分娩後（産後）脱毛症の治療法と予防

出産という大仕事の後、多くの女性が経験する「産後の抜け毛」。これは一時的なものと分かっていても、不安になるものです。

この記事では、分娩後脱毛症に対する専門的な治療法から、ご自身でできる予防や対策までを詳しく解説します。健やかな髪と心を取り戻すための一助となれば幸いです。

外用薬による治療 – 頭皮に直接働きかけるアプローチ

産後の抜け毛に対する治療として、まず考えられるのが頭皮に直接塗布する外用薬です。特に女性向けの製品は、産後のデリケートな頭皮環境を考慮して作られています。

クリニックでは、患者様一人ひとりの状態に合わせた外用薬の選定と、正しい使い方を指導します。

産後向けの育毛剤の選び方

市販の育毛剤も多くの種類がありますが、産後に使用する場合は成分に注意が必要です。特に授乳中は、赤ちゃんへの影響がないかを確認することが大切です。

アルコールフリーや無添加など、刺激の少ない製品を選びましょう。また、保湿成分が豊富に含まれているものは、乾燥しがちな産後の頭皮ケアにも役立ちます。

女性ホルモン様成分配合の育毛剤

産後の抜け毛の大きな原因は、女性ホルモンの急激な減少です。

そのため、女性ホルモンと似た働きをする成分（例えば、大豆イソフラボンなど）を含む育毛剤は、乱れたホルモンバランスをサポートする一つの選択肢となります。

これらの成分が頭皮の健康を保ち、毛髪の成長を助けます。

授乳中の使用に関する注意点

授乳中に育毛剤を使用する際は、必ず「授乳中でも使用可能」と明記されている製品を選んでください。

不明な点があれば、自己判断で使用せず、購入前に薬剤師や当クリニックのような専門の病院・皮膚科に相談することが重要です。

育毛剤の主な有効成分例

成分カテゴリ	主な成分名	期待される働き
血行促進	センブリエキス、ビタミンE誘導体	頭皮の血流を良くし、毛根に栄養を届ける
抗炎症	グリチルリチン酸ジカリウム	頭皮の炎症を抑え、かゆみやフケを防ぐ
保湿	ヒアルロン酸、コラーゲン	頭皮の乾燥を防ぎ、健やかな環境を保つ

内服薬による治療 – 体の内側からのサポート

外側からのケアと同時に、体の内側から必要な栄養を補い、髪の成長をサポートする内服薬による治療も有効な対策です。

ただし、内服薬は医師の診断と処方が必要であり、特に授乳中の方は慎重な判断が求められます。

病院で処方される治療薬

皮膚科や専門クリニックでは、脱毛症の治療薬として「パントガール」などが処方されることがあります。

これは女性の薄毛のために開発された内服薬で、髪の主成分であるケラチンの生成を助けるアミノ酸やビタミンB群などを豊富に含みます。

しかし、これらの薬は授乳中の服用が推奨されない場合が多いため、必ず医師に相談してください。

髪の栄養を補うサプリメント

治療薬とは異なりますが、髪の成長に必要な栄養素を補うサプリメントも一つの方法です。特に、産後の食事だけでは不足しがちな鉄分、亜鉛、ビタミンなどを手軽に摂取できます。

サプリメントを選ぶ際も、授乳中に服用可能かを確認し、過剰摂取にならないよう注意しましょう。

産後の抜け毛対策で注目したい栄養素

栄養素	主な働き	多く含む食品
亜鉛	髪の主成分ケラチンの合成を助ける	牡蠣、レバー、牛肉（赤身）
鉄分	全身に酸素を運び、頭皮の血行に関わる	レバー、ほうれん草、あさり
ビオチン	皮膚や髪の健康維持を助けるビタミン	卵黄、ナッツ類、きのこ類

