真菌性脱毛症・しらくも（頭部白癬）の治療法と予防

頭皮のかゆみやフケ、そして気になる抜け毛。その原因が、単なる頭皮トラブルではなく「真菌（カビ）」による感染症「しらくも（頭部白癬）」だとしたら、大きな不安を感じるかもしれません。

特に女性にとって、髪の問題は深刻です。しかし、この疾患は正しい知識を持って適切な治療を行えば、改善が見込めます。

この記事では、女性の患者様が安心して治療に臨めるよう、真菌性脱毛症の様々な治療選択肢から、再発させないための具体的な予防策まで、専門的な観点から詳しく解説します。

真菌性脱毛症・しらくも（頭部白癬）の治療選択肢を知る

真菌性脱毛症の治療は、自己判断で進めるべきではありません。原因となる真菌の種類や症状の程度によって治療法が異なるため、まずは専門家である皮膚科医による正確な診断が全ての基本となります。

ここでは、クリニックで提案する主な治療の選択肢について、その全体像を解説します。

皮膚科での専門的な治療計画

しらくもの治療は、まず皮膚科を受診し、本当に真菌による感染であるかを確定させることから始まります。

他の脱毛症との鑑別が重要で、その上で患者様一人ひとりのライフスタイルや健康状態を考慮した治療計画を立てます。治療のゴールを共有し、二人三脚で完治を目指します。

患者様一人ひとりの症状に合わせた治療法

脱毛斑の広がり、炎症の有無、かゆみの強さといった症状は、患者様によって様々です。また、原因となる真菌の種類を特定することで、より効果的な抗真菌薬を選択できます。

治療方針は画一的ではなく、個々の状態に合わせて調整していくことが、改善への近道です。

主な治療法の比較

治療法	主な目的	特徴
内服薬（飲み薬）	毛根内部の真菌を殺菌	治療の基本。完治に必要。
外用薬（塗り薬）	頭皮表面の真菌を抑制	内服薬の補助的な役割。
薬用シャンプー	感染の拡大予防	頭皮を清潔に保ち、胞子を減らす。

外用薬による真菌性脱毛症・しらくも（頭部白癬）治療

塗り薬（外用薬）は、頭皮の表面にいる真菌に直接作用するため、治療において補助的な役割を果たします。

ただし、しらくもの根本的な治療は内服薬が中心であり、外用薬だけで完治させることは困難です。その役割と注意点を正しく理解することが大切です。

抗真菌薬を含む塗り薬の役割

処方される抗真菌成分を含む外用薬は、頭皮の表面で増殖する真菌の活動を抑え、かゆみなどの症状を和らげる助けとなります。

また、真菌の胞子が周囲に広がるのを防ぐことで、家族などへの感染リスクを低減させる効果も期待できます。

ステロイド外用薬使用の注意点

頭皮の炎症が強い場合、ステロイド外用薬の使用を考えるかもしれませんが、自己判断での使用は極めて危険です。

しらくもにステロイドを使用すると、免疫の働きを抑えてしまい、かえって真菌の増殖を助長し、症状を悪化させる原因となります。

ステロイド薬は、必ず皮膚科医の診断と指示のもとで使用してください。

外用薬の選択におけるポイント

ポイント	内容	理由
皮膚科での処方	必ず医師の診断に基づいた薬を使用する。	症状に合わない薬は効果がないか、逆効果になる。
補助的な位置づけ	内服薬治療と並行して使用することを理解する。	外用薬単独では毛根の奥の真菌に届かない。
正しい使用法	指示された範囲と回数を守り、清潔な手で塗布する。	効果を最大化し、副作用を防ぐため。

内服薬治療：確実な効果を目指すために

真菌性脱毛症の治療の根幹をなすのが、抗真菌薬の内服（飲み薬）です。真菌は毛髪の内部や、皮膚の深い部分にある毛根にまで侵入しているため、体の内側から薬剤を届ける必要があります。

確実な改善を目指すためには、内服薬の重要性を理解し、医師の指示通りに服用を続けることが何よりも重要です。

なぜ内服薬による治療が重要なのか

外用薬では有効成分が届かない毛髪の内部や毛根に潜む真菌を、血流に乗って全身に行き渡った内服薬が直接攻撃します。これが、しらくも治療において内服薬が第一選択となる理由です。

治療には数週間から数ヶ月を要しますが、ここで根気よく治療を続けることで、再発のリスクを大きく減らすことができます。

副作用と治療期間中のモニタリング

どのような薬にも副作用の可能性はありますが、抗真菌内服薬は一般的に安全性の高い薬です。

ただし、まれに肝機能への影響などが見られることがあるため、治療期間中は定期的に血液検査などを行い、体の状態を確認しながら安全に治療を進めます。

何か気になる症状があれば、すぐに医師に相談してください。

主な抗真菌内服薬の種類と特徴

薬剤の系統	特徴	服用期間の目安
テルビナフィン系	多くの皮膚糸状菌に高い効果を示す。	4～6週間程度
イトラコナゾール系	幅広い種類の真菌に効果が期待できる。	4～12週間程度
グリセオフルビン系	主に子供の治療で長く使われてきた実績がある。	6～8週間以上

