緑茶に含まれる5αリダクターゼへの効果

AGA（男性型脱毛症）の主な原因である5αリダクターゼ。この酵素の働きを抑えることが薄毛対策の鍵です。

実は私たちの身近な飲み物である緑茶に、この5αリダクターゼの働きに影響を与える成分が含まれていることが研究で示唆されています。

この記事では緑茶が持つ可能性とAGA治療におけるその役割、そして正しい知識に基づいた薄毛対策について専門的な観点から詳しく解説します。

そもそも5αリダクターゼとは何か？

薄毛やAGAの話題で頻繁に耳にする「5αリダクターゼ」。これが一体何なのかを正しく理解することが効果的な対策への第一歩です。

これは体内に存在する還元酵素の一種で、男性ホルモンに働きかけます。

AGA（男性型脱毛症）を引き起こす酵素

5αリダクターゼは男性ホルモンの一種であるテストステロンと結合し、より強力な男性ホルモンであるDHT（ジヒドロテストステロン）へと変換する働きを持ちます。

このDHTが頭髪の成長期を短縮させ、毛髪が太く長く成長する前に抜け落ちさせる主な原因物質です。つまり、5αリダクターゼの活動が活発な人ほどAGAを発症・進行しやすい傾向にあります。

Ⅰ型とⅡ型の違いと役割

5αリダクターゼには「Ⅰ型」と「Ⅱ型」の2つのタイプが存在し、それぞれ体内で分布する場所や役割が異なります。

特にAGAとの関連が深いのは主に毛乳頭細胞に存在するⅡ型です。

Ⅰ型とⅡ型の主な特徴

種類	主な分布場所	AGAへの関与
Ⅰ型5αリダクターゼ	全身の皮脂腺	側頭部や後頭部の薄毛に関与する可能性
Ⅱ型5αリダクターゼ	前頭部・頭頂部の毛乳頭細胞、髭、脇など	AGAの主な原因

なぜ5αリダクターゼの抑制が重要なのか

AGAの進行を食い止めるにはDHTの生成を抑えることが極めて重要です。D

HTが過剰に生成されると毛母細胞の活動が弱まり、ヘアサイクルが乱れます。このため、DHTの元となる5αリダクターゼの働きを阻害することがAGA治療の根本的なアプローチとなります。

専門クリニックで処方する治療薬の多くは、この酵素の働きを抑えることを目的としています。

緑茶の成分と5αリダクターゼへの関係性

日本の食文化に深く根付いている緑茶。その健康効果は広く知られていますが、近年ではAGAの原因となる5αリダクターゼへの影響についても研究が進んでいます。

注目の成分「カテキン」とは

緑茶の渋み成分であるカテキンはポリフェノールの一種です。緑茶には数種類のカテキンが含まれており、それぞれが異なる健康効果を持つと期待されています。

これらのカテキンが体内の様々な酵素の働きに影響を与えることが分かっています。

緑茶に含まれる主なカテキン

カテキンの種類	略称	特徴
エピガロカテキンガレート	EGCg	緑茶カテキンの中で最も含有量が多く、強い抗酸化作用を持つ
エピカテキンガレート	ECg	EGCgに次いで含有量が多い
エピガロカテキン	EGC	渋みが少なく、比較的多く含まれる

EGCg（エピガロカテキンガレート）の働き

緑茶カテキンの中でも特に注目されているのがEGCgです。EGCgはその強力な抗酸化作用に加え、様々な研究で5αリダクターゼの働きを阻害する可能性が示唆されています。

