最近、抜け毛が増えたり、頭皮に違和感を覚えたりしていませんか?その症状、一般的な男性型脱毛症(AGA)とは異なる「瘢痕性脱毛症」かもしれません。
瘢痕性脱毛症は、毛包が破壊され再生不能になる進行性の脱毛症で、早期発見と適切な対応が重要です。この記事では、瘢痕性脱毛症特有の症状や、ご自身でできるセルフチェックの方法を詳しく解説します。
ご自身の頭皮の状態を正しく把握し、必要な場合は速やかに専門医に相談するための知識を深めましょう。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
その脱毛、本当に男性型脱毛症ですか?
脱毛の悩みを持つ多くの男性がまず思い浮かべるのは男性型脱毛症(AGA)かもしれません。しかし、脱毛の症状やパターンは一つではなく、中には注意が必要な別の種類の脱毛症も存在します。
その一つが「瘢痕性脱毛症」です。この脱毛症は、AGAとは異なる特徴を持ち、放置すると毛髪の再生が難しくなる可能性があります。
男性型脱毛症との違い

男性型脱毛症(AGA)は、主に男性ホルモンの影響で前頭部や頭頂部の毛髪が細く短くなり、徐々に薄毛が進行する状態を指します。多くの場合、頭皮に強い炎症や痛み、かゆみといった自覚症状は伴いません。
一方、瘢痕性脱毛症は、毛包(毛を作り出す組織)が炎症によって破壊され、その部分が瘢痕組織に置き換わることで永久的な脱毛が生じる疾患群の総称です。
この過程で、頭皮にかゆみ、痛み、赤みなどの炎症症状が現れることが多く、これがAGAとの大きな違いの一つです。
AGAでは毛包が小さくなるものの存在し続けるのに対し、瘢痕性脱毛症では毛包そのものが消失してしまうため、治療のアプローチも異なります。
瘢痕性脱毛症と男性型脱毛症(AGA)の主な違い
項目 | 瘢痕性脱毛症 | 男性型脱毛症(AGA) |
---|---|---|
主な原因 | 毛包周囲の炎症、自己免疫疾患など多様 | 男性ホルモン、遺伝 |
炎症症状(かゆみ、痛み、赤み) | 伴うことが多い | 通常伴わない |
毛包の状態 | 破壊され、瘢痕組織に置き換わる(消失) | 小型化するが、存在はする |
進行 | 不可逆的な脱毛に至ることが多い | 進行性だが、早期治療で進行を遅らせることが可能 |
瘢痕性脱毛症とは何か
瘢痕性脱毛症は、単一の疾患ではなく、様々な原因によって毛包が破壊され、その結果として瘢痕(はんこん)を形成し、永久的な脱毛を引き起こす疾患の総称です。
毛包が破壊されると、その部分からは二度と毛が生えてこなくなるため、早期の診断と進行を抑える治療が非常に重要になります。
原因としては、自己免疫反応の異常、感染症、物理的な損傷、特定の皮膚疾患などが考えられますが、原因不明の場合もあります。
この脱毛症は、初期症状を見逃さず、速やかに皮膚科専門医の診断を受けることが、悪化を防ぐ鍵となります。
瘢痕性脱毛症の特徴的な初期症状を見逃していませんか
瘢痕性脱毛症は、初期の段階では自覚症状が軽微であることもあり、見過ごされやすい傾向があります。しかし、この時期に適切な対応をとることが、将来的な脱毛の範囲を最小限に抑えるために極めて重要です。
頭皮に現れる些細な変化に気づき、それが瘢痕性脱毛症の初期症状である可能性を認識することが第一歩です。
初期症状のサイン
瘢痕性脱毛症の初期症状は、原因となる疾患によって多少異なりますが、共通していくつかのサインが見られることがあります。
これらはAGAではあまり見られない症状であるため、注意深く観察する必要があります。
頭皮の違和感
初期には、脱毛部分やその周辺に持続的なかゆみ、ピリピリとした痛み、あるいはジンジンとした熱感のような違和感を覚えることがあります。

これらの症状は、毛包周囲で炎症が起きているサインかもしれません。特に、これまで頭皮トラブルが少なかった方が、急にこのような症状を感じ始めた場合は注意が必要です。
