「プロテインを飲むとはげるになる」という噂に不安を感じる方もいるようです。
反対に、「プロテインは髪に良い」と聞き、育毛のためにプロテインを試そうか迷っている方もいるでしょう。
髪の主成分はタンパク質であり、その摂取は健やかな髪を育むために重要です。
この記事では、髪の専門家が、プロテインの主成分であるタンパク質と、女性の薄毛・育毛との深い関係を詳しく解説します。
正しい知識を身につけ、ご自身の髪と体のために何が必要かを知ることで、健やかな髪を育む第一歩を踏み出しましょう。
そもそもタンパク質と髪の毛にはどんな関係があるの?
私たちの体を作る上で基本となるタンパク質は、髪の毛にとっても生命線といえる存在です。
タンパク質の働きを正しく理解することが、健やかな髪への第一歩となります。
髪の主成分はケラチンというタンパク質
髪の毛の約80%から90%は、「ケラチン」と呼ばれるタンパク質で構成されています。
ケラチンは18種類のアミノ酸が結合してできており、このケラチンが不足すると髪は正常に成長できません。
つまり、タンパク質の摂取量が直接的に髪の質や量に関わるのです。
タンパク質不足が引き起こす髪への影響
食事から摂取するタンパク質が不足すると、体は生命維持に重要な臓器へ優先的にタンパク質を供給します。
髪の毛は生命維持の優先順位が低いため、後回しにされがちです。
これによって髪の成長に必要なタンパク質が届かず、以下のようなトラブルを引き起こす原因となります。
- 髪が細くなる、弱々しくなる
- ハリやコシ、ツヤが失われる
- 切れ毛や枝毛が増える
- 新しい髪が生えにくくなる、成長が遅れる
健康な髪を育むために必要なタンパク質の量
厚生労働省が示す「日本人の食事摂取基準」では、成人女性のタンパク質推奨量は1日50gです。
しかし、これはあくまで健康維持のための最低ラインであり、活発な方や髪の状態を改善したい方は、より多くの摂取を心がける必要があります。
タンパク質を多く含む食品
食品カテゴリ | 主な食品 | 特徴 |
---|---|---|
肉類 | 鶏むね肉、ささみ、赤身肉 | 良質な動物性タンパク質が豊富 |
魚介類 | 鮭、マグロ、アジ、エビ | タンパク質と健康な脂質を同時に摂取可能 |
大豆製品 | 豆腐、納豆、豆乳 | 植物性タンパク質の代表格 |
プロテインは女性の育毛に本当に効果がある?
タンパク質が髪に重要であることは分かりましたが、ではサプリメントであるプロテインの摂取は、女性の育毛にどのような効果を与えるのでしょうか。具体的な効果を確認していきましょう。
食事で不足しがちなタンパク質を効率的に補給
毎日50g以上のタンパク質を食事だけで補うのは、特に忙しい方や食が細い方にとっては簡単ではありません。
プロテインパウダーは、低カロリー・低脂質で効率的にタンパク質を摂取できるため、食事の補助として非常に有効な手段です。
髪の成長をサポートするアミノ酸の役割
髪の主成分であるケラチンを体内で合成するには、様々なアミノ酸が必要です。
特に、シスチンやメチオニンといった含硫アミノ酸は、髪の強度やしなやかさに関わる重要な成分です。
プロテイン製品は、これらのアミノ酸をバランス良く含んでいます。
髪の健康に関わる主要なアミノ酸
アミノ酸 | 主な役割 | 髪への影響 |
---|---|---|
シスチン | ケラチンの主成分 | 髪の強度や太さに関わる |
メチオニン | 必須アミノ酸の一つ | シスチンの元になる |
アルギニン | 成長ホルモンの分泌促進 | 血行を促進し、頭皮環境を整える |
プロテイン摂取による髪以外のメリット
タンパク質は髪だけでなく、肌や爪、筋肉やホルモンなど、体のあらゆる部分の材料となります。
プロテインを適切に摂取すると、髪の健康だけでなく、全身の健康と美容にも良い影響を期待できます。
プロテインを飲むと「はげる」という噂は本当?