この働きによりテストステロンがDHTに変換されるのを抑制し、AGAの進行を遅らせる効果が期待されています。

緑茶はⅡ型5αリダクターゼを阻害する可能性

研究によると緑茶に含まれるカテキン、特にEGCgはAGAの主原因であるⅡ型5αリダクターゼに対して選択的に作用する可能性が指摘されています。

これはAGA治療薬であるフィナステリドの作用点と似ており、緑茶が薄毛対策のサポートとして注目される理由の一つです。

緑茶を飲むだけではAGA治療は不十分な理由

「緑茶がAGAに良いなら毎日たくさん飲めば髪が生えるのでは？」と期待する方もいるかもしれません。しかし、現実はそれほど単純ではありません。

緑茶を飲むという行為がなぜ専門的なAGA治療の代わりにはならないのか、その科学的な根拠と現実的な課題を理解することが大切です。

成分の吸収率と血中濃度の問題

緑茶に含まれるEGCgが5αリダクターゼを阻害するためには毛乳頭細胞まで届く必要があります。

しかし、口から摂取した成分のすべてが体内に吸収され、目的の場所に到達するわけではありません。

EGCgの経口摂取による生体利用率（吸収されて実際に体内で利用される割合）は、決して高くないことが分かっています。

治療効果を発揮するのに十分な濃度を頭皮の毛細血管で維持することは非常に難しいのです。

成分が効果を発揮するまでの流れ

段階	課題	解説
摂取	飲むだけでは量が不足	研究で使われる量は日常生活での摂取量を大幅に上回る
吸収	消化管での吸収率が低い	多くは吸収されずに体外へ排出される
到達	血中濃度が上がりにくい	毛乳頭細胞に届く有効成分はごくわずか

必要な摂取量と現実的な課題

研究レベルで5αリダクターゼへの阻害効果を確認するためには非常に高濃度のカテキンが必要です。

これを日常的な飲用で達成しようとすると、1日に何十杯もの緑茶を飲まなければならない計算になり、非現実的です。

また、この量の緑茶を摂取すると、カフェインの過剰摂取による健康被害（不眠、動悸、胃腸障害など）のリスクが著しく高まります。

自己判断による対策の限界とリスク

緑茶が良いと聞いて自己流の対策に終始することは、貴重な治療の機会を逃すことにつながりかねません。

AGAは進行性の脱毛症であり、放置すれば薄毛は着実に進みます。効果が不確かな方法に時間を費やす間に毛母細胞が活動を停止してしまうと、治療の効果も出にくくなります。

確実な効果を求めるなら、医学的根拠に基づいた治療を早期に開始することが何よりも重要です。

クリニックでの治療が確実な選択肢

専門クリニックでは医師が診察に基づき、医学的に効果が証明された治療薬を処方します。これらの治療薬は有効成分が毛乳頭に直接作用するように設計されており、安定した効果を発揮します。

緑茶はあくまで健康習慣の一環として楽しみ、薄毛の悩みは専門医に相談することが改善への最も確実で安全な道です。

研究データから見る緑茶成分の効果

緑茶の成分が5αリダクターゼに与える影響については世界中で様々な角度から研究が進められています。

ただしその多くはまだ基礎研究の段階であり、解釈には注意が必要です。

細胞レベルでの研究成果

培養した細胞を用いた実験（in vitro研究）では緑茶抽出物やEGCgが5αリダクターゼの活性を阻害したという報告が多数あります。

これらの研究は緑茶成分がAGAの原因に直接アプローチする可能性を示すものであり、今後の研究への期待を高めるものです。

動物実験で確認された傾向

マウスなどの動物を用いた実験でも緑茶成分の投与によって発毛が促進されたり、脱毛が抑制されたりする結果が報告されています。

これは生体内でも緑茶成分が何らかの良い影響を与える可能性を示唆していますが、人間と動物では代謝などが異なるため、そのまま人間に当てはまるわけではありません。

緑茶成分に関する研究段階の概要

研究段階	主な内容	AGA治療への示唆
細胞研究 (in vitro)	培養細胞で酵素活性への影響を調査	成分が作用する可能性を示す
動物実験 (in vivo)	マウス等で発毛への影響を調査	生体内での効果の可能性を示唆
臨床研究 (ヒト)	人を対象に効果と安全性を検証	直接的なエビデンスとなるが、まだ限定的

人への臨床研究における現状と限界

最も重要な、人を対象とした臨床研究についてはまだ十分なデータが揃っていません。

一部の研究では緑茶成分を含むサプリメントの摂取で毛髪の改善が見られたという報告もありますが、研究デザインや規模に課題があり、AGA治療法として確立するには至っていません。

