鏡を見るたび、以前よりおでこが広くなった、生え際がM字になってきたと感じていませんか。その不安、もしかするとAGA(男性型脱毛症)のサインかもしれません。
「まだ大丈夫」と思っていても、前髪の後退は徐々に進行します。
この記事では、なぜ前髪が後退するのか、M字はげの主な原因であるAGAの正体、そして今すぐ始められるセルフケアから専門的な対策まで、あなたの疑問と不安に答える情報を詳しく解説します。
手遅れになる前に対策を知り、大切な髪を守るための一歩を踏み出しましょう。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
もしかして…「前髪が後退してきた」と感じるサインとは
前髪の後退は、ある日突然起こるものではなく、多くの場合、少しずつ進行します。
日々のわずかな変化は見過ごしがちですが、以下のようなサインに気づいたら、頭皮環境やヘアサイクルに何らかの変化が起きている可能性があります。早期に気づくことが、対策を講じる上で非常に重要です。
生え際がM字型になってきた
前髪後退の最も分かりやすいサインの一つが、生え際の形状変化です。
特にこめかみの上あたり、いわゆる「剃り込み」部分が後退し、正面から見たときに生え際がアルファベットの「M」のような形に見えてくる状態です。
これは「M字はげ」とも呼ばれ、AGA(男性型脱毛症)の典型的な症状パターンの一つです。
以前はまっすぐだった、あるいは緩やかなカーブだった生え際が、明らかに角度がついてきたと感じたら注意が必要です。
髪の毛が細く、弱々しくなった
前髪部分の髪質が変化していないか確認しましょう。髪の毛一本一本が以前よりも細くなり、コシやハリが失われて弱々しくなったと感じる場合、それはAGAのサインかもしれません。
AGAは、髪の成長期が短縮されることで、髪が太く長く成長する前に抜け落ちてしまう状態を引き起こします。
そのため、新しく生えてくる髪が十分に育たず、細く短い「うぶ毛」のような状態のままになってしまうのです。
以前よりおでこが広くなったと感じる
生え際全体が均一に後退することで、「おでこが広くなった」と感じるケースもあります。
M字型のように局所的ではないため変化に気づきにくいかもしれませんが、昔の写真と見比べたり、眉毛から生え際までの距離を指で測ってみたりすると、客観的に変化を認識できることがあります。
髪をかき上げたときに、以前よりも手のひらが広くおでこに触れるようになったと感じるなら、それは前髪が後退している証拠かもしれません。
髪全体のボリュームが減った
前髪部分だけでなく、頭頂部も含めた髪全体のボリュームダウンも、AGAのサインとなることがあります。
スタイリングがしにくくなったり、髪をセットしてもすぐにペタッとなったりする場合、髪の毛の密度が低下しているか、一本一本が細くなっている可能性があります。
前髪の後退と同時に頭頂部の薄毛(O字はげ)も進行するパターンは、AGAにおいて一般的です。
前髪が後退する主な原因「AGA(男性型脱毛症)」とは
前髪の後退、特にM字型の進行に悩む男性の多くは、AGA(男性型脱毛症)を発症している可能性が高いと考えます。AGAは成人男性に見られる進行性の脱毛症であり、その原因は特定されつつあります。
なぜAGAが発症し、前髪に影響を与えるのかを理解しましょう。
AGAの正体は男性ホルモンと遺伝
AGAの主な原因は、男性ホルモンの一種である「DHT(ジヒドロテストステロン)」です。体内で「テストステロン」という男性ホルモンが、「5αリダクターゼ」という酵素と結びつくことでDHTが生成されます。
このDHTが、毛根にある「毛乳頭細胞」の受容体(アンドロゲンレセプター)と結合すると、髪の成長を抑制するシグナルが発せられます。
これにより、髪の成長期(太く長く育つ期間)が極端に短くなり、髪が十分に成長する前に抜け落ち、薄毛が進行します。
このDHTに対する感受性の高さ(アンドロゲンレセプターの感度)は、遺伝によって受け継がれる傾向が強いことがわかっています。
なぜ前髪や頭頂部から進行するのか
