真菌性脱毛症・しらくも（頭部白癬）の症状とセルフチェック法

女性の薄毛や脱毛の悩みは非常にデリケートです。特に、ある日突然円形の脱毛を見つけると、多くの方が「円形脱毛症かもしれない」と不安に感じます。

しかし、その症状、本当に円形脱毛症でしょうか。実は、真菌の一種である白癬菌が頭皮に感染して起こる「真菌性脱毛症（しらくも・頭部白癬）」の可能性も考えられます。

この疾患は、かゆみやフケ、赤みを伴う特徴的な脱毛を引き起こし、放置すると症状が広がるため早期の発見が重要です。

この記事では、ご自身の症状を正しく見極めるための具体的な症状とセルフチェック法を詳しく解説します。

あなたの脱毛症状、本当に円形脱毛症ですか？

頭皮に円形の脱毛斑を見つけると、多くの方が自己免疫疾患である円形脱毛症を思い浮かべます。

しかし、見た目が似ていても原因が全く異なる脱毛症があります。それが、カビ（真菌）の感染によって引き起こされる「真菌性脱毛症（しらくも）」です。原因が違えば、当然ながら対処法も異なります。

まずは、この二つの脱毛症の根本的な違いを理解することが、適切なケアへの第一歩です。

しらくも（頭部白癬）と円形脱毛症の根本的な違い

この二つの疾患の最大の違いは、その原因にあります。

円形脱毛症が、自身の免疫細胞が誤って毛根を攻撃してしまう内部的な要因で起こるのに対し、しらくもは白癬菌という外部からの病原体が頭皮に感染することで発症します。

つまり、しらくもは感染症であり、人から人へ、あるいはペットから人へとうつる可能性があります。特に、お子様がいるご家庭では注意が必要です。

症状で見分ける初期サイン

初期段階での見極めは難しい場合がありますが、頭皮の状態を注意深く観察することで、違いを見つけるヒントが得られます。

頭皮表面の状態比較

特徴	真菌性脱毛症（しらくも）	円形脱毛症
頭皮の見た目	カサカサしたフケや鱗屑（りんせつ）、赤みが見られる。	脱毛斑の表面は滑らかで、炎症やフケは通常見られない。
感覚	多くの場合、かゆみを伴う。	自覚症状はほとんどないことが多い。
毛髪の状態	毛が根元から折れ、黒い点々（ブラックドット）に見えることがある。	毛が抜け落ちる。切れ毛は少ない。

真菌性脱毛症・しらくも（頭部白癬）の初期症状を見逃すな

しらくも（頭部白癬）は、はじめは些細な頭皮トラブルのように現れるため、見過ごされがちです。

しかし、この初期サインに気づけるかどうかが、その後の症状の広がりや改善までの期間を大きく左右します。特に注意して観察したいポイントを解説します。

見過ごしやすい「フケ」や「赤み」

しらくもの初期症状として、まず現れるのが乾燥した細かいフケです。通常のフケと見分けがつきにくく、「頭皮が乾燥しているだけ」「シャンプーが合わないのかも」と考えてしまいがちです。

しかし、しらくものフケは、白癬菌が頭皮の角質層で増殖しているサインです。同時に、頭皮にポツポツとした赤みやかさぶたのようなものが現れることもあります。

これらは菌の活動によって引き起こされる炎症反応の始まりです。

フケの質の違い

フケの種類	特徴	関連する状態
しらくものフケ	灰色がかった、細かい粉状のフケ。脱毛部分に多く見られる。	真菌感染、かゆみ、赤み
乾燥性のフケ	白くカサカサしたフケ。頭皮全体に見られる。	空気の乾燥、洗浄力の強いシャンプー

特徴的な脱毛パターン

フケやかゆみと同時に、あるいは少し遅れて脱毛が始まります。しらくもの脱毛は、境界が比較的はっきりした円形または不規則な形をしているのが特徴です。

円形脱毛症のように、ある日突然ごそっと抜けるというよりは、徐々にその範囲の毛が薄くなっていくように感じることが多いです。

根元から折れる「黒点」の出現

しらくもに非常に特徴的な所見として、「ブラックドット（黒点）」があります。これは、白癬菌によって髪の毛のケラチンが破壊され、毛が頭皮の表面でポッキリと折れてしまうことで生じます。

