最近、抜け毛が増えた、頭皮がベタつく、かゆみが気になる…そんな悩みを抱えていませんか。
その症状、もしかしたら「脂漏性脱毛症」かもしれません。これは女性ホルモンの変化やストレス、生活習慣が原因で起こりやすい脱毛症です。
この記事では、専門的な視点からその正体と対策を詳しく解説します。
あなたの抜け毛、実は脂漏性脱毛症かもしれません
薄毛の悩みは男性特有のものと思われがちですが、多くの女性も抜け毛や髪のボリュームダウンに悩んでいます。
特に、これまでとは違う頭皮のベタつきやフケを伴う場合、それは一般的な抜け毛ではなく、「脂漏性脱毛症」という特定のサインかもしれません。
早期に気づき、正しい知識を持つことが、健やかな髪を取り戻す第一歩です。
女性の薄毛と脂漏性脱毛症の関係
女性の薄毛の原因は多岐にわたりますが、脂漏性脱毛症はその中でも特有の原因と症状を持つものです。
これは、頭皮の皮脂が過剰に分泌されることで引き起こされる「脂漏性皮膚炎」という皮膚トラブルが悪化し、結果として抜け毛につながる状態を指します。
ホルモンバランスが変動しやすい女性にとって、皮脂の分泌量は常に一定ではありません。そのため、誰にでも起こりうる身近な脱毛症の一つといえます。
脱毛症の主な種類と特徴
脱毛症の種類 | 主な原因 | 特徴的な症状 |
---|---|---|
脂漏性脱毛症 | 皮脂の過剰分泌、マラセチア菌の増殖 | ベタつくフケ、頭皮のかゆみ・赤み |
女性男性型脱毛症(FAGA) | ホルモンバランスの変化、遺伝 | 頭頂部を中心に髪が細くなる |
円形脱毛症 | 自己免疫疾患、ストレス | 円形・楕円形の脱毛斑が突然現れる |
脂漏性脱毛症とは – 皮脂の過剰分泌が引き起こす脱毛症の正体
この脱毛症の核心を理解するためには、まず「脱毛」の前に「皮膚炎」が起きているという事実を知ることが重要です。
つまり、脂漏性脱毛症は髪の病気というよりも、頭皮という土壌の健康が損なわれた結果として生じる症状なのです。健康な髪は、健康な頭皮から育ちます。
その土台が崩れてしまうのが、この脱毛症の本質です。
脱毛の引き金となる脂漏性皮膚炎
脂漏性皮膚炎は、皮脂腺の多い頭皮や顔(Tゾーンなど)に起こりやすい皮膚の炎症です。頭皮でこの炎症が続くと、毛穴が詰まったり、毛根がダメージを受けたりして、正常なヘアサイクルを維持できなくなります。
その結果、髪が十分に成長する前に抜け落ちてしまい、脱毛症へと進行します。この皮膚炎をいかにコントロールするかが、治療と予防の鍵を握ります。
頭皮環境を悪化させる皮脂とマラセチア菌
私たちの頭皮には、もともとマラセチア菌という常在菌が存在します。この菌は普段、特に害を及ぼすことはありません。
しかし、何らかの理由で皮脂が過剰に分泌されると、皮脂をエサにするマラセチア菌が異常に増殖します。
増殖した菌は、皮脂を分解して頭皮を刺激する物質を作り出し、これが炎症、かゆみ、そしてベタつくフケといった一連の症状を引き起こす原因となります。
マラセチア菌の役割変化
頭皮の状態 | 皮脂の量 | マラセチア菌の活動 |
---|---|---|
健康な頭皮 | 正常 | 無害な常在菌として存在する |
脂漏性皮膚炎の頭皮 | 過剰 | 異常増殖し、炎症の原因となる |
見逃しがちな初期症状 – 頭皮のベタつきから始まる髪の危険信号
