「枕から脂っぽい臭いがするようになった」「シャンプー後の排水溝に溜まる髪の量が増えた」。40代を迎え、頭皮の臭いと抜け毛という二つの悩みが同時に気になり始めた方は決して少なくありません。
これらは単独の問題ではなく、実は身体の内側で起きている変化が原因で、互いに深く関連している可能性があります。放置すると頭皮環境はさらに悪化し、薄毛が進行してしまうことも。
この記事では40代特有の頭皮の臭いと抜け毛の原因を医学的な観点から解き明かし、今日からできる対策、そして専門的な治療の必要性までを詳しく解説します。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
なぜ40代は頭皮の臭いと抜け毛が同時に起こりやすいのか
40代は仕事や家庭で中心的な役割を担う一方、身体には様々な変化が現れる時期です。頭皮の臭いと抜け毛が同時に顕著になるのには、この年代特有の理由があります。
加齢に伴う身体の変化
年齢を重ねると身体の代謝機能は自然と低下します。このことにより血行が悪化し、頭皮の細胞が生まれ変わるターンオーバーの周期も乱れがちになります。
古い角質や皮脂が頭皮に溜まりやすくなるため、雑菌が繁殖し臭いの原因となるだけでなく、毛穴を塞いで健康な髪の成長を妨げ、抜け毛につながります。
ホルモンバランスの変動
40代は性ホルモンのバランスが大きく変動する時期です。特に男性ホルモンは皮脂腺の働きを活発にするため、皮脂の分泌量が増加し、頭皮がベタつきやすくなります。
また、AGA(男性型脱毛症)の原因となるDHT(ジヒドロテストステロン)の影響も受けやすくなり、抜け毛が進行する大きな要因となります。
40代に起こる主な身体的変化
変化の要因 | 頭皮への影響(臭い) | 頭皮への影響(抜け毛) |
---|---|---|
基礎代謝の低下 | 皮脂や角質が溜まり、雑菌が繁殖 | 血行不良で毛根に栄養が届きにくい |
ホルモンバランスの変動 | 皮脂の分泌が過剰になる | AGAが進行しやすくなる |
抗酸化力の低下 | 皮脂が酸化し、加齢臭の原因に | 頭皮細胞がダメージを受けやすくなる |
生活習慣の乱れの影響
仕事の付き合いでの飲酒や喫煙、不規則な食生活、睡眠不足といった生活習慣の乱れは血行を悪化させ、頭皮環境に直接的なダメージを与えます。
これらの要因が積み重なることで、臭いと抜け毛の両方の問題が一気に表面化しやすくなるのです。
頭皮の臭いを引き起こす根本原因と抜け毛への影響

頭皮から発生する不快な臭いは頭皮環境が悪化しているサインです。この悪化した環境が、抜け毛をさらに進行させる悪循環を生み出します。
過剰な皮脂と常在菌の繁殖
頭皮にはもともと多かれ少なかれ常在菌が存在します。
しかし、過剰に分泌された皮脂や汗、フケなどをエサにしてこれらの菌が異常繁殖すると、分解の過程で臭いの原因物質(脂肪酸など)を大量に発生させます。
この状態は、頭皮が不衛生になっている証拠です。
皮脂の酸化による頭皮へのダメージ
毛穴に詰まった皮脂は空気に触れることで酸化し、「過酸化脂質」という刺激物質に変化します。この過酸化脂質は頭皮に炎症を引き起こしたり、毛穴周辺の細胞にダメージを与えたりします。
この炎症がかゆみや赤みだけでなく、毛根の働きを弱らせて抜け毛を増やす原因となります。
頭皮の臭いから抜け毛につながる流れ
段階 | 頭皮の状況 | 結果 |
---|---|---|
1 | 皮脂が過剰に分泌される | 頭皮がベタつく |
2 | 皮脂をエサに雑菌が繁殖・皮脂が酸化 | 臭いが発生・毛穴が詰まる |
3 | 頭皮に炎症が発生 | かゆみ・赤み・抜け毛の増加 |
毛穴の詰まりが髪の成長を妨げる
酸化した皮脂や古い角質が混ざり合って毛穴を塞いでしまうと、髪の毛が健康に成長するためのスペースがなくなります。
この結果、新しく生えてくる髪が細く弱々しくなったり、十分に成長する前に抜けてしまったりする「軟毛化」が進行し、全体的なボリュームダウンにつながります。
危険な抜け毛と正常な抜け毛の見分け方

