。
症状の特徴
数ヶ月から数年にわたり、1日の抜け毛が100本を超える状態が持続します。しかし、完全に髪がなくなることは少なく、全体的にボリュームが減った状態が続きます。
持続的な抜け毛
シャワーの排水溝や枕、部屋の床など、日常生活のあらゆる場面で抜け毛の多さが気になります。周期的な増減はあまりなく、常に「抜け毛が多い」と感じるのが特徴です。
セルフチェックの方法
抜け毛の状態を詳しく観察することが、セルフチェックの鍵となります。
抜け毛の観察
抜けた毛の毛根部分を確認してみましょう。休止期の正常な抜け毛は、毛根が棍棒のような形(棍毛)をしています。成長期の毛が抜ける場合は毛根の形が異なるため、一つの判断材料になります。
慢性休止期脱毛症の判断目安
チェック項目 | 状態 | 考えられること |
---|---|---|
抜け毛の期間 | 6ヶ月以上、常に多い状態が続く | 慢性休止期脱毛症の可能性 |
髪の太さ | 太さはあまり変わらないが本数が減る | FAGAとの違い(FAGAは軟毛化が顕著) |
抜け毛の毛根 | ほとんどが棍棒状(棍毛)である | 休止期に入った毛が抜けている証拠 |

円形脱毛症
円形や楕円形の脱毛斑が突然現れる疾患です。一般的に「ストレスが原因」というイメージが強いですが、実際には自己免疫疾患の一種と考えられています。
免疫機能に異常が生じ、成長期の毛根を異物と誤認して攻撃してしまうことで、髪が抜け落ちます。
症状の多様性
脱毛斑は1つだけの場合(単発型)から、複数できる場合(多発型)、頭部全体の髪が抜ける場合(全頭型)、さらには眉毛やまつ毛、体毛まで抜ける場合(汎発型)まで、症状はさまざまです。
アトピー性皮膚炎や甲状腺疾患などを合併することもあります。
境界明瞭な脱毛斑
脱毛部分とそうでない部分の境界がはっきりしているのが特徴です。脱毛斑の皮膚は、赤みやかゆみなどの炎症所見がないことがほとんどです。
感嘆符毛(かんたんふもう)
活動期の脱毛斑の辺縁部には、「感嘆符毛」と呼ばれる特徴的な毛が見られることがあります。これは、毛根に近づくにつれて毛が細くなり、途中で切れたように見える毛のことです。
セルフチェックのポイント
円形脱毛症は自分で見つけるのが難しい場合もあります。家族や美容師に指摘されて気づくことも少なくありません。
頭皮全体の触診
シャンプーの際などに、指の腹で頭皮全体を優しく触ってみましょう。つるっとした感触の箇所がないか、普段から確認する習慣が早期発見につながります。
円形脱毛症のタイプと症状
タイプ | 症状 | 注意点 |
---|---|---|
単発型 | 円形の脱毛斑が1つできる | 自然に治ることも多いが、拡大・増加する場合もある |
多発型 | 脱毛斑が2つ以上でき、融合して広がることも | 単発型より治りにくい傾向がある |
全頭・汎発型 | 頭髪全体や全身の毛が抜ける | 専門的な治療が必要 |

牽引(けんいん)性脱毛症
ポニーテールやきつい編み込みなど、特定の髪型を長時間続けることで、髪が引っ張られ続けて毛根に負担がかかり、生え際や分け目の髪が薄くなる脱毛症です。
物理的な力が継続的にかかることが原因で、ヘアスタイルを変えることで予防・改善が期待できます。
症状が現れやすい部位
髪を引っ張る方向によって、症状が出る場所が異なります。毎日同じ分け目にしていると、その分け目部分が薄くなることもあります。
生え際の薄毛
特にポニーテールやお団子ヘアをきつく結ぶ習慣がある方は、前頭部や側頭部の生え際から髪が後退するように薄くなることがあります。この部分の毛が細くなったり、切れ毛が増えたりします。
セルフチェックと予防
ご自身のヘアアレンジの習慣を振り返ることが、最も重要なセルフチェックです。
ヘアスタイルの見直し
- 毎日同じ髪型をしていないか
- 髪を強く結びすぎていないか(頭皮に痛みを感じるような結び方はNG)
- ヘアエクステンションを長期間使用していないか
牽引リスクのある髪型と対策
髪型 | リスクレベル | 対策 |
---|---|---|
きついポニーテール | 高 | 結ぶ位置を日によって変える、シュシュなど緩いものを使う |
編み込み・コーンロウ | 高 | 長期間続けない、定期的に髪を休ませる |
同じ分け目 | 中 | 分け目を定期的に変える(例:右分け→左分け→センター分け) |

