頭部白癬(はくせん)性脱毛症とは?

頭部白癬(はくせん)性脱毛症とは?

最近、頭のかゆみやフケ、そして気になる抜け毛や薄毛でお悩みではありませんか?

もしかすると、それは「頭部白癬(とうぶはくせん)」、通称「しらくも」が原因かもしれません。

この病気は、水虫の原因ともなる白癬菌という真菌(カビの一種)が頭皮に感染することで起こる皮膚の病気で、放置すると脱毛症を引き起こすことがあります。

この記事では、頭部白癬の基礎知識から、具体的な症状、ご自身でできるチェックポイント、原因、病院での検査や治療法、そして日常生活での予防策まで、薄毛治療を考える男性の皆様に向けて詳しく解説します。

この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック統括院長 前田 祐助
Dr.前田 祐助

AGAメディカルケアクリニック 統括院長

前田 祐助

【経歴】

慶應義塾大学医学部医学研究科卒業

慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了

大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設

2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設

院長プロフィール

資格・所属学会・症例数

【資格】

  • 医師免許
  • ⽇本医師会認定産業医
  • 医学博士

【所属学会】

  • 日本内科学会
  • 日本美容皮膚科学会
  • 日本臨床毛髪学会

【症例数】

3万人以上※

※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数

目次

頭部白癬ってどんな病気?知っておきたい基礎知識

白癬菌が毛包に侵入する仕組みを示す男性頭皮の断面図

頭部白癬は、多くの方が一度は耳にしたことがあるかもしれない「水虫」と同じ白癬菌によって引き起こされる、頭皮の感染症です。

しかし、足にできる水虫とは異なり頭皮に発症するため、脱毛という深刻な問題につながることがあります。

頭部白癬(しらくも)とは何か

頭部白癬は、皮膚糸状菌(ひふしじょうきん)という種類の真菌が頭皮の角質層や毛髪に寄生することで発症します。

この真菌にはいくつかの種類があり、原因となる菌によって症状の出方が異なることもあります。

「しらくも」という名前は、症状として頭皮に白いカサカサしたフケのようなものが見られることに由来すると言われています。

真菌(カビ)の一種による頭皮の感染症

私たちの身の回りには多くの種類の真菌が存在しますが、その中でも特定の種類の真菌が皮膚に感染すると、白癬といった病気を引き起こします。

頭部白癬は、この真菌が頭皮という特殊な環境に感染した状態を指します。特に毛髪があるため、菌が潜みやすく、治療が難しい場合もあります。

白癬菌が主な原因

頭部白癬を引き起こす代表的な白癬菌には、トリコフィトン属やミクロスポルム属などがあります。これらの菌は人から人へ、あるいは犬や猫などのペットから人へとうつることがあります。

感染経路を理解することは、予防において非常に重要です。

「しらくも」と呼ばれる理由

前述の通り、「しらくも」という通称は、頭皮に白い雲のような、あるいは粉を吹いたような鱗屑(りんせつ、皮膚の表面からはがれ落ちる角質細胞のこと)が見られることから名付けられたと言われています。

この鱗屑は、真菌の活動によって頭皮のターンオーバーが乱れることで生じます。

脱毛症との関連性

頭部白癬が進行すると、毛穴の周囲で炎症が起きたり、毛髪そのものが真菌に侵されたりすることで、髪の毛が抜けやすくなったり、途中で切れたりします。これが頭部白癬による脱毛症です。

放置すると脱毛斑が広がり、場合によっては永続的な脱毛につながることもあるため、早期の対応が求められます。

頭部白癬による脱毛の特徴

頭部白癬による脱毛は、円形脱毛症のように境界が比較的はっきりした脱毛斑を作ることが多いですが、全体的に薄くなるびまん性の脱毛を示すこともあります。

脱毛部分の頭皮には、フケや赤み、小さなブツブツが見られることが特徴です。時に、黒い点々(ブラックドット)として、毛穴に残った断毛が見られることもあります。

頭部白癬と他の脱毛症の比較

脱毛症の種類主な原因主な症状・特徴
頭部白癬(しらくも)白癬菌(真菌)の感染フケ、かゆみ、円形・斑状の脱毛、切れ毛、頭皮の赤み
男性型脱毛症(AGA)遺伝、男性ホルモン生え際の後退、頭頂部の薄毛、進行性
円形脱毛症自己免疫疾患など突然の円形・楕円形の脱毛斑、かゆみは少ないことが多い

