最近、生え際や分け目の薄毛が気になり始めた、あるいは頭皮にかゆみや痛みを感じることが増えたという男性はいませんか。
それはもしかしたら牽引性脱毛症(けんいんせいだつもうしょう)のサインかもしれません。この記事では、牽引性脱毛症特有の症状や、ご自身でできるセルフチェックの方法を詳しく解説します。
早期発見と適切な対応で、健やかな頭皮環境を取り戻しましょう。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
生え際の後退は危険信号?牽引性脱毛症の初期症状
牽引性脱毛症は、初期には気づきにくいものの、放置すると進行してしまう可能性があります。特に男性の場合、AGA(男性型脱毛症)との区別も重要です。
ここでは、牽引性脱毛症の初期に見られる髪や頭皮の変化について解説します。
髪の変化に気づく最初のサイン

日常的なヘアケアやスタイリングの中で、髪に現れる些細な変化が、牽引性脱毛症の最初の警告となることがあります。特に注意したいのは、生え際や髪質に関する変化です。
生え際の薄毛と抜け毛の増加
牽引性脱毛症では、特定の部位の髪が持続的に引っ張られることで、その部分の毛根が弱り、抜け毛が増加します。特に、いつも同じ髪型をしている場合、生え際やもみあげ周辺の薄毛が目立ち始めることがあります。
シャンプー時や朝起きた時の枕元の抜け毛の量が増えたと感じたら、注意が必要です。この段階での抜け毛は、他の脱毛症との区別が難しいため、専門の病院での診断を考えることも大切です。
髪質の変化と切れ毛の発生
髪が継続的に引っ張られると、毛髪自体もダメージを受け、弱くなります。その結果、髪のハリやコシがなくなり、細く弱々しい髪質に変化することがあります。
また、髪が途中で切れてしまう「切れ毛」が増えるのも特徴的なサインです。特に、ヘアアイロンなどで強く引っ張りながらスタイリングする習慣がある方は、切れ毛の発生に注意しましょう。
健康な髪は簡単には切れませんが、牽引によるダメージが蓄積すると、わずかな力でも切れやすくなります。
初期症状のポイント
確認ポイント | 具体的な変化 | 考えられる影響 |
---|---|---|
生え際 | 以前より後退している、産毛が増えた | 薄毛の進行 |
抜け毛 | 特定の部位で量が増加 | 毛根の弱体化 |
髪質 | 細くなった、ハリ・コシがない、切れ毛が増えた | 毛髪ダメージ |
頭皮に現れる初期の違和感
髪の変化だけでなく、頭皮に現れるサインも見逃せません。かゆみや赤み、軽い痛みなどは、頭皮がSOSを発している証拠かもしれません。
頭皮のかゆみや赤みの兆候

持続的な牽引は、頭皮に炎症を引き起こすことがあります。初期症状として、特定の部位にかゆみを感じたり、頭皮が赤みを帯びたりすることがあります。
特に、髪をきつく結んでいる部分や、帽子で圧迫される部分などに症状が現れやすいです。かゆみがあるからといって強く掻いてしまうと、さらに頭皮環境を悪化させ、抜け毛を助長する原因にもなりかねません。
軽い痛みやフケの発生
髪型をほどいた後や、特定の部位を触った時に、頭皮に軽い痛みやヒリヒリ感を感じる場合も注意が必要です。これは、頭皮が過度な負担を受けているサインです。
また、頭皮の乾燥やターンオーバーの乱れから、フケが増えることもあります。
これらの症状は一時的なものと軽視されがちですが、牽引性脱毛症の初期段階である可能性を考慮し、頭皮の状態を注意深く観察することが大切です。
頭頂部や分け目に現れる典型的な症状パターン
牽引性脱毛症の症状は、髪が引っ張られる部位に集中して現れる傾向があります。男性の場合、特に頭頂部や分け目の変化に注意が必要です。