初期症状としてのかゆみや痛みは、我慢できる程度であることも多く、つい放置してしまいがちですが、これが毛包破壊の始まりである可能性を念頭に置くべきです。
また、特定の箇所だけが繰り返し赤みを帯びる、小さなプツプツができるといった変化も、見逃せない初期症状の一つです。
見過ごしやすい変化
初期の脱毛は、広範囲に起こるのではなく、比較的小さな範囲でまだらに現れることがあります。そのため、髪の毛で隠れて気づきにくいことも少なくありません。
また、抜け毛が増えたと感じても、季節の変わり目やストレスのせいにしてしまい、瘢痕性脱毛症の可能性を考えないケースも見られます。
しかし、抜け毛と共に頭皮に赤みやフケ、あるいは軽い痛みや違和感がある場合は、単なる抜け毛ではない可能性を疑う必要があります。
毛穴が少しずつ目立たなくなってくる、頭皮が部分的にツルツルして見える、といった変化も初期症状として現れることがあります。
早期発見の重要性
瘢痕性脱毛症の最大の特徴は、毛包が破壊されると元に戻らない「不可逆的な脱毛」であるという点です。
つまり、一度瘢痕化してしまった部分の毛髪を再生させることは、現在の医療技術では非常に困難です。したがって、いかに早い段階で毛包の破壊を食い止めるかが、治療の成否を大きく左右します。
初期症状の段階で皮膚科専門医による正確な診断を受け、適切な治療を開始することで、炎症を鎮め、毛包破壊の進行を遅らせたり、止めたりすることが期待できます。
早期発見と早期治療が、残っている毛髪を守り、QOL(生活の質)を維持するために何よりも大切です。
頭皮の炎症・かゆみ・痛みがある脱毛は要注意
脱毛と同時に頭皮に炎症、かゆみ、痛みといった症状が現れている場合、それは瘢痕性脱毛症の重要なサインである可能性があります。
これらの症状は、毛包周囲で何らかの異常が起きていることを示しており、放置すると毛包破壊が進み、永久的な脱毛につながる危険性があります。
単なる頭皮の荒れや一時的な刺激と自己判断せず、慎重な対応が求められます。
炎症を伴う脱毛
炎症は、身体が異常に対して防御反応を示している状態です。瘢痕性脱毛症においては、この炎症が毛包を攻撃し、破壊する主要な原因となることがあります。
頭皮の炎症は、赤み、腫れ、熱感、かゆみ、痛みなど、様々な形で現れます。
赤みや腫れの確認
頭皮の一部、特に脱毛が見られる部分やその周辺が赤みを帯びていたり、わずかに盛り上がって腫れているように感じたりする場合、炎症が起きている可能性が高いです。

鏡を使って頭皮の色を注意深く観察し、健康な部分と比較してみましょう。特に、境界が比較的はっきりした赤みや、毛穴の周囲が赤く見える場合は、毛包炎やそれに類する炎症が関与しているかもしれません。
このような赤みや腫れが長期間続く、あるいは徐々に範囲が広がっている場合は、皮膚科専門医の診断が必要です。
かゆみが示す危険信号
頭皮のかゆみはありふれた症状ですが、瘢痕性脱毛症におけるかゆみは、単なる乾燥や不潔さからくるものとは異なる場合があります。
特に、我慢できないほどの強いかゆみや、特定の場所に限定された持続的なかゆみは、炎症活動が活発であるサインかもしれません。
かゆみのために頭皮を掻きむしってしまうと、さらに炎症が悪化し、二次的な細菌感染を引き起こすリスクもあります。これが毛包破壊を助長し、瘢痕化を早めることにもつながりかねません。
かゆみが強い場合は、掻かずに冷やすなどの対処をしつつ、早めに専門医に相談することが重要です。
頭皮の炎症サインと対応
炎症サイン | 考えられる状態 | 推奨される初期対応 |
---|---|---|
持続する赤み | 毛包周囲の炎症 | 刺激の少ないシャンプーを使用、掻かない |
強いかゆみ | 炎症、アレルギー反応 | 冷やす、掻かない、早期に皮膚科受診 |
部分的な腫れ・熱感 | 活動性の高い炎症 | 刺激を避け、速やかに皮膚科受診 |
痛みを伴う場合
