薄毛治療の特効薬として知られるフィナステリドですが、女性にとっては「触れることすら危険」とされるほど厳重な取り扱いが必要な薬剤です。
もしあなたがパートナーの薬を誤って触れてしまったり、自身の薄毛治療に使えないかと考えていたりするなら、直ちにその手を止めて正しい知識を持つ必要があります。
この薬が女性、特に妊娠中やその可能性がある方に対して禁忌とされる背景には、取り返しのつかない重大な副作用のリスクが存在するからです。
この記事では、フィナステリドが女性の体に及ぼす具体的な影響や、誤って接触してしまった際の緊急対処法、そして女性が安全に使用できる代替の治療法について、専門的な視点から詳細に解説します。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
女性にフィナステリドが禁忌とされる医学的な理由
フィナステリドが女性に対して投与不可とされる最大の理由は、この薬剤が胎児の正常な発育を阻害する極めて高い危険性を持っているためです。男性型脱毛症(AGA)の原因物質を抑制する作用が、女性の体内、とりわけ妊娠中の母体においては、胎児の生殖器形成に不可逆的な悪影響を及ぼすことが医学的に証明されています。
男性ホルモンへの作用と女性の体
フィナステリドは、テストステロンという男性ホルモンが「ジヒドロテストステロン(DHT)」というより強力な脱毛ホルモンに変換されるのを防ぐ役割を果たします。
この変換には「5αリダクターゼ」という還元酵素が関与しており、フィナステリドはこの酵素の働きを阻害します。
男性の場合、DHTの生成を抑えると毛母細胞への攻撃が止まり、薄毛の進行が食い止められます。
しかし、女性の体内においても男性ホルモンは微量ながら存在し、筋肉や骨格の維持、気力の充実など重要な役割を担っています。
女性がこの薬剤を服用した場合、体内のホルモンバランスが人為的に崩されることになります。特に閉経前の女性においては、ホルモンバランスの乱れが生理不順や体調不良を引き起こす原因となり得ます。
その上、女性の薄毛(FAGA)の原因がDHTの増加だけにあるとは限らないため、リスクを冒して服用しても男性ほどの効果が得られないという現実があります。
妊娠中や授乳期における重大なリスク
妊娠中の女性がフィナステリドを体内に取り込むのは、絶対に避けなければなりません。その理由は、薬剤の成分が胎盤を通じて胎児に移行してしまうからです。
通常、医薬品には「妊娠中の投与に関する安全性は確立していない」という注意書きがなされるものが多いですが、フィナステリドに関しては「禁忌」、つまり「絶対に使用してはならない」と明確に定められています。
授乳中の服用も同様に危険です。母乳を通じて成分が乳児の体内に入る可能性があるためです。
乳児期は体の様々な器官が発達する重要な時期であり、微量であってもホルモンに作用する薬剤が体内に入るのを避ける必要があります。
自分一人の問題ではなく、次世代の健康に関わる重大な事案であると強く認識しておきましょう。
男子胎児の生殖器形成への悪影響
フィナステリドが禁忌とされる核心的な理由は、男子胎児の生殖器の発達を阻害する「催奇形性」のリスクにあります。
男の子の赤ちゃんが母親のお腹の中で成長する際、男性器が正常に形成されるためにはジヒドロテストステロン(DHT)の働きが必要です。
この時期に母親がフィナステリドを服用し、DHTの生成が阻害されると、胎児の生殖器が十分に発達しない「尿道下裂」などの奇形が生じる可能性が高まります。
性別によるフィナステリド作用の比較
| 比較項目 | 男性への作用・影響 | 女性への作用・影響 |
|---|---|---|
| 主な処方目的 | AGA(男性型脱毛症)の進行抑制 | 原則として処方不可(禁忌) |
| ホルモンへの影響 | DHT濃度を下げ脱毛を防ぐ | 胎児の発育に必要なDHTを阻害 |
| 胎児へのリスク | 精液移行は微量で影響なしとされる | 男子胎児の生殖器奇形リスク極大 |
| 副作用の性質 | 性欲減退など(服用中止で回復可) | 胎児への不可逆的な発達障害 |
