脂漏性脱毛症の原因と検査方法

脂漏性脱毛症の原因と検査方法

薄毛に悩む多くの男性にとって、脂漏性脱毛症はその原因や適切な対処法が分からず、不安を抱える疾患の一つです。

この記事では、脂漏性脱毛症がなぜ起こるのか、その複雑な原因を多角的に解説し、専門クリニックで行われる具体的な検査方法について詳しく紹介します。

ご自身の頭皮環境を正確に把握し、適切な一歩を踏み出すための情報を提供します。

この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック統括院長 前田 祐助
Dr.前田 祐助

AGAメディカルケアクリニック 統括院長

前田 祐助

【経歴】

慶應義塾大学医学部医学研究科卒業

慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了

大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設

2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設

院長プロフィール

資格・所属学会・症例数

【資格】

  • 医師免許
  • ⽇本医師会認定産業医
  • 医学博士

【所属学会】

  • 日本内科学会
  • 日本美容皮膚科学会
  • 日本臨床毛髪学会

【症例数】

3万人以上※

※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数

目次

皮脂の過剰分泌だけじゃない – 脂漏性脱毛症を引き起こす複合要因

脂漏性脱毛症は、単に皮脂が多いというだけでなく、複数の要因が絡み合って発症します。頭皮の健康が損なわれることで、毛髪の成長サイクルに影響が現れ、結果として脱毛へとつながるのです。

これらの要因を理解することが、適切な対応の第一歩となります。

頭皮のバリア機能低下と炎症

頭皮バリア機能低下と炎症

健康な頭皮は、外部からの刺激や乾燥から守るバリア機能を有しています。しかし、何らかの原因でこのバリア機能が低下すると、頭皮は無防備な状態になります。

その結果、わずかな刺激でも炎症反応を起こしやすくなり、フケやかゆみといった症状が現れます。この炎症が長期化すると、毛根にダメージを与え、脱毛を引き起こすことがあります。

特に、皮脂の成分バランスが崩れると、バリア機能は一層弱まる傾向にあります。

頭皮バリアを構成する要素

構成要素役割機能低下時の影響
角質層物理的な保護、水分保持乾燥、刺激物質の侵入
皮脂膜水分の蒸発防止、弱酸性の維持pHバランスの乱れ、細菌増殖
細胞間脂質角質細胞間の結合、水分保持バリア機能の著しい低下

遺伝的要因と脂漏性脱毛症

遺伝的要因と脂漏性脱毛症

脂漏性脱毛症の発症には、遺伝的な体質も関与していると考えられています。皮脂の分泌量や皮脂腺の活動性、さらには炎症の起こしやすさといった体質は、親から子へと受け継がれることがあります。

そのため、家族に脂漏性皮膚炎や若年性の薄毛の方がいる場合、自身も同様の症状を発症するリスクが相対的に高まる可能性があります。

家族歴から見る傾向

ご家族、特に両親や兄弟姉妹に脂漏性皮膚炎の既往がある場合、注意が必要です。

遺伝的素因を持つ方が必ず発症するわけではありませんが、生活習慣や頭皮ケアに一層の配慮をすることで、発症リスクを低減できる可能性があります。

環境要因の影響

気候や大気汚染などの環境要因による頭皮への影響

季節の変わり目、特に湿度や気温が大きく変動する時期は、頭皮環境も不安定になりがちです。

例えば、冬場の乾燥は頭皮の水分を奪いバリア機能を低下させ、夏場の高温多湿は皮脂分泌を活発にし、マラセチア菌の増殖を促すことがあります。

また、大気汚染物質や花粉なども、頭皮に付着することで刺激となり、炎症を引き起こす一因となる場合があります。

男性の性ホルモンと皮脂腺 – 脱毛を加速させる要因

男性ホルモンは、男性らしい身体つきを形成する上で重要な役割を果たしますが、一方で皮脂腺の活動を活発化させる作用も持ち合わせています。

この男性ホルモンの影響が、脂漏性脱毛症の進行に関与することがあります。

アンドロゲンと皮脂分泌の増加

男性ホルモンと皮脂腺の関係

アンドロゲンとは男性ホルモンの総称で、テストステロンなどが代表的です。これらのホルモンは、皮脂腺に作用して皮脂の産生を促進します。

思春期以降に男性ホルモンの分泌が活発になると、皮脂量が増加し、ニキビができやすくなるのもこのためです。

脂漏性脱毛症の素因を持つ方の場合、この皮脂分泌の増加が症状を悪化させる要因となり得ます。

DHT(ジヒドロテストステロン)の役割

テストステロンは、5αリダクターゼという酵素の働きによって、より強力な男性ホルモンであるDHT(ジヒドロテストステロン)に変換されます。DHTは皮脂腺を強力に刺激し、皮脂の過剰な分泌を促します。

