鏡を見て驚かれたかもしれません。ある日突然現れる「10円ハゲ」、いわゆる円形脱毛症は、決して珍しいことではありません。
特に男性にとっては、見た目の印象が大きく変わるため、深い悩みにつながりがちです。なぜできてしまったのか、その原因は何なのか。そして、明日からどうやって隠せばいいのか。
この記事では、男性の円形脱毛症の主な原因を掘り下げ、ご自身ですぐに実践できる隠し方、さらに根本的な対策や生活習慣の見直しについて、わかりやすく丁寧に解説します。
一人で悩まず、まずは正しい知識を身につけましょう。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
10円ハゲ(円形脱毛症)とは?男性特有の特徴
「10円ハゲ」という俗称は広く知られていますが、これは医学的には「円形脱毛症」と呼ばれる症状の一つです。
名前の通り、円形や楕円形に髪の毛が抜け落ちるのが特徴で、性別や年齢に関わらず誰にでも起こり得ます。
しかし、男性の場合、AGA(男性型脱毛症)との違いを理解したり、特有の悩みに対処したりする必要があります。まずは、この症状の基本をしっかり押さえましょう。
10円ハゲの基本的な症状
円形脱毛症の最も一般的な症状は、頭皮に境界がはっきりした円形の脱毛斑(髪が抜けた部分)が突然現れることです。
多くの場合、かゆみや痛みといった自覚症状はありません。脱毛斑の大きさは10円玉サイズから、それより大きいものまで様々です。
初期段階では一つだけ(単発型)でも、時間とともに数が増えたり(多発型)、脱毛斑同士が融合して大きくなったりすることもあります。
脱毛斑の皮膚は、赤みや炎症がなく、正常に見えることがほとんどです。抜けた毛の毛根を見ると、先端が細く尖っている「感嘆符毛(かんたんふもう)」が見られることもあります。
円形脱毛症の種類と進行パターン
10円ハゲと一口に言っても、その現れ方にはいくつかの種類があります。最も多いのが、10円玉大の脱毛斑が1箇所だけできる「単発型」です。これは自然に治るケースも少なくありません。
脱毛斑が2箇所以上できるものを「多発型」と呼びます。これらが進行し、頭髪全体に脱毛が広がる「全頭型」、さらに眉毛、まつ毛、体毛など全身の毛が抜ける「汎発型(ばんぱつがた)」に至ることもあります。
男性の場合、特に側頭部や後頭部の生え際に沿って帯状に抜ける「蛇行型」が見られることもあり、これは治りにくいタイプの一つとされています。
円形脱毛症の主な種類
| 種類 | 特徴 | 脱毛の範囲 |
|---|---|---|
| 単発型 | 円形の脱毛斑が1箇所だけ現れる。最も多いタイプ。 | 頭部の一部 |
| 多発型 | 円形の脱毛斑が2箇所以上現れる。融合して大きくなることも。 | 頭部の複数箇所 |
| 全頭型 | 脱毛斑が頭部全体に広がり、ほぼすべての頭髪が抜け落ちる。 | 頭部全体 |
| 汎発型 | 頭髪だけでなく、眉毛、まつ毛、体毛など全身の毛が抜ける。 | 全身 |
| 蛇行型 | 後頭部から側頭部の生え際に沿って、帯状に脱毛する。 | 頭部の生え際 |
なぜ「10円ハゲ」と呼ばれるのか
この症状が「10円ハゲ」と呼ばれる理由は、その見た目の通りです。
最も一般的な単発型円形脱毛症において、初期に現れる脱毛斑の大きさが、ちょうど日本の10円玉硬貨とほぼ同じ直径(約23.5mm)であることが多いため、この俗称が定着しました。
もちろん、大きさには個人差があり、500円玉大になることもあれば、もっと小さく始まることもあります。
この呼び名は医学的な用語ではありませんが、症状のイメージを掴みやすい表現として広く使われています。
男性が円形脱毛症になりやすい時期
円形脱毛症はどの年代でも発症しますが、統計的には若年層、特に20代から30代での発症が多いと報告されています。
