牽引（けんいん）性脱毛症の原因と検査内容

ポニーテールやお団子ヘアなど、特定の髪型を続けることで起こる「牽引性脱毛症」。この脱毛症は、日々の習慣が原因で頭皮に負担がかかり、大切な髪が抜けてしまう女性特有の悩みの一つです。

この記事では、牽引性脱毛症を引き起こす具体的な原因と、クリニックで行う専門的な検査内容について詳しく解説します。

牽引性脱毛症を引き起こす日常的な髪型とヘアスタイル

牽引性脱毛症の最も一般的な原因は、髪を強く引っ張る状態が続く髪型です。特に女性に人気のヘアスタイルの中には、無意識のうちに頭皮へ大きなダメージを与えているものがあります。

毎日の習慣が抜け毛につながるため、まずはご自身の髪型を見直すことが重要です。

ポニーテールが引き起こすリスク

きつく結ぶポニーテールは、生え際やこめかみ周辺の毛根に持続的な張力を加えます。この張力が血行不良を招き、毛包に栄養が届きにくくなることで、髪の成長が妨げられ、抜け毛へとつながります。

特に高い位置で結ぶスタイルは、頭皮への負担が大きくなる傾向にあります。

髪型と頭皮への負担レベル

髪型	主な負担のかかる部位	負担レベル
ハイポニーテール	生え際、こめかみ	高
きついお団子ヘア	結び目の周囲、うなじ	高
編み込み（コーンロウなど）	編み込みの根元全体	非常に高い
ゆるめのローポニー	結び目周辺	低

分け目を変えない習慣の危険性

毎日同じ分け目を続けていると、その部分の頭皮が常に外部からの刺激（紫外線など）にさらされ、同時に髪の重みで毛根に負担がかかり続けます。

この継続的な刺激と牽引が、分け目部分の薄毛を進行させる原因となります。定期的に分け目の位置を変えるだけで、このリスクは大きく改善します。

毎日の髪の結び方が与える頭皮への負担

髪を結ぶという行為そのものが悪いわけではありません。問題は「どのように」「どのくらいの時間」結んでいるかです。

頭皮の血行は髪の健康を維持するためにとても大切であり、誤った結び方は血行不良の直接的な原因になります。

長時間同じ状態で結ぶことの影響

朝から晩まで、あるいは就寝中も髪をきつく結んだままでいると、頭皮は休む暇がありません。毛根周辺の血管が圧迫され続け、血行不良が慢性化します。

これにより毛包が弱り、健康な髪を育てられなくなります。帰宅後や就寝時は髪をほどき、頭皮をリラックスさせることが対策の基本です。

結び方と頭皮へのダメージ

結び方の特徴	頭皮への主なダメージ	推奨される改善策
ゴムをきつく何重にも巻く	局所的な圧迫、血行不良	シュシュやスプリングゴムを使用する
濡れたまま髪を結ぶ	雑菌の繁殖、頭皮環境の悪化	完全に乾かしてから結ぶ
毎日同じ位置で結ぶ	特定の毛包への継続的な負担	日によって結ぶ高さを変える

ヘアアイロンの併用による複合ダメージ

髪をきつく結ぶ前にヘアアイロンで強く引っ張りながらスタイリングすると、熱によるダメージと牽引によるダメージが重なります。

この複合的なダメージは毛髪だけでなく、毛根にも深刻な影響を与え、抜け毛を加速させる要因になります。

エクステンションやウィッグによる物理的ストレス

手軽にヘアスタイルを変えられるエクステンションやウィッグも、牽引性脱毛症の原因となり得ます。これらは地毛に直接的な重さや張力を加えるため、使用方法には注意が必要です。

エクステンションの重さが毛根に与える負担

エクステンションは、数本の地毛に対して毛束を取り付けます。その重みが常に毛根にかかり続けるため、地毛が引っ張られ、毛包に炎症やダメージが生じることがあります。

特に本数が多い場合や、長期間付け続ける場合はリスクが高まります。

エクステンションの種類と牽引リスク

エクステンションの種類	取り付け方法	牽引リスク
編み込み式	地毛と一緒に編み込む	高い（編み目がきつい場合）
シールエクステ	シールで地毛を挟む	中程度（重さに注意）
超音波・熱	専用の接着剤で装着	中程度（取り外し時に注意）