髪の毛にはヘアサイクル(毛周期)があり、誰でも一日に50本から100本程度の髪は自然に抜けています。しかし、注意すべき「危険な抜け毛」もあります。
ご自身の抜け毛がどちらのタイプか確認してみましょう。
ヘアサイクルと自然な抜け毛
健康な髪の毛は「成長期」「退行期」「休止期」というサイクルを繰り返しています。自然な抜け毛は、このうちの「休止期」に入った髪が抜け落ちる現象です。
抜けた毛の毛根部が丸く、自然な形をしていれば、あまり心配する必要はありません。
注意すべき抜け毛の特徴
一方で、以下のような特徴を持つ抜け毛が増えた場合は頭皮環境の悪化やAGAが進行しているサインかもしれません。
- 細く短い毛が多い
- 毛根が尖っていたり、皮脂が付着していたりする
- 以前より明らかに抜け毛の本数が増えた
抜け毛のセルフチェックポイント
チェック項目 | 正常な抜け毛 | 危険な抜け毛の可能性 |
---|---|---|
抜け毛の太さ・長さ | 太く、しっかりしている | 細く短い毛が多い |
毛根の形 | 丸みを帯びている | 歪んでいたり、尖っている |
1日の本数 | 50~100本程度 | 150本以上、または急に増えた |
抜け毛が増えるタイミング
朝起きた時の枕元や、シャンプー時の排水溝、ドライヤー後の床などを確認し、抜け毛の量に変化がないか日々チェックする習慣をつけましょう。
特に細くて短い毛の割合が増えていないかどうかが、薄毛の進行度を判断する上で重要な指標となります。
「自分だけが悩んでいる」その孤独感が頭皮環境を悪化させる
多くの情報サイトは抜け毛や頭皮の臭いの原因を、ホルモンや生活習慣といった身体的な問題としてのみ扱います。
しかし、私たちは40代の男性が抱える特有の「心理的な孤独感」が、症状をさらに悪化させる隠れた要因であると考えています。
悩みを共有できない心理的負担
頭皮の臭いや抜け毛は非常にデリケートな問題です。親しい友人や家族にさえ「どう思われるだろうか」と不安になり、相談できずに一人で抱え込んでしまう方が少なくありません。
「自分だけがこんなに悩んでいるのではないか」という孤独感は、知らず知らずのうちに大きな精神的ストレスとなります。
孤独感とストレスホルモンの関係
精神的なストレスを感じると、私たちの身体は「コルチゾール」というストレスホルモンを分泌します。このコルチゾールは自律神経のバランスを乱し、血管を収縮させる作用があります。
このことにより頭皮への血流が悪化し、髪の成長に必要な栄養が届きにくくなります。
また、男性ホルモンの分泌を刺激し、皮脂を過剰にさせることで臭いの問題も悪化させます。
孤独感が引き起こす負の連鎖
心理的状態 | 身体への影響 | 頭皮への結果 |
---|---|---|
悩みを相談できず孤立 | 慢性的なストレス状態 | ストレスホルモンが増加 |
ストレスホルモンの増加 | 血行不良、ホルモンバランスの乱れ | 栄養不足、皮脂の過剰分泌 |
栄養不足、皮脂過剰 | 頭皮環境のさらなる悪化 | 抜け毛の増加、臭いの悪化 |
負のスパイラルから抜け出すために
この負のスパイラルを断ち切るために、まず認識していただきたいのは、「あなたは一人ではない」ということです。同じ悩みを抱える方は非常に多く、そしてその悩みには専門的な解決策が存在します。
勇気を出して専門のクリニックに相談することは単に髪の問題を解決するだけでなく、その悩みを共有し、心理的な負担を軽減するための重要な一歩なのです。
私たちは、あなたのその勇気と真摯に向き合います。
今日からできる頭皮環境改善ケア|シャンプーと洗い方

悪化してしまった頭皮環境を改善するためには毎日のシャンプー習慣を見直すことが第一歩です。正しい方法を実践し、頭皮を清潔で健康な状態に保ちましょう。
40代の頭皮に合ったシャンプー選び
皮脂や臭いが気になるからと、洗浄力の強すぎるシャンプーを選ぶのは禁物です。必要な潤いまで奪い、かえって皮脂の過剰分泌を招きます。
洗浄力がマイルドで頭皮の保湿もできるアミノ酸系や、殺菌・抗炎症成分の配合された薬用シャンプーを選ぶことをお勧めします。
頭皮を傷つけない正しい洗い方
シャンプー前には、まず38℃程度のぬるま湯で1分以上かけて予洗いをします。これだけで汚れの7割は落ちると言われています。
シャンプーは手のひらでよく泡立ててから、指の腹で頭皮を優しくマッサージするように洗いましょう。
すすぎは洗い以上に時間をかけ、生え際や襟足に泡が残らないよう徹底することが重要です。
シャンプー選びのポイント
頭皮の悩み | おすすめのシャンプー種類 | 主な特徴 |
---|---|---|
ベタつき・臭い | 薬用スカルプシャンプー | 殺菌・抗炎症成分で臭いの元に働く |
乾燥・かゆみ | アミノ酸系シャンプー | マイルドな洗浄力で潤いを保つ |
全般的な悩み | ノンシリコンシャンプー | 毛穴詰まりのリスクが少ない |
自然乾燥はNG 必ずドライヤーで乾かす
濡れたままの頭皮は雑菌が繁殖する絶好の環境です。タオルドライで優しく水分を拭き取った後、必ずドライヤーで髪の根元から乾かしてください。
頭皮を清潔に保つことが、臭いと抜け毛の予防につながります。
食生活と生活習慣で見直すべきポイント

