慢性甲状腺炎に伴う脱毛症の症状とセルフチェック法

最近、抜け毛が増えた、髪が細くなったと感じていませんか。その悩み、もしかしたら単なる年齢やストレスのせいだけではないかもしれません。

特に女性に多い慢性甲状腺炎（橋本病）は、脱毛の隠れた原因となることがあります。

この記事では、慢性甲状腺炎による脱毛症の特有の症状から、他の脱毛症との違い、ご自宅でできるセルフチェックの方法までを詳しく解説します。

慢性甲状腺炎に伴う脱毛症の特徴的な症状 – 他の脱毛との違い

慢性甲状腺炎、特にそれに伴う甲状腺機能低下症による脱毛には、他の脱毛症とは異なるいくつかの特徴があります。

この違いを知ることは、ご自身の脱毛の原因を推測し、適切な専門家へ相談する上で非常に重要です。やみくもに育毛剤を試す前に、まずは症状を正しく見極めましょう。

びまん性脱毛という特徴

この脱毛症の最も顕著な特徴は「びまん性脱毛」と呼ばれる状態です。これは、頭部の一部分だけが抜けるのではなく、髪の毛が全体的に、均一に薄くなっていく状態を指します。

特定の分け目が目立つようになるというよりは、全体のボリュームが失われたように感じることが多いでしょう。

特定の部位ではなく全体的に薄くなる

朝起きたときの枕元の抜け毛や、シャンプー時の排水溝に溜まる髪の量が増えることで、最初に変化に気づく方がほとんどです。

しかし、鏡を見てもどこか一部分がはっきりと薄くなっているわけではないため、気のせいかと思い過ごしてしまうことも少なくありません。

髪を束ねたときに、以前よりも細くなったと感じるのも、このびまん性脱毛のサインの一つです。

他の脱毛症との見分け方

女性の薄毛の悩みには様々な原因が考えられます。特に混同しやすい女性型脱毛症（FAGA）や円形脱毛症との違いを理解することで、より的確な判断が可能になります。

他の脱毛症との主な違い

脱毛症の種類	主な特徴	考えられる背景
慢性甲状腺炎に伴う脱毛	頭部全体の髪が均一に抜ける（びまん性）。髪が乾燥し、もろくなる。	自己免疫疾患。甲状腺ホルモンの不足。疲労感や体重増加などの全身症状を伴うことが多い。
女性型脱毛症（FAGA）	頭頂部や分け目を中心に薄くなる。髪が細く軟毛化する。	女性ホルモンの減少。遺伝的要因。全身症状は通常伴わない。
円形脱毛症	円形や楕円形の脱毛斑が突然現れる。境界がはっきりしている。	自己免疫疾患。毛包が攻撃される。ストレスが引き金になることも。橋本病と合併しやすい。

髪の抜け方で分かる症状の進行パターン

慢性甲状腺炎による脱毛は、ある日突然始まるわけではなく、時間をかけてゆっくりと進行します。髪の抜け方や髪質の変化に注意を払うことで、症状の進行度をある程度把握することが可能です。

早期に気づき、対策を始めることが改善への近道です。

初期症状としての抜け毛の増加

多くの場合、最初のサインは抜け毛の増加です。しかし、その変化は緩やかであるため、季節の変わり目やストレスのせいだと考えがちです。

普段から自分の抜け毛の量に意識を向けておくことが大切です。

日常生活で気づく変化

ブラッシングの際にブラシに絡まる毛の量、ドライヤーで髪を乾かした後に床に落ちている毛の量など、日常生活のふとした瞬間に「最近、多いかもしれない」と感じたら、それは注意すべきサインかもしれません。

症状進行期に見られる毛髪の変化

抜け毛の増加に加え、髪質そのものにも変化が現れ始めます。これは、甲状腺ホルモンの不足により、毛髪の成長サイクルが乱れ、健康な髪を育てることが難しくなるために起こります。

進行度と髪の状態

進行度	髪の状態	補足
初期	抜け毛がやや増える。髪のツヤが失われ始める。	この段階では気づきにくいことが多い。
進行期	明らかな抜け毛の増加。髪が乾燥し、パサつく。切れ毛や枝毛が目立つ。	全体的なボリュームダウンを自覚し始める。
重度	シャンプーのたびに大量に抜ける。地肌が透けて見えるようになる。	脱毛以外の全身症状も顕著になることが多い。