男性の場合、就職、転勤、結婚、昇進といったライフイベントがこの時期に集中することが多く、環境の変化に伴う精神的・肉体的な負荷が発症の引き金の一つになる可能性が考えられます。
また、アトピー素因を持つ人は発症しやすい傾向があり、幼少期からアトピー性皮膚炎などに悩まされてきた人が、成人してからも円形脱毛症を発症するケースも見られます。
男性が10円ハゲになる主な原因
「ストレスが原因だ」とよく言われますが、円形脱毛症の根本的な原因は、実はまだ完全には解明されていません。しかし、近年の研究により、「自己免疫疾患」が最も有力な原因であると考えられています。
その他にも、いくつかの要因が複雑に関係し合って発症すると推測されています。男性が10円ハゲになる主な原因について、現在わかっていることを解説します。
自己免疫疾患としての側面
現在、円形脱毛症の最も有力な原因は「自己免疫疾患」であると考えられています。通常、私たちの体を守る免疫機能は、体外から侵入するウイルスや細菌などを攻撃します。
しかし、何らかの異常によって、この免疫機能が自分自身の正常な細胞や組織を「異物」と誤認して攻撃してしまうことがあります。これが自己免疫疾患です。
円形脱毛症の場合、免疫細胞である「Tリンパ球」が、成長期の毛根(毛包)を異物と間違えて攻撃してしまいます。
攻撃された毛根は炎症を起こし、正常な髪の毛を作れなくなり、結果として髪が抜け落ちてしまうのです。毛根自体が破壊されるわけではないため、免疫の攻撃が収まれば、再び髪が生えてくる可能性があります。
ストレスは本当に関係あるのか
「10円ハゲはストレスが原因」と考える人は非常に多いですが、ストレスはあくまで「直接的な原因」ではなく、「発症の引き金(誘因)の一つ」と捉えるのが現在の主流な考え方です。
強い精神的ストレスを感じると、自律神経のバランスが乱れ、交感神経が優位になります。交感神経が活発になると血管が収縮し、頭皮への血流が悪化する可能性があります。
血流が悪くなると、毛根に十分な栄養や酸素が届きにくくなり、毛髪の成長に悪影響を与えることが考えられます。
また、ストレスが免疫系に異常をきたすきっかけとなり、前述の自己免疫反応を引き起こす可能性も指摘されています。
すべての円形脱毛症がストレスと関連しているわけではありませんが、無視できない要因の一つです。
アトピー素因との関連性
アトピー素因(アレルギーを起こしやすい体質)を持つ人は、円形脱毛症を発症しやすいことが統計的に知られています。
アトピー素因とは、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎(花粉症)などを本人または家族が持っている体質のことです。
円形脱毛症の患者さんの約40%がアトピー素因を持ち、逆にアトピー性皮膚炎の患者さんの一定数に円形脱毛症が見られるという報告もあります。
これは、アトピー素因を持つ人が免疫系のバランスを崩しやすい体質であることが関係していると考えられています。
アトピー素因があるからといって必ず発症するわけではありませんが、関連性の深い要因として重要視されています。
遺伝的要因の可能性
円形脱毛症の発症には、遺伝的な要因も関わっていると考えられています。欧米の調査では、円形脱毛症の患者さんの約10%から40%に家族内での発症が見られるという報告があります。
日本国内の調査でも、患者さんの約8%に家族歴が認められました。
これは、円形脱毛症そのものが遺伝するというよりは、「円形脱毛症になりやすい体質(自己免疫疾患を起こしやすい、アトピー素因があるなど)」が遺伝する可能性があることを示唆しています。
もし家族に円形脱毛症になった人がいる場合、自分も発症する可能性が一般の人よりは少し高いかもしれませんが、過度に心配する必要はありません。
AGA(男性型脱毛症)と10円ハゲの違い
男性の薄毛の悩みとして最も多いのがAGA(男性型脱毛症)ですが、10円ハゲ(円形脱毛症)とは根本的に異なります。どちらも髪が抜ける症状ですが、原因も現れ方も対策も全く違います。
