お風呂場の排水溝や枕についた抜け毛を見て、「最近、抜け毛が多いかも…」と不安に感じている方も多いのではないでしょうか。
女性にとって髪は大切なものです。抜け毛が増えると見た目の変化だけでなく、精神的な負担にもつながります。
この記事では、女性の抜け毛が増える原因、正常な範囲と注意すべきサイン、そしてご自身でできる対策や専門的な治療についてわかりやすく解説します。
抜け毛は誰にでも起こる自然な現象
まず知っておきたいのは、抜け毛自体は誰にでも起こる生理的な現象であるという点です。髪には寿命があり、一定のサイクルで生え変わっています。
ヘアサイクル(毛周期)とは
髪の毛一本一本には寿命があり、「成長期」「退行期」「休止期」というサイクルを繰り返しています。これをヘアサイクル(毛周期)と呼びます。
健康な髪の場合、ほとんどが成長期にあり、数年間伸び続けます。
その後、退行期に入ると髪の成長が止まり、休止期になると自然に抜け落ちて新しい髪が生える準備を始めます。
ヘアサイクルの各段階
段階 | 期間(目安) | 状態 |
---|---|---|
成長期 | 2~6年 | 毛母細胞が活発に分裂し、髪が伸びる |
退行期 | 2~3週間 | 毛母細胞の分裂が止まり、髪の成長が停止する |
休止期 | 3~4ヶ月 | 毛根が浅くなり、自然に抜け落ちる |
1日の正常な抜け毛の本数
ヘアサイクルにより、健康な人でも毎日髪の毛は抜けています。
一般的に、1日に抜ける髪の毛の本数は50本から100本程度といわれています。
シャンプー時やブラッシング時に抜け毛が目立ちやすいですが、この範囲内であれば過度に心配する必要はありません。
季節による抜け毛の変動
抜け毛の本数は一年を通じて一定ではなく、季節によって変動する場合があります。
特に秋口(9月~11月頃)は夏の紫外線ダメージや気候の変化、動物の換毛期の名残などの影響で一時的に抜け毛が増える傾向があります。
これも生理的な範囲内の変動であることが多いです。
女性の抜け毛が増える原因
正常な範囲を超えて抜け毛が増える場合、何らかの原因が隠れている可能性があります。
女性の抜け毛には、男性とは異なる特有の原因も存在します。
ホルモンバランスの変化(妊娠・出産・更年期)
女性ホルモン(エストロゲン)は髪の成長を促進し、ヘアサイクルの成長期を維持する働きがあります。
妊娠中はエストロゲンの分泌量が増えるため、抜け毛が減りやすいです。しかし、産後はホルモンバランスが急激に変化し、一時的に抜け毛が増える「産後脱毛症」が起こるケースがあります。
また、更年期を迎えるとエストロゲンの分泌量が減少し、髪が細くなったり、抜け毛が増えたりする方もいます。
ライフステージとホルモンバランスの変化
ライフステージ | ホルモンバランス | 髪への影響(可能性) |
---|---|---|
妊娠中 | エストロゲン増加 | 抜け毛が減る、髪にハリが出る |
出産後 | エストロゲン急減 | 一時的な抜け毛増加(産後脱毛症) |
更年期 | エストロゲン減少 | 抜け毛増加、髪の細毛化、ボリュームダウン |
ストレスによる影響
過度なストレスは自律神経やホルモンバランスの乱れを引き起こし、血行不良を招く場合があります。
頭皮への血流が悪くなると髪の毛の成長に必要な栄養が届きにくくなり、抜け毛の原因となります。
また、ストレスが円形脱毛症の引き金になることも知られています。
生活習慣の乱れ(睡眠不足・食生活)
髪の毛は私たちが食べたものから作られます。髪の主成分であるタンパク質や、その合成を助ける亜鉛、ビタミンなどが不足すると健康な髪が育ちにくいです。
また、睡眠不足は髪の成長を促す成長ホルモンの分泌を妨げ、頭皮環境の悪化にもつながります。
髪の健康に重要な栄養素
栄養素 | 主な働き | 多く含む食品例 |
---|---|---|
タンパク質 | 髪の主成分(ケラチン)の材料 | 肉、魚、卵、大豆製品 |
亜鉛 | タンパク質の合成を助ける | 牡蠣、レバー、牛肉、ナッツ類 |
ビタミンB群 | 頭皮の新陳代謝を促す | 豚肉、レバー、うなぎ、マグロ |
頭皮環境の悪化