AGAが前髪(特にM字部分)や頭頂部から進行しやすいのには理由があります。それは、AGAの原因となる酵素「5αリダクターゼ」の分布に偏りがあるためです。
5αリダクターゼにはⅠ型とⅡ型がありますが、特にⅡ型の5αリダクターゼが前髪の生え際や頭頂部の毛根に多く存在します。
そのため、これらの部位でDHTが活発に生成され、髪の成長が妨げられやすくなるのです。一方で、側頭部や後頭部の毛根にはⅡ型5αリダクターゼが少ないため、AGAが進行しても髪が残りやすい傾向があります。
AGAセルフチェックリスト
自分がAGAである可能性がどれくらいあるか、簡単なチェックリストで確認してみましょう。当てはまる項目が多いほど、AGAの可能性を考慮する必要があります。
AGAの可能性を確認する項目
| チェック項目 | 詳細 |
|---|---|
| 家族(特に母方)に薄毛の人がいる | 薄毛の体質、特にアンドロゲンレセプターの感受性は遺伝しやすいと言われます。 |
| 前髪の生え際が後退してきた(M字) | AGAの典型的な進行パターンの一つです。 |
| 頭頂部が薄くなってきた(O字) | これもAGAの一般的なパターンです。前髪と同時に進行することも多いです。 |
| 髪の毛が細く、コシがなくなった | 髪の成長期が短縮し、うぶ毛化(軟毛化)しているサインです。 |
| 抜け毛の量が増えたと感じる | ヘアサイクルの乱れにより、抜けるべきでない髪が抜けている可能性があります。 |
AGAは進行性の脱毛症
AGAの最も重要な特徴は、「進行性」であるという点です。一度発症すると、自然に治癒することはなく、放置すれば薄毛の範囲は徐々に拡大していきます。
DHTが毛根にダメージを与え続けるため、ヘアサイクルは乱れ続け、最終的には毛根が機能しなくなり、髪が生えてこなくなる可能性もあります。
だからこそ、前髪の後退やM字はげのサインに気づいた時点で、できるだけ早く対策を始めることが、将来の髪を守るために極めて重要です。
進行を「止める」または「遅らせる」ためには、早期の行動が鍵となります。
AGA以外で前髪が後退する原因
前髪の後退といえばAGAが主な原因として挙げられますが、全てのケースがAGAによるものとは限りません。生活習慣や特定の行動、他の病気が原因で前髪が薄くなることもあります。
AGAとは異なる原因の場合、対策方法も変わってくるため、自分の状態を正しく把握することが大切です。
生活習慣の乱れによる頭皮環境の悪化
健康な髪は、健康な頭皮から生まれます。しかし、私たちの日常生活には頭皮環境を悪化させる要因が潜んでいます。
例えば、偏った食生活による栄養不足、睡眠不足による成長ホルモンの分泌低下、過度な飲酒や喫煙による血行不良などが挙げられます。
これらの要因が重なると、頭皮に十分な栄養が届かなくなったり、皮脂が過剰に分泌されて毛穴が詰まったりします。結果として、髪の成長が妨げられ、抜け毛や前髪の後退につながることがあります。
ストレスによる血行不良
精神的なストレスも、髪の健康に大きな影響を与えます。強いストレスを感じると、自律神経のバランスが乱れ、血管が収縮します。
特に頭皮の毛細血管は非常に細いため、血行不良の影響を受けやすい部位です。血流が悪くなると、毛根にある毛母細胞に酸素や栄養が届きにくくなり、髪の成長が阻害されます。
ストレスが慢性化すると、抜け毛が増え、前髪の後退を実感するようになるケースも少なくありません。
牽引(けんいん)性脱毛症
これは、物理的な力が継続的にかかることで発生する脱毛症です。
例えば、毎日髪を強く結ぶポニーテールや、きつく編み込むヘアスタイル、または常に同じ分け目を続けていると、特定の毛根に負担がかかり続けます。
前髪部分であれば、オールバックのように強く引っ張り続けるヘアスタイルが原因となることがあります。この物理的な牽引力が毛根を弱らせ、髪が抜けやすくなり、生え際が後退してしまうのです。
AGAとは異なり、原因となるヘアスタイルをやめれば改善する可能性があります。
円形脱毛症やその他の皮膚疾患
円形脱毛症は、一般的にコイン大の脱毛斑ができる病気として知られていますが、時には生え際から帯状に脱毛が広がる「蛇行状脱毛症」というタイプもあります。これは自己免疫疾患の一種と考えられています。