皮膚科での相談の重要性

抜け毛がひどい、あるいは長期間続く場合は、自己判断でサプリメントなどに頼るのではなく、一度、専門の病院や皮膚科を受診することをおすすめします。

産後脱毛症以外の原因が隠れている可能性も考えられます。医師が状態を正確に診断し、適切な治療方針を提案します。

その他の治療法 – 専門的な施術と補完療法

外用薬や内服薬以外にも、専門クリニックでは様々なアプローチで産後脱毛症の改善を目指します。

これらの治療は、頭皮環境を直接的に整えたり、全身のバランスを調整したりすることで、髪の回復を後押しします。

クリニックでの専門的な頭皮ケア

専門クリニックでは、高濃度の有効成分を頭皮に直接導入する施術や、LEDライトを照射して毛母細胞の活性化を促す治療などを行います。

これらの施術は、セルフケアでは届かない頭皮の深層部に働きかけ、育毛をサポートします。

頭皮環境を整える施術例

• メソセラピー（有効成分の直接注入）
• LED照射療法
• 専門機器によるディープクレンジング

ホルモンバランスを整えるための治療

産後脱毛症の根本的な原因であるホルモンバランスの乱れに対して、直接的にアプローチする治療法もあります。

これは主に婦人科領域の治療となりますが、薄毛治療専門の病院として連携し、総合的な観点から患者様の状態改善を目指すこともあります。

急激なホルモン変動が落ち着くまでの期間、心身の不調を和らげることも、抜け毛対策には重要です。

専門治療の選択肢

治療法	目的	主な特徴
育毛メソセラピー	発毛促進・頭皮環境改善	成長因子などを直接頭皮に注入する
LED照射	毛母細胞の活性化	非接触で痛みがなく、リラックスして受けられる
ホルモン補充療法	ホルモンバランスの調整	医師の厳密な管理下で行う必要がある

栄養バランスの改善 – 髪の成長に必要な栄養素

美しい髪を育む土台は、日々の食事から作られます。特に産後は、自身の回復と授乳のために多くの栄養を必要とします。

バランスの取れた食事は、産後脱毛症の予防と改善において、非常に重要な対策の一つです。

健康な髪を育む食事の基本

髪は主に「ケラチン」というたんぱく質でできています。そのため、良質なたんぱく質をしっかり摂ることが基本です。

加えて、そのたんぱく質を髪に変えるために必要なビタミンやミネラルもバランス良く摂取しましょう。

たんぱく質とアミノ酸

肉、魚、卵、大豆製品などに含まれるたんぱく質を毎食取り入れることを意識してください。これらの食品は、髪の材料となるアミノ酸を豊富に含んでいます。

亜鉛と鉄分

亜鉛はたんぱく質の合成を助け、鉄分は頭皮への酸素供給に欠かせません。これらが不足すると、髪が細くなったり、抜けやすくなったりする原因になります。

特に女性は鉄分が不足しがちなので、意識して摂取することが大切です。

ビタミンとミネラル

ビタミンB群は頭皮の新陳代謝を促し、ビタミンCはコラーゲンの生成を助け、ビタミンEは血行を促進します。

緑黄色野菜や果物、海藻類などを食事に加えることで、これらの栄養素を幅広く補えます。

髪に良い食事の組み合わせ例

主食	主菜	副菜
玄米ごはん	鮭の塩焼き（たんぱく質、ビタミンD）	ほうれん草のおひたし（鉄分、ビタミン類）
雑穀米	豚レバーの生姜焼き（鉄分、亜鉛）	わかめと豆腐の味噌汁（ミネラル、たんぱく質）
全粒粉パン	鶏むね肉のサラダ（高たんぱく低脂質）	ナッツとアボカドの和え物（ビタミンE）

生活習慣の見直し – 睡眠とストレス管理のポイント

産後の生活は、慣れない育児で睡眠不足になったり、ホルモンバランスの乱れからストレスを感じやすくなったりします。

これらの要因は自律神経の働きを乱し、血行不良を招いて抜け毛を悪化させる原因となります。生活習慣の改善は、重要なセルフケア対策です。

睡眠不足がもたらす影響と対策

髪は、私たちが眠っている間に成長ホルモンが分泌されることで育ちます。睡眠不足が続くと、この成長ホルモンの分泌が減少し、髪の成長が妨げられます。

赤ちゃんのお世話でまとまった睡眠時間を確保するのは難しいですが、質を高める工夫が大切です。

睡眠の質を高める工夫

• 赤ちゃんが寝ている間に一緒に昼寝をする
• 就寝前にスマートフォンを見るのをやめ、リラックスする時間を作る
• 家族に協力してもらい、1〜2時間でも一人で眠る時間をもらう

