「シャンプーで髪が生える」という話を耳にし、期待を込めて製品を探している男性も多いかもしれません。
しかし、結論から言うと、現在日本国内で販売されているシャンプーに「髪を生やす」効果(発毛効果)が認められたものはありません。
シャンプーの本来の目的は、頭皮や髪の汚れを落とし、清潔に保つことです。ただし、抜け毛や薄毛に悩む方にとって、シャンプー選びは決して無関係ではありません。
なぜなら、自分に合っていないシャンプーを使い続けると頭皮環境が悪化し、抜け毛の原因になることがあるからです。
この記事では、シャンプーの真の役割と、健やかな髪を育むための「頭皮環境を整えるシャンプー」の正しい選び方を、詳しく解説します。
この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック 統括院長
前田 祐助
【経歴】
慶應義塾大学医学部医学研究科卒業
慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了
大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設
2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設
資格・所属学会・症例数
【資格】
- 医師免許
- ⽇本医師会認定産業医
- 医学博士
【所属学会】
- 日本内科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本臨床毛髪学会
【症例数】
3万人以上※
※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数
「髪が生えるシャンプー」は存在する?その真相
薄毛や抜け毛に悩む多くの方が、「髪が生えるシャンプー」という言葉に期待を寄せます。しかし、この表現には大きな誤解が含まれています。
まず、シャンプーの役割と、発毛に関する製品の分類を正確に理解することが重要です。
シャンプーの基本的な役割とは
シャンプーの主な目的は、頭皮と髪の毛に付着した皮脂、汗、ほこり、整髪料などの汚れを洗い流し、清潔な状態を保つことです。頭皮は顔のTゾーンよりも皮脂腺が多く、汚れが溜まりやすい場所です。
この汚れを放置すると、毛穴が詰まったり、雑菌が繁殖したりして、かゆみ、フケ、炎症などの頭皮トラブルを引き起こす原因となります。
これらのトラブルは、髪の健やかな成長を妨げる要因になり得ます。シャンプーは、あくまでも頭皮環境をリセットし、清潔にするための洗浄剤であると認識することが大切です。
医薬品と医薬部外品、化粧品の違い
私たちが日常で使用する製品は、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)によって「医薬品」「医薬部外品」「化粧品」に分類されています。
この違いを理解することは、製品選びにおいて非常に重要です。
製品分類とその目的
| 分類 | 目的・効果 | 具体例 |
|---|---|---|
| 医薬品 | 病気の「治療」や「予防」を目的とする。厚生労働省から有効成分の効果が認められている。 | 発毛剤(ミノキシジル配合など)、風邪薬 |
| 医薬部外品 | 「防止」や「衛生」を目的とする。効果が期待できる有効成分が一定濃度配合されているが、治療効果はない。 | 薬用シャンプー(育毛、フケ・かゆみ防止)、育毛剤 |
| 化粧品 | 体を清潔にし、美化する目的。効果は「緩和」的で、清潔にする、うるおいを与えるなど。 | 一般のシャンプー、リンス、化粧水 |
この表が示す通り、「発毛」という治療的な効果をうたえるのは「医薬品」だけです。シャンプーの多くは「化粧品」または「医薬部外品(薬用シャンプー)」に分類されます。
薬用シャンプーであっても、その効果は「育毛環境を整える」「フケ・かゆみを防ぐ」といった範囲にとどまり、直接的に髪を生やすものではありません。