頭皮に痛みを感じる場合も、瘢痕性脱毛症の重要な兆候の一つです。痛みは、炎症が神経を刺激していることや、組織の損傷が起きていることを示唆します。
痛みの種類や程度も様々ですが、注意が必要です。
ズキズキする痛みや圧痛
脱毛部分やその周辺に、ズキズキとした拍動性の痛みや、押すと痛む「圧痛(あっつう)」がある場合、炎症が比較的強く起きている可能性があります。
このような痛みは、日常生活に支障をきたすこともあり、精神的なストレスにもつながります。
痛みが強い場合は、炎症を抑制する治療が必要となることが多いため、自己判断せずに皮膚科医の診察を受けましょう。
触れると痛い、ヒリヒリする痛み
髪をとかすときや、シャンプーをするとき、あるいは軽く触れただけでも頭皮に痛みを感じる場合、知覚過敏や炎症が考えられます。ヒリヒリとした灼熱感を伴うこともあります。
これらの症状は、毛包周囲の神経が炎症によって刺激されていることを示しているかもしれません。
このような痛みが続く場合は、瘢痕性脱毛症の原因となる疾患が活動している可能性があり、早期の診断と治療が求められます。
毛穴が消失する進行性の脱毛パターンとは
瘢痕性脱毛症の最も深刻な特徴は、毛包が破壊され、最終的に毛穴そのものが消失してしまうことです。
この過程は徐々に進行するため、初期には気づきにくいかもしれませんが、注意深く観察することでその兆候を捉えることができます。
毛穴の消失は、その部分からの毛髪再生が不可能になることを意味するため、このサインを見逃さないことが重要です。
毛包破壊のサイン

毛包破壊は、瘢痕性脱毛症の中核的な病態です。炎症が持続することで毛包組織が徐々に線維化し、最終的には機能しない瘢痕組織に置き換わってしまいます。
この変化は、頭皮の見た目にも現れます。
毛穴の目立たない頭皮
健康な頭皮では、毛穴は肉眼でも確認できます。しかし、瘢痕性脱毛症が進行すると、毛包が破壊されるにつれて毛穴が徐々に小さくなり、やがて見えなくなってしまいます。
脱毛部分の頭皮をよく観察し、毛穴が以前よりも目立たなくなっていないか、あるいは全く確認できなくなっていないかを確認しましょう。
特に、脱毛部分の境界がはっきりしており、その内部の頭皮が滑らかで毛穴が見当たらない場合は、瘢痕化が進行している可能性があります。
つるっとした光沢のある頭皮の変化
毛包が破壊され瘢痕組織に置き換わると、その部分の頭皮は正常な皮膚とは異なる質感になります。特徴的なのは、頭皮が硬くなり、表面が滑らかで光沢を帯びてくることです。
まるでビニールを張ったようにテカテカと光って見えることもあります。このような「つるっとした」「ピカピカした」頭皮は、毛穴が消失し、皮膚の構造が変化してしまったサインです。
このような状態になると、その部分からの発毛は期待できません。この変化は、瘢痕性脱毛症の診断において重要な所見の一つです。
進行による瘢痕化
瘢痕化とは、傷が治る過程でできる硬い組織のことですが、瘢痕性脱毛症では、毛包が破壊された後にこの瘢痕組織が形成されます。この瘢痕組織には毛包が存在しないため、永久的な脱毛となります。
瘢痕化の進行度合いによって、脱毛範囲や頭皮の状態は変化します。
初期の段階では、炎症が主であり、瘢痕化は軽度かもしれません。しかし、炎症が持続し、毛包破壊が進行するとともに、瘢痕組織が蓄積し、頭皮は徐々に硬く、薄くなっていきます。
この過程で、残っていた毛髪も抜け落ち、脱毛範囲が拡大していきます。瘢痕化が高度に進行すると、頭皮は弾力性を失い、引きつれたような感覚を覚えることもあります。
瘢痕化の進行を食い止めることが、瘢痕性脱毛症の治療における重要な目標の一つです。
毛穴の状態と瘢痕化の進行度
進行度 | 毛穴の状態 | 頭皮の質感 |
---|---|---|
初期 | やや見えにくい、毛穴周囲に赤み | わずかに硬い、または正常 |
中期 | 不明瞭、一部消失 | 部分的に硬い、やや光沢 |