この二つを混同していると、誤ったケアをしてしまう可能性があります。ここでは、AGAと円形脱毛症の明確な違いについて解説します。
脱毛のメカニズムの違い
最も大きな違いは、脱毛が起こる仕組みです。
AGA(男性型脱毛症)は、男性ホルモンの一種である「テストステロン」が、「5αリダクターゼ」という酵素と結びついて「DHT(ジヒドロテストステロン)」に変化することが主な原因です。
このDHTが毛根の受容体と結合し、髪の成長期を短くする信号を出します。その結果、髪が太く長く育つ前に抜け落ちてしまい、徐々に薄毛が進行します。
一方、10円ハゲ(円形脱毛症)は前述の通り、自己免疫疾患が主な原因です。免疫細胞が毛根を攻撃することで、突然髪が抜け落ちます。
AGAがホルモンの影響であるのに対し、円形脱毛症は免疫系の異常によるものという点で、根本的に異なります。
発症する場所と範囲
脱毛の現れ方にも大きな違いがあります。AGAは、主に前頭部(生え際)や頭頂部(つむじ周り)から薄毛が進行するのが特徴です。
「M字型」に生え際が後退したり、「O字型」につむじが薄くなったりと、ある程度決まったパターンで進行します。 対照的に、円形脱毛症は場所を選びません。
頭頂部や生え際だけでなく、側頭部や後頭部など、頭皮のあらゆる場所に突然、円形または楕円形の脱毛斑が現れます。AGAでは薄くなりにくいとされる後頭部にもできるのが大きな特徴です。
AGAと円形脱毛症の比較
| 比較項目 | 10円ハゲ(円形脱毛症) | AGA(男性型脱毛症) |
|---|---|---|
| 主な原因 | 自己免疫疾患(免疫系の異常) | 男性ホルモン(DHT)の影響 |
| 脱毛の現れ方 | 円形・楕円形に突然抜ける。境界明瞭。 | 生え際・頭頂部から徐々に薄くなる。 |
| 脱毛のスピード | 急速(数日~数週間) | 緩やか(数年単位) |
| 主な発症場所 | 頭部のあらゆる場所(側頭部・後頭部も) | 前頭部(生え際)・頭頂部 |
進行のスピード
進行の速さも異なります。AGAは、数年単位の時間をかけてゆっくりと進行するのが一般的です。
「最近、少し生え際が後退したかな?」と感じ始めてから、明らかに薄毛と認識されるまでにはかなりの時間がかかります。髪の毛が徐々に細く短く(軟毛化)なっていきます。
それに対して、円形脱毛症は非常に急速に進行します。ある日突然、まとまった量の髪が抜け、数日から数週間という短期間で10円玉大の脱毛斑が出現します。
AGAのように髪が細くなるのではなく、健康だった髪がそのまま抜け落ちるのが特徴です。
併発する可能性について
AGAと円形脱毛症は、原因が全く異なるため、同時に発症する(併発する)可能性も十分にあります。
例えば、AGAによって頭頂部が薄くなってきた男性が、ストレスなどを引き金に側頭部に円形脱毛症を発症するといったケースです。
どちらか一方の症状だからと自己判断するのではなく、両方の可能性を考慮する必要があります。
特に男性の場合、薄毛の悩みをすべてAGAと結びつけて考えがちですが、「急に抜けた」「円形に抜けた」という場合は、円形脱毛症を疑い、早めに専門医の診断を受けることが重要です。
【緊急対策】今すぐできる10円ハゲの隠し方
10円ハゲ(円形脱毛症)は、原因の究明や対策も大切ですが、何よりもまず「明日からどう隠すか」が差し迫った問題です。脱毛斑があると、人の視線が気になり、精神的なストレスがさらに増大しかねません。
幸い、脱毛斑を一時的にカバーする方法はいくつかあります。ここでは、すぐに実践できる隠し方を紹介します。ご自身のライフスタイルや脱毛斑の場所、大きさに合わせて選びましょう。
周囲の髪を使ったヘアアレンジ
脱毛斑が比較的小さく、場所が側頭部や後頭部などであれば、周囲の髪の毛の流れを変えるだけでうまく隠せる場合があります。