また、DHTはAGA(男性型脱毛症)の主要な原因物質でもあり、毛乳頭細胞に作用して毛髪の成長期を短縮させ、毛髪の軟毛化や脱毛を引き起こします。

このため、脂漏性脱毛症とAGAが併発することも少なくありません。

皮脂腺の感受性

男性ホルモンの量が同じであっても、皮脂腺の感受性には個人差があります。

遺伝的に皮脂腺が男性ホルモンに対して敏感な体質の場合、ホルモン量が正常範囲内であっても皮脂が過剰に分泌されやすくなります。

この感受性の高さも、脂漏性脱毛症の発症や悪化に関わる重要な要素です。

皮脂の酸化と毛穴への影響

皮脂の酸化と毛穴詰まりの仕組み図

分泌された皮脂は、時間とともに空気中の酸素や紫外線、頭皮上の細菌などの影響を受けて酸化します。酸化した皮脂は過酸化脂質へと変化し、これが頭皮や毛穴に様々な悪影響を及ぼします。

過酸化脂質と毛穴の詰まり

過酸化脂質は粘性が高く、毛穴の出口付近に蓄積しやすい性質があります。これが古い角質や汚れと混ざり合うことで角栓を形成し、毛穴を詰まらせます。

毛穴が詰まると、内部に皮脂が溜まりやすくなり、さらなる炎症やニキビの原因となります。また、毛髪の正常な成長を妨げることにもつながります。

炎症誘発物質の生成

過酸化脂質は、それ自体が刺激物質であると同時に、炎症を引き起こす様々な化学物質の生成を促します。これにより頭皮の炎症が悪化し、赤み、かゆみ、フケといった症状が強まります。

炎症が慢性化すると、毛母細胞の働きが低下し、脱毛が進行するリスクが高まります。

皮脂成分の変化と頭皮への影響

皮脂成分正常時の役割過剰・酸化時の影響
トリグリセリド皮膚の保湿・保護マラセチア菌の栄養源となり分解、遊離脂肪酸を生成
ワックスエステル皮膚の柔軟性維持酸化により刺激性物質に変化
スクワレン抗酸化作用、保湿酸化により過酸化スクワレンとなり、毛穴詰まりや炎症を誘発

マラセチア菌の増殖 – 頭皮環境悪化の真犯人

マラセチア菌の増殖を示すイメージ

私たちの頭皮には、多くの常在菌が存在しています。その中でもマラセチア菌は、脂漏性脱毛症の発症に深く関与する真菌(カビの一種)です。

通常は問題を起こさないマラセチア菌ですが、特定の条件下で異常増殖すると、頭皮トラブルを引き起こします。

マラセチア菌とは何か

マラセチア菌は、皮脂を栄養源として好む性質(好脂性)を持つ酵母様真菌です。健康な人の頭皮にも一定数存在し、普段は他の常在菌とバランスを保ちながら共存しています。

しかし、皮脂の分泌が過剰になったり、頭皮の免疫力が低下したりすると、マラセチア菌が異常に増殖しやすい環境となります。

常在菌としての性質

マラセチア菌は、誰の皮膚にも存在する常在菌であり、完全に除去することは困難です。重要なのは、その数をコントロールし、異常増殖させない頭皮環境を維持することです。

適切な洗髪や生活習慣が、このバランスを保つ鍵となります。

増殖の引き金となる要因

要因説明
皮脂の過剰分泌マラセチア菌の主たる栄養源であり、増殖を直接的に促進する。
高温多湿な環境汗や湿気は菌の活動を活発化させる。特に夏場や運動後は注意が必要。
不適切な洗髪洗いすぎによる乾燥、または洗浄不足による皮脂の残留は共に増殖リスクを高める。
免疫力の低下ストレス、睡眠不足、栄養不良などで免疫力が低下すると菌のコントロールが難しくなる。

マラセチア菌が引き起こす頭皮トラブル

増殖したマラセチア菌は、皮脂を分解する過程で遊離脂肪酸などの刺激物質を産生します。これらの物質が頭皮を刺激し、炎症やターンオーバーの異常を引き起こし、様々な頭皮トラブルを招きます。