かゆみだけじゃない – 頭部白癬の症状

頭部白癬の症状は、かゆみやフケだけではありません。初期のサインを見逃さず、進行した場合の症状も知っておくことが、早期発見と適切な治療につながります。

特に脱毛を伴う場合は、他の脱毛症との区別も重要になります。

初期症状を見逃さないで

頭部白癬の初期症状は比較的軽微なことが多く、見過ごされがちです。しかし、この段階で気づき、皮膚科を受診することが、後の深刻な脱毛を防ぐ鍵となります。

代表的症状一覧(フケ・赤み・脱毛斑)

頭皮の赤みやフケ

頭皮の一部が赤みを帯びたり、乾燥した細かいフケが増えたりすることがあります。普段からご自身の頭皮の状態をチェックする習慣をつけましょう。

特に、特定の場所だけにフケが集中している場合は注意が必要です。

軽微なかゆみ

軽いかゆみを感じることもあります。しかし、かゆみが全くない場合や、逆に非常に強いかゆみを伴う場合など、個人差があります。

かゆみの有無だけで判断せず、他の症状と合わせて考えることが大切です。

進行すると現れる多彩な症状

頭部白癬の治療を開始せずに放置すると、症状は徐々に悪化し、より顕著な変化が現れます。脱毛の範囲が広がったり、炎症が強くなったりすることがあります。

頭部白癬が悪化していく過程

円形・楕円形の脱毛斑

最も特徴的な症状の一つが、円形または楕円形の脱毛斑です。脱毛部分は1箇所だけでなく、複数箇所に現れることもあります。脱毛斑の表面はカサカサしていたり、細かいフケが付着していたりします。

フケの増加と変化

フケの量が明らかに増え、質も変化することがあります。乾燥した細かいフケだけでなく、やや黄色みを帯びた脂っぽいフケが見られることもあります。

これは、真菌の活動や炎症の程度によって異なります。

強いかゆみや痛み

症状が進行すると、かゆみが強くなる傾向があります。また、炎症が強くなると、頭皮に触れただけで痛みを感じることもあります。

強いかゆみから頭皮を掻き壊してしまうと、二次的な細菌感染を引き起こすリスクも高まります。

膿疱や腫れ(ケルスス禿瘡)

特に炎症が強いタイプの頭部白癬では、ケルスス禿瘡(とくそう)と呼ばれる状態になることがあります。

これは、毛穴の深いところで強い炎症と化膿が起こり、頭皮がジュクジュクと腫れ上がり、膿が出る状態です。

ケルスス禿瘡になると、治療後も瘢痕(はんこん)性の脱毛が残ることがあるため、迅速な治療が必要です。

頭部白癬の進行度別症状

進行度主な症状注意点
初期軽いフケ、軽度のかゆみ、頭皮のわずかな赤み見過ごしやすいが、早期発見が重要
中期明らかなフケ、円形・斑状の脱毛、切れ毛、かゆみの増強脱毛が目立ち始める
重症期(ケルスス禿瘡など)強い炎症、腫れ、膿疱、強い痛み、広範囲の脱毛永続的な脱毛のリスクあり、緊急の治療が必要

子供と大人で異なる症状の現れ方

頭部白癬は子供に多いとされてきましたが、近年では大人にも見られます。子供と大人では、原因となる菌の種類や生活環境の違いから、症状の現れ方に若干の違いが見られることがあります。

子供に多い症状の特徴

子供の場合、特にミクロスポルム属という種類の白癬菌による感染が多く、ペットからうつることがあります。症状としては、比較的境界明瞭な脱毛斑と、灰色がかった鱗屑が特徴的です。