いつもと分け目を変えてみる、髪を少し長めに伸ばして脱毛斑の上にかぶせるようにスタイリングするなど、工夫次第でカバーできます。
ヘアスプレーやワックスを軽く使い、髪型をキープするのも良いでしょう。ただし、頭皮に過度な刺激を与えたり、髪を強く引っ張ったりするようなアレンジは避ける必要があります。
美容師に相談し、脱毛斑をカバーしやすいヘアスタイルにカットしてもらうのも一つの有効な手段です。
部分ウィッグやヘアピースの活用
脱毛斑が大きくなってきた場合や、頭頂部などヘアアレンジでは隠しにくい場所にある場合は、部分ウィッグ(ヘアピース)の活用が非常に有効です。
最近の男性用ウィッグは非常に精巧に作られており、見た目も自然で、装着も簡単です。クリップ式やテープ式など、固定方法も選べます。
自分の髪色や髪質に合ったものを選べば、周囲に気づかれることなく脱毛斑をカバーできます。専門のサロンで相談すれば、自分に合った製品を選んでもらえますし、カット調整もしてくれます。
スプレーやパウダータイプの増毛アイテム
手軽に使えるアイテムとして、スプレータイプやパウダータイプの増毛アイテムがあります。
これらは、微細な着色繊維(パウダー)やスプレーを頭皮や髪に付着させ、地肌を隠したり、髪を太く見せたりするものです。
脱毛斑が完全にツルツルになっている場合よりも、少し産毛が残っている場合や、髪が細くなって地肌が透けて見える場合に効果的です。
広範囲をカバーするのには向きませんが、小さな脱毛斑であれば手軽に隠せます。汗や雨で落ちにくい製品もありますが、シャンプーで簡単に洗い流せるものがほとんどです。
主な隠し方の比較
| 方法 | 手軽さ(導入の容易さ) | カバー力と自然さ |
|---|---|---|
| ヘアアレンジ | ◎(すぐにできる) | △(小さい・場所による) |
| 増毛スプレー・パウダー | ○(購入すればすぐ) | ○(小さい範囲に有効) |
| 部分ウィッグ・ヘアピース | △(選定・購入が必要) | ◎(広範囲でも自然) |
| 帽子・ヘアバンド | ◎(かぶるだけ) | ◎(TPOによる) |
帽子やヘアバンドでおしゃれにカバー
最も手軽で確実な方法は、帽子をかぶることです。プライベートな時間や屋外での活動であれば、キャップやハット、ニット帽などで頭部全体をカバーできます。
ファッションアイテムとして取り入れれば、おしゃれを楽しみながら悩みを隠すことができます。ただし、職場や室内など、帽子をかぶることが適切でない場面もあります。
また、室内用のヘアバンドやバンダナなども選択肢になります。ただし、蒸れには注意し、帰宅後は帽子を脱いで頭皮を清潔に保つことが大切です。
10円ハゲを発見した時に取るべき行動
10円ハゲを見つけると、誰もが動揺し、「どうしよう」「すぐに隠さなければ」と焦ってしまいます。その気持ちはよくわかります。
しかし、焦って誤った自己判断をすることは、症状の悪化を招く可能性もあります。まずは落ち着いて、正しいステップを踏むことが、早期回復への第一歩です。
ここでは、円形脱毛症を発見した際に取るべき行動を解説します。
まずは専門の医療機関(皮膚科)へ
最も重要で、最初に行うべき行動は、専門の医療機関を受診することです。10円ハゲ(円形脱毛症)は皮膚の症状であるため、専門は「皮膚科」です。
薄毛治療のクリニック(AGA専門など)でも相談は可能かもしれませんが、円形脱毛症の原因(自己免疫疾患)を踏まえた診断と治療は、皮膚科医の専門領域です。
医師に脱毛斑の状態を直接診てもらい、本当に円形脱毛症なのか、他の脱毛症(AGAや脂漏性脱毛症など)ではないのかを正確に診断してもらう必要があります。
早期に受診することで、現在の状態を把握し、適切な治療方針を立てることができます。
医療機関で行う主な検査
皮膚科では、まず問診(いつから、どの程度か、既往歴、家族歴など)と視診(脱毛斑の状態、範囲、頭皮の色など)を行います。