ウィッグの固定方法と頭皮の血行不良

ウィッグを固定するために使用するピンやクリップ、締め付けの強いバンドは、頭皮の特定の部分を長時間圧迫します。

この圧迫が血行不良を引き起こし、接触部分の抜け毛や頭皮の痛みの原因となることがあります。通気性の良いものを選び、連続使用を避けることが改善につながります。

牽引性脱毛症の隠れた原因 – 無意識の習慣

髪型やヘアアクセサリー以外にも、自分では気づきにくい無意識の癖や習慣が、牽引性脱毛症の引き金になっていることがあります。

何気ない日常の行動が、頭皮にダメージを蓄積させているかもしれません。

髪をいじる癖（抜毛症との違い）

考え事をしている時などに、無意識に髪を指でねじったり、引っ張ったりする癖はありませんか。このような弱い力でも、毎日繰り返されることで毛根に負担がかかります。

これは、精神的な要因で自ら毛を抜いてしまう「抜毛症」とは異なりますが、物理的なダメージとしては同じく抜け毛の原因になります。

きついヘッドホンやヘアバンドの常用

長時間のデスクワークでヘッドホンを常用したり、洗顔時にきついヘアバンドを毎日使ったりすることも、生え際周辺の髪を圧迫し、引っ張る原因になります。

短時間なら問題ありませんが、毎日何時間も続く場合は注意が必要です。

注意すべき日常的な習慣

• 髪を指でくるくると巻く
• きつめの帽子を長時間かぶる
• 就寝時のナイトキャップが小さい
• ゴーグルやヘルメットの締め付け

医療機関で行われる視診と触診の流れ

牽引性脱毛症の診断は、まず医師による丁寧な問診と頭皮の状態の確認から始まります。

患者様の生活習慣や髪型の遍歴を伺いながら、抜け毛のパターンや頭皮の状態を直接見ることで、原因の見当をつけます。

問診で確認する生活習慣

医師はまず、あなたの日常についていくつか質問します。

どのような髪型をどのくらいの頻度でしているか、ヘアケアの方法、エクステやウィッグの使用経験、そして抜け毛が気になり始めた時期など、原因を特定するための重要な情報を集めます。

正直にお話しいただくことが、正確な診断への近道です。

視診による抜け毛パターンの確認

次に、医師が直接頭皮と髪の状態を目で見て確認します。牽引性脱毛症は特徴的なパターンを示すことが多く、診断の重要な手がかりとなります。

視診における主なチェックポイント

確認部位	チェックする項目	牽引性脱毛症でみられる所見
生え際・こめかみ	脱毛の範囲、産毛の有無	ヘアラインの後退、短い切れ毛
分け目	分け目部分の幅	幅が広がり、地肌が目立つ
頭皮全体	色、炎症、フケの有無	赤み、毛孔周辺の小さなブツブツ

ダーモスコピー検査で分かること

視診だけでは判断が難しい場合や、より詳しく頭皮の状態を調べるために「ダーモスコピー」という特殊な拡大鏡を用いた検査を行います。

この検査は痛みも無く、頭皮や毛穴の状態を数十倍に拡大して観察することができます。

毛穴と毛包の状態を拡大して観察

ダーモスコピーを使うと、肉眼では見えない毛穴の詰まりや、毛包周囲の炎症、血管の状態などを詳細に把握できます。牽引によるダメージを受けている毛包は、特徴的な変化を示します。

これにより、脱毛の活動性や進行度を評価します。

ダーモスコピーによる所見とその意味

ダーモスコピーでの所見	それが示す状態
毛包周囲の紅斑（赤み）	毛包が炎症を起こしているサイン
毛幹の太さの不均一	毛包が弱り、細い毛しか生えなくなった状態
脱毛斑（毛のない毛穴）	毛包が機能しなくなり、毛が消失した状態

他の脱毛症との鑑別

ダーモスコピーは、女性に多い他の脱毛症、例えば女性型脱毛症（FAGA）や円形脱毛症との鑑別にも役立ちます。

それぞれ特徴的な所見が異なるため、この検査によってより正確な診断が可能になります。

牽引性脱毛症の確定診断に必要な検査項目

多くの場合、問診、視診、ダーモスコピー検査で牽引性脱毛症の診断はつきます。しかし、症状が非典型的であったり、他の脱毛症の合併が疑われたりする場合には、追加の検査を行うことがあります。

毛髪引っぱり試験（Hair Pull Test）

これは、医師が指で数十本の毛束を軽く引っ張り、どのくらいの毛が抜けるかを調べる簡単なテストです。活動性の高い脱毛症がある場合、通常よりも多くの毛が容易に抜けます。

このテストは、脱毛の勢いを客観的に評価するのに役立ちます。

主な検査とその目的

• 視診・触診: 脱毛パターンと頭皮の炎症を確認
• ダーモスコピー: 毛穴レベルでの詳細な状態を観察
• 毛髪引っぱり試験: 脱毛の活動性を評価
• 血液検査: 他の全身性疾患や栄養障害を除外