なぜ「髪が生える」と誤解されるのか
では、なぜ「髪が生えるシャンプー」というイメージが広まったのでしょうか。一つは、育毛剤や発毛剤と混同されている可能性があります。
特に「薬用育毛シャンプー」といった製品名から、「育毛=髪が生える」と解釈してしまうケースです。
また、シャンプーを自分に合ったものに変えた結果、頭皮環境が改善し、抜け毛が減ったり、髪にハリやコシが出たりすることがあります。
この「状態の改善」を「髪が生えた」と実感することが、誤解の一因となっていると考えられます。広告表現が、消費者に発毛効果を期待させるような印象を与えている側面も否定できません。
発毛にアプローチする育毛剤との違い
「育毛剤」と「発毛剤」も、しばしば混同されます。「育毛剤」は医薬部外品に分類され、主な目的は「今ある髪を健やかに育てる」ことや「抜け毛を防ぐ」ことです。
頭皮の血行を促進したり、毛根に栄養を与えたりすることで、頭皮環境を整えます。一方、「発毛剤」は医薬品であり、その目的は「新しい髪を生やす」ことです。
代表的な成分であるミノキシジルは、毛母細胞の働きを活性化させ、発毛を促す効果が医学的に認められています。
シャンプーは、これら育毛剤や発毛剤の成分が浸透しやすいように、頭皮を清潔にする土台作りの役割を担います。
シャンプーが「発毛」ではなく「育毛」につながる理由
シャンプーに直接的な発毛効果はないものの、抜け毛や薄毛に悩む方にとってシャンプー選びが重要である事実に変わりはありません。
それは、シャンプーが「育毛」、つまり髪が育ちやすい環境作りにおいて、極めて重要な役割を担っているからです。
育毛における頭皮環境の重要性
健やかな髪は、健康な頭皮という「土壌」から育ちます。畑に例えるなら、硬く、乾燥していたり、逆にジメジメと湿っていたりする土地では、作物は元気に育ちません。
頭皮も同様で、乾燥、過剰な皮脂、炎症などがあると、髪の毛の成長サイクル(ヘアサイクル)が乱れやすくなります。
ヘアサイクルが乱れると、髪が十分に太く長く成長する前に抜け落ちてしまい、これが薄毛の進行につながります。したがって、育毛の第一歩は、この頭皮環境を最適な状態に保つことです。
頭皮環境を悪化させる要因
頭皮環境は、さまざまな要因によって悪化します。自分に合わないシャンプーの使用もその一つです。
例えば、洗浄力が強すぎるシャンプーは、頭皮を守るために必要な皮脂まで奪ってしまい、乾燥やかゆみを引き起こします。
逆に、乾燥を恐れて洗浄力が弱すぎると、皮脂や汚れが毛穴に詰まり、炎症や脂漏性皮膚炎の原因にもなりかねません。
その他にも、不規則な生活習慣、食生活の乱れ、睡眠不足、ストレス、紫外線なども頭皮環境に悪影響を与えます。
主な頭皮トラブルとその原因
| 頭皮トラブル | 主な原因 | 髪への影響 |
|---|---|---|
| 乾燥・フケ(乾性) | 洗浄力の強すぎるシャンプー、加齢、空気の乾燥 | バリア機能が低下し、刺激を受けやすくなる。 |
| 過剰な皮脂・ベタつき | 脂っこい食事、ホルモンバランスの乱れ、不適切な洗髪 | 毛穴詰まり、雑菌の繁殖、炎症。 |
| かゆみ・炎症 | シャンプーのすすぎ残し、アレルギー、雑菌の繁殖 | 頭皮を掻くことで傷つけ、さらに悪化。 |
シャンプーが頭皮環境を整える仕組み
適切なシャンプーは、頭皮環境の「正常化」を助けます。具体的には、以下の3つの働きが期待できます。
第一に、「適切な洗浄」です。頭皮のタイプ(脂性肌、乾燥肌など)に合った洗浄成分のシャンプーを選ぶことで、不要な皮脂や汚れだけを落とし、必要なうるおいは残すことができます。
これにより、頭皮の水分と油分のバランス(皮脂膜)が保たれます。
第二に、「頭皮トラブルの予防」です。薬用シャンプーなどに含まれる有効成分(抗炎症成分や殺菌成分)が、フケ、かゆみ、炎症などを抑え、頭皮を健やかな状態に導きます。