脂漏性脱毛症の進行は、多くの場合、非常に緩やかです。そのため、初期のサインを見過ごしてしまうことが少なくありません。「最近、頭がベタつくだけ」「少しフケが増えたかな」といった些細な変化が、実は頭皮からのSOSである可能性があります。これらの初期症状に早く気づくことが、深刻な脱毛を防ぐためにとても大切です。
フケの質が変わったら要注意
フケには種類があり、その質を見極めることが診断の一助となります。パラパラと肩に落ちるような乾いたフケは、多くが頭皮の乾燥によるものです。
一方、脂漏性皮膚炎のフケは、皮脂を含んでいるため「湿り気があり、黄色っぽく、ベタベタしている」のが特徴です。洗髪してもすぐに髪の根元にフケがこびりつくようなら、注意が必要です。
フケの種類の比較
フケの種類 | 見た目・質感 | 主な原因 |
---|---|---|
乾性フケ | 白く、細かく、乾いている | 頭皮の乾燥、洗浄力の強いシャンプー |
脂性フケ | 黄色っぽく、大きく、湿ってベタつく | 皮脂の過剰分泌、マラセチア菌の増殖 |
我慢できない頭皮のかゆみと赤み
マラセチア菌の増殖によって引き起こされる炎症は、頭皮に赤みとかゆみをもたらします。
特にかゆみは、無意識のうちに頭皮を掻きむしる原因となり、頭皮をさらに傷つけ、炎症を悪化させる悪循環を生みます。
シャンプーを変えても治まらないしつこいかゆみや、頭皮が全体的に赤みを帯びている状態は、脂漏性皮膚炎が進行しているサインかもしれません。
頭皮のベタつきや特有の臭い
洗髪して数時間も経たないうちに頭皮や髪の生え際が脂っぽくなるのも、皮脂の過剰分泌を示す重要な症状です。
さらに、増えすぎた皮脂が酸化したり、雑菌が繁殖したりすることで、頭皮から脂っぽい独特の臭いが発生することもあります。これらの症状は、頭皮環境が著しく乱れていることを示しています。
今すぐできるセルフチェック – 5つのポイントで脱毛リスクを確認
ご自身の頭皮の状態が脂漏性脱毛症に当てはまるか、簡単なセルフチェックで確認してみましょう。以下の項目にいくつ当てはまるか数えてみてください。
もちろん、これはあくまで簡易的な目安であり、正確な診断は専門の病院やクリニックで行う必要があります。
頭皮の状態セルフチェックリスト
- 洗髪しても半日ほどで頭皮がベタつく
- 大きめで湿った、黄色っぽいフケが出る
- 頭皮にかゆみや赤みがある
- 頭皮にニキビのようなものができることがある
- 抜け毛が増え、髪のボリュームが減ったと感じる
チェック結果の評価
当てはまる数 | 脂漏性脱毛症のリスク | 推奨される行動 |
---|---|---|
0~1個 | 低い | 現在のヘアケアと生活習慣の維持を心がける |
2~3個 | 中程度 | 生活習慣やシャンプーの見直しを始める |
4~5個 | 高い | 早めに皮膚科や専門クリニックに相談する |
脂漏性脱毛症の根本原因 – ホルモンバランスと生活習慣の深い関係
なぜ皮脂は過剰に分泌されてしまうのでしょうか。その原因は一つではなく、私たちの体の内側と外側、両方の要因が複雑に絡み合っています。
特に女性の場合、ホルモンバランスのゆらぎが大きく影響します。また、日々のストレスや食生活、間違ったヘアケアも症状を悪化させる大きな原因となります。
内的要因 ホルモンバランスとストレス
皮脂の分泌をコントロールしているのは、主にホルモンです。男性ホルモンには皮脂の分泌を促す働きがあり、女性の体内にも男性ホルモンは存在します。
ストレスや睡眠不足、加齢などによって女性ホルモンが減少し、相対的に男性ホルモンの影響が強まると、皮脂の分泌が増加します。
これが、多くの女性が更年期周辺で頭皮トラブルを経験しやすい理由の一つです。