かゆみは軽度であることも少なくありません。学校や幼稚園などでの集団生活で感染が広がることもあります。

今すぐできる – 自宅でチェックする時の5つのポイント

「もしかして頭部白癬かも?」と思ったら、まずはご自身で頭皮の状態をチェックしてみましょう。早期発見のためには、日頃からのセルフチェックが重要です。

以下の5つのポイントを確認してみてください。

自宅で行う頭皮チェック5ステップ

頭皮の状態を観察する

鏡を使って、頭皮全体をくまなく観察します。特に、髪の分け目や普段見えにくい後頭部なども注意深く見てみましょう。

フケは増えていないか

最近、肩に落ちるフケの量が増えたり、枕にフケがたくさん付いていたりしませんか。フケの色や大きさ、乾燥しているか脂っぽいかなども確認します。

特定の場所に集中してフケが出ている場合は、頭部白癬の可能性があります。

赤みや湿疹はないか

頭皮に赤みやブツブツとした湿疹、あるいはカサカサした部分がないか確認します。健康な頭皮は青白い色をしていますが、炎症があると赤みを帯びます。

髪の毛の変化に注意

髪の毛の状態も、頭部白癬のサインを見つける手がかりになります。抜け毛の量や質に変化がないか注意しましょう。

抜け毛が増えていないか

シャンプー時やブラッシング時の抜け毛が急に増えたと感じる場合は注意が必要です。ただし、抜け毛の増加は他の脱毛症でも見られるため、他の症状と合わせて判断します。

髪が途中で切れていないか(切れ毛)

頭部白癬では、真菌が毛髪に侵入し、髪の毛がもろくなって途中で切れてしまう「切れ毛」が多く見られることがあります。

脱毛斑の表面に、短い切れ毛や黒い点々(毛穴に残った断毛)がないか確認しましょう。

かゆみの程度と場所

頭皮にかゆみがあるか、ある場合はどの程度の強さか、どの場所がかゆいのかを把握します。かゆみが特定の場所に限定されているか、頭全体に広がっているかも重要な情報です。

家族や周囲に同様の症状の人はいないか

頭部白癬は感染症なので、同居する家族や親しい友人など、身近な人に同様の症状(頭皮のフケやかゆみ、脱毛、あるいは水虫など)がないか確認してみましょう。

もしいる場合は、感染源となっている可能性があります。

ペットの皮膚の状態も確認

犬や猫などのペットを飼っている場合、ペットの皮膚に脱毛やフケ、かさぶたなどがないか確認します。ペットから人に白癬菌がうつることがあるため、ペットの皮膚トラブルも頭部白癬の原因となり得ます。

セルフチェック項目

  • 最近、フケの量が急に増えた、または特定の場所に集中している
  • 頭皮に赤み、湿疹、カサつきがある
  • 抜け毛が増えた、または短い切れ毛が目立つ
  • 頭皮にかゆみがあり、特に特定の場所が強い
  • 家族やペットに皮膚のトラブル(フケ、脱毛、水虫など)がある

なぜ私が?頭部白癬になる本当の原因

人・物・ペットを介した頭部白癬の感染ルート

頭部白癬は誰にでも起こりうる感染症です。その原因を知ることで、適切な予防策を講じることができます。主な原因は白癬菌という真菌の感染ですが、感染しやすくなる要因もいくつか存在します。

主な原因は白癬菌の感染

頭部白癬の直接的な原因は、白癬菌というカビの一種が頭皮や毛髪に感染することです。

この白癬菌は、人から人へ、動物から人へ、あるいは感染者が使用したタオルや櫛などを介して間接的に感染することがあります。

皮膚糸状菌(白癬菌)の種類

白癬菌には多くの種類が存在し、代表的なものにトリコフィトン属、ミクロスポルム属、エピデルモフィトン属などがあります。

頭部白癬の原因となりやすいのは、主にトリコフィトン属とミクロスポルム属の菌です。原因となる菌の種類によって、症状の出方や感染源が異なることがあります。

感染経路の多様性

感染経路は様々です。感染している人や動物との直接的な接触はもちろん、感染者が使用したタオル、帽子、櫛、枕カバーなどを共有することで感染することもあります。

また、格闘技などで皮膚が接触する機会が多い場合や、不特定多数が利用する銭湯やプールの脱衣所の床なども感染源となる可能性があります。

主な白癬菌の種類と特徴

菌の種類(属)主な感染源症状の傾向
トリコフィトン属人、土壌比較的炎症が弱いものから強いものまで多様。フケや切れ毛が目立つことが多い。
ミクロスポルム属動物(犬、猫など)子供に多く、炎症は比較的軽度から中等度。脱毛斑が明瞭なことが多い。