第三に、「育毛剤などの浸透サポート」です。シャンプーで頭皮の毛穴詰まりを解消し清潔にすることで、その後に使用する育毛剤や発毛剤の有効成分が、角質層まで浸透しやすくなります。
このように、シャンプーは「マイナスをゼロに戻す」役割、つまり頭皮環境の悪化を防ぎ、良い状態を維持するために必要不可欠なケアなのです。
頭皮環境を整えるシャンプー選びの基本
シャンプーが育毛環境において重要な役割を果たすことを理解したところで、次に「自分に合ったシャンプー」をどのように選べばよいか、その基本的な基準を解説します。
最も重要なのは、「自分の頭皮タイプ」と「洗浄成分」の2つを理解することです。
自分の頭皮タイプを知る(乾燥肌・脂性肌・混合肌)
シャンプー選びの第一歩は、自分の頭皮がどのタイプに当てはまるかを知ることです。主なタイプは以下の通りです。
脂性肌(オイリー肌)
洗髪して半日ほどで髪や頭皮がベタつく、ニオイが気になる、髪がペタッとしやすいのが特徴です。皮脂の分泌が活発なため、毛穴が詰まりやすい傾向にあります。
適度な洗浄力を持ち、さっぱりと洗い上げるタイプのシャンプーが合います。
乾燥肌
頭皮がつっぱる感じがする、カサカサしている、細かい粉のようなフケ(乾性フケ)が出やすいのが特徴です。皮脂の分泌が少なく、頭皮のバリア機能が低下しがちです。
洗浄力がマイルドで、保湿成分が配合されたシャンプーが求められます。
混合肌
Tゾーンはベタつくのに頬は乾燥するなど、顔の肌質と同様に、頭皮も部分によって状態が異なるタイプです。生え際や頭頂部はベタつくが、側頭部や後頭部は乾燥するなど、状態は人によります。
基本的にはマイルドな洗浄力のものを選びつつ、洗い方を工夫する必要があります。
敏感肌
上記の特徴に加えて、少しの刺激でかゆみ、赤み、ヒリヒリ感が出やすいタイプです。
シャンプーの成分が合わないと、すぐにトラブルにつながるため、低刺激性で無添加(香料、着色料、防腐剤などが少ない)のものを選ぶことが重要です。
まずは乾燥肌向けのシャンプーから試してみるのが良いでしょう。
洗浄成分の種類と特徴を理解する
シャンプーの性格を決定づける最も重要な要素が「洗浄成分(界面活性剤)」です。シャンプーの裏面にある成分表示は、配合量の多い順に記載されています。
水(精製水)の次に記載されている成分が、そのシャンプーの主な洗浄成分です。
主な洗浄成分の分類と特徴
| 系統 | 主な成分名 | 特徴(洗浄力・刺激) |
|---|---|---|
| 高級アルコール系 | ラウリル硫酸Na、ラウレス硫酸Na | 洗浄力が非常に強い。泡立ちが良い。刺激は強め。 |
| 石けん系 | 石ケン素地、カリ石ケン素地、脂肪酸Na | 洗浄力は強い。さっぱりするが、髪がきしみやすく、頭皮がアルカリ性に傾きやすい。 |
| アミノ酸系 | ココイルグルタミン酸Na、ラウロイルメチルアラニンNa | 洗浄力はマイルド。低刺激で保湿性が高い。価格は高め。 |
| ベタイン系 | コカミドプロピルベタイン、ラウラミドプロピルベタイン | 洗浄力は非常に穏やか。ベビーシャンプーにも使われる。 |
かつては「高級アルコール系」が主流でしたが、洗浄力が強すぎて頭皮に負担をかける可能性があることから、現在は頭皮ケアを重視する男性向けシャンプーでは、マイルドな「アミノ酸系」が主流になりつつあります。
「ベタイン系」はアミノ酸系と組み合わせて、刺激を緩和したり泡立ちを補助したりするために使われることも多い成分です。
避けるべき可能性のある成分
すべての人に当てはまるわけではありませんが、特に敏感肌の方は、以下の成分が刺激になる可能性があります。成分表示を確認する際の参考にしてください。
- 強力な防腐剤(メチルパラベン、プロピルパラベンなど ※ただし少量なら問題ない場合も)
- 合成香料、合成着色料
- シリコン(ジメチコンなど ※後述しますが、必ずしも悪い成分ではありません)
特定の成分を避けることよりも、自分の頭皮タイプに合った洗浄成分を選ぶことの方が、シャンプー選びにおいては優先度が高いです。
