ナイアシンによる育毛効果と髪の成長促進作用

ナイアシン 育毛

薄毛や抜け毛にお悩みの方の中で、「ナイアシンが育毛に良い」という情報を耳にしたことがあるかもしれません。

ナイアシンはビタミンB群の一種であり、私たちの体がエネルギーを作り出したり、皮膚や粘膜の健康を維持したりするために重要な栄養素です。

近年、そのナイアシンが持つ血行促進作用などが頭皮環境の改善や髪の成長に良い影響を与えるとして注目されています。

この記事ではナイアシンが髪に与える具体的な作用から、効果的な摂取方法、注意点までを医学的な知見に基づいて詳しく解説します。

目次

この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック統括院長 前田 祐助
Dr.前田 祐助

AGAメディカルケアクリニック 統括院長

前田 祐助

【経歴】

慶應義塾大学医学部医学研究科卒業

慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了

大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設

2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設

院長プロフィール

資格・所属学会・症例数

【資格】

  • 医師免許
  • ⽇本医師会認定産業医
  • 医学博士

【所属学会】

  • 日本内科学会
  • 日本美容皮膚科学会
  • 日本臨床毛髪学会

【症例数】

3万人以上※

※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数

そもそもナイアシンとは何か

ビタミンB群の一員

ナイアシンはビタミンB群に属する水溶性のビタミンで、「ビタミンB3」とも呼ばれます。

体内でエネルギーを生み出す際の補酵素として、また皮膚や粘膜の健康維持、神経系の働きを正常に保つために重要な役割を担っています。

水に溶けやすい性質のため、一度にたくさん摂取しても余分な量は尿として排出され、体内に蓄積されにくいのが特徴です。

ナイアシンの種類と特徴

ナイアシンには、主に「ニコチン酸」と「ナイアシンアミド(ニコチン酸アミド)」の2種類があります。どちらも体内で同じ働きをしますが、性質に若干の違いがあります。

ニコチン酸は過剰に摂取すると皮膚が赤くなったり、かゆみが出たりする「ナイアシンフラッシュ」という反応を起こすことがあります。

一方、ナイアシンアミドはそのような反応が起こりにくいため、サプリメントなどではこちらが用いられることが多いです。

ナイアシンの種類と主な違い

種類別名特徴
ニコチン酸血管拡張作用が強く、フラッシュ反応が起きやすい
ナイアシンアミドニコチン酸アミドフラッシュ反応が起きにくく、サプリメントに多用される

体内での重要な働き

ナイアシンは体内で約500種類もの酵素の働きを助ける補酵素として機能します。

糖質や脂質、タンパク質からエネルギーを作り出す代謝活動に深く関わっており、私たちが活動するための源を支えています。

また、アルコールの分解を助ける働きや、細胞の生まれ変わりをサポートする働きもあります。

ナイアシンが髪の成長に与える影響

頭皮の血行促進作用

ナイアシンの育毛効果として最も注目されるのが、血管を拡張して血流を良くする働きです。特にニコチン酸には強い血管拡張作用があり、頭皮の末梢血管の血行を促進します。

髪の成長に必要な栄養素や酸素は、血液を通じて毛根にある毛母細胞へと運ばれます。

このため、頭皮の血行が良くなることは毛母細胞の活動を活発にし、健康で丈夫な髪を育てるための土台作りにつながります。

ナイアシンの育毛作用:血行促進・代謝サポート・抗酸化のメカニズム図

エネルギー代謝のサポート

髪の毛を作り出す毛母細胞は体の中でも特に細胞分裂が活発な部分の一つです。活発な細胞分裂には大量のエネルギーが必要です。

ナイアシンは、食事から摂取した栄養素をエネルギーに変換する代謝活動をサポートする重要な役割を担っています。

ナイアシンが十分に足りていると、毛母細胞は髪を成長させるためのエネルギーを効率良く作り出すことができます。

ナイアシンによる育毛へのアプローチ

作用髪への具体的な影響
血管拡張・血行促進毛根への栄養供給をスムーズにする
エネルギー代謝の促進毛母細胞の分裂を活発化させる
抗酸化作用頭皮の老化を防ぎ、健康な状態を保つ