これらの部位は、薄毛が進行すると目立ちやすいため、早期の発見と対策が求められます。
頭頂部の薄毛と地肌の透け

頭頂部は、自分では直接見えにくい部位ですが、牽引性脱毛症の症状が現れやすい場所の一つです。特に、特定の髪型を長期間続けている方は注意が必要です。
頭頂部の抜け毛とボリュームダウン
マンバンヘア(お団子ヘア)や、きつく結ぶ長髪スタイルなどをしている男性は、結び目の周辺、特に頭頂部の毛根に持続的な負担がかかります。
その結果、頭頂部の抜け毛が増加し、髪全体のボリュームが失われたように感じることがあります。
朝、スタイリングする際に「以前より頭頂部がペタッとするな」と感じたら、それは薄毛のサインかもしれません。
分け目が広がる薄毛のサイン
常に同じ位置で髪を分けていると、その分け目の部分の頭皮に集中的に牽引力がかかり、徐々に分け目が広がって見えることがあります。
これは、分け目部分の毛髪が細くなったり、抜け毛が増えたりしている兆候です。
分け目が以前より目立つようになった、地肌が透けて見える範囲が広がったと感じる場合は、牽引性脱毛症の可能性を疑い、ヘアスタイルを見直すなどの対策を検討しましょう。
放置すると、薄毛がさらに進行し、治療が難しくなることもあります。
頭頂部・分け目のチェックポイント
部位 | 症状の例 | 考えられる原因 |
---|---|---|
頭頂部 | 抜け毛増加、ボリュームダウン、地肌の透け | きつい結髪、帽子の圧迫 |
分け目 | 分け目が広がる、地肌が目立つ | 常に同じ分け目、牽引 |
特定部位の集中的な脱毛
牽引性脱毛症は、AGAのように広範囲に均一に進行するのではなく、物理的な力が加わる特定の部位に症状が集中しやすいという特徴があります。
牽引による分け目の薄毛

長期間、同じ分け目を続けていると、そのラインに沿って髪が薄くなることがあります。これは、分け目を作る際に髪を左右に引っ張る力が、毛根に継続的なダメージを与えるためです。
特に、髪が濡れた状態で強く分け目をつけると、頭皮への負担が大きくなるため注意が必要です。
分け目の薄毛が気になり始めたら、定期的に分け目の位置を変える、あるいは分け目を作らない髪型にするなどの工夫が有効です。
髪を結ぶ習慣と頭頂部の薄毛
日常的に髪をきつく結ぶ習慣がある男性は、結び目の位置やその周辺の頭皮に強い牽引力がかかり続けます。
その結果、頭頂部や側頭部など、結び方によって負担がかかる部位の毛根が弱り、薄毛や抜け毛が進行することがあります。
特に、仕事中やスポーツ時に長時間髪を結んでいる方は、定期的に髪をほどいて頭皮を休ませることが大切です。結ぶ強さを緩めるだけでも、頭皮への負担は軽減されます。
痛みやかゆみを伴う場合の症状の特徴
牽引性脱毛症では、抜け毛や薄毛だけでなく、頭皮に痛みやかゆみといった不快な症状が現れることがあります。
これらの症状は、頭皮の炎症や血行不良のサインであり、放置すると症状が悪化する可能性があります。
頭皮の炎症サインとしての痛み
頭皮に痛みを感じる場合、それは炎症が起きている可能性を示唆しています。痛みの種類や伴う症状によって、頭皮の状態をある程度推測できます。
ズキズキする痛みと赤みの併発
髪を強く引っ張ることで毛穴やその周辺の組織に炎症が起こると、ズキズキとした痛みや、頭皮の赤みが生じることがあります。
特に、髪をほどいた後も痛みが続く場合や、特定の部位が常に赤い状態である場合は、炎症が慢性化している可能性があります。