ただし、使用中にかゆみや赤みが出た場合は、すぐに使用を中止し、成分表を記録しておくと良いでしょう。
【頭皮タイプ別】おすすめの洗浄成分
自分の頭皮タイプと洗浄成分の基本を理解したら、次は具体的にどの洗浄成分が自分に合っているのかを見ていきましょう。頭皮タイプ別に、推奨される洗浄成分の系統を解説します。
脂性肌(オイリー肌)向けの洗浄成分
皮脂分泌が多く、ベタつきがちな脂性肌の方は、余分な皮脂をしっかりと洗い流す必要があります。
ただし、洗浄力が強すぎると、かえって皮脂の過剰分泌を招く「インナードライ」状態になる可能性もあるため注意が必要です。
推奨されるのは「石けん系」や、適度な洗浄力を持つ「アミノ酸系」の中でもオレフィン(C14-16)スルホン酸Naなどと組み合わせたものです。
かつて主流だった「高級アルコール系(ラウレス硫酸Naなど)」は、非常に洗浄力が強いため、毎日使うシャンプーとしては刺激が強すぎる可能性があります。
もし使用する場合は、週に1〜2回のリセット用として、普段はマイルドなシャンプーと使い分けるなどの工夫が考えられます。
乾燥肌向けの洗浄成分
乾燥肌の方は、頭皮の水分と油分が不足しがちで、バリア機能が低下しています。洗浄力が強いシャンプーを使うと、必要な皮脂まで奪われ、さらに乾燥が進行してしまいます。
最も優先すべきは「保湿」と「低刺激」です。
最適なのは、間違いなく「アミノ酸系」または「ベタイン系」の洗浄成分を主成分とするシャンプーです。これらは洗浄力がマイルドで、皮脂を取りすぎず、しっとりとした洗い上がりが特徴です。
泡立ちは控えめな製品もありますが、洗浄力が弱いわけではありません。優しく頭皮の汚れを落とすことができます。
敏感肌向けの洗浄成分
敏感肌の方は、乾燥肌向けの洗浄成分選びとほぼ同様です。「アミノ酸系」や「ベタイン系」をベースにした、できるだけシンプルな処方のものを選びましょう。
添加物(香料、着色料、アルコール、防腐剤など)が刺激になることもあるため、「低刺激」「敏感肌用」「無添加」といった表記がある製品を選ぶのも一つの方法です。
新しいシャンプーを試す際は、まず少量で試し、頭皮に異常が出ないかを確認することが重要です。
アミノ酸系シャンプーのメリット
近年、特に頭皮ケアを意識する男性から支持されているのが「アミノ酸系シャンプー」です。そのメリットを整理します。
第一のメリットは、前述の通り「低刺激」であることです。人間の皮膚や髪のタンパク質はアミノ酸で構成されているため、アミノ酸系の洗浄成分は頭皮との親和性が高く、刺激が少ないとされています。
第二に、「適度な洗浄力と保湿性」です。不要な汚れは落としつつも、頭皮に必要な皮脂は残すため、洗い上がりがしっとりします。これにより、頭皮の乾燥を防ぎ、バリア機能の維持を助けます。
脂性肌の方がアミノ酸系シャンプーを使うと「洗浄力が物足りない」と感じることもありますが、その場合は二度洗いをしたり、湯洗いを丁寧に行ったりすることで、洗浄力を補うことができます。
頭皮環境を長期的に健やかに保つためには、アミノ酸系シャンプーは非常に有効な選択肢と言えるでしょう。
頭皮ケアをサポートするシャンプーの付加成分
シャンプーの基本は「洗浄」ですが、頭皮環境を整えるという目的において、洗浄成分以外に配合されている「付加成分」も重要な役割を果たします。
特に薬用シャンプー(医薬部外品)には、さまざまな有効成分が含まれています。
保湿成分の役割
頭皮の乾燥は、かゆみやフケ、バリア機能の低下を招きます。洗浄成分で皮脂を取りすぎないことに加え、保湿成分でうるおいを補うことも大切です。頭皮も顔の肌と同様に保湿ケアが必要です。
代表的な保湿成分
| 成分カテゴリー | 代表的な成分名 | 期待できる働き |
|---|---|---|
| ヒアルロン酸・コラーゲン類 | ヒアルロン酸Na、加水分解コラーゲン | 高い保水力で頭皮の水分を保持する。 |