フケ・かゆみの発生

マラセチア菌が産生する刺激物質は、頭皮の角質層に作用し、ターンオーバーを異常に早めます。これにより、未熟な角質細胞が大量にはがれ落ちるようになり、これがフケとなります。

脂漏性皮膚炎で見られるフケは、湿り気があり黄色っぽいことが特徴です。また、これらの刺激物質は神経終末を刺激し、強いかゆみを引き起こします。

脂漏性皮膚炎への進行

フケやかゆみが続き、頭皮に赤みや湿疹などの炎症症状が現れると、脂漏性皮膚炎と診断されます。

この状態が慢性化すると、毛穴周辺の炎症が毛根にまで及び、毛髪の成長を妨げ、結果として脱毛(脂漏性脱毛症)へとつながります。適切な対策を講じない限り、症状は徐々に悪化する傾向があります。

生活習慣が与える影響 – ストレス・食事・睡眠の関係性

生活習慣が頭皮に与える影響(ストレス・食事・睡眠)

日々の生活習慣は、私たちが思う以上に頭皮環境やホルモンバランスに影響を与えています。特に、食事、ストレス、睡眠は密接に関連しあい、これらのバランスが崩れると脂漏性脱毛症のリスクを高める可能性があります。

食生活の乱れと皮脂バランス

摂取する食べ物は、体内で代謝され、皮脂の量や質にも影響します。バランスの取れた食事は、健康な頭皮を維持するために重要です。

脂質・糖質の過剰摂取

動物性脂肪や揚げ物などに多く含まれる脂質の過剰摂取は、皮脂の分泌量を増加させる可能性があります。

また、白砂糖や清涼飲料水などの糖質を摂りすぎると、血糖値が急上昇し、インスリンの分泌が促進されます。

インスリンは男性ホルモンの働きを強める作用があり、間接的に皮脂分泌を増やすことにつながります。これらの過剰摂取は、マラセチア菌の栄養源を増やすことにもなり、頭皮環境の悪化を招きます。

ビタミンB群不足の影響

ビタミンB群、特にビタミンB2やB6は、脂質の代謝を調整し、皮脂の分泌をコントロールする働きがあります。

これらのビタミンが不足すると、皮脂の分泌が過剰になったり、皮膚の炎症が起きやすくなったりします。緑黄色野菜、レバー、魚介類、豆類などを積極的に摂取し、ビタミンB群を補給することが大切です。

頭皮の健康に関わる栄養素

  • ビタミンA: 皮膚や粘膜の健康維持、ターンオーバー促進
  • ビタミンC: コラーゲン生成サポート、抗酸化作用
  • ビタミンE: 血行促進、抗酸化作用
  • 亜鉛: 細胞分裂やタンパク質合成に関与、免疫機能維持

ストレスとホルモンバランス

現代社会においてストレスは避けられないものですが、過度なストレスは自律神経やホルモンバランスを乱し、頭皮環境に悪影響を及ぼします。

ストレスを感じると、体はコルチゾールというストレスホルモンを分泌します。

コルチゾールは免疫機能を低下させたり、男性ホルモンの分泌を促したりすることがあり、結果として皮脂分泌の増加や炎症の悪化につながる可能性があります。

自律神経の乱れと血行不良

ストレスは自律神経のバランスを崩し、交感神経が優位な状態を引き起こします。交感神経が優位になると血管が収縮し、頭皮への血行が悪くなります。

血行不良は毛根への栄養供給を滞らせ、毛髪の成長を妨げるだけでなく、頭皮のターンオーバーを乱し、バリア機能の低下を招きます。

睡眠不足と頭皮の新陳代謝

睡眠は、体の修復と再生に不可欠な時間です。特に、成長ホルモンは睡眠中に多く分泌され、皮膚や毛髪の新陳代謝(ターンオーバー)を促進します。

睡眠不足が続くと、成長ホルモンの分泌が減少し、頭皮の細胞修復が十分に行われず、バリア機能の低下や炎症の悪化を招きます。

また、睡眠不足自体がストレスとなり、ホルモンバランスを乱す要因ともなります。

質の高い睡眠のためのポイント

ポイント具体的な行動期待される効果
規則正しい生活リズム毎日同じ時刻に就寝・起床する体内時計の正常化
就寝前のリラックスぬるめのお風呂、軽いストレッチ、読書など副交感神経を優位にする
快適な寝室環境適切な温度・湿度、静かで暗い環境深い睡眠の促進