髪の主成分ケラチンの合成補助

髪の毛の約90%は「ケラチン」というタンパク質で構成されています。

ナイアシンはタンパク質の代謝にも関与しており、食事から摂ったアミノ酸をケラチンへと合成する一連の活動を間接的にサポートします。

これにより、強くしなやかな髪の毛が作られるのを助けます。

サプリメントに頼る前の食生活の見直し

「栄養素だけ」を摂取する危うさ

「ナイアシンが髪に良い」と聞くと、すぐにサプリメントで補給しようと考える方は少なくありません。

しかし、少し立ち止まって考えてみてください。私たちの体は単一の栄養素だけで機能しているわけではありません。

ビタミン、ミネラル、タンパク質など様々な栄養素が互いに協力し合って初めて、その効果を発揮します。

ナイアシンだけを大量に摂取しても、髪の材料となるタンパク質や他のビタミンが不足していれば、期待するような効果は得られないのです。

あなたの食事は髪の「材料」足りていますか

サプリメントはあくまで「補助」です。まず見直すべきは、毎日の食事という「基本」です。

例えば、朝食を抜いたり、昼食を簡単な麺類だけで済ませたりしていませんか。そのような食生活では、髪の主成分であるタンパク質が絶対的に不足している可能性があります。

ナイアシンという「職人」がいても、髪を作るための「材料」がなければ健康な髪は生まれません。まず、ご自身の食生活が髪にとって十分な材料を供給できているかを確認することが先決です。

食事とサプリメントの役割分担

食事サプリメント
役割体作りの基本、全ての栄養素の供給源食事で不足しがちな栄養素を補う補助役
摂取できる栄養素複合的(ビタミン、ミネラル、タンパク質など)単一または特定の栄養素が中心
食事とサプリの役割分担:基盤(食事)と補助(サプリ)の2カラム比較

食生活改善こそが育毛の第一歩

薄毛の悩みを根本から改善したいと願うなら、安易にサプリメントに飛びつくのではなく、まずご自身の食生活と向き合うことが重要です。

バランスの取れた食事はナイアシンだけでなく、髪に必要なすべての栄養素を自然な形で摂取することを可能にします。この土台があって初めて、サプリメントによる補強が生きてくるのです。

当クリニックでは、治療と合わせて患者さん一人ひとりの生活習慣に合わせた食事指導も行っています。

ナイアシンを多く含む食品

動物性食品

ナイアシンは様々な食品に含まれていますが、特に動物性食品に豊富です。中でもレバー、鶏むね肉、カツオ、マグロ、タラコなどに多く含まれています。

これらの食品は髪の材料となるタンパク質も同時に摂取できるため、育毛を考える上では非常に効率的です。

植物性食品

植物性食品では、きのこ類(特にエリンギ、まいたけ)、ピーナッツ、玄米などに比較的多く含まれています。

動物性食品が苦手な方やバランスを考えたい方は、これらの食品を意識して食事に取り入れると良いでしょう。

ナイアシンが豊富な食品例

食品カテゴリー具体的な食品名
魚介類カツオ、マグロ、ブリ、タラコ
肉類鶏むね肉、豚レバー、牛レバー
きのこ類エリンギ、まいたけ、しいたけ
ナイアシンが多い食品:魚介・肉・きのこ/玄米・ピーナッツ

体内での合成

ナイアシンは食品から摂取するだけでなく、体内で必須アミノ酸の一つである「トリプトファン」からも合成されます。

トリプトファンは乳製品、大豆製品、肉、魚などに多く含まれています。このため、良質なタンパク質をしっかり摂ることはナイアシンの確保という点でも重要になります。

サプリメントで摂取する際の注意点

摂取量の目安を守る

ナイアシンの1日の摂取推奨量は成人男性で13~15mgNE、成人女性で10~12mgNEとされています。

通常の食事で不足することは稀ですが、サプリメントで摂取する場合は過剰摂取に注意が必要です。サプリメントを利用する際は、製品に記載されている摂取目安量を必ず守りましょう。

ナイアシンの食事摂取基準(mgNE/日)

年齢男性女性
18~49歳1512
50~74歳1411
75歳以上1310

ナイアシンフラッシュとは

前述の通り、ニコチン酸を一度に多く摂取すると、皮膚が赤くなる、かゆみ、ほてり、ピリピリ感などの「ナイアシンフラッシュ」と呼ばれる反応が現れることがあります。これは、ニコチン酸の血管拡張作用によるもので、通常は数時間で治まります。病的なものではありませんが、初めて経験すると驚くかもしれません。ナイアシンアミドではこの反応は起こりにくいです。

