はげ方のパターンと種類からわかる治療方針

生え際からだろうか、それとも頭のてっぺんからだろうか。薄毛の進行パターンは一人ひとり異なり、その「はげ方」にはAGA（男性型脱毛症）の性質や進行度を知るための重要な手がかりが隠されています。

自分のパターンを正しく理解することは、効果的な治療への第一歩です。

この記事では代表的な薄毛の種類とパターンを解説し、それぞれに適した治療方針について専門家の視点で詳しく解説します。

なぜ薄毛のパターンは人によって違うのか

薄毛の進行パターンに個人差があるのは、AGAの根本原因である遺伝と男性ホルモンの影響の受け方が人それぞれ異なるためです。その違いが見た目の変化として現れます。

遺伝的要因がパターンを左右する

AGAのなりやすさは遺伝的要因が大きく、特に男性ホルモンを受け取る「アンドロゲンレセプター」の感受性は薄毛の進行に深く関わります。

このレセプターが前頭部（生え際）に多いか、頭頂部に多いかといった分布の個人差が、M字型やO字型といったパターンの違いを生む一因と考えられています。

5αリダクターゼの分布と活性度

脱毛の引き金となるDHT（ジヒドロテストステロン）を生成する酵素「5αリダクターゼ」にはⅠ型とⅡ型があります。特にAGAに強く関わるⅡ型は前頭部から頭頂部にかけて多く分布しています。

この酵素の活性度が高い部位から、薄毛が進行しやすくなります。

AGAの進行に関わる主な要因

要因	役割	パターンへの影響
アンドロゲンレセプター	DHTをキャッチする受け皿	感受性の高い部位から薄毛が進行する
Ⅱ型5αリダクターゼ	DHTを生成する酵素	この酵素が活発な部位から薄毛が進行する

生活習慣は進行速度に影響する

薄毛のパターン自体は遺伝的要因でほぼ決まりますが、その進行速度は食生活や睡眠、ストレスといった後天的な生活習慣も影響します。

頭皮環境が悪化するとAGAの進行が加速することもあります。

AGA進行度の指標「ハミルトン・ノーウッド分類」

AGAの進行度を客観的に評価するために、世界中の医療機関で用いられているのが「ハミルトン・ノーウッド分類」です。

この分類で自分の状態がどの段階にあるかを知る目安になります。

薄毛の進行度を客観的に示すものさし

ハミルトン・ノーウッド分類法はAGAの典型的な進行パターンをⅠ型からⅦ型までの7段階で示します。

医師が患者様の状態を正確に把握し、適切な治療方針を決定するための共通言語として機能します。

7段階の分類と主な特徴

Ⅰ型が正常な状態で、数字が大きくなるほど薄毛が進行していることを示します。

Ⅱ型からM字の始まりが見られ、Ⅲ型で多くの方がAGAを自覚します。Ⅳ型以降は頭頂部の薄毛も加わり、Ⅶ型で最も進行した状態となります。

ハミルトン・ノーウッド分類の概要

分類	進行度の目安
Ⅰ型～Ⅱ型	初期段階。生え際がわずかに後退。
Ⅲ型～Ⅴ型	中期段階。M字やO字が明確になる。
Ⅵ型～Ⅶ型	後期段階。前頭部と頭頂部がつながり、側頭部と後頭部のみ毛が残る。

治療方針決定の重要な目安

一般的に進行度が若い段階であるほど治療効果は高く、改善の幅も大きくなります。

分類がどの段階にあるかによって治療の目標（現状維持か、積極的な発毛か）や、推奨される治療法の組み合わせも変わってきます。

代表的な3つのはげ方のパターン

ハミルトン・ノーウッド分類は主に3つの基本的な薄毛のパターンを組み合わせて評価します。自分の症状がどれに近いか見てみましょう。

生え際から始まるM字型

額の両サイド、いわゆる「剃り込み」の部分から後退していくパターンです。正面から見た時にアルファベットの「M」のように見えることから、この名前で呼ばれます。

日本人には比較的少ないタイプとも言われます。

頭のてっぺんから広がるO字型

頭頂部、いわゆる「つむじ」周辺から円形に薄くなっていくパターンです。自分では気づきにくく、他人からの指摘で初めて自覚するケースも少なくありません。

日本人に最も多いタイプとされています。

全体的に進行するU字型

M字型とO字型が同時に進行し、最終的に前頭部から頭頂部にかけて全体的に薄くなるパターンです。アルファベットの「U」の字のように見えることから、この名前で呼ばれます。