粃糠(ひこう)性脱毛症
乾燥した細かいフケが大量に発生し、そのフケが毛穴を塞ぐことで頭皮に炎症が起こり、抜け毛を引き起こす脱毛症です。
頭皮の乾燥や、洗浄力の強すぎるシャンプーの使用、不規則な生活などが原因で頭皮のターンオーバーが乱れることが引き金となります。
症状の特徴
まずフケの増加がみられ、それに伴って頭皮のかゆみや赤み、そして抜け毛が起こります。進行すると、頭皮全体が乾燥し、髪の成長が妨げられます。
乾いたフケとかゆみ
肩や襟元にパラパラと落ちる、白く細かい乾性のフケが特徴です。頭皮全体が乾燥し、強いかゆみを伴うこともあります。
セルフチェックの方法
頭皮の状態を直接確認することが大切です。合わせ鏡を使ったり、家族に見てもらったりするとよいでしょう。
頭皮とフケの状態確認
黒い紙を肩に置いて頭を掻いてみて、どのくらいのフケが落ちるかを確認する方法も有効です。フケが非常に多い場合は注意が必要です。
また、頭皮が赤くなっていないか、炎症を起こしていないかもチェックします。
粃糠性脱毛症のチェックポイント
項目 | チェック内容 | 危険信号 |
---|---|---|
フケ | 白く、乾燥した細かいフケか | 肩にフケが積もるほど多い |
頭皮の色 | 健康な青白い色か | 赤みがかっている、部分的に炎症がある |
かゆみ | 我慢できないほどの強いかゆみがあるか | 四六時中かゆみを感じる |

脂漏(しろう)性脱毛症
粃糠性脱毛症とは対照的に、皮脂の過剰分泌が原因で起こる脱毛症です。過剰な皮脂が毛穴に詰まり、酸化することで炎症を引き起こします。
また、皮脂を栄養源とする常在菌「マラセチア菌」が異常増殖することも、炎症を悪化させる一因です。脂っこい食事の多い方や、ホルモンバランスが乱れがちな方に見られます。
症状と特徴
ベタついた湿ったフケ、頭皮の赤み、強いかゆみ、そして独特の臭いを伴うことがあります。炎症が長引くと、毛根がダメージを受けて抜け毛が増加します。
湿ったフケと頭皮のベタつき
髪がベタベタし、指で触ると脂っぽく感じます。フケは黄色っぽく、湿り気があって塊になりやすいのが特徴です。洗髪してもすぐに頭皮が脂っぽくなる感覚があります。
セルフチェックの方法
ご自身の頭皮の皮脂の状態と、生活習慣を振り返ってみましょう。
あぶらとり紙を使ったチェック
洗髪後、数時間経ってから頭皮の数カ所(頭頂部、側頭部など)にあぶらとり紙を押し当ててみましょう。紙に皮脂がべったりと付くようであれば、皮脂分泌が過剰な可能性があります。
脂漏性脱毛症の関連要因
カテゴリ | 具体的な内容 | セルフチェックの質問 |
---|---|---|
食生活 | 脂質や糖質の多い食事 | 揚げ物や甘いものを頻繁に食べていないか? |
生活習慣 | ストレス、睡眠不足、不適切な洗髪 | 洗髪は1日1回適切に行えているか? |
ホルモン | ホルモンバランスの乱れ | 生理不順などはないか? |