「プロテイン=薄毛になる」というネガティブな情報を耳にして、不安に思う方もいるでしょう。
しかし、結論から言うと、適切な量のプロテイン摂取が直接的な薄毛の原因になるという医学的根拠はありません。ただし、いくつかの状況下では注意が必要です。
過剰摂取による内臓への負担
タンパク質を一度に大量に摂取すると、分解・吸収の過程で肝臓や腎臓に負担をかける場合があります。
内臓機能が低下すると体全体の栄養状態が悪化し、結果として髪に栄養が届きにくくなる可能性があります。何事も「適量」が大切です。
ホルモンバランスへの影響は考えられるか
一部のプロテイン製品、特に海外製の安価なものには、製造過程でホルモンに影響を与える可能性のある物質が混入するリスクがゼロではありません。
信頼できるメーカーの製品を選ぶことが重要です。
また、大豆イソフラボンを含むソイプロテインは、過剰に摂取するとホルモンバランスに影響を与える可能性を指摘されることがありますが、常識的な摂取量であれば問題になるケースは稀です。
添加物や他の成分が原因の可能性
プロテイン製品には、飲みやすくするために人工甘味料や香料、着色料などの添加物が含まれているものがあります。
これらの添加物が体質に合わない場合、頭皮環境の悪化につながることも考えられます。
成分表示をよく確認し、できるだけシンプルな配合のものを選ぶと良いでしょう。
プロテイン摂取で注意したいポイント
注意点 | 具体的な内容 | 対策 |
---|---|---|
過剰摂取 | 肝臓や腎臓への負担 | 1日の摂取量を守り、数回に分ける |
添加物 | 人工甘味料、香料、着色料など | 成分表示を確認し、無添加のものを選ぶ |
品質 | 不純物混入のリスク | 信頼できる国内メーカーの製品を選ぶ |
良かれと思って飲んだプロテインが薄毛を招く?女性が陥りやすい注意点
健康や美容のためにプロテインを取り入れたはずなのに、かえって髪の悩みが深まってしまう。
そんな悲しい事態を避けるために、特に女性が陥りやすい考え方や生活習慣の落とし穴について解説します。
極端な食事制限とセットになっていませんか
「プロテインを飲んでいるから、他の食事は抜いても大丈夫」という考え方は非常に危険です。
特に、カロリーを気にするあまり食事全体をプロテインだけで済ませてしまうと、髪の成長に必要なビタミンやミネラルが絶対的に不足します。
タンパク質はあくまで髪の「材料」であり、その材料を使って髪を作る「職人」であるビタミンやミネラルも同様に重要です。
プロテイン利用における食事パターンの比較
項目 | 望ましいパターン | 注意が必要なパターン |
---|---|---|
目的 | 食事の補助、栄養バランスの改善 | 食事の置き換え、極端な減量 |
食事内容 | 3食バランス良く食べた上で追加 | プロテインのみ、または極端な低カロリー食 |
結果 | 髪と体の健康をサポート | 栄養失調による薄毛や体調不良 |
糖質オフのつもりが栄養不足に
過度な糖質制限も薄毛につながる可能性があります。
糖質は体を動かすための主要なエネルギー源ですが、不足すると体は筋肉や脂肪を分解してエネルギーを作り出そうとします。
この状態が続くと、タンパク質が本来の役割である髪や体の組織作りに使われにくくなります。健康な髪のためには、適度な糖質も必要です。
睡眠や運動など生活習慣全体のバランスが重要
髪の成長は、成長ホルモンが活発に分泌される睡眠中に促されます。どれだけ良い栄養を摂っても、睡眠不足ではその効果を十分に発揮できません。
また、適度な運動は血行を促進し、頭皮に栄養を届ける助けとなります。
プロテインの摂取とあわせて、生活習慣全体を見直すことが育毛への近道です。