女性のライフステージとホルモンバランスの変化
ライフステージ | ホルモンの状態 | 皮脂分泌への影響 |
---|---|---|
思春期 | ホルモンバランスが不安定 | 増加しやすい |
成熟期(20~30代) | ストレスや生活習慣で乱れやすい | 変動しやすい |
更年期(40代以降) | 女性ホルモンが急激に減少 | 増加しやすい |
外的要因 食生活とヘアケア
日々の生活習慣も、皮脂の分泌量に直接影響します。特に、脂質の多い食事や糖分の多いスイーツ、アルコールの過剰摂取は、皮脂の分泌を促進する原因となります。
また、頭皮の健康を保つのに必要なビタミンB群が不足すると、皮脂のコントロールがうまくいかなくなります。
ヘアケアにおいても、洗浄力の強すぎるシャンプーで頭皮を洗いすぎると、かえって皮脂の分泌を促してしまうことがあるため注意が必要です。
専門医による正確な診断 – 適切な検査で原因を特定する方法
セルフチェックで脂漏性脱毛症の可能性が高いと感じたら、自己判断で対策を続けるのではなく、一度専門医に相談することが重要です。
特に女性の薄毛は、FAGA(女性男性型脱毛症)など他の脱毛症と見分けるのが難しい場合があります。
原因が異なれば治療法も全く異なるため、皮膚科や薄毛治療を専門とする病院で正確な診断を受けることが、改善への最短距離です。
皮膚科や専門病院で行う診断
診断では、まず問診で生活習慣や自覚症状、これまでの経緯などを詳しくヒアリングします。その後、医師が直接頭皮の状態を視診・触診し、炎症の有無やフケの状態、脱毛の範囲などを確認します。
これにより、症状の全体像を把握します。
マイクロスコープによる詳細な頭皮チェック
より詳しく頭皮の状態を調べるために、マイクロスコープ(拡大鏡)を用いた検査を行います。
これにより、肉眼では見えない毛穴の詰まりや皮脂の量、炎症の程度、頭皮の色、毛髪の太さなどを詳細に観察できます。
この客観的なデータは、脂漏性脱毛症なのか、あるいはAGAなどが併発していないかを判断するための重要な情報となります。
マイクロスコープで確認する主な項目
観察項目 | 健康な頭皮 | 脂漏性皮膚炎の頭皮 |
---|---|---|
頭皮の色 | 青白い | 赤み、黄色みがかっている |
毛穴の状態 | くぼみがはっきりしている | 皮脂で詰まっている、炎症がある |
毛髪 | 1つの毛穴から2~3本生えている | 細い毛が多い、1本の毛しか生えていない |
効果的な治療選択肢 – 医師が推奨する改善アプローチ
脂漏性脱毛症の治療は、単一の方法に頼るのではなく、複数のアプローチを組み合わせて行います。
現在の炎症を抑える治療、原因菌の増殖を抑える治療、そして体の内側から皮脂バランスを整える治療を並行して進めることが、効果的な改善につながります。
ここでは、医療機関で行われる主な治療法を紹介します。
医療機関での主な治療法
治療の基本は、まず「脂漏性皮膚炎」という頭皮の炎症を鎮めることです。その上で、根本原因である皮脂の過剰分泌やマラセチア菌の増殖をコントロールする対策を講じます。
症状の強さや範囲に応じて、塗り薬や飲み薬、そして専門的なケアを組み合わせて治療計画を立てます。
主な治療法の概要
- 外用薬(塗り薬)による炎症抑制
- 内服薬(飲み薬)による体質改善
- 抗真菌成分配合シャンプーの使用
- 生活習慣の指導
外用薬と内服薬によるアプローチ