問診と視診 – 専門医による基本的な診断

問診と視診

脂漏性脱毛症の診断は、まず患者様の症状や生活習慣を詳しく伺う問診と、医師が直接頭皮の状態を観察する視診から始まります。

これらは診断の基本であり、その後の詳細な検査や治療方針を決定する上で重要な情報となります。

問診で確認する項目

問診では、患者様が感じている症状の具体的な内容、発症時期、経過、既往歴、家族歴、生活習慣(食事、睡眠、ストレス、洗髪習慣など)について詳しくヒアリングします。

これにより、症状の原因や悪化要因を推測し、必要な検査を絞り込むことができます。

自覚症状(フケ・かゆみ)のヒアリング

フケの量や質(乾燥しているか、湿っているか)、かゆみの程度や頻度、部位などを具体的に確認します。これらの情報は、脂漏性皮膚炎の重症度や活動性を判断する上で参考になります。

生活習慣や既往歴の確認

食生活の偏り、睡眠不足、ストレスの状況、使用しているヘアケア製品、アレルギー歴、過去にかかった皮膚疾患なども重要な情報です。

これらの情報から、生活習慣に起因する悪化要因や、他の皮膚疾患との鑑別の手がかりを得ます。

問診における主な確認事項

  • いつから症状が気になり始めたか
  • フケの特性(乾性、湿性、色、量)
  • かゆみの程度、頻度、部位
  • 頭皮の赤みや湿疹の有無
  • 洗髪の頻度や使用シャンプー
  • 食事内容、睡眠時間、ストレスの状況
  • 家族に同様の症状の人はいるか
  • 過去の病気や現在治療中の病気

視診による頭皮状態の評価

視診では、医師が肉眼で頭皮全体の状態を詳細に観察します。フケの付着状態、頭皮の色調(赤み、黄ばみなど)、炎症の有無や程度、皮脂の量、毛穴の状態、湿疹やびらんの有無などをチェックします。

また、脱毛の範囲やパターンも確認し、AGA(男性型脱毛症)など他の脱毛症との鑑別も行います。

頭皮の色・炎症の有無

健康な頭皮は青白い色をしていますが、炎症があると赤みを帯びたり、皮脂が多いと黄色っぽく見えたりします。炎症の範囲や強さを評価し、脂漏性皮膚炎の活動性を判断します。

皮脂の量や毛穴の状態

頭皮が脂っぽく光っているか、触るとベタつくかなどを確認します。毛穴に皮脂が詰まっていないか、毛穴の周囲に炎症がないかなども重要な観察ポイントです。

これらの所見は、皮脂分泌の状態やマラセチア菌の関与を推測する手がかりとなります。

顕微鏡検査で見える真実 – 頭皮と毛根の詳細分析

問診や視診で得られた情報をもとに、さらに詳細な頭皮状態を把握するために顕微鏡検査(マイクロスコープ検査)を行います。

これにより、肉眼では確認できない毛穴の詰まり具合や炎症の微細な状態、毛根の健康状態などを客観的に評価できます。

マイクロスコープ検査の目的

マイクロスコープは、頭皮や毛髪を数十倍から数百倍に拡大して観察できる特殊な顕微鏡です。

この検査により、頭皮のキメの状態、角質の剥がれ方、皮脂の分泌量、毛穴の周囲の炎症、血管の拡張具合などを詳細に確認できます。

これらの情報は、脂漏性脱毛症の診断精度を高め、治療方針の決定に役立ちます。

毛穴の詰まり具合の確認

毛穴に皮脂や角質が詰まっていると、黒ずんで見えたり、白い塊として観察されたりします。

詰まりの程度や範囲を評価することで、皮脂コントロールの必要性や、適切なスカルプケアの方法を検討する材料とします。

頭皮の炎症や角質の状態観察

炎症を起こしている部位は、毛細血管が拡張して赤く見えたり、細かい鱗屑(フケ)が付着していたりします。角質の剥がれ方が異常な場合、ターンオーバーの乱れが示唆されます。

これらの所見は、炎症を抑える治療の必要性を判断する上で重要です。

マイクロスコープ検査で観察する主なポイント

観察項目正常な状態の目安脂漏性皮膚炎で見られる異常所見
頭皮の色青白い、または透明感のある白色赤み、黄ばみ、部分的な充血
毛穴の状態くぼみが明瞭、詰まりがない皮脂詰まり、角栓形成、毛穴周囲の炎症
皮脂の量適度な潤い、ベタつきなし過剰な皮脂、テカリ、毛髪の束感
フケ・角質目立たない、細かい乾燥したフケが少量大きく湿ったフケ、厚い角質の付着