治療による改善期の兆候

適切な治療を開始し、甲状腺ホルモンのバランスが整い始めると、髪の状態にも良い変化が見られるようになります。この兆候を見逃さないことが、治療を継続するモチベーションにも繋がります。

抜け毛の減少と新しい産毛

まず、抜け毛の量が明らかに減ってきます。その後、頭皮をよく見ると、細くて短い産毛が生え始めていることに気づくでしょう。

この新しい髪が、時間をかけて太く長く成長していくことで、全体のボリュームが回復していきます。改善には時間がかかりますので、焦らずじっくりと見守ることが大切です。

慢性甲状腺炎に伴う脱毛症に現れる頭皮の変化

脱毛というと髪の毛にばかり目が行きがちですが、その土台である頭皮にも変化が現れます。甲状腺機能低下症は全身の新陳代謝を低下させるため、頭皮の健康状態にも影響を及ぼすのです。

頭皮の変化は、脱毛の原因を探る上で重要な手がかりとなります。

頭皮の乾燥とかゆみ

甲状腺ホルモンが不足すると、皮脂や汗の分泌が減少します。これにより、頭皮は潤いを失い、乾燥しやすくなります。乾燥した頭皮はバリア機能が低下し、少しの刺激でもかゆみを感じるようになります。

フケが増えたと感じる方もいます。

頭皮の色調の変化

健康な頭皮は青白い色をしていますが、甲状腺機能低下症になると血行不良が起こりやすくなります。その結果、頭皮が黄色っぽくくすんだり、血色が悪く見えたりすることがあります。

健康な頭皮と症状のある頭皮の比較

項目	健康な頭皮	甲状腺機能低下症の疑いがある頭皮
色	透明感のある青白い色	黄色っぽくくすんだ色、または赤みを帯びる
潤い	適度な潤いとツヤがある	乾燥してカサカサし、フケが出やすい
硬さ	弾力があり、指で動く	硬く、動きにくい。むくんでいる感じがする

頭皮の硬さ

全身のむくみ（浮腫）は甲状腺機能低下症の代表的な症状の一つですが、このむくみは頭皮にも現れます。むくんだ頭皮は血行が悪くなり、硬くなります。

硬い頭皮は健康な髪を育む環境として適しておらず、脱毛を助長する一因にもなります。

脱毛以外に注意すべき全身症状

慢性甲状腺炎（橋本病）による脱毛は、孤立した症状ではありません。多くの場合、体の様々な場所に不調のサインが現れます。

これらの全身症状に気づくことが、脱毛の根本的な原因である甲状腺の問題を早期に発見し、内分泌内科などの専門医へ繋がる重要な鍵となります。

特に女性は、これらの症状を更年期や多忙によるものと自己判断しがちなので注意が必要です。

体が発する危険信号

甲状腺ホルモンは、体のエネルギーを作り出す「元気のホルモン」です。これが不足すると、全身の代謝活動が低下し、様々な形でエネルギー不足のサインが現れます。

絶え間ない疲労感とだるさ

「しっかり寝ても疲れが取れない」「一日中体がだるくて何もする気が起きない」といった強い疲労感は、最もよく見られる症状の一つです。

これは単なる疲れではなく、病的な倦怠感であることが特徴です。

説明のつかない体重増加

食事の量は変わらない、むしろ食欲がないのに体重が増え続けるというのも、典型的な症状です。これは代謝が低下し、エネルギーが消費されにくくなるために起こる体重増加です。

むくみによって体重が増えることもあります。

見た目に現れるサイン

体の内部だけでなく、外見にも特徴的な変化が現れることがあります。脱毛と合わせてこれらのサインがないかチェックしてみてください。

脱毛以外の主な全身症状

分類	具体的な症状
代謝の低下	強い疲労感、倦怠感、体重増加、寒がり、発汗の減少
皮膚・外見	皮膚の乾燥、顔や手足のむくみ、声がかすれる、眉毛の外側3分の1が薄くなる
精神・神経	気力の低下、物忘れ、眠気、ストレスを感じやすい

精神面に及ぼす影響

甲状腺ホルモンの不均衡は、精神状態にも影響を与えます。理由もなく気分が落ち込んだり、これまで楽しめていたことに興味が持てなくなったりすることがあります。

これらの症状はうつ病と間違われることもありますが、根本には甲状腺の問題が隠れている可能性があります。

自宅でできる髪の状態チェック方法

専門的な診断は医師に委ねるべきですが、ご自宅で髪や毛根の状態を観察することで、異常のサインを早期に捉えることができます。日々の少しの注意が、深刻な状態になる前の対策につながります。