「緑茶を飲めば髪が生える」と断言できるほどの強力な科学的根拠（エビデンス）は、現時点では存在しないのが実情です。

5αリダクターゼを抑制する他の方法

緑茶の摂取はあくまで補助的な役割と捉え、AGAの進行を確実に抑制するためには医学的に確立された方法を検討することが大切です。

現在、医療機関では主に内服薬や外用薬による治療を行います。

専門クリニックでの内服薬治療

AGA治療の基本となるのが5αリダクターゼ阻害薬の内服です。

これらの薬剤はDHTの生成を元から断つことでヘアサイクルを正常化させ、抜け毛を減らし、毛髪の成長を助けます。

主なAGA内服治療薬

成分名	作用するタイプ	特徴
フィナステリド	Ⅱ型5αリダクターゼ	世界中で広く使用されている標準的な治療薬
デュタステリド	Ⅰ型・Ⅱ型5αリダクターゼ	より強力にDHT生成を抑制する効果が期待できる

外用薬によるアプローチ

内服薬と並行して用いられることが多いのがミノキシジルなどの外用薬です。

これは5αリダクターゼを直接阻害するわけではありませんが、頭皮の血流を促進し、毛母細胞を活性化させることで発毛を促します。

守り（内服薬）と攻め（外用薬）の治療を組み合わせることで、より高い効果が期待できます。

日常生活でできる食生活の工夫

特定の食品だけでAGAが治ることはありませんが、髪の健康を支える栄養バランスの取れた食事は治療の土台となります。

特に亜鉛やビタミンB群、良質なたんぱく質などを意識的に摂取することが重要です。

髪の健康をサポートする栄養素と食材

栄養素	主な働き	多く含む食材
亜鉛	5αリダクターゼの働きを穏やかにする。毛髪の主成分ケラチンの合成を助ける。	牡蠣、レバー、牛肉（赤身）、ナッツ類
大豆イソフラボン	構造が女性ホルモンに似ており、DHTの働きを抑制する可能性が示唆されている。	豆腐、納豆、豆乳

緑茶を生活に取り入れる際のポイント

AGA治療の直接的な手段にはならないものの、緑茶が持つ健康効果は多岐にわたります。

治療の妨げにならない範囲で上手に日常生活に取り入れるためのポイントを紹介します。

効果的な緑茶の選び方

カテキン、特にEGCgを効率的に摂取するには茶葉の種類や育て方が重要です。

一般的に日光を多く浴びて育った煎茶や番茶にカテキンは多く含まれる傾向があります。

• 玉露や抹茶: 旨味成分（テアニン）が豊富
• 煎茶: カテキンとカフェインのバランスが良い
• 深蒸し茶: 成分が抽出しやすい

飲むタイミングと適切な量

高温のお湯で淹れるとカテキンは抽出されやすくなります。食後に飲むと食事に含まれる脂肪の吸収を穏やかにする効果も期待できます。

1日の摂取量としては湯呑みで5〜6杯程度を目安とし、一度に大量に飲むのではなく、数回に分けて飲むことをお勧めします。

カフェインの過剰摂取に注意

緑茶には覚醒作用や利尿作用のあるカフェインも含まれています。

過剰に摂取すると不眠やめまい、胃痛などを引き起こす可能性があります。特に就寝前の摂取は避けるのが賢明です。

お茶の種類別カフェイン含有量の目安（100mlあたり）

お茶の種類	カフェイン量（目安）	特徴
玉露	約160mg	栽培方法により非常に多い
煎茶	約20mg	標準的な含有量
ほうじ茶・玄米茶	約20mg	煎茶とほぼ同等