外用薬と内服薬以外の補助治療法

内服薬と外用薬による治療を基本としながら、補助的な治療法を組み合わせることで、より快適に治療期間を過ごし、治療効果を高めることができます。

特に、頭皮環境を清潔に保つことは、症状の改善と感染拡大の防止につながります。

薬用シャンプーの正しい使い方と効果

抗真菌成分が含まれた薬用シャンプーは、治療の補助として非常に有効です。このシャンプーの目的は、病気を治すことではなく、頭皮表面の真菌の胞子を減らして感染が広がるのを防ぐことです。

医師の指示に従い、週に数回程度の使用が推奨されます。洗髪時は爪を立てず、指の腹で優しく洗い、十分にすすぐことが大切です。

薬用シャンプー使用時のポイント

ポイント	具体的な方法	目的
泡立てる	シャンプーを直接頭皮につけず、手でよく泡立てる。	頭皮への刺激を減らし、洗浄成分を均一に行き渡らせる。
時間をおく	泡をつけたまま2～5分ほど時間をおいてから流す。	有効成分を頭皮に浸透させる。
しっかり乾かす	洗髪後はタオルドライとドライヤーで根本から完全に乾かす。	真菌が好む湿った環境を作らない。

遺伝子検査に基づく個別化治療アプローチ

近年、医療はより個人に合わせた形へと進化しています。真菌性脱毛症の治療においても、遺伝子情報を活用することで、治療の精度を高めるアプローチが登場しています。

これにより、治療の初期段階から、より効果的な薬剤選択が期待できるようになりました。

治療薬の効果を予測する遺伝子検査

私たちの体には、薬を分解・代謝するための酵素があり、その働きには遺伝子による個人差があります。

治療を開始する前に遺伝子検査を行うことで、特定の抗真菌薬（内服薬）がその人の体でどのように作用するかを予測できます。

例えば、薬の効果が出やすいタイプか、あるいは副作用のリスクが比較的高いタイプかなどを事前に把握することが可能です。

この検査結果は、皮膚科医が数ある治療薬の中から最も合う薬を選ぶための重要な判断材料となります。

個別化治療のメリット

遺伝子検査の情報に基づいて治療薬を選ぶことで、効果が見られないといった事態や、予期せぬ副作用のリスクを減らすことができます。

治療の初期から高い効果が期待できるため、結果的に治療期間の短縮や、患者様の心身の負担軽減にもつながる可能性があります。

遺伝子検査による個別化治療の利点

利点	具体的な内容
治療効果の向上	個人にとって効果が出やすい薬剤を選択できる。
副作用リスクの低減	副作用が出やすい薬剤を避ける判断材料になる。
治療の効率化	薬の変更回数が減り、治療期間の短縮が期待できる。

治療効果を高める生活習慣の改善ポイント

薬による直接的な治療と並行して、日々の生活習慣を見直すことは、体の内側から治療をサポートし、回復を早めるために重要です。

特に、免疫機能と頭皮環境を良好に保つことが、真菌との戦いにおいて大きな力となります。

免疫力をサポートする食生活

体の抵抗力が弱まると、感染症にかかりやすくなります。バランスの取れた食事は、正常な免疫機能を維持するための基本です。

• ビタミンA、C、Eを含む緑黄色野菜や果物
• タンパク質が豊富な肉、魚、大豆製品
• 腸内環境を整える発酵食品や食物繊維

これらを意識して摂取し、体を内側から元気に保ちましょう。

頭皮を清潔に保つ日常の習慣

真菌は高温多湿の環境を好むため、頭皮を常に清潔で乾燥した状態に保つことが、真菌の増殖を抑える上で効果的です。毎日の洗髪を基本とし、汗をかいた日は特に丁寧に洗いましょう。

