真菌性脱毛症・しらくも（頭部白癬）とは

なかなか治らないフケや頭皮のかゆみ、そして気になる抜け毛。その症状、もしかしたら単なる頭皮トラブルではなく、「しらくも」と呼ばれる真菌による感染症かもしれません。

女性のデリケートな頭皮の悩みに寄り添い、原因と正しい治療法、予防策を詳しく解説します。

あなたの脱毛、実は「しらくも（頭部白癬）」かもしれません

女性の薄毛や脱毛の悩みは、加齢やホルモンバランスの変化だけが原因ではありません。中には、特定の感染症が原因で引き起こされるケースも存在します。

その一つが「しらくも」、医学的には「頭部白癬」と呼ばれるものです。見過ごされやすいこの疾患について、まずは基本的な理解を深めましょう。

女性の薄毛の悩みと見過ごされる原因

薄毛や抜け毛で悩む女性は少なくありません。多くの場合、その原因をストレスや生活習慣、あるいは女性特有のホルモンの変動に求めがちです。

しかし、なかなか改善しないフケやかゆみを伴う脱毛の場合、白癬菌というカビ（真菌）が頭皮に感染している可能性を考える必要があります。

この感染症は、他の原因と混同されやすく、正しいケアが遅れがちになるため注意が必要です。

皮膚科での早期発見が重要な理由

しらくもは、放置すると脱毛の範囲が広がったり、炎症が悪化して治癒後も髪が生えにくい状態（瘢痕性脱毛）になったりするリスクがあります。

また、感染力が強いため、家族や周囲の人、さらにはペットにまでうつしてしまう可能性も否定できません。

そのため、疑わしい症状に気づいた時点で、できるだけ早く皮膚科を受診し、正確な診断のもとで適切な治療を開始することが、ご自身の頭皮と大切な人を守る上で非常に重要です。

真菌性脱毛症・しらくも（頭部白癬）の基本知識と概要

ここでは、しらくもがどのような病気なのか、その正体と脱毛が起こる仕組みについて詳しく見ていきます。原因となる菌の性質を知ることは、適切な対策への第一歩です。

「しらくも」とは何か

「しらくも」とは、その名の通り、頭に白い雲のようなもの（実際には細かいフケや鱗屑）ができる状態を指す俗称です。

医学的には頭部白癬と呼び、皮膚糸状菌（ひふしじょうきん）というカビの一種が頭皮や毛髪に寄生することで発症します。この菌は、水虫やたむしの原因菌と同じ仲間です。

白癬菌が引き起こす頭皮の感染症

原因となる白癬菌は、ケラチンというタンパク質を栄養源にして増殖します。ケラチンは髪の毛や皮膚の角質層に豊富に含まれているため、頭皮は白癬菌にとって格好の住処となります。

菌が毛髪の内部に侵入・増殖することで、様々な頭皮トラブルを引き起こすのです。

なぜ脱毛が起こるのか

白癬菌に感染した髪の毛は、菌がケラチンを分解するために非常にもろくなります。

健康な髪のようなしなやかさが失われ、わずかな力で途中で切れたり、根元から抜けたりしてしまいます。これが、しらくもによる脱毛の直接的な原因です。

白癬菌の活動と毛髪への影響

菌の活動	毛髪への影響	結果として現れる症状
ケラチンの分解	髪の強度が低下し、もろくなる	切れ毛、抜け毛の増加
毛髪内部での増殖	髪の構造が破壊される	脱毛斑、ブラックドット（黒点）
頭皮での炎症反応	毛根組織へのダメージ	かゆみ、フケ、重症化すると瘢痕性脱毛

見逃しがちな症状：円形脱毛症との違いを知る

しらくもの症状は、他の頭皮疾患、特に円形脱毛症と似ている点が多く、自己判断が難しい場合があります。しかし、注意深く観察すると、特有のサインが見つかります。

ここでは、しらくもの具体的な症状と、円形脱毛症との見分け方を解説します。

初期に現れる頭皮のサイン

感染の初期段階では、フケが増えたり、軽いかゆみを感じたりといった、ありふれた頭皮トラブルのような症状が現れます。この段階では、しらくもだと気づかないことがほとんどです。