また、脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)のように、頭皮の過剰な皮脂分泌とマラセチア菌の増殖によって引き起こされる炎症が、抜け毛の原因となることもあります。
これらの場合、AGAとは根本的に原因が異なるため、皮膚科など専門医による診断と適切な治療が必要です。
AGA以外の主な脱毛原因
| 原因の分類 | 主な要因 | 特徴 |
|---|---|---|
| 生活習慣 | 栄養不足、睡眠不足、喫煙 | 頭皮環境が悪化し、髪の成長を妨げる。 |
| 精神的要因 | 過度なストレス | 血行不良を引き起こし、毛根に栄養が届きにくくなる。 |
| 物理的要因 | 髪を強く引っ張るヘアスタイル | 牽引性脱毛症。特定の部位の毛根が弱る。 |
| その他疾患 | 円形脱毛症、脂漏性皮膚炎 | 免疫異常や頭皮の炎症が原因。専門的な治療が必要。 |
M字はげとAGAの関係性
「M字はげ」という言葉は、前髪の生え際が後退する状態を指す俗称として広く使われています。このM字はげとAGA(男性型脱毛症)は、非常に密接な関係にあります。
なぜM字型に進行するのか、そのパターンとAGAの関連性について掘り下げます。
M字はげはAGAの典型的なパターン
結論から言うと、成人男性に見られるM字はげの多くは、AGAが原因です。
前述の通り、AGAの原因物質であるDHT(ジヒドロテストステロン)を生成する酵素(5αリダクターゼⅡ型)は、前髪の生え際(特にM字部分)と頭頂部に多く存在します。
そのため、DHTの影響を受けやすいこれらの部位から薄毛が進行しやすいのです。
M字部分の毛根がDHTの攻撃を受けることでヘアサイクルが短縮し、髪が細く、短くなる「うぶ毛化(軟毛化)」が進み、最終的に生え際が後退していきます。
進行度合いの分類(ハミルトン・ノーウッド分類)
AGAの進行パターンは、ある程度決まった類型があります。これを分類した指標として、世界的に「ハミルトン・ノーウッド分類」が用いられます。
この分類は、薄毛の進行度合いをⅠ型からⅦ型までのステージで示します。M字はげは、この分類の初期段階であるⅡ型やⅢ型で顕著に見られる特徴です。
Ⅲ型以降は、M字の後退がさらに進むと同時に、頭頂部(O字)の薄毛も始まるパターン(Ⅲ vertex型)などが定義されています。自分が今どのステージにあるかを知ることは、対策を考える上で参考になります。
ハミルトン・ノーウッド分類(M字に関連する初期段階)
| ステージ | 主な特徴 |
|---|---|
| Ⅰ型 | 薄毛の兆候はほとんど見られない。いわゆる正常な状態。 |
| Ⅱ型 | 生え際、特にM字部分(こめかみの上)が後退し始める。 |
| Ⅲ型 | M字部分の後退がさらに顕著になる。いわゆる「M字はげ」が明確になる。 |
| Ⅲ vertex型 | M字の後退に加え、頭頂部(Vertex)の薄毛も始まる。 |
(注:この表は分類の一部を簡略化して示しています)
M字はげの進行速度には個人差がある
AGAは進行性ですが、そのスピードは人によって大きく異なります。数年かけてゆっくりとM字が後退する人もいれば、1年程度で急速に進行する人もいます。
この差は、遺伝的に受け継いだDHTへの感受性の強さや、生活習慣、ストレスの度合いなど、複数の要因が関与すると考えられています。
進行が早いと感じる場合は、それだけDHTの影響を強く受けている可能性があり、より積極的な対策を早期に開始することが重要です。
進行がゆっくりだからと安心せず、M字はげのサインに気づいた時点が対策の始め時です。
自分でできる前髪後退への対策とセルフケア
前髪の後退、特にAGAの進行を完全に止めることはセルフケアだけでは難しいかもしれませんが、進行を遅らせ、頭皮環境を健やかに保つためにできることは多くあります。
専門的な治療と並行して、日々の生活習慣を見直すことは非常に重要です。ここでは、今日から始められる具体的なセルフケア方法を紹介します。