AGA治療薬と緑茶の併用は問題ないか

専門クリニックでAGA治療を始めるにあたり、普段飲んでいる緑茶との飲み合わせを心配する方もいるかもしれません。

基本的な考え方と注意点を解説します。

フィナステリド・デュタステリドとの相互作用

現在AGA治療薬であるフィナステリドやデュタステリドと緑茶の成分との間に、治療効果を妨げるような重大な相互作用は報告されていません。

常識的な範囲で緑茶を飲む分には特に問題はないと考えてよいでしょう。

ミノキシジルとの関係

発毛を促進するミノキシジル（内服・外用）と緑茶の間にも特筆すべき相互作用の報告はありません。

しかしミノキシジルには血管拡張作用があるため、カフェインの過剰摂取による心臓への負担増には注意が必要です。

医師への相談が何よりも重要

サプリメントを含め、健康のために何かを始めるときは必ず治療を受けているクリニックの医師に相談してください。

個人の体質や他に服用している薬によっては予期せぬ影響が出る可能性もゼロではありません。

自己判断で併用せず、専門家の指示を仰ぐことが安全な治療への鍵です。

よくある質問

緑茶と薄毛対策に関して、患者様から寄せられることの多い質問にお答えします。

濃い緑茶をたくさん飲めば髪は生えますか？

いいえ、そのように断言することはできません。

前述の通り、緑茶を飲むだけでAGAが改善するほどの効果は期待できません。有効成分の吸収率や濃度の問題から、医学的に承認された治療法を優先することが重要です。

緑茶はあくまで健康習慣の一環としてお楽しみください。

緑茶以外のお茶（紅茶やウーロン茶）にも効果はありますか？

紅茶やウーロン茶も、元は緑茶と同じ茶の木（チャノキ）の葉から作られます。製造過程で発酵させることで成分が変化し、カテキンの含有量は緑茶に比べて減少します。

そのため、5αリダクターゼへの影響を期待するのであれば、カテキンが最も多く残っている緑茶が適していると考えられます。

お茶の種類とカテキン含有量の比較

お茶の種類	発酵度	カテキン含有量
緑茶	不発酵	多い
ウーロン茶	半発酵	中程度
紅茶	発酵	少ない

緑茶成分のサプリメントはどうですか？

緑茶カテキンを高濃度で配合したサプリメントも市販されています。しかし、これらも医薬品ではなく健康食品の扱いです。

品質や含有量も製品によって様々で、AGAへの治療効果が保証されているわけではありません。また、高濃度のカテキン摂取は肝機能障害のリスクも指摘されています。

使用する場合は必ず医師に相談してください。

緑茶を頭皮に塗布することに意味はありますか？

緑茶成分を含む育毛剤やヘアケア製品は存在しますが、緑茶そのものを頭皮に塗っても有効成分が毛根まで浸透するとは考えにくく、十分な効果は期待できません。

かえって頭皮の衛生環境を損なう可能性もありますのでお勧めしません。

頭皮ケアはその目的のために開発された製品を使用してください。

以上

参考文献

AKBARNEJAD, Farshad. The Role of Green Tea (Camellia sinensis) in the Management of Androgenetic Alopecia (AGA): A Review. 2023.

ILTAF, J., et al. Ficus benghalensis as Potential Inhibitor of 5a-Reductase for Hair Growth Promotion. Protective Effects of Medicinal Plant Extracts and Natural Compounds in Skin Disorders, 2022, 762829127.

DHARIWALA, Maria Yusuf; RAVIKUMAR, Padmini. An overview of herbal alternatives in androgenetic alopecia. Journal of cosmetic dermatology, 2019, 18.4: 966-975.

CHAKRABORTY, Arpan. Development of hair growth formulation with 5α-reductase inhibitory activity. 2016.

ZAMANI, Pardis; MOKHTARI, Omid; DEHGHANIAN, Fariba. Identification of beta-sitosterol and stigmasterol as possible inhibitors of 5 alpha-reductase 1: an in-silico study. Precision Medicine and Clinical OMICS, 2022, 1.1: e121545.

ASNAASHARI, Solmaz; JAVADZADEH, Yousef. Herbal Medicines For Treatment of Androgenic Alopecia. Alternative Therapies in Health & Medicine, 2020, 26.4.