老人（加齢）性脱毛症の原因と検査内容

「最近、髪のボリュームが減ってきた」「分け目が目立つようになった」と感じていませんか。それは加齢による自然な変化の一つ、加齢性脱毛症のサインかもしれません。

年齢を重ねることで髪質が変化するのは、女性にとって大きな悩みです。しかし、その原因は一つではありません。ホルモンバランスの変化、遺伝的な要因、そして日々の生活習慣まで、様々な要素が複雑に絡み合っています。

この記事では、なぜ加齢によって髪が薄くなるのか、その根本原因を深く掘り下げ、専門クリニックで行う具体的な検査内容まで詳しく解説します。

なぜ年齢とともに髪が薄くなるのか – 加齢性脱毛症の根本原因

加齢性脱毛症は、単に「年を取ったから」という一言で片付けられるものではありません。

その背景には、髪の成長サイクル（ヘアサイクル）の乱れや、長年の生活習慣が蓄積した影響など、複数の原因が存在します。

年齢を重ねるごとにこれらの要因が絡み合い、髪の健康状態を徐々に変化させます。

ヘアサイクルの変化と毛母細胞の働き

私たちの髪は、「成長期」「退行期」「休止期」というヘアサイクルを繰り返しています。健康な髪の成長期は2年から6年続きますが、加齢とともにこの期間が短くなる傾向があります。

成長期が短くなると、髪が十分に太く、長くなる前に抜けてしまい、結果として全体のボリュームが減少します。このサイクルの変化には、髪を生み出す毛母細胞の活動低下が深く関わっています。

細胞の活力が低下すると、健康な髪を育む力が弱まってしまうのです。

ヘアサイクルの各段階と期間の目安

段階	特徴	期間の目安
成長期	毛母細胞が活発に分裂し、髪が伸びる時期	2年～6年
退行期	毛母細胞の活動が衰え、髪の成長が止まる時期	約2週間
休止期	髪が抜け落ちるのを待つ時期	約3～4ヶ月

ホルモンバランスの変化が髪に与える影響

特に女性にとって、ホルモンバランスの変化は心身に様々な影響を与えますが、髪も例外ではありません。

更年期を迎える40代以降、女性の体は大きく変化し、それが加齢性脱毛症の引き金となることがあります。

女性ホルモン（エストロゲン）の減少

女性ホルモンの一つであるエストロゲンは、髪の成長を促進し、ヘアサイクルの成長期を維持する重要な役割を担います。また、髪にハリやコシを与え、豊かな髪質を保つ働きもあります。

しかし、閉経が近づくにつれてエストロゲンの分泌量は急激に減少し、髪の成長期が短縮され、抜け毛が増えやすくなります。これが、更年期以降に薄毛の悩みが深刻化しやすい理由の一つです。

相対的に優位になる男性ホルモンの影響

女性の体内にも、わずかながら男性ホルモンが存在します。エストロゲンが減少すると、相対的に男性ホルモンの影響が強まります。

特に注意が必要なのが、DHT（ジヒドロテストステロン）という強力な男性ホルモンです。これは、男性ホルモン（テストステロン）が5α還元酵素という酵素と結びつくことで生成されます。

DHTが毛根の受容体と結合すると、髪の成長を妨げ、ヘアサイクルを乱す信号を出すため、薄毛が進行します。

ホルモンバランスを乱す主な生活要因

要因	髪への影響	対策のヒント
過度なストレス	自律神経を乱し、ホルモン分泌に悪影響を与える	リラックスできる時間を作り、趣味を楽しむ
睡眠不足	成長ホルモンの分泌を妨げ、ホルモンバランスを崩す	毎日同じ時間に就寝・起床を心がける
不規則な生活習慣	体内時計が乱れ、ホルモン分泌のリズムが崩れる	バランスの取れた食事と適度な運動を習慣化する

