「急に禿げた」と感じたら。考えられる病気(脱毛症)と、すぐにやるべきこと

「急に禿げた」と感じたら。考えられる病気(脱毛症)と、すぐにやるべきこと

鏡を見て「昨日まではこんなに薄くなかったのに」「急激に髪の毛が減っている気がする」と感じた時、大きな不安に襲われるのは当然です。

インターネットで検索しても、情報が多すぎて何から手をつけて良いか分からないかもしれません。

「急に禿げた」と感じる状況の裏には、生活習慣の変化や、ストレス、あるいは特定の病気が隠れている可能性があります。

この記事では、あなたの検索意図を満たすために、急な脱毛の原因となる代表的な脱毛症と、今すぐ実践できる具体的な行動指針を分かりやすく解説します。

目次

この記事の執筆者

AGAメディカルケアクリニック統括院長 前田 祐助
Dr.前田 祐助

AGAメディカルケアクリニック 統括院長

前田 祐助

【経歴】

慶應義塾大学医学部医学研究科卒業

慶應義塾大学病院 初期臨床研修課程終了

大手AGAクリニック(院長)を経て、2018年に薄毛・AGA治療の「AGAメディカルケアクリニック」新宿院を開設

2020年に横浜院、2023年に東京八重洲院を開設

院長プロフィール

資格・所属学会・症例数

【資格】

  • 医師免許
  • ⽇本医師会認定産業医
  • 医学博士

【所属学会】

  • 日本内科学会
  • 日本美容皮膚科学会
  • 日本臨床毛髪学会

【症例数】

3万人以上※

※2018年5月~2022年12月AGAメディカルケアクリニック全店舗の延べ患者数

「急に禿げた」と感じる前に理解すべき脱毛の基礎知識

多くの人が抱える「急に禿げた」という感覚は、必ずしも一晩で髪がすべて抜けたわけではありません。

実際には、それ以前から脱毛が進行しており、ある日突然、視覚的に認識できるレベルに達したというケースが多く見られます。

しかし、中には本当に急激な脱毛を引き起こす病気も存在するため、まずは髪の毛の仕組みと、正常な脱毛と異常な脱毛の違いを正しく理解することが重要です。

脱毛の基本的なサイクルと種類

髪の毛には「ヘアサイクル」という寿命があります。これは、成長期、退行期、休止期の三段階で構成されています。健康な髪の毛は、成長期に数年間かけて太く長く育ちます。

その後、退行期を経て、休止期に入り自然に抜け落ち、再び新しい髪が生える準備をします。一日に抜ける髪の毛の量が50本から100本程度であれば、これは正常な休止期脱毛の範囲内です。

このサイクルが乱れると、成長期が短縮され、髪が十分に育つ前に抜けてしまうため、全体的な薄毛へと繋がります。

異常な抜け毛を見極める判断基準

「急に禿げた」と感じたとき、その抜け毛が異常かどうかを判断するための目安があります。量だけでなく、抜け毛の質や、抜け方にも注目してください。

特に、シャンプー時や朝起きたときに枕元に残る髪の毛の量が明らかに増えた、短い抜け毛や細い抜け毛が目立つ、といった変化は異常脱毛のサインである可能性があります。

異常脱毛のパターンをチェック

抜け毛の状態を客観的に観察することは、原因を探るための重要な手がかりとなります。

例えば、抜けた毛の毛根部分に白い付着物(皮脂の塊や毛包の一部)があるか、あるいは毛根が細く尖っているかなど、細かな点を確認してください。

異常脱毛の判断チェックリスト

チェック項目異常の目安考えられる状態
一日の抜け毛量継続的に100本以上休止期脱毛、AGA、病気
抜け毛の太さ全体的に細く短い毛が多いヘアサイクルの乱れ(AGAなど)
特定部位の抜け方円形、あるいは広範囲にわたりごっそり抜ける円形脱毛症、びまん性脱毛症

急速な脱毛が示す体からのサイン

脱毛は、頭皮だけの問題ではなく、全身の健康状態を反映するバロメーターでもあります。

急激な脱毛は、甲状腺の異常、極端なダイエットによる栄養失調、重度のストレス、あるいは特定の薬剤の副作用など、体内で何らかの大きな変化が起こっているサインかもしれません。

そのため、脱毛の状況を把握すると同時に、過去数ヶ月間の生活や健康状態を振り返ることが、原因特定の第一歩となります。

急激な脱毛を引き起こす代表的な病気(脱毛症)