このような状態が続くと、毛根がダメージを受け続け、抜け毛や薄毛が進行する原因となります。早めに皮膚科などの病院を受診し、適切な治療を受けることが重要です。
触ると痛い頭皮とぶつぶつ

頭皮の一部を触ると特定の場所に痛みを感じたり、ニキビのような小さなぶつぶつ(毛嚢炎)ができていたりする場合も、牽引による炎症が原因であると考えられます。
毛嚢炎は、毛穴の奥の毛包という部分が細菌感染などによって炎症を起こした状態です。髪を強く引っ張ることで毛穴が傷つき、そこから細菌が侵入しやすくなるため、牽引性脱毛症と併発することがあります。
ぶつぶつが悪化すると、治療が長引くこともあるため、自己判断せずに専門医に相談しましょう。
かゆみが示す頭皮トラブル
頭皮のかゆみは、多くの頭皮トラブルに共通する症状ですが、牽引性脱毛症においても重要なサインとなります。かゆみの原因を正しく理解し、対処することが大切です。
持続的なかゆみとフケの増加
牽引によって頭皮が乾燥したり、ターンオーバーが乱れたりすると、持続的なかゆみやフケの増加が見られることがあります。特に、髪の生え際や分け目など、牽引の影響を受けやすい部分にかゆみが集中することがあります。
かゆいからといって爪を立てて掻くと、頭皮を傷つけてしまい、さらに炎症を悪化させる可能性があります。シャンプーの仕方を見直したり、保湿ケアを行ったりすることも対策の一つですが、症状が改善しない場合は病院で相談しましょう。
かゆみと赤みを伴う頭皮の炎症
強いかゆみと共に頭皮に赤みが見られる場合は、炎症が起きている可能性が高いです。これは、頭皮が外部からの刺激に対して過敏になっている状態を示しています。
牽引による物理的な刺激が、アレルギー反応や接触皮膚炎に似た症状を引き起こすこともあります。このような場合、市販のかゆみ止めでは効果が不十分なことも多く、ステロイド外用薬など、医師の処方が必要な治療が求められることもあります。
頭皮の痛み・かゆみセルフチェック
症状 | 考えられる状態 | 注意点 |
---|---|---|
ズキズキする痛み、赤み | 頭皮の炎症 | 慢性化すると抜け毛リスク増 |
触ると痛い、ぶつぶつ | 毛嚢炎の可能性 | 悪化前に病院へ |
持続的なかゆみ、フケ | 頭皮の乾燥、ターンオーバー乱れ | 掻きすぎに注意 |
進行段階別に見る症状の変化と特徴
牽引性脱毛症(けんいんせいだつもうしょう)は、原因となる牽引が続く限り、徐々に進行していきます。初期、中期、後期と段階が進むにつれて症状も変化し、対処法も異なってきます。

ご自身の状態がどの段階にあるのかを把握することは、適切な対策や治療を始める上で非常に重要です。
初期段階の症状
初期段階では、症状が軽微であるため見過ごされがちです。しかし、この段階で気づき、原因となる習慣を改めることができれば、回復の可能性は高まります。
軽微な抜け毛と生え際の変化
「最近、少し抜け毛が増えたかな」「生え際の産毛が目立つようになった気がする」といった程度の、わずかな変化が初期症状として現れます。
特定の髪型をした後に、頭皮に軽いヒリヒリ感やかゆみを感じることもあります。この段階では、まだ毛根へのダメージは深刻ではなく、牽引をやめれば自然に回復することも期待できます。
- シャンプー時の抜け毛がやや増加
- 生え際や分け目が以前より少し気になる
- 頭皮に軽いかゆみや赤みが出ることがある
中期段階の症状
中期段階になると、薄毛や抜け毛がより明確になり、自覚症状も強まってきます。この段階では、積極的な対策や専門医への相談を検討する必要があります。
明確な薄毛と分け目の拡大