毛根の形状と健康状態

マイクロスコープ検査では、採取した毛髪の毛根部分を観察することもあります。毛根の形状や太さ、毛球部の状態などから、毛髪の成長サイクルや栄養状態、毛根へのダメージの有無などを評価します。

これにより、脱毛の原因が毛根レベルで起きているのか、あるいは頭皮環境の問題が主であるのかを判断する一助となります。

正常な毛根と異常な毛根

健康な成長期の毛根は、丸みを帯びてしっかりとした毛球部を持ち、毛幹も太く丈夫です。

一方、脂漏性脱毛症やAGAなどによりダメージを受けた毛根は、毛球部が萎縮していたり、毛幹が細く弱々しくなっていたり、形状がいびつであったりします。

これらの異常所見は、脱毛の進行度や予後を予測する上で参考になります。

血液検査で分かること – ホルモンバランスと栄養状態

血液検査

脂漏性脱毛症の原因は頭皮表面だけでなく、体内の状態も影響している場合があります。血液検査を行うことで、ホルモンバランスの乱れや栄養状態の偏りなど、内的な要因を評価することができます。

これにより、より根本的な原因にアプローチするための情報を得ます。

男性ホルモン値の測定

テストステロンやDHT(ジヒドロテストステロン)などの男性ホルモン値を測定します。これらのホルモン値が異常に高い場合、皮脂の過剰分泌やAGA(男性型脱毛症)の進行に関与している可能性があります。

ただし、ホルモン値が正常範囲内であっても、ホルモンに対する感受性が高い場合は症状が現れることもあります。

血液検査で評価する主なホルモン

  • 総テストステロン
  • フリーテストステロン
  • DHT(ジヒドロテストステロン)

栄養状態のチェック

頭皮や毛髪の健康には、様々な栄養素が必要です。血液検査により、ビタミンやミネラルの不足、タンパク質の充足度、貧血の有無などを調べます。

特に、脂質の代謝に関わるビタミンB群、抗酸化作用のあるビタミンC・E、毛髪の主成分であるタンパク質(アミノ酸)、細胞分裂に必要な亜鉛などが不足していると、頭皮環境の悪化や脱毛を招くことがあります。

ビタミン・ミネラルの不足

例えば、ビタミンB2やB6の不足は皮脂の過剰分泌を招きやすく、ビオチン不足は皮膚炎や脱毛の原因となることがあります。亜鉛不足は毛髪の成長不良や免疫力低下につながります。

これらの栄養素の過不足を把握し、必要に応じて食事指導やサプリメントの提案を行います。

炎症マーカーの確認

体内で炎症が起きていると上昇するCRP(C反応性タンパク)などの炎症マーカーを測定することもあります。

これにより、全身的な炎症状態が頭皮の炎症に影響していないか、あるいは他の内科的疾患が隠れていないかなどを評価する手がかりとなります。

血液検査でチェックする栄養・炎症関連項目例

検査項目カテゴリー主な検査項目不足・異常時の影響例
ビタミン類ビタミンB群、ビタミンD、ビオチン皮脂代謝異常、皮膚炎、脱毛
ミネラル類亜鉛、鉄(フェリチン)毛髪成長不良、貧血による酸素供給低下
炎症マーカーCRP、白血球数全身性または局所的な炎症の存在