産後のストレスとの向き合い方

過度なストレスは血管を収縮させ、頭皮への血流を悪化させます。また、ストレスはホルモンバランスをさらに乱す原因にもなります。

完璧を目指さず、「できなくても仕方ない」と考えることや、短い時間でも自分の好きなことをして気分転換する時間を作ることが、有効な対策になります。

手軽にできるストレス対策

対策方法	ポイント	具体例
軽い運動	血行促進、気分転換	天気の良い日に赤ちゃんと散歩する、産後ヨガ
リラックス	副交感神経を優位にする	好きな音楽を聴く、アロマを焚く、深呼吸する
人と話す	悩みを共有し、気持ちを軽くする	家族や友人に電話する、地域の支援センターを利用する

自律神経とホルモンバランスの関連性

自律神経と女性ホルモンは、どちらも脳の視床下部という場所でコントロールされています。

そのため、ストレスや睡眠不足で自律神経が乱れると、その影響がホルモンバランスにも及び、抜け毛の回復を遅らせる原因となります。

生活リズムを整えることは、両方のバランスを保つ上でとても重要です。

頭皮ケアの基本 – 正しいシャンプーとマッサージ法

産後の頭皮は非常にデリケートな状態です。間違ったヘアケアは頭皮環境を悪化させ、抜け毛を増やす原因になりかねません。

毎日のシャンプーや頭皮ケアを見直すことも、大切な予防・改善対策です。

産後の敏感な頭皮に適したシャンプー選び

洗浄力の強いシャンプーは、必要な皮脂まで奪ってしまい、頭皮の乾燥やかゆみを引き起こすことがあります。

産後の頭皮ケアには、洗浄成分がマイルドなアミノ酸系やベタイン系のシャンプーがおすすめです。香りが強すぎない、無添加・低刺激性のものを選ぶと良いでしょう。

シャンプーの種類と特徴

シャンプーの種類	特徴	産後の頭皮への適性
アミノ酸系	洗浄力がマイルドで、保湿力が高い	◎ 最もおすすめ
高級アルコール系	洗浄力が強く、泡立ちが良い	△ 刺激が強すぎる可能性あり
石けん系	洗浄力が強い。髪がきしみやすい	△ 乾燥を招きやすい

血行を促進する頭皮マッサージ

頭皮マッサージは、硬くなった頭皮をほぐし、血行を促進するのに効果的です。シャンプー中や、育毛剤をつけた後に行うのがおすすめです。指の腹を使い、爪を立てずに優しく行いましょう。

正しい髪の洗い方と乾かし方

シャンプー前にはブラッシングで髪のほこりを落とし、お湯で予洗いすることで、シャンプーの泡立ちが良くなり、頭皮への負担を減らせます。

シャンプーは直接頭皮につけず、手で泡立ててから髪全体になじませます。

洗った後は、タオルで優しく水分を拭き取り、ドライヤーで根元からしっかりと乾かすことが、雑菌の繁殖を防ぎ、頭皮を清潔に保つポイントです。

産前からできる予防対策 – 妊娠中の準備

産後の抜け毛は多くの女性が経験するものですが、妊娠中からの準備でその程度を軽減できる可能性があります。産後を健やかに過ごすためにも、できることから対策を始めましょう。

妊娠中から始める食事と栄養管理

妊娠中も、髪の成長に必要な栄養素をバランス良く摂取することが大切です。特に、つわりなどで食事が偏りがちな時期は、意識してたんぱく質や鉄分、亜鉛などを補うようにしましょう。

この時期の栄養状態が、産後の体力や髪の健康にも影響します。

妊娠中に意識したい食事のポイント

• 和食中心のバランスの取れた食事を心がける
• 鉄分が豊富な赤身の肉や魚、ほうれん草などを積極的に摂る
• 髪の材料となる良質なたんぱく質（大豆製品、卵など）を欠かさない

髪と頭皮への負担を減らす習慣

妊娠中は、パーマやカラーリングはできるだけ避けるのが賢明です。薬剤が頭皮への刺激となる可能性があります。

また、髪をきつく結ぶヘアスタイルは、頭皮を引っ張り、血行不良や抜け毛の原因となることがあるため、注意が必要です。

授乳期の注意点 – 母乳育児と治療の両立

授乳中は、お母さんが摂取したものが母乳を通して赤ちゃんに影響を与える可能性があるため、薬の使用には特に慎重になる必要があります。しかし、抜け毛の悩みを我慢し続ける必要はありません。