「急に禿げた」という自覚がある場合、多くは「円形脱毛症」や「休止期脱毛」といった、比較的発症が急で、目に見えて変化が現れやすい脱毛症の可能性があります。

男性型脱毛症(AGA)は徐々に進行しますが、これらの脱毛症は数週間から数ヶ月で大きな変化をもたらすため、ショックを受けやすいのです。

円形脱毛症とその特徴

円形脱毛症は、自己免疫疾患の一つと考えられており、毛根を異物と見なした免疫細胞が攻撃してしまうことで発症します。

特徴は、境界がはっきりした円形または楕円形の脱毛斑が、突然、頭皮に現れることです。症状の進行速度には個人差がありますが、急激に毛が抜け落ちるため、「急に禿げた」という印象を強く抱きやすい脱毛症です。

単発型で治まるケースもあれば、多発型や、頭部全体に広がる場合、さらには全身の毛が抜ける汎発型へと進行する可能性もあります。

休止期脱毛の誘因と回復期間

休止期脱毛(きゅうしきだつもう)は、なんらかの強いストレスや体調不良をきっかけに、本来なら成長期にあるべき毛髪が一斉に休止期へと移行してしまうことで起こります。

原因から数ヶ月後に抜け毛が増加するという時間差があるのが特徴です。分娩、高熱を伴う病気、外科手術、精神的なショック、極端な食事制限などが誘因となります。

この脱毛症の特徴は、頭皮全体が均一に薄くなる「びまん性」の脱毛として現れる点です。誘因が解消されれば、通常は半年から一年ほどで自然に回復に向かいます。

主な脱毛症の比較

急速な脱毛を引き起こす主な病気

脱毛症の名称特徴主な原因
円形脱毛症円形や楕円形の脱毛斑が突然発生自己免疫疾患(推定)
休止期脱毛頭部全体が薄くなる(びまん性)ストレス、発熱、手術、栄養障害
抜毛症(精神疾患)自分で毛を引き抜いてしまう精神的ストレス、衝動制御障害

粃糠性脱毛症や脂漏性脱毛症の関連性

粃糠性(ひこうせい)脱毛症や脂漏性(しろうせい)脱毛症は、急激に髪が抜けるというよりも、頭皮環境の悪化が長期にわたり進行することで、結果的に抜け毛が増え、薄毛が顕著になるタイプの脱毛症です。

粃糠性脱毛症は、乾燥したフケが毛穴を詰まらせ、髪の成長を妨げることが主な原因となります。

一方、脂漏性脱毛症は、過剰な皮脂分泌が原因で毛穴が炎症を起こし、毛根が弱くなることで抜け毛が増加します。

これらは直接的に「急に禿げた」と感じさせる原因ではないものの、放置すると脱毛を加速させる可能性があるため、頭皮の痒みやフケ、ベタつきを感じる場合は注意が必要です。

男性型脱毛症(AGA)は「急に禿げた」と感じやすいのか

男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia , AGA)は、日本人男性の多くに見られる脱毛症であり、その進行は通常、数年から数十年かけてゆっくりと進みます。

しかし、なぜ「急に禿げた」と感じる人がいるのでしょうか。

それは、AGAの進行によって髪の毛が細く、短くなる「軟毛化」が進み、全体的なボリュームダウンがある閾値を超えた瞬間に、急に薄毛を自覚するケースがあるためです。

AGAの典型的な進行パターン

AGAは、主に額の生え際(M字部分)や頭頂部(O字部分)から進行するのが典型的なパターンです。

遺伝や男性ホルモンの影響により、ヘアサイクルにおける成長期が極端に短縮され、髪が太く長く育つ前に抜け落ちてしまいます。

この変化は徐々に起こりますが、薄毛の初期段階では、単に髪が細くなったと感じる程度で、脱毛の自覚がないことも少なくありません。

しかし、軟毛化が広範囲に及ぶと、一気に頭皮の透け感が目立ち始め、「急に薄くなった」と認識されるのです。

AGAの進行パターンの類型

ハミルトン・ノーウッド分類に基づくAGAの進行段階

進行ステージ特徴的な部位薄毛の自覚
ステージI前頭部、頭頂部に薄毛の兆候なしなし(予防段階)
ステージII生え際が後退し始める(M字の始まり)わずかに感じる、気づかないことも
ステージIIIM字の後退が顕著、頭頂部が薄くなり始める薄毛をはっきり自覚、対策を検討