この影響は、妊娠のごく初期段階から発生するリスクがあります。本人が妊娠に気づいていない時期であっても影響が出る可能性があるため、妊娠の可能性がある女性は決して薬剤に近づいてはいけません。
上記の表で示した通り、男性には有益な作用が女性、特に胎児には致命的な影響となると理解しておく必要があります。
触れるだけで危険?経皮吸収のリスクと取り扱い
フィナステリド製剤は「飲む」だけでなく、「触れる」に関しても厳重な注意が必要です。
有効成分が皮膚を通して体内に浸透する「経皮吸収」という性質を持っているため、家庭内での厳重な管理と正しい取り扱いが、家族の健康を守るための絶対条件となります。
薬剤のコーティングと割れた錠剤の危険性
市販されているフィナステリド錠(プロペシアなど)の多くは、表面が硬いコーティング剤で覆われています。これは薬剤の成分が直接手に触れないようにするための防御策です。
そのため、コーティングが割れていない完全な状態の錠剤を短時間触る程度であれば、成分が皮膚から吸収される可能性は極めて低いと言えます。
危険度が一気に跳ね上がるのは、錠剤を割ったり、砕いたりした場合です。
ピルカッターなどで分割された断面や、粉砕された粉末には、コーティングされていない薬剤成分がむき出しになっています。これに触れると成分が皮膚から容易に吸収され、血流に乗って全身を巡ります。
特に妊娠中の女性が、パートナーのために薬を半分に割ってあげるという行為は、親切心からであっても絶対に行ってはいけません。
家族やパートナーが服用している場合の注意点
同居している男性家族がフィナステリドを服用している場合、保管場所の管理を徹底する必要があります。洗面所や食卓など、女性や子供が何気なく触れてしまう場所に放置するのは避けるべきです。
万が一、子供が誤飲してしまう事故を防ぐためにも、蓋の閉まる容器に入れ、手の届かない高い場所に保管してください。
家庭内でのフィナステリド安全管理
- 錠剤の分割(カット)は自宅で行わず、医師や薬剤師に相談する
- 薬剤は子供や女性の手の届かない鍵付きの棚や高所に保管する
- 服用する男性自身が管理し、女性が薬の準備や片付けを行わない
- 万が一錠剤が床に落ちた場合は、女性が素手で拾わずティッシュ等を使う
- 薬剤を保管するピルケースは他の常備薬と区別し混同を防ぐ
加えて、ピルケースなどで他の薬やサプリメントと一緒に管理している場合も注意が必要です。錠剤同士が擦れ合ってコーティングが剥がれたり、割れた破片が他の薬に付着したりする可能性があります。
フィナステリドは専用のケースで単独管理し、他の家族が誤って触れたり飲んだりしないよう、明確なラベリングを行うことを推奨します。
粉末状になった薬剤の飛散リスク
錠剤をカットした際に生じる微細な粉末や、割れた欠片は非常に軽く、空気中に飛散しやすい性質があります。
これを吸い込んでしまう状態も、経皮吸収と同様、あるいはそれ以上に危険な摂取経路となります。
呼吸器から入った成分は肺を通じて速やかに血液中に取り込まれるため、室内での安易な薬剤加工は厳禁です。
誤って服用または触れてしまった場合の対処法
どれほど注意していても、不測の事態は起こり得ます。
もし女性がフィナステリドに触れてしまったり、誤って服用してしまったりした場合、パニックにならず迅速かつ適切な処置を行うことが、被害を最小限に抑える鍵となります。
直ちに医師へ相談すべき状況
誤って服用してしまった場合、特に妊娠中または妊娠の可能性がある場合は、一刻も早く医師に連絡し、受診する必要があります。
体内に取り込まれた成分が代謝され排出されるまでの時間は個人差がありますが、早期の対応が重要です。
産婦人科の主治医がいる場合はそちらへ、そうでなければ皮膚科や内科、または救急相談窓口へ連絡を入れましょう。
触れてしまった場合でも、もしその錠剤が割れていたり粉末状であったりしたなら、念のため医療機関への相談を検討してください。
特に接触時間が長かった場合や、手に傷があった場合などは吸収率が高まる恐れがあります。「少し触っただけだから大丈夫」と自己判断せず、専門家の指示を仰ぐと精神的な安心にもつながります。