遺伝子検査による体質診断 – 脂漏性脱毛症のリスク評価

遺伝子検査・皮脂量測定・菌培養をまとめたイメージ

近年、遺伝子検査技術の進歩により、個人の遺伝的体質を詳細に分析できるようになりました。

脂漏性脱毛症やAGA(男性型脱毛症)の発症リスク、さらには治療薬に対する感受性などを遺伝子レベルで評価することが可能です。

これにより、より個別化された予防策や治療法の選択に役立てることができます。

脂漏性皮膚炎関連遺伝子の分析

脂漏性皮膚炎の発症しやすさに関連する遺伝子を調べることで、個人のリスクを評価します。

特定の遺伝子型を持つ人は、皮脂の質や量、炎症反応の起こしやすさなどに特徴があり、脂漏性皮膚炎を発症しやすい傾向があることが分かっています。

この情報を知ることで、より早期からの予防的アプローチや、生活習慣改善のモチベーション向上につながります。

AGA(男性型脱毛症)関連遺伝子の同時検査

脂漏性脱毛症の患者様の中には、AGAを併発しているケースも少なくありません。AGAの発症には、アンドロゲンレセプター遺伝子の感受性などが関与しています。

遺伝子検査でAGAのリスクを評価することで、脱毛の原因をより正確に特定し、適切な治療戦略を立てるのに役立ちます。

治療薬感受性の予測

遺伝子情報に基づいて、特定の治療薬に対する効果の現れやすさや、副作用のリスクを予測することも可能です。

例えば、AGA治療薬であるフィナステリドやデュタステリドの効果には個人差がありますが、関連する遺伝子を調べることで、その効果をある程度予測できます。

遺伝子検査を治療前に行うことで、治療薬の選定におけるミスマッチを減らし、より効果的で安全な治療を選択できる可能性が高まります。

これは、患者様にとって時間的・経済的な負担を軽減することにもつながります。

遺伝子検査でわかることの一例

検査対象わかること(例)診断・治療への活用
脂漏性皮膚炎関連遺伝子炎症の起こしやすさ、皮脂の質発症リスク評価、予防策の個別化
AGA関連遺伝子アンドロゲン感受性、5αリダクターゼ活性AGA発症リスク評価、治療薬選択の参考
薬物代謝酵素遺伝子特定の治療薬の代謝速度、副作用リスク治療薬の感受性予測、投与量調整の参考

皮脂量測定と細菌培養検査 – 頭皮環境の数値化

頭皮の状態をより客観的に評価するために、専用の機器を用いた皮脂量の測定や、原因菌であるマラセチア菌の培養検査を行うことがあります。

これにより、頭皮環境を数値や菌の種類・量として具体的に把握し、診断や治療効果の判定に役立てます。

皮脂量測定器による客観的評価

皮脂量測定器(シーバムメーターなど)は、頭皮の特定部位にセンサーを当てることで、その部分の皮脂量を数値として測定する機器です。

これにより、医師の視診による主観的な評価に加え、客観的なデータとして皮脂の分泌状態を把握できます。治療前後の皮脂量の変化を比較することで、治療効果を定量的に評価することも可能です。

皮脂量測定の意義

  • 皮脂分泌の過剰度合いを客観的に把握
  • 治療方針(皮脂コントロールの必要性)の決定
  • 治療効果の客観的なモニタリング

マラセチア菌の培養検査

頭皮から検体を採取し、特殊な培地で培養することで、マラセチア菌の有無や種類、量を調べます。

マラセチア菌が異常に増殖している場合、それが脂漏性皮膚炎の直接的な原因となっている可能性が高いと判断できます。

また、菌の種類によっては特定の抗真菌薬が効きにくい場合もあるため、薬剤選択の参考になることもあります。

細菌培養検査で得られる情報

検査項目得られる情報診断への活用
菌の同定マラセチア菌の種類(例: M. furfur, M. globosa)原因菌の特定、薬剤感受性の推定
菌量の評価菌のコロニー数(+, ++, +++など)菌の増殖度合いの評価、治療効果判定

よくある質問

脂漏性脱毛症は治りますか?

脂漏性脱毛症は、適切な治療と生活習慣の改善により、症状をコントロールし、脱毛の進行を抑えることが期待できます。

完治というよりは、良い状態を維持していく「寛解」を目指すことが多いです。原因が多岐にわたるため、専門医と相談しながら根気強く治療に取り組むことが大切です。

頭皮環境を整え、炎症を抑えることで、毛髪が再び成長しやすい環境を作ることが治療の目標の一つです。

検査は痛いですか?

脂漏性脱毛症の検査の多くは、痛みを伴うものではありません。問診や視診はもちろん、マイクロスコープ検査も頭皮を拡大して観察するだけです。皮脂量測定もセンサーを当てるだけです。

血液検査では採血時にチクッとした痛みがありますが、一般的な健康診断の採血と同様です。細菌培養検査で検体を採取する際も、軽くこする程度で痛みはほとんどありません。

ご不安な点があれば、遠慮なく医師にご相談ください。

遺伝子検査は必ず受けるべきですか?

遺伝子検査は必須の検査ではありません。しかし、ご自身の体質をより深く理解し、将来的なリスクを把握したり、より個別化された治療法を選択したりする上で非常に有用な情報を提供してくれます。

特に、治療法の選択に迷う場合や、複数の脱毛要因が疑われる場合には、判断材料の一つとして役立ちます。

続けて読んで欲しい記事

脂漏性脱毛症の原因と検査方法についてご理解いただけましたでしょうか。さらに詳しい治療法やご自身でできる予防策については、以下の記事で解説しています。

脂漏性脱毛症の治療と予防

Reference

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