急激な脱毛とAGAの区別

AGAは進行性の脱毛症であり、進行が止まることはありませんが、脱毛の速度が極端に速い場合は、AGA単独ではなく、前述の休止期脱毛や円形脱毛症を併発している可能性を考慮する必要があります。

急激な脱毛とは、短期間で目に見えるほどの髪の減少を指し、AGAの一般的な進行速度よりも速い場合に疑われます。

自己判断せずに、専門医の診察を受けることで、脱毛の原因を正しく特定することが重要です。

若年性AGAの早期発見の重要性

近年、20代や10代後半といった若い世代でAGAの症状が見られるケースが増えています。

これを若年性AGAと呼びます。若い時期に「急に禿げた」と感じる場合、進行が早い傾向にあるため、早期の対策が特に重要となります。

早めに専門のクリニックや皮膚科を受診し、適切な治療を開始することで、進行を食い止め、改善を目指すことが可能になります。

若年性AGAも進行は同じく徐々ではありますが、同年代との比較で際立って薄毛が進行しているように感じ、急激な変化として自覚することがあります。

急に髪が減ったときに「すぐにやるべきこと」

「急に禿げたかもしれない」という不安に直面したとき、最も大切なのは冷静になり、適切な行動をすぐに開始することです。

自己判断で誤った対策を行うと、症状を悪化させたり、適切な治療の開始が遅れたりする可能性があります。

まずは専門の医療機関を受診する

脱毛の原因がAGAなのか、円形脱毛症なのか、あるいは他の病気によるものなのかを正確に判断するには、専門的な知識と検査が必要です。

自己判断せず、皮膚科またはAGA専門クリニックを受診することを強く推奨します。特に急な脱毛の場合は、内科的な疾患が関わっている可能性も否定できないため、早めの受診が必要です。

医師は問診や視診、場合によっては血液検査や頭皮の拡大鏡検査(ダーモスコピー)を行い、原因を特定し、最も効果的な治療法を提案してくれます。

進行を遅らせるための自宅ケアの変更点

医療機関での治療と並行して、日々の自宅でのケアを見直すことも進行を遅らせる上で重要です。

特にシャンプーの方法や頭皮マッサージ、使用する育毛剤や整髪料の見直しはすぐに実行できます。

自宅での頭皮ケア改善点

  • 洗浄力の強すぎるシャンプーの使用をやめ、アミノ酸系など肌に優しいシャンプーに切り替える
  • 洗髪時は爪を立てず、指の腹で優しく頭皮をマッサージするように洗う
  • シャンプーやコンディショナーが頭皮に残らないよう、十分な時間をかけてすすぎを行う
  • ドライヤーは頭皮から20cm以上離し、熱を当てすぎないよう短時間で乾かす

これらの小さな変更が、弱った毛根への負担を減らし、頭皮の血行を促す土台を作ります。

精神的なストレスの管理方法

過度なストレスは、休止期脱毛や円形脱毛症の大きな誘因となることが知られています。髪の毛が抜けること自体がさらなるストレスとなり、悪循環に陥ることもあります。

意識的にリラックスする時間を作り、心身の緊張を解きほぐすことが、脱毛の進行を抑える上で大切です。

ストレス軽減のための習慣

ストレスとリラックスのバランス

行動期待される効果頻度
軽い有酸素運動ストレスホルモンの減少、血行促進週に3〜4回
趣味やリラックスタイム精神的な緊張の緩和、気分転換毎日30分以上
質の良い睡眠の確保身体の回復、自律神経の安定7〜8時間の確保

医師に相談する前に準備すべきセルフチェック項目

専門医の診察を最大限に有効活用するためには、受診前に自分の脱毛状況や生活習慣を整理しておくことが非常に大切です。

具体的な情報を提供することで、医師はより迅速かつ正確に診断を下すことができます。

脱毛の発生時期と進行速度の記録

「急に」という感覚を、できる限り具体的な情報に置き換えて記録してください。

例えば、「3ヶ月前の転勤ストレスが原因か」「2週間前からシャワーの排水溝の詰まり方が激しくなった」といった具体的な情報が診断の助けになります。

また、写真で頭皮や脱毛部位の状況を記録しておくと、進行速度を客観的に把握しやすくなります。

記録すべき主な項目

受診前のセルフチェックシート

記録事項記録方法目的
脱毛を自覚した時期日付(〇年〇月頃)休止期脱毛の誘因との時間差確認
一日の抜け毛量の変化通常時と現在を比較した数値や印象脱毛の程度の把握
ストレスや病気の有無過去半年間の大きな出来事、病歴脱毛の原因特定(内科的側面)