接触部位の洗浄と応急処置
薬剤、特に中身が露出した錠剤や粉末に触れてしまった直後に行うべきは、徹底的な洗浄です。
皮膚に成分が残っている限り、吸収は続きます。直ちに石鹸と流水を使用して、接触した部位を丁寧に洗い流してください。
洗浄の際は、ゴシゴシと強く擦りすぎて皮膚を傷つけないように注意が必要です。皮膚のバリア機能が低下すると、かえって成分の浸透を許してしまう可能性があります。
泡立てた石鹸で優しく、かつ時間をかけて念入りに洗い流すことが大切です。もし粉末を吸い込んでしまった可能性があるときは、うがいもあわせて行いましょう。
医療機関で伝えるべき情報
医師の診察を受ける際、正確な情報を伝えることで、より適切な処置やアドバイスを受けられます。
そのためには、いつ、どのくらいの量を、どのような状態で摂取または接触したのかを明確にする必要があります。可能な限り、接触した薬剤の現物や説明書(添付文書)を持参するとスムーズです。
緊急時の確認・伝達事項
| 項目 | 医師へ詳細に伝えるべき内容 | 確認すべき点 |
|---|---|---|
| 接触・摂取の状況 | 服用したか、触れたか、吸い込んだか | 錠剤は割れていたか、粉末だったか |
| 時間と量 | 事故発生からの経過時間と量 | 正確な時刻と錠数(または粉の量) |
| 妊娠の可能性 | 最終月経日、現在の妊娠週数 | 妊娠検査薬の使用有無 |
| 現在の体調 | 皮膚の赤み、吐き気、腹痛など | 普段と異なる症状の有無 |
| 薬剤の情報 | 薬品名(プロペシア等)と含有量 | ジェネリック医薬品か先発品か |
上記の表は、緊急時に医師に伝えるべき情報と確認事項をまとめたものです。慌てている時こそ、このようなチェックリストが役に立ちます。
状況を整理し、落ち着いて医療スタッフに詳細を伝えるようにしてください。
女性の薄毛(FAGA)と男性の薄毛(AGA)の決定的な違い
「薄毛」という悩みは男女共通ですが、その発症原因や進行パターン、そして効果的な治療法は男女で大きく異なります。
男性用の薬であるフィナステリドが女性に効かない、あるいは適さない理由を深く理解するためには、FAGA(女性男性型脱毛症)とAGA(男性型脱毛症)の違いを確認しておきましょう。
ホルモンバランスとヘアサイクルの関係
男性のAGAは、前述の通りテストステロンがDHTに変換され、それが直接的に毛根を攻撃することで発症します。
これに対し女性のFAGAは、加齢やストレス、生活習慣の乱れによって女性ホルモン(エストロゲン)が減少し、相対的に男性ホルモンの影響が強くなるために引き起こされるケースが多いです。
ただ、女性の場合はDHTによる直接的な攻撃だけでなく、頭皮の血流低下や栄養不足、自律神経の乱れなど、複数の要因が複雑に絡み合っています。
単にDHTを遮断すれば治るという単純な構造ではないため、フィナステリドのようなDHT阻害薬の効果は限定的、あるいは期待できない場合が多いのです。
むしろホルモンバランスをさらに崩すリスクのほうが懸念されます。
頭皮全体のびまん性脱毛という特徴
薄毛の進行の仕方にも明確な違いがあります。男性のAGAは、生え際が後退したり(M字)、頭頂部が薄くなったり(O字)と、局所的に毛がなくなるのが特徴です。
対して、女性の薄毛は「びまん性脱毛」と呼ばれ、特定の場所ではなく頭部全体の髪の密度が徐々に低下し、分け目が広がったり、地肌が透けて見えたりする傾向があります。
このように脱毛のパターンが異なる点からも、背景にある生理的な要因が異なることがわかります。
全体的に髪が細く弱くなっていく女性の薄毛に対しては、特定の酵素を阻害するピンポイントな治療よりも、頭皮環境全体を底上げし、発毛しやすい土台を作る取り組みが必要です。
治療方法の相違点
男性の治療は「守り(脱毛抑制)」が最優先され、その主力となるのがフィナステリドです。
対して女性の治療は、減ってしまった女性ホルモンの働きを補ったり、頭皮への血流を促進して発毛を促したりする「攻め(発毛促進)」と「育毛(現状維持)」の複合的なケアが中心となります。