後期 | 大部分消失、または完全に消失 | 硬い、薄い、強い光沢、引きつれ感 |
簡単セルフチェック – 鏡で確認できる危険サイン
瘢痕性脱毛症の早期発見には、ご自身で頭皮の状態を定期的にチェックすることが有効です。鏡を使って視覚的に確認できるサインは多く、特別な道具も必要ありません。
ここでは、鏡を使ったセルフチェックのポイントと、何に注意すべきかを解説します。
鏡を使った頭皮チェック

手鏡と洗面台の鏡などを使い、頭頂部、前頭部、側頭部、後頭部など、頭皮全体をくまなく観察しましょう。明るい場所で行うと、細かな変化も見つけやすくなります。
特に、脱毛が気になる部分や、かゆみ・痛みなどの症状がある部分は念入りにチェックします。
頭皮の色調変化
健康な頭皮は通常、青白い色をしています。しかし、炎症が起きていると赤みを帯びたり、場合によっては茶色っぽく色素沈着を起こしたりすることがあります。
部分的に色が異なる箇所がないか、特に毛穴の周囲の色調変化に注意してください。赤みが広範囲に及んでいたり、特定の箇所に強い赤みが見られたりする場合は、炎症のサインかもしれません。
また、白っぽくカサカサしている部分は乾燥やフケの可能性がありますが、これが炎症に伴って生じていることもあります。
毛穴の状態確認
毛穴がはっきりと見えるか、詰まっていないか、あるいは消失していないかを確認します。毛穴の入り口が赤くなっていたり、プツプツとした隆起があったりする場合は、毛包炎の可能性があります。
また、毛穴が以前より小さく見えたり、全く見えなくなって頭皮がツルツルしている部分は、瘢痕化が進行しているサインかもしれません。抜け毛が多い部分の毛穴の状態を特に注意深く観察しましょう。
- 頭皮の赤みや不自然な色の変化
- 毛穴の消失やつるっとした光沢
- フケや湿疹、ただれの有無
見分け方のポイント
セルフチェックで異常を見つけた場合、それが瘢痕性脱毛症によるものなのか、他の原因によるものなのかを見分けるのは難しいかもしれません。
しかし、いくつかのポイントに注意することで、専門医に相談すべきかどうかの判断材料になります。
男性型脱毛症(AGA)との比較
AGAは通常、頭皮に強い炎症症状(かゆみ、痛み、赤み)を伴いません。また、毛髪が細く短くなる(軟毛化)のが特徴で、毛穴自体がすぐに見えなくなることは稀です。
一方、瘢痕性脱毛症では、これらの炎症症状が高頻度で見られ、進行すると毛穴が消失し、頭皮が硬く光沢を帯びてくることがあります。
抜け毛のパターンも異なり、AGAは生え際の後退や頭頂部の薄毛が典型的ですが、瘢痕性脱毛症はまだらに脱毛斑が生じることがあります。
瘢痕性脱毛症セルフチェックポイント(鏡)
チェック項目 | 正常な状態の目安 | 瘢痕性脱毛症の疑いがあるサイン |
---|---|---|
頭皮の色 | 均一な青白い色 | 部分的な赤み、茶色い変色、不自然な白色 |
毛穴の明瞭度 | はっきりと見える | 見えにくい、消失している、毛穴周囲の赤みや隆起 |
頭皮の質感・光沢 | マットな質感 | テカテカとした光沢、ツルツルした表面、部分的な硬さ |
フケ・かさぶた | ほとんどない、または細かい乾いたフケ少量 | 脂っぽいフケ、厚いかさぶた、黄色い滲出液 |
これらのチェックポイントに複数該当する場合や、症状が改善せず悪化する傾向が見られる場合は、速やかに皮膚科専門医に相談することをお勧めします。
自己判断で放置すると、治療の機会を逃してしまう可能性があります。
触診で分かる頭皮の異常な硬さと瘢痕化
鏡を使った視覚的なチェックに加えて、実際に頭皮に触れてみる「触診」も、瘢痕性脱毛症のサインを発見する上で重要です。
特に、頭皮の硬さや瘢痕化の兆候は、触れることでより明確に感じ取れる場合があります。ここでは、触診によるセルフチェックの方法と、注意すべきポイントを解説します。
頭皮の硬さチェック