炎症やかゆみが強い場合には、まずステロイドの外用薬(塗り薬)を使用して、頭皮の「火事」を速やかに鎮めます。同時に、マラセチア菌の増殖を抑えるための抗真菌薬の外用も行います。
また、体の内側からのアプローチとして、皮脂の分泌をコントロールするビタミンB群や、炎症を抑える抗ヒスタミン薬などの内服薬を処方することもあります。
処方される主な薬剤の種類
薬剤の種類 | 目的 | 主な成分・薬剤名 |
---|---|---|
外用ステロイド薬 | 炎症やかゆみを抑える | 吉草酸酢酸プレドニゾロンなど |
外用抗真菌薬 | マラセチア菌の増殖を抑える | ケトコナゾール、ミコナゾールなど |
内服薬 | 皮脂分泌の調整、かゆみの抑制 | ビタミンB2・B6、抗ヒスタミン薬など |
日常生活でできる予防対策 – 頭皮環境を整える具体的な方法
医療機関での治療と並行して、日々のセルフケアを見直すことは、症状の改善と再発予防のためにとても重要です。
脂漏性脱毛症は生活習慣病の一側面も持っているため、毎日の食事やシャンプー、ストレス管理が頭皮環境を大きく左右します。ここで紹介する対策を実践し、健康な頭皮を育む土台を作りましょう。
正しいシャンプーの選び方と実践
毎日のシャンプーは、治療の基本であり、最も重要な対策の一つです。ご自身の頭皮の状態に合わないシャンプーを使い続けると、症状を悪化させる原因にもなります。
シャンプー選びと洗い方の両方を見直しましょう。
シャンプー選びと洗髪のポイント
- 症状が強い時期は、ケトコナゾールなど抗真菌成分配合の薬用シャンプーを医師の指示に従って使用する。
- 症状が落ち着いたら、頭皮に優しいアミノ酸系の洗浄成分を使った低刺激性のシャンプーを選ぶ。
- 洗髪は1日1回まで。洗いすぎは頭皮を乾燥させ、かえって皮脂を増やす。
- 38℃程度のぬるま湯で、指の腹を使い、優しくマッサージするように洗う。
- すすぎ残しはかゆみやフケの原因になるため、十分に時間をかけて洗い流す。
食生活の改善で皮脂をコントロール
食べたものは、私たちの体、そして頭皮の状態に直接反映されます。皮脂の過剰分泌を招く食事を避け、頭皮の健康をサポートする栄養素を積極的に摂ることが大切です。
食事で心がけたいこと
控えるべき食品 | 積極的に摂りたい食品 |
---|---|
揚げ物、スナック菓子、動物性脂肪(肉の脂身など) | ビタミンB群(レバー、うなぎ、納豆、卵) |
ケーキ、チョコレート、清涼飲料水などの糖質 | ビタミンC・E(野菜、果物、ナッツ類) |
アルコール、香辛料の強いもの | 亜鉛(牡蠣、牛肉、チーズ) |
ストレス管理と十分な睡眠
ストレスや睡眠不足は、自律神経やホルモンのバランスを乱し、皮脂の分泌を増加させる大きな要因です。忙しい毎日の中でも、心と体を休ませる時間を意識的に作ることが、健やかな頭皮環境につながります。
適度な運動や趣味の時間を持つ、寝る前はスマートフォンを見ずにリラックスするなど、ご自身に合った方法でストレスを発散させ、質の良い睡眠を確保しましょう。
よくある質問
脂漏性脱毛症の治療と予防について理解を深めていただけたでしょうか。もし「自分の症状が脂漏性脱毛症かもしれない」と感じた方は、まず正確な症状の把握が重要です。
頭皮のベタつきやかゆみ、特徴的な抜け毛パターンなど、見逃しがちな初期症状を詳しく解説した「脂漏性脱毛症の症状とセルフチェックの仕方 」をぜひご覧ください。
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