生え際の後退や分け目の拡大が明らかになり、他人からも薄毛を指摘されることがあるかもしれません。髪全体のボリュームも減少し、スタイリングがしにくくなることもあります。
頭皮の痛みやかゆみが慢性化し、フケや切れ毛も目立つようになります。この段階では、毛根が弱っている可能性が高く、早めに病院での検査や治療を検討することが大切です。
切れ毛の増加と頭皮の痛み
髪が弱り、ブラッシングや少しの力で切れ毛が多発するようになります。髪を結んでいた部分や、いつも同じ分け目の頭皮に、持続的な痛みを感じることもあります。
頭皮を触ると硬くなっているように感じる場合もあります。この状態を放置すると、さらに症状が進行し、回復が難しくなる可能性があります。
進行段階ごとの主な症状
進行段階 | 髪の変化 | 頭皮の症状 |
---|---|---|
初期 | わずかな抜け毛、生え際の産毛化 | 軽いかゆみ・赤み、ヒリヒリ感 |
中期 | 明確な薄毛、分け目拡大、切れ毛増加 | 慢性的な痛み・かゆみ、フケ |
後期 | 広範囲の脱毛、毛髪の菲薄化 | 頭皮の硬化、ぶつぶつ、瘢痕化の恐れ |
後期段階の症状(瘢痕化のリスク)
後期段階まで進行すると、毛根が深刻なダメージを受け、回復が非常に困難になることがあります。特に注意すべきは「瘢痕化(はんこんか)」です。
広範囲な脱毛と頭皮の硬化
牽引が長期間続くと、毛包(毛根を包む組織)が破壊され、その部分の頭皮が硬く変化してしまうことがあります。これを瘢痕化といい、一度瘢痕化すると、その部分からは二度と髪が生えてこなくなる可能性があります。
脱毛範囲も広がり、地肌が広範囲に露出するようになります。こうなると、通常の薄毛治療では改善が難しく、植毛などの外科的な治療が必要になることもあります。
ぶつぶつやフケの悪化と治療の必要性
頭皮環境が極度に悪化し、治りにくい毛嚢炎(ぶつぶつ)や大量のフケ、強いかゆみや痛みが常に続くようになります。
この段階では、セルフケアでの改善はほぼ期待できず、専門の病院での適切な診断と集中的な治療が絶対に必要です。放置すればするほど、回復の可能性は低くなっていきます。
鏡でチェック、症状の見分け方と確認ポイント
牽引性脱毛症(けんいんせいだつもうしょう)の早期発見には、定期的なセルフチェックが有効です。鏡を使って、ご自身の髪や頭皮の状態を客観的に観察する習慣をつけましょう。
特に、生え際、分け目、頭頂部といった、症状が現れやすい部位を重点的に確認します。
生え際と分け目の視覚チェック
生え際や分け目は、薄毛が進行すると見た目に変化が現れやすい部分です。鏡を使って、正面だけでなく、様々な角度から確認することが大切です。

生え際の後退度合いの確認
まず、額の生え際ラインを確認します。以前と比べて生え際が後退していないか、M字部分の切れ込みが深くなっていないかをチェックします。
指で前髪をかきあげて、生え際の毛髪の密度や、産毛のような細い毛が増えていないかなども観察しましょう。定期的に写真を撮っておくと、変化に気づきやすくなります。
分け目の幅と地肌の透け具合
いつも同じ位置で髪を分けている方は、その分け目の幅が広がっていないか、地肌が以前より透けて見えないかを確認します。
分け目周辺の髪の毛が細くなっていないか、ボリュームが減っていないかも重要なチェックポイントです。分け目の位置を少しずらしてみて、他の部分の頭皮の状態と比較してみるのも良いでしょう。
視覚チェックのポイント
- 生え際ラインの変化(後退、M字の進行)
- 分け目の幅、地肌の透け具合
- 特定部位の毛髪密度の低下
頭皮の色と状態の観察