ナイアシンフラッシュの主な症状

  • 皮膚の赤み(特に顔や首)
  • ほてり感
  • 皮膚のかゆみ・ピリピリ感

医療機関への相談

何らかの持病がある方や、他の薬を服用している方がサプリメントを自己判断で利用することは、思わぬ健康被害を招く可能性があります。

特に肝臓の病気や糖尿病、痛風などのある方は注意が必要です。サプリメントの使用を検討している場合は、まずかかりつけの医師や専門医に相談することが大切です。

ナイアシンとAGA治療薬の併用

ナイアシンの役割と限界

ナイアシンは頭皮の血行を促進し、髪の成長をサポートする働きが期待できます。しかし、AGA(男性型脱毛症)の直接的な原因である男性ホルモン(DHT)の働きを抑制する作用はありません。

したがって、ナイアシンだけでAGAの進行を止めたり、発毛させたりすることは困難です。

ナイアシンはあくまで「育毛環境を整えるサポーター」としての役割と理解することが重要です。

AGA治療薬との相乗効果

AGAの治療はフィナステリドやデュタステリドといった内服薬で抜け毛の原因を断ち、ミノキシジルで発毛を促すのが医学的な基本です。

これらの治療と並行して、ナイアシンを食事やサプリメントで適切に摂取することは、相乗効果をもたらす可能性があります。

治療薬が効果を発揮しやすいようにナイアシンが頭皮の血行を良くし、土台を整える手助けをしてくれるからです。

ナイアシンとAGA治療の併用イメージ:原因抑制→発毛促進→血行サポートの3ステップ

AGA治療における各要素の役割

要素主な役割
フィナステリド等抜け毛の原因(DHT)を抑制する
ミノキシジル血行を促進し、毛母細胞を活性化させ発毛を促す
ナイアシン頭皮の血行をサポートし、育毛しやすい環境を整える

専門医による総合的なアプローチ

薄毛の原因は一人ひとり異なります。AGAが原因なのか、それとも他の要因が絡んでいるのかを正確に診断し、その人に合った治療計画を立てることが薄毛改善への最短ルートです。

自己判断で様々なケアを試す前に一度専門のクリニックで相談し、医学的根拠に基づいた治療を開始することをお勧めします。

ナイアシン育毛に関するよくある質問

ナイアシンは女性の薄毛にも効果がありますか?

はい、効果が期待できる場合があります。

女性の薄毛の原因は多様ですが、血行不良や栄養不足が関係しているケースは少なくありません。

ナイアシンは性別を問わず頭皮の血行を改善し、髪の成長をサポートする働きがあるため、女性の薄毛対策の一環としても有効と考えられます。

ナイアシンを摂取し始めてから、どのくらいで効果が出ますか?

すぐに目に見える効果を期待することは難しいです。

髪の毛は1ヶ月に約1cmしか伸びず、ヘアサイクルを考慮すると、頭皮環境の改善が髪質の変化として実感できるまでには少なくとも3ヶ月から6ヶ月程度の期間が必要です。

焦らず、食生活の改善などと合わせて継続することが重要です。

ナイアシンを多く摂ると、髪が早く伸びますか?

いいえ、そのようなことはありません。ナイアシンはあくまで髪の成長をサポートする栄養素であり、髪の伸びる速度そのものを変えることはできません。

過剰に摂取しても効果が高まるわけではなく、むしろ副作用のリスクを高めるだけです。推奨される摂取量を守ることが大切です。

ナイアシンが不足するとどうなりますか?

極端に不足すると「ペラグラ」という病気を引き起こし、皮膚炎、下痢、精神神経症状などが現れます。

現代の日本では稀な病気ですが、軽度の不足でも皮膚や粘膜のトラブル、食欲不振、疲労感などの原因となることがあります。もちろん、頭皮の健康にも悪影響を与えます。

記事のまとめ

参考文献

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TATARU, Alexandru; BOCA, Andreea Nicoleta. Vitamins and Nutritional Supplements. In: European Handbook of Dermatological Treatments. Cham: Springer International Publishing, 2023. p. 1809-1830.

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