AGAとFAGAの比較分析
| 比較項目 | 男性の薄毛(AGA) | 女性の薄毛(FAGA) |
|---|---|---|
| 主な原因 | DHT(男性ホルモン由来物質)の増加 | エストロゲン減少、加齢、生活習慣 |
| 脱毛の進行 | 生え際や頭頂部から局所的に進行 | 頭髪全体が均一に薄くなる(びまん性) |
| 毛髪の状態 | 太い毛が抜け落ち、産毛化する | 一本一本が細くなり、コシがなくなる |
| 第一選択薬 | フィナステリド、デュタステリド | ミノキシジル、パントガール等 |
| 治療の方向性 | 脱毛指令の遮断(抜け毛を止める) | 発毛因子の活性化と栄養補給 |
原因が違えば対策も異なります。自身の症状がどのタイプに当てはまるかを確認し、誤った治療法を選択しないための参考にしてください。
フィナステリド以外の女性に推奨される治療薬
フィナステリドが使えないからといって、女性の薄毛治療に打つ手がないわけではありません。
むしろ、皮膚科や専門クリニックでは、女性の体の特性に合わせた安全で効果的な治療薬が選択されます。
ミノキシジルの効果と安全性
日本皮膚科学会のガイドラインでも、女性の薄毛に対して推奨度が高いとされているのが「ミノキシジル」です。
この薬には、血管を拡張させて毛根への血流を増やし、毛母細胞に直接働きかけて細胞分裂を活性化させる作用があります。
外用と内服の違い
ミノキシジルには「外用薬(塗り薬)」と「内服薬(タブレット)」があります。外用薬は薬局でも購入可能なリアップリジェンヌなどが有名で、副作用のリスクが少なく安全性が高いのが特徴です。
一方、内服薬は医師の処方が必要ですが、体内から成分を行き渡らせるため、より発毛効果が期待できます。
ただし、内服薬は体毛が濃くなる多毛症や、血圧への影響などの副作用があるため、必ず医師の管理下で使用する必要があります。
スピロノラクトンの作用機序
スピロノラクトンは、元々は高血圧の治療に使われる利尿剤ですが、男性ホルモンの働きを抑える「抗アンドロゲン作用」を持つため、女性の薄毛治療に応用されます。
フィナステリドとは異なる働きで、男性ホルモンが受容体と結合するのを防ぎ、抜け毛を抑制します。
特に、ニキビができやすい、体毛が濃いなど、男性ホルモンの影響が強く出ている女性の薄毛に対して効果を発揮しやすいです。
ただし、これも血圧を下げる作用があるため、低血圧の方や腎機能に問題がある方は服用できません。使用には慎重な判断が必要です。
パントガールなどサプリメントの活用
「パントガール」は、世界で初めて女性の薄毛改善効果が認められた医療用サプリメント(内服薬)です。
薬用酵母、ケラチン、パントテン酸カルシウムなど、髪の成長に必要な栄養素がバランスよく配合されています。
びまん性脱毛症に対して特に有効とされ、副作用のリスクが極めて低いのが最大のメリットです。
女性向け薄毛治療薬の比較
| 薬剤名 | 主な作用・効果 | 注意点・副作用 |
|---|---|---|
| ミノキシジル外用 | 毛包への血流改善、発毛促進 | 頭皮のかゆみ、かぶれ |
| ミノキシジル内服 | 強力な発毛促進作用 | 全身の多毛、動悸、むくみ |
| スピロノラクトン | 抜け毛の原因となるホルモン抑制 | 頻尿、生理不順、低血圧 |
| パントガール | 毛髪への栄養供給、髪質の改善 | 副作用は稀(軽微な胃部不快感) |
| ルグゼバイブ | パントガール成分+馬プラセンタ | 副作用は稀、美容効果も期待 |
医薬品のような劇的な発毛作用はありませんが、髪にコシやツヤを与え、抜け毛を減らす効果が期待できます。
妊娠中や授乳中でも時期によっては服用可能な場合があるため、医薬品に抵抗がある方や、初期の薄毛ケアとして広く選ばれています。
それぞれの薬に特徴があるため、医師と相談して適したものを選びましょう。
医師の診断なしに個人輸入薬を使用する危険性
インターネットの発達により、海外の医薬品を個人輸入代行サイトを通じて安価に入手することが容易になりました。