髪のハリ・コシを確認する

髪を一本つまんで、軽く引っ張ってみてください。健康な髪には弾力があり、簡単には切れません。

しかし、甲状腺機能の低下によって栄養が不足した髪は、ハリやコシがなく、ぷつっと切れやすくなっています。

指で感じる質感の変化

髪全体を触ったときの感触も重要です。以前と比べて、パサついていたり、ごわごわしたり、細くなったと感じる場合は注意が必要です。

髪のツヤが失われ、光沢がなくなったと感じるのもサインの一つです。

毛根の状態を観察する

自然に抜けた髪の毛の根元部分（毛根）を見てみましょう。毛根の状態は、毛髪の健康状態を映し出す鏡です。

健康な毛根と弱った毛根

状態	毛根の特徴	示唆すること
健康	マッチ棒の頭のように、丸く膨らんでいる。色は白っぽい。	正常なヘアサイクル（休止期）で自然に抜けた毛。
注意が必要	毛根が細く尖っている、または萎縮している。黒っぽい。	成長期の髪が何らかの原因で抜けてしまった可能性。

慢性甲状腺炎に伴う脱毛症の簡単セルフチェックリスト

これまでの情報を基に、ご自身でチェックできるリストを作成しました。脱毛に関する項目と、全身症状に関する項目の両方を確認してみてください。

複数の項目に当てはまる場合は、一度専門医に相談することをお勧めします。このチェックはあくまで目安であり、診断を確定するものではありません。

脱毛と頭皮に関するチェック項目

• 最近、枕やブラシにつく抜け毛が明らかに増えた
• 髪全体のボリュームが減り、地肌が透けて見える気がする
• 髪が乾燥してパサつき、ツヤがなくなった
• 眉毛の外側の部分が薄くなってきた
• 頭皮が乾燥し、フケやかゆみが気になる

全身症状に関するチェック項目

• 十分休んでも、強い疲労感やだるさが続く
• 食事量は変わらないのに、体重増加が続いている
• 人よりも寒がりで、手足がいつも冷たい
• 顔や手足がむくみやすい
• 物忘れが多くなったり、気分が落ち込みがちになったりする

チェック結果の考え方

これらの項目に3つ以上、特に脱毛と全身症状の両方に当てはまる項目がある場合は、甲状腺機能低下症の可能性があります。

気になる症状があれば、自己判断で放置せず、皮膚科や内分泌内科の受診を検討してください。

抜け毛の量と質を観察するポイント

「抜け毛が増えた」という感覚は主観的なものですが、量と質を客観的に観察することで、より正確に状態を把握できます。漠然とした不安を、具体的な情報に変えることが大切です。

抜け毛の量を把握する

毎日同じ時間に、同じ場所（例えば、朝起きたときの枕元やシャンプー後の排水溝）で抜け毛の量をチェックする習慣をつけましょう。正確な本数を数える必要はありません。

「昨日より多いか、少ないか」を意識するだけでも変化に気づきやすくなります。

抜け毛の質を見極める

抜けた毛の中に、細くて短い、成長しきる前に抜けてしまったような毛がどのくらい混じっているかを確認します。このような未熟な毛の割合が増えている場合、ヘアサイクルが乱れているサインです。

抜け毛の質の観察ポイント

観察ポイント	健康な状態	注意が必要な状態
太さ・長さ	太くて長い、しっかりした毛が多い	細くて短い、弱々しい毛の割合が増加
毛根の形	丸く膨らんだ毛根（棍毛）	細く尖った毛根や、毛根がない毛

症状の記録方法 – 変化を見逃さないためのコツ

日々の症状の変化を記録しておくことは、ご自身の状態を客観的に把握するため、そして医師に正確な情報を伝えるために非常に役立ちます。

スマートフォンや手帳など、続けやすい方法で記録を始めてみましょう。

なぜ記録が重要なのか

診察の時間は限られています。その短い時間で、これまでの経過を正確に伝えるのは難しいものです。

症状を記録したメモがあれば、医師はあなたの状態を的確に理解し、必要な検査や治療方針を立てやすくなります。

特にTSHなどの数値をみる血液検査の結果と、自覚症状の変化を照らし合わせる上で、記録は重要な情報源となります。

記録すべき項目

髪の状態だけでなく、全身の状態や生活の変化も合わせて記録することが、原因を探る上で役立ちます。

症状記録ノートのサンプル

日付	体調・気づいたこと	特記事項（ストレスなど）
例: 6月10日	抜け毛多い。朝からだるい。体重0.5kg増。	仕事で大きなプレゼンがあり、強いストレスを感じた。
例: 6月17日	抜け毛は変わらず。顔のむくみが気になる。	特になし。