遺伝的要因 – 家族歴から読み解く脱毛リスク

加齢性脱毛症のなりやすさには、遺伝的な要因も関わっています。「家族に薄毛の人がいると自分も…」と心配される方は少なくありません。

実際に、特定の遺伝子が脱毛のリスクを高めることが分かっています。

脱毛に関連する遺伝子の存在

薄毛のなりやすさに関連する遺伝子は、いくつか存在することが研究で示されています。特に、男性ホルモンの影響を受けやすい体質を決める遺伝子が重要です。

これは親から子へと受け継がれるため、家族歴は自身の脱毛リスクを知る上での一つの指標となります。

ただし、遺伝子がすべてを決めるわけではなく、あくまで「なりやすい傾向がある」ということを理解することが大切です。

5α還元酵素の活性度と男性ホルモン受容体の感受性

遺伝が関わるポイントは主に二つです。一つは、DHTを生成する5α還元酵素の活性度の高さ。もう一つは、DHTを受け取る毛根の男性ホルモン受容体の感受性の高さです。

これらの要素が遺伝的に強い傾向にあると、ホルモンの影響を受けやすく、薄毛が進行しやすいと考えられています。

生活習慣と環境要因が髪の老化に与える影響

遺伝やホルモンだけでなく、毎日の生活習慣も髪の健康を大きく左右します。特に栄養不足や血行不良は、髪の成長を妨げる大きな原因となり、加齢による影響を加速させます。

頭皮への栄養供給と血行不良

髪の成長に必要な栄養は、血液によって頭皮の毛母細胞へ運ばれます。しかし、ストレスや運動不足、喫煙などによって血行不良に陥ると、栄養が隅々まで行き渡らなくなります。

その結果、髪はやせ細り、抜けやすくなります。健康な頭皮環境を維持するためには、良好な血流が欠かせません。

頭皮の血行を促進する生活習慣

• 適度な有酸素運動（ウォーキングなど）
• バランスの取れた食事
• 十分な水分補給
• 頭皮マッサージ

髪の成長に欠かせない栄養素の不足

髪は主にケラチンというタンパク質でできています。そのため、タンパク質が不足すると、健康な髪は作られません。また、タンパク質の合成を助ける亜鉛や、血行を良くするビタミンEなど、特定の栄養素が不足することも薄毛の原因となります。

特に無理なダイエットは深刻な栄養不足を招き、髪に大きなダメージを与えるため注意が必要です。

健やかな髪を育むための主な栄養素

栄養素	主な働き	多く含まれる食品
タンパク質	髪の主成分であるケラチンの材料となる	肉、魚、卵、大豆製品
亜鉛	タンパク質の合成を助け、ヘアサイクルを正常に保つ	牡蠣、レバー、牛肉
ビタミンB群	頭皮の新陳代謝を促し、皮脂のバランスを整える	豚肉、うなぎ、玄米

専門医による診断の重要性 – 検査を受けるタイミング

薄毛の原因は多岐にわたるため、自己判断でケアを始めるのは危険な場合があります。他の病気が隠れている可能性も否定できません。

原因を正確に特定し、ご自身に合った対策を始めるために、まずは専門医に相談し、適切な検査を受けることが重要です。

自己判断のリスクと専門的な診断

市販の育毛剤やサプリメントを試す前に、なぜ髪が薄くなっているのかを知る必要があります。例えば、甲状腺の病気や膠原病などが原因で脱毛が起こることもあります。

専門医は、問診や視診、そして後述する各種検査を通して、加齢性脱毛症なのか、それとも別の疾患が原因なのかを的確に診断します。

クリニック受診を検討すべきサイン

• 以前より抜け毛が明らかに増えた
• 髪の分け目が広がり、地肌が透けて見える
• 髪全体のボリュームがなくなり、スタイリングがまとまらない
• 髪の毛が細く、弱々しくなったと感じる

血液検査で分かる脱毛に関連する数値

血液検査は、体内の状態を客観的な数値で把握するための基本的な検査です。髪の健康に直接的・間接的に関わる項目をチェックすることで、脱毛の原因を探る手がかりを得ます。

ホルモンバランスのチェック

血液中の女性ホルモン（エストラジオールなど）や男性ホルモン（テストステロン）の値を測定し、ホルモンバランスの状態を確認します。

特に更年期世代の女性では、これらの数値が脱毛の原因を解明する上で重要な情報となります。

栄養状態と全身の健康状態の確認

髪の材料となるタンパク質や亜鉛、鉄分（フェリチン値で貯蔵鉄を確認）などの過不足を調べます。これらの栄養不足は、直接的に薄毛につながります。

また、甲状腺ホルモンの数値を調べることで、脱毛を引き起こす可能性のある甲状腺機能の異常がないかも確認します。

血液検査で主にチェックする項目例

検査項目	何がわかるか	髪との関連性
女性・男性ホルモン	ホルモンバランスの状態	エストロゲンの減少や男性ホルモンの影響度を評価
鉄（フェリチン）	体内の貯蔵鉄量（隠れ貧血）	不足すると毛母細胞の活動が低下し、抜け毛が増加
亜鉛	髪の主成分の合成に必要なミネラル	不足すると健康な髪が作られず、ヘアサイクルが乱れる