| アミノ酸類 | グリシン、アラニン、セリン | 天然保湿因子(NMF)の構成成分で、保湿を助ける。 |
| 植物エキス・オイル類 | アロエベラエキス、ホホバ種子油 | 頭皮を柔軟にし、水分の蒸発を防ぐ。 |
頭皮の炎症を抑える成分(抗炎症成分)
頭皮が赤みを帯びていたり、かゆみがあったりする場合、軽微な炎症が起きている可能性があります。炎症は抜け毛の原因にもなるため、早めにケアすることが重要です。
薬用シャンプーには、これらの炎症を鎮める成分が配合されていることがあります。
代表的な成分としては、「グリチルリチン酸ジカリウム(グリチルリチン酸2K)」や「ピロクトンオラミン」などが挙げられます。
グリチルリチン酸ジカリウムは、漢方の原料である甘草(カンゾウ)由来の成分で、優れた抗炎症作用を持ちます。
ピロクトンオラミンは、フケやかゆみの原因となる雑菌(マラセチア菌)の繁殖を抑える殺菌作用があり、脂漏性のフケに悩む方に有効です。
血行を促進する成分
髪の毛は、毛根にある毛母細胞が、毛細血管から送られてくる栄養素と酸素を受け取って成長します。頭皮の血行が悪くなると、この栄養供給が滞り、髪が細くなったり、抜けやすくなったりします。
育毛剤の多くは血行促進を主目的としていますが、シャンプーにもそのサポートとして血行促進成分が配合されることがあります。
代表的な成分には「センブリエキス」や「ニンジンエキス(オタネニンジン根エキス)」などがあります。これらは天然由来の成分で、頭皮の血流を良くする働きが期待されます。
ただし、シャンプーは洗い流すものなので、これらの成分が頭皮に留まる時間は短いです。
血行促進に関しては、シャンプーの成分だけに頼るのではなく、後述する頭皮マッサージを洗髪時に行うことの方が、より直接的な効果を期待できます。
シリコン(ジメチコンなど)の有無
「ノンシリコンシャンプー」という言葉が流行し、シリコン(ジメチコン、シクロペンタシロキサンなど)は頭皮に悪い、毛穴に詰まるというイメージを持つ方も多いかもしれません。しかし、これは誤解です。
シリコンの主な役割は、髪の毛の表面をコーティングし、指通りを滑らかにし、摩擦によるダメージを防ぐことです。特に髪が長い方や、パーマ・カラーで傷んだ髪には有効な成分です。
現在の技術では、シリコンが毛穴に詰まって頭皮環境を悪化させるという医学的根拠は乏しく、適切にすすげば問題なく洗い流せます。
ただし、薄毛に悩む男性の場合、髪が短いことが多く、シリコンによるコーティングで髪が重くなり、ボリュームダウンして見えることがあります。
そのため、仕上がりの軽さや、ふんわり感を求める場合には、「ノンシリコン」のシャンプーを選ぶメリットがあると言えます。
髪と頭皮のための正しいシャンプー方法
どれだけ良いシャンプーを選んでも、洗い方が間違っていては効果が半減するどころか、逆効果にさえなり得ます。頭皮環境を整えるためには、毎日のシャンプー方法を見直すことが非常に重要です。
汚れをしっかり落とし、頭皮にダメージを与えないための手順を確認しましょう。
洗髪前のブラッシングの重要性
シャンプー前には、まず乾いた髪の状態でブラッシングを行います。これには2つの大きな目的があります。一つは、髪の絡まりをほどき、ほこりや古い角質を浮き上がらせること。
もう一つは、頭皮に適度な刺激を与え、血行を促進することです。このひと手間で、シャンプー時の泡立ちが格段に良くなり、髪への摩擦も減らせます。
ブラシは、頭皮を傷つけないように、先端が丸いものやクッション性のあるものを選びましょう。
予洗い(お湯でのすすぎ)を徹底する
シャンプー剤をつける前に、まずお湯(ぬるま湯)だけで頭皮と髪をしっかりと洗い流します。これを「予洗い」と呼びます。多くの方はこの予洗いが不十分です。
38〜40度程度の熱すぎないお湯で、1分〜2分ほどかけて、頭皮全体にお湯を行き渡らせるようにすすぎます。実は、髪や頭皮の汚れの7〜8割は、この予洗いだけで落ちると言われています。