感染しやすくなる要因

白癬菌に接触したからといって、必ずしも誰もが頭部白癬を発症するわけではありません。感染が成立しやすくなるいくつかの要因があります。

免疫力の低下

病気や過労、ストレス、睡眠不足などによって体の免疫力が低下していると、真菌に対する抵抗力が弱まり、感染しやすくなります。健康な状態を維持することが、感染予防にもつながります。

頭皮の不衛生な状態

シャンプーが不十分で頭皮に皮脂や汚れが残っていると、真菌が繁殖しやすい環境になります。また、洗髪後に髪を十分に乾かさず、頭皮が湿った状態が続くと、真菌の増殖を助長します。

高温多湿な環境

真菌は高温多湿な環境を好みます。夏場や運動後など、汗をかいて頭皮が蒸れやすい状態は、真菌にとって格好の繁殖場所となります。通気性の悪い帽子を長時間着用することも同様です。

頭皮の傷や湿疹

頭皮に傷やアトピー性皮膚炎などによる湿疹があると、皮膚のバリア機能が低下し、そこから真菌が侵入しやすくなります。頭皮を強く掻きすぎないように注意することも大切です。

ペットからの感染リスク

特に子供の頭部白癬の原因として多いのが、犬や猫などのペットからの感染です。ペットが白癬菌に感染していると、抱っこしたり、一緒に寝たりすることで人にうつることがあります。

ペットに脱毛やフケ、皮膚の赤みなどの症状が見られる場合は、動物病院で診察を受けることをお勧めします。

犬や猫からうつる白癬菌

ミクロスポルム・カニスという種類の白癬菌は、主に猫や犬から人に感染します。この菌による頭部白癬は、比較的はっきりとした円形の脱毛斑を作り、表面に細かいフケが見られるのが特徴です。

ペットとの過度な接触を避け、触れ合った後は手洗いをしっかり行うことが予防につながります。

病院での検査は痛くない – 診断までの流れ

頭部白癬が疑われる場合、自己判断せずに皮膚科を受診することが重要です。皮膚科では、専門医が適切な検査を行い、正確な診断を下します。

検査はほとんど痛みを伴わないものが多く、安心して受けることができます。

まずは皮膚科を受診

頭皮のフケ、かゆみ、脱毛などの症状に気づいたら、早めに皮膚科医に相談しましょう。薄毛治療を専門とするクリニックでも、頭部白癬の診断や治療に対応している場合があります。

専門医による問診と視診

頭部白癬を確定する検査手順のイラスト

医師はまず、症状がいつから始まったか、どのような症状があるか、家族やペットに同様の症状の人がいるかなどを詳しく尋ねます(問診)。

その後、頭皮や毛髪の状態を注意深く観察します(視診)。この段階で、頭部白癬が強く疑われることもあります。

頭部白癬を特定する検査方法

視診だけでは診断が難しい場合や、確定診断のためには、真菌の存在を確認する検査を行います。これらの検査は、頭部白癬の診断において非常に重要です。

直接鏡検(顕微鏡検査)

最も基本的な検査で、その日のうちに結果が出ることが多いです。

症状のある部分のフケや毛髪を少量採取し、水酸化カリウム(KOH)溶液で処理した後、顕微鏡で観察して真菌(菌糸や胞子)がいるかどうかを確認します。

採取の際にチクッとすることがあるかもしれませんが、強い痛みはありません。

フケや毛髪を採取して真菌を確認

医師がピンセットやメスなどを使って、頭皮の鱗屑や、脱毛斑の辺縁部の毛髪を数本採取します。このサンプルをスライドガラスに乗せ、特殊な液体を加えて真菌を見やすく処理し、顕微鏡で観察します。

真菌培養検査

直接鏡検で真菌が見つからない場合や、原因となる菌の種類を特定したい場合に行います。採取したフケや毛髪を特殊な培地に植え付け、数週間培養して真菌が生えてくるかどうかを確認します。

結果が出るまでに2~4週間程度かかりますが、より正確な診断や、治療薬の選択に役立ちます。

頭部白癬の検査方法

検査方法検査内容結果判明までの期間
直接鏡検(KOH法)フケや毛髪を採取し、顕微鏡で真菌の有無を確認当日中(数分~数十分)
真菌培養検査フケや毛髪を培地で培養し、原因菌を特定2~4週間程度
ウッド灯検査特定の波長の紫外線を当て、菌の種類によって特有の蛍光を発するか確認(一部の菌のみ)当日中