しかし、通常のケアをしても改善しない場合は注意が必要です。

フケやかゆみだけではない注意点

しらくものフケは、乾燥した灰白色の細かい粉のような見た目が特徴です。脂漏性皮膚炎の黄色っぽく湿ったフケとは異なります。

また、かゆみの程度も様々で、全く感じない人もいます。かゆみがないからといって安心はできません。

特徴的な脱毛のパターン

しらくもが進行すると、円形または不規則な形の脱毛斑が現れます。脱毛部分の毛が根元からポキポキと折れ、黒い点々のように見える「ブラックドット」という所見は、しらくもを強く疑うサインの一つです。

しらくもと円形脱毛症の主な違い

項目	しらくも（頭部白癬）	円形脱毛症
脱毛斑の表面	カサカサしたフケや鱗屑、黒い点々がある	滑らかで光沢があり、フケなどはない
残存する毛髪	途中で切れた短い毛が多数見られる	毛がほとんど残っていないことが多い
主な原因	白癬菌という真菌による感染	自己免疫疾患と考えられている

重症化した場合の症状

まれに、白癬菌に対する体の免疫反応が過剰に起こり、「ケルスス禿瘡（とくそう）」という重症型に移行することがあります。

頭皮が大きく腫れあがり、膿が出て、強い痛みを伴います。この状態になると、治療後も髪が生えてこない後遺症が残るリスクが高まるため、一刻も早い皮膚科での治療が重要です。

自宅でできる真菌性脱毛症のセルフチェック方法

専門医の診断が最終的な確定診断となりますが、ご自宅で頭皮の状態をチェックすることで、受診の目安をつけることができます。普段からご自身の頭皮に関心を持つことが早期発見につながります。

自分の頭皮を観察するポイント

明るい場所で鏡を使い、頭皮全体、特にフケやかゆみ、脱毛が気になる部分をじっくりと観察してみてください。指の腹でやさしく触れ、地肌の状態を確認することも大切です。

セルフチェック項目

• 乾燥した細かいフケが増えていないか
• 毛が途中で切れていないか
• 脱毛部分に黒い点々（ブラックドット）はないか
• 頭皮に赤みやカサつきはないか

いつ皮膚科を受診すべきか

セルフチェックで一つでも当てはまる項目があり、市販のシャンプーなどを試しても改善が見られない場合は、専門的な診断が必要です。

特に、脱毛斑がはっきりとわかる場合や、かゆみが続く場合は、迷わず皮膚科を受診しましょう。

受診を推奨するサイン

症状のレベル	具体的な状態	推奨される行動
要注意	フケやかゆみが2週間以上続く	皮膚科への相談を検討
受診推奨	円形の脱毛や切れ毛を発見した	早めに皮膚科を受診
緊急	頭皮の腫れ、痛み、膿がある	直ちに皮膚科を受診

なぜ感染する？しらくも（頭部白癬）の原因を徹底解説

しらくもは感染症です。つまり、原因となる白癬菌がどこかからやってきて、あなたの頭皮にうつることで発症します。

ここでは、主な感染経路と、どのような人が感染しやすいのかを詳しく解説します。

主な感染経路

白癬菌は、人から人へ、動物から人へ、あるいは物を介して感染します。感染源を知ることで、効果的な予防が可能になります。

主な感染経路とその具体例

感染経路	具体的な例
ヒトからヒトへの感染	感染している人との直接的な接触、タオルや帽子の共有
動物からヒトへの感染	菌を持つ犬や猫などのペットとの接触
モノを介した感染	感染者のフケが付着したクシ、ブラシ、枕カバーの使用

感染リスクが高い環境と人々

特定の環境や人々は、感染のリスクが高まることが知られています。ご自身やご家族が当てはまるか確認してみましょう。

子供やペットからの感染リスク

子供は、学校や保育園などで頭を寄せ合って遊ぶ機会が多いため、集団で感染が広がりやすい傾向があります。また、最近では犬や猫などのペットから人にうつるケースも増えています。