折れた毛の断面が黒い点のように見えるため、このように呼ばれます。この黒い点々が脱毛斑の中に見られたら、しらくもである可能性が非常に高いと考えられます。

頭皮のかゆみと脱毛が同時に起こる理由

「最近、頭がすごくかゆいと思っていたら、髪も抜けてきた…」この二つの症状が同時に起こるのには、明確な理由があります。

それは、原因である白癬菌の活動そのものと、それに対する体の防御反応が関係しています。

原因菌「白癬菌」の活動

白癬菌は、皮膚の角質層や毛髪に含まれるケラチンというタンパク質を栄養源にして増殖します。

菌が頭皮の角質に侵入し、活動を始めると、その代謝物がアレルギー反応を引き起こし、強いかゆみや炎症（赤み）を発生させます。

さらに、菌は毛根の深い部分にまで侵入し、髪の毛そのものを破壊していきます。これが、かゆみと脱毛が同時に進行する直接的な原因です。

炎症反応としての脱毛

強いかゆみのために頭皮を掻きむしってしまうと、物理的な刺激で毛が抜け落ちたり、頭皮が傷ついて炎症が悪化したりします。

また、白癬菌に対する体の免疫反応が過剰になると、毛根周辺で強い炎症が起こり、正常な髪の成長が妨げられて脱毛につながります。

つまり、菌の直接的な破壊活動と、それに伴う炎症や掻破行動が、複合的に脱毛を引き起こしているのです。

真菌性脱毛症・しらくも（頭部白癬）の進行段階別症状

しらくもは、感染してからの時間経過や体の抵抗力によって、症状の現れ方が変化します。

放置すればするほど症状は重くなり、改善も難しくなるため、各段階の症状を知っておくことが早期発見・早期対応につながります。

初期段階 軽度のかゆみとフケ

感染の始まりです。この段階では、わずかなかゆみや、パラパラとした細かいフケが主な症状です。脱毛はまだ目立たないか、ごく小範囲にとどまるため、多くの方が気づかずに見過ごしてしまいます。

頭皮に少し赤みが見られることもあります。

中期段階 明確な脱毛斑と赤みの広がり

菌の増殖が活発になり、症状がはっきりと現れてくる段階です。円形の脱毛斑が明確になり、その部分には灰白色のフケが目立ちます。かゆみも強くなり、赤みや炎症も広がります。

特徴的な「黒点」もこの時期から観察されやすくなります。

重症段階 強い炎症と痛み（ケルスス禿瘡）

感染がさらに進行し、白癬菌に対する免疫反応が非常に強くなると、「ケルスス禿瘡（とくそう）」という重篤な状態に移行することがあります。脱毛斑がジクジクと湿って盛り上がり、膿を持つようになります。

かゆみに加えて痛みも伴い、全身の発熱やリンパ節の腫れが見られることもあります。この状態を放置すると、毛根が完全に破壊され、髪の毛が二度と生えてこない瘢痕性脱毛に至るリスクが高まります。

症状の進行度と主なサイン

進行段階	主な症状	注意すべきサイン
初期	軽いかゆみ、細かいフケ、わずかな赤み	シャンプーを変えても改善しないフケ
中期	明確な円形脱毛、強いかゆみ、黒い点々	脱毛部分の毛が根元で切れている
重症期	脱毛部分の腫れ、膿、痛み、発熱	脱毛部分がジクジクしている

自宅でできる頭皮と毛髪の観察ポイント

専門の医療機関で正確な検査を受けることが最も確実ですが、その前にご自身で頭皮の状態をチェックすることで、受診の必要性を判断する助けになります。

明るい場所で、手鏡などを使いながらじっくりと観察してみましょう。

頭皮の色と状態をチェック

まず、脱毛している部分やかゆみのある部分の頭皮の色を確認します。健康な頭皮は青白い色をしていますが、炎症が起きていると赤みを帯びたり、ピンク色になったりします。

また、カサカサと乾燥してフケが出ていないか、逆にジクジクして膿のようなものが出ていないかも重要な観察ポイントです。

毛髪の質感と折れやすさ

しらくもに感染した毛髪は、もろく切れやすくなります。脱毛部分に残っている短い毛を軽く指でつまんでみてください。健康な毛と比べて、簡単に途中で折れてしまわないか確認しましょう。

