ある日突然、排水溝や枕にびっしりとついた髪の毛を見て、言葉を失った経験のある方もいるでしょう。
髪の毛がたくさん抜けると、「何かの病気ではないか?」「とくに体調に変化はないけど、身体の中で重大な異変がおきているのではないか?」と心配になるのも無理はありません。
女性にとって髪は大切なものです。たくさん抜ける髪の毛は見た目の問題だけでなく、心にも大きな不安をもたらします。
この記事では、女性の抜け毛が増える原因を多角的に解説し、ご自身でできる効果的な対処法、そして専門的な治療について詳しくお伝えします。
その抜け毛、正常範囲?危険なサイン?
髪の毛には「ヘアサイクル」という生まれ変わりの周期があり、誰でも毎日ある程度の髪は自然に抜けています。
しかし、その本数が急に増えたり髪質が変わったりした場合は、何らかの異常が起きているサインかもしれません。
健康な髪のヘアサイクル
髪の毛は、「成長期」「退行期」「休止期」というサイクルを繰り返しています。
健康な状態では、ほとんどの髪が成長期にあり、数年かけて太く長く成長します。
その後、退行期を経て休止期に入り、自然に抜け落ちて新しい髪に生え変わります。
ヘアサイクルの各段階
段階 | 期間の目安 | 特徴 |
---|---|---|
成長期 | 2~6年 | 毛母細胞が活発に分裂し、髪が成長する |
退行期 | 約2週間 | 毛母細胞の分裂が止まり、成長が鈍化する |
休止期 | 3~4ヶ月 | 髪の成長が完全に止まり、やがて抜け落ちる |
1日に抜ける髪の毛の目安
ある程度の抜け毛は正常とはいえ、何本からが異常なのか、問題とされる本数を知りたい、といった方も多いです。
一般的に、1日に抜ける髪の毛は50本から100本程度が正常範囲とされています。
季節の変わり目や体調によって多少の変動はありますが、明らかに200本以上抜ける日が続くようであれば注意が必要です。
危険な抜け毛の見分け方
抜けた髪の毛の状態を確認するのも、頭皮の健康状態を知る手がかりになります。
健康な抜け毛は毛根部分がマッチ棒のように少し膨らんでいますが、毛根がなかったり、細く尖っていたり、皮脂が付着している場合はヘアサイクルが乱れている可能性があります。
毛根の状態からわかること
毛根の状態 | 考えられる原因 | 対策の方向性 |
---|---|---|
白く丸みがある | 正常な自然脱毛 | 現状維持でOK |
ギザギザ・変形 | 栄養不足、ストレス | 生活習慣の見直し |
細く尖っている | 成長途中で抜けている | ヘアサイクルの乱れを疑う |
たくさん髪の毛が抜けるとその量にビックリしてしまいがちですが、少し落ち着いて、毛根の状態もチェックしてみましょう。
女性の抜け毛が増える原因
女性の抜け毛は一つの原因だけでなく、複数の要因が複雑に絡み合って起こるケースがほとんどです。
ここでは、代表的な原因を見ていきましょう。
ホルモンバランスの乱れ
女性ホルモンの一つである「エストロゲン」は、髪の成長を促進し、ハリやコシを保つ働きがあります。
しかし、妊娠・出産や更年期、不規則な生活などによってホルモンバランスが乱れるとエストロゲンが減少し、抜け毛が増加する場合があります。
産後や更年期に抜け毛の悩みを抱える女性が多いのは、このホルモンバランスの急激な変化が関係しています。
頭皮環境の悪化
健康な髪は、健康な頭皮という土壌から育ちます。
皮脂の過剰分泌や乾燥、血行不良などによって頭皮環境が悪化すると毛根に十分な栄養が届かなくなり、抜け毛や薄毛の原因となります。
間違ったヘアケアや、洗浄力の強すぎるシャンプーの使用も頭皮にダメージを与えやすいです。
栄養不足と血行不良
髪の毛は主に「ケラチン」というタンパク質でできています。
過度なダイエットや偏った食事でタンパク質やビタミン、ミネラルが不足すると健康な髪を作れません。
また、栄養は血液によって頭皮に運ばれるため、血行不良も抜け毛の大きな原因です。