健康な頭皮はある程度の弾力性と柔らかさを持っています。しかし、瘢痕性脱毛症が進行し、毛包周囲で炎症や線維化が進むと、頭皮が硬くなることがあります。
この「頭皮硬い」という感覚は、重要なサインの一つです。
指で触って確認

清潔な指の腹を使って、頭皮全体を優しく押したり、つまんだりしてみてください。特に、脱毛が気になる部分や、鏡で見て異常を感じた部分を重点的に触ってみましょう。
正常な部分と比較して、明らかに硬いと感じる箇所はないでしょうか。また、頭皮を前後左右に動かしてみて、動きが悪く突っ張るような感じがする部分がないかも確認します。
頭皮が硬いと感じる場合、その下で瘢痕化が進行している可能性があります。
頭皮が硬いと感じたら
もし頭皮の一部、あるいは広範囲にわたって硬さを感じた場合は、注意が必要です。
特に、その硬さが左右非対称であったり、時間とともに硬さが増しているように感じたりする場合は、瘢痕性脱毛症を含む何らかの皮膚疾患が進行している可能性があります。
頭皮が硬いだけでなく、同時にかゆみ、痛み、赤み、脱毛などの症状がある場合は、よりその疑いが強まります。
瘢痕の確認方法
瘢痕とは、傷跡のことですが、瘢痕性脱毛症では毛包が破壊された結果として形成されます。進行した瘢痕は、視覚的にも確認できますが、触診によってその存在や程度をより詳しく把握できることがあります。
脱毛部分の頭皮を指でなぞるように触れてみてください。
瘢痕化が進行している部分は、周囲の正常な皮膚と比べて、表面が滑らかでツルツルしているだけでなく、やや凹んでいたり、逆に盛り上がっていたりすることがあります。
また、皮膚が薄くなっているように感じたり、逆に厚く硬くなっているように感じたりすることもあります。これらの感触は、瘢痕組織が形成されていることを示唆します。
特に、脱毛斑の境界がはっきりしていて、その内部が硬く、弾力がない場合は、瘢痕化が進んでいると考えられます。
頭皮の硬さ・瘢痕化セルフチェック(触診)
チェック項目 | 確認方法 | 瘢痕性脱毛症の疑いがあるサイン |
---|---|---|
頭皮の柔軟性 | 指の腹で頭皮を前後左右に動かす | 動きが悪い、突っ張る感じ、部分的に動かない |
頭皮の硬さ | 指の腹で頭皮を優しく押す、つまむ | 部分的に硬い、弾力がない、板のように硬い |
頭皮の表面 | 指で脱毛部をなぞる | ツルツルして滑らかすぎる、凹凸がある、薄い、または厚く硬い |
圧痛の有無 | 脱毛部や硬い部分を軽く押す | 押すと痛みを感じる |

触診によるセルフチェックは、あくまで目安です。異常を感じた場合は、自己判断せずに必ず皮膚科専門医の診察を受け、正確な診断と適切なアドバイスを受けてください。
症状の進行段階別 – 軽度から重度までの見極め方
瘢痕性脱毛症は、その原因となる疾患や個人の体質によって進行の速さや現れる症状が異なります。しかし、一般的に初期、中期、後期といった進行段階に分けて考えることができます。

各段階での特徴的な症状を理解することは、ご自身の状態を把握し、適切なタイミングで専門医に相談するために役立ちます。
初期段階の症状
瘢痕性脱毛症の初期段階では、症状が軽微であったり、他の頭皮トラブルと区別がつきにくかったりすることがあります。しかし、この段階で気づき、対応することが最も重要です。
軽微な炎症やかゆみ
初期には、脱毛部分やその周辺に、軽い赤み、持続的なかゆみ、ピリピリとした微痛、あるいは少量のフケなどが現れることがあります。
これらの症状は一時的なものと見過ごされがちですが、毛包周囲で炎症が始まっているサインかもしれません。
特に、これまで頭皮に問題がなかった方が、このような症状を自覚するようになった場合は注意が必要です。
わずかな脱毛と毛質の変化
脱毛も、初期には広範囲ではなく、コイン程度の大きさで円形や不整形に現れることがあります。抜け毛の量が少し増えたと感じる程度で、はっきりとした脱毛斑として認識できないこともあります。