頭皮と髪の状態の正確な観察

脱毛している部位の頭皮の状態を細かく観察してください。赤み、かゆみ、フケ、ニキビ(炎症)があるかどうかは、脂漏性皮膚炎や毛嚢炎などの併発を確認する上で重要です。

また、抜けた毛の毛根の形や太さ、長さを確認し、細い毛が多く抜けている場合はAGAの軟毛化が強く疑われます。

写真を撮る際は、太陽光の下ではなく、室内で均一な光を当てて撮影すると、客観的な記録として役立ちます。

生活習慣や既往歴の整理

脱毛に影響を与える可能性のある生活習慣や健康状態をすべて整理します。

これには、睡眠時間、食事の内容(特に極端なダイエットや偏食の有無)、喫煙・飲酒の習慣、服用している薬(処方薬、市販薬、サプリメント含む)、そして家族の脱毛歴(特に父方、母方のAGAの有無)が含まれます。

特に、服用中の薬の中には脱毛を副作用として持つものもあるため、リストアップして医師に見せることで、診断がスムーズに進みます。

脱毛症の進行を防ぐための長期的な生活習慣の見直し

急な脱毛の原因が特定され、適切な治療が開始されたとしても、髪の毛が健康に育つための土台である生活習慣の改善は継続して行う必要があります。

体の中から髪の成長をサポートする環境を整えることが、脱毛症の進行を防ぎ、発毛効果を高める上で最も重要です。

髪の成長を支える食生活の改善

髪の主成分はタンパク質であり、その合成や成長を促すためにビタミンやミネラルが働きます。極端なダイエットや偏食は、髪の成長に必要な栄養素の不足を招き、脱毛を加速させます。

特に、亜鉛、ビタミンB群、ビタミンCなどは、健康な髪を育てるために積極的に摂取する必要がある栄養素です。

バランスの取れた食事を心がけ、特にタンパク質とそれらをサポートする栄養素を意識して摂取しましょう。

髪に必要な栄養素と役割

髪の成長を助ける主要な栄養素

栄養素主な役割多く含む食材
タンパク質髪の主成分(ケラチン)の材料肉類、魚介類、大豆製品、卵
亜鉛タンパク質の合成や細胞分裂をサポート牡蠣、レバー、ナッツ類、牛肉
ビタミンB群(特にB6, B12)頭皮の健康維持、代謝のサポートバナナ、マグロ、鶏肉、乳製品

質の高い睡眠と成長ホルモンの関係

髪の毛は、細胞分裂によって成長します。この細胞分裂を促すのが「成長ホルモン」です。成長ホルモンは、主に夜間の深い睡眠中に多く分泌されます。

睡眠不足や不規則な睡眠は、このホルモン分泌を妨げ、結果として髪の成長を阻害する大きな要因となります。

薄毛対策においては、単に睡眠時間を確保するだけでなく、入眠直後の90分間に質の高い深い睡眠を取ることが特に重要です。寝る前のスマートフォン操作を避け、リラックスできる環境を整えましょう。