AGAがある程度進行した状態で見られることが多いです。

3大パターンの特徴まとめ

パターン	薄くなる部位	気づきやすさ
M字型	額の生え際（両サイド）	自分で気づきやすい
O字型	頭頂部（つむじ周り）	他人からの指摘で気づくことも
U字型	前頭部から頭頂部全般	薄毛がかなり進行した状態

M字型（生え際後退）の特徴と治療戦略

初期段階で気づきやすいM字型は早期治療が進行を食い止める鍵となります。

見た目の特徴と初期症状

初期症状は以前より額が広くなったように感じたり、生え際の髪が細く、うぶ毛のようになってきたりすることです。

進行するとM字の剃り込み部分がどんどん深くなっていきます。

進行しやすい人の傾向

M字型は生え際の5αリダクターゼの活性度が高い、あるいはアンドロゲンレセプターの感受性が高い体質の人に現れやすいと考えられます。

一度後退し始めると進行が早い場合もあるため注意が必要です。

推奨される治療アプローチ

M字型の治療では、まず内服薬（フィナステリド、デュタステリド）でDHTの生成を抑え、これ以上の後退を防ぐことが基本です。

その上でミノキシジル外用薬を併用し、生え際のうぶ毛を太く長い毛に育てていく「守り」と「攻め」の治療を組み合わせます。

O字型（頭頂部）の特徴と治療戦略

気づきにくい分、発見が遅れがちなO字型は定期的なセルフチェックが重要です。

見た目の特徴と初期症状

つむじ周りの髪のボリュームがなくなり、地肌が透けて見えるようになります。

合わせ鏡を使ったり、スマートフォンで撮影したりして確認すると変化に気づきやすいでしょう。

血行不良が影響しやすい部位

頭頂部はもともと血流が滞りやすい部位であり、AGAの作用に加えて血行不良が進行を助長する可能性も指摘されています。

治療においては血流改善も重要なテーマとなります。

推奨される治療アプローチ

O字型は比較的、治療薬への反応が良い傾向があります。特に血行を促進し発毛を促すミノキシジル（内服・外用）の効果が現れやすいパターンです。

もちろんDHTを抑制する内服薬との併用が根本的な改善には必要です。

U字型（M字とO字の混合）の特徴と治療戦略

U字型はAGAがある程度進行した状態であり、より積極的な治療が求められます。

進行度が高い状態

M字とO字がそれぞれ進行し、最終的につながってしまった状態です。

ハミルトン・ノーウッド分類では後期（Ⅴ型以降）に該当し、残っている毛髪も細く弱っていることが多いです。

治療の目標設定が重要

この段階では完全に元の状態に戻すことは容易ではありません。どこまで改善したいのか、現実的な治療のゴールを医師としっかり共有することが重要です。

「これ以上進行させない」ことを第一目標にするのか、あるいは「少しでも発毛させたい」のかによって、治療計画が変わります。

推奨される治療アプローチ

内服薬と外用薬の併用を基本としながら、より積極的に発毛を目指す場合は、頭皮に直接有効成分を届ける「注入治療」などを組み合わせることもあります。

より強力にDHTを抑制するデュタステリドの使用も選択肢となります。

パターン別治療戦略のポイント

パターン	治療の基本方針	特に重視する治療
M字型	進行を食い止め、現状を維持・改善する	内服薬（DHT抑制）、外用薬（発毛促進）
O字型	血行を促進し、毛量を回復させる	ミノキシジル（内服・外用）、内服薬（DHT抑制）
U字型	進行を止め、可能な限りの発毛を目指す	デュタステリド、注入治療などの複合的アプローチ

「自分のパターンは他人と違う…」と感じるあなたへ

M字、O字、U字。どの典型的なパターンにも当てはまらない、あるいは全体的に薄くなってきたように感じて、「自分の場合はどうすればいいのだろう」と一人で悩んでいませんか。