他の脱毛症との鑑別診断

頭部白癬による脱毛は、円形脱毛症や脂漏性皮膚炎に伴う脱毛など、他の脱毛症と症状が似ていることがあります。そのため、正確な診断のためにはこれらの病気との鑑別が重要です。

顕微鏡検査などで真菌が確認されれば、頭部白癬と診断できます。

完治までの流れは?効果的な治療法と期間の目安

頭部白癬と診断されたら、医師の指示に従って根気強く治療を続けることが大切です。適切な治療を行えば、多くの場合、真菌を退治し、症状を改善することができます。

治療の基本は抗真菌薬の使用です。

基本は抗真菌薬による治療

飲み薬とシャンプーで治療し髪が回復するイメージ

頭部白癬の治療には、真菌の増殖を抑えたり、殺菌したりする効果のある抗真菌薬を使用します。

抗真菌薬には、内服薬(飲み薬)と外用薬(塗り薬やシャンプー)があり、症状や範囲に応じて使い分けたり、併用したりします。

内服薬(飲み薬)の重要性

頭部白癬の場合、真菌が毛髪の内部や毛穴の奥深くまで侵入していることが多いため、外用薬だけでは十分な効果が得られにくいことがあります。

そのため、体の内側から作用する抗真菌薬の内服が治療の中心となります。医師が処方する内服薬を、指示された期間きちんと服用することが完治への鍵です。

頭皮の奥深くに潜む真菌への効果

内服した抗真菌薬の成分は、血流に乗って頭皮や毛髪に到達し、真菌の増殖を抑制します。これにより、外用薬では届きにくい毛包内の真菌にも効果を発揮します。

外用薬(塗り薬・シャンプー)の役割

抗真菌成分が含まれた塗り薬やシャンプーは、内服薬と併用することで治療効果を高めることが期待できます。

塗り薬は症状のある部分に直接塗布し、シャンプーは頭皮全体の真菌の量を減らし、フケやかゆみを抑える効果や、他人への感染拡大を防ぐ補助的な役割を担います。

頭部白癬の主な治療薬

薬剤の種類主な薬剤名(例)期待される効果
内服抗真菌薬テルビナフィン、イトラコナゾール、グリセオフルビンなど毛髪や毛包深部の真菌を殺菌・増殖抑制
外用抗真菌薬(塗り薬)ケトコナゾールクリーム、テルビナフィンクリームなど頭皮表面の真菌を殺菌・増殖抑制、症状緩和
抗真菌シャンプーケトコナゾールシャンプー、ミコナゾールシャンプーなど頭皮の真菌量を減少、フケ・かゆみの軽減、感染拡大予防

治療期間はどれくらい?

頭部白癬の治療期間は、症状の重症度、感染している菌の種類、選択する薬剤などによって異なりますが、一般的には数週間から数ヶ月程度かかります。

途中で治療をやめてしまうと再発する可能性が高いため、医師が「治癒した」と判断するまで根気強く治療を続けることが重要です。

数週間から数ヶ月が目安

内服薬の場合、通常4~8週間程度の服用が必要です。症状が改善しても、真菌が完全にいなくなったわけではないため、自己判断で服用を中止しないようにしましょう。

症状や菌の種類による違い

炎症が強いケルスス禿瘡のような状態では、治療期間が長くなる傾向があります。また、原因となる菌の種類によっては、特定の薬剤が効きにくい場合もあり、その場合は薬剤を変更することもあります。

治療効果の確認と通院

治療中は、定期的に皮膚科を受診し、医師による診察を受ける必要があります。医師は症状の改善具合や副作用の有無などを確認し、必要に応じて治療方針を調整します。

治療終了の判断も、顕微鏡検査などで真菌が完全にいなくなったことを確認してから行います。

再発させない – 日常生活でできる予防対策

頭部白癬は、一度治っても再発することがある病気です。また、家族内や周囲の人にうつしてしまう可能性もあります。治療後も、日常生活での予防策を心がけることが大切です。