食生活の見直しと栄養バランス
髪の毛は、私たちが食べたものから作られます。
特に「タンパク質(ケラチン)」が主成分であり、その合成を助ける「亜鉛」、頭皮の血行を促進する「ビタミンE」、皮脂の分泌をコントロールする「ビタミンB群」などは、健康な髪を育てるために必要です。
特定の食品だけを食べるのではなく、バランスの取れた食事を心がけることが大切です。
髪の健康をサポートする栄養素と食品例
| 栄養素 | 主な役割 | 多く含まれる食品例 |
|---|---|---|
| タンパク質 | 髪の主成分(ケラチン)の材料 | 肉、魚、卵、大豆製品、乳製品 |
| 亜鉛 | タンパク質の合成を助ける | 牡蠣、レバー、牛肉、ナッツ類 |
| ビタミンB群 | 頭皮の新陳代謝、皮脂の調整 | 豚肉、レバー、うなぎ、マグロ、納豆 |
| ビタミンE | 血行促進、抗酸化作用 | アーモンド、アボカド、かぼちゃ |
一方で、脂肪分や糖分の多い食事は、皮脂の過剰分泌を招き、頭皮環境を悪化させる可能性があります。
外食やインスタント食品が多い人は、意識して野菜や海藻類、良質なタンパク質を取り入れましょう。
質の高い睡眠の確保
髪の成長は、睡眠中に分泌される「成長ホルモン」によって促進されます。成長ホルモンは、毛母細胞の分裂を活性化させ、日中に受けた頭皮のダメージを修復する働きを持ちます。
この成長ホルモンは、特に就寝後、深い眠り(ノンレム睡眠)に入ったときに多く分泌されます。
睡眠時間が不足したり、眠りが浅かったりすると、成長ホルモンの分泌が妨げられ、髪の健やかな成長が阻害されます。
毎日6〜7時間程度のまとまった睡眠時間を確保し、就寝前はスマートフォンやPCの使用を避けてリラックスするなど、睡眠の質を高める工夫をしましょう。
ストレス管理と解消法
前述の通り、過度なストレスは自律神経のバランスを崩し、頭皮の血行不良を引き起こします。
現代社会でストレスをゼロにすることは困難ですが、自分なりの方法で上手に発散させ、溜め込まないことが大切です。
日常生活の中で気軽に取り入れられるリフレッシュ方法を見つけましょう。
- 適度な運動(ウォーキング、ジョギングなど)
- 趣味に没頭する時間を作る
- ゆっくりと湯船に浸かる
- 友人や家族と話す
- 瞑想や深呼吸
正しいヘアケアと頭皮マッサージ
毎日のシャンプーは、頭皮環境を清潔に保つ基本です。しかし、洗いすぎや間違った洗い方は逆効果になります。洗浄力の強すぎるシャンプーは頭皮の必要な皮脂まで奪い、乾燥や過剰な皮脂分泌を招きます。
アミノ酸系など、マイルドな洗浄成分のシャンプーを選び、指の腹を使って優しくマッサージするように洗い、すすぎ残しがないよう十分すぎるほど丁寧に洗い流しましょう。
また、頭皮マッサージは、硬くなった頭皮をほぐし、血行を促進するのに役立ちます。
シャンプー中や入浴後など、リラックスしている時に、指の腹で頭皮全体を動かすように優しくマッサージする習慣を取り入れるのも良いでしょう。
市販の育毛剤で前髪の後退は止められるか
前髪の後退が気になり始めたとき、まず手に取りやすいのが市販の「育毛剤」や「発毛剤」です。しかし、これらがM字はげの進行を「止める」ことができるのか、正しく理解しておく必要があります。
特に「育毛剤」と「発毛剤」は目的が異なるため、その違いを知ることが重要です。
育毛剤と発毛剤の違いを理解する
市販されているヘアケア製品は、大きく「育毛剤(医薬部外品)」と「発毛剤(第1類医薬品)」に分けられます。この二つは、法律上の分類も期待できる効果も異なります。
育毛剤と発毛剤の比較
| 項目 | 育毛剤(医薬部外品) | 発毛剤(第1類医薬品) |
|---|---|---|
| 目的 | 今ある髪を健康に育てる(育毛・養毛) 抜け毛を防ぐ(予防) | 新しい髪を生やす(発毛) 髪を成長させる |
| 主な作用 | 頭皮環境の改善、血行促進、抗炎症 | 毛母細胞の活性化、ヘアサイクルの延長 |
| 代表的な成分 | センブリエキス、グリチルリチン酸2Kなど | ミノキシジル |
| 分類 | 医薬部外品 | 第1類医薬品(薬剤師による説明が必要) |