健康な頭皮は青白い色をしていますが、トラブルを抱えている頭皮は赤みやかゆみ、フケなどのサインが現れます。髪をかき分けて、頭皮自体の状態をしっかり観察しましょう。
頭皮の赤みや炎症の有無
頭皮が部分的に赤くなっていないか、特に髪をきつく結んでいた部分や、帽子で蒸れやすい部分などを中心に確認します。赤みは炎症のサインであり、かゆみや痛みを伴うこともあります。
もし赤みが広範囲に見られたり、長期間続いたりする場合は、皮膚科などの病院で相談することをお勧めします。
フケやぶつぶつの確認
頭皮に乾燥した細かいフケや、脂っぽい大きなフケが付着していないかを確認します。また、ニキビのような赤いぶつぶつ(毛嚢炎)や、白い膿を持ったぶつぶつができていないかもチェックしましょう。
これらの症状は、頭皮環境が悪化している証拠であり、放置すると抜け毛や薄毛を悪化させる原因となります。
頭皮の色の目安
頭皮の色 | 状態 | 考えられること |
---|---|---|
青白い | 健康 | 良好な血行 |
赤い | 炎症・うっ血 | かゆみ、痛み、刺激 |
黄色っぽい | 皮脂過多・血行不良 | フケ、べたつき |
髪の毛の状態で分かるセルフチェック法
髪の毛は健康のバロメーターともいわれます。抜け毛の量や質、髪のハリやコシの変化など、髪の毛自体の状態をチェックすることで、牽引性脱毛症の兆候を早期に捉えることができます。
抜け毛の量と質のチェック

抜け毛は誰にでも起こる自然な現象ですが、その量や質に変化が見られた場合は注意が必要です。特に、牽引性脱毛症では特徴的な抜け毛が見られることがあります。
シャンプー時やブラッシング時の抜け毛の量
1日の抜け毛の平均は約50本から100本程度といわれていますが、これ以上に明らかに抜け毛が増えたと感じる場合は、何らかの頭皮トラブルが起きている可能性があります。
特に、シャンプー時の排水溝に溜まる髪の毛の量や、ブラッシング時にブラシにつく髪の毛の量が急に増えた場合は要注意です。毎日同じ条件で観察し、変化を記録しておくと良いでしょう。
抜け毛の毛根の状態と切れ毛の確認
抜けた髪の毛の毛根部分を観察することも重要です。健康な抜け毛の毛根は丸く膨らんでいますが、牽引性脱毛症の場合、毛根に白い塊(毛鞘)が付着していたり、毛根が歪んでいたりすることがあります。
また、毛根がなく途中で切れている「切れ毛」が多い場合も、髪が弱っているサインです。これらの状態は、毛根が物理的な力で無理に引き抜かれたり、髪自体がダメージを受けていたりすることを示しています。
髪のハリ・コシの変化
髪全体のボリューム感や、一本一本の髪の強さも、頭皮の健康状態を反映します。髪が弱々しくなってきたと感じたら、それは薄毛の初期サインかもしれません。
髪全体のボリューム感の低下
以前と比べて髪全体のボリュームが減り、スタイリングが決まりにくくなったと感じる場合、それは髪が細くなったり、本数が減ったりしている可能性があります。
特に、頭頂部や分け目など、薄毛が進行しやすい部分のボリュームダウンは顕著に現れます。手で髪をかき上げた時の感触や、鏡で見た時のシルエットの変化に注意しましょう。
髪が細くなる、弱々しくなる薄毛の兆候
一本一本の髪の毛が細くなり、ハリやコシが失われて弱々しくなるのも、薄毛が進行しているサインです。髪が細くなると、絡まりやすくなったり、切れやすくなったりします。
指で髪をつまんでみて、以前より細くなった、頼りなくなったと感じる場合は、毛根への栄養供給が悪くなっているか、毛母細胞の働きが低下している可能性があります。
このような変化は、牽引による血行不良や毛根への直接的なダメージが原因で起こることがあります。
髪の状態チェックリスト