ここでは、頭皮環境を整え、感染源を断つための具体的な方法を紹介します。

頭部白癬再発を防ぐ生活習慣チェックリスト

頭皮を清潔に保つ

頭皮を清潔に保つことは、真菌の増殖を抑えるための基本です。毎日のシャンプーで、頭皮の余分な皮脂や汚れをしっかり洗い流しましょう。

正しいシャンプーの方法

シャンプーは、爪を立てずに指の腹で優しくマッサージするように洗います。すすぎ残しがないように、十分に洗い流すことが重要です。洗髪後は、ドライヤーで髪と頭皮をしっかり乾かしましょう。

湿ったまま放置すると、真菌が繁殖しやすくなります。

頭皮の乾燥を防ぐ保湿ケア

頭皮が乾燥しすぎると、バリア機能が低下し、外部からの刺激に弱くなります。必要に応じて、頭皮用の保湿ローションなどを使用し、適度な潤いを保つことも予防につながります。

生活習慣の見直し

健康な頭皮環境を維持するためには、バランスの取れた生活習慣も重要です。免疫力を高め、真菌に負けない体を作りましょう。

バランスの取れた食事

皮膚や髪の健康に必要なビタミンやミネラル、タンパク質などをバランス良く摂取しましょう。

特に、皮膚のターンオーバーを正常に保つビタミンB群や、抗酸化作用のあるビタミンC、Eなどを積極的に摂ることをお勧めします。

十分な睡眠とストレス管理

睡眠不足やストレスは免疫力を低下させ、感染症にかかりやすくなる原因となります。質の高い睡眠を十分にとり、適度な運動や趣味などでストレスを上手に解消しましょう。

頭皮ケアのポイント

  • 毎日シャンプーし、頭皮を清潔に保つ
  • 洗髪後はドライヤーでしっかり乾かす
  • 頭皮の乾燥が気になる場合は保湿する
  • 爪を立ててゴシゴシ洗わない

感染源を断つための工夫

頭部白癬は感染症なので、身の回りから感染源を断つことが再発予防や他人への感染防止に繋がります。特に家族内に感染者がいる場合は注意が必要です。

タオルや寝具のこまめな洗濯・交換

タオル、枕カバー、シーツなどの寝具は、こまめに洗濯し、できれば日光消毒や乾燥機で乾燥させましょう。白癬菌は湿った環境を好むため、乾燥させることが重要です。

帽子の共有を避ける

帽子やヘルメット、櫛、ブラシなどの頭に直接触れるものは、他人との共有を避けましょう。自分専用のものを使用するように心がけます。

日常生活でできる頭部白癬の予防策

項目具体的な行動目的
清潔保持毎日のシャンプー、洗髪後の乾燥真菌の増殖抑制
生活用品管理タオル・寝具の洗濯、帽子の共有回避感染経路の遮断
免疫力向上バランスの取れた食事、十分な睡眠、ストレス軽減感染抵抗力の強化

治療中の注意点 – 家族への感染を防ぐ方法

頭部白癬の治療中は、ご自身の治療に専念するとともに、家族や周囲の人への感染を防ぐための配慮も必要です。

特に小さなお子さんや高齢者、免疫力が低下している方がいるご家庭では、より一層の注意が求められます。

家族内感染を防ぐために

頭部白癬は接触感染するため、家庭内での感染対策が非常に重要です。以下の点に注意して、家族みんなで感染予防に取り組みましょう。

タオル、櫛、枕カバーなどの共用を避ける

家族が専用タオルを使い寝具を洗濯する様子のイラスト

患者さんが使用するタオル、櫛、ブラシ、枕カバー、帽子などは個人専用とし、他の家族との共用は絶対に避けましょう。これにより、白癬菌が他の家族の頭皮や皮膚に付着するリスクを減らします。

患者さんの寝具はこまめに洗濯・日光消毒

患者さんが使用する枕カバーやシーツは、できれば毎日、少なくとも2~3日に一度は洗濯しましょう。洗濯後は、日光によく当てて乾燥させるか、乾燥機を使用すると殺菌効果が高まります。

部屋の掃除と換気を徹底する

患者さんの抜け毛やフケには白癬菌が付着している可能性があります。床やカーペットはこまめに掃除機をかけ、部屋の換気を良くして湿度を下げ、真菌が繁殖しにくい環境を作りましょう。

家族内感染予防のチェックリスト

  • 患者専用のタオル、櫛、寝具を使用しているか
  • 患者の寝具はこまめに洗濯・乾燥しているか
  • 浴室の足ふきマットは別にしているか、またはこまめに交換しているか
  • 部屋の掃除や換気を十分に行っているか