成長期脱毛症(抗がん剤の副作用)
がん治療で用いる抗がん剤(化学療法)の副作用として起こる脱毛症です。
抗がん剤は、分裂が活発ながん細胞を攻撃しますが、同様に細胞分裂が活発な毛母細胞も攻撃してしまうため、髪の成長が停止し、大量に抜け落ちます。
これは「成長期」にある髪が抜けるため、成長期脱毛症と呼ばれます。
症状の経過
通常、抗がん剤治療を開始してから2〜3週間後に脱毛が始まり、頭髪だけでなく、眉毛、まつ毛、体毛など全身の毛が抜けることがあります。
脱毛の程度は、使用する薬剤の種類や量によって異なります。
急激で広範な脱毛
短期間のうちに、ほとんどの髪が抜け落ちることが特徴です。
治療が終了すれば、通常は数ヶ月で再び髪が生え始めますが、生え始めの髪は以前と髪質が異なる(くせ毛になるなど)こともあります。
セルフチェックと心構え
これは治療の副作用として起こるものであり、ご自身のケアに問題があるわけではありません。治療前に医師や看護師から十分な説明を受け、心の準備をしておくことが大切です。
治療期間中の頭皮ケア
- 脱毛が始まる前から、刺激の少ないシャンプーを使用する
- 頭皮を清潔に保ち、保湿を心がける
- 外出時は帽子やウィッグ、スカーフなどで頭皮を保護する
抗がん剤治療と脱毛の目安
時期 | 状態 | 推奨されるケア |
---|---|---|
治療開始〜2週間 | 変化は少ないが、頭皮が敏感になることも | 低刺激シャンプーへの切り替え |
治療開始後2〜3週間 | 脱毛が本格的に始まる | ウィッグや帽子の準備、頭皮の保護 |
治療終了後2〜3ヶ月 | 発毛が始まる | 焦らず、優しく頭皮マッサージを行う |

薬剤性脱毛症(抗がん剤以外)
抗がん剤以外の特定の医薬品の副作用によって引き起こされる脱毛症です。原因となる薬剤は多岐にわたり、すべての服用者に症状が出るわけではありません。
薬の服用を開始してから数週間〜数ヶ月後に、抜け毛の増加として現れることが多いです。多くは休止期脱毛の形をとります。
原因となりうる薬剤
一部の降圧剤、抗うつ薬、インターフェロン製剤、高脂血症治療薬、抗てんかん薬などが報告されています。ただし、自己判断で薬の服用を中止するのは大変危険です。
必ず処方した医師に相談してください。
セルフチェックの方法
新しい薬を飲み始めてから抜け毛が増えたと感じた場合、薬剤性脱毛症の可能性があります。
服薬履歴の確認
「いつから」「どの薬を」飲み始めたのか、そして「いつから」抜け毛が気になりだしたのかを時系列で記録しておくと、医師に相談する際に役立ちます。お薬手帳を確認しましょう。
薬剤性脱毛症の確認ステップ
ステップ | 確認内容 | 行うこと |
---|---|---|
1. 自覚 | 最近抜け毛が増えたと感じる | 抜け毛の量を意識的に観察する |
2. 関連性の確認 | 抜け毛が増えた時期と、新しい薬の開始時期が近いか | お薬手帳や処方箋で服薬履歴を確認する |
3. 相談 | 関連性が疑われる | 自己判断で中止せず、必ず処方医に相談する |

慢性甲状腺炎に伴う脱毛症
慢性甲状腺炎(橋本病)など、甲状腺の機能に異常が生じる疾患に伴って起こる脱毛症です。甲状腺ホルモンは全身の新陳代謝を調節しており、毛母細胞の活動にも深く関わっています。
このホルモンの分泌が低下する「甲状腺機能低下症」では、髪の成長が滞り、びまん性の脱毛が見られます。
髪以外の症状
脱毛だけでなく、甲状腺機能低下症に特徴的な全身症状を伴うことが多く、それらが診断の手がかりとなります。
全身の不調
- 異常な疲労感、倦怠感
- 体重増加
- むくみ(特に顔や手足)
- 皮膚の乾燥
- 寒がりになる
- 便秘
セルフチェックのポイント
髪の変化と同時に、全身の体調変化に目を向けることが重要です。
甲状腺機能低下症の疑いチェック
項目 | 症状 | セルフチェック |
---|---|---|
髪 | 全体的に薄くなる、髪がパサつく | 眉毛の外側3分の1が薄くなっていないか? |
体調 | 疲れやすい、やる気が出ない | 以前と比べて活動量が落ちていないか? |
皮膚 | 乾燥してカサカサする | 冬でもないのに肌が乾燥していないか? |
これらの症状が複数当てはまる場合は、内科や内分泌内科の受診を検討しましょう。