血液検査で除外する他の脱毛症

抜け毛の原因は多岐にわたります。牽引性脱毛症と診断する前に、全身の健康状態が原因となる他の脱毛症の可能性を排除するために、血液検査を行うことがあります。

特に、急に抜け毛が増えた場合や、全身の倦怠感など他の症状がある場合に重要です。

甲状腺機能や貧血のチェック

甲状腺機能の異常（亢進症や低下症）や、鉄欠乏性貧血は、女性の薄毛の代表的な原因です。これらの状態は、血液検査でホルモンの値や鉄関連の数値（フェリチンなど）を調べることで分かります。

もし異常が見つかれば、そちらの治療を優先します。

血液検査で鑑別する主な脱毛症

脱毛症の種類	主な原因	血液検査での指標
びまん性脱毛症	鉄欠乏、亜鉛不足、甲状腺機能異常	フェリチン、亜鉛、甲状腺ホルモン
女性型脱毛症(FAGA)	ホルモンバランスの乱れ	男性ホルモン、女性ホルモン（参考）
膠原病に伴う脱毛	自己免疫疾患	自己抗体など

頭皮生検が必要になるケース

頭皮生検は、診断が非常に難しい場合に行う最終的な検査です。局所麻酔をした上で、頭皮の組織を数ミリ程度、円形に採取し、それを顕微鏡で詳しく調べる病理組織検査です。

診断が困難な非典型的な症例

様々な検査を行っても診断が確定しない場合や、瘢痕（はんこん）性の脱毛症など、毛包が完全に破壊されてしまう他の珍しい脱毛症との鑑別が必要な場合に、頭皮生検を検討します。

牽引性脱毛症が進行し、瘢痕化した状態でもこの検査が役立つことがあります。

生検を検討する状況

• 複数の脱毛症が合併している可能性が高い
• 治療への反応が全く見られない
• 永久的な脱毛（瘢痕性脱毛症）が疑われる

検査結果の見方と今後の方針

すべての検査が終わると、医師はそれらの結果を総合的に判断し、最終的な診断を伝えます。そして、その診断に基づいて、今後の対策や治療の方針を一緒に考えていきます。

診断の確定と重症度の評価

検査結果から「牽引性脱毛症」と確定診断された場合、次にその重症度を評価します。

脱毛はまだ可逆的な段階（毛包が生きている）なのか、それとも残念ながら不可逆的な段階（毛包が瘢ac痕化している）に進んでいるのかを判断することが、治療方針を決める上で重要です。

検査結果から分かることと次へのステップ

診断結果	主な状態	今後の方針
軽度の牽引性脱毛症	毛包は健在だが、炎症や血行不良がある	原因となる髪型の中止、セルフケアの指導
中等度の牽引性脱毛症	一部の毛包が萎縮、細い毛が多い	セルフケアに加え、育毛剤などの外用薬治療を検討
重度の牽引性脱毛症（瘢痕化）	毛包が破壊され、再生が見込めない	現状維持と、残っている毛髪の保護

患者様一人ひとりに合わせた対策の提案

診断と重症度に基づき、医師はあなたに合った具体的な対策を提案します。

原因となっている髪型や習慣をどう改善していくか、どのようなヘアケアが頭皮にとって良いか、必要であればどのような治療があるかなど、詳しく説明します。

分からないことや不安なことは、遠慮なく質問してください。

よくある質問

牽引性脱毛症は痛みを感じますか？

髪をきつく結んだ時に頭皮が痛む、あるいはジンジンするような感覚を伴うことがあります。これは頭皮が引っ張られているサインであり、血行不良や炎症の兆候です。

しかし、慢性化すると痛みを感じなくなることも多いため、痛みがないからといって安心はできません。

抜け毛に白い塊が付いていますが、これは何ですか？

抜け毛の根元についている白い塊は、毛根を包んでいる「毛包」の一部である可能性が高いです。

健康なヘアサイクルで自然に抜けた毛にも付いていますが、牽引性脱毛症で強制的に抜けた毛では、この毛包がよりはっきりと見えることがあります。

これが必ずしも危険なサインというわけではありませんが、抜け毛が増えたと感じる場合は注意が必要です。

原因の髪型をやめれば、髪はまた生えてきますか？

早期の段階であれば、原因となっている牽引をやめることで毛包のダメージが回復し、再び髪が生えてくる可能性は十分にあります。

しかし、長期間にわたって強い牽引が続き、毛包が完全に破壊され瘢痕化してしまうと、残念ながらその部分からの再生は難しくなります。

そのため、できるだけ早く原因に気づき、対策を始めることが何よりも大切です。

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