間違ったヘアケアや洗浄力の強すぎるシャンプー、カラーリングやパーマの繰り返し、紫外線ダメージなどは頭皮に負担をかけ、炎症やかゆみ、乾燥や皮脂の過剰分泌などを引き起こすときがあります。
頭皮環境が悪化すると健康な髪が育ちにくくなり、抜け毛につながります。
頭皮環境を悪化させる要因
- 不適切なシャンプー(洗いすぎ、すすぎ残し)
- 紫外線
- パーマやカラーリングの頻度
- 整髪料の洗い残し
抜け毛の量「異常」を見分けるサイン
毎日ある程度の髪が抜けるのは自然ですが、「いつもと違う」と感じたら注意が必要です。
どのような点が異常な抜け毛のサインとなるのか見ていきましょう。
明らかに増えたと感じる期間
一時的な抜け毛の増加(例えば季節の変わり目など)は誰にでもありますが、数ヶ月以上にわたって「明らかに抜け毛が増えた」と感じる状態が続くときは注意が必要です。
排水溝に溜まる髪の量や、ブラッシング時の抜け毛の量を意識してみましょう。
抜け毛の質(細い毛・短い毛)
抜けた髪の毛の状態を確認するのも大切です。正常な抜け毛はある程度の太さと長さがあり、毛根部分がふっくらしています。
しかし、細くて短い毛や、毛根がやせ細っている毛が多く抜ける場合は、ヘアサイクルが乱れている可能性があります。
成長途中の髪が抜けてしまっているサインかもしれません。
頭皮のかゆみや赤み
抜け毛とともに、頭皮にかゆみやフケ、赤みや湿疹などの症状があるときは、脂漏性皮膚炎や接触性皮膚炎など、頭皮のトラブルが原因となっている可能性があります。
頭皮環境の悪化は抜け毛を助長するため、早めの対処が重要です。
特定の部分だけ薄くなる
髪全体が均等に薄くなるのではなく、頭頂部や生え際などの特定の部分だけが目立って薄くなる場合は、女性男性型脱毛症(FAGA/FPHL)などの脱毛症の可能性があります。
分け目が以前より広がった、地肌が透けて見えるようになった、などもサインの一つです。
注意すべき抜け毛・頭皮のサイン
項目 | 正常な状態(目安) | 注意が必要なサイン |
---|---|---|
抜け毛の本数 | 1日50~100本程度 | 明らかに増えた状態が続く (例: 1日150本以上) |
抜け毛の質 | 太く、毛根がふっくら | 細い毛、短い毛、毛根が萎縮した毛が多い |
頭皮の状態 | 青白い、異常なし | かゆみ、赤み、フケ、湿疹、痛みがある |
薄毛の進行 | 全体的に均一 | 分け目、頭頂部など特定部位が目立つ |
抜け毛につながる可能性のある病気
抜け毛は単なる髪の問題だけでなく、全身の健康状態を反映しているケースもあります。特定の病気が原因で抜け毛が増える方もいます。
甲状腺機能の異常
甲状腺ホルモンは、体の新陳代謝を調節する重要なホルモンです。
甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)でも、甲状腺機能低下症(橋本病など)でも、ヘアサイクルに影響を与えて抜け毛を引き起こす場合があります。
また、全身の倦怠感や体重の変化、動悸やむくみなどの症状を伴う方も少なくありません。
膠原病
膠原病は、免疫系の異常により自身の体を攻撃してしまう自己免疫疾患の総称です。
全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病では、症状の一つとして脱毛が見られるときがあります。
関節痛や発熱、皮膚症状など他の全身症状を伴うケースが多いです。
鉄欠乏性貧血
体内の鉄分が不足すると血液中のヘモグロビンが減少し、酸素を全身に運ぶ能力が低下します。
頭皮にも十分な酸素や栄養が行き渡らなくなり、髪の毛が細くなったり、抜け毛が増えたりしやすいです。
月経のある女性は鉄分が不足しやすいためとくに注意が必要です。めまいや立ちくらみ、息切れや顔面蒼白などの症状が出る場合があります。
婦人科系の疾患
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)など、ホルモンバランスに影響を与える婦人科系の疾患が、抜け毛の原因となる例もあります。
月経不順や不正出血などの症状がある場合は、婦人科での検査も検討しましょう。
抜け毛に関連する可能性のある病気と主な症状