また、脱毛部分の毛が細くなったり、切れやすくなったりといった毛質の変化が見られることもあります。
これらの初期症状は、男性型脱毛症(AGA)や円形脱毛症と間違われることもありますが、炎症症状の有無が鑑別の一つのポイントになります。
中期段階の症状
初期段階の症状が放置されたり、治療が奏功しなかったりすると、瘢痕性脱毛症は中期段階へと進行します。この段階では、症状がより顕著になり、自覚症状も強くなる傾向があります。
明らかな炎症や痛み
中期段階では、頭皮の赤み、腫れ、かゆみ、痛みがよりはっきりと現れ、持続的になることが多いです。かゆみや痛みが強くなり、日常生活に影響が出ることもあります。
毛穴の周囲に膿疱(膿を持った小さなブツブツ)や丘疹(赤いブツブツ)が多発することもあります。これらの炎症所見は、毛包破壊が活発に進行していることを示唆します。
脱毛範囲の拡大と毛穴の不明瞭化
脱毛斑は徐々に拡大し、複数の脱毛斑が融合して大きな脱毛エリアを形成することもあります。脱毛部分の境界は比較的はっきりしていることが多いです。
この段階になると、毛穴が徐々に不明瞭になり始め、一部では毛穴の消失が見られることもあります。頭皮を触ると、部分的に硬さを感じるようになることもあります。
抜け毛も持続し、脱毛の進行を実感しやすくなります。
後期段階の症状
瘢痕性脱毛症がさらに進行し、後期段階に至ると、毛包の破壊は広範囲に及び、不可逆的な変化が顕著になります。
この段階での治療は、主に残っている毛髪を保護し、炎症をコントロールすることが中心となります。
瘢痕形成と毛穴の完全な消失
後期段階では、炎症が起きていた部分が瘢痕組織に置き換わります。これにより、脱毛部分の頭皮は光沢を帯び、ツルツルとした見た目になります。
毛穴は完全に消失し、その部分からの毛髪の再生は期待できません。頭皮は硬く、弾力性を失い、場合によっては引きつれ感や萎縮が見られることもあります。この状態になると、見た目の変化も大きくなります。
広範囲の永久脱毛
脱毛は広範囲に及び、頭皮の大部分が瘢痕性の脱毛斑で覆われることもあります。活動性の炎症は沈静化していることもありますが、一部では軽度の炎症が持続している場合もあります。
この段階では、精神的な負担も大きくなるため、心理的なサポートも重要になります。
瘢痕性脱毛症の進行段階と主な症状のまとめ
進行段階 | 主な炎症症状 | 脱毛の状態 | 毛穴・頭皮の状態 |
---|---|---|---|
初期 | 軽度のかゆみ、赤み、微痛、フケ | 小範囲のまだらな脱毛、わずかな抜け毛増加 | 毛穴は存在するが、周囲に軽度の変化が見られることも |
中期 | 持続的な強いかゆみ、痛み、赤み、腫れ、膿疱 | 脱毛斑の拡大・融合、明らかな抜け毛増加 | 毛穴の不明瞭化、一部消失、頭皮の部分的な硬化 |
後期 | 炎症は沈静化していることが多いが、軽度に残存することも | 広範囲の永久脱毛 | 毛穴の完全消失、頭皮の瘢痕化(光沢、硬化、萎縮) |
どの段階であっても、自己判断せずに皮膚科専門医の診断を受けることが重要です。早期であればあるほど、進行を食い止められる可能性が高まります。
専門医への相談が必要な症状の境界線
瘢痕性脱毛症の疑いがある場合、どのタイミングで専門医に相談すべきか迷うかもしれません。しかし、この疾患の特性を考えると、早期の相談と診断が極めて重要です。
ここでは、自己判断の限界と、皮膚科受診を検討すべき具体的なサインについて解説します。
自己判断の限界
頭皮のトラブルや脱毛は、様々な原因で起こり得ます。インターネットや書籍で情報を得ることはできますが、それだけでご自身の症状が瘢痕性脱毛症であるかどうかを正確に判断することは非常に困難です。
瘢痕性脱毛症には多くの種類があり、それぞれ症状の現れ方や進行の仕方が異なります。また、他の皮膚疾患(例えば、脂漏性皮膚炎や接触皮膚炎、円形脱毛症など)と症状が似ていることもあり、専門的な知識と経験を持つ医師でなければ正確な診断はできません。