写真を使った記録のすすめ

頭頂部や分け目など、気になる部分の写真を定期的に撮影しておくのも良い方法です。同じ場所、同じ明るさで撮影することで、変化がより客観的に分かります。

数週間から1ヶ月に1度程度の頻度で撮影すると、長期的な変化を捉えやすいでしょう。

専門医受診の判断基準となる症状

セルフチェックで気になる点があった場合、どのタイミングで、どの診療科を受診すればよいか迷うかもしれません。ここでは、受診の目安となる症状や、医師への伝え方のポイントを解説します。

皮膚科か内分泌内科か

脱毛の悩みで最初に思い浮かぶのは皮膚科かもしれません。一方で、甲状腺の病気は内分泌内科が専門です。どちらを受診すべきかは、あなたの症状によって異なります。

受診を検討する診療科の目安

• 皮膚科を推奨するケース: 脱毛以外の症状がほとんどなく、円形脱毛症のように部分的な脱毛が気になる場合。まず髪と頭皮の専門家に相談したい場合。
• 内分泌内科を推奨するケース: 脱毛に加えて、強い疲労感や体重増加、むくみなどの全身症状が顕著な場合。健康診断で甲状腺の異常を指摘されたことがある場合。

もし迷う場合は、まずはかかりつけ医や皮膚科に相談し、必要に応じて内分泌内科を紹介してもらうのがスムーズです。

受診を強く推奨するサイン

以下のような場合は、自己判断で様子を見ずに、早めに専門医に相談することを強くお勧めします。

• セルフチェックリストの脱毛項目と全身症状項目の両方に、複数当てはまる
• 脱毛の進行が速く、数ヶ月で明らかに薄くなったと感じる
• 日常生活に支障が出るほどの強い疲労感や気力の低下がある

医師に伝えるべきこと

診察の際には、事前に記録したメモを持参し、いつから、どのような症状があるのかを具体的に伝えましょう。

「なんとなく調子が悪い」ではなく、「3ヶ月前から抜け毛が増え、体重が2kg増えました」のように、具体的な数字を交えて話すと、より正確に状態が伝わります。

また、鉄欠乏の既往歴や、家族に甲状腺疾患の人がいるかどうかも重要な情報です。

よくある質問

ここでは、患者様からよく寄せられる質問にお答えします。

髪は元通りになりますか？

はい。慢性甲状腺炎（橋本病）による脱毛は、多くの場合、可逆的です。

原因である甲状腺ホルモンの不足を、治療によって適切に補うことでホルモンバランスが正常化すれば、毛周期も正常に戻り、再び髪は生えてきます。

ただし、改善には数ヶ月から1年程度の時間が必要です。焦らずに治療を続けることが大切です。

市販の育毛剤は効果がありますか？

甲状腺機能の低下が根本原因であるため、育毛剤だけで脱毛を止めて発毛させることは困難です。

育毛剤は頭皮環境を整える補助的な役割と捉え、まずは専門医による治療で、体の中から原因を改善することが最優先です。

食生活で気をつけることはありますか？

橋本病の場合、ヨウ素（昆布などに多く含まれる）の過剰摂取は、かえって甲状腺の機能を低下させることがあるため注意が必要です。サプリメントなどでの意図的な摂取は避けましょう。

また、髪の材料となるタンパク質や、健康な髪の育成を助ける亜鉛や鉄分をバランスよく摂ることも大切です。特に女性は鉄欠乏になりやすいので、意識するとよいでしょう。

ストレスも原因になりますか？

ストレスは、橋本病のような自己免疫疾患の症状を悪化させる一因となることがあります。

また、ストレス自体が脱毛を引き起こすこともあるため、上手に発散する方法を見つけることも、髪の健康を保つ上で重要です。

血液検査では何が分かりますか？

血液検査は、甲状腺の健康状態を知る上で非常に重要な検査です。

甲状腺ホルモン（FT4, FT3）の量と、甲状腺をコントロールするホルモンであるTSH（甲状腺刺激ホルモン）の値を測定します。甲状腺機能低下症では、TSHの値が高くなるのが特徴です。

また、自己抗体（抗TPO抗体など）を調べることで、橋本病かどうかの診断に繋がります。

慢性甲状腺炎に伴う脱毛症の関連記事