トリコスコピーは、ダーモスコープという特殊な拡大鏡を用いて、頭皮や毛髪の状態を数十倍から数百倍に拡大して観察する検査です。痛みは全くありません。

この検査により、肉眼では確認できない詳細な情報を得ることができます。例えば、毛穴ごとの毛髪の本数、毛髪の太さのばらつき、毛穴の詰まりや炎症の有無、頭皮の色、血管の走り方などを確認します。

AGAに特徴的な軟毛化（毛が細くなる現象）や、円形脱毛症に見られる特徴的な毛髪の形状（感嘆符毛）などを発見する上で非常に有効です。

プルテストは、医師が指で数十本程度の毛束を軽く引っ張り、どのくらいの毛が抜けるかを調べる、シンプルながらも重要な診察法です。

健康な状態であれば、数本抜ける程度ですが、活動性の高い脱毛症（例えば、急性期の円形脱毛症や休止期脱毛症）の場合、軽い力で多くの毛髪が抜けます。

この検査によって、現在「抜け毛が活発な状態」にあるかどうかを判断し、脱毛の勢いを評価します。治療効果の判定にも用いられ、治療によって抜け毛が減少しているかを確認する指標にもなります。

トリコグラムは、毛髪引き抜き試験で抜いた毛髪、あるいは意図的に抜いた毛髪の毛根部分を顕微鏡で詳細に観察する検査です。

毛根の形状を分析することで、その毛髪がヘアサイクルのどの段階（成長期、退行期、休止期）にあるかを判定します。

健康な頭皮では、全毛髪の約85〜90%が成長期にありますが、脱毛症が進行すると、休止期の割合が増加します。

この成長期と休止期の毛髪の比率を算出することで、ヘアサイクルの乱れの程度を定量的に評価し、脱毛症の診断や重症度の判定に役立てます。

毛髪は、体内の栄養状態を反映する鏡のような存在です。

毛髪ミネラル検査は、採取した毛髪を分析し、体内に蓄積されている必須ミネラル（亜鉛、鉄、銅など）や有害金属（水銀、鉛、カドミウムなど）の量を測定する検査です。

亜鉛は髪の主成分であるケラチンの合成に、鉄は酸素の運搬に重要です。ミネラルが不足すると、健康な髪の成長が妨げられます。

一方で、有害金属が体内に蓄積すると、細胞の働きを阻害し、脱毛の原因となることがあります。この検査は、食生活の偏りや生活環境に起因する薄毛のリスクを評価します。

頭皮の皮脂は、多すぎても少なすぎてもトラブルの原因となります。皮脂が過剰に分泌されると、毛穴が詰まり、酸化した皮脂が刺激となって炎症（脂漏性皮膚炎）を引き起こすことがあります。

この炎症は、かゆみやフケだけでなく、抜け毛を助長する要因にもなります。逆に、皮脂が少なすぎると頭皮が乾燥し、バリア機能が低下して外部からの刺激に弱くなります。

頭皮脂質分析では、専用の機器で皮脂の量を測定し、あなたの頭皮が脂性肌なのか乾燥肌なのか、あるいは混合肌なのかを客観的に評価し、適切な頭皮ケアを指導します。

頭部白癬（しらくも）は、白癬菌という真菌（カビの一種）が頭皮に感染することで起こる脱毛症です。フケやかゆみ、脱毛斑（毛が抜けた部分）が見られます。

特に、格闘技などで人との接触が多い場合や、ペットから感染するケースもあります。

診断を確定するためには、患部のフケや毛髪を採取し、顕微鏡で菌の存在を確認したり、培養して菌の種類を特定したりする真菌培養検査が必要です。

原因が真菌であれば、治療法は抗真菌薬の内服や外用となり、AGA治療とは全く異なるアプローチが求められます。

頭皮にニキビのような赤いブツブツ（毛嚢炎）ができたり、強いかゆみや痛みを伴ったりする場合、細菌感染が原因の可能性があります。特に、黄色ブドウ球菌などが原因となることが多いです。

細菌性頭皮炎を放置すると、炎症によって毛根がダメージを受け、脱毛につながることがあります。細菌培養検査では、膿や浸出液を採取して、原因となっている細菌の種類を特定します。

さらに、どの抗菌薬が有効かを調べる薬剤感受性試験も同時に行い、効果的な治療薬を選択するための重要な情報とします。

肝臓は、栄養素の代謝や解毒を行う重要な臓器です。食事から摂取したタンパク質をアミノ酸に分解し、髪の材料として供給する役割も担っています。

肝機能が低下すると、これらの働きが滞り、健康な髪の育成に必要な栄養が不足する可能性があります。

AST、ALT、γ-GTPなどの数値で肝臓の状態をチェックし、総蛋白やアルブミンの値から全身の栄養状態を評価します。

腎臓は、血液をろ過して老廃物を排出し、体内の水分やミネラルのバランスを調整する役割を担っています。腎機能が低下すると、体内に老廃物が溜まり、全身の健康状態が悪化します。

これは間接的に頭皮環境や毛髪の成長にも影響を与える可能性があります。

クレアチニン、eGFR、尿素窒素（BUN）などの項目を調べ、腎臓が正常に機能しているかを確認します。

特定の感染症が、脱毛症状を引き起こすことがあります。梅毒の第二期に見られる「梅毒性脱毛」は、虫食い状の脱毛斑が特徴的です。

また、HIV感染症の進行に伴い、免疫力の低下から脱毛が見られることもあります。

これらの感染症が疑われる場合、あるいは原因不明の脱毛症の場合、スクリーニング検査としてRPR法やTPLA法（梅毒）、HIV抗体検査などを行います。

血液中のコレステロールや中性脂肪が多い脂質異常症や、血糖値が高い糖尿病は、動脈硬化を促進し、血流を悪化させる原因となります。

頭皮の毛細血管は非常に細いため、血流が悪化すると毛根への栄養供給が真っ先に滞り、薄毛を進行させる要因となり得ます。

総コレステロール、LDL、HDL、中性脂肪、HbA1cなどを測定。

生活習慣病のリスクが薄毛に影響していないか評価します。

血液中の赤血球、白血球、血小板の数や状態を調べる基本的な検査です。特に、赤血球に含まれるヘモグロビンは、酸素を全身に運ぶ重要な役割を担います。

ヘモグロビンの値が低い貧血の状態では、毛母細胞が酸欠状態となり、細胞分裂が活発に行われなくなり、髪の成長が阻害されたり、抜け毛が増えたりします。

貧血の有無やその種類を特定することは、女性の薄毛診療において特に重要です。

自己免疫疾患は、免疫システムが誤って自分自身の正常な細胞や組織を攻撃してしまう病気です。

膠原病（全身性エリテマトーデスや関節リウマチなど）の中には、症状の一つとして脱毛が現れるものがあります。免疫の異常によって毛包が攻撃されたり、慢性的な炎症が頭皮環境を悪化させたりします。

CRPやESRで全身の炎症の程度を、抗核抗体（ANA）などで自己免疫疾患の可能性をスクリーニングします。