チェック項目 | 正常な状態 | 注意が必要な状態 |
---|---|---|
抜け毛の量(1日) | 50~100本程度 | 明らかに増加、特定の場所で多い |
抜け毛の毛根 | 丸く膨らんでいる | 白い付着物、歪み、切れ毛が多い |
髪のハリ・コシ | 適度にある | 失われ、細く弱々しい |
髪のボリューム | 以前と変わらない | 全体的に減少、特に頭頂部や分け目 |
頭皮の状態から判断するセルフチェック項目
健康な髪は健康な頭皮から育ちます。頭皮の柔軟性や色、そしてかゆみや痛みといったトラブルサインの有無をチェックすることで、牽引性脱毛症のリスクを早期に察知できます。
頭皮の柔軟性と色のチェック

頭皮の硬さや色は、血行状態や健康度を示す重要な指標です。指で触れたり、鏡で見たりして確認しましょう。
頭皮を指で動かしたときの硬さ
両手の指の腹を使って、頭皮全体を優しく動かしてみてください。健康な頭皮はある程度の弾力があり、前後左右にスムーズに動きます。
しかし、血行が悪かったり、緊張状態が続いていたりすると、頭皮が硬くこわばり、動きにくくなります。
特に、髪を常に引っ張っている部分は頭皮が緊張しやすく、硬くなりがちです。頭皮が硬いと感じる場合は、マッサージなどで血行を促進する対策が必要です。
頭皮の健康的な色との比較(赤み、黄ばみなど)
健康な頭皮は、やや青白い色をしています。鏡で髪をかき分け、頭皮の色を確認しましょう。赤みを帯びている場合は炎症やうっ血、黄色っぽい場合は皮脂の酸化や血行不良が考えられます。
茶色っぽくくすんでいる場合は、新陳代謝の低下や老化のサインかもしれません。これらの色の変化は、頭皮環境が悪化していることを示しており、抜け毛や薄毛の原因となる可能性があります。
頭皮のトラブルサインの確認
かゆみ、痛み、フケ、ぶつぶつといった症状は、頭皮が何らかのトラブルを抱えている明確なサインです。これらの症状を見逃さず、早期に対処することが大切です。
かゆみ、痛み、フケ、ぶつぶつの有無
頭皮にかゆみや痛みがないか、フケが目立たないか、ニキビのようなぶつぶつができていないかを定期的にチェックしましょう。
特にかゆみが強い場合や、痛みを伴うぶつぶつがある場合は、自己判断せずに皮膚科などの病院を受診することをお勧めします。
これらの症状は、牽引性脱毛症だけでなく、脂漏性皮膚炎や接触皮膚炎など、他の頭皮疾患の可能性も考えられます。正確な診断に基づいた治療が必要です。
- 頭皮のかゆみの程度と頻度
- 頭皮の痛みの場所と種類
- フケの種類(乾燥性、脂性)と量
- ぶつぶつ(毛嚢炎)の有無と状態
頭皮の乾燥や脂っぽさ
頭皮が過度に乾燥していると、かゆみやフケの原因となり、バリア機能も低下します。逆に、皮脂が過剰に分泌されて脂っぽい状態だと、毛穴が詰まりやすくなり、炎症や抜け毛を引き起こすことがあります。
自分の頭皮が乾燥タイプなのか、脂性タイプなのか、あるいは混合タイプなのかを把握し、適切なヘアケアを行うことが重要です。
季節や体調によっても頭皮の状態は変化するため、日々の観察を怠らないようにしましょう。
頭皮トラブルのサイン
サイン | 考えられる頭皮の状態 | セルフケアのポイント |
---|---|---|
硬い、動きにくい | 血行不良、緊張 | 頭皮マッサージ |
赤い、黄色い | 炎症、皮脂トラブル | 適切なシャンプー、生活習慣改善 |
かゆみ、フケ、ぶつぶつ | 乾燥、炎症、感染 | 刺激を避ける、専門医相談 |
症状の記録方法と経過観察のポイント

牽引性脱毛症の症状は、ゆっくりと進行することが多いため、日々の小さな変化に気づきにくいことがあります。