病名(可能性) | 抜け毛以外の主な症状例 |
---|---|
甲状腺機能亢進症 | 動悸、体重減少、手の震え、多汗 |
甲状腺機能低下症 | 倦怠感、体重増加、むくみ、便秘、寒がり |
鉄欠乏性貧血 | めまい、立ちくらみ、息切れ、動悸、顔面蒼白 |
膠原病 (例: SLE) | 関節痛、発熱、倦怠感、蝶形紅斑(顔の皮疹) |
髪と心|抜け毛が精神面に与える影響は大きい
抜け毛の悩みは、単に髪が減るという物理的な問題だけではありません。
特に女性にとって髪は自己表現の一部であり、自信や心理状態にも深く関わっています。抜け毛が増えることで、人知れず深く悩んでいる方は少なくありません。
抜け毛が精神面に与える影響
「また髪が抜けた」「薄くなってきたかも」と感じるたびに気分が落ち込んだり、将来への不安を感じたりする場合があります。
他人の視線が気になり、外出がおっくうになったり、好きな髪型を楽しめなくなったりする方もいます。
こうした精神的なストレスが、さらに抜け毛を悪化させるという悪循環に陥る可能性も指摘されています。
周囲に相談しにくい女性特有の悩み
男性の薄毛は比較的オープンに語られる機会がありますが、女性の薄毛や抜け毛の悩みはデリケートな問題として捉えられがちです。
「恥ずかしい」「誰に相談していいかわからない」「気にしすぎだと思われるのでは」と感じ、一人で抱え込んでしまう方が多くいらっしゃいます。
家族や友人にも、なかなか本音を打ち明けられないという声も聞きます。
医療機関に相談する心理的なハードル
抜け毛が気になっても、「こんなことで病院に行っていいのだろうか」「どんな治療をされるのだろう」といった不安から、医療機関への受診をためらってしまう方もいます。
特に、デリケートな悩みを男性医師に相談することに抵抗を感じる方もいるかもしれません。
しかし、抜け毛の原因は多岐にわたり、自己判断での対処が必ずしも良い結果につながるとは限りません。
専門家と話すと安心感が得られる
女性の薄毛治療を専門とするクリニックでは、多くの女性が同じような悩みを抱えて相談に来られます。経験豊富な医師やスタッフは、あなたの不安な気持ちに寄り添い、丁寧に話を聞くことから始めます。
一人で悩まず、まずは専門家に相談すると的確な診断とあなたに合った対処法が見つかるだけでなく、「話を聞いてもらえた」という安心感を得られます。
「気のせい」と放置してしまうのではなく、一歩踏み出す勇気が大切です。
悩みを相談するメリット
相談相手 | 期待できること |
---|---|
家族・友人 | 精神的な支え、共感 |
専門クリニック | 医学的診断、原因特定、適切な治療法の提案、心理的安心感 |
自宅でできる抜け毛対策とセルフケア
抜け毛の原因が病気によるものでない場合、日々の生活習慣やヘアケアの見直しで、抜け毛の予防や頭皮環境の改善が期待できます。
正しいシャンプーの方法
頭皮を清潔に保つのは重要ですが、洗いすぎや間違った洗い方は逆効果です。
シャンプーは1日1回を目安に、ぬるま湯で頭皮と髪を十分に予洗いしてからシャンプーをよく泡立て、指の腹で頭皮をマッサージするように優しく洗いましょう。
すすぎ残しは頭皮トラブルの原因になるため、時間をかけてていねいに洗い流すのが大切です。洗髪後は、ドライヤーで頭皮からしっかり乾かします。
正しいシャンプーのポイント
- 予洗い(ぬるま湯で1~2分)
- 泡立て(手のひらで)
- 優しく洗う(指の腹でマッサージ)
- しっかりすすぐ
- すぐに乾かす(頭皮から)
バランスの取れた食事
髪の毛はタンパク質からできており、ビタミンやミネラルがその成長を助けます。
特定の食品だけを食べるのではなく、肉や魚、卵や大豆製品、緑黄色野菜や海藻類などのバランス良い摂取を心がけましょう。
特に、タンパク質や亜鉛、鉄分やビタミンB群、ビタミンCやビタミンEなどを意識して摂ると良いでしょう。
質の高い睡眠の確保
髪の成長に欠かせない成長ホルモンは、主に睡眠中に分泌されます。特に、入眠後最初の深いノンレム睡眠時に多く分泌されるといわれています。
毎日決まった時間に寝起きするなど、規則正しい生活を送り、質の高い睡眠を確保するよう努めましょう。