授乳中でも可能な治療や対策はあります。

授乳中に使用できる治療法

授乳中でも安全に使用できるとされる外用の育毛剤や、サプリメントは存在します。クリニックでは、母乳への影響を最大限に考慮し、安全性の高い治療法から提案します。

例えば、特定の成分を含まない育毛剤の選択や、専門的な頭皮ケア施術などが挙げられます。

授乳中の治療選択肢

治療・対策	安全性	注意点
授乳中OKの外用育毛剤	高い	製品の注意書きを必ず確認する
頭皮マッサージ	非常に高い	強くこすりすぎないようにする
内服薬（医師処方）	要相談	自己判断は絶対にせず、必ず医師に確認する

薬の使用で迷った際の相談先

少しでも不安がある場合は、必ずかかりつけの産婦人科医や、当クリニックのような薄毛治療専門の病院・皮膚科に相談してください。

授乳状況や患者様の健康状態を総合的に判断し、最適な対策を一緒に考えます。

赤ちゃんへの影響を考えた対策

治療と並行して、ストレスを溜めない、栄養バランスの良い食事を摂る、質の良い睡眠を心がけるといった基本的な生活習慣の改善は、母乳の質を高めることにも繋がり、赤ちゃんにとっても良い影響を与えます。

抜け毛対策が、結果的に母子の健康全体に貢献すると考えることもできます。

治療効果を高める日常の工夫 – 継続的なケアのコツ

産後脱毛症の治療や対策は、始めてすぐに結果が出るものではありません。根気強くケアを続けることが、回復への一番の近道です。ここでは、日々のケアを無理なく続けるための工夫を紹介します。

長期的な視点でのセルフケア

抜け毛が減り始めても、すぐにケアをやめてしまうのではなく、健康な髪が育つ土台作りのために、バランスの取れた食事や良質な睡眠、正しい頭皮ケアは継続することが重要です。

これを機に、生活習慣全体を見直す良い機会と捉えましょう。

抜け毛の期間（いつまで）との向き合い方

産後の抜け毛は、一般的に産後半年から1年ほどで自然に落ち着くことが多いです。この「いつまで続くか」という見通しを知っておくだけでも、心の負担は軽くなります。

抜け毛の量に一喜一憂しすぎず、「今はそういう時期」と割り切ることも、ストレスを減らすための大切な対策です。回復のスピードには個人差があるため、焦らず自分のペースでケアを続けましょう。

よくある質問

抜け毛はいつまで続きますか？

個人差が大きいですが、多くの場合、産後3〜6ヶ月頃にピークを迎え、産後半年から1年程度で徐々に落ち着いてきます。

もし1年以上経っても改善が見られない、あるいは悪化するような場合は、他の原因も考えられるため、一度専門の病院に相談することをおすすめします。

治療はいつから始めるべきですか？

抜け毛が気になり始めたら、まずは食事や睡眠などの生活習慣の見直し、頭皮に優しいシャンプーへの変更といったセルフケアから始めてみましょう。

それでも不安が強い場合や、明らかに抜け毛が多いと感じる場合は、産後2〜3ヶ月頃からでも専門クリニックに相談していただいて構いません。

早めの対策が、回復を早めることにも繋がります。

どの病院・皮膚科に行けばよいですか？

まずは女性の薄毛治療を専門に扱っている皮膚科やクリニックがおすすめです。

産後脱毛症に関する知識と治療経験が豊富で、授乳中といったデリケートな時期の治療にも配慮した提案が可能です。

当クリニックでも、女性特有の髪の悩みに特化したカウンセリングと治療を行っています。

食事で特に気をつけることは何ですか？

バランス良く食べることが基本ですが、特に髪の主成分である「たんぱく質」、それをサポートする「亜鉛」、そして女性が不足しがちな「鉄分」を意識して摂取することが重要です。

無理なダイエットは栄養不足を招き、抜け毛を悪化させる原因になるため絶対に避けてください。