ダーモスコピーという拡大鏡を使って毛根や頭皮の状態を詳しく観察することも多いです。これにより、円形脱毛症に特徴的な「感嘆符毛」や毛穴の黒点(ブラックドット)などを確認します。
症状が広範囲である場合や、他の自己免疫疾患(甲状腺疾患など)の合併が疑われる場合は、血液検査を行い、自己抗体や甲状腺ホルモンの値などを調べることもあります。
これらの検査を通じて、脱毛症の種類と重症度を判断します。
自分でできる初期対応
医師の診断を受けるまでの間、あるいは治療と並行して、ご自身でできることもあります。それは、患部(脱毛斑)を過度に刺激しないことです。
気になって何度も触ったり、爪で掻いたりすると、デリケートな頭皮や毛根を傷つけ、炎症を悪化させる可能性があります。シャンプーの際も、爪を立てず、指の腹で優しく洗うように心がけてください。
また、脱毛斑が直射日光に当たると日焼けしやすいため、外出時は帽子などで保護することも大切です。
患部にしてはいけないこと
- 爪を立てて強く掻く
- ブラシなどで強くこする
- 洗浄力の強すぎるシャンプーでゴシゴシ洗う
- 気になって頻繁に手で触る
育毛剤や発毛剤は使っても良いか
「髪が抜けたのだから、育毛剤や発毛剤を使えば生えてくるのでは?」と考える男性は多いかもしれません。しかし、ここで注意が必要です。
AGA(男性型脱毛症)に用いられる発毛剤(ミノキシジルなど)は、男性ホルモンの影響による薄毛の進行を抑えたり、血流を促進したりするものです。
一方、円形脱毛症の根本原因は免疫系の異常です。そのため、AGA用の発毛剤を使っても、円形脱毛症の直接的な治療にはなりません。 では、育毛剤(医薬部外品)はどうでしょうか。
育毛剤の主な目的は、頭皮環境を清潔に保ち、血行を促進し、今ある髪を健やかに育てることです。
円形脱毛症の治療中や回復期に、頭皮環境を良好に保つ目的で、刺激の少ない育毛剤を使用すること自体は、一概に悪いとは言えません。
ただし、炎症が起きている患部に使用すると刺激になる可能性もあるため、必ず使用前に医師に相談することが重要です。
根本的な対策とセルフケア
円形脱毛症の治療は医療機関で行いますが、それと同時に、ご自身でできるセルフケアも回復をサポートする上で非常に重要です。
特に、免疫系のバランスや頭皮の血流には、日々の生活習慣が大きく影響します。ここでは、医療機関での治療法と、今日から始められる生活習慣の見直しについて解説します。
医療機関で行われる主な治療法
皮膚科で行われる円形脱毛症の治療は、症状の範囲や進行度、年齢などによって異なります。脱毛範囲が狭い(頭皮の25%未満)場合は、ステロイドの外用(塗り薬)や局所注射が選択されることが多いです。
ステロイドには免疫の過剰な働きを抑え、炎症を鎮める作用があります。局所注射は、脱毛斑に直接ステロイドを注射するため、外用薬よりも高い効果が期待できますが、痛みを伴う場合があります。
その他、液体窒素で患部を冷却する「冷却療法」や、人工的にかぶれを起こさせて免疫反応を変化させる「局所免疫療法(SADBE、DPCP)」、範囲が広い場合はステロイドの内服(飲み薬)などが用いられることもあります。
主な治療法の概要(脱毛範囲が狭い場合)
| 治療法 | 概要 | 特徴 |
|---|---|---|
| ステロイド外用療法 | 免疫反応を抑えるステロイドの塗り薬を患部に塗布する。 | 最も一般的で、副作用が少ない。軽症例に用いる。 |
| ステロイド局所注射 | 脱毛斑に直接ステロイドを注射し、免疫反応を抑える。 | 外用薬より効果が高いが、注射時に痛みがある。 |
| 冷却療法 | 液体窒素などを患部に当て、軽い炎症を起こさせて刺激する。 | 広範囲には不向き。簡便だが効果は限定的。 |
ストレス管理とリラックス法