寝る前のカフェイン摂取やスマートフォンの使用は避けるのがおすすめです。
ストレス管理
仕事や家庭、育児などで多忙な女性のストレスを完全になくすのは難しいですが、自分に合った方法でストレスを溜め込まないようにすることが大切です。
軽い運動をする、趣味に没頭する時間を作る、ゆっくり入浴する、友人と話すなど、リラックスできる方法を見つけましょう。
セルフケアの要点
ケア項目 | ポイント |
---|---|
ヘアケア | 正しいシャンプー、頭皮マッサージ、紫外線対策 |
食生活 | バランスの取れた食事(タンパク質、ビタミン、ミネラル) |
生活習慣 | 質の高い睡眠、適度な運動、ストレス管理 |
専門クリニックでの検査と治療法
セルフケアだけでは改善が見られない場合や、抜け毛の原因がはっきりしない場合は、専門のクリニックへの相談をおすすめします。
専門医による診断に基づき適切な治療を受けるのが、改善への近道です。
専門医によるカウンセリングと診察
まずは、医師が抜け毛の状態や生活習慣、既往歴などを詳しく伺います(カウンセリング)。その後、視診や触診で頭皮や髪の状態を確認します。
女性医師が在籍しているクリニックも多く、デリケートな悩みも相談しやすい環境が整っています。
血液検査や頭皮マイクロスコープ検査
抜け毛の原因を特定するために、必要に応じて検査を行います。血液検査では貧血や甲状腺機能、ホルモンバランスなどを調べられます。
頭皮マイクロスコープ検査では頭皮の状態や毛穴の詰まり具合、毛髪の太さなどを拡大して観察し、診断の参考にします。
専門クリニックでの検査
検査名 | 目的 |
---|---|
問診・視診 | 症状、生活習慣の把握、頭皮・毛髪状態の確認 |
血液検査 | 貧血、甲状腺機能、ホルモン値などの確認 |
頭皮マイクロスコープ検査 | 頭皮環境、毛穴、毛髪の状態を詳細に観察 |
内服薬・外用薬による治療
診断結果に基づき、治療法を決定します。女性の薄毛治療では、主にミノキシジル配合の外用薬(塗り薬)や、スピロノラクトンなどの内服薬(飲み薬)が用いられる場合があります。
これらの薬は、発毛を促進したり、抜け毛の原因となる男性ホルモンの影響を抑制したりする効果が期待できます。ただし、医師の処方が必要です。
その他の治療選択肢
薬物療法の他にも、頭皮に直接有効成分を注入する治療(メソセラピーなど)や、LEDの光を照射する治療、サプリメントの処方など、さまざまな治療選択肢があります。
患者さん一人ひとりの症状や原因、生活スタイルに合わせて、適した治療法を組み合わせて提案します。
よくある質問
抜け毛や薄毛治療に関して、患者さんからよく寄せられる質問にお答えします。
- 抜け毛は何本からが異常ですか?
-
1日の抜け毛が100本程度までなら正常範囲内といわれますが、これはあくまで目安です。
本数だけでなく、「以前より明らかに増えた」「細く短い毛が増えた」「頭皮に異常がある」といった変化を感じる場合は、一度専門医に相談することをおすすめします。
- 治療はどのくらいの期間が必要ですか?
-
治療効果が現れるまでには個人差がありますが、一般的に3ヶ月から6ヶ月程度の継続が必要です。
ヘアサイクルに合わせて髪が成長し、効果を実感できるようになるまでには時間がかかります。根気強く治療を続けましょう。
- 治療費はどのくらいかかりますか?
-
女性の薄毛治療は、原因や治療法によって保険適用外(自費診療)となるケースが多いです。
費用は治療内容によって異なり、カウンセリング時に詳しく説明してもらえます。
外用薬や内服薬は月々数千円から数万円が目安ですが、費用や支払い方法についても気軽に相談してみましょう。
- 市販の育毛剤との違いは何ですか?
-
市販の育毛剤の多くは、頭皮環境を整えるのを目的とした医薬部外品です。
一方、クリニックで処方される治療薬(ミノキシジル外用薬など)は、発毛効果が認められた医薬品であり、医師の診断に基づいて使用します。
ご自身の状態に合った適切なケアを選ぶために、まずは専門医の診断を受けると良いでしょう。
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