鉄欠乏性貧血に伴う脱毛症
血液中の鉄分が不足し、全身に酸素を運ぶヘモグロビンが減少する「鉄欠乏性貧血」が原因で起こる脱毛症です。頭皮や毛母細胞も、髪を成長させるために十分な酸素と栄養を必要とします。
貧血によってこれらが不足すると、髪が細くなったり、抜けやすくなったりします。
貧血のサイン
脱毛のほかにも、貧血特有の症状が現れます。特に月経のある女性は鉄分を失いやすいため、注意が必要です。
主な全身症状
- めまい、立ちくらみ
- 動悸、息切れ
- 顔色が悪い、青白い
- 疲れやすい
- 爪がスプーンのように反り返る(スプーンネイル)
セルフチェックの方法
ご自身の体調や食生活を振り返り、貧血のサインがないか確認します。
まぶたの裏の色をチェック
下まぶたの裏側(あっかんべーをしたときに見える部分)の色を確認します。健康な状態では赤みがありますが、貧血の状態では白っぽく見えます。
鉄欠乏のリスク要因
要因 | 具体例 | セルフチェックの質問 |
---|---|---|
食事 | 過度なダイエット、偏食、インスタント食品中心 | 肉や魚、緑黄色野菜を十分に摂っているか? |
出血 | 月経過多、不正出血、消化管出血 | 生理の量が極端に多くないか? |
需要増大 | 妊娠、授乳期、成長期 | 該当する時期ではないか? |

膠原病に伴う脱毛症
膠原病は、本来自分を守るはずの免疫系が自身の体を攻撃してしまう自己免疫疾患の総称です。全身性エリテマトーデス(SLE)や皮膚筋炎などの膠原病では、その症状の一つとして脱毛が現れることがあります。
脱毛の仕方は原因となる疾患によって異なります。
代表的な膠原病と脱毛
脱毛を伴うことがある代表的な膠原病には、以下のようなものがあります。
全身性エリテマトーデス(SLE)
顔の蝶形紅斑(蝶が羽を広げたような形の赤い発疹)が有名ですが、頭皮にも円板状の発疹(ディスコイド疹)ができ、瘢痕性の脱毛につながることがあります。
また、活動期には全体的な脱毛が見られることもあります。
皮膚筋炎
まぶたが腫れぼったく紫色になる(ヘリオトロープ疹)や、手指の関節に赤い発疹(ゴットロン丘疹)が見られます。頭皮にも皮膚炎が起こり、かゆみを伴う脱毛が生じることがあります。
セルフチェックのポイント
脱毛だけでなく、皮膚や関節、全身の症状に注意を払うことが重要です。
膠原病を疑うサイン
部位 | チェックする症状 | 関連が疑われる疾患例 |
---|---|---|
皮膚 | 顔や手の特徴的な発疹、日光過敏 | 全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎 |
関節 | 朝のこわばり、関節の痛みや腫れ | 関節リウマチ |
全身 | 原因不明の発熱が続く、極度の倦怠感 | 多くの膠原病 |
これらの症状がある場合は、リウマチ科や膠原病内科などの専門医に相談することが必要です。

瘢痕(はんこん)性脱毛症
頭皮の毛包(毛を作り出す組織)が何らかの原因で破壊され、その部分が瘢痕組織(傷あと)に置き換わってしまうことで、髪が永久に生えてこなくなる脱毛症です。
原因としては、重度のやけどや外傷、頭皮の深い部分に及ぶ細菌感染、一部の皮膚疾患(毛孔性扁平苔癬など)が挙げられます。
症状の特徴
脱毛部分の頭皮は、ツルツルとして光沢を帯び、毛穴が見えなくなります。炎症を伴う場合は、赤みやかゆみ、痛みを感じることもあります。
セルフチェックのポイント
瘢痕性脱毛症のセルフチェックは、頭皮の状態を注意深く観察することから始まります。
脱毛部の頭皮観察
鏡を使って脱毛部分の頭皮をよく見てみましょう。正常な頭皮には見えるはずの毛穴が、その部分では確認できるでしょうか。皮膚が引きつれたり、硬くなったりしていないかも確認します。
瘢痕性脱毛症の原因と所見
主な原因 | 頭皮の状態 | 確認すべき既往歴 |
---|---|---|
外傷・やけど | 傷あとやケロイド状になっている | 過去に頭部に怪我ややけどをした経験 |
重度の感染症 | 膿が出たり、強い炎症を伴ったりする | 過去に頭皮のおでき(せつ、よう)を繰り返した経験 |
自己免疫疾患 | 赤み、鱗屑(フケのようなもの)、強いかゆみ | 原因不明の皮膚炎が頭皮にないか |