ストレスが発症の引き金になり得る以上、ストレスを管理し、心身をリラックスさせることは非常に大切です。ストレスをゼロにすることは不可能ですが、うまく発散する方法を見つけることはできます。
まずは、十分な睡眠時間を確保すること。睡眠不足は自律神経の乱れや免疫機能の低下に直結します。
また、仕事や悩み事から離れ、自分の好きなことに没頭する時間(趣味、スポーツ、音楽鑑賞など)を意識的に作ることも重要です。
ぬるめのお風呂にゆっくり浸かる、深呼吸をする、軽いストレッチをするなども、副交感神経を優位にし、リラックス状態を作るのに役立ちます。
頭皮環境を整える生活習慣
髪が健やかに育つ土台である頭皮環境を整えることも、セルフケアの基本です。毎日のシャンプーで頭皮を清潔に保つことは重要ですが、洗いすぎや強い刺激は逆効果です。
アミノ酸系など、頭皮に優しい洗浄成分のシャンプーを選び、指の腹でマッサージするように優しく洗いましょう。すすぎ残しがないよう、十分に洗い流すことも大切です。
また、喫煙は血管を収縮させ、頭皮への血流を悪化させる大きな要因です。円形脱毛症をきっかけに、禁煙を検討することも強く推奨します。
食生活で見直したいポイント
髪の毛は、私たちが食べたものから作られています。栄養バランスの偏った食事は、健康な髪の成長を妨げる可能性があります。
特に、髪の主成分である「タンパク質(ケラチン)」、その合成を助ける「亜鉛」、頭皮の健康を保つ「ビタミンB群」は重要です。また、血行を促進する「ビタミンE」も意識して摂取したい栄養素です。
インスタント食品や脂っこい食事ばかりに偏らず、肉、魚、卵、大豆製品、そして緑黄色野菜や海藻類をバランスよく取り入れた食生活を心がけましょう。
頭皮の健康維持に役立つ栄養素
| 栄養素 | 主な働き | 多く含む食品例 |
|---|---|---|
| タンパク質 | 髪の毛の主成分(ケラチン)を作る。 | 肉、魚、卵、大豆製品 |
| 亜鉛 | タンパク質の合成を助ける。免疫機能の維持。 | 牡蠣、レバー、牛肉(赤身)、ナッツ類 |
| ビタミンB群 | 頭皮の新陳代謝を促し、皮脂の分泌を調整。 | 豚肉、レバー、マグロ、納豆、卵 |
| ビタミンE | 血行を促進し、頭皮に栄養を届けやすくする。 | アーモンド、アボカド、うなぎ、かぼちゃ |
10円ハゲ(円形脱毛症)と育毛剤の付き合い方
この記事は男性用育毛剤を特集するメディアとして、円形脱毛症と育毛剤の関係についてもしっかりと解説します。前述の通り、育毛剤が円形脱毛症の直接的な「治療薬」になるわけではありません。
しかし、頭皮環境を整えるという観点から、育毛剤が回復のサポート役になる可能性はあります。ここでは、円形脱毛症と育毛剤の適切な付き合い方について掘り下げます。
育毛剤の役割と目的
まず、日本において「育毛剤」は「医薬部外品」に分類されます。その主な目的は、「脱毛の予防」「育毛・養毛」であり、「発毛」を謳うことはできません。
「発毛」を目的とするのは「医薬品」(ミノキシジルなど)です。育毛剤に期待される役割は、主に以下の3点です。
- 頭皮を清潔に保ち、フケやかゆみを防ぐ(殺菌・抗炎症)。
- 頭皮の血行を促進し、毛根に栄養を届けやすくする。
- 頭皮に潤いを与え、乾燥を防ぐ。
これらは、円形脱毛症の直接的な原因である免疫異常に働きかけるものではありませんが、髪が再び生えてくるための「土台」である頭皮環境を良好に保つために役立ちます。
円形脱毛症の回復期における育毛剤
円形脱毛症は、毛根自体が破壊されているわけではないため、免疫の攻撃が収まれば、再び髪が生えてくる力を持っています。
医療機関での治療によって炎症が鎮まり、毛根が活動を再開しようとする「回復期」において、頭皮環境が重要になります。
頭皮が乾燥していたり、血行不良だったりすると、せっかく生えてこようとする産毛が健やかに成長できない可能性があります。
この回復期に、頭皮環境を整えるサポートとして、マイルドな育毛剤を使用することは一つの選択肢となり得ます。