ストレスが髪に与える影響とタンパク質の関係
強いストレスを感じると、体はそれに対抗するために多くの栄養素を消費します。タンパク質もその一つです。
ストレスフルな生活を送っている方は、自覚している以上にタンパク質が消費され、髪まで栄養が回りにくくなっている可能性があります。
意識的にタンパク質を補給するとともに、リラックスできる時間を作る工夫も大切です。
女性の薄毛対策に適したプロテインの選び方
市場には多くのプロテイン製品があり、どれを選べば良いか迷うかもしれません。
ここでは、女性が育毛を目的としてプロテインを選ぶ際のポイントを解説します。
ソイプロテインの特徴とメリット
大豆を原料とするソイプロテインは、女性にとって多くのメリットがあります。吸収がゆっくりなため腹持ちが良く、ダイエットのサポートにもなります。
また、大豆に含まれるイソフラボンは、女性ホルモン「エストロゲン」と似た働きをし、ヘアサイクルの正常化や髪のハリ・コシを保つ助けとなることが期待されます。
ホエイプロテインとカゼインプロテインの違い
牛乳を原料とするプロテインには、ホエイとカゼインの2種類があります。
ホエイは吸収が速く、運動後の筋肉修復などに適しています。一方、カゼインは吸収が穏やかで、満腹感が持続しやすい特徴があります。
ご自身の生活スタイルや目的に合わせて選ぶと良いでしょう。
主なプロテインの種類と特徴
種類 | 原料 | 特徴 |
---|---|---|
ソイプロテイン | 大豆 | 吸収が穏やか。イソフラボンが豊富。 |
ホエイプロテイン | 牛乳 | 吸収が速い。運動後の摂取に適する。 |
カゼインプロテイン | 牛乳 | 吸収が非常に穏やか。就寝前の摂取など。 |
美容成分が配合された女性向け製品
最近ではタンパク質に加えて、鉄分やコラーゲン、ヒアルロン酸やビタミン類など、女性の美容と健康をサポートする成分が配合された製品が増えています。
一つの製品で複数の栄養素を補えるため、手軽に栄養管理をしたい方におすすめです。
- 鉄分
- コラーゲン
- ビタミンC
- 葉酸
効果的なプロテインの摂取タイミングと飲み方
せっかくプロテインを飲むのであれば、より効果的なタイミングで摂取したいものです。
育毛を目的とする場合の、おすすめのタイミングと飲み方を紹介します。
運動後や朝食時がおすすめの理由
運動後は成長ホルモンの分泌が促され、タンパク質の吸収率が高まるゴールデンタイムです。
また、睡眠中に失われたタンパク質を補給し、1日の活動を始めるエネルギー源として、朝食時に摂取するのも非常に効果的です。
おすすめの摂取タイミング
タイミング | 目的・理由 |
---|---|
朝食時 | 1日の始まりの栄養補給。体温を上げる。 |
運動後30分以内 | 成長ホルモンが活発で吸収率が高い。 |
就寝1時間前 | 睡眠中の髪の成長をサポート。 |
1日の摂取量を数回に分ける工夫
一度に体が吸収できるタンパク質の量には限りがあります。
1日に20gのプロテインを摂取する場合、一度に20g飲むよりも、朝と夜に10gずつなど数回に分けて摂取するほうが体への負担も少なく、効率的に吸収できます。
水以外で飲む場合の注意点
牛乳や豆乳で割ると、より多くのタンパク質を摂取でき、味もまろやかになります。
ただし、その分カロリーや脂質も増えるため、ダイエット中の方は注意が必要です。
ジュースで割る場合は糖分の過剰摂取にならないよう、無糖のものを選ぶなどの工夫をしましょう。
プロテインだけで髪は生えない!育毛のために必要な他の栄養素
タンパク質は健やかな髪の土台ですが、それだけでは十分ではありません。
タンパク質が効率よく髪に変わるのを助ける、他の栄養素の存在も大切です。
亜鉛の役割と多く含む食品