真菌性脱毛症・しらくも(頭部白癬)
白癬菌(はくせんきん)というカビ(真菌)の一種が頭皮に感染して起こる脱毛症です。一般的に「しらくも」とも呼ばれます。
格闘技選手など、人との接触が多いスポーツをする人や、ペットから感染するケースもあります。感染した部位は炎症を起こし、毛が抜けたり、切れやすくなったりします。
症状の現れ方
円形に脱毛し、その部分にフケやカサブタが見られることが多いです。毛が皮膚の表面でポツポツと折れて、黒い点のように見えることもあります。
セルフチェックと注意点
円形脱毛症と見た目が似ていることがあるため、自己判断は禁物です。感染症であるため、家族内でのタオルや帽子の共用は避けるべきです。
頭皮の観察
- 円形または不整形に毛が抜けている部分があるか
- その部分に細かいフケやカサブタが付着していないか
- 毛が根元からではなく、途中で切れていないか
- 軽いかゆみを伴うか
真菌性脱毛症のチェックポイント
項目 | しらくも(頭部白癬)の特徴 | 円形脱毛症との違い |
---|---|---|
表面の状態 | フケ、カサブタ、赤みを伴うことが多い | 表面は滑らかで正常な皮膚に見えることが多い |
残存毛 | 毛が途中で切れ、黒い点状に見える | 感嘆符毛が見られることがある |
かゆみ | 軽度のかゆみを伴うことがある | 通常、かゆみはない |

圧迫性脱毛症
頭皮の特定の部分が長時間にわたって圧迫され続けることで、その部分の血行が悪くなり、毛根に栄養が届かなくなって脱毛が起こる状態です。
例えば、長期間寝たきりの状態にある方の後頭部や、常に硬いヘッドホンを同じ位置で装着している場合などに見られます。
原因と症状
原因は持続的な物理的圧迫です。圧迫が取り除かれれば回復することが多いですが、長期間に及ぶと毛根がダメージを受け、回復しにくくなることもあります。
セルフチェックと対策
日常生活で頭皮に持続的な圧迫がかかっていないか振り返ることが大切です。
生活習慣の確認
寝たきりの家族がいる場合は、定期的に体位を変えて後頭部への圧迫を軽減するケアが必要です。
また、仕事などでヘルメットやヘッドセットを長時間使用する方は、時々外して頭皮をマッサージするなど、血行を促す工夫をしましょう。
圧迫の要因と対策
要因 | 該当する状況 | 対策 |
---|---|---|
寝たきり | 長期療養、介護が必要な状態 | 定期的な体位変換、クッションの使用 |
ヘルメット・帽子 | 長時間、毎日着用する職業 | サイズの合ったものを選ぶ、休憩時に外す |
ヘッドホン | コールセンター業務、音楽鑑賞など | 装着位置をずらす、イヤホンと使い分ける |

脂腺母斑による脱毛症
脂腺母斑(しせんぼはん)は、生まれつき、あるいは幼少期に現れる皮膚のアザ(母斑)の一種です。皮脂腺が異常に増殖してできており、頭部にできた場合は、その部分に髪の毛が生えません。
思春期になるとホルモンの影響で盛り上がり、イボ状になることがあります。
症状と経過
出生時には平らで黄みがかったアザとして存在し、その部分には毛髪がありません。年齢とともに褐色調になり、表面がゴツゴツと隆起してくるのが特徴です。
ごくまれにですが、成人後に良性または悪性の腫瘍が発生することがあるため、経過観察が重要です。
セルフチェックの方法
生まれつき髪の毛が生えない部分があるかどうか、で判断できます。
母斑の確認
頭皮に、境界がはっきりした毛の生えない領域があるか確認します。幼少期の写真などを見て、いつから存在するものかを確認するのも良いでしょう。
脂腺母斑の経過と注意点
年代 | 主な状態 | 注意すべき変化 |
---|---|---|
乳幼児期 | 平らで黄色っぽい脱毛斑 | ほとんど変化なし |
思春期以降 | 表面が隆起し、ゴツゴツしてくる | 大きさや色の急激な変化 |
成人期 | 安定していることが多い | 急に大きくなる、出血する、潰瘍ができる |
もし母斑に気になる変化が見られた場合は、皮膚科専門医に相談しましょう。

よくある質問
この記事では、さまざまな脱毛症の症状とセルフチェックの方法に焦点を当てて解説しました。ご自身の状態について、ある程度の見当がついたかもしれません。
しかし、なぜそのような症状が起きているのか、その根本的な原因を特定し、ご自身の状態に合った適切な対策を立てるためには、さらに深い知識が必要です。
次のステップとして、薄毛を引き起こす多様な原因や、クリニックでどのような専門的な検査を行うのかを解説した記事をご用意しています。
より詳しく知りたい方は、こちらの記事「薄毛の原因と検査法 」をご覧ください。
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