脱毛斑の中に、毛が抜け落ちずに根元で折れた「黒点」が見られるかどうかも、最も重要なチェックポイントの一つです。

毛髪のチェック項目

• 脱毛部分に黒い点々（ブラックドット）があるか
• 残っている毛が、元気なく簡単に折れないか
• 毛の根元が白や灰色の物質で覆われていないか

フケの種類と量

フケにも種類があります。肩に落ちるような大きなフケではなく、脱毛部分に付着しているような、灰色がかった細かい粉状のフケではないかを確認してください。

指で触ってみて、脂っぽくなくカサカサしているのがしらくものフケの特徴です。

真菌性脱毛症・しらくも（頭部白癬）セルフチェック7項目

これまでの観察ポイントを基に、ご自身の症状がしらくも（頭部白癬）に当てはまるかどうか、セルフチェックをしてみましょう。当てはまる項目が多いほど、専門医への相談を急ぐ必要があります。

セルフチェックリスト

チェック項目	はい / いいえ
1. 境界が比較的はっきりした円形の脱毛があるか？
2. 脱毛部分に、治りにくいかゆみや赤みがあるか？
3. カサカサした細かいフケが脱毛部分に目立つか？
4. 脱毛部分の毛が根元で折れ、黒い点々のように見えるか？
5. 家族（特に子供）に、同様の症状や水虫の人はいるか？
6. 犬や猫などのペットを飼っており、そのペットに脱毛や皮膚炎があるか？
7. 脱毛部分がジクジクしたり、少し盛り上がったりしているか？

「はい」が3つ以上あった場合は、真菌性脱毛症の可能性が考えられます。できるだけ早く専門の皮膚科を受診し、正確な検査と診断を受けることを強く推奨します。

他の脱毛症との症状の違いを見分ける方法

しらくもは、円形脱毛症以外にも、いくつかの皮膚疾患と症状が似ているため、自己判断が難しい場合があります。

ここでは、特に間違いやすい「脂漏性皮膚炎」と「毛嚢炎」との違いについて解説します。

脂漏性皮膚炎との比較

脂漏性皮膚炎は、皮脂の分泌が多い場所に起こる湿疹です。頭皮に発症すると、かゆみ、赤み、フケといった、しらくもと共通する症状が現れます。

しかし、フケの質や脱毛のパターンに違いがあります。

しらくも vs 脂漏性皮膚炎

特徴	真菌性脱毛症（しらくも）	脂漏性皮膚炎
フケの質	乾燥した灰白色の細かいフケ	湿り気のある黄色がかったフケ
脱毛の状態	境界が比較的はっきりした円形脱毛	頭皮全体の毛が薄くなる、びまん性脱毛が多い

毛嚢炎との比較

毛嚢炎は、毛穴の奥にある毛根を包む部分（毛包）に細菌が感染して起こる炎症です。見た目は、ニキビのように赤く盛り上がり、中心に膿を持つこともあります。

強い炎症が起これば脱毛することもありますが、その範囲は通常、単発の毛穴に限られます。

しらくも vs 毛嚢炎

特徴	真菌性脱毛症（しらくも）	毛嚢炎
発生範囲	円形に広がる脱毛と炎症	個々の毛穴を中心とした赤いブツブツ
フケの有無	細かいフケを伴うことが多い	通常、フケは伴わない

症状悪化のサインと受診タイミング

しらくもは、適切な対応をしないと確実に悪化していく感染症です。どのような症状が見られたら、すぐにでも専門医の診察を受けるべきなのでしょうか。

受診のタイミングを見誤らないためのポイントを解説します。

これらの症状が出たらすぐに皮膚科へ

セルフケアで様子を見ているうちに、症状が悪化してしまうケースは少なくありません。特に以下のサインが見られた場合は、自己判断を中止し、速やかに皮膚科を受診してください。