髪の成長に必要な栄養素
栄養素 | 主な働き | 多く含まれる食品 |
---|---|---|
タンパク質 | 髪の主成分となる | 肉、魚、卵、大豆製品 |
亜鉛 | タンパク質の合成を助ける | 牡蠣、レバー、牛肉 |
ビタミンB群 | 頭皮の代謝を促す | 豚肉、うなぎ、玄米 |
過度なストレスの影響
ストレスは、自律神経やホルモンバランスを乱す大きな要因です。
強いストレスを感じると血管が収縮し、頭皮の血行が悪化します。これにより毛根への栄養供給が滞り、髪の成長が妨げられて抜け毛につながる場合があります。
円形脱毛症、いわゆる「10円はげ」は、ストレスが引き金となる代表的な症状です。
生活習慣だけでなく心の状態も抜け毛に関係している
抜け毛の原因として生活習慣の乱れがよく取り挙げられます。
もちろんそれらは重要な要因ですが、それだけでは説明がつかない「心の状態」にも注目しましょう。
真面目で頑張り屋な方ほど、見えないプレッシャーによって抜け毛に悩まされるときがあるのです。
「ちゃんとしている」という思い込みが招く心の負担
「食事にも気を使い、睡眠時間も確保している。なのになぜたくさん髪の毛が抜けるの?」そう感じてクリニックにいらっしゃる方もいます。
完璧を目指すあまり、「もっと頑張らなければ」という気持ちが、知らず知らずのうちに自分自身を追い詰めている場合があります。
この無意識の緊張状態が体の血流を滞らせ、頭皮へ栄養が届きにくくなる一因となっているのです。
無意識の癖が頭皮に与える影響
考え事をしている時、無意識に髪を引っ張ったり、頭皮を掻いたりしている方も見受けられます。
ご本人にはその認識がないようですが、これらの小さな癖は一回一回は些細なことでも、繰り返されると頭皮や毛根に物理的なダメージを蓄積させ、抜け毛を誘発するときがあります。
自分の無意識の行動に気づくことも、改善の一歩です。
注意したい無意識の癖
癖の例 | 頭皮への影響 | 意識したいこと |
---|---|---|
髪を強く結ぶ | 牽引による血行不良 | ヘアアレンジを工夫する |
頭皮を掻く | 炎症や傷の原因となる | 爪を短く切り、保湿を心がける |
頬杖をつく | 頭部の血流を偏らせる | 姿勢を意識する |
周囲に相談できない孤独感と抜け毛の関係
髪の悩みは非常にデリケートなため、家族や友人にも打ち明けられず、一人で抱え込んでしまう方が少なくありません。
この「誰にも分かってもらえない」という孤独感は、深刻なストレスとなります。
悩みを内に溜め込むと心身の緊張が続き、抜け毛をさらに悪化させる悪循環に陥ってしまうのです。
セルフチェックで見極める抜け毛の危険度
専門家への相談を考える前に、まずはご自身の状態を客観的に把握してみましょう。
いくつかの簡単なチェックで、抜け毛の危険度をある程度判断できます。
抜け毛の本数を数えてみる
朝起きた時の枕元や、シャンプー時の排水溝に溜まった髪の毛の本数を数えてみましょう。
毎日続ける必要はありませんが、数日間記録してみると、自分の抜け毛が正常範囲内かどうかの目安になります。
1日に100本を超える日が続くときは、注意が必要です。
抜けた髪の毛の毛根を観察する
自然に抜けた髪の毛の毛根部分をよく見てみましょう。健康な髪の毛根は、白っぽく、ふっくらとした丸みがあります。
一方で、毛根がなかったり細く弱々しかったりする場合は、髪が十分に成長する前に抜けてしまっているサインです。
これはヘアサイクルが乱れていることを示唆しています。
頭皮の色や硬さを確認する
鏡を使って、頭頂部や分け目の頭皮の色をチェックしてみてください。
健康な頭皮は青白い色をしていますが、赤みがかっていたり、茶色っぽくくすんでいたりする場合は炎症や血行不良が起きている可能性があります。
また、指の腹で頭皮を動かしてみて、硬く突っ張っている感じがする場合も血行が悪くなっている証拠です。
頭皮の状態と健康度
頭皮の色 | 頭皮の硬さ | 健康状態 |