亜鉛は、タンパク質を髪の毛(ケラチン)に再合成する際に必要不可欠なミネラルです。
亜鉛が不足すると、せっかく摂取したタンパク質を有効活用できません。抜け毛の原因の一つにもなります。
ビタミンB群の重要性
ビタミンB群、特にビタミンB2とB6はタンパク質の代謝を助け、頭皮の皮脂バランスを整える働きがあります。
頭皮環境を健やかに保つことで、健康な髪が育ちやすい土壌を作ります。
鉄分不足と女性の薄毛
鉄分は血液中のヘモグロビンの材料となり、全身に酸素を運ぶ役割を担います。
鉄分が不足すると、頭皮が酸欠状態になり、毛母細胞の働きが鈍くなってしまいます。月経がある女性は特に不足しがちなため、意識的な摂取が重要です。
髪の成長を支える重要な栄養素
栄養素 | 主な働き | 多く含む食品 |
---|---|---|
亜鉛 | タンパク質の合成を助ける | 牡蠣、レバー、赤身肉、ナッツ類 |
ビタミンB群 | タンパク質の代謝を促進、頭皮環境を整える | 豚肉、レバー、うなぎ、卵 |
鉄分 | 頭皮への酸素供給 | レバー、赤身肉、ほうれん草、ひじき |
プロテインと育毛に関するよくある質問
さいごに、患者さんからよく寄せられるプロテインと薄毛に関する質問にお答えします。
- 食事だけでタンパク質を補うのは難しいですか?
-
バランスの取れた食事を3食しっかり摂れれば、必要量のタンパク質を確保することは可能です。
しかし現代の女性は、多忙な生活やダイエット志向から、特に朝食などでタンパク質が不足しがちです。
肉や魚をあまり食べない方や、食が細い方は、食事だけで十分な量を摂るのが難しい場合があります。そのような場合に、プロテインは手軽で有効な補助手段となります。
- プロテインの効果はどのくらいで実感できますか?
-
髪の毛は1ヶ月に約1cmしか伸びないため、プロテインの摂取を始めてすぐに劇的な変化を実感するのは難しいです。
ヘアサイクル(毛周期)を考慮すると、効果を判断するには最低でも3ヶ月から6ヶ月は継続することが望ましいです。
髪質の変化や抜け毛の減少など、小さな変化に気づくと継続のモチベーションになります。焦らず、じっくりと体質改善に取り組む姿勢が重要です。
- 他のサプリメントと併用しても大丈夫ですか?
-
基本的には問題ありませんが、注意も必要です。
プロテインは食品であり、薬ではないため、多くのサプリメントと併用できます。
しかし、もしビタミンやミネラルが配合されたプロテインを飲む場合は、他のサプリメントとの組み合わせによって特定の栄養素を過剰摂取してしまう可能性があります。
特に脂溶性ビタミン(A, D, E, K)や亜鉛の過剰摂取には注意が必要です。
心配な場合は医師や薬剤師、管理栄養士などの専門家に相談してください。
- 妊娠中や授乳中に飲んでも安全ですか?
-
妊娠中や授乳中は、通常よりも多くのタンパク質を必要とする非常にデリケートな時期です。
プロテインを摂取すること自体が問題になるケースは少ないですが、製品に含まれる添加物などが赤ちゃんに影響を与える可能性もゼロではありません。
この期間にプロテインを利用したい場合は自己判断で始めるのではなく、必ずかかりつけの産婦人科医に相談し、許可を得てから、無添加でシンプルな成分の製品を選ぶようにしてください。
- 薬を服用中ですが、プロテインを併用しても問題ないですか?
-
服用している薬の種類によっては、プロテインの成分が薬の効果に影響を与える可能性もゼロではありません。
特に、腎臓や肝臓に関する疾患で治療中の方や、特定の薬を服用している方は、プロテインを始める前に主治医や薬剤師に相談するほうが安全です。
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