しかし、医師の診断を経ずに自己判断でフィナステリドやその他の薄毛治療薬を入手・服用するのは、健康被害のリスクに加え、法的保護を受けられないという極めて大きな危険性をはらんでいます。
偽造薬の混入と健康被害
個人輸入で入手できる医薬品の中には、驚くべきことに偽造薬(フェイクドラッグ)が高い割合で混入しています。
WHO(世界保健機関)などの調査でも、ネット販売される医薬品の相当数が偽物である可能性が指摘されています。
これらの偽造薬は、有効成分が全く入っていないだけならまだしも、不純物や有害物質(ペンキや殺鼠剤の成分などが検出された事例もあります)が含まれている場合があります。
不衛生な環境で製造された薬剤を服用すると、肝機能障害や重篤なアレルギー反応を引き起こすリスクがあります。
パッケージが本物そっくりであっても中身が安全である保証はどこにもありません。自分の体に入れるものを、出処の不明確なルートで入手すること自体が極めて危険な行為と言えます。
副作用が起きた際の救済制度対象外
日本国内で正規に処方された医薬品を正しく使用して重篤な副作用が生じた場合、「医薬品副作用被害救済制度」という公的な制度により、医療費や年金などの給付を受けられます。
これは、予期せぬ健康被害に対する重要なセーフティネットです。
しかし、個人輸入で入手した医薬品による健康被害は、この救済制度の対象外となります。
たとえ副作用で入院が必要になったり後遺症が残ったりしても、治療費は全額自己負担となり、何の補償も受けられません。
「安く買える」というメリットの裏には、「全ての責任を自分一人で負う」という巨大なリスクが隠れていると忘れてはなりません。
適切な用量管理の難しさ
医薬品は患者さんの体重や肝機能、併用薬の状態などを考慮して適切な用量が決定されます。しかし個人輸入では、自分の体に合った用量かどうかの判断を素人が行わなければなりません。
特に海外製の薬剤は、日本人よりも体格の大きい欧米人向けに成分量が多く設定されているものがよくあります。
正規処方と個人輸入のリスク比較
| 比較項目 | 医療機関での正規処方 | 個人輸入(通販) |
|---|---|---|
| 品質の保証 | 厚生労働省承認の正規品で安心 | 偽造薬や粗悪品の混入リスク大 |
| 医師の診断 | 体質や持病に合わせた処方が可能 | 自己判断のみ、禁忌を見逃す危険 |
| 副作用への対応 | 迅速な治療と薬の変更が可能 | 対応が遅れ、重症化する恐れ |
| 公的救済制度 | 適用対象(治療費等の給付あり) | 対象外(全額自己負担・補償なし) |
| 入手の手間 | 通院が必要(オンライン診療も可) | 手軽だが配送遅延やトラブルも |
過剰摂取は副作用のリスクを高めるだけで、効果が比例して高まるわけではありません。
医師という専門家のフィルターを通さずに強力な薬剤を使用するのは、ブレーキのない車を運転するようなものです。安全に治療を続けるためには、医療機関での処方が欠かせません。
薄毛に悩む女性がまず行うべき正しい対策
「薄毛が気になり始めたけれど、いきなり強い薬を使うのは怖い」「フィナステリドがダメなら、まず何から始めればいいの?」と迷っている方も多いでしょう。
薬に頼る前、あるいは並行して行うべき基礎的な対策を実践すると、健やかな髪を育む土台となります。
専門クリニックでの血液検査と診断
自己判断でシャンプーを変えたり育毛剤を買ったりする前に、まずは薄毛専門クリニックや皮膚科を受診しましょう。
なぜなら、女性の薄毛の原因はFAGAだけでなく、甲状腺機能の低下や鉄欠乏性貧血、膠原病など、隠れた内科的疾患が原因である可能性があるからです。
クリニックではマイクロスコープによる頭皮診断に加え、血液検査を行って栄養状態やホルモンバランスを数値化します。
「亜鉛が足りていない」「実は貧血だった」など、具体的な原因が特定できれば、無駄な出費を抑えて的確な治療を行えます。まずは「敵を知る」から始めましょう。
生活習慣と栄養バランスの見直し
髪は「血余(けつよ)」とも呼ばれ、生命維持に必要な臓器に栄養が行き渡った後に、余った栄養で作られます。