健康な髪を育むためには外側からのケアだけでなく、身体の内側から頭皮環境を整えることが大切です。日々の生活習慣を振り返ってみましょう。
髪と頭皮に良い食事を心がける
髪の主成分であるタンパク質、皮脂の分泌をコントロールするビタミンB群、血行を促進するビタミンEなどをバランス良く摂取することが重要です。
反対に、動物性脂肪や糖分の多い食事は皮脂の過剰分泌につながるため、控えめにしましょう。
積極的に摂りたい栄養素と食品
栄養素 | 主な働き | 多く含む食品 |
---|---|---|
タンパク質 | 髪の毛の材料になる | 肉、魚、卵、大豆製品 |
ビタミンB群 | 皮脂の分泌を調整、代謝を助ける | レバー、豚肉、マグロ、納豆 |
亜鉛 | 髪の合成を助ける | 牡蠣、牛肉、チーズ |
睡眠の質が髪の健康を左右する
髪の毛は私たちが眠っている間に分泌される成長ホルモンによって成長します。特に入眠後最初の3時間は「ゴールデンタイム」と呼ばれ、成長ホルモンの分泌が最も活発になります。
最低でも6時間以上の質の高い睡眠を確保するよう努めましょう。
喫煙と飲酒が頭皮に与える悪影響
喫煙は血管を収縮させ、頭皮の血行を著しく悪化させます。また、アルコールを分解する際には髪の成長に必要なビタミンやアミノ酸が大量に消費されてしまいます。
臭いや抜け毛が気になる方は、禁煙や節酒を真剣に検討することが必要です。
セルフケアで改善しない場合の専門的なアプローチ
日々のケアや生活習慣の改善を試みても頭皮の臭いや抜け毛に変化が見られない場合は、AGA(男性型脱毛症)が進行している可能性が高いと考えられます。
その場合は自己判断でのケアを続けず、専門のクリニックに相談することが賢明です。
AGAは進行性の脱毛症
AGAは一度発症すると自然に治ることはなく、放置すると薄毛はゆっくりと、しかし確実に進行していきます。
セルフケアはあくまで頭皮環境を整えるためのものであり、AGAの進行そのものを止めることはできません。
クリニックで行う正確な診断
専門クリニックでは医師による問診や視診、マイクロスコープによる頭皮の診察などを通じて、抜け毛の原因を正確に診断します。
あなたの抜け毛がAGAによるものなのか、それとも他の原因があるのかを特定し、一人ひとりに合った治療計画を立てます。
セルフケアとクリニック治療の比較
項目 | セルフケア | クリニックでの治療 |
---|---|---|
目的 | 頭皮環境の改善・維持 | AGAの進行抑制・発毛促進 |
手段 | 市販のシャンプー、育毛剤 | 内服薬、外用薬、注入治療など |
効果 | 限定的(予防が中心) | 医学的根拠に基づいた効果が期待できる |
医学的根拠に基づいた治療
AGAの治療には進行を抑える内服薬や、発毛を促す外用薬など、医学的に効果が認められた方法があります。
早期に治療を開始するほど高い効果が期待でき、将来の髪の状態を大きく左右します。臭いと抜け毛の両方が気になる今こそ、専門医に相談する適切なタイミングです。

40代の頭皮と抜け毛に関したよくある質問
最後に、40代の患者さんから寄せられることの多い、頭皮の臭いと抜け毛に関する質問にお答えします。
- 頭皮の臭いと抜け毛は遺伝しますか?
-
体質(皮脂の分泌量など)が遺伝する可能性はありますが、臭い自体が直接遺伝するわけではありません。
一方で、AGAは遺伝的要因が大きく関与していることが分かっています。ご家族に薄毛の方がいる場合は特に注意が必要です。
- 市販の育毛剤では効果がありませんか?
-
市販の育毛剤の多くは血行促進や頭皮環境の改善を目的とした「医薬部外品」です。
これらは抜け毛の予防にはある程度役立ちますが、すでに進行しているAGAに対して発毛を促すほどの強い効果は期待できません。
医学的な発毛効果を求めるのであれば、クリニックで処方される「医薬品」が必要です。
- 治療を始めると、すぐに効果は出ますか?
-
AGA治療はヘアサイクルを正常に戻していくための治療であり、効果を実感するまでには時間がかかります。
一般的に抜け毛の減少を実感し始めるのに約3ヶ月、見た目の変化を感じるまでには最低でも6ヶ月程度の継続が必要です。焦らず、根気強く治療を続けることが大切です。
- 治療の副作用が心配です
-
どのような医薬品にも副作用のリスクはゼロではありませんが、AGA治療薬で重篤な副作用が起こる頻度は非常に低いと報告されています。
クリニックでは治療開始前に医師が丁寧に説明を行い、治療中も定期的に体調を確認しながら進めますので、過度な心配は不要です。不安な点があれば、いつでも医師にご相談ください。
以上
参考文献
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