産毛が生え始めたタイミングで、頭皮をケアし、健やかな髪の成長を後押しするイメージです。
育毛剤選びで注目したい成分
円形脱毛症の患部やその周辺は、非常にデリケートな状態です。
もし育毛剤を使用する場合は、刺激の強い成分(高濃度のアルコールなど)は避け、頭皮環境を整えることに主眼を置いた成分が配合されているものを選ぶと良いでしょう。
特に、炎症を抑える「抗炎症成分」や、血流を促す「血行促進成分」が注目されます。
頭皮環境を整える主な育毛剤成分
| 成分例 | 期待される働き | 特徴 |
|---|---|---|
| グリチルリチン酸2K | 抗炎症作用 | 甘草由来の成分。頭皮の炎症やフケ・かゆみを防ぐ。 |
| センブリエキス | 血行促進作用 | リンドウ科の植物エキス。毛根への血流をサポート。 |
| ニンジンエキス | 血行促進・保湿 | オタネニンジン(高麗人参)由来。頭皮環境を整える。 |
| ヒアルロン酸・セラミド | 保湿作用 | 頭皮の乾燥を防ぎ、バリア機能をサポートする。 |
使用する際の注意点
最も重要な注意点は、自己判断で使用を開始しないことです。特に、脱毛斑に赤みや強いかゆみ、炎症が見られる場合は、育毛剤の成分が刺激となり、症状を悪化させる恐れがあります。
まずは皮膚科医の治療を最優先にしてください。その上で、「育毛剤を使いたいが、どのタイミングからなら良いか」「この製品を使っても問題ないか」を必ず医師に相談しましょう。
使用許可が出た場合も、まずは少量から試し、ヒリヒリ感や赤みが出ないかを確認しながら慎重に使用を開始することが必要です。
よくある質問
- 10円ハゲは自然に治りますか?
-
脱毛斑が1箇所だけの小さな単発型の場合、特別な治療をしなくても数ヶ月から1年程度で自然に毛が生えそろい、治るケースも少なくありません。
しかし、脱毛斑が複数ある多発型や、範囲が広い場合、またアトピー素因がある場合などは、治りにくかったり、進行したりする可能性もあります。
自然に治ることを期待して放置するのではなく、症状の重症度や今後の見通しを知るためにも、一度専門医の診断を受けることを強く推奨します。
- 10円ハゲは他の人にうつりますか?
-
うつりません。円形脱毛症は、ウイルスや細菌による感染症ではありません。原因は、ご自身の免疫機能が毛根を誤って攻撃してしまう自己免疫疾患と考えられています。
したがって、温泉やプール、タオルの共用、散髪などで他の人にうつる(感染する)心配は一切ありません。ご家族や周囲の人も、その点を正しく理解することが大切です。
- シャンプーや整髪料が原因になることはありますか?
-
特定のシャンプーや整髪料を使ったからといって、それが「直接的な原因」となって円形脱毛症を発症することは、基本的には考えにくいです。
円形脱毛症の根本原因は免疫系の異常にあります。
ただし、ご自身の肌に合わない(アレルギー反応が出る、刺激が強すぎる)製品を使い続けると、頭皮が炎症を起こしたり(接触性皮膚炎)、頭皮環境が悪化したりする可能性があります。
それは、既存の円形脱毛症にとって良い環境とは言えず、回復を妨げる要因にはなり得ます。
- 完治した後、再発する可能性はありますか?
-
残念ながら、一度治っても再発する可能性はあります。
円形脱毛症は、自己免疫疾患を起こしやすい体質的な要因も関わっているため、完治したように見えても、数年後にストレスや体調不良などを引き金に再び発症することがあります。
再発率は個人差が大きく一概には言えませんが、過去に範囲が広かったり、アトピー素因があったりすると、再発しやすい傾向があるとも言われます。
治った後も、ストレス管理やバランスの取れた生活習慣を心がけ、頭皮の健康を維持することが大切です。
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