症状を客観的に記録し、経過を観察することで、進行度合いを把握し、適切なタイミングで対策や治療を始めることができます。
写真撮影による記録
視覚的な記録は、変化を捉えるのに非常に有効です。定期的に頭皮や髪の状態を写真に撮っておきましょう。
定期的な頭皮・髪の状態の写真撮影
月に一度など、決まった間隔で、頭皮の気になる部分(生え際、分け目、頭頂部など)や髪全体の写真を撮影します。
スマートフォンなどで手軽に撮影できますが、毎回同じ角度、同じ照明条件で撮影することが比較しやすくするポイントです。家族や友人に撮影を頼むのも良いでしょう。
これにより、薄毛の進行や頭皮の赤み、フケの状態などを客観的に比較できます。
同じ条件下での撮影と比較
撮影する際は、できるだけ同じ場所、同じ時間帯、同じ髪型(乾いた状態など)で行うように心がけます。明るさや髪のコンディションが異なると、正確な比較が難しくなります。
撮影した写真は日付と共に保存し、数ヶ月単位で見返すことで、わずかな変化にも気づきやすくなります。特に、対策や治療を開始した場合は、その効果を判断する上でも重要な資料となります。
症状ダイアリーの作成
写真だけでなく、日々の気づきや症状を文章で記録することも有効です。体調や生活習慣との関連も見えてくるかもしれません。
日々の抜け毛の量、頭皮の状態(かゆみ、痛みなど)の記録
専用のノートやスマートフォンのアプリなどを使い、日々の抜け毛の量(シャンプー時、起床時など)、頭皮のかゆみや痛みの程度、フケやぶつぶつの有無などを記録します。
数値化できるものは数値で(例:かゆみの強さを10段階で)、感覚的なものは具体的な言葉で記述しましょう。
「今日は特に分け目がかゆい」「髪をほどいた後、頭頂部が痛む」など、具体的に書くことが大切です。
ヘアスタイルや生活習慣の変化との関連付け
その日にしたヘアスタイル(きつく結んだ、帽子を長時間かぶったなど)や、睡眠時間、食事内容、ストレスの度合いといった生活習慣の変化も合わせて記録しておくと、症状との関連性が見えてくることがあります。
例えば、「長時間髪を結んでいた日は、翌日に頭皮の痛みが増す」といったパターンが分かれば、原因となる行動を避ける対策が立てやすくなります。
これらの記録は、病院を受診した際に医師に症状を正確に伝えるためにも役立ちます。
記録項目の例
記録カテゴリ | 具体的な項目 | 記録のポイント |
---|---|---|
髪の状態 | 抜け毛の量、切れ毛、ハリ・コシ | 毎日の変化を簡潔に |
頭皮の状態 | かゆみ、赤み、痛み、フケ、ぶつぶつ | 症状の程度や場所を具体的に |
生活習慣 | ヘアスタイル、睡眠、食事、ストレス | 症状との関連性を意識する |
よくある質問 (FAQ)
牽引性脱毛症の症状やセルフチェックに関して、患者様からよく寄せられるご質問とその回答をまとめました。
この記事では、牽引性脱毛症の「症状」と「セルフチェック」に焦点を当てて解説しました。
しかし、なぜ牽引性脱毛症が起こるのか、その詳しい「原因」や、病院で行われる「検査法」について、さらに深く理解することも大切です。
原因を知ることでより効果的な予防策を講じることができ、検査法を理解することで安心して専門医の診察を受けることができます。
当院のウェブサイトでは、これらの情報についても詳しく解説した記事をご用意しておりますので、以下の記事も併せてご覧ください。
Reference
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