その不安、私たち専門家はよく理解しています。

定義できないパターンへの不安

分類はあくまで多くの人に見られる傾向を分かりやすく示したものに過ぎません。

人の顔がそれぞれ違うように、薄毛の現れ方も千差万別です。「自分のハゲ方は特殊だ」「だから治らないかもしれない」と感じる必要は全くありません。

むしろ典型的なパターンに当てはまらないと感じること自体が、自己判断の限界を示唆しています。

びまん性脱毛症との違い

全体的に髪の毛が薄くなる症状は男性でも「びまん性脱毛症」と呼ばれることがあります。これはAGAが局所的に進行するのとは異なり、髪全体の密度が低下する状態です。

AGAと合併しているケースもあり、その見極めには専門的な診断が重要です。

自己判断ではなく専門医の診断がすべての始まり

大切なのは自分の状態を無理にどれかのパターンに当てはめようとすることではありません。専門のクリニックでマイクロスコープを使い、あなたの頭皮で実際に何が起きているのかを客観的に見ることです。

毛髪の太さ、毛穴の状態、頭皮の色。これらの情報を総合的に分析し、あなただけの治療方針を立てることが、悩みを解決する唯一の道です。

私たちはそのための専門知識と経験を持っています。

AGA以外の脱毛症の可能性

薄毛の原因はAGAだけではありません。まれに他の脱毛症が隠れていることもあるため、その違いを知っておくことも大切です。

主な脱毛症の種類と特徴

脱毛症の種類	主な原因	特徴的な症状
AGA（男性型脱毛症）	遺伝、男性ホルモン	特定のパターンでゆっくり進行する
円形脱毛症	自己免疫疾患	円形や楕円形に突然毛が抜ける
脂漏性脱毛症	過剰な皮脂、マラセチア菌の増殖	強いかゆみやフケ、頭皮の赤みを伴う

円形脱毛症との見分け方

円形脱毛症は、ある日突然コインのような形の脱毛斑ができるのが特徴です。原因はAGAとは異なり、免疫機能の異常と考えられています。

境界がはっきりしている脱毛斑があれば、AGAではなくこちらを疑います。

脂漏性脱毛症のサイン

頭皮の過剰な皮脂分泌と、それをエサにする常在菌の異常繁殖によって起こる脱毛症です。

ベタベタした大きなフケや強いかゆみ、頭皮の赤みといった炎症症状を伴うのが特徴です。

よくある質問

はげ方のパターンに関して、患者様から多く寄せられる質問にお答えします。

どのパターンが一番治りにくいですか？

一概に「このパターンが治りにくい」とは言えません。

治りやすさはパターンそのものよりも、発見と治療開始がどれだけ早かったか、つまり「進行度」に大きく左右されます。

一般的には、うぶ毛が多く残っている頭頂部のO字型の方が、完全に毛根がなくなった生え際のM字型よりも見た目の回復を実感しやすい傾向はあります。

複数のパターンが混ざっている場合はどうなりますか？

M字とO字が同時に進行するU字型のように、パターンが混合することは非常によくあります。

その場合はどちらの進行が優位か、全体の進行度はどのレベルかなどを総合的に判断し、内服薬、外用薬、その他の治療法を最適に組み合わせて治療計画を立てます。

自己診断で自分のパターンを判断できますか？

ある程度の目安をつけることは可能ですが、正確な判断は困難です。特にO字型は自分では見えにくく、進行度に気づきにくいです。

また、AGA以外の脱毛症との区別も専門家でなければ難しい場合があります。

不確かな自己判断で時間を無駄にせず、早期に専門医の診断を受けることを強くお勧めします。

治療を始めればパターンは元に戻りますか？

治療の目標は薄毛の進行を止め、可能な限り毛量を回復させることです。

治療によってヘアサイクルが正常化し、細い毛が太く長く成長することで薄くなった部分が改善され、元の状態に近づくことは十分に期待できます。

しかし完全に活動を停止した毛根から再び髪を生やすことは困難なため、治療開始が早いほど、より高い改善が見込めます。

以上

参考文献

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