予洗いを徹底することで、少量のシャンプーでも十分に泡立ち、頭皮への負担を減らすことができます。
シャンプーの泡立て方と洗い方
シャンプー剤を直接頭皮につけるのは避けてください。まず適量を手のひらに取り、少量のお湯を加えて、両手でよく泡立てます。泡立てが苦手な方は、泡立てネットを使うのも良い方法です。
十分に泡立てたら、髪ではなく「頭皮」を洗うことを意識します。指の爪を立てず、指の腹を使って、頭皮をマッサージするように優しく洗います。
特に皮脂の多い頭頂部、生え際、耳の後ろ、後頭部は念入りに洗いましょう。ゴシゴシと強く擦ると頭皮が傷ついてしまうため、力加減には注意が必要です。洗う時間の目安は1〜2分程度で十分です。
洗髪時の基本的な流れ
- ブラッシング(乾いた髪で)
- 予洗い(ぬるま湯で1〜2分)
- シャンプーを泡立てる(手のひらで)
- 頭皮をマッサージするように洗う(指の腹で)
- 徹底的にすすぐ(2〜3分かけて)
- (必要ならコンディショナー)
- タオルドライとドライヤー
すすぎ残しを防ぐポイントと乾かし方
シャンプーの工程で最も重要なのが「すすぎ」です。シャンプー剤が頭皮に残っていると、それが刺激となり、かゆみ、フケ、炎症、毛穴詰まりの原因となります。
洗う時間の2倍以上の時間をかけるつもりで、徹底的にすすぎましょう。特に、生え際、耳の後ろ、襟足はすすぎ残しが多い場所です。
シャワーヘッドを頭皮に近づけ、指の腹で頭皮を軽くこするようにしながら、ぬるぬる感が完全になくなるまで洗い流します。
洗髪後は、すぐに乾かすことが重要です。濡れたまま放置すると、雑菌が繁殖しやすく、頭皮環境が悪化します。
まず、タオルで髪を挟むようにして、ゴシゴシ擦らずに優しく水分を吸い取ります(タオルドライ)。
その後、ドライヤーを使って乾かします。ドライヤーは頭皮から20cm以上離し、同じ場所に熱風が当たり続けないように振りながら、まずは髪の根元(頭皮)から乾かしていきます。
8〜9割乾いたら、最後に冷風を当てるとキューティクルが引き締まり、髪にツヤが出ます。
シャンプー以外の頭皮環境改善アプローチ
頭皮環境を整え、健やかな髪を育むためには、シャンプーによる外側からのケア(スカルプケア)だけでは不十分です。体の内側からのアプローチ、すなわち生活習慣全体の改善が不可欠です。
抜け毛や薄毛の原因は複雑であり、トータルで対策を講じることが重要です。
食生活の見直し
髪の毛は、私たちが食べたものから作られています。栄養バランスの偏った食事は、頭皮環境の悪化や髪の成長不良に直結します。
特に、髪の主成分であるタンパク質、それをサポートするビタミンやミネラルを意識的に摂取することが大切です。
髪と頭皮の健康に必要な栄養素
| 栄養素 | 主な役割 | 多く含まれる食品 |
|---|---|---|
| タンパク質 | 髪の毛の主成分(ケラチン)を作る。 | 肉、魚、卵、大豆製品 |
| 亜鉛 | タンパク質の合成を助ける。ヘアサイクルを正常に保つ。 | 牡蠣、レバー、牛肉(赤身) |
| ビタミンB群 | 皮脂の分泌をコントロールし、頭皮の新陳代謝を促す。 | 豚肉、レバー、マグロ、納豆 |
一方で、脂質の多い食事(揚げ物やジャンクフード)や、糖分の過剰摂取は、皮脂の分泌を増やし、頭皮環境を悪化させる可能性があります。
また、過度なアルコール摂取や喫煙も、血行不良やビタミン不足を招くため、控えることが望ましいです。
質の良い睡眠の確保
髪の毛は、私たちが眠っている間に成長します。特に、入眠後から数時間の深い眠りの間に「成長ホルモン」が最も多く分泌されます。この成長ホルモンが、毛母細胞の分裂を促し、髪の成長を助けます。
睡眠不足が続くと、成長ホルモンの分泌が減少し、ヘアサイクルが乱れてしまいます。
毎日6〜8時間のまとまった睡眠時間を確保し、就寝前はスマートフォンやPCの使用を控えるなど、睡眠の「質」を高める工夫も重要です。