---|---|---|
青白い | 柔らかく動く | 良好 |
黄色・茶色 | やや硬い | 血行不良・代謝低下のサイン |
赤い | 硬く、痛みを感じることも | 炎症・刺激を受けている状態 |
頭皮の硬さはご自身では分かりにくいケースもありますが、美容院に行った際に美容師に頭皮が硬くないかどうかを質問してみるのも良いでしょう。
美容師は日々多くの方の髪や頭皮を触っているので、頭皮の硬さについても客観的に答えてくれます。
髪全体のボリューム感の変化
特定の部位だけでなく髪全体のボリュームが減ってきた、分け目が目立つようになった、髪のハリやコシがなくなった、といった変化も薄毛が進行しているサインです。
毎日鏡で見ていると細かな変化に気づきにくいので、以前の写真と見比べてみるのも一つの方法です。
今日から始められる効果的な抜け毛対策
抜け毛の原因は様々ですが、日々の生活習慣を見直すと、頭皮環境を整えて抜け毛を予防・改善することが期待できます。
ここでは、すぐに始められる対策を紹介します。髪と頭皮の健康のために今日から実践してみましょう。
髪の成長を支える食事の基本
バランスの取れた食事は、健康な髪を育てるための基本です。
なかでも、髪の主成分であるタンパク質、その合成を助ける亜鉛、頭皮の血行を促進するビタミン類を積極的に摂取する工夫が大切です。
美しさを保ちたい気持ちも分かりますが、無理なダイエットは避けて一日三食、規則正しく食べるように心がけましょう。
- タンパク質
- 亜鉛
- ビタミンB群
- ビタミンE
質の良い睡眠で髪を育む
髪の成長を促す成長ホルモンは、睡眠中に最も多く分泌されます。特に、眠り始めの深い睡眠(ノンレム睡眠)が重要です。
毎日決まった時間に就寝・起床する、寝る前にスマートフォンやパソコンを見ないなど、睡眠の質を高める工夫をしましょう。
正しいシャンプーと頭皮マッサージ
シャンプーは髪の汚れだけでなく、頭皮の余分な皮脂や汚れを落とすのが目的です。
爪を立てずに指の腹で優しくマッサージするように洗い、すすぎ残しがないようにしっかりと洗い流します。
シャンプー後の頭皮マッサージは血行を促進し、リラックス効果も期待できます。毎日2~3分で良いので続けてみましょう。
正しいシャンプーのポイント
手順 | ポイント | 注意点 |
---|---|---|
予洗い | お湯だけで髪と頭皮をしっかり濡らす | 熱すぎるお湯は避ける |
シャンプー | よく泡立て、指の腹で頭皮を洗う | 爪を立ててゴシゴシ洗わない |
すすぎ | 泡が残らないように丁寧に洗い流す | 特に生え際は念入りに |
抜け毛対策の落とし穴と注意点
良かれと思って行っているヘアケアが、実は逆効果になっているケースもあります。
間違った対策は抜け毛を悪化させる可能性もあるため、注意が必要です。
洗浄力の強すぎるシャンプー
頭皮の汚れを落とそうとするあまり洗浄力の強いシャンプーを毎日使うと、必要な皮脂まで取り除いてしまい、頭皮の乾燥を招きます。
頭皮が乾燥するとバリア機能が低下し、外部からの刺激に弱くなってしまいます。
ご自身の肌質に合った、アミノ酸系のようなマイルドな洗浄成分のシャンプーを選ぶと良いです。
自己流の極端な食事制限
特定の食品だけを食べ続けたり、カロリーを極端に制限したりするダイエットは栄養不足を引き起こし、髪に深刻なダメージを与えます。
髪は生命維持に直接関わる部分ではないため、栄養が不足すると真っ先に影響が現れます。
健康的に痩せるためにも、バランスの取れた食事を基本としましょう。
間違ったブラッシング方法
髪が絡まった状態で無理にブラシを通すと、キューティクルを傷つけたり、健康な髪まで引き抜いてしまったりする原因になります。
ブラッシングはまず毛先から優しくとかし、徐々に根元に向かって行うのが基本です。
また、頭皮への適度な刺激は血行促進につながりますが、強く叩きつけるようなブラッシングは避けましょう。