育毛剤に期待できること
育毛剤の主な目的は、すでに生えている髪の毛を健康に保ち、抜け毛を予防することです。頭皮の血行を促進したり、炎症を抑えたり、フケやかゆみを防いだりすることで、頭皮環境を整えます。
AGAがまだ発症していない、あるいはごく初期段階で、生活習慣の乱れや頭皮環境の悪化による抜け毛が気になる場合には、育毛剤によるケアが有効な場合があります。
しかし、AGAが原因で進行しているM字はげ(前髪後退)に対して、育毛剤だけで進行を「止め」たり、後退した部分から髪を「生やし」たりすることは難しいと考えます。
M字はげ(前髪後退)に有効な成分
AGAによる前髪の後退、つまりM字はげの進行を抑え、改善を目指す場合、医学的に効果が認められている成分の使用を検討する必要があります。
現在、市販の製品でその代表格となるのが「ミノキシジル」です。
ミノキシジル(外用薬)
ミノキシジルは、もともと高血圧の治療薬として開発されましたが、副作用として多毛が見られたことから発毛剤として転用されました。
毛根の血管を拡張させて血流を改善し、毛母細胞に直接働きかけてその活動を活性化させる作用があります。
これにより、AGAによって短くなった成長期を延長させ、細くなった髪を太く長く成長させる効果が期待できます。
日本国内では、ミノキシジルを配合した市販薬(発毛剤)が第1類医薬品として販売されており、M字はげを含むAGAの対策として使用されます。
市販薬(発毛剤)の選択肢
ミノキシジル配合の発毛剤は、薬局やドラッグストアで購入できますが、第1類医薬品であるため、薬剤師からの説明を受けて購入する必要があります。これらはAGAの進行を抑える一つの選択肢となります。
ただし、効果の現れ方には個人差があり、使用を中止すると再び薄毛が進行する可能性があるため、継続的な使用が必要です。
また、頭皮のかぶれや初期脱毛(使用開始直後に一時的に抜け毛が増える現象)などの副作用が起こる可能性も理解しておく必要があります。
自分のM字はげがAGAによるものか、市販薬を使うべきか迷う場合は、自己判断せずに専門医に相談することが賢明です。
前髪の後退を本気で止めるための専門的な対策
セルフケアや市販の発毛剤を使用しても前髪の後退が止まらない、あるいはM字はげが明らかに進行していると感じる場合、AGAの可能性が非常に高いです。
AGAは進行性であるため、根本的な対策を講じるには専門の医療機関(AGA専門クリニックや皮膚科)への相談が最も確実な道となります。
AGA治療専門クリニックへの相談
AGA治療を専門に行うクリニックでは、まず医師による問診や視診、場合によっては血液検査などを行い、薄毛の原因が本当にAGAであるかを診断します。
AGAであった場合、その進行度合い(ハミルトン・ノーウッド分類など)を判定し、個々の症状や希望に応じた治療計画を提案します。
自己判断でケアを続けるよりも、専門医の診断のもとで自分に合った対策を早期に始めることが、前髪の後退を食い止める鍵となります。
医療機関で行う主なAGA治療法
現在、AGA治療の主流となっているのは、医学的根拠に基づいた内服薬と外用薬の併用です。これらはAGAの根本原因にアプローチし、ヘアサイクルを正常化させることを目的とします。
主なAGA治療法の概要
| 治療法 | 主な薬剤・成分 | 期待される作用 |
|---|---|---|
| 内服薬(守りの治療) | フィナステリド デュタステリド | AGAの原因であるDHTの生成を阻害する。 (5αリダクターゼの働きを抑える) |
| 外用薬(攻めの治療) | ミノキシジル(高濃度) | 毛母細胞を活性化させ、発毛を促進する。 (市販薬より高濃度のものが処方される場合がある) |
| その他の治療 | 注入治療(メソセラピー)など | 成長因子などを頭皮に直接注入し、発毛をサポートする。 |
特に重要なのが内服薬(フィナステリドやデュタステリド)です。これらは、AGAの引き金となるDHTの生成そのものを抑える働きがあります。
つまり、薄毛の進行を「止める」ための根本的な対策と言えます。