ペットがいる場合の注意点

もしペットから感染した疑いがある場合、またはペットにも皮膚の異常が見られる場合は、ペットも治療が必要です。獣医師に相談し、適切な治療を受けさせましょう。

治療中は、ペットとの過度な接触を避け、触れ合った後は必ず手洗いをすることが大切です。

ペットも皮膚科医または獣医師に相談

ペットの皮膚に脱毛、フケ、かさぶたなどが見られたら、早めに動物病院を受診しましょう。獣医師が皮膚検査を行い、白癬菌感染の有無を確認し、必要であれば治療を開始します。

人とペットが同時に治療を行うことで、再感染のリスクを減らすことができます。

学校や幼稚園など集団生活での配慮

お子さんが頭部白癬と診断された場合、学校や幼稚園、保育園などへの登園・登校については、医師の指示に従いましょう。

一般的には、治療を開始すれば登園・登校は可能ですが、帽子を着用する、プールの授業は見学するなどの配慮が必要な場合があります。事前に園や学校に相談し、理解と協力を得ることが大切です。

感染拡大を防ぐための場所別注意点

場所主な注意点具体的な対策例
家庭生活用品の共用回避、清掃・換気の徹底個人専用タオルの使用、寝具の頻繁な洗濯、掃除機かけ
学校・職場帽子の共用回避、タオルの共用回避個人の帽子・ヘルメットを使用、個人用タオルの持参
スポーツジム・プール共用タオルの使用回避、床やロッカーへの直接接触を減らすマイタオルの持参、シャワー後の足の乾燥徹底

よくある質問

よくある質問Q&Aアイコン
頭部白癬は自然に治りますか?

頭部白癬が自然に治ることは稀です。放置すると症状が悪化し、脱毛範囲が広がったり、ケルスス禿瘡のような重症型に移行したりする可能性があります。

また、他の人に感染を広げてしまうリスクもあります。疑わしい症状があれば、早めに皮膚科を受診し、適切な治療を受けることが重要です。

治療薬に副作用はありますか?

どのような薬にも副作用の可能性はありますが、頭部白癬の治療に使用する抗真菌薬は、一般的に安全性が高いとされています。

内服薬の場合、まれに胃腸症状(吐き気、下痢など)や肝機能障害、発疹などが起こることがあります。

医師は定期的に副作用のチェックを行いますので、何か気になる症状が現れた場合は速やかに相談してください。外用薬の場合は、塗布部位のかぶれやかゆみなどが起こることがあります。

脱毛した部分は元に戻りますか?

早期に適切な治療を開始すれば、多くの場合、脱毛した部分の毛髪は再生します。

ただし、炎症が非常に強かった場合や、ケルスス禿瘡のように毛包が破壊されてしまった場合は、瘢痕(はんこん)となって毛が生えてこないこともあります。

そのため、できるだけ早く治療を始めることが、毛髪再生のためにも大切です。

子供でも治療は受けられますか?

はい、お子さんでも頭部白癬の治療は受けられます。子供に使用できる抗真菌薬の内服薬や外用薬がありますので、皮膚科医にご相談ください。

治療期間や薬剤の選択は、年齢や体重、症状の程度などを考慮して決定されます。お子さんの場合は特に、家族内感染や学校などでの集団感染に注意が必要です。

市販薬で治せますか?

水虫用の市販薬(抗真菌薬の外用薬)はありますが、頭部白癬の場合、真菌が毛髪の内部や毛穴の奥深くに潜んでいることが多いため、外用薬だけでは効果が不十分なことがほとんどです。

また、自己判断で市販薬を使用すると、症状が悪化したり、診断がつきにくくなったりすることもあります。

頭部白癬が疑われる場合は、必ず皮膚科を受診し、医師の診断と処方に従って治療を行うようにしてください。

さらに詳しく知りたい方へ

頭部白癬(しらくも)の具体的な症状や、ご自身でできるセルフチェックの方法について、より詳細な情報をお探しですか?

こちらの記事「頭部白癬(しらくも)性脱毛症の症状とセルフチェックの仕方」では、分かりやすく解説しています。早期発見と適切な対応のために、ぜひご覧ください。

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