つまり、栄養不足や睡眠不足の状態では、真っ先に髪への栄養供給がカットされてしまいます。無理なダイエットは薄毛の最大の敵です。
特にタンパク質や亜鉛、鉄分やビタミン群は髪の成長に必須です。これらを食事から摂取するのが理想ですが、難しい場合はサプリメントで補うことも検討してください。
また、成長ホルモンが分泌される睡眠時間を確保し、ストレスを溜め込まない工夫も大切です。
髪を育てるための生活習慣チェック
- タンパク質(肉・魚・大豆)を毎食手のひら分程度摂取する
- 牡蠣、レバー、ナッツ類など亜鉛や鉄分を含む食材を意識する
- 日付が変わる前に就寝し、6時間以上の質の高い睡眠をとる
- シャンプーは原液を直接つけず、泡立ててから頭皮に乗せる
- ドライヤーは頭皮から20cm以上離し、熱ダメージを防ぐ
頭皮環境を整えるヘアケア
生活習慣の見直しと合わせて、日々の頭皮ケアの見直しも効果的です。
洗浄力が強すぎるシャンプーは頭皮の乾燥を招き、過剰な皮脂分泌を引き起こして炎症の原因となります。アミノ酸系などの優しい洗浄成分のものを選びましょう。
また、頭皮のマッサージは血行促進に有効ですが、爪を立てたり強くこすりすぎたりするのは逆効果です。指の腹を使って優しく頭皮を動かすようにマッサージし、頭皮の柔軟性を保つ工夫が大切です。
紫外線対策も忘れずに行い、頭皮をダメージから守りましょう。
よくある質問
- 閉経後の女性ならフィナステリドを服用できますか?
-
基本的に閉経後であっても女性へのフィナステリド投与は推奨されません。
海外の一部研究では、閉経後の女性に対して高用量のフィナステリドが一定の効果を示したという報告もありますが、日本国内のガイドラインでは、安全性と有効性の観点から推奨度は最低ランクの「行わないほうがよい(D)」とされています。
ホルモンバランスへの影響や副作用のリスクを考慮すると、ミノキシジルやスピロノラクトンなど、女性への安全性が確立された治療法を選択するほうが賢明です。
- 夫のフィナステリドを触ってしまったのですが大丈夫ですか?
-
触れてしまった錠剤がコーティングされている通常のタイプ(プロペシア錠など)で、割れたり粉々になったりしていなければ、直ちに健康被害が出る可能性は極めて低いです。
慌てずに石鹸で手をよく洗ってください。
ただし、妊娠中の方が粉末状の薬剤に触れたり、吸い込んだりした可能性がある場合は、念のためかかりつけの産婦人科医に相談すると良いです。
過度な心配はストレスになりますが、慎重に対応しましょう。
- 妊活中にパートナーが服用していても平気ですか?
-
男性がフィナステリドを服用していても、精液中に移行する薬剤の成分量は極めて微量であり、胎児に影響を及ぼすレベルではないとされています。
そのため、基本的にはパートナーが服用を続けながらの妊活は可能です。
しかし、心理的な不安を少しでも減らしたい場合や、万全を期したい場合は、妊活期間中だけ服用を一時中断(休薬)するという選択肢もあります。
この点は夫婦でよく話し合い、医師のアドバイスを受けると良いでしょう。
- 女性がフィナステリドを飲むとどうなりますか?
-
妊娠中の女性が服用した場合、前述の通り男子胎児の生殖器に奇形が生じるリスクが高まります。
妊娠していない女性の場合でも、ホルモンバランスの乱れにより、生理不順や頭痛、めまいや抑うつ症状などの副作用が現れる可能性があります。
また、フィナステリドは「更年期障害のような症状」を引き起こすことも懸念されます。効果が薄い上にリスクだけが高いため、女性が服用するメリットはほとんどありません。
- 献血をする際に気をつけることはありますか?
-
フィナステリドを服用している人は、献血を行えません。
これは、提供した血液が妊婦さんに輸血された場合、その血液に含まれるフィナステリド成分が胎児に影響を与える恐れがあるためです。
もし女性が誤って服用してしまった場合や、男性が服用を中止した後は、体から成分が完全に抜けるまで最低でも1ヶ月間は献血を避ける必要があります。
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