ペットの体に脱毛やフケがないか、日頃からチェックしてあげることも大切です。

自身の水虫が原因になることも

意外と見落とされがちなのが、ご自身の水虫（足白癬）からの自己感染です。水虫を触った手で頭を掻くことで、足の白癬菌が頭皮にうつってしまうことがあります。

足に水虫の症状がある方は、同時に治療を進めることが重要です。

確実な診断のための皮膚科検査の流れ

「もしかして、しらくもかも」と思ったら、自己判断で市販薬を使う前に、まずは皮膚科で正確な診断を受けることが何よりも大切です。

皮膚科では、科学的な根拠に基づいた検査を行い、原因を特定します。

皮膚科での問診内容

医師はまず、あなたの症状について詳しく話を聞きます。

いつから症状が始まったか、かゆみや痛みの有無、家族やペットの状況、ご自身の水虫の有無など、診断の手がかりとなる情報を丁寧に聞き取ります。

顕微鏡を使った真菌検査

しらくもの診断で最も重要なのが、顕微鏡を用いた真菌検査です。患部のフケや毛髪を少し採取し、特殊な液体で処理した後に顕微鏡で観察します。

この検査で白癬菌が見つかれば、診断が確定します。痛みはなく、短時間で終わる簡単な検査です。

皮膚科での主な検査方法

検査方法	内容	目的
視診・問診	頭皮の状態観察と生活習慣などの聞き取り	疾患の可能性を絞り込む
直接鏡検法 (KOH法)	採取したフケや毛髪を顕微鏡で観察	白癬菌の有無を直接確認する
培養検査	検体を培地で育てて菌の種類を特定	菌の種類を特定し、最適な治療薬を選ぶ

検査でわかること

これらの検査により、症状の原因が本当に白癬菌なのか、それとも他の皮膚疾患なのかがはっきりとわかります。

また、原因となる菌の種類を特定することで、最も効果的な薬を選択するための重要な情報を得ることができます。

真菌性脱毛症・しらくも（頭部白癬）の治療選択肢

診断が確定したら、いよいよ治療が始まります。しらくもの治療は、水虫などとは異なり、特別なアプローチが必要です。ここでは、標準的な治療法と、その考え方について解説します。

治療の基本は飲み薬

しらくも治療の最も重要なポイントは、「飲み薬（内服薬）による治療が基本である」という点です。

白癬菌は毛髪の根元の深い部分にまで侵入しているため、体の内側から血流に乗って薬剤を届けなければ、菌を完全に死滅させることができません。

なぜ塗り薬だけでは不十分なのか

頭皮の表面に塗るタイプの薬（外用薬）では、有効成分が毛根の深部まで到達しません。

そのため、塗り薬だけでは一時的に症状が軽くなったように見えても、根本的な治癒には至らず、再発を繰り返す原因となります。

自己判断で市販の水虫薬などを使うことは絶対に避けてください。

飲み薬（内服薬）と塗り薬（外用薬）の役割の違い

薬の種類	主な役割	期待できる効果
飲み薬（内服薬）	治療の主役。毛根深部の菌を殺菌する	しらくもの根本的な治癒
薬用シャンプーなど	補助的な役割。頭皮表面の菌を減らす	かゆみやフケの軽減、他者への感染予防

補助的に用いる薬用シャンプー

皮膚科では、飲み薬と並行して、抗真菌成分を含む医療用のシャンプーが処方されることがあります。

このシャンプーの目的は、治療そのものではなく、頭皮表面の菌を洗い流してフケやかゆみを抑え、周囲への感染リスクを低減させることです。

シャンプーの正しい使い方と注意点

処方されたシャンプーは、医師の指示通りの頻度（週に数回など）で使用します。洗髪時は、爪を立てずに指の腹でやさしくマッサージするように洗い、すすぎ残しがないように丁寧に洗い流しましょう。