自己判断で誤った対処法を続けたり、受診を遅らせたりすると、貴重な治療のタイミングを逃し、症状が悪化してしまう可能性があります。
- 症状の正確な原因特定は困難
- 他の皮膚疾患との鑑別が必要
- 誤ったセルフケアによる悪化リスク
皮膚科受診を検討すべきサイン
以下のような症状や変化が見られた場合は、自己判断を避け、速やかに皮膚科専門医(できれば脱毛症に詳しい医師)の診察を受けることを強く推奨します。

改善しない炎症や痛み、かゆみ
市販のシャンプーや育毛剤を試しても、頭皮の赤み、かゆみ、痛み、フケなどの症状が1~2週間以上改善しない、あるいは悪化する場合は、専門的な治療が必要なサインです。
特に、症状が特定の場所に限定されている、あるいは徐々に範囲が広がっている場合は注意が必要です。
これらの症状は、毛包周囲で持続的な炎症が起きている可能性を示唆しており、瘢痕性脱毛症の活動期であるかもしれません。
急速な脱毛の進行や毛質の変化
短期間のうちに抜け毛が急激に増えた、明らかな脱毛斑ができた、あるいは脱毛部分の毛が著しく細くなったり、切れやすくなったりした場合も、受診を検討すべきです。
特に、脱毛部分の頭皮に前述のような炎症症状を伴う場合は、瘢痕性脱毛症の可能性が高まります。脱毛の進行が速い場合は、それだけ毛包破壊も急速に進んでいる可能性があるため、早期の対応が求められます。
毛穴の消失が疑われる場合や頭皮の硬化
鏡で見て、脱毛部分の毛穴が明らかに目立たなくなったり、消失してツルツルとした光沢のある皮膚に変化していたりする場合、あるいは触ってみて頭皮が部分的に硬くなっていると感じる場合は、瘢痕化が進行している重要なサインです。
このような変化は、男性型脱毛症(AGA)では通常見られにくいため、瘢痕性脱毛症を強く疑う根拠となります。
毛穴の消失は永久脱毛を意味するため、これ以上の進行を食い止めるためにも、専門医の診断と治療が必要です。
皮膚科受診を検討すべき主な症状リスト
症状カテゴリ | 具体的なサイン | 特に注意すべき点 |
---|---|---|
炎症症状 | 持続する赤み、強いかゆみ、痛み、腫れ、膿疱、厚いフケ | 市販薬で改善しない、悪化する、特定の場所に限局 |
脱毛・毛髪の変化 | 急な抜け毛増加、明らかな脱毛斑の出現、毛が細くなる・切れる | 脱毛の進行が速い、脱毛部に炎症を伴う |
頭皮の質感変化 | 毛穴の消失、頭皮の光沢、頭皮の硬化、皮膚の萎縮や引きつれ | AGAでは見られにくい変化、不可逆的な変化の兆候 |
早期診断と治療の重要性

瘢痕性脱毛症は、早期に診断し、適切な治療を開始することで、炎症を抑制し、毛包破壊の進行を遅らせたり、止めたりすることが期待できます。
治療が遅れるほど、永久的な脱毛の範囲が広がり、治療の選択肢も限られてしまいます。
気になる症状があれば、「もう少し様子を見よう」と自己判断で放置せず、まずは専門医に相談し、正確な診断を受けることが、あなたの髪と頭皮を守るための第一歩です。
皮膚科医は、視診、触診、ダーモスコピー(特殊な拡大鏡での観察)、場合によっては皮膚生検(皮膚の一部を採取して調べる検査)などを行い、総合的に診断します。
よくある質問
この記事では、瘢痕性脱毛症の症状とセルフチェック方法に焦点を当てて解説しました。
もし、ご自身の症状に心当たりがあったり、さらに詳しい情報を知りたいと思われたりした場合は、瘢痕性脱毛症がなぜ起こるのか、そして専門医はどのような検査を行って診断するのかを理解することが次のステップとなります。
原因や検査法について詳しく知ることで、より深く疾患を理解し、医師との相談もスムーズに進めることができるでしょう。
以下の記事で、瘢痕性脱毛症の原因と具体的な検査方法について詳しく解説していますので、ご覧ください。
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