血行促進のための適度な運動習慣

髪の毛の成長に必要な栄養素は、血液によって毛根の毛乳頭細胞へと運ばれます。そのため、頭皮の血行不良は、栄養が行き渡るのを妨げ、薄毛の原因となります。

適度な運動、特にウォーキングやジョギングといった有酸素運動は、全身の血行を促進し、結果として頭皮の隅々まで栄養が行き届きやすい状態を作り出します。

激しすぎる運動はかえってストレスになることもあるため、毎日継続できる軽度な運動習慣を身につけることが大切です。

生活習慣の悪化が引き起こす複合的な脱毛リスク

脱毛は一つの原因で起こることもありますが、多くの場合、複数の要因が複雑に絡み合って進行します。

特に、不健康な生活習慣は、AGAの進行を早めたり、休止期脱毛を引き起こしたりする複合的なリスクとなります。

喫煙と過度な飲酒が髪に与える影響

喫煙は、血管を収縮させ、血行を悪化させる最大の要因の一つです。頭皮の毛細血管は非常に細いため、喫煙による血行不良の影響を強く受けます。

これにより、毛根への栄養供給が滞り、髪の成長に必要な酸素や栄養素が不足してしまいます。

また、過度な飲酒は、アルコールの分解の際に大量の亜鉛などの栄養素を消費するため、髪の成長に必要な栄養素が不足しやすくなります。

これらは、AGAの因子を持っている人にとって、進行を加速させる大きなリスク要因となります。

間違った頭皮ケアによる自滅行為

薄毛を気にしすぎるあまり、必要以上に強く頭皮を洗いすぎたり、洗浄力の強いシャンプーを頻繁に使ったりすることも、かえって頭皮環境を悪化させます。

必要な皮脂まで洗い流してしまうと、頭皮のバリア機能が低下し、乾燥や炎症を引き起こしやすくなります。

また、整髪料を洗い残すと、毛穴が詰まり、皮脂の酸化による炎症(脂漏性脱毛症のリスク)を引き起こす可能性もあります。

適切なシャンプー選びと、優しく丁寧な洗髪方法を心がけ、頭皮の健康を維持することが大切です。

治療の選択肢と育毛剤の正しい位置づけ

「急に禿げた」原因が特定できたら、それに応じた適切な治療を始めます。

特にAGAや円形脱毛症は、自己判断で市販品を使うだけでは改善が難しいことが多く、専門的な治療が必要です。

病気の種類に応じた専門的な治療法

円形脱毛症の場合、ステロイドの外用や内服、免疫抑制剤の使用など、自己免疫の異常を抑制する治療が行われます。

また、AGAの場合は、フィナステリドやデュタステリドといった内服薬で脱毛の進行を抑制し、ミノキシジル外用薬で発毛を促進するのが標準的な治療です。

急な脱毛の場合、原因が複数にまたがっていることもあり、医師はそれぞれの症状に対して複合的な治療計画を立ててくれます。

育毛剤の役割と効果の理解

育毛剤は、主に現在生えている髪の毛を健康に保ち、抜けにくい環境を整えることを目的としています。

頭皮の血行促進や保湿、炎症の抑制などに役立つ成分が配合されており、脱毛の予防や、AGA治療のサポート役として活用できます。

しかし、既に進行したAGAによって細くなってしまった髪を太くしたり、新たな発毛を促したりする効果は、医薬品(ミノキシジルなど)には及びません。

育毛剤は、あくまで頭皮環境の改善という土台作りを担うものと正しく認識し、脱毛症の治療と使い分けることが重要です。

医薬品と育毛剤の違い

脱毛対策製品の分類と目的

製品の分類主な目的期待できる効果
医薬品(AGA治療薬)脱毛原因の抑制、発毛促進進行抑制、髪質の改善、発毛
医薬部外品(育毛剤)育毛環境の整備、抜け毛予防育毛、薄毛予防、フケ・かゆみ抑制
化粧品(シャンプーなど)清潔保持、保湿頭皮と毛髪の清浄化

急な脱毛に対する心の持ち方と前向きな対処法

急な脱毛に直面すると、精神的なショックから塞ぎ込んでしまう人も少なくありません。しかし、多くの脱毛症は早期に適切な対処を行うことで改善や進行抑制が可能です。

過度な不安は新たなストレスを生むため、前向きな姿勢で現状に向き合いましょう。

情報過多な時代での正しい知識の選択

インターネット上には薄毛に関する情報が溢れていますが、すべてが信頼できる情報とは限りません。特に「急に禿げた」という切羽詰まった状況では、非科学的な情報や高額な商品に飛びつきやすくなります。

混乱を避けるためにも、まずは公的な医療機関や専門クリニックの発信する情報を参考にし、医師の診断に基づく治療を最優先にしてください。自己流の対策で時間を浪費することは、最も避けたい事態です。

治療期間の長期化を理解し継続する重要性

髪の毛にはヘアサイクルがあるため、脱毛症の治療や生活習慣の改善による効果が現れるまでには、早くても数ヶ月、通常は半年から一年程度の期間を要します。

特にAGA治療は継続が大切であり、途中で効果がないと判断して中断してしまうと、せっかく改善に向かっていた状態が逆戻りしてしまうリスクがあります。

医師と二人三脚で、焦らず、根気強く治療を続けるという決意を持つことが、成功への鍵となります。

よくある質問

急に髪が抜けたのですが、自己判断で育毛剤を使っても大丈夫ですか?