治療期間の目安

飲み薬による治療は、症状や菌の種類によって異なりますが、一般的に1〜3ヶ月程度の期間が必要です。

症状が良くなったからといって自己判断で薬の服用をやめてしまうと、生き残った菌が再び増殖し、再発につながります。

医師の指示通り、最後まで根気強く治療を続けることが大切です。

日常生活で実践できる効果的な予防対策

治療と並行して、日常生活での予防策を実践することが、再発防止と家族への感染拡大を防ぐ上で重要です。少しの心がけで、清潔な頭皮環境を維持しましょう。

頭皮を清潔に保つ習慣

白癬菌は湿った環境を好みます。毎日の洗髪で頭皮の皮脂や汗を洗い流し、洗髪後はドライヤーで髪と頭皮をしっかりと乾かす習慣をつけましょう。

日常で心がけたいこと

• 毎日の洗髪と十分な乾燥
• バランスの取れた食事
• 十分な睡眠
• ストレスの管理

身の回りの物の管理

菌は物に付着して感染を広げることがあります。特に頭に直接触れるものは、個人で使い分けることを徹底しましょう。

共有を避けるべきアイテム

アイテムの種類	具体的な物品
ヘアケア用品	クシ、ブラシ、ヘアアイロン
布製品	帽子、タオル、枕カバー、寝具
その他	ヘルメット、ヘアバンド

免疫力を維持する生活

健康な体は感染症に対する抵抗力も高まります。規則正しい生活を送り、体の免疫力を高く保つことも、真菌に負けない体を作るための大切な要素です。

家族への感染を防ぐために知っておくべきこと

もしあなたが、しらくもと診断された場合、ご自身だけでなく、同居する家族への配慮も必要になります。感染力が強いため、家庭内でのルールを決めて、みんなで協力して感染拡大を防ぎましょう。

家庭内での感染拡大を防ぐポイント

最も重要なのは、前述の通り、タオルやクシ、枕カバーなどの共有を避けることです。

また、治療中は、抜け落ちた髪の毛にも菌が付着している可能性があるため、床や寝具の掃除をこまめに行うことをお勧めします。

家族やペットに症状が見られたら

家族の中に、フケや脱毛など似たような症状を訴える人が現れた場合は、速やかに一緒に皮膚科を受診してください。

また、同居している犬や猫などのペットの皮膚に異常（脱毛、フケ、かさぶたなど）がないかも確認し、気になる点があれば獣医師に相談しましょう。

家族内での感染予防策

対策	具体的な行動	目的
個人用品の徹底	タオル、クシ、枕カバーを各自で分ける	モノを介した感染を防ぐ
清掃の強化	こまめな掃除機がけ、寝具の洗濯	抜け毛やフケに残る菌を除去する
健康観察	家族やペットの皮膚状態を確認する	万一の感染を早期に発見する

よくある質問

市販の薬や水虫薬で治療できますか

いいえ、できません。しらくも（頭部白癬）の治療には、皮膚科で処方される飲み薬が必須です。

市販の水虫薬（塗り薬）では毛根の深い部分にいる菌まで届かず、効果は期待できません。自己判断での使用は、かえって診断を遅らせる原因にもなるため避けてください。

治療中は髪を染めてもいいですか

治療中は頭皮がデリケートになっているため、ヘアカラーやパーマなどの化学的な刺激は避けるのが賢明です。治療を担当する医師に、いつから再開できるか相談してみましょう。

完治すれば髪は元通りに生えてきますか

早期に適切な治療を開始すれば、毛根の組織が破壊されていない限り、髪は再び生えてくることがほとんどです。

しかし、炎症がひどい重症型（ケルスス禿瘡）の場合や、治療が遅れた場合は、残念ながら永久的な脱毛（瘢痕性脱毛）として残ってしまうこともあります。

だからこそ、早期発見・早期治療が非常に重要です。

飲み薬の副作用が心配です

処方される抗真菌薬は、安全性が確認された薬ですが、まれに肝機能への影響などが出ることがあります。

そのため、医師は必要に応じて治療中に定期的な血液検査を行い、安全性を確認しながら治療を進めます。何か気になる症状が出た場合は、すぐに医師に相談してください。

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