遺伝子検査 – あなたの脱毛リスクを科学的に分析

近年、医療技術の進歩により、遺伝子レベルで個人の体質を調べることが可能になりました。

遺伝子検査は、ご自身の脱毛リスクを科学的な根拠に基づいて把握し、将来の対策を立てる上で非常に有効な手段です。

脱毛リスクの遺伝的傾向を把握する

遺伝子検査では、唾液や口腔内細胞を採取し、男性ホルモン受容体の感受性や5α還元酵素の活性度に関連する遺伝子を分析します。

これにより、遺伝的に脱毛しやすい体質かどうかを評価することができます。

治療薬の選定における遺伝子検査の役割

遺伝子検査の大きな利点は、治療を開始する前に、どの治療薬が自分に合いそうかを予測できる点にあります。例えば、特定の治療薬に対する反応性や副作用のリスクを遺伝子情報からある程度推測することが可能です。

これにより、効果が期待しにくい治療法を避け、より自分に合った治療法を効率的に選択できるため、治療の精度を高めることにつながります。

これは、時間的にも経済的にも無駄を減らし、安心して治療に臨むためにとても大切なことです。

遺伝子検査で分析する主な項目

分析項目	内容
アンドロゲン受容体遺伝子	男性ホルモン（DHT）の感受性の高さを分析
5α還元酵素関連遺伝子	DHTの生成しやすさを分析

頭皮と毛髪の専門的検査方法

血液検査や遺伝子検査が体内の要因を探るのに対し、頭皮や毛髪の状態を直接観察する検査も行います。これにより、現在の頭皮環境や髪の健康状態を詳細に把握します。

マイクロスコープによる頭皮診断

高倍率のマイクロスコープを使い、肉眼では見えない頭皮の状態を詳しく観察します。毛穴の詰まり、皮脂の量、乾燥や炎症の有無、頭皮の色などをチェックし、頭皮環境の評価を行います。

これにより、シャンプーやヘアケア方法が合っているかどうかの判断材料にもなります。

マイクロスコープで見る頭皮の状態

健康な頭皮	トラブルのある頭皮
青白く透明感がある	赤い（炎症）、黄色い（皮脂過剰）
毛穴がくぼんでいる	毛穴が皮脂や角質で詰まっている

毛髪の密度と太さの測定

専用の機器を用いて、一定範囲内の毛髪の本数（毛髪密度）や、一本一本の髪の太さ（毛髪径）を測定します。

これらのデータを定期的に測定することで、脱毛の進行度や治療の効果を客観的な数値で評価することができます。

検査結果の正しい読み方と今後の対策指針

各種検査が終わると、その結果を基に医師が総合的な診断を下します。一つの検査結果だけで判断するのではなく、すべての情報を組み合わせ、あなただけの脱毛の原因を探り当てることが重要です。

複数の検査結果を総合的に判断する

例えば、血液検査で栄養不足が判明し、かつマイクロスコープで頭皮の血行不良が見られれば、まずは食生活の改善と頭皮マッサージを指導する、といった具合です。

遺伝的なリスクが高いと分かっても、生活習慣を見直すことで進行を緩やかにできる可能性もあります。検査結果は、あなた専用の対策プランを立てるための設計図なのです。

検査結果に基づいた対策プランの例

主な原因	対策の方向性	具体的なアプローチ例
ホルモンバランスの乱れ	ホルモン補充療法や内服薬・外用薬の検討	医師の処方に基づく治療
栄養不足・血行不良	食生活の改善と生活習慣の見直し	サプリメントの活用、適度な運動
不適切な頭皮環境	ヘアケア方法の見直し	専門的な頭皮ケア、刺激の少ないシャンプーへの変更

よくある質問

検査には痛みはありますか？

血液検査の際に採血で注射の痛みがありますが、それ以外の遺伝子検査（唾液採取など）やマイクロスコープでの頭皮診断などは、痛みを伴うことはありませんのでご安心ください。

検査にはどのくらいの時間がかかりますか？

検査内容によりますが、初診時のカウンセリングから各種検査まで含めて、全体で1時間から1時間半程度を見ていただくとよいでしょう。詳しくはご予約の際にご確認ください。

検査や治療に健康保険は適用されますか？

加齢性脱毛症（FAGA）の検査や治療は、生命に直接関わる病気とは見なされず、容姿を整える「美容目的」の範疇とされるため、原則として健康保険が適用されない自費診療となります。

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