洗髪後は、ドライヤーで髪の根本からしっかりと乾かす習慣が大切です。

真菌性脱毛症・しらくも（頭部白癬）の再発を防ぐ予防戦略

長い治療期間を経て症状が改善しても、そこで終わりではありません。真菌性脱毛症は再発の可能性があるため、完治後も継続的な予防策を講じることが重要です。

ここでは、二度とつらい症状を繰り返さないための予防戦略を解説します。

治療完了後のセルフケア

医師から治療終了の診断を受けた後も、しばらくは薬用シャンプーを週に1〜2回使用するなど、頭皮のケアを続けると安心です。

また、頭皮の健康状態を日々チェックする習慣をつけ、小さな変化にも気づけるようにしましょう。

再発のサインと早期対応

もし再び、特定の場所にかゆみやフケ、少量の抜け毛といった症状が現れた場合は、再発のサインかもしれません。放置せずに、すぐに治療を受けた皮膚科を受診してください。

早期に対応することで、本格的な再発を防ぎ、短期間の治療で済む場合がほとんどです。

再発予防のためのチェックポイント

チェック項目	具体的な行動	目的
頭皮の衛生	定期的な洗髪と十分な乾燥を心がける。	真菌が増殖しにくい環境を維持する。
物品の共有	ブラシ、タオル、帽子の共有は避ける。	外部からの再感染リスクを断つ。
ペットの健康	ペットの皮膚に異常がないか定期的に確認する。	動物からの再感染を防ぐ。

家族や周囲への感染拡大防止対策

しらくもは接触によって人から人へ、また動物から人へとうつる可能性がある感染症です。

ご自身の治療はもちろんのこと、大切なご家族や周囲の人々を守るためにも、感染を広げないための対策を徹底することが社会的な責任ともいえます。

家庭内でうつる感染経路の遮断

感染者の髪の毛やフケには真菌が潜んでいます。これらが付着したものを共有することで、感染が広がります。特に子供がいるご家庭では、以下の物品の共有は避けてください。

• ヘアブラシ、櫛
• タオル、枕カバー
• 帽子、ヘアアクセサリー

また、ソファやカーペットなどもこまめに掃除機をかけ、清潔を保つことが予防につながります。

ペットが原因の感染とその予防策

犬や猫などのペットが、症状を見せないまま真菌を保菌している「無症状キャリア」である場合があります。

ご家族に感染者が出た場合、特に子供の感染では、ペットが感染源である可能性を考慮し、一度動物病院で検査を受けることを強く推奨します。ペットの寝床なども定期的に洗い、清潔な環境を保ちましょう。

家庭内で実践する衛生管理

対象物	清掃・消毒方法
寝具・タオル類	こまめに洗濯する。可能であれば温水洗濯や乾燥機の使用が望ましい。
ブラシ・櫛	使用後は洗浄し、個人専用にする。消毒用エタノールでの清拭も有効。
床・家具	掃除機をこまめにかけ、抜け落ちた毛髪やフケを除去する。

真菌性脱毛症・しらくも（頭部白癬）完治後のヘアケア方法

無事に治療が完了し、新しい髪が生え始めてきたら、その髪を健やかに育むためのヘアケアに切り替えましょう。

治療によって敏感になっている可能性のある頭皮をいたわり、健康な状態を長く維持するためのポイントをご紹介します。

頭皮に優しいシャンプーの選び方

治療が終わり、医師の許可が出たら、薬用シャンプーから頭皮への刺激が少ないアミノ酸系などの洗浄成分マイルドなシャンプーに切り替えることをおすすめします。

香料や着色料が少ない、シンプルな成分構成のものを選ぶと良いでしょう。

髪の成長を促す頭皮マッサージ

血行が良い頭皮は、髪に栄養を届けやすくなります。シャンプーの際や、リラックスタイムに、指の腹を使って優しく頭皮を動かすようにマッサージする習慣を取り入れてみましょう。

ただし、爪を立てたり、強くこすりすぎたりしないよう注意が必要です。

よくある質問

最後に、患者様からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。治療に関する疑問や不安の解消にお役立てください。

治療期間はどのくらいですか？

症状の程度や使用する内服薬の種類によって異なりますが、一般的には4週間から12週間程度の内服治療が必要です。

見た目がきれいになっても、医師が指示した期間は必ず薬を飲み続けることが、再発を防ぐために重要です。

治療中、髪は生えてきますか？

はい、適切に治療を行い、原因である真菌がいなくなれば、毛根が破壊されていない限り、髪は再び生えてきます。

通常、治療開始から数ヶ月で新しい髪の成長が見られ始めます。根気強く治療を続けましょう。

子供やペットにもうつるのでしょうか？

はい、しらくもは接触感染するため、特に免疫力が未熟な子供や、グルーミングなどで毛づくろいをするペットにはうつる可能性があります。

タオルやブラシの共有を避ける、ペットの健康状態をチェックするなど、家庭内での予防対策が大切です。

感染が疑われる場合は、ご家族も一緒に皮膚科、ペットは動物病院を受診してください。

市販の水虫薬では治りませんか？

いいえ、治りません。足の水虫と頭のしらくもは原因菌が同じ仲間である場合はありますが、感染している場所が異なります。

しらくもは毛根の奥深くに感染するため、市販の塗り薬では成分が届かず効果は期待できません。必ず皮膚科を受診し、内服薬による適切な治療を受けてください。