急な脱毛の場合、円形脱毛症や休止期脱毛など、原因が育毛剤の適用範囲外の病気である可能性があります。

自己判断で育毛剤を使っても、原因の根本解決には至らず、治療開始が遅れるリスクがあります。まずは皮膚科やAGA専門クリニックなどの専門医に相談し、正確な診断を受けてください。

診断後に、医師の指示やアドバイスに従って育毛剤を補助的に使用するのが望ましいです。

急なストレスで髪が抜けることはありますか?

はい、あります。精神的または肉体的な大きなストレスは、休止期脱毛や円形脱毛症の誘因となることが知られています。

休止期脱毛は、ストレスなどの原因から数ヶ月後に抜け毛が増加し、頭部全体が薄くなるのが特徴です。

ストレスが原因であると推測される場合でも、他の病気を排除するために、一度専門医の診察を受けることを推奨します。

また、日頃からストレスを軽減するリラックス習慣を取り入れることが大切です。

AGA治療薬は、急な脱毛にも効果がありますか?

AGA治療薬は、AGA特有の進行性の脱毛を抑制し、発毛を促進する効果があります。

もし急な脱毛の原因がAGAの軟毛化が閾値を超えたことによる自覚であれば有効ですが、円形脱毛症や休止期脱毛のようにAGAとは異なる原因の場合は、それぞれの病気に合わせた専門的な治療が必要です。

医師は問診や検査の結果に基づいて、AGA治療薬が適切かどうかを判断します。自己判断せず、医師の指示に従って使用してください。

急に抜け毛が増えた場合、シャンプーは毎日しない方が良いですか?

シャンプーの目的は、頭皮の清潔を保ち、毛穴の詰まりや炎症を防ぐことです。

抜け毛を恐れてシャンプーを控えると、皮脂や汚れが溜まり、頭皮環境が悪化して、かえって脱毛を加速させる可能性があります。

大切なのは、洗浄力の強すぎるシャンプーを避け、アミノ酸系など頭皮に優しいものを選び、優しく洗うことです。

また、シャンプーの選び方や洗い方について、専門医や美容師に相談することも有効です。

脱毛している箇所が痒いです。これは炎症ですか?

痒みは、頭皮の炎症を示す重要なサインの一つです。脂漏性皮膚炎や接触性皮膚炎、あるいは円形脱毛症の初期症状として痒みが生じることがあります。

痒いからといって強く掻いてしまうと、頭皮が傷つき、炎症が悪化し、さらなる脱毛を引き起こす原因となります。

痒みがある場合は、市販薬などで対処せず、速やかに皮膚科を受診して原因を特定し、適切な治療を受けてください。

Reference

WERNER, Betina; MULINARI-BRENNER, Fabiane. Clinical and histological challenge in the differential diagnosis of diffuse alopecia: female androgenetic alopecia, telogen effluvium and alopecia areata-part I. Anais brasileiros de dermatologia, 2012, 87: 742-747.

ALESSANDRINI, A., et al. Common causes of hair loss–clinical manifestations, trichoscopy and therapy. Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology, 2021, 35.3: 629-640.

FINNER, Andreas M. Alopecia areata: clinical presentation, diagnosis, and unusual cases. Dermatologic therapy, 2011, 24.3: 348-354.

SHRIVASTAVA, Shyam Behari. Diffuse hair loss in an adult female: approach to diagnosis and management. Indian Journal of Dermatology, Venereology and Leprology, 2009, 75: 20.

YE, Yujie, et al. Diagnosis and differential diagnosis of tertiary androgenetic alopecia with severe alopecia areata based on high‐resolution MRI. Skin Research and Technology, 2023, 29.7: e13393.

SPRINGER, Karyn; BROWN, Matthew; STULBERG, Daniel L. Common hair loss disorders. American family physician, 2003, 68.1: 93-102.

MOUNSEY, Anne L.; REED, Sean W. Diagnosing and treating hair loss. American family physician, 2009, 80.4: 356-362.

PHILLIPS, T. Grant; SLOMIANY, W. Paul; ALLISON, Robert. Hair loss: common causes and treatment. American family physician, 2017, 96.6: 371-378.

ASZ-SIGALL, Daniel, et al. Differential diagnosis of female-pattern hair loss. Skin Appendage Disorders, 2016, 2.1-2: 18-21.

REBORA, Alfredo, et al. Distinguishing androgenetic alopecia from chronic telogen effluvium when associated in the same patient: a simple noninvasive method. Archives of dermatology, 2005, 141.10: 1243-1245.

目次