頭皮のターンオーバー(新陳代謝)も睡眠中に行われるため、健やかな頭皮を保つためにも良質な睡眠は欠かせません。
ストレス管理と適度な運動
過度なストレスは、自律神経のバランスを崩し、頭皮の血管を収縮させます。血管が収縮すると血流が悪くなり、毛根に十分な栄養が届かなくなります。
また、ストレスはホルモンバランスの乱れを引き起こし、皮脂の過剰分泌や、男性型脱毛症(AGA)を進行させる要因にもなり得ます。
ストレスを完全になくすことは難しいですが、自分なりの解消法を見つけることが大切です。趣味に没頭する時間を作ったり、リラックスできる音楽を聴いたりするのも良いでしょう。
また、適度な運動は、ストレス解消に非常に効果的です。特にウォーキングやジョギングなどの有酸素運動は、全身の血行を促進し、頭皮への血流アップにもつながります。
運動で汗をかいた後は、そのまま放置せず、早めにシャワーやシャンプーで頭皮を清潔に保つことも忘れないでください。
Q&A
最後に、シャンプーや頭皮ケアに関して、多くの方が抱く疑問についてお答えします。
- シャンプーは朝と夜、どちらが良いですか?
-
シャンプーは「夜」に行うことを強く推奨します。日中に頭皮や髪に付着したほこり、皮脂、整髪料などの汚れを、その日のうちにリセットすることが重要です。
汚れを落とさないまま寝てしまうと、雑菌が繁殖しやすく、頭皮環境の悪化につながります。
また、夜は髪の成長を促す成長ホルモンが分泌されるゴールデンタイムでもあるため、その前に頭皮を清潔にしておくことが理想的です。
朝シャンは、時間がないとすすぎが不十分になりがちな点や、洗いすぎによって頭皮の乾燥を招く可能性があるため、基本的には夜のシャンプーを基本とし、朝は必要に応じてお湯ですすぐ程度が良いでしょう。
- 育毛剤を使っている場合、シャンプーの順番は?
-
育毛剤や発毛剤は、必ずシャンプーの「後」に使用します。
シャンプーで頭皮の汚れや皮脂をしっかり落とし、清潔な状態にした上で使用することで、有効成分が角質層まで浸透しやすくなります。
シャンプー後、タオルドライで頭皮の水分をよく拭き取り、ドライヤーで髪を乾かしてから(または半乾きの状態で)、育毛剤を塗布してください。
製品によって推奨される使用タイミング(乾いた頭皮に使うか、湿った状態で使うか)が異なる場合があるため、使用する育毛剤の説明書を必ず確認してください。
- シャンプーの価格と効果は比例しますか?
-
一概に「価格が高いほど効果も高い」とは言えません。
高価なシャンプーは、アミノ酸系の良質な洗浄成分や、希少な保湿・補修成分をふんだんに使用していることが多く、その分コストが上がります。
しかし、最も重要なのは「自分の頭皮タイプに合っているか」どうかです。
たとえ高価で評判の良いシャンプーでも、脂性肌の方が乾燥肌向けのしっとりタイプを使えばベタつきが残りますし、逆もまた然りです。
まずは自分の頭皮状態を正しく把握し、それに合った洗浄成分や付加成分が配合されたシャンプーを選ぶことが、価格以上に重要です。
ドラッグストアで手に入る製品の中にも、優れたシャンプーは多く存在します。
- 頭皮がべたつく場合、1日に2回洗っても良いですか?
-
基本的には、シャンプーは1日1回で十分です。脂性肌で日中のベタつきが非常に気になる場合でも、1日に2回以上シャンプー剤を使って洗うことは推奨されません。
洗浄力の強いシャンプーで洗いすぎると、頭皮を守るために必要な皮脂まで奪ってしまい、脳が「皮脂が足りない」と勘違いして、さらに皮脂を過剰に分泌するという悪循環に陥る可能性があるからです。
どうしてもベタつきが気になる場合は、2回目のシャンプーは洗浄剤を使わず、ぬるま湯で丁寧にすすぐ「湯シャン」にするか、現在使用しているシャンプーよりも洗浄力がマイルドなものに変更することを検討してください。
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