受診を急ぐべき症状

• 脱毛斑が明らかに大きくなってきた、または数が増えてきた
• かゆみが我慢できず、夜眠れないことがある
• 脱毛部分がジクジクしてきたり、膿が出たり、痛みを伴うようになった
• 頭や首のリンパ節が腫れてきた

放置するリスク

「そのうち治るだろう」と軽く考えて放置してしまうと、深刻な事態を招く可能性があります。

白癬菌は自然にいなくなることはなく、むしろ頭皮全体に広がり、同居する家族やパートナーにまで感染を広げてしまう危険性があります。

最も怖いのは、炎症が長期化することで毛根が完全に破壊され、永続的な瘢痕性脱毛になってしまうことです。一度瘢痕になると、その部分から髪が生えてくることは極めて困難になります。

受診タイミングの判断目安

症状	推奨される行動
フケや軽いかゆみが2週間以上続く	一度皮膚科に相談することを検討
明確な脱毛や黒い点々を発見した	できるだけ早く皮膚科を受診
痛み、腫れ、膿が出ている	直ちに皮膚科を受診

真菌性脱毛症・しらくも（頭部白癬）の症状を確認する

文章や表だけでは、実際の症状をイメージしにくいかもしれません。ここでは、典型的な症状の見た目の特徴をイラストで解説します。ご自身の頭皮の状態と見比べてみてください。

初期のフケと赤み

[Image of 頭皮のフケと赤みの初期症状のイラストぐっちさんお願いします]
頭皮の一部がうっすらと赤みを帯び、その上に乾燥した細かいフケが付着しています。この段階では、まだ脱毛は目立ちません。見た目は乾燥による頭皮トラブルと非常によく似ています。

円形の脱毛と黒点

[Image of 円形脱毛と黒点の症状のイラストぐっちさんお願いします]
境界が比較的はっきりした円形の脱毛斑が確認できます。脱毛斑の中央部分には、毛が根元で折れたことによる黒い点々（ブラックドット）が散在しています。周囲の頭皮には赤みと鱗屑（フケ）も見られます。

重症化したケルスス禿瘡

[Image of 重症化したケルスス禿瘡の症状のイラストぐっちさんお願いします]
脱毛部分が大きく腫れあがり、表面はジクジクと湿って黄色い膿や厚いかさぶたで覆われています。強い炎症により、周辺の毛も抜け落ちています。この状態は痛みを伴うことが多く、緊急の治療が必要です。

よくある質問

最後に、患者様からよくいただくご質問にお答えします。

子供から大人にうつることはありますか？

はい、うつる可能性はあります。しらくもは、主に子供の間で流行することが多い感染症ですが、タオルや帽子の共用、寝具などを介して大人に感染することは十分に考えられます。

ご家族に同様の症状がある場合は、同時に皮膚科で検査・治療を受けることが重要です。特に、抵抗力が落ちている方は感染しやすいため注意が必要です。

市販のシャンプーで治りますか？

いいえ、市販のフケ・かゆみ用シャンプーでしらくもを完全に治ることはありません。

これらのシャンプーは一時的に症状を和らげることはあっても、原因である頭皮の奥の白癬菌を殺菌することはできないからです。

不適切なセルフケアは症状の悪化を招く恐れがあるため、必ず専門医の診断を受けてください。

飲み薬は必ず必要ですか？

はい、原則として内服の抗真菌薬（飲み薬）による治療が必要です。白癬菌は毛根の深い部分にまで感染するため、塗り薬では有効成分が十分に届きません。

医師の指示に従い、一定期間、きちんと飲み薬を服用し続けることが、完治への唯一の道です。

ペットから感染することもあるのですか？

はい、近年増加している感染経路です。特に犬や猫などのペットが白癬菌に感染していると、飼い主が抱っこしたり、一緒に寝たりすることで感染することがあります。

ペットに脱毛や皮膚炎、フケなどの症状が見られる場合は、飼い主様ご自身の治療と並行して、動物病院でペットの治療も行うことが大切です。

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