これに加えて、発毛を促進するミノキシジル外用薬を併用することで、抜け毛を減らしつつ新しい髪を育てるという、攻守両面からのアプローチが可能になります。
治療のメリットとデメリット
専門的なAGA治療の最大のメリットは、医学的根拠に基づいた高い効果が期待できる点です。特にM字はげの進行を食い止めたい場合、DHTを抑制する内服薬は非常に有効な選択肢となります。
一方で、デメリットも理解しておく必要があります。まず、治療は継続する必要があることです。AGAは完治するものではないため、薬の使用をやめると再び進行が始まります。
また、医薬品であるため、副作用のリスクがゼロではありません(例:内服薬における性機能の低下、肝機能への影響など。ただし頻度は低いとされます)。
これらのリスクについては、治療開始前に医師から十分な説明を受けることが重要です。費用は原則として自由診療となります。
治療開始のタイミング
AGA治療は、いつ始めても遅すぎるということはありませんが、早期に始めるほど高い効果が期待できます。
なぜなら、AGAが進行し、毛根が髪を生み出す力を完全に失ってしまう(毛包がミニチュア化しきる)と、薬を使っても髪が再生しにくくなるためです。
「前髪が後退してきた」「M字はげが目立ってきた」と感じた今この瞬間が、最も早い治療開始のタイミングです。手遅れになる前に、一度専門医に相談することを強く推奨します。
Q&A
- 前髪の後退はどれくらいのスピードで進行しますか?
-
AGAによる前髪後退の進行スピードには大きな個人差があります。遺伝的な要因や生活習慣、ストレスの度合いなどによって異なります。
数年かけてゆっくりと進行する人もいれば、半年から1年程度で急速に変化を実感する人もいます。
進行が早いと感じる場合は、それだけAGAの活動性が強い可能性があるため、早期の対策が特に重要です。
- AGA治療はいつまで続ければよいですか?
-
AGAは進行性の脱毛症であり、現在の医療では「完治」させることはできません。
治療薬(内服薬や外用薬)は、AGAの進行を抑えたり、発毛を促したりするものですが、その効果は使用を継続している間に限られます。
したがって、効果を維持したいと考える限り、治療を継続する必要があります。
治療のゴール(どの程度の改善を目指すか)や、いつまで続けるかについては、定期的に医師と相談しながら決めていくことになります。
- 育毛剤や発毛剤を使い始めたら抜け毛が増えた気がします。
-
特にミノキシジル配合の発毛剤を使い始めた初期段階(使用開始から数週間後)に、一時的に抜け毛が増える現象が起きることがあります。これは「初期脱毛」と呼ばれるものです。
AGAによって乱れたヘアサイクルが、薬剤の作用によって正常化する過程で、休止期に入っていた古い髪が新しい髪に押し出されて抜け落ちるために起こると考えられています。
多くの場合、これは治療が効き始めているサインであり、一時的なものです。
ただし、あまりにも長期間続く場合や、頭皮にかゆみや赤みなどを伴う場合は、医師や薬剤師に相談してください。
- 治療をやめたらどうなりますか?
-
AGA治療薬(特にDHTを抑える内服薬)の使用を中止すると、再びDHTが生成され、毛根への攻撃が再開されます。
その結果、抑えられていたAGAの進行が再び始まり、治療によって改善した髪の状態も、徐々に治療前の状態に戻っていくと考えられます。
効果を維持するためには、自己判断で中断せず、継続的な使用が原則となります。
- 生活習慣を改善すればAGAは治りますか?
-
バランスの取れた食事、十分な睡眠、ストレス管理などの生活習慣の改善は、頭皮環境を健やかに保ち、髪の成長をサポートするために非常に重要です。
しかし、AGAの根本原因は男性ホルモン(DHT)と遺伝的な感受性にあるため、生活習慣の改善だけでAGAの発症を止めたり、治したりすることはできません。
生活習慣の見直しは、あくまでAGA治療の「補助」として、専門的な治療と並行して行うことが最も効果的です。
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