- 毛先からとかす
- 静電気の起きにくいブラシを選ぶ
- 濡れた髪は優しく扱う
専門クリニックでの女性薄毛治療とは
セルフケアを続けても改善が見られないときや、抜け毛が急激に増えて不安な場合は、専門のクリニックへの相談を検討しましょう。
専門家による正確な診断に基づいた治療は、改善への近道です。
まずは正確な原因特定から
クリニックでは問診や視診、血液検査やマイクロスコープによる頭皮チェックなどを行い、抜け毛の根本的な原因を突き止めます。
自己判断では気づかなかった原因が見つかるケースもあります。
この診断結果に基づいて、一人ひとりに合った治療計画を立てます。
内服薬・外用薬による治療
女性の薄毛治療では、主にミノキシジルなどの外用薬や、髪の成長に必要な栄養素を補給するサプリメント、ホルモンバランスを整える内服薬などが用いられます。
これらの薬は、医師の診断のもとで正しく使用することが重要です。
女性薄毛治療で用いられる薬剤
種類 | 主な薬剤 | 期待される効果 |
---|---|---|
外用薬 | ミノキシジル | 発毛促進、血行促進 |
内服薬 | スピロノラクトン | 男性ホルモンの働きを抑制 |
サプリメント | 各種ビタミン、ミネラル | 栄養補給、頭皮環境改善 |
どの治療法が合っているかは、医師の診断と患者さんの希望を考慮して決定します。
頭皮への直接的なアプローチ
薬物治療と並行して、有効成分を直接頭皮に注入する治療法(メソセラピーなど)や、LEDの光を照射して毛母細胞を活性化させる治療などが行われる場合もあります。
これらの治療は、より積極的に発毛を促したいときに有効です。
たくさん抜ける髪の毛に関するよくある質問
髪の毛が大量に抜けるとどうしても不安になってしまいますが、まずは専門家による診断を受けるのを推奨します。
原因が分かり、それに合った対策や治療が始められる方もいますし、問題のある抜け毛ではなくて安心感が得られるパターンもあります。
時間が経てば経つほど悩みが深刻化していく傾向がありますし、インターネットの情報を見てさらに不安が増してしまう方もいますので、早めにクリニックに足を運んでみましょう。
- 抜け毛は何本からが危険ですか?
-
一般的には1日100本までが正常範囲とされていますが、これはあくまで目安です。
以前と比べて明らかに抜け毛が増えたと感じる場合や、抜けた毛が細く短い場合は、本数に関わらず注意が必要です。ご自身の普段の状態と比較すると良いでしょう。
- 遺伝的な要因も関係しますか?
-
遺伝が関係する場合があります。
特に男性のAGA(男性型脱毛症)は遺伝的要因が大きいとされていますが、女性の薄毛(FAGA/FPHL)においても、体質的に薄毛になりやすいといった遺伝的素因は関与すると考えられています。
しかし、遺伝が全てではなく、生活習慣やホルモンバランスなど後天的な要因も大きく影響し、進行を遅らせたり改善したりできますので諦める必要はありません。
- 治療を始めればすぐに効果は出ますか?
-
髪の毛のヘアサイクルを考慮すると、治療の効果を実感するまでには、早くても3ヶ月から6ヶ月程度の期間が必要です。
焦らず、根気強く治療を続けましょう。クリニックでは定期的に経過を観察し、治療計画を適宜見直しながら、患者さんと伴走します。
- クリニックに行くのが恥ずかしいです。
-
髪の悩みを人に話すのは勇気がいることだと思います。多くの薄毛治療専門クリニックでは、プライバシーに配慮した環境づくりをしています。
クリニックには毎日多くの患者さんが来院し、医師やカウンセラーも同じような悩みを抱える方を多数みてきていますので、恥ずかしい気持ちもよく理解しています。
また、近年はオンライン診療を行うクリニックも増えています。自宅で診察